- 左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 A-C
- ► はじめに
- ► 作曲家別 A-C
- ‣ Absil, Jean(1893-1974) ジャン・アプシル
- ‣ Adair, Yvonne Madeleine(1897-1989) イヴォンヌ・マドレーヌ・アデア
- ‣ Alexander, Dennis(1947- ) デニス・アレクサンダー
- ‣ Alkan, Charles Henri Valentin(1813-1888) アルカン
- · Douze études dans tous les tons majeurs, Op.35 No.8
- · Fantaisie in A-flat major, Op.76 No.1 [LH]
- · Introduction, variations et finale, Op.76 No.2 [RH]
- · 13 Prières, Op.64 [LH/RH]
- · Impromptu sur le choral de Luther「Un fort rempart est notre Dieu」, Op.69 [LH/RH]
- · Préludes et prières(Arr. César Franck) [LH/RH]
- ‣ Andriessen, Jurriaan(1925-1996) ユリアン・アンドリーセン
- ‣ Andriessen, Louis(1939-2021) ルイ・アンドリーセン
- ‣ Andriessen, Willem(1887-1964) ウィレム・アンドリーセン
- ‣ Arens, Barbara(1960- ) バーバラ・アレンス
- ‣ Arnold, Malcolm(1921- ) マルコム・アーノルド
- ‣ Bach, Carl Philipp Emanuel(1714-1788) C.P.E.バッハ
- ‣ Bartók, Béla(1881-1945) バルトーク
- ‣ Bartovský, Josef(1884-1964) ヨゼフ・バルトフスキー
- ‣ Bax, Arnold(1883-1953) アーノルド・バックス
- ‣ Benedict, Julius(1804-1885) ユリウス・ベネディクト
- ‣ Berberian, Cathy(1925-1983) キャシー・バーベリアン
- ‣ Berens, Hermann(1826-1880) べレンス
- ‣ Berger, Ludwig(1777-1839) ルートヴィヒ・ベルガー
- ‣ Birkedal-Barfod, Ludvig(1850-1937) ルードヴィヒ・ビルケダル=バルフォド
- ‣ Blanchet, Emile R.(1877-1943) ブランシェ
- ‣ Bliss, Arthur(1891-1975) アーサー・ブリス
- ‣ Blumenfeld, Felix(1863-1931) ブルーメンフェルド
- ‣ Bober, Melody(1955-) メロディ・ボバー
- ‣ Bon, Willem Frederik(1940-1983) ウィレム・フレデリック・ボン
- ‣ Bonamici, Ferdinando(1827–1905) ボナミーチ
- ‣ Bontoft, Frederic S. フレデリック・S・ボントフト
- ‣ Bortkiewicz, Sergei Eduardovich(1877-1952) ボルトキエヴィチ
- ‣ Bowen, York(1884-1961) ヨーク・ボウエン
- ‣ Brahms, Johannes(1833-1897) ブラームス
- ‣ Brandman, Margaret S.(1951- ) マーガレット・S・ブランドマン
- ‣ Brenet, Thérèse(1935- ) テレーズ・ブルネ
- ‣ Bricht, Walter(1904-1970) ヴァルター・ブリヒト
- ‣ Bridge, Frank(1879-1941) ブリッジ
- ‣ Britten, Benjamin(1913-1976) ブリテン
- ‣ Burghauser, Jarmil(1921-1997) ヤルミル・ブルクハウザー
- ‣ Calabro, Louis(1926-1994) ルイス・カラブロ
- ‣ Charbonnet, Alice Ellen(1858-1914) アリス・エレン・シャルボネ
- ‣ Chouquet, Louise ルイーズ・シュケ
- ‣ Coenen, Willem(1837-1918) ヴィレム・クーネン
- ‣ Corigliano, John(1938-) ジョン・コリリアーノ
- ‣ Czerny, Carl(1791-1857) ツェルニー
- ► 終わりに
左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 A-C
► はじめに
本ページでは、A–Cで始まる作曲家の左手ピアノ作品をまとめています。作曲作品・編曲作品・教本・室内楽・協奏曲などを、作曲家ごとに整理しています。
作品を探す際は、以下のアルファベット別ページもご利用ください。
► 作曲家別 A-C
‣ Absil, Jean(1893-1974) ジャン・アプシル
ジャン・アプシルは、ベルギーの作曲家で、20歳になってからブリュッセル音楽院に入学し、オルガンや和声、対位法を学んだのち、ポール・ジルソンのもとで作曲と管弦楽法を修めました。1922年にはローマ大賞で第2位を獲得し、翌年からはブリュッセルのエッテルベーク音楽アカデミーの院長を長年務めました。1930年代からはブリュッセル音楽院で教鞭を執り(1939年よりフーガ科教授)、多くの若い世代の作曲家を育てました。作風は、民謡的なリズムを織り交ぜた、繊細でありながら情熱的な音楽性を特徴としています。
· Ballade, Op.129 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:バラード Op.129
作曲年:1966年
出版年:1972年
演奏時間:約12分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
アプシルが70歳を過ぎていた時期に書かれました。左手のみで演奏される作品としては規模・難度ともに本格的なコンサートピースと言えるでしょう。
「Lento recitativo con rubato」の指示のもと、大きな区切り以外では小節線を用いずに進行していきます。冒頭のアルペジオの直後からは、記号によるトリルと書き譜にされたトリルの音型が続き、そこから次第にさまざまな音型へと展開していきます。
‣ Adair, Yvonne Madeleine(1897-1989) イヴォンヌ・マドレーヌ・アデア
イヴォンヌ・マドレーヌ・アデアは、イギリス海峡のガーンジー島生まれのイギリスの作曲家・ピアニストで、王立音楽院で学びました。ロンドンの教員養成機関や個人レッスンを通じて、特に子供のためのソルフェージュ教育に力を注ぎ、1945年からはシーン・ゲート・ハウス予備校で音楽を教えています。「エラ・フェアロール」という筆名で作品を発表することもあり、その教育的なピアノ曲や打楽器合奏のための作品は、現在でも音楽学校の検定課題曲として使われ続けています。
· Three Preludes for the Left Hand [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:3つの前奏曲(左手のための)
出版年:1930年頃
演奏時間:全曲合計 約4分10秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構成(全3曲)
I. Moderato
II. Andante
III. Allegro
親しみやすい曲調とシンプルな書法を持つ、教材としても扱いやすい小品集です。
第1曲(約2分)
アルペジオを中心とした、ポピュラー調のバラード。シンプルな書法の中に、裏拍を用いたリズムの工夫などが見られます。
第2曲(約50秒)
メランコリックな性格のバラードで、背景音楽のBGMを思わせる、美しい小品。
第3曲(約1分20秒)
前の2曲とは対照的な快活さを持つ作品ですが、随所にほのかな哀愁も帯びており、曲集全体としての共通性も感じられます。
‣ Alexander, Dennis(1947- ) デニス・アレクサンダー
デニス・アレクサンダーは1947年カンザス州生まれのピアニスト・作曲家です。モンタナ大学でピアノおよびピアノ教授法を24年間指導した後、1986年からアルフレッド・ミュージック社での作曲活動を本格化させ、400点を超える教育用ピアノ作品を発表しました。代表作に全24調の「24 Character Preludes」があり、2015年には全米キーボード教育会議より生涯功労賞を受けています。
· Arioso(for Right Hand Alone) [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:アリオーソ(右手のための)
出版:Alfred Music, Signature Series刊、全3ページ
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Martha Elliott
Adagio cantabileで奏される、歌うようなタイトルどおりの性格を持つ作品です。楽譜には運指とペダリングが書き込まれています。表題のとおり右手独奏のために書かれた作品ですが、書法自体は片手であれば左右を問わず演奏可能な作りになっている点も特徴の一つと言えるでしょう。
Es-durで開始したのち、D-durの中間部を経て、再びEs-durに回帰し、エンディングを添えて締めくくられるという、見通しの良いシンプルな構成を持っています。
6度音程が連続して現れる箇所が随所にあり、これが本作のサウンド面での特徴の一つになっています。また、上下ともに広い音域を用いる書法で、エンディングではさらに低い音域まで広がっていくため、全体を通して手の横移動が技術的なハードルになるでしょう。
· Consolation in D-flat Major(for Right Hand Alone) [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:コンソレーション(右手のための)
出版:Alfred Music, Signature Series刊、全3ページ
演奏時間:約2分30秒
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:イングリッド・クラーフィールドに献呈
アルフレッド社のSignature Seriesより刊行された、右手のための小品。
運指とペダリングが記譜されています。楽譜には「Fingering can be adapted to play with two hands.(両手で演奏する場合は、指番号を適宜変更できます)」との注記があり、少なくとも作曲者が両手での演奏を想定し、それに対応する運指変更を認めていたことが分かります。教育作品としての意図もあるのかもしれません。右手のために書かれた作品ですが、左手のみでの演奏も可能です。
Andante amorevoleの指示のもと、温かい曲想で書かれています。書法や調性の面では、スクリャービン「左手のためのノクターン Op.9-2」を思わせるところがあり、両曲をあわせて味わうのもいいでしょう。
· Peaceful Hearts(for Right Hand Alone) [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:平和の心(右手のための)
出版:Alfred Music, Signature Seriesより刊行、全2ページ
演奏時間:約1分40秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
