【ピアノ】ヴァルター・ゲオルギイ「片手で弾くピアノ曲集」レビュー:収録曲・難易度・資料としての価値

【ピアノ】ヴァルター・ゲオルギイ「片手で弾くピアノ曲集」レビュー:収録曲・難易度・資料としての価値

► はじめに

 

今回紹介するのは、ヴァルター・ゲオルギイ(Georgii, Walter, 1887-1967)が編纂した「片手で弾くピアノ曲集 オリジナル作品と編曲作品集」です。

音楽之友社から1998年に刊行された、全63ページのコンパクトな曲集です。しかし、その内容は楽譜集に留まりません。本書には、現在では演奏される機会の少ない作品から、シューマンなどのよく知られた作曲家の編曲作品まで幅広く収録されています。さらに、片手ピアノの演奏法や編曲法、歴史に関する解説も収められており、片手ピアノという分野を知るための資料としても大きな価値を持っています。

本記事では、本書の基本情報や収録曲、そして実際に手に取ってみて感じた特徴をお伝えしていきます。

 

・出版社:音楽之友社
・初版:1998年
・ページ数:63ページ
・対象レベル:初級~上級者
・編集:ヴァルター・ゲオルギイ(Walter Georgii)

 

片手で弾くピアノ曲集 編:ヴァルター・ゲオルギイ / 音楽之友社

 

► ヴァルター・ゲオルギイについて

 

編者のヴァルター・ゲオルギイは、ドイツを拠点に活動した音楽家で、本書に作品を寄せている作曲家の中には、ゲオルギイと同時代に活動した音楽家や、彼と直接的・間接的なつながりを持つ人物も含まれています。

本書は、もともと1955年にケルンのトンガー社から出版された「Einhändig」全2巻のうち、第1巻にあたる内容を日本語で紹介したものとして出版されました。第2巻には3手(1手と2手の連弾)作品やヴァイオリンと1手による室内楽が収められているものの、こちらは輸入楽譜としてしか入手できず、日本語版が出ているのは第1巻のみとなっています。

解説にも書かれていますが、本書においては、名人芸を披露するための難曲を集めることよりも、片手で演奏する人が演奏の楽しみや音楽の喜びを体験できることに重きを置いて編纂されました。そのような考え方は、収録曲の難易度や選曲だけでなく、楽譜に添えられた演奏上のアドバイスや、巻末の編曲法・作曲史に関する解説にも表れているように感じます。

 

ゲオルギイの著作

【ピアノ】ヴァルター ゲオルギイ「ピアニストの手帖」レビュー(姉妹サイトへリンク)

「ピアニストの手帖」(ヴァルター・ゲオルギイ 著)のレビュー。ポリリズムの詳細な練習法、J.S.バッハのペダリング、付点の伸び縮み、など、一般的な教則本ではあまり触れられない実践的アドバイスを多数収録。演奏技術の向上と音楽的成長を目指す中級~上級者に必読の一冊です。

 

► 内容について

 

本書の最大の価値は、片手ピアノというジャンルを、作品・歴史・演奏法・編曲法の面から一冊で概観できる点にあります。「片手ピアノのための曲集」であるだけではなく、「片手ピアノという分野への入門書・資料集」でもあります。

以下、詳細に見ていきましょう。

 

‣ 収録曲目

 

作曲家 曲名
第1部
オリジナル作品
C.P.E.バッハ ピアノ曲 イ長調
クッラ ドイツ民謡《月が出た》による変奏曲
レーガー 前奏曲とフーガ 変ホ短調
スクリャービン 前奏曲 op.9-1
E=ロタール フォン クノル セレナーデ
E=ロタール フォン クノル 練習曲
ツィルヒャー 前奏曲
ツィーグラー 嘆き
ツィーグラー ラルゲット
ペチュレク 2つのダンス
マーラー(ヴィルヘルム) 前奏曲とフーガ
エカールツ カプリッチョ
ヘッファー 2つの練習曲
第2部
編曲作品
リヒター 小トッカータ ニ短調
テレマン やさしいフーガ ニ短調
ムッファト 小さなメヌエット ハ長調
J.S.バッハ 小前奏曲 ハ短調
C.P.E.バッハ ソルフェッジョ ハ短調
シューマン 『子どものためのアルバム』op.68から6曲(最初の喪失/小さなロマンス/騎手の曲/***(題名なし)/ミニョン/水夫の歌)

