左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 A-C

左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 A-C

► はじめに

 

本ページでは、A–Cで始まる作曲家の左手ピアノ作品をまとめています。作曲作品・編曲作品・教本・室内楽・協奏曲などを、作曲家ごとに整理しています。

作品を探す際は、以下のアルファベット別ページもご利用ください。

左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別

 

► 作曲家別 A-C

‣ Alexander, Dennis(1947- ) デニス・アレクサンダー

 

デニス・アレクサンダーは1947年カンザス州生まれのピアニスト・作曲家です。モンタナ大学でピアノおよびピアノ教授法を24年間指導した後、1986年からアルフレッド・ミュージック社での作曲活動を本格化させ、400点を超える教育用ピアノ作品を発表しました。代表作に全24調の「24 Character Preludes」があり、2015年には全米キーボード教育会議より生涯功労賞を受けています。

 

· Consolation in D-flat Major(for Right Hand Alone)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:コンソレーション(右手のための)

 

出版:Alfred Music, Signature Series刊、全3ページ
演奏時間:約2分30秒
難易度:ツェルニー40番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:イングリッド・クラーフィールドに献呈

 

アルフレッド社のSignature Seriesより刊行された、右手のための小品。

運指とペダリングが記譜されています。楽譜には「Fingering can be adapted to play with two hands.(両手で演奏する場合は、指番号を適宜変更できます)」との注記があり、少なくとも作曲者が両手での演奏を想定し、それに対応する運指変更を認めていたことが分かります。教育作品としての意図もあるのかもしれません。右手のために書かれた作品ですが、左手のみでの演奏も可能です。

Andante amorevoleの指示のもと、温かい曲想で書かれています。書法や調性の面では、スクリャービン「左手のためのノクターン Op.9-2」を思わせるところがあり、両曲をあわせて味わうのもいいでしょう。

 

· Peaceful Hearts(for Right Hand Alone)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:ピースフル・ハーツ(右手のための)

 

出版:Alfred Music, Signature Seriesより刊行、全2ページ
演奏時間:約1分40秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

アルフレッド社のSignature Seriesの一冊として出版された小品。

運指とペダリングが付されており、また、右手のための作品として書かれていますが、左手のみでも演奏可能な書法になっているのが特徴と言えるでしょう。

冒頭に「Tranquillo」の指示を持ち、ポピュラー音楽のバラードを思わせる穏やかな曲調で書かれています。調性はF-durに始まり、途中でD-durに転じたのち再びF-durに戻る、大きく3部からなる構成をとっています。

 

‣ Alkan, Charles Henri Valentin(1813-1888) アルカン

 

シャルル=ヴァランタン・アルカン(1813年パリ生まれ、1888年同地没)はフランスのピアニスト・作曲家です。高難度と長大な規模のピアノ作品で知られ、その伝説的な演奏技術はショパンやリストにも称賛されていましたが、生涯のほとんどを隠遁的に過ごし、ほとんど公開演奏を行いませんでした。そのため存命中から名声は限られており、膨大な作品群の多くが長らく忘れられていましたが、20世紀後半から再評価が進んでいます。

 

· Douze études dans tous les tons majeurs, Op.35, No.8

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

アルカン「全ての長調による12の練習曲 Op.35 より 第8曲」1-2小節

邦題:全ての長調による12の練習曲 Op.35 より 第8曲

 

出版年:1848年
演奏時間:約5分(楽曲全体で)
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
備考:厳密な左手独奏曲ではなく、左手独奏のために書かれた部分を含む構成

 

左手独奏の部分を含む独特の構成をとっており、その部分は最初のセクションにあたります。

弦楽器のピチカートを思わせる軽やかな伴奏音型に乗せて、歌曲を聴くような穏やかな旋律が歌われます。楽譜の冒頭には旋律部分に「legato assai(きわめてなめらかに)」、伴奏部分に「distaccato assai(きわめて短く切って)」という対照的な指示が書き込まれており、片手の中で二つの異なる奏法を同時に使い分けることが求められます。

 

· Fantaisie in A-flat major, Op.76, No.1

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

アルカン「片手ずつ、および両手のための3つの大練習曲 より 左手のための幻想曲 Op.76-1 変イ長調」1-2小節

邦題:片手ずつ、および両手のための3つの大練習曲 より 左手のための幻想曲 Op.76-1 変イ長調

 