アルフレッド社のSignature Seriesの一冊として出版された小品。
運指とペダリングが付されており、また、右手のための作品として書かれていますが、左手のみでも演奏可能な書法になっているのが特徴と言えるでしょう。
冒頭に「Tranquillo」の指示を持ち、ポピュラー音楽のバラードを思わせる穏やかな曲調で書かれています。調性はF-durに始まり、途中でD-durに転じたのち再びF-durに戻る、大きく3部からなる構成をとっています。
‣ Alkan, Charles Henri Valentin(1813-1888) アルカン
シャルル=ヴァランタン・アルカン(1813年パリ生まれ、1888年同地没)はフランスのピアニスト・作曲家です。高難度と長大な規模のピアノ作品で知られ、その伝説的な演奏技術はショパンやリストにも称賛されていましたが、生涯のほとんどを隠遁的に過ごし、ほとんど公開演奏を行いませんでした。そのため存命中から名声は限られており、膨大な作品群の多くが長らく忘れられていましたが、20世紀後半から再評価が進んでいます。
· Douze études dans tous les tons majeurs, Op.35 No.8
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

邦題:全ての長調による12の練習曲 Op.35 より 第8曲
出版年:1848年
演奏時間:約5分(楽曲全体で)
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
備考:厳密な左手独奏曲ではなく、左手独奏のために書かれた部分を含む構成
左手独奏の部分を含む独特の構成をとっており、その部分は最初のセクションにあたります。
弦楽器のピチカートを思わせる軽やかな伴奏音型に乗せて、歌曲を聴くような穏やかな旋律が歌われます。楽譜の冒頭には旋律部分に「legato assai(きわめてなめらかに)」、伴奏部分に「distaccato assai(きわめて短く切って)」という対照的な指示が書き込まれており、片手の中で二つの異なる奏法を同時に使い分けることが求められます。
· Fantaisie in A-flat major, Op.76 No.1 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

邦題:片手ずつ、および両手のための3つの大練習曲 より 左手のための幻想曲 Op.76-1 変イ長調
出版年:1839年(1838年頃の作と推定されている)
演奏時間:約10分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
Op.76は「片手ずつ、および両手のための3つの大練習曲」と題された曲集で、第1番(左手)、第2番(右手)、第3番(両手)の3曲から成っています。左手独奏の「大規模な」演奏会作品として、初期の重要なレパートリーの一つに位置づけられてきました。
複数のテンポ標語によって区切られた構成を持ち、冒頭の主題素材が変容しながらフィナーレへと収束していきます。
最後の2小節では、通常のピアノ書法では避けるべきとされる低音域の密集和音をあえて配置し、それを ffff で鳴らすことで、唸るような圧倒的な音響効果を生み出しています。ピアノ音楽の歴史においてこれほど早期に左手独奏の限界に挑んだ作品として、重要な意義を持っていると言えるでしょう。
· Introduction, variations et finale, Op.76 No.2 [RH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:片手ずつ、および両手のための3つの大練習曲 より 序奏、変奏とフィナーレ Op.76-2(右手のための)
出版年:1839年(1838年頃の作と推定されている)
演奏時間:約15分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
左手のための第1曲と対をなす作品として書かれており、右手独奏という異なる条件下での可能性を追求した内容になっています。出版当時の序文では、アルカンの独創的な和声法と卓越した技巧、そしてピアノ演奏の発展史における作品の重要性が高く評価されていました。
曲頭から広い音域のアルペッジョが見られ、その後、カデンツァ風の自在なパッセージ、跳躍、大規模な分散和音などが頻出します。同じ曲集内の左手独奏曲(Op.76-1)と比較しても技術的な難度は高く、演奏時間も長大な、片手作品としては大作の部類に入ります。
· 13 Prières, Op.64 [LH/RH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:13の祈り Op.64
楽器編成:オルガン、ペダル付きピアノ、または3手(両手+片手)ピアノ
出版年:1866年頃
演奏時間:全曲合計 約52分
難易度:片手パートは比較的平易
献呈:ピエール・エラールの追悼に(Pierre Érard, 1796–1855)
構成(全13曲)
・第1曲 Andantino(G-dur) 約2分50秒
・第2曲 Moderato(A-dur) 約2分30秒
・第3曲 Poco adagio(e-moll) 約4分30秒
・第4曲 Moderatamente(B-dur) 約2分50秒
・第5曲 Adagio(F-dur) 約5分
・第6曲 Moderato(D-dur) 約4分20秒
・第7曲 Maestoso(a-moll) 約6分50秒
・第8曲 Dieu des armées. Tempo giusto(B-dur) 約2分30秒
・第9曲 Doucement(E-dur) 約3分30秒
・第10曲 Assez lentement(B-dur) 約4分30秒
・第11曲 Andantino(E-dur) 約4分30秒
・第12曲 Allegretto(F-dur) 約3分40秒
・第13曲 Largement et majestueusement(G-dur) 約4分20秒
作品の背景
本来はオルガンあるいはペダル・ピアノ(足鍵盤付きピアノ)のために書かれた作品ですが、出版譜には「3手(両手+片手)」のための演奏も可能である旨が明記されており、ペダル部分を片手奏者が担当することで、片手奏者のレパートリーとしても取り入れられてきました。全13曲構成で、そのうちdur(長調)の楽曲が11曲を占めます。
· Impromptu sur le choral de Luther「Un fort rempart est notre Dieu」, Op.69 [LH/RH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、18-21小節)

邦題:ルターのコラール「我らの神は固き砦」に基づく即興曲 Op.69
楽器編成:オルガン、ペダル付きピアノ、または3手(両手+片手)のためのピアノ
作曲年:1866年
初出版:1867年頃
演奏時間:約14分
難易度:片手パートは比較的平易
献呈:フランソワ・ブノワ(F. Benoist, 1794-1878)
恩師フランソワ・ブノワに献呈された単一楽章の即興曲で、ルターの有名なコラール旋律を主題として展開されています。「13の祈り Op.64」と同様、演奏形態としてペダル付きピアノ(オルガン)と、3手演奏(両手+片手)の両方が想定されている作品です。
· Préludes et prières(Arr. César Franck) [LH/RH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、Prière Op.64 No.5 1-4小節)

邦題:前奏曲と祈り(セザール・フランク編曲・選曲)
正式題:Préludes et prières de C. V. Alkan, choisis et arrangés pour l’orgue par César Franck
作品番号:CFF 234;FWV 96(フランク作品目録番号)
出版年:1889年
難易度:片手パートは比較的平易
収録内容(3巻、全10曲)
第1巻:
Prélude Op.66 No.7(As-dur)
Prière Op.64 No.5(F-dur)
Prière Op.64 No.11(E-dur)
第2巻:
Prélude Op.66 No.3(B-dur)
Pièce pour harmonium Op.72 No.3(d-moll)
Prière Op.64 No.1(G-dur)
Prière Op.64 No.2(A-dur)
第3巻:
Prière Op.64 No.6(D-dur)
Dieu des armées, Prière Op.64 No.8(B-dur)
Prière Op.64 No.9(E=dur)
作品の背景
本作はアルカン自身の作品ではなく、Op.64、Op.66、Op.72の中から、セザール・フランクが抜粋・選曲してオルガン用に編み直した曲集となっています。上記の原曲群と同様、実質的にはオルガンあるいはペダル・ピアノのための作品ですが、工夫次第で3手演奏(両手+片手)も可能です。
‣ Andriessen, Jurriaan(1925-1996) ユリアン・アンドリーセン
ユリアン・アンドリーセンは、オランダの作曲家一家アンドリーセン家の一人で、作曲家ヘンドリック・アンドリーセンの長男(作曲を手がけた子のうち最年長)にあたり、同じく作曲家であるウィレムの甥にあたります。
· Quattro Pezzi [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:4つの小品
作曲年:1960年
出版年:1961年頃
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:コル・デ・フロート
楽譜:Quattro pezzi : per la mano sinistra / di Jurriaan Andriessen
構成(全4曲)
第1曲 Fanfare(Andante) 演奏時間:約1分11秒
第2曲 Allegro deciso 演奏時間:約1分44秒
第3曲 Adagio 演奏時間:約2分17秒
第4曲 Vivo 演奏時間:約2分
第1曲 Fanfare. Andante
空間性のある響きの中で、ファンファーレが鳴り響きます。曲の最後は、ファンファーレの象徴とも言える空虚な5度の和音が、弱奏で締めくくられるのが印象的です。
第2曲 Allegro deciso
同音連打が印象的な、諧謔的な一曲。アクセントが付けられた多くの箇所が、音楽的なつっかかりを生み出しているのも面白いところです。
第3曲 Adagio
冒頭で示されるリズムパターンが、分かりやすい形で、また隠された形で、曲を通して何度も使用されます。前後の楽章との対照をなす、メランコリックな一曲。
第4曲 Vivo
全パートが一斉に休む「間」が多く用いられており、音楽的なつっかかりを生み出しています。無調的な語法によりながらも、音型の繰り返しが多いため聴きやすさも感じることでしょう。曲の最後は唐突に終わります。
‣ Andriessen, Louis(1939-2021) ルイ・アンドリーセン
ルイ・アンドリーセン(1939年ユトレヒト生まれ、2021年没)はオランダの作曲家です。父である作曲家ヘンドリック・アンドリーセンのもとで初期の作曲教育を受けたのち、ハーグ王立音楽院でケース・ファン・バーレンに師事しました。その後ミラノとベルリンでルチアーノ・ベリオのもとに学びました。器楽・室内楽からオペラ作品まで幅広く手がけ、自ら創設した管楽アンサンブルの活動でも知られています。ハーグ王立音楽院で長く作曲を教えたほか、イェール大学やプリンストン大学でも教鞭を執りました。
· Trois Pièces [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:3つの小品
作曲年:1961年
出版年:1963年
演奏時間:全曲合計 約8分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:コル・デ・フロート