 

なお、本書は「オリジナル作品」と「編曲作品」を明確に分けて構成している点も特徴と言えるでしょう。

各曲の簡潔な解説は、「左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別」をご覧ください。本書の第1部に収録されたオリジナル作品については、すべて作品ライブラリー内で紹介しています。

 

‣ 付録も見逃せない充実ぶり

 

楽曲そのものだけでなく、巻末に7ページにわたって付けられた解説も本書の価値を高めているポイントです。内容は次の4本立てになっています:

・片手で弾くオリジナル作品の演奏について
・片手で弾く編曲作品の作曲者と原曲について
・編曲の技法について
・片手で弾くピアノ音楽の作曲史概観

 

特に「編曲の技法について」と「作曲史概観」の2本は、片手ピアノを学ぶうえで参考になる内容が多く含まれています。また、その中で紹介されている文献や資料には、1955年当時に出版されていたものも含まれており、現在では入手困難なものも少なくありません。それでも目を通す価値は十分にあるでしょう。

つまり本書は、単に「片手で弾ける曲を集めた楽譜」ではありません。なぜ片手作品が生まれたのか、どのように片手用へ編曲できるのか、そしてどのような作品が存在するのかを、短いながらも体系的に知ることができる資料なのです。

 

‣ 演奏面から見た本書の特徴

 

難易度の幅は、易しい曲でブルグミュラー25の練習曲の中盤程度から、難しい曲になるとツェルニー50番に入ったあたりのレベルまでカバーしています。近現代の珍しい作品や、ゲオルギイに関わりのある音楽家による作品が多く含まれているのも本書ならではの特色と言えるでしょう。エチュード、変奏曲、対位法的な作品、リズムに特徴のある作品、有名曲の編曲まで、ジャンルの幅も広く取られています。

各曲には演奏上のアドバイスも添えられており、「どのように弾くか」という実践面から丁寧な解説がされている点も心強いところ。また、作品によっては片手用の運指が一方のみ示されている場合もありますが、多くの曲では左手用・右手用の両方の運指が示されています。

 

収録曲の中で興味深いのは、C.P.E.バッハの「ソルフェッジョ ハ短調」の編曲です。左手ピアノの世界でよく知られているA.R.パーソンズ版とは異なる編曲になっており、弾き比べることで、左手編曲の考え方を学ぶ良い教材になるでしょう。

同じ原曲を左手だけで演奏可能にする場合でも、編曲者によって音域の設定や音の配置などの考え方が異なります。そのため、複数の編曲版を比較することは、左手で弾けるかどうかだけでなく、片手用編曲そのものの考え方を学ぶ機会にもなります。

 

► 終わりに

 

「片手で弾くピアノ曲集」は、単に片手で演奏できる曲を集めた楽譜集ではありません。オリジナル作品、編曲作品、演奏上のアドバイス、編曲技法、そして片手ピアノ音楽の歴史までが一冊にまとめられた、片手ピアノの入門書であり資料集でもあります。片手ピアノの作品を探している方はもちろん、片手用編曲の方法や、この分野の歴史に興味がある方にもおすすめできる一冊です。

現在では入手がやや難しくなっているものの、片手ピアノを学びたい方にとって手元に置いておく価値のある資料と言えるでしょう。

 

片手で弾くピアノ曲集 編:ヴァルター・ゲオルギイ / 音楽之友社

 

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