出版年:1839年(1838年頃の作と推定されている)
演奏時間:約10分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

Op.76は「片手ずつ、および両手のための3つの大練習曲」と題された曲集で、第1番(左手)、第2番(右手)、第3番(両手)の3曲から成っています。左手独奏の「大規模な」演奏会作品として、初期の重要なレパートリーの一つに位置づけられてきました。

複数のテンポ標語によって区切られた構成を持ち、冒頭の主題素材が変容しながらフィナーレへと収束していきます。

最後の2小節では、通常のピアノ書法では避けるべきとされる低音域の密集和音をあえて配置し、それを ffff で鳴らすことで、唸るような圧倒的な音響効果を生み出しています。ピアノ音楽の歴史においてこれほど早期に左手独奏の限界に挑んだ作品として、重要な意義を持っていると言えるでしょう。

 

‣ Bach, Carl Philipp Emanuel(1714-1788) C.P.E.バッハ 

· Klavierstück for the right or left hand alone

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

C.P.E.バッハ「Klavierstück for the right or left hand alone」の曲頭の楽譜。

邦題:右手あるいは左手のための小品

 

作曲年:1770年以前に作曲
演奏時間:約1分
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

「左手のみでも右手のみでも弾ける作品」というユニークなコンセプトの作品です。和音が一切出てこないうえに、終始音域が狭めのアルペジオ中心なので、手の大きさを問わない書法となっています。子供向けの学習教材として作曲された可能性が考えられるでしょう。

現在知られている片手独奏作品の中では、最も早い時期の作品の一つとされています。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】片手作品入門:C.P.E.バッハ「Klavierstück for the right or left hand alone」演奏・分析ガイド

 

· Solfeggio in C minor, Wq 117/2 H220(arr. A. R. Parsons, for left hand)

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)

C.P.E.バッハ「ソルフェッジョ ハ短調 Wq 117/2 H220」原曲と左手編曲の楽譜比較(1-2小節)連桁の結合

邦題:ソルフェッジョ ハ短調 Wq 117/2 H220(A.R.パーソンズ編、左手独奏版)

 

原曲作曲年:1766年
演奏時間:約1分10秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)

 

原曲について

C.P.E.バッハが1766年にポツダムで作曲した鍵盤練習曲で、「ソルフェッジョ」と題する作品の中ではよく知られた一曲です。全曲のほぼすべてが16分音符のパッセージで構成されており、左右の手を交互に用いることを前提とした書法のため、片手だけで弾けるよう編曲するには様々な工夫が求められます。

 

編曲の特徴

A.R.パーソンズによる左手独奏版では、以下のような処理が施されています:

・連桁を一本にまとめ、片手演奏の流れに合わせた読みやすさを確保
・大きな跳躍が生じる箇所は、和声を保ちながら音の並びを変更して手の移動を抑制
・オクターブの下の音を省略したり、オクターヴの音域を1オクターブ上げたりして無理な跳躍を回避
・装飾音を書き譜にして演奏の目安を明示(C.P.E.バッハ時代の演奏慣習も考慮)
・タイを加えて和声の響きを補う処理も見られる

編曲技法の観点から参考になる箇所が多く、左手のための編曲を学ぶ素材としても有用な一曲です。詳しい解説は以下の記事を参考にしてください。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】C.P.E.バッハ「ソルフェッジョ ハ短調」から学ぶ、左手用編曲のテクニック

 

‣ Bartók, Béla(1881-1945) バルトーク

 

ベーラ・バルトーク(1881年ナジセントミクローシュ生まれ、1945年ニューヨーク没)はハンガリーの作曲家・ピアニストです。左手のための独奏曲は1作品のみ作曲しました。民俗音楽の研究者としても知られていますが、この練習曲が書かれた1903年はまだリストやシュトラウスへの傾倒が強い時期にあたり、後年の民族音楽的語法とは異なるロマン派的な書法が色濃く残っています。

 

· Etude for the Left Hand (Tanulmány balkézre)