収録:Mano sinistra I:Six pieces by Netherlands composers for piano left hand
構成(全3曲)
第1曲 Promenade 約3分20秒
第2曲 Fracas 約1分30秒
第3曲 Hymne(Promenade II) 約3分
第1曲 Promenade
和音を容易に響かせられる楽器であるピアノを用いながら、あえて単音の持つ魅力を強調するかのような作品。少ない音数によって空間的な音楽が形作られ、鍵盤の最低音域から最高音域までを幅広く行き来しながら聴かせていきます。ペダルの有無による効果の対比が興味深く用いられています。
第2曲 Fracas
同音連打が印象的な、トッカータ風の作品。不協和な響きのうちに同音連打が繰り返される中、時折音が動く瞬間が旋律的な性格を帯び、聴きやすさをもたらしています。
第3曲 Hymne(Promenade II)
ポピュラー音楽でいうadd9の響きを思わせる和音から始まりますが、すぐに不協和な響きの世界へと移っていきます。とはいえ、終始不協和というわけではなく、協和的な響きも随所に差し込まれるため、全体として不思議な浮遊感のある世界観を作り出しています。
‣ Andriessen, Willem(1887-1964) ウィレム・アンドリーセン
ウィレム・アンドリーセン(1887年ハールレム生まれ、1964年アムステルダム没)はオランダのピアニスト、作曲家です。アムステルダム音楽院の院長を務めました。
· Preludium [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:前奏曲
作曲年:1960年
出版年:1963年
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:コル・デ・フロート
収録:Mano sinistra I:Six pieces by Netherlands composers for piano left hand
「Molto adagio e mesto(非常にゆるやかに、悲しげに)」という発想標語が冒頭に置かれ、これが曲全体の性格をよく言い表しています。ためらうような付点リズムのメロディと、3度音程が連続する響きが印象的な作品です。機能和声からは逸脱していますが、聴きやすい響きで書かれており、a-mollを思わせる響きから開始し、最後はA-durの主和音で締めくくられるのが新鮮に感じることでしょう。
‣ Arens, Barbara(1960- ) バーバラ・アレンス
バーバラ・アレンスは1960年生まれのドイツの音楽家・教育者です。演奏活動としてはチェンバロとオルガンを中心にキャリアを積んできましたが、現在はピアノ講師として、教え子のために自ら作品を生み出すことに力を注いでいます。
拠点はドイツ・ヴュルツブルク近郊ですが、これまでベイルート、ダラス、サンフランシスコ、シンガポール、ザルツブルク、ロンドン、ミュンヘンなど、世界各地で暮らしてきました。
片手ピアノのための本シリーズの他にも、「Small Hand Piano」「Piano Exotico」「Piano Misterioso」など、学習者の様々な事情に寄り添ったテーマ性のあるピアノ曲集を複数手がけており、一貫して教育的な視点から作品を生み出し続けている音楽家です。
· ONE HAND PIANO 40 Pieces for Left or Right
出版年:第1巻 2013年/第2巻 2022年 Breitkopf & Härtel
難易度:
第1巻 バイエル中盤程度〜ツェルニー30番中盤程度
第2巻 ツェルニー30番入門程度〜ツェルニー40番中盤程度
分類:教育用小品集(アンソロジー)
作品の背景
怪我や病気によって一時的・恒久的に片手しか使えなくなったピアノ学習者のために編まれた曲集で、第1巻が2013年、続編の第2巻が2022年に刊行されました。両巻合わせて80曲が収録されており、左手用に偏りがちだった従来の片手ピアノ作品とは異なり、右手のみで演奏できる作品も数多く含まれている点が大きな特徴です。
収録作品について(アレンス以外の作曲家について)
本シリーズはアレンス一人の作品集ではなく、性格の異なる作品が組み合わされて成り立っています。アレンス自身のオリジナル作品・編曲を中心としながらも、各種作曲家の既存作品をアレンスが片手用に編曲したものが多数含まれているほか、第2巻ではGarreth Brooke、Alison Mathews、Clemens Christian Poetzsch、Nikolas Siderisという現役の作曲家たちが、この曲集のために新たに作品を書き下ろしています。
そのため、個々の収録曲や作曲家ごとの詳しい内容については、本ライブラリーでは深追いせず、以下の解説記事に譲ります。
【ピアノ】Barbara Arens「ONE HAND PIANO 40 Pieces for Left or Right」シリーズ 完全ガイド
‣ Arnold, Malcolm(1921- ) マルコム・アーノルド
1921年にイギリスのノーサンプトンで誕生したマルコム・アーノルドは、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団などで首席トランペット奏者として腕を振るったのち、作曲と指揮の道へ進みました。演奏家として現場で培ったオーケストラの深い知見を活かし、ベルリオーズらに強い影響を受けた明快なオーケストレーションと、調性に基づいた親しみやすい旋律を紡ぎ出しています。
また、多分野にわたって知られており、吹奏楽分野をはじめ、「戦場にかける橋」でアカデミー賞を受賞するなど映画音楽においても成功を収めました。
· Concerto for Two Pianos(3 hands)and Orchestra, Op.104 [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:2台ピアノ(3手)と管弦楽のための協奏曲 Op.104(別称:フィリスとシリルのための協奏曲)
出版:1990年頃
演奏時間:約13分
初演:
1969年8月16日、王立アルバート・ホールにて
フィリス・セリック、シリル・スミス、BBC交響楽団、作曲者指揮
分類:オリジナル作品(協奏曲)
委嘱:BBC
構成
第1楽章 Allegro moderato
第2楽章 Andante con moto
第3楽章 Allegro
作品の背景と音楽的特徴
BBCの委嘱で書かれ、初演でも作曲者自身の指揮のもとスミスとセリックの二人によって演奏されました。総譜には「愛情と敬意を込めてフィリスとシリルへ」という献辞が添えられました。
伝統的な管弦楽編成に色彩的な打楽器を加えた編成で書かれています。楽曲の終盤では、往年のジャズバンドを思わせるサウンドになり、掛け声なども取り入れられて大きく盛り上がります。
シリル・スミスについて詳しく知る
【ピアノ】片手音楽から読み解くシリル・スミス:左腕の自由を失ったピアニストが拓いた「3手」の音楽
‣ Bach, Carl Philipp Emanuel(1714-1788) C.P.E.バッハ
· Klavierstück for the right or left hand alone [LH/RH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:右手あるいは左手のための小品
作曲年:1770年以前に作曲
演奏時間:約1分
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
「左手のみでも右手のみでも弾ける作品」というユニークなコンセプトの作品です。和音が一切出てこないうえに、終始音域が狭めのアルペジオ中心なので、手の大きさを問わない書法となっています。子供向けの学習教材として作曲された可能性が考えられるでしょう。
現在知られている片手独奏作品の中では、最も早い時期の作品の一つとされています。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】片手作品入門:C.P.E.バッハ「Klavierstück for the right or left hand alone」演奏・分析ガイド
· Solfeggio in C minor, Wq 117/2 H220(arr. A. R. Parsons, for left hand) [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)
連桁の結合.png)
邦題:ソルフェッジョ ハ短調 Wq 117/2 H220(A.R.パーソンズ編、左手独奏版)
原曲作曲年:1766年
演奏時間:約1分10秒
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度
分類:編曲作品(独奏)
原曲について
C.P.E.バッハが1766年にポツダムで作曲した鍵盤練習曲で、「ソルフェッジョ」と題する作品の中ではよく知られた一曲です。全曲のほぼすべてが16分音符のパッセージで構成されており、左右の手を交互に用いることを前提とした書法のため、片手だけで弾けるよう編曲するには様々な工夫が求められます。
編曲の特徴
A.R.パーソンズによる左手独奏版では、以下のような処理が施されています:
・連桁を一本にまとめ、片手演奏の流れに合わせた読みやすさを確保
・大きな跳躍が生じる箇所は、和声を保ちながら音の並びを変更して手の移動を抑制
・オクターブの下の音を省略したり、オクターヴの音域を1オクターブ上げたりして無理な跳躍を回避
・装飾音を書き譜にして演奏の目安を明示(C.P.E.バッハ時代の演奏慣習も考慮)
・タイを加えて和声の響きを補う処理も見られる
編曲技法の観点から参考になる箇所が多く、左手のための編曲を学ぶ素材としても有用な一曲です。詳しい解説は以下の記事を参考にしてください。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】C.P.E.バッハ「ソルフェッジョ ハ短調」から学ぶ、左手用編曲のテクニック
‣ Bartók, Béla(1881-1945) バルトーク
ベーラ・バルトーク(1881年ナジセントミクローシュ生まれ、1945年ニューヨーク没)はハンガリーの作曲家・ピアニストです。左手のための独奏曲は1作品のみ作曲しました。民俗音楽の研究者としても知られていますが、この練習曲が書かれた1903年はまだリストやシュトラウスへの傾倒が強い時期にあたり、後年の民族音楽的語法とは異なるロマン派的な書法が色濃く残っています。
· Etude for the Left Hand(Tanulmány balkézre) [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

邦題:4つのピアノ曲 より 左手のための練習曲 BB27
作曲年:1903年
演奏時間:約9分
難易度:ツェルニー50番入門程度以降
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Mesterenek, Thoman Istvánnak ajánlva(師イシュトヴァン・トマーンへ)
作品について
バルトーク22歳の作で、ソナタ形式による大規模な単一楽章作品。広い音域と、多出するオクターブ・和音が全体のサウンドを作り出しています。シュトラウスの影響が冒頭の「行動への呼びかけ」とも言える音型ににじんでおり、第2主題はブラームスを思わせる性格を持っています。ロマン派の名残と練習曲的な性格も感じられ、後のバルトークの語法とは異なる習作と言えるでしょう。
初演のエピソード
1903年12月14日、ベルリンのザール・ベヒシュタインでのデビュー・リサイタルで、プログラムの第1曲目に置いてバルトーク自身が初演しました。当日の聴衆にはゴドフスキーとブゾーニがおり、演奏後にゴドフスキーはバルトークを楽屋に訪ね直接賛辞を伝えたと記録されています。バルトーク自身も師に宛てた手紙で、この左手練習曲がもっとも聴衆に印象を与えたと記しました。
