【ピアノ】片手のためのワルツ作品ガイド:年代順にたどる

【ピアノ】片手のためのワルツ作品ガイド:年代順にたどる

► はじめに

 

片手のための作品の中には、ワルツという舞曲の性格を取り入れたものが数多く存在します。3拍子特有の揺れる感覚を、片手だけでどう表現するか。この課題に、作曲家たちはそれぞれの時代の書法で応えてきました。

本記事では、左手または右手のいずれか一方だけで演奏する独奏作品に加え、片手パートが含まれる連弾作品や、左手のための室内楽作品など、「片手によるワルツ」を含む作品を幅広く取り上げます。ワルツ的な性格を持つ片手作品もあわせて紹介します。選曲や学習の手がかりとしてお役立てください。

なお、記事内で示す成立年は、原則として作品の作曲年を記載し、それが確認できない場合や編曲作品については、出版年など確認できる年代を示しています。

 

► 年代順にたどる作品紹介

‣ ホレンダー「6つの小品 Op.31 より 第4曲 ワルツ」(1884年)

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-6小節)

ホレンダー「6つの小品 Op.31 より 第4曲 ワルツ」1-6小節

ベルリンの音楽界で重きをなしたピアニスト・指揮者、アレクシス・ホレンダー(1840-1924)による左手独奏曲集の一曲。この曲集は、右腕を失ったパウル・ヴィトゲンシュタインが演奏可能なレパートリーを探していた際、図書館で見つけた数少ない収穫の一つとしても知られています。

第4曲は典型的なサロン風の性格を持ったワルツで、ダイナミクスの対比が随所に現れます。「テンポは1つ振り」という指示のとおり、優雅さを保ちながらも生き生きとした活力が感じられる音楽にまとめられました。

演奏時間は約2分50秒。難易度の目安はツェルニー30番修了〜40番入門程度。

 

‣ フット「左手のための小さなワルツ Op.6 より 第4番」(1885年)

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

フット「左手のための小さなワルツ Op.6 より 第4番」1-4小節

アメリカの作曲家アーサー・フット(1853-1937)が、Op.6の4曲のうち唯一左手独奏用に書いた一曲。全曲が1段譜というシンプルな書法が用いられており、メロディがワルツの伴奏音型より低い音域に来たり、逆に高音域へ移ったりと、声部の位置が入れ替わることで表情の変化が生み出されています。

メランコリックな曲調ながら子どもにも取り組みやすく、演奏時間は約2分40秒、難易度はツェルニー30番中盤程度。

 

‣ ジチー「6つの練習曲 より 第3曲 アデルのワルツ」(1885年頃)

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-8小節)

ジチー「6つの練習曲 より 第3曲 アデルのワルツ」1–8小節の楽譜

若年期の事故で右腕を失い、左手一つで演奏活動を切り開いたゲザ・ジチー(1849-1924)が、リストに献呈した「6つの練習曲」の第3曲にあたります。リストとの交流が深まった時期に生まれた作品で、この曲自体もリストが後年両手版に編曲したことで知られています。

演奏時間は約4分、難易度はツェルニー50番入門以降程度。

 

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‣ スクリャービン「幻のワルツ」(作曲年不詳、1890年代頃)

 

※楽譜が発見されておらず、譜例の掲載はできません。

 

右手を痛めていた時期のアレクサンドル・スクリャービン(1872-1915)が、ヨハン・シュトラウスのワルツ主題をもとに左手のためのパラフレーズを書き上げ、友人たちの前で披露したと伝えられている一曲。1907年にはニューヨークでも演奏された記録が残っています。

エーデルが紹介するスクリャービン自身の回想によれば、この曲はもともと病気療養中に左手を鍛える目的で作られたもので、本人は「ヴィルトゥオーゾ的な仕掛けとオクターブに満ちた」作品と振り返っています。演奏会では大きな喝采を浴びたものの、その最中に客席のロシア人の知人から鋭い批判の声が飛び、それを恥じたスクリャービンはその後この曲を弾かなくなったといいます。楽譜が書き留められたかどうかさえ定かでなく、現在まで発見されていません。

Op.9の内省的な美しさとは対照的な、ヴィルトゥオーゾ的な一面を伝える逸話として興味深い存在です。

 