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

バルトーク「4つのピアノ曲 より 左手のための練習曲 BB 27」1-2小節

邦題:4つのピアノ曲 より 左手のための練習曲 BB27

 

作曲年:1903年
演奏時間:約9分
難易度:ツェルニー50番入門程度以降
分類:オリジナル作品(独奏)

 

作品について

バルトーク22歳の作で、ソナタ形式による大規模な単一楽章作品。広い音域と、多出するオクターブ・和音が全体のサウンドを作り出しています。シュトラウスの影響が冒頭の「行動への呼びかけ」とも言える音型ににじんでおり、第2主題はブラームスを思わせる性格を持っています。ロマン派の名残と練習曲的な性格も感じられ、後のバルトークの語法とは異なる習作と言えるでしょう。

献呈:Mesterenek, Thoman Istvánnak ajánlva(師イシュトヴァン・トマーンへ)

 

初演のエピソード

1903年12月14日、ベルリンのザール・ベヒシュタインでのデビュー・リサイタルで、プログラムの第1曲目に置いてバルトーク自身が初演しました。当日の聴衆にはゴドフスキーとブゾーニがおり、演奏後にゴドフスキーはバルトークを楽屋に訪ね直接賛辞を伝えたと記録されています。バルトーク自身も師に宛てた手紙で、この左手練習曲がもっとも聴衆に印象を与えたと記しました。

 

‣ Berens, Hermann(1826-1880) べレンス

· Training of the Left Hand Op.89

 

邦題:左手のトレーニング Op.89

 

作曲年:1872年頃(1872年出版)
演奏時間:番号による
難易度:ツェルニー30番に入門した段階以降での開始をおすすめ
分類:オリジナル作品(独奏)

1872年にC.F.ペータース社から出版されました。正確な作曲年は定かではありませんが、1872年、またはその直前に書かれたものと考えられます。

 

本曲集は2部構成になっています:

第1部 46のトレーニング

・左手のみで演奏する、基礎的な指の動きを集中的に鍛える短いエクササイズ群
・音階、アルペジオ、跳躍、反復音など、左手に必要な様々な動作パターンが網羅
・各トレーニングは1〜2ページ程度の短い楽曲で、特定の技術課題に焦点を当てている

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1部 第3曲 1-3小節)

ベレンス「左手のトレーニング Op.89 第1部 第3曲」冒頭の楽譜。

第2部 25の練習曲

・左手のみで演奏する、独立した練習曲として完成された楽曲
・各曲には最終的なテンポ指定、強弱記号、アーティキュレーションなど、表現上の細かい指示が記されている
・技術的な訓練と音楽的な表現の両方を学べる

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第2部 第4曲 1-4小節)

ベレンス「左手のトレーニング Op.89 第2部 第4曲」冒頭の楽譜。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】ベレンス「左手のトレーニング Op.89」導入完全ガイド

 

‣ Berger, Ludwig(1777-1839) ベルガー

 

1777年、建築家の家庭に生まれたベルガーは、フルートとピアノを学んだのちギュルリヒに作曲を師事し、その後クレメンティに同行してサンクトペテルブルクへ渡り、ジョン・フィールドらとも交流します。1812年にはナポレオン軍を逃れてロンドンへ、ヴェルサイユ条約後はベルリンに戻り、メンデルスゾーンやファニー・ヘンゼルらを指導する高名な教師となりました。

しかし1817年頃、腕の神経障害により演奏活動が制限されます。それでも作曲と教育を続け、協奏曲やソナタ、練習曲など幅広い作品を残しました。エチュードの一部はメンデルスゾーンの「無言歌集」の先例になったとも言われています。

 

ベルガーについてさらに詳しく知る

【ピアノ】左手作品から読み解くルートヴィヒ・ベルガー:左手のために書かれた最初期の出版作品

 

· Etude de Chant for the left hand Op.12-9

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

12-9

邦題:12の練習曲 Op.12 より 第9曲

 

作曲年:1820年頃
演奏時間:約3分10秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

この作品以前から、左手または右手のどちらでも演奏可能な作品は存在しましたが、1820年前後に作曲された作品は、明確に左手のためだけに書かれ、最初に出版された作品だと言われています。