‣ Bartovský, Josef(1884-1964) ヨゼフ・バルトフスキー
ヨゼフ・バルトフスキーは、チェコのピアニスト・作曲家で、プラハの教員養成学校で学んだのち、ピルゼン近郊で教師として働くかたわら音楽を学び続け、後年はピルゼンの教員養成学校で音楽の教授を務めました。音楽理論の著述家や指揮者としても活動しました。作品も数多く残しています。
· Piano Concerto No.2 for left hand [LH]
邦題:ピアノ協奏曲 第2番(左手のための)
作曲年:1952年
分類:オリジナル作品(協奏曲)
献呈:オタカール・ホルマン
第一次世界大戦で右手を負傷したピアニスト、オタカール・ホルマンのために書かれた作品です。1952年、ピルゼンの室内楽・交響楽協会が主催した作曲コンクールに出品され、第2位を獲得しました。バルトフスキーは2曲のピアノ協奏曲を残していますが、このうち第2番が左手のために書かれたものにあたります。
出典:Piano Music for the Left Hand Alone(left-hand-brofeldt.dk)
オタカール・ホルマンについてさらに詳しく知る
‣ Bax, Arnold(1883-1953) アーノルド・バックス
アーノルド・バックスはイギリスの作曲家です。ピアニストのハリエット・コーエンとは、彼女が既婚者であった彼と30年以上にわたる関係を続けた間柄でもありました。バックスは彼女への思いを《水仙を持つ乙女》(1915年)や《ティンタジェル》(1921年)といった作品に託しています。1953年、コーエンに会いたいという電報を送ったその当日に、69歳で心不全のため世を去りました。
· Concertante for Piano Left Hand and Orchestra, GP378 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1楽章 1-4小節)
-第1楽章」1-4小節.png)
邦題:コンチェルタンテ(左手ピアノと管弦楽のための)
作曲年:1949年
初演:1950年7月4日、チェルトナム・フェスティバルにて、ハリエット・コーエン独奏、ジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団により(同年7月25日にはロンドン、ロイヤル・アルバート・ホールでも演奏)
演奏時間:約24分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
構成(全3楽章)
第1楽章 約9分
第2楽章 約8分30秒
第3楽章 約6分30秒
作品の背景
右手を負傷したハリエット・コーエンのために書かれた作品です。当初は「左手ピアノを伴う管弦楽のための協奏曲」として構想され、最終的に「コンチェルタンテ」と名づけられました。バックスにとって晩年を代表する重要な作品の一つに数えられています。
曲を書くにあたっては、単に「左手のための作品」という一種の制約だけでなく、コーエンの手がもともと非常に小さなものだったという事情にも配慮する必要があったといい、長年にわたって親密な関係を築いてきた相手のために、二重の制約と向き合いながら作曲することになりました。
冒頭ではピアノ独奏が印象的に立ち現れ、21小節目からオーケストラパートが出てきます。
この作品をさらに詳しく知る
‣ Benedict, Julius(1804-1885) ユリウス・ベネディクト
ユリウス・ベネディクトは、ドイツ生まれでイギリスを拠点に活動した作曲家、指揮者です。シュトゥットガルトのユダヤ系銀行家の家庭に生まれ、ヴァイマルでフンメルに、ドレスデンでウェーバーに師事しました。ウィーンやナポリで歌劇場の指揮者を務めたのち、1835年にロンドンへ移り、以後生涯をイギリスで過ごしています。ドルリー・レーン劇場の指揮者を務め、「The Lily of Killarney」などの歌劇で知られるほか、ジェニー・リンドの伴奏者・指揮者としてアメリカ・ツアーにも同行しました。1871年にナイトの称号を授かっています。
· Etude für die linke Hand allein [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:左手のためのエチュード
出版年:1880年頃
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
大きく3部からなる構成をとっています。用いられる音自体は比較的シンプルですが、手を横方向に大きく移動させるラテラル・ムーブメントが随所で要求され、大きな跳躍が繰り返し現れる点にテクニック的ハードルを感じるかもしれません。特定の技術に的を絞ったエチュードというよりは、跳躍、トレモロ、トリル、和音、オクターヴといった様々なテクニックを幅広く盛り込んだ構成になっています。曲の終盤ではstringendoの指示とともに音楽がせき込むように緊迫感を増し、最後は堂々と締めくくられます。
‣ Berberian, Cathy(1925-1983) キャシー・バーベリアン
キャシー・バーベリアンはアメリカ生まれの声楽家、作曲家です。ルチアーノ・ベリオの元妻としても知られ、ジョン・ケージやベリオをはじめとする前衛音楽の作曲家たちと深い関わりを持ちながら活動しました。実験的・ユーモラスな性格を持つ作品を多く手がけています。
· Morsicat(h)y, per la mano destra: un’azione musicale [RH]
著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:モルシカティ 右手のための音楽的アクション
副題:オノマトペへの関心をたどる——蚊(Zanzara)
出版年:1971年頃
演奏時間:偶然性作品のため一定しない
編成:ピアノまたはチェンバロ、右手独奏
分類:オリジナル作品(偶然性作品 / シアターピース)
献呈:To Luciano(ルチアーノへ)
この作品は、蚊をめぐるユーモラスな冗談のような作品です。右手だけで演奏しますが、その右手が蚊の羽音を真似し、左手はそれを叩き潰そうとする、という設定になっており、本来は両手が必要な動作をあえて片手芸として表現しています。
楽譜は普通の五線譜ではなく、拍子記号のない単音の羅列とアルファベット暗号のようなもので書かれ、もともとは作曲者が演奏者に宛てたメッセージを暗号化して音とリズムに変換する仕掛けの作品でした。
曲の最後には、左手を右手に叩きつけて音の塊を作り、演奏者が「Splat(ぺしゃん)」と声を出したあと、死んだ蚊の残骸を振り払うように指をこすり合わせて右手が鍵盤から離れる、という演出で締めくくられます。タイトルの「Morsicat(h)y」も、モールス信号・作曲者名Cathy・イタリア語で「刺された」・ラテン語で「死」という複数の意味を掛けた言葉遊びになっています。
‣ Berens, Hermann(1826-1880) べレンス
· Training of the Left Hand Op.89 [LH]
邦題:左手のトレーニング Op.89
作曲年:1872年頃(1872年出版)
演奏時間:番号による
難易度:ツェルニー30番に入門した段階以降での開始をおすすめ
分類:オリジナル作品(独奏)
1872年にC.F.ペータース社から出版されました。正確な作曲年は定かではありませんが、1872年、またはその直前に書かれたものと考えられます。
本曲集は2部構成になっています:
第1部 46のトレーニング
・左手のみで演奏する、基礎的な指の動きを集中的に鍛える短いエクササイズ群
・音階、アルペジオ、跳躍、反復音など、左手に必要な様々な動作パターンが網羅
・各トレーニングは1〜2ページ程度の短い楽曲で、特定の技術課題に焦点を当てている
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1部 第3曲 1-3小節)

第2部 25の練習曲
・左手のみで演奏する、独立した練習曲として完成された楽曲
・各曲には最終的なテンポ指定、強弱記号、アーティキュレーションなど、表現上の細かい指示が記されている
・技術的な訓練と音楽的な表現の両方を学べる
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第2部 第4曲 1-4小節)

この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】ベレンス「左手のトレーニング Op.89」導入完全ガイド
‣ Berger, Ludwig(1777-1839) ルートヴィヒ・ベルガー
ルートヴィヒ・ベルガー(1777年ベルリン生まれ、1839年ベルリン没)は、フルートとピアノを学んだのちギュルリヒに作曲を師事し、その後クレメンティに同行してサンクトペテルブルクへ渡り、ジョン・フィールドらとも交流します。1812年にはナポレオン軍を逃れてロンドンへ、ヴェルサイユ条約後はベルリンに戻り、メンデルスゾーンやファニー・ヘンゼルらを指導する高名な教師となりました。
しかし1817年頃、腕の神経障がいにより演奏活動が制限されます。それでも作曲と教育を続け、協奏曲やソナタ、練習曲など幅広い作品を残しました。エチュードの一部はメンデルスゾーンの「無言歌集」の先例になったとも言われています。
ベルガーについてさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くルートヴィヒ・ベルガー:左手のために書かれた最初期の出版作品
· Etude de Chant for the left hand Op.12-9 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:12の練習曲 Op.12 より 第9曲
作曲年:1820年頃
演奏時間:約3分10秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
この作品以前から、左手または右手のどちらでも演奏可能な作品は存在しましたが、1820年前後に作曲された本作品は、明確に左手のためだけに書かれ、最初に出版された作品だと言われています。
シューマンが賞賛したとされているこの作品は、左手作品の中では比較的知られている作品と言えるでしょう。ピアニストAnja Wackhusenの録音音源「Fur Die Linke Hand Allein-for Left Hand Only」などにも収録されています。
長調と中間部の短調の対比が美しい、シンプルながらも耳馴染みの良い小品です。短調の中間部のほうがやや難度が上がり、全体的にも多少の跳躍が出てきますが、テクニック面での大きなハードルはありません。
‣ Birkedal-Barfod, Ludvig(1850-1937) ルードヴィヒ・ビルケダル=バルフォド
ルードヴィヒ・ビルケダル=バルフォドは、デンマークの作曲家、オルガニスト、音楽評論家です。デンマーク王立音楽院で学び、コペンハーゲンのフレデリクス教会などで長年にわたりオルガニストを務めました。ロマン派の伝統を受け継ぐ落ち着いた作風のピアノ曲やオルガン曲を数多く作曲したほか、左手教育用の実用的な作品も残しています。
· Pianofortestudier for venstre Haand alene [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1曲 1-4小節)

邦題:左手のための練習曲集
出版:1895年頃
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構成(全6曲)
第1曲 Mazurka 約2分40秒
第2曲 Menuet 約3分40秒
第3曲 Nocturne 約3分
第4曲 Romance élégiaque 約2分
第5曲 Valse allemande 約1分30秒
第6曲 Barcarolle 約3分
各曲の解説
第1曲 Mazurka
マズルカのリズムを用いた快活な性格の曲。ABACAの構成をとっています。
第2曲 Menuet