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‣ ニーマン「コンサート・ワルツ Op.36」(1893年)

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

ニーマン「コンサート・ワルツ Op.36(左手のための)」1-5小節

ドイツ北部ヴェッセルブーレン生まれのピアニスト・作曲家、ルドルフ・ニーマン(1838-1898)が、モーリッツ・ローゼンタールに献呈して書いた左手独奏用のワルツ

曲の規模こそそれなりにありますが、技巧的な負担がかかる箇所(3度の連続進行 など)は限定的で、長さの割に手が出しやすい一曲となっています。基本となるワルツ特有の「ズン・チャッ・チャ」の伴奏形を土台としつつ、随所でアルペジオが自由に広がる書法が取り入れられており、単調になりがちな3拍子の枠内に表情の変化を持たせています。

演奏時間は約4分30秒、難易度はツェルニー40番修了程度。

 

‣ ビルケダル=バルフォド「左手のための練習曲集 より 第5曲 ドイツ風ワルツ」(1895年頃)

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ビルケダル=バルフォド「左手のための練習曲集 より 第5曲 ドイツ風ワルツ」1-4小節

デンマークの作曲家・オルガニスト、ルードヴィヒ・ビルケダル=バルフォド(1850-1937)が残した左手教育用の曲集の中の一曲。この曲集はロマン派の語法を受け継いだ落ち着いた性格の小品が並び、第5曲にワルツが置かれています

旋律全体に運動性が感じられる優雅な雰囲気の音楽で、ABAという簡潔な形式にまとめられました。

演奏時間は約1分30秒とコンパクトで、難易度はツェルニー40番修了程度。

 

‣ クロークマン「コケット(舞踏会の一場面)〜左手のための2つのワルツ・エピソード より Op.81-2」(1910年)

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

クロークマン「コケット(舞踏会の一場面) 〜左手のための2つのワルツ・エピソード より Op.81-2」1-4小節

「ポール・デュセル」を筆名とする作曲家、キャリー・ウィリアムズ・クロークマンによる左手独奏用の作品。組となる第1曲「L’Ingénue」とともにMrs. Minnie Little Longleyへ献呈されました。

8小節の自由な序奏を経てワルツ本編へ入る構成で、書法自体は平明ながら演奏効果の高さが持ち味です。

演奏時間は約4分、難易度はツェルニー40番中盤程度。

 

‣ グリーグ/タイヒマン編「右手または左手のための抒情小曲集 より 第1曲 ワルツ Op.12-2」(1911年頃)

 

※編曲者(Fritz Teichmann)の生没年が判明していないため、著作権保護期間の確定が難しく、譜例の掲載を控えております。

 

生没年の詳細が伝わっていない編曲者フリッツ・タイヒマンが、グリーグの「抒情小曲集」から選んだ12曲を右手または左手いずれでも演奏できる形にまとめた曲集の巻頭を飾る一曲。原曲はOp.12の第2曲にあたります。

原曲の親しみやすい旋律線がほぼそのまま片手用に移し替えられており、グリーグ独特の民謡的な語感が損なわれずに残されています。

演奏時間は約2分、難易度はツェルニー40番中盤程度。

 

‣ ストラヴィンスキー(イーゴリ)「3つのやさしい小品 より ワルツ」(1914年)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

20世紀を代表する作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)が、連弾のために書いた「3つのやさしい小品」の第2曲

この組曲はプリモを両手、セコンドを左手だけで演奏するというユニークな編成をとっており、第2曲「Waltz」はエリック・サティに献呈されています。セコンド・パートはごく限られた音による反復音型が中心で、主要な音楽はプリモが担う構成で書かれています。

演奏時間は約1分30秒、セコンドパートの難易度はブルグミュラー25の練習曲修了程度。

 

‣ ゴドフスキー「宝石のワルツの主題による交響的変容」(1928年)

 

※本楽曲自体の著作権は消滅していますが、校訂版(サパートン校訂)における編集部分の著作権が存続しているため、譜例の掲載は見送っております。

 