シューマンが賞賛したとされているこの作品は、左手作品の中では比較的知られている作品と言えるでしょう。ピアニストAnja Wackhusenの録音音源「Fur Die Linke Hand Allein-for Left Hand Only」などにも収録されています。

長調と中間部の短調の対比が美しい、シンプルながらも耳馴染みの良い小品です。

 

‣ Blumenfeld, Felix(1863-1931) ブルーメンフェルド

 

※ブルーメンフェルドは、「ブルーメンフェルト」「ブルーメンフィールド」という表記が用いられることもある

 

· Étude pour la main gauche seule Op.36

 

邦題:左手のための練習曲 Op.36

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)

ブルーメンフェルド「左手のための練習曲 Op.36」冒頭部分の楽譜。タールベルク的奏法も含む左手独奏作品。

作曲年:1905年
演奏時間:約6分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:レオポルド・ゴドフスキー

 

タイトルに「練習曲」とありますが、音楽的な内容は技術的な習作を超えた充実度を誇ります。

構成面では、メロディを内声に置いてその上下を伴奏声部が包み込むタールベルク的奏法が冒頭と終結部を彩り、中間部には劇的な表現とカデンツァが挿入されるという、明快な三部構造をとっています。

特に結尾部では、徐々に音が薄れていくなかで同主短調からの借用和音が現れ、グリーグの「抒情小品集 第3集 春に寄す op.43-6」に通じる淡い色彩感を帯びています。どことなく春の訪れを想起させるような、余韻の深い一曲と言えるでしょう。

ブルーメンフェルドのOp.36は、独立した1つの作品として完結しているに留まりません。ゴドフスキーへの献呈を起点に、後代のピアニストによる演奏・録音、そしてコリリアーノの作品創出へと波及していった、極めて興味深い「音楽の継承史」を描き出しています。詳しくは、【ピアノ】左手作品から読み解くブルーメンフェルド:ゴドフスキーに捧げられた1905年の左手練習曲 をご覧ください。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】なぜ、ブルーメンフェルド「左手のための練習曲 Op.36」は春っぽく聴こえるのか

 

‣ Bober, Melody(1955-) ボバー

 

メロディ・ボバーはアメリカの作曲家兼ピアノ教育者で、初級から中級向けの教育用作品を数百曲以上手がけています。ジャズを学んだ経験を持ち、Alfred Musicをはじめとする出版社から多数の教材を発表。指導現場で長く支持されている作曲家の一人です。

 

· Grand One-Hand Solos for Piano, Book1-6

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

難易度:Book1(バイエル併用程度)〜 Book6(ツェルニー30番中盤程度)
分類:オリジナル作品
備考:左手のための作品のみならず、右手のための作品も収録

 

シリーズの概要

全6巻からなる片手のための教材シリーズです。

主な特徴:

・左手・右手の両方を対象とした作品が収録
・Book1〜3には連弾(2手または3手)対応の曲も含まれている
・Book4以降は全曲ソロ用で、片手のみで最後まで演奏が完結
・ラグタイム、ブルース、タンゴ、マラゲーニャなど多彩なジャンルを取り入れている
・運指とペダリングの指示も丁寧に付されている
・大きくない手でも弾きやすい作品が中心で、1曲あたりの長さも短め

 

各巻の収録曲(左手作品のみ掲載)

Book1

・Secret Mission(連弾)
・Setting Sun(連弾)
・Victory Parade(連弾)

Book2

Lazy Day
Mystery Novel(連弾)
T-Rex Trek(連弾)
Snowbird Waltz(連弾)

Book3

・Treasure Hunt(連弾)
・Left-Hand Boogie Stomp
・Blues Beat
・Climbing the Cascades

Book4(全曲ソロ)

・Boogie Blues Riff
・Our Little Waltz
・Autumn Wind
・Nocturne

Book5(全曲ソロ)

・Malagueña Mood
・Whispers in the Wind
・Bassline Bravo!
・Skater’s Dream

Book6(全曲ソロ)

・Best of Times
・On Stormy Seas
・Moonlit Memory
・Scat Jammin’

 

このシリーズについてさらに詳しく知る

【ピアノ】メロディ・ボバー「Grand One-Hand Solos for Piano」シリーズ 完全ガイド

 