付点リズムが印象的な短調のメヌエット。第1曲と同様、ABACAの構成で書かれています。
第3曲 Nocturne
半音階的な和声が印象的なノクターン。その情感豊かな曲調が終始一貫して保たれたまま曲を閉じます。
第4曲 Romance élégiaque
32分音符によるターンの音型が繰り返し現れる、優雅な性格のロマンス。ABAという簡潔な構成をとっています。
第5曲 Valse allemande
旋律全体に運動性が感じられる、優雅な雰囲気のワルツ。こちらもABAという簡潔な構成で書かれています。
第6曲 Barcarolle
変化に富んだ、全6曲中で最もドラマティックな性格を持つ一曲。舟歌(バルカローレ)らしく、伴奏部分に情景を思わせる描写的な書法が見られます。
· Etuder for venstre Haand, Op.8 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1集 第1番 1-4小節)

邦題:左手のための練習曲集 Op.8
出版年:1897年頃
演奏時間:各曲 半ページ〜2ページ程度
難易度:ツェルニー40番中盤〜修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Til Hr. Ove Christensen.(オーヴェ・クリステンセン氏に捧ぐ)
構成(全2巻・全14曲)
第1集(Hefte 1)
・第1曲 スケールとアルペジオの練習(長調)
・第2曲 トリルの練習
・第3曲 スケールとアルペジオの練習(短調)
・第4曲 様々な形の分散和音の練習
・第5曲 和音トリルの練習
・第6曲 スタッカートとアルペジオの練習
・第7曲 跳躍の練習
・第8曲 倚音の練習
・第9曲 3度の練習
・第10曲 6度の練習
第2集(Hefte 2)
・第1曲 オクターヴのメロディと補足リズムの練習
・第2曲 3連符と半音階の練習
・第3曲 2対1のトリルの練習
・第4曲 音域の広いアルペジオの練習(バラード調)
作品の特徴
各曲とも特定の技術的課題(スケール、アルペジオ、トリル、跳躍、重音、オクターヴなど)に焦点を当てた構成になっており、系統立てて左手のテクニックを養えるよう編まれた練習曲集です。単純な訓練用パッセージと言えるような番号もありますが、なかには性格小品的な体裁を備えている番号もあるのが特徴で、練習曲としての実用性と音楽的な聴きごたえがある程度両立された作品集と言えるでしょう。曲の分量は短く、1曲あたり半ページから2ページ程度にまとめられています。
· Lette Studier for venstre Haand, Op.15 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1集 第1番 1-5小節)

邦題:左手のためのやさしい練習曲集 Op.15
出版年:1900年頃
演奏時間:各曲 半ページ〜2ページ程度
難易度:ツェルニー30番中盤〜40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構成(全16曲、通し番号)
第1集(Hefte 1)
・第1曲 3度の練習
・第2曲 親指を含むトリルの練習
・第3曲 親指のメロディ保持の練習
・第4〜10曲 楽曲風での総合練習
第2集(Hefte 2)
・第11曲 ターンの練習
・第12曲 和音とリズムの練習
・第13曲 アルペジオの練習
・第14曲 倚音の練習
・第15曲 オクターヴの練習
・第16曲 トリルとターンの練習
同じ作曲者による「左手のための練習曲集 Op.8」に比べ、技術的には易しく書かれた曲集です。Op.8が各巻ごとに番号を振り直していたのに対し、本作は第1曲から第16曲まで通し番号で構成されている点が特徴と言えるでしょう。純粋に技術的課題に特化した練習曲と、性格小品的な曲想を持つ楽曲とが混在しています。
· Melodische Studien für die linke Hand, Op.19 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:左手のための旋律的練習曲集 Op.19
出版年:1903年
演奏時間:各曲 2〜4ページ程度
難易度:ツェルニー40番中盤〜修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:An Herrn Terman Windfeld.(テルマン・ヴィンドフェルト氏へ捧ぐ)
構成(全5曲)
・第1曲 広いアルペジオの練習①
・第2曲 広いアルペジオの練習②
・第3曲 広いアルペジオの練習③
・第4曲 広いアルペジオの練習④
・第5曲 オクターヴと和音の練習
曲集のタイトルが示すとおり、同じ作曲者によるOp.8やOp.15の左手練習曲集と比べて、より旋律的で楽曲としての性格が強く打ち出された曲集です。第1曲から第4曲までは、いずれも音域の広いアルペジオを扱う練習となっており、それぞれ異なる調性・異なる音型が用いられることで、様々な形のアルペジオに幅広く習熟できるよう構成されています。
‣ Blanchet, Emile R.(1877-1943) ブランシェ
エミール・R・ブランシェは1877年にローザンヌに生まれ、1943年にローザンヌ近郊のピュリーで没したスイスの作曲家・ピアニストです。ブゾーニに師事したのち、ローザンヌ音楽院で教鞭を執りました。作品のほとんどをピアノのために書いており、演奏家としてだけでなく作曲家としてもピアノに深く関わった人物です。
もう一つの顔として国際的に知られた登山家でもあり、複数の山の初登頂を成し遂げたほか、登山に関する著書を2冊残しています。
· Treize études pour la main gauche seule, Op.53 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第3曲 1小節目)

邦題:左手のための13の練習曲 Op.53
出版年:1932年
献呈:ルドルフ・ガンツ
分類:オリジナル作品(独奏)
作品の背景
本作は、20世紀初頭の和声語法を反映した練習曲集です。対位法や風変わりな拍子などを駆使した書法は工夫に富んでおり、片手ピアノ作品における音響的・テクスチュア的な可能性を示す好例と言えるでしょう。
なお、本作を献呈されたルドルフ・ガンツは、ゴドフスキーの「Etude macabre」をブランシェに献呈させた人物としても知られ、片手ピアノ作品をめぐる当時の作曲家・演奏家間の交流を物語る一曲でもあります。
Op.53-3について
13曲の中でも特によく知られているのが第3番です。印象派的な響きを持つ、rubatoの指示まで書かれた浮遊感のある作品です。
演奏時間:約2分20秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
‣ Bliss, Arthur(1891-1975) アーサー・ブリス
1891年にロンドンで生を受けたアーサー・ブリス(1975年没)は、アメリカの血を引くイギリスの作曲家です。第一次世界大戦の兵役を経て、当初は前衛的な存在として注目を集めましたが、やがて聴き手に寄り添うロマン派的な音楽性へと舵を切りました。
1953年には王室音楽師範(マスター・オブ・ザ・クイーンズ・ミュージック)に任命され公職にも尽力しました。
· Concerto for Two Pianos, Three Hands, Op.17 [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:2台ピアノと3手のための協奏曲 Op.17
初演版完成:1968年
演奏時間:約12分
分類:協奏曲(2台ピアノ・3手+管弦楽)
この協奏曲はもともと1920年にテノール、ピアノ、弦楽、打楽器のための作品として書かれ、その後、2台ピアノと管弦楽のための協奏曲へと改作されました。さらに1968年、スミスとセリックのために、2台ピアノ・3手で演奏できる版も作成されています。
東洋風のサウンドを持つ、聴きやすく華やかな協奏曲です。
シリル・スミスについて詳しく知る
【ピアノ】片手音楽から読み解くシリル・スミス:左腕の自由を失ったピアニストが拓いた「3手」の音楽
‣ Blumenfeld, Felix(1863-1931) ブルーメンフェルド
※ブルーメンフェルドは、「ブルーメンフェルト」「ブルーメンフィールド」という表記が用いられることもあります。
· Étude pour la main gauche seule Op.36 [LH]
邦題:左手のための練習曲 Op.36
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)

作曲年:1905年
演奏時間:約6分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:レオポルド・ゴドフスキー
タイトルに「練習曲」とありますが、音楽的な内容は技術的な習作を超えた充実度を誇ります。
構成面では、メロディを内声に置いてその上下を伴奏声部が包み込むタールベルク的奏法が冒頭と終結部を彩り、中間部には劇的な表現とカデンツァが挿入されるという、明快な三部構造をとっています。
特に結尾部では、徐々に音が薄れていくなかで同主短調からの借用和音が現れ、グリーグの「抒情小品集 第3集 春に寄す op.43-6」に通じる淡い色彩感を帯びています。どことなく春の訪れを想起させるような、余韻の深い一曲と言えるでしょう。
ブルーメンフェルドのOp.36は、独立した1つの作品として完結しているに留まりません。ゴドフスキーへの献呈を起点に、後代のピアニストによる演奏・録音、そしてコリリアーノの作品創出へと波及していった、極めて興味深い「音楽の継承史」を描き出しています。詳しくは、【ピアノ】左手作品から読み解くブルーメンフェルド:ゴドフスキーに捧げられた1905年の左手練習曲 をご覧ください。
この作品をさらに詳しく知る
・【ピアノ】なぜ、ブルーメンフェルド「左手のための練習曲 Op.36」は春っぽく聴こえるのか
‣ Bober, Melody(1955-) メロディ・ボバー
メロディ・ボバーはアメリカの作曲家兼ピアノ教育者で、初級から中級向けの教育用作品を数百曲以上手がけています。ジャズを学んだ経験を持ち、Alfred Musicをはじめとする出版社から多数の教材を発表。指導現場で長く支持されている作曲家の一人です。
· Grand One-Hand Solos for Piano, Book1-6
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
難易度:Book1(バイエル併用程度)〜 Book6(ツェルニー30番中盤程度)
分類:オリジナル作品
備考:左手のための作品のみならず、右手のための作品も収録
シリーズの概要
全6巻からなる片手のための教材シリーズです。
主な特徴:
・左手・右手の両方を対象とした作品が収録
・Book1〜3には連弾(2手または3手)対応の曲も含まれている
・Book4以降は全曲ソロ用で、片手のみで最後まで演奏が完結
・ラグタイム、ブルース、タンゴ、マラゲーニャなど多彩なジャンルを取り入れている
・運指とペダリングの指示も丁寧に付されている
・大きくない手でも弾きやすい作品が中心で、1曲あたりの長さも短め
各巻の収録曲(左手作品のみ掲載)
Book1
・Secret Mission(連弾)
・Setting Sun(連弾)
・Victory Parade(連弾)
Book2
Lazy Day
Mystery Novel(連弾)
T-Rex Trek(連弾)
Snowbird Waltz(連弾)
Book3
・Treasure Hunt(連弾)
・Left-Hand Boogie Stomp
・Blues Beat
・Climbing the Cascades
Book4(全曲ソロ)
・Boogie Blues Riff
・Our Little Waltz
・Autumn Wind
・Nocturne
Book5(全曲ソロ)
・Malagueña Mood
・Whispers in the Wind
・Bassline Bravo!