「左手の使徒」ことレオポルド・ゴドフスキー(1870-1938)が、J. シュトラウス2世の歌劇《ジプシー男爵》より「宝石のワルツ」を主題に据えて書いた大作です。もとはパウル・ヴィトゲンシュタインのために書かれながら結局彼が演奏することはなく、のちにサイモン・バレアへ献呈先が改められました。出版はゴドフスキーの死後、娘婿デイヴィッド・サパートンの校訂によって1941年に実現しています。

7回にわたるテンポ変化を経てワルツが次々と表情を変えていく構成で、演奏時間は約10分。難易度はツェルニー50番入門以降が目安となり、左手独奏作品の中でも規模・難易度ともに屈指の一曲と言えるでしょう。

 

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【ピアノ】左手作品から読み解くゴドフスキー:「左手の使徒」が遺した作品群

 

‣ ゴドフスキー「左手のための6つのワルツポエム」(1930年)

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ゴドフスキー「左手のための6つのワルツポエム より 第1曲」1-4小節

同じくゴドフスキーによる全6曲からなるサロン風の小品集で、シュトラウスの主題を借りた作品とは違い、こちらは自身の楽想で書き上げられました。カール・エンゲルに献呈されています。

特に第1番と第4番は、正しい奏法で弾けばピアノがよく鳴るよう設計されており、コンパクトながら完成度の高さが光ります。

全6曲合計の演奏時間は約20分、難易度はツェルニー40番修了程度で、ゴドフスキーの左手作品としては比較的取り組みやすく、左手による旋律と伴奏の組み立てを学ぶ教材としても興味深い曲集です。

 

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‣ コルンゴルト「2つのヴァイオリン、チェロと左手ピアノのための組曲 Op.23 より 第2曲 ワルツ」(1930年)

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-5小節)

コルンゴルト「2つのヴァイオリン、チェロと左手ピアノのための組曲 Op.23 より 第2曲 ワルツ」1-5小節

ウィーンで神童として名を馳せたエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(1897-1957)が、パウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱に応えて書いた室内楽の大作、全5楽章のうちの第2楽章

速すぎず遅すぎない柔軟なテンポが取られ、ウィーンの空気を纏いながらどこか詩的なたたずまいを持つ三部形式でまとめられています。前後を挟む「前奏曲とフーガ」「グロテスク」の激しい性格とは対照的に、落ち着いた抒情性が際立つ楽章です。

演奏時間は約5分30秒、難易度はツェルニー50番入門以降程度。

 

‣ ペチュレク「2つの舞曲」(作曲年不明)

 

ここでは、左手作品だけでなく、右手のみで演奏するワルツも取り上げます。片手ピアノのレパートリーは、必ずしも左手に限定されるものではありません。

 

第1番(右手独奏のための) 譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-6小節)

ペチュレク「2つの舞曲 より 第1番(右手独奏のための)」1-6小節

第2番(左手独奏のための) 譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-5小節)

ペチュレク「2つの舞曲 より 第2番(左手独奏のための)」1-5小節

オーストリア(チェコスロバキア)出身のフェリックス・ペチュレク(1892-1951)が、右手独奏用と左手独奏用にそれぞれ1曲ずつ書いた舞曲集。両曲ともワルツの性格を色濃く持ち、跳躍を多く含む運動性の高い音型と半音階的な和声が共通の特徴として現れます。

第1番は半音階的なマイナー・クリシェの響きで開始し、演奏時間・難易度ともに第2番よりやや軽めです。第2番はどこか諧謔的な表情を帯びながらH-durの中に独特のひねりが加えられています。

演奏時間はそれぞれ約1分、難易度はツェルニー30番中盤〜40番入門程度。

収録:「片手で弾くピアノ曲集」(編:ヴァルター・ゲオルギイ/音楽之友社)ほか

 

‣ ポール「即興ワルツ Op.19-1」(1947年)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

パリを拠点に演奏・教育活動を行ったロシア出身の作曲家、ウラジーミル・ポール(1880-1962)が「2つの小品 Op.19」の第1曲として書いた左手独奏用のワルツ。レオン・ムラヴィエフに献呈されました。

性格の異なる複数の部分から成る演奏会用の構成で、跳躍の大きい箇所が随所に見られます。小節線をまたぐ連桁が繰り返し用いられ、3拍子の感覚があえて曖昧にされる書法が印象的ですが、終結部では明快な3拍子へ戻り、軽やかに幕を閉じます。