‣ Bonamici, Ferdinando(1827–1905) ボナミーチ

 

1827年ナポリ生まれ、1905年同地没。ナポリ音楽院の書記を経てピアノ教師として活動し、晩年は教育と作曲に専念しました。左手のためのピアノ音楽という分野において、技術の体系化を明確な目的として膨大な練習曲・練習パッセージを書き残した人物です。

 

· 100 exercices et 153 passages divers pour la main gauche seule, Op.271

 

100の練習曲集 シリーズ1 より 第1番

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

ボナミーチ「100の練習曲集 シリーズ1 より 第1番」1-3小節

邦題:左手のための100の練習曲と153の多様なパッセージ Op.271

 

作曲年・出版年:不明(イシドール・フィリップ校訂版:1915年)
難易度:ツェルニー30番入門程度〜(短い練習曲が中心)
分類:オリジナル作品(独奏)

 

Op.271〜273の3曲集のうち最も規模が大きく、100の練習曲と153のパッセージを収めています。100曲はいずれも3段程度に収まる短いもので、3つのシリーズに整理されています。技術的な有用性という点では3曲集の中で最も充実しており、フィリップは1915年の校訂版序文でこの曲集を「左手のために存在する最も完全な作品」と評しました。

巻頭には実践的な演奏指示も記されており、ベンチの位置、テンポ設定、反復回数、疲労時の休息の取り方など、現代の教則本にも通じる細かな配慮が見られます。

 

ボナミーチをさらに詳しく知る

【ピアノ】左手作品から読み解くボナミーチ:膨大な練習曲が語るもの

 

· 30 exercices-études pour la main gauche seule, Op.272

 

30の訓練的練習曲集 Op.272 より 第1番

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

ボナミーチ「30の訓練的練習曲集 Op.272 より 第1番」1-3小節

邦題:左手のための30の訓練的練習曲集 Op.272

 

作曲年・出版年:不明(イシドール・フィリップ校訂版:1915年)
難易度:ツェルニー30番修了程度〜
分類:オリジナル作品(独奏)

 

Op.271とOp.273の中間に位置する曲集で、技術的な訓練と音楽的な性格の両面を兼ね備えることを目指した作品群です。一つのテクニックを反復して身につけるツェルニー的な課題が中心ですが、第10番のようにテンポが途中で変化し、そのままエンディングへと向かうといった音楽的な工夫も見られます。

数曲を除き各曲にボナミーチ自身による解説が付されており、奏法の意図が丁寧に説明されている点が特徴の一つと言えるでしょう。

 

ボナミーチをさらに詳しく知る

【ピアノ】左手作品から読み解くボナミーチ:膨大な練習曲が語るもの

 

· 34 études mélodiques pour la main gauche seule, Op.273

 

34の旋律的練習曲集 Op.273 より 第3番

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ボナミーチ「34の旋律的練習曲集 Op.273 より 第3番」1-4小節

邦題:左手のための34の旋律的練習曲集 Op.273

 

作曲年・出版年:不明(イシドール・フィリップ校訂版:1915年)
難易度:ツェルニー40番中盤程度〜
分類:オリジナル作品(独奏)

 

3曲集の中で技術的に最も難しく、広い音域を駆使した楽曲的な性格が際立ちます。Op.271から始まる3曲集の流れで言えば、基礎的な指の訓練から音楽的表現へと重心が移った到達点にあたる一冊です。

第3番はレヴェンタール編のアンソロジーにも収録されており、Op.273の中では最もよく知られた曲となりました。上行・下行のグリッサンドが主題の合間に繰り返し現れる、装飾的な性格の作品です。

 

ボナミーチをさらに詳しく知る

【ピアノ】左手作品から読み解くボナミーチ:膨大な練習曲が語るもの

 

‣ Bortkiewicz, Sergei Eduardovich(1877-1952) ボルトキエヴィチ

· Piano Concerto No. 2 in E-flat major, Op. 28

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、ソロの初導入部 38-40小節)

ボルトキエヴィチ「左手のためのピアノ協奏曲 第2番 Op.28」38-40小節

※ボルトキエヴィチ自身によるピアノ伴奏版編曲(ソロ+ピアノ伴奏形式:2台ピアノ)から浄書

 