・Skater’s Dream
Book6(全曲ソロ)
・Best of Times
・On Stormy Seas
・Moonlit Memory
・Scat Jammin’
このシリーズについてさらに詳しく知る
【ピアノ】Melody Bober「Grand One-Hand Solos for Piano」シリーズ 完全ガイド
‣ Bon, Willem Frederik(1940-1983) ウィレム・フレデリック・ボン
ウィレム・フレデリック・ボンは、1940年に生まれ1983年に没したオランダの作曲家。作風はフランス印象主義に影響を受けたものですが、当初はブラームスやシェーンベルクからも影響を受けていたとされます。その作品について、作曲家アーンスト・フェルメーレンは「移ろいゆく気分の多さが、探究的で不定形な、いわば哲学的で憂愁を帯びた性格を作品に与えている」と評しています。
· 2 Preludes [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:2つの前奏曲(左手のための)
作曲年:第1曲 1959年 / 第2曲 1961年(ボンが19歳・21歳の頃の作品)
出版年:1991年頃
演奏時間:全曲合計 約6分
難易度:ツェルニー30番修了~40番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:コル・デ・フロート
作品の背景
1959年から1978年にかけて書き継がれた「ピアノのための前奏曲集 Op.14」の一部にあたる2曲です。全曲集は両手のための前奏曲を含む形で出版されていますが、そのうち最初の2曲が左手独奏のために書かれました。
第1曲 Adagio 演奏時間:約3分30秒
終始、神秘的な雰囲気に包まれた曲。そぞろ歩く(さまよう)ような性格を持ち、音数は少なく、音と音の間にある空気感を感じ取りたい作品です。
第2曲 Sostenuto 演奏時間:約2分30秒
第1曲よりも動きやダイナミクスの起伏があり、クライマックスも設けられた、より直接的な表現を持つ一曲。全音音階が現れる箇所では、ふと響きの色合いが変化して聴こえます。弱音で鳴らされる低音の表情をよく聴き取りたい作品です。
‣ Bonamici, Ferdinando(1827–1905) ボナミーチ
1827年ナポリ生まれ、1905年同地没。ナポリ音楽院の書記を経てピアノ教師として活動し、晩年は教育と作曲に専念しました。左手のためのピアノ音楽という分野において、技術の体系化を明確な目的として膨大な練習曲・練習パッセージを書き残した人物です。
· 100 exercices et 153 passages divers pour la main gauche seule, Op.271 [LH]
100の練習曲集 シリーズ1 より 第1番
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:左手のための100の練習曲と153の多様なパッセージ Op.271
作曲年・出版年:不明(イシドール・フィリップ校訂版:1915年)
難易度:ツェルニー30番入門程度〜(短い練習曲が中心)
分類:オリジナル作品(独奏)
Op.271〜273の3曲集のうち最も規模が大きく、100の練習曲と153のパッセージを収めています。100曲はいずれも3段程度に収まる短いもので、3つのシリーズに整理されています。技術的な有用性という点では3曲集の中で最も充実しており、フィリップは1915年の校訂版序文でこの曲集を「左手のために存在する最も完全な作品」と評しました。
巻頭には実践的な演奏指示も記されており、ベンチの位置、テンポ設定、反復回数、疲労時の休息の取り方など、現代の教則本にも通じる細かな配慮が見られます。
ボナミーチをさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くボナミーチ:膨大な練習曲が語るもの
· 30 exercices-études pour la main gauche seule, Op.272 [LH]
30の訓練的練習曲集 Op.272 より 第1番
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:左手のための30の訓練的練習曲集 Op.272
作曲年・出版年:不明(イシドール・フィリップ校訂版:1915年)
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
Op.271とOp.273の中間に位置する曲集で、技術的な訓練と音楽的な性格の両面を兼ね備えることを目指した作品群です。一つのテクニックを反復して身につけるツェルニー的な課題が中心ですが、第10番のようにテンポが途中で変化し、そのままエンディングへと向かうといった音楽的な工夫も見られます。
数曲を除き各曲にボナミーチ自身による解説が付されており、奏法の意図が丁寧に説明されている点が特徴の一つと言えるでしょう。
ボナミーチをさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くボナミーチ:膨大な練習曲が語るもの
· 34 études mélodiques pour la main gauche seule, Op.273 [LH]
34の旋律的練習曲集 Op.273 より 第3番
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:左手のための34の旋律的練習曲集 Op.273
作曲年・出版年:不明(イシドール・フィリップ校訂版:1915年)
難易度:ツェルニー40番中盤程度〜
分類:オリジナル作品(独奏)
3曲集の中で技術的に最も難しく、広い音域を駆使した楽曲的な性格が際立ちます。Op.271から始まる3曲集の流れで言えば、基礎的な指の訓練から音楽的表現へと重心が移った到達点にあたる一冊です。
第3番はレヴェンタール編のアンソロジーにも収録されており、Op.273の中では最もよく知られた曲となりました。上行・下行のグリッサンドが主題の合間に繰り返し現れる、装飾的な性格の作品です。
ボナミーチをさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くボナミーチ:膨大な練習曲が語るもの
‣ Bontoft, Frederic S. フレデリック・S・ボントフト
フレデリック・S・ボントフトは1896年生まれのイギリスの作曲家です。没年など詳しい経歴は判然としませんが、本作「前奏曲とフゲッタ」を通じて左手作品の資料に名を残しています。
· Prelude and Fughetta [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:前奏曲とフゲッタ
出版年:1958年頃
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:For Yolande Uyttenhove(Brussels)
新バロック様式で書かれた作品で、豊かな音の厚みを持ちます。
前奏曲は滑らかな16分音符の流れの中にメロディが織り込まれた書法で進行し、静かに終わることでフゲッタへの橋渡しをします。
フゲッタの主題は半音階的でコラール風の性格を帯び、3声部を思わせる書法で扱われますが、実際の対位法的な密度としてはさほど厳格ではなく、トッカータに近い性格と言えるでしょう。曲の終盤には、両曲の主題が組み合わされる印象的な瞬間があり、静かな結尾を迎えます。
‣ Bortkiewicz, Sergei Eduardovich(1877-1952) ボルトキエヴィチ
ボルトキエヴィチは、ハリコフ(現ウクライナ)出身でオーストリアに帰化したピアニスト・作曲家です。 ペテルブルク音楽院やライプツィヒ音楽院で学んだのち、ベルリンで活動しますが、第一次世界大戦をきっかけに故郷ロシアへ戻り、その後は亡命生活を経てウィーンに定住しました。
作風はショパンやリストを土台としつつ、チャイコフスキーをはじめとするロシアの音楽的な語法を色濃く受け継いでおり、20世紀の前衛的な潮流とは距離を置いた、抒情性豊かな旋律美を貫いたことで知られる人物です。「左手のための協奏曲 第2番 Op.28」は、ヴィトゲンシュタインに献呈された作品として知られています。
· Piano Concerto No. 2 in E-flat major, Op.28 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、ソロの初導入部 38-40小節)

※ボルトキエヴィチ自身によるピアノ伴奏版編曲(ソロ+ピアノ伴奏形式:2台ピアノ)から浄書
邦題:左手のためのピアノ協奏曲 第2番 Op.28
作曲年:資料により、1924年 / 1930年など表記に幅がある
演奏時間:約30分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
初演:1929年1月11日
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタインのために作曲
構成
単一楽章のうちに複数のセクションを含む構成で、作曲者自身による2台ピアノ版では、I. Allegro dramatico – Andante cantabile/II. Tranquillamente/III. Meno mosso の3部として出版されています。
音楽的な特徴
全体に後期ロマン派の語法が色濃く漂う作品です。曲の中盤以降︎(497小節目〜)には、オクターヴによる「第9音を交えたc-mollの主和音の分散和音」という、ショパン「革命のエチュード」の左手パートを想起させる箇所が現れます。
このエチュードの左手パートをめぐっては、ピアニストのアレクサンダー・ドライショクにまつわる有名な逸話が知られています。師トマーシェクが「いつかピアニストがこの左手のパートをオクターヴで演奏する時代が来るだろう」と語ったのを真に受けたドライショクは、1日12時間・6週間におよぶ猛練習の末にオクターヴ版「革命」を完成させ、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスでの演奏でメンデルスゾーンを驚かせました。ボルトキエヴィチのこの協奏曲に見られる同主題・同調性のオクターヴ書法は、あくまで推測の域を出ませんが、作曲者がこのドライショクの逸話を意識していた可能性を感じずにはいられません。
· 12 Nouvelles Études Op.29, No.5「Le Poète」 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:12の新しい練習曲 第5番 詩人 Op.29-5
作曲年:1924年
演奏時間:約6分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
ロシア出身でオーストリアで活躍した作曲家・ピアニスト、セルゲイ・ボルトキエヴィチによる左手のためのコンサート用練習曲です。
本作「詩人」は、各曲に情景描写的なタイトルが付けられた「12の新しい練習曲 Op.29」の第5曲目にあたり、全12曲の中で、本楽曲のみが「左手だけのため」に書かれています。
· 4 Klavierstücke Op.65, No.3「Hochzeitsang」 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:4つのピアノ曲 第3番 祝婚歌 Op.65-3
出版年:1947年
演奏時間:約4分20秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ルドルフ・ホルン
1947年にウィーンの出版社Doblingerから刊行した「4つのピアノ曲 Op.65」の第3曲です。全4曲のうち、左手だけのために書かれているのはこの第3曲のみで、ピアニストのルドルフ・ホルンに献呈されています。