演奏時間は約3分30秒、難易度はツェルニー40番修了程度。

 

‣ サンカン「左手のためのロマンティックなカプリス」(1949年)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

パリ音楽院でミシェル・ベロフらを育てたピエール・サンカン(1916-2008)による作品。タイトルこそ「カプリス」ですが、3拍子の気だるい雰囲気で開始する曲調は大きなワルツを思わせる性格を帯びています。マダム・ヴォスコチャキに献呈されました。

機能和声から離れた現代的な語法を持ちながらも耳なじみのよい書法でまとめられており、黒鍵グリッサンドの使用も特徴の一つと言えるでしょう。各部分でテンポと性格の対比が意識されています。

演奏時間は約5分、難易度はツェルニー40番修了程度。

 

‣ ロヴェル「サーカス〜左手のための6つの小品 より 第4曲 象のワルツ」(1957年)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

経歴の詳細があまり伝わっていないイギリスの作曲家ジョーン・イザベル・ロヴェルが作曲した左手独奏用の教育的小品集「The Circus: Six Pieces for the Left Hand Alone」の中に書いた一曲。サーカスにまつわる情景を描いた性格の異なる6曲から成る曲集です。

他の5曲には練習曲的な性格が感じられるのに対し、第4曲「The Elephant’s Waltz」は趣が異なり、性格小品を思わせる穏やかなバラード風のワルツとしてまとめられています。曲集全体が中〜低音域を中心に書かれているため、左手演奏を始めたばかりの学習者にも身体的な負担が少なく、初級〜初中級の教材として扱いやすい一曲と言えるでしょう。

演奏時間は約1分、難易度はブルグミュラー25の練習曲修了程度。

 

‣ トンプソン「For Left Hand Alone Book Two より 第5曲 半音階的ワルツ」(1962年)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

ピアノ教育者として知られるジョン・トンプソンが、左手独奏教材集の中に置いた一曲。序文や関連する専門文献からは、トンプソンが片手演奏を単なる余興ではなく、ピアノ学習の正式な一環として位置づけていたことがうかがえます。1曲あたり1〜2ページとどれも短く、冒頭には簡潔な楽曲解説が添えられているほか、運指とペダリングも丁寧に書き込まれており、独習にも指導にも扱いやすい構成です。

第5曲は下行半音階を中心としたシンプルなワルツで、メロディが親指側に来る箇所と小指側に来る箇所とが入れ替わりながら進みます。

演奏時間は約2分30秒、難易度はブルグミュラー25の練習曲中盤程度と、教育的な配慮が行き届いた一曲と言えるでしょう。

 

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【ピアノ】ジョン・トンプソン「FOR LEFT HAND ALONE」シリーズ 完全ガイド

 

‣ ガロウ「左手のためのワルツタイム」(1973年)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

アメリカの作曲家・ピアノ教師ルイーズ・ガロウによる、教則シリーズ「David Carr Glover Program Solo Series」に収められた左手独奏用の小品

デイヴィッド・カー・グローヴァーとともに長年初級ピアノ教材の制作にあたってきたガロウらしく、運指とペダリングのほか、どの声部を浮き立たせるかという指示まで細かく書き込まれており、初めて片手作品に触れる人にとっても手に取りやすい楽譜にまとめられています。手の大きさを問わず挑戦しやすい音遣いになっている点も特徴です。

演奏時間は約1分、難易度はブルグミュラー25の練習曲中盤程度。

現在は、単曲でデジタル購入できます(Waltz Time Sheet Music (English Edition))。

 

‣ ストラヴィンスキー(スーリマ)「右手のためのピアノ組曲 より 第3曲 ワルツ」(1975年)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

イーゴリ・ストラヴィンスキーの息子であるスーリマ・ストラヴィンスキー(1910-1994)が、C.F.Peters社の創業者ウォルター・ヒンリクセンの追悼に捧げた右手独奏用組曲の第3曲。曲頭には演奏されない「シンボル」として12音音列が記されており、この音列による技法を用いながら舞曲様式で各曲の性格づけがされています。