邦題:左手のためのピアノ協奏曲 第2番 Op.28

 

作曲年:資料により、1924年 / 1930年など表記に幅がある
演奏時間:約30分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
初演:1929年1月11日
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタインのために作曲

 

構成

単一楽章のうちに複数のセクションを含む構成で、作曲者自身による2台ピアノ版では、I. Allegro dramatico – Andante cantabile/II. Tranquillamente/III. Meno mosso の3部として出版されています。

 

音楽的な特徴

全体に後期ロマン派の語法が色濃く漂う作品です。曲の中盤以降︎(497小節目〜)には、オクターヴによる「第9音を交えたc-mollの主和音の分散和音」という、ショパン「革命のエチュード」の左手パートを想起させる箇所が現れます。

このエチュードの左手パートをめぐっては、ピアニストのアレクサンダー・ドライショクにまつわる有名な逸話が知られています。師トマーシェクが「いつかピアニストがこの左手のパートをオクターヴで演奏する時代が来るだろう」と語ったのを真に受けたドライショクは、1日12時間・6週間におよぶ猛練習の末にオクターヴ版「革命」を完成させ、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスでの演奏でメンデルスゾーンを驚かせました。ボルトキエヴィチのこの協奏曲に見られる同主題・同調性のオクターヴ書法は、あくまで推測の域を出ませんが、作曲者がこのドライショクの逸話を意識していた可能性を感じずにはいられません。

 

· 12 Nouvelles Études Op.29-5 “Le Poète”

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

ボルトキエヴェチ「12の新しい練習曲 より 詩人 Op.29-5」1-3小節

邦題:12の新しい練習曲 より 詩人 Op.29-5

 

作曲年:1924年
演奏時間:約6分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

ロシア出身でオーストリアで活躍した作曲家・ピアニスト、セルゲイ・ボルトキエヴィチによる左手のためのコンサート用練習曲です。

本作「詩人」は、各曲に情景描写的なタイトルが付けられた「12の新しい練習曲 Op.29」の第5曲目にあたり、全12曲の中で、本楽曲のみが「左手だけのため」に書かれています。

 

· 4 Klavierstücke No.3 Hochzeitsang Op.65-3

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ボルトキエヴィチ「4つのピアノ曲 第3番 より 祝婚歌 Op.65-3」1-4小節

邦題:4つのピアノ曲 第3番 より 祝婚歌 Op.65-3

 

作曲年:1947年  ※第3番は1934年に原曲が初演されている
演奏時間:約4分20秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

ボルトキエヴィチがその晩年、70歳の誕生日を記念して1947年にウィーンで出版した、彼の生涯最後のピアノ曲集「4つのピアノ曲 Op.65」に収められている作品です。全4曲の中で、この第3曲のみが唯一「左手だけのため」に書かれています。

この曲はもともとは「ロシアの結婚の歌」というタイトルで1934年頃に構想されており、同年6月にピアニストのルドルフ・ホルン(本作の献呈者)によってベルリンのラジオ番組ですでに初演されていました。その後、長年温められていたこの作品に改訂が加えられ、1947年になって他の3つの両手用の楽曲とともに一つの曲集(Op.65)として結実しました。

「祝婚歌(婚礼の歌)」というタイトルの通り、人生の門出を祝うような温かさと、ボルトキエヴィチならではの優美でノスタルジックな旋律が印象的な小品です。

 

‣ Brahms, Johannes(1833-1897) ブラームス

· Chaconne by J.S. Bach for the left hand alone

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-5小節)

J.S.バッハ作曲、ブラームス編曲「シャコンヌ」の楽譜。曲の冒頭の譜例が掲載されている。

邦題:ピアノのための5つの練習曲 より J.S.バッハのシャコンヌ

 

編曲年:1877年
演奏時間:約17分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)

 

J.S.バッハの名作「シャコンヌ」を、ブラームスが左手のみで演奏できるように編曲した異色の作品、通称「バッハ=ブラームス シャコンヌ」。左手独奏作品の中でも芸術性が高い一曲で、多くのピアニストに愛奏されています。

本作は1877年6月、ブラームスが親しい友人であったクララ・シューマンへ宛てた手紙とともに贈られました。当時、右手を痛めていたクララのために、左手だけで演奏できるように編曲したものです。ブラームスは手紙の中で「今日、君に送るものほど面白いものは他にないと思う」と書き添えており、音楽的なユーモアと彼女への深い思いやりが詰まった名編曲として知られています。

 

この作品をさらに詳しく知る

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‣ Bridge, Frank(1879-1941) ブリッジ

 

イギリスの作曲家、フランク・ブリッジ(1879年ブライトン生まれ、1941年イーストボーン没)は、作曲家として活動する傍ら、ヴィオラ奏者・指揮者としても幅広く活躍しました。室内楽の書き手として特に高く評価されています。ベンジャミン・ブリテンを指導したことでも知られています。

 

· 3 Improvisations for the Left Hand

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ブリッジ「左手のための3つのインプロヴィゼーション」1-4小節

邦題:左手のための3つのインプロヴィゼーション

 

作曲年:1918年
演奏時間:全曲合計 約8分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

構成

1. At Dawn(夜明けに) 2. A Vigil(通夜) 3. A Revel(歓楽)

 

この作品は、第一次世界大戦での負傷がきっかけで右手を失ったピアニスト、ダグラス・G・A・フォックスのために1918年に書かれました。ブリッジはフォックスを励ますためにこの曲を贈り、「この曲が独り立ちして、貴方にほほえみかけてくれることを願って」という言葉を手紙に添えたと伝わっています。

3曲は対照的な性格を持っています。印象主義的な和声が音楽を作っており、3曲まとめて演奏会で取り上げることに適した、まとまりのある作品群です。第1曲から第3曲へ向けて徐々に音楽が分かりやすくなっていくのが特徴の一つと言えるでしょう。

 

音源について

ステファン・ヴァルズィッキ「Piano Music for the Left Hand」(Nimbus Alliance、2015年)やポール・コーカー「Malgré Tout…Piano music for left hand」(Doron Music、2012年)などに収録されています。これらのアルバムの詳細は以下の記事をご参照ください。

【ピアノ】ステファン・ヴァルズィッキ「Piano Music for the Left Hand」レビュー
【ピアノ】ポール・コーカー「Malgré Tout…Piano music for left hand」レビュー

 

‣ Britten, Benjamin(1913-1976) ブリテン

· Diversions on a theme for piano(left hand)and orchestra Op.21

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:左手のためのピアノ協奏曲

 

作曲年:1940年
演奏時間:約25分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)

 

パウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱により1940年に完成。初演は1942年1月17日、フィラデルフィア管弦楽団、ユージン・オーマンディ指揮のもとヴィトゲンシュタイン自身が演奏しました。当初の題名は「コンサート・ヴァリエーションズ」で、「ディヴァージョンズ」は後から改められたものです。

ブリテンはこの作品で「両手のテクニックを模倣しない」という立場を明確にしています。単一のラインが持つ可能性をあらゆる角度から探ることを目的とした変奏曲であり、各変奏はそれぞれ異なる音楽的表情を追求しています。

ヴィトゲンシュタインはオーケストラの書法が厚すぎると異議を唱えましたが、ブリテンは変更に応じませんでした。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】ラヴェルとブリテンの左手協奏曲:対照的な二つのコンセプトを比較する

 

‣ Corigliano, John(1938-) コリリアーノ

 

ジョン・コリリアーノ(1938年2月16日ニューヨーク生まれ)はアメリカの作曲家です。父はニューヨーク・フィルのコンサートマスターを23年務めたジョン・コリリアーノ・シニア、母はピアニスト兼教育者という音楽家の家庭に育ちました。コロンビア大学でオットー・ルーニングに、マンハッタン音楽院でヴィットリオ・ジャンニーニに師事しています。ジュリアード音楽院やニューヨーク市立大学リーマン・カレッジなどで後進の育成にもあたりました。

多作で、ピューリッツァー賞(交響曲第2番、2001年)、グラミー賞5回、グラウマイヤー賞、アカデミー賞(映画「レッド・バイオリン」、2000年)などを受賞しており、アーロン・コープランドに次いでピューリッツァー賞とアカデミー賞の両方を受賞した2人目の作曲家として知られています。