全曲を通じてほぼ一段譜、同時に鳴る音も2音までに抑えられた薄い書法が特徴で、「espressivo」「dolce」といった歌謡的な標語が随所に見られます。

演奏時間は約1分、難易度はツェルニー40番中盤程度。

 

‣ ハイド「左手のための演奏会用ワルツ」(1977年)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

オーストラリアを代表するピアニスト・作曲家ミリアム・ハイド(1913-2005)が、自動車事故で右手を負傷した教え子のために書いた左手作品。1977年8月、テレビでクリケットの試合中継を見ながら昼休みの間に書き上げられたという逸話が残されています。

Allegro con brioの快活なテンポでありながら、どこか諧謔的なユーモアが漂う曲調が魅力です。「or, for small hands:」という代替パターンが用意されている箇所もあり、手の大きさへの配慮も見られます。

演奏時間は約1分40秒、難易度はツェルニー30番修了〜40番入門程度。

 

‣ ロシェロール「別々の手で より 右手のためのワルツ」(1989年頃)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

ニューオーリンズ・ジャズの空気を吸って育ったアメリカの作曲家、ウジェニー・ロシェロール(1936-2025)が、右手2曲・左手2曲から成る小品集の冒頭に置いた作品

タイトルこそワルツですが、中間部では4/4拍子に転じ、アルペジオ伴奏に乗ったシンプルな旋律が歌われます。後半で再びワルツのリズムへ戻って曲を締めくくる構成です。

演奏時間は約2分30秒、難易度はツェルニー30番中盤程度。

 

楽譜はミュッセで購入可能です。

 

‣ ノーナ夫妻「左手のためのワルツ」(1989年)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

子供向けピアノ教則本「Musik wird lebendig(音楽が生き生きと)」シリーズの著者、ウォルター・ノーナとキャロル・ノーナ夫妻による左手独奏用の小品。本曲が収められた「Ricos Konzert 2」も同シリーズの一冊にあたり、曲集内で既存作曲家の作品には作曲者名が明記されているのに対し、本曲にはその記載がなく、教材の著者であるノーナ夫妻自身によるオリジナル作品と考えられます。

曲名の下には「Fröhlich(陽気に、楽しく)」という発想標語が添えられ、低音部に常に旋律が置かれ、その上でワルツのリズムが刻まれる構成になっています。

演奏時間は約40秒、難易度はブルグミュラー25の練習曲中盤程度。

 

‣ ラヴェル/ソーザ編「ラ・ヴァルス」(1993年編曲)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

右手の負傷を機に左手独奏の道へ進んだラウル・ソーザ(1939-)が、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」を左手一つのために編曲した野心的な作品。ラヴェル自身による両手版でさえ演奏至難とされる曲を、さらに片手へ移し替えています。

低音のうねり、高音のきらめき、そして曲の後半でワルツが加速していく運動感を左手だけで再現することが目指されており、技術的要求はきわめて高い水準にあります。

全32ページに及ぶ大曲で、演奏時間は約16分。難易度はツェルニー50番入門以降程度。ソーザ自身の録音も残されています。

 

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► 作品一覧表

 