 

· Etude No.1: For the left hand alone from Etude Fantasy

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:エチュード・ファンタジー より 第1曲(左手独奏)

 

作曲年:1976年
演奏時間:約3分40秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
初演:1976年10月9日、ケネディ・センター(ワシントンD.C.)、ジェームズ・トッコ(ピアノ)
分類:オリジナル作品(独奏)
委嘱:ジェームズ・トッコ(エディス・ブッシュ財団助成、ワシントン・パフォーミング・アーツ・ソサエティ、アメリカ建国200周年記念ピアノ・シリーズ)
献呈:エディス・ブッシュの記念に

 

Etude Fantasy 全体の構成

全5曲からなる作品で、第1曲のみが左手独奏です。他の4曲(Legato、Fifths to Thirds、Ornaments、Melody)は両手を要し、各曲は切れ目なく次へとつながります。

 

作品の成立背景

コリリアーノは本作の成立について、自身の言葉でこう説明しています。

ジェームズ・トッコのリサイタルでブルーメンフェルドの「左手のための練習曲 Op.36」をアンコールで聴き、その音楽とトッコの演奏技術に強く惹かれた。左手独奏の書法を試してみたいという気持ちと、大規模なファンタジーを書きたいという構想が重なり、エチュードとファンタジーを組み合わせたこの作品の形へとつながった。

ブルーメンフェルドのOp.36は、ゴドフスキーへの献呈を起点に、1905年の作曲から約70年後のコリリアーノの本作創出へと波及していった、興味深い「音楽の継承史」を描き出しています。詳しくは、【ピアノ】左手作品から読み解くブルーメンフェルド:ゴドフスキーに捧げられた1905年の左手練習曲 をご覧ください。

 

第1曲について

同音連打が印象的なトッカータを思わせる部分や、主旋律を装飾音で不協和に飾る部分など、書法の幅が見られます。全体的には大胆で激しい性格を持っていますが、無調でありながらカンタービレな要素も併せ持つ音楽と言えるでしょう。

第2曲へ移行する際には、切れ目なく右手の介入によって繋がっているので、単独での演奏会使用は難しい面があります。

 

‣ Czerny, Carl(1791-1857) ツェルニー

 

カール・ツェルニー(1791年ウィーン生まれ、1857年同地没)はウィーンのピアニスト・作曲家・教育者で、多作なピアノ曲の書き手の一人です。ベートーヴェンと親しく、その音楽の初演に携わるとともに32曲のソナタをすべて暗譜していたと伝わっています。教師としてはのちのフランツ・リストを9歳から無償で2年間指導し、その後の活躍の土台を作りました。

 

· Two Studies for the Left Hand Alone, Op.735

 

第1番 ト短調 Allegro maestoso

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

ツェルニー「左手のための2つの練習曲 Op.735 第1番」1-2小節

 

第2番 変イ長調 Andante expressivo

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

ツェルニー「左手のための2つの練習曲 Op.735 第2番」1-3小節

 

邦題:左手のための2つの練習曲 Op.735

 

作曲年:不明
演奏時間:第1番 約2分50秒 / 第2番 約3分10秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

構造はシンプルですが、オクターブ、音階、トリル、分散和音など幅広い技術が要求される作品。2曲は性格が対照的で、第1番は堂々としたAllegro maestoso、第2番はAndante expressivoによる歌うような書法です。

なお、ツェルニー自身は左右どちらの手でも弾かれることを想定していたとも考えられています。

 

· Etude for One Hand in A major

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、曲頭)

ツェルニー「片手のための練習曲 イ長調」曲頭

邦題:片手のための練習曲 イ長調

 

作曲年:不明
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

単一のテクニックの練習に絞ったエチュードではなく、様々なテクニックを含む総合的練習曲。ツェルニーのエチュードとしては珍しく、テンポ変化が多いうえに、カデンツァ風の音の扱いも見られます。この点で短かい小品を集めたかのような印象を持つ一作となっています。

レヴェンタール編のアンソロジーにも収録されており、Op.735よりも知られた曲となりました。

 

► 終わりに

 

作品を探す際は、以下のアルファベット別ページもご利用ください。

左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別

 

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