作曲家 作品 成立年 演奏時間 難易度目安
ホレンダー Op.31 より 第4曲 ワルツ 1884年 約2分50秒 ツェルニー30番修了〜40番入門
フット Op.6 より 第4番 1885年 約2分40秒 ツェルニー30番中盤
ジチー 6つの練習曲 より アデルのワルツ 1885年頃 約4分 ツェルニー50番入門以降
スクリャービン 幻のワルツ(シュトラウスの主題による) 不詳(1890年代頃) 不明(楽譜未発見) 不明
ニーマン Op.36 コンサート・ワルツ 1893年 約4分30秒 ツェルニー40番修了
ビルケダル=バルフォド 練習曲集 より ドイツ風ワルツ 1895年頃 約1分30秒 ツェルニー40番修了
クロークマン Op.81-2 コケット 1910年 約4分 ツェルニー40番中盤
グリーグ/タイヒマン編 抒情小曲集 より ワルツ Op.12-2 1911年頃 約2分 ツェルニー40番中盤
ストラヴィンスキー(イーゴリ) 3つのやさしい小品 より ワルツ 1914年 約1分30秒 連弾(セコンド:左手のみ
ブルグミュラー25の練習曲修了)
ゴドフスキー 宝石のワルツの主題による交響的変容 1928年 約10分 ツェルニー50番入門以降
ゴドフスキー 6つのワルツポエム 1930年 約20分(全曲) ツェルニー40番修了
コルンゴルト Op.23 より 第2曲 ワルツ 1930年 約5分30秒 ツェルニー50番入門以降
ペチュレク 2つの舞曲 不明 各約1分 ツェルニー30番中盤〜40番入門
ポール 即興ワルツ Op.19-1 1947年 約3分30秒 ツェルニー40番修了
サンカン ロマンティックなカプリス 1949年 約5分 ツェルニー40番修了
ロヴェル サーカス より 第4曲 象のワルツ 1957年 約1分 ブルグミュラー25の練習曲修了
トンプソン Book Two より 第5曲 半音階的ワルツ 1962年 約2分30秒 ブルグミュラー25の練習曲中盤
ガロウ 左手のためのワルツタイム 1973年 約1分 ブルグミュラー25の練習曲中盤
ストラヴィンスキー(スーリマ) 右手のための組曲 より 第3曲 ワルツ 1975年 約1分 ツェルニー40番中盤
ハイド 左手のための演奏会用ワルツ 1977年 約1分40秒 ツェルニー30番修了〜40番入門
ロシェロール 別々の手で より 右手のためのワルツ 1989年頃 約2分30秒 ツェルニー30番中盤
ノーナ夫妻 左手のためのワルツ 1989年 約40秒 ブルグミュラー25の練習曲中盤
ラヴェル/ソーザ編 ラ・ヴァルス 1993年 編曲 約16分 ツェルニー50番入門以降

※難易度表記はあくまで目安です。左手演奏への慣れや手の大きさなどによって実際の難しさは変わります。

 

► どの作品に取り組むか

 

これから片手のワルツ作品に触れてみたい方は、まずは比較的コンパクトで取り組みやすい作品から始めるといいでしょう。左手で演奏するなら、トンプソン、ガロウ、ノーナ夫妻あたりは、いずれも短く技術的な負担も抑えられています。教育的な配慮が行き届いており、片手作品そのものに初めて触れる方の入り口としても適しています。

もう少し本格的な左手作品に挑戦したい場合は、ハイドやホレンダーが候補になるでしょう。難易度は上がりますが、片手ならではの書法を学ぶことができます。

右手で片手作品を弾いてみたい方には、ペチュレクやロシェロールがあります。いずれも比較的コンパクトで、難易度からしても取り組みのハードルは高くありません。

さらに高度な演奏会用作品を目指すなら、ゴドフスキー、コルンゴルトなどが挙げられます。特にゴドフスキーは、ワルツの音楽性を左手一つでどこまで引き出せるのかを考えるうえで、非常に興味深い作品です。

「ワルツを弾く」という目的だけでなく、片手作品の書法そのものに興味があるなら、年代順にいくつかの作品を聴き比べてみるのもいいでしょう。同じ3拍子の舞曲でも、サロン風の小品、演奏会用作品、室内楽などと、作曲家によってその発想は大きく異なります。

 

► 終わりに

 

片手だけでワルツの揺らぎを描き出すという試みは、19世紀末のサロン風の小品から、20世紀の教育作品、室内楽作品、そして大規模な編曲作品まで、実にさまざまな形で受け継がれてきました。親しみやすい小品と、ゴドフスキーやコルンゴルト、ソーザのような技巧を凝らした大作を聴き比べてみると、同じ「ワルツ」という舞曲でも、片手一つでの表現の幅がいかに広いかが実感できるはずです。

中にはスクリャービンの「幻のワルツ」のように、楽譜が発見されないまま逸話としてのみ語り継がれている作品もあり、片手ワルツの歴史の奥行きを感じさせてくれます。気になった作品から実際の音を確かめてみてください。

当サイトでは、作曲家・作品ごとに片手作品を整理した「左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別」を公開しています。ワルツ以外の作品についても知りたい場合は、あわせてご覧いただければと思います。

 

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