「祝婚歌(婚礼の歌)」というタイトルの通り、人生の門出を祝うような温かさと、ボルトキエヴィチならではの優美でノスタルジックな旋律が印象的な小品です。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】左手のみで演奏する2つのウェディングソング:婚礼の合唱&祝婚歌
‣ Bowen, York(1884-1961) ヨーク・ボウエン
ヨーク・ボウエンはイギリスの作曲家・ピアニストです。優れたピアニストとして知られ、ピアノのために数多くの作品を残しました。作品はロマン派的な語法を基調としながらも、随所に機知とユーモアを感じさせる作風が特徴です。
· Caprice, for the Right Hand Alone, Op.42 No.2 [RH]
「Curiosity Suite, Op.42」は、1916年頃に出版された全7曲からなる組曲です。大半の楽曲は両手のために書かれていますが、そのうちの1曲は左手のみ、別の1曲は右手のみのために書かれています。
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:カプリース(右手のために) Op.42-2
出版年:1916年
演奏時間:約3分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
作品の背景
楽譜冒頭には「右手の器用さを心から楽しむ人々へ」という献辞が付されているほか、「この曲を演奏する際は、普段よりもやや左寄りに座るのが望ましい」という、右手のみで演奏することを踏まえた演奏上の助言も添えられています。
音楽的な特徴
3/4拍子のPrestoによる、スケルツォ風の性格を持つ小品です。冒頭を耳にすると、ベートーヴェンの「ピアノソナタ 第2番 Op.2-2 第3楽章」の冒頭を思い出すかもしれません。カデンツァ風の経過句も含まれ、Op.42-5とは対照的な、leggieroな性格の音楽です。
· Nocturne, for the Left Hand Only, Op.42 No.5 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:ノクターン(左手のために) Op.42-5
出版年:1916年
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
作品の背景
楽譜には作曲者自身による献辞が付されており、「演奏において片手しか使わないことが、楽曲解釈の表現力を何ら損なうものではないと考えている、真摯な音楽家へ」という言葉が記されています。Graveの指示を持つ、朗唱的でロマンティックな性格を持つ作品です。
音楽的な特徴
重々しい性格を持ちながら、中間部では激しさを見せます。テンポ変化の指示や「roughly」「senza tempo」「ad lib.」といった自由度の高い指示が随所に見られ、楽譜に書かれていることを丁寧に表現するだけで、自然と一種のアゴーギク的な揺らぎが生まれるように作られているのが特徴の一つと言えるでしょう。曲中に時折現れる付点リズムも印象的で、この音型は曲の終盤近くまで一貫して用いられています。
‣ Brahms, Johannes(1833-1897) ブラームス
· Chaconne by J.S. Bach for the left hand alone [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:ピアノのための5つの練習曲 より J.S.バッハのシャコンヌ
編曲年:1877年
演奏時間:約17分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)
J.S.バッハの名作「シャコンヌ」を、ブラームスが左手のみで演奏できるように編曲した異色の作品、通称「バッハ=ブラームス シャコンヌ」。左手独奏作品の中でも芸術性が高い一曲で、多くのピアニストに愛奏されています。
本作は1877年6月、ブラームスが親しい友人であったクララ・シューマンへ宛てた手紙とともに贈られました。当時、右手を痛めていたクララのために、左手だけで演奏できるように編曲したものです。ブラームスは手紙の中で「今日、君に送るものほど面白いものは他にないと思う」と書き添えており、音楽的なユーモアと彼女への深い思いやりが詰まった名編曲として知られています。
この作品をさらに詳しく知る
特徴、おすすめ楽譜、練習のポイント、必要な技術レベルまで網羅した完全ガイド
【ピアノ】バッハ=ブラームス「シャコンヌ」完全ガイド:難易度・楽譜選択のポイント
J.S.バッハ「シャコンヌ」の他の左手編曲と比較する
【ピアノ】左手のみで演奏するJ.S.バッハ「シャコンヌ」編曲版の種類と背景
‣ Brandman, Margaret S.(1951- ) マーガレット・S・ブランドマン
マーガレット・S・ブランドマンは、音楽一家に生まれたオーストラリアの作曲家・ピアニスト・音楽教育者です。4歳からアコーディオンとピアノを学び、シドニー音楽院でピアノ、クラリネット、和声、作曲を修めたのち、シドニー大学ではピーター・スカルソープに作曲を師事しました。演奏家・作曲家としての活動に加え、音楽教育の分野でも先駆的な教材開発で知られ、その作品の多くはオーストラリアの音楽検定課題曲としても採用されています。
· Winter Piece(for left hand alone) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ウィンター・ピース(左手のための)
出版年:1992年頃
演奏時間:約4分50秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:セルマ・エプスタイン
ほとんどが1段譜で書かれた作品ですが、広い音程にわたるアルペッジョが連続するなど、テクニックにある程度のハードルを伴う作品です。全体に暗さと孤独感が漂い、中盤に現れる同じ音型の繰り返しによるオスティナートや、終盤の高音域における単音の連なりが、冬の情景を喚起させるかのような効果を生んでいます。
‣ Brenet, Thérèse(1935- ) テレーズ・ブルネ
テレーズ・ブルネは1935年パリ生まれのフランスの作曲家・ピアニストです。ローマ大賞(Grand Prix de Rome)を受賞しており、パリ国立高等音楽院(CNSM de Paris)の教授を務めました。
· Océanides: étude pour la main gauche [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:オセアニード:左手のための練習曲
出版:1988年
演奏時間:約6分
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:マーク・ロブソンの委嘱により作曲
「オセアニード」という題名は、アイスキュロスの悲劇「プロメテウス」に語られる、海の娘たちの物語に由来します。ギリシャ神話では、オセアニードはテテュスとその兄弟である大洋神オケアノスの間に生まれた3000人の娘たちとされています。
マーク・ロブソンのために書かれた作品で、表紙には作曲者ブルネと本作の成立事情についての解説が仏英両語で寄せられているのが特徴の一つと言えるでしょう。
「Ravel; Chopin; Saint-Saëns: An anthology for the left hand / Raoul Sosa」などに収録されています。
‣ Bricht, Walter(1904-1970) ヴァルター・ブリヒト
ヴァルター・ブリヒト(1904年ウィーン生まれ)は、作曲家、ピアニスト、教育者です。音楽一家に生まれ、4歳でピアノを始め、ウィーン音楽アカデミーでは作曲・指揮・ピアノを学び、フランツ・シュミットに師事しました。卒業後はウィーン音楽院などで教鞭を執り、旺盛な作曲活動を行いましたが、1938年、ユダヤ系の出自を理由にナチス政権下のオーストリアからアメリカへ亡命を余儀なくされます。渡米後はニューヨークを拠点に活動し、1963年からはインディアナ大学音楽学校で教授職に就きました。
· Vier Klavierstücke für die Linke Hand Allein, Op.30 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のための4つのピアノ小品 Op.30
作曲年:1933年6月17日(作曲者公式サイトの記載に基づく)
演奏時間:全曲合計 約12分30秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン
備考:楽譜・音源とも作曲者公式サイト(walterbricht.com)にて無料公開
楽譜の表紙の記載によれば、本作品に付されている運指はすべてパウル・ヴィトゲンシュタイン自身によるものです。
構成(全4曲)
第1曲 Intermezzo 約2分30秒
第2曲 Lied ohne Worte 約3分30秒
第3曲 Skizze 約2分30秒
第4曲 Studie 約4分
第1曲 Intermezzo(間奏曲)
ため息のような音型から始まる、メランコリックな性格の作品。広い音域を用いた立体的な音響が特徴となっています。
第2曲 Lied ohne Worte(無言歌)
全4曲の中では、第4曲とともに比較的分かりやすく聴きやすい作品。哀愁を帯びた旋律が奏でられますが、ところどころに心を刺すような鋭い響きの音が差し込まれ、単純なロマン派風のバラードとは異なる新しさが感じられます。
第3曲 Skizze(素描)
半音階的な進行が印象的な、メランコリックな性格の小品。心のざわめきを表現しているかのような32分音符の動きが終始続き、様々な形で旋律を装飾していきます。
第4曲 Studie(練習曲)
曲名の通り、エチュード的な性格を持つ作品。全4曲の中では最大の規模を誇ります。楽曲全体を3連符の動きが支配していますが、その現れ方は多様で、終盤ではオクターヴの連続へと発展し、音響的にも充実した結尾を迎えます。
‣ Bridge, Frank(1879-1941) ブリッジ
イギリスの作曲家、フランク・ブリッジ(1879年ブライトン生まれ、1941年イーストボーン没)は、作曲家として活動する傍ら、ヴィオラ奏者・指揮者としても幅広く活躍しました。室内楽の書き手として特に高く評価されています。ベンジャミン・ブリテンを指導したことでも知られています。
· 3 Improvisations for the Left Hand [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1曲 1-4小節)

邦題:左手のための3つのインプロヴィゼーション
作曲年:1918年頃
演奏時間:全曲合計 約8分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構成
1. At Dawn(夜明けに) 2. A Vigil(通夜) 3. A Revel(歓楽)
この作品は、第一次世界大戦での負傷がきっかけで右手を失ったピアニスト、ダグラス・フォックスのために1918年頃に書かれました。ブリッジはフォックスを励ますためにこの曲を贈り、「この曲が独り立ちして、貴方にほほえみかけてくれることを願って」という言葉を手紙に添えたと伝わっています。
3曲は対照的な性格を持っています。印象主義的な和声が音楽を作っており、3曲まとめて演奏会で取り上げることに適した、まとまりのある作品群です。第1曲から第3曲へ向けて徐々に音楽が分かりやすくなっていくのが特徴の一つと言えるでしょう。
ダグラス・フォックスについて詳しく知る
‣ Britten, Benjamin(1913-1976) ブリテン
· Diversions on a theme for piano(left hand)and orchestra Op.21 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のためのピアノ協奏曲
作曲年:1940年
演奏時間:約25分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
パウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱により1940年に完成。初演は1942年1月17日、フィラデルフィア管弦楽団、ユージン・オーマンディ指揮のもとヴィトゲンシュタイン自身が演奏しました。当初の題名は「コンサート・ヴァリエーションズ」で、「ディヴァージョンズ」は後から改められたものです。
ブリテンはこの作品で「両手のテクニックを模倣しない」という立場を明確にしています。単一のラインが持つ可能性をあらゆる角度から探ることを目的とした変奏曲であり、各変奏はそれぞれ異なる音楽的表情を追求しています。
ヴィトゲンシュタインはオーケストラの書法が厚すぎると異議を唱えましたが、ブリテンは変更に応じませんでした。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】ラヴェルとブリテンの左手協奏曲:対照的な二つのコンセプトを比較する
‣ Burghauser, Jarmil(1921-1997) ヤルミル・ブルクハウザー
ヤルミル・ブルクハウザーは、チェコの作曲家・指揮者・音楽学者です。6歳からピアノを学び、ヤロスラフ・クシチカやオタカール・イェレミアーシュに師事したのち、プラハ音楽院でヴァーツラフ・ターリヒに作曲を学びました。合唱指揮者としての顔を持っていたうえ、作曲家としての活動も多く、幅広いジャンルの作品を残しています。
· Dřevoryty(Woodcuts)for piano, left hand and organ [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ドジェヴォリティ(木版画)(左手ピアノとオルガンのための)
作曲年:1953年
演奏時間:全曲合計 約25分
分類:オリジナル作品(室内楽)
献呈:オタカール・ホルマン
ブルクハウザーは自筆譜の段階でも楽章の入れ替えや加筆を重ねており、最終稿では全5楽章の構成になっています。うち第3楽章「Alla polka」はピアノ独奏のみで演奏され、第5楽章「Marcato e ritmico」もトリオ(3声)の書法で書かれているなど、楽章ごとに編成や書法が変化に富んでいるのが特徴です。
出典:Piano Music for the Left Hand Alone(left-hand-brofeldt.dk)
オタカール・ホルマンについて詳しく知る
· Ciacona for piano, left hand and organ [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:チャコーナ(左手ピアノとオルガンのための)
分類:オリジナル作品(室内楽)
献呈:オタカール・ホルマン
オタカール・ホルマンのために書かれ、彼に献呈された作品です。1954年5月17日、プラハにおいてホルマン自身とオルガン奏者アレシュ・イェルマーシュにより初演されました。
出典:Piano Music for the Left Hand Alone(left-hand-brofeldt.dk)
オタカール・ホルマンについて詳しく知る
‣ Calabro, Louis(1926-1994) ルイス・カラブロ
· Solo Piano Fantasy(for the right hand) [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:幻想曲(右手のための)
作曲年:1984年
演奏時間:約6分30秒
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ライオネル・ノヴァクのために
ノヴァクの録音に添えた解説の中で、カラブロは鍵盤の全音域を活用する意図のもとに本作を書いたと述べています。第1・3・5指でアルベルティ・バスを刻みながら、第2・4指でその周囲にスタッカートの音を配置するといった、書法上の工夫が凝らされている点が特徴的です。
‣ Charbonnet, Alice Ellen(1858-1914) アリス・エレン・シャルボネ
アリス・エレン・シャルボネ(1858年10月12日オハイオ州シンシナティ生まれ、1914年6月1日パリ没)は、フランス人判事の娘としてアメリカに生まれたピアニスト、作曲家です。主にパリで音楽の勉強をしましたが、1878年にはオーストラリアへ渡って、シドニーおよびメルボルンで数年にわたり演奏家として活動しています。晩年にはパリへ拠点を移し、同地で生涯を終えました。
· M’appari:Transcription de la Romance de Martha pour la main gauche seule [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:マッパリ(左手のための)
原曲:フロトー作曲、歌劇《マルタ》より「マッパリ(M’appari)」
出版年:Australia: Chas. Troedel & Co.、刊行年不詳(19世紀)
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
献呈:ヴィクトリア州総督閣下ならびにノーマンビー侯爵夫人に
フロトウの歌劇《マルタ》で歌われるロマンス「マッパリ」の旋律に基づく、左手のための編曲作品です。
冒頭には「Ad libitum(自由に)」と指示された8小節の序奏が置かれ、主部に入ってからも随所にカデンツァ風の自由な音の運びが顔をのぞかせます。全体として華やかで装飾的な性格が強く、また、部分的に弦楽器の奏法を思わせるような音型も現れるのが特徴の一つと言えるでしょう。
一方で、演奏者にとってやや弾きにくい跳躍を伴う箇所も繰り返し出てくるため、必ずしも書法として自然とは言い切れない部分も含まれています。
‣ Chouquet, Louise ルイーズ・シュケ
· Sérénade pour la main gauche seule [LH]
※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間(PD)の確定が困難なため、安全を考慮して譜例の掲載は控えております。
邦題:セレナーデ(左手のための)
出版年:1851年頃
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Mezzanotte
テンポ指示には「Temps de Valse(ワルツのテンポで)」と記され、冒頭には「scherzando」の指示が添えられています。旋律には非和声音が頻繁に取り入れられており、諧謔的な軽やかさを持つメロディが特徴と言えるでしょう。
中間にはトリオが置かれ、曲の終わりには短いコーダが続きます。用いられる音そのものはシンプルですが、和音の配置がやや弾きにくく、必ずしも自然な運指感覚に沿っているとは言い難い箇所も見受けられます。
楽譜には運指・ペダリングの指示は付されていません。
‣ Coenen, Willem(1837-1918) ヴィレム・クーネン
ヴィレム・クーネンは1837年11月17日ロッテルダムに生まれ、1918年3月18日ルガーノで没したオランダ出身のピアニスト・作曲家です。父はやはり音楽家であったリュドフィクス・クーネン。若い頃は南米スリナムのパラマリボに住み、その後ピアニストとしてアメリカ各地を演奏旅行しています。1862年からはロンドンに拠点を移し、ギルドホール音楽学校でピアノを教えるようになりました。
· Fantasy over ‘The Last Rose of Summer’ and ‘God Save the Queen’ [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:〈庭の千草〉と〈神よ女王を護り給え〉による幻想曲
出版:1863年
演奏時間:約7分30秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
左手独奏用の幻想曲で、アイルランド民謡〈庭の千草(The Last Rose of Summer)〉と、イギリス国歌〈神よ女王を護り給え(God Save the Queen)〉という2つを素材に書かれました。
24小節に及ぶ長い序奏を経てから主題の提示に入る構成になっており、序奏部分だけでもかなりの規模を持つ、聴きごたえのある作りとなっています。オクターヴ、トリル、アルペジオ、跳躍など、多彩な技巧が盛り込まれた華やかな作品で、カデンツァも置かれています。
‣ Corigliano, John(1938-) ジョン・コリリアーノ
ジョン・コリリアーノ(1938年2月16日ニューヨーク生まれ)はアメリカの作曲家です。父はニューヨーク・フィルのコンサートマスターを23年務めたジョン・コリリアーノ・シニア、母はピアニスト兼教育者という音楽家の家庭に育ちました。コロンビア大学でオットー・ルーニングに、マンハッタン音楽院でヴィットリオ・ジャンニーニに師事しています。ジュリアード音楽院やニューヨーク市立大学リーマン・カレッジなどで後進の育成にもあたりました。
多作で、ピューリッツァー賞(交響曲第2番、2001年)、グラミー賞5回、グラウマイヤー賞、アカデミー賞(映画「レッド・バイオリン」、2000年)などを受賞しており、アーロン・コープランドに次いでピューリッツァー賞とアカデミー賞の両方を受賞した2人目の作曲家として知られています。
· Etude No.1: For the left hand alone from Etude Fantasy [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:エチュード・ファンタジー より 第1曲(左手独奏)
作曲年:1976年
演奏時間:約3分40秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
初演:1976年10月9日、ケネディ・センター(ワシントンD.C.)、ジェームズ・トッコ(ピアノ)
分類:オリジナル作品(独奏)
委嘱:ジェームズ・トッコ(エディス・ブッシュ財団助成、ワシントン・パフォーミング・アーツ・ソサエティ、アメリカ建国200周年記念ピアノ・シリーズ)
献呈:エディス・ブッシュの記念に
Etude Fantasy 全体の構成
全5曲からなる作品で、第1曲のみが左手独奏です。他の4曲(Legato、Fifths to Thirds、Ornaments、Melody)は両手を要し、各曲は切れ目なく次へとつながります。
作品の成立背景
コリリアーノは本作の成立について、自身の言葉でこう説明しています。
ジェームズ・トッコのリサイタルでブルーメンフェルドの「左手のための練習曲 Op.36」をアンコールで聴き、その音楽とトッコの演奏技術に強く惹かれた。左手独奏の書法を試してみたいという気持ちと、大規模なファンタジーを書きたいという構想が重なり、エチュードとファンタジーを組み合わせたこの作品の形へとつながった。
ブルーメンフェルドのOp.36は、ゴドフスキーへの献呈を起点に、1905年の作曲から約70年後のコリリアーノの本作創出へと波及していった、興味深い「音楽の継承史」を描き出しています。詳しくは、【ピアノ】左手作品から読み解くブルーメンフェルド:ゴドフスキーに捧げられた1905年の左手練習曲 をご覧ください。
第1曲について
同音連打が印象的なトッカータを思わせる部分や、主旋律を装飾音で不協和に飾る部分など、書法の幅が見られます。全体的には大胆で激しい性格を持っていますが、無調でありながらカンタービレな要素も併せ持つ音楽と言えるでしょう。
第2曲へ移行する際には、切れ目なく右手の介入によって繋がっているので、単独での演奏会使用は難しい面があります。
‣ Czerny, Carl(1791-1857) ツェルニー
カール・ツェルニー(1791年ウィーン生まれ、1857年同地没)はウィーンのピアニスト・作曲家・教育者で、多作なピアノ曲の書き手の一人です。ベートーヴェンと親しく、その音楽の初演に携わるとともに32曲のソナタをすべて暗譜していたと伝わっています。教師としてはのちのフランツ・リストを9歳から無償で2年間指導し、その後の活躍の土台を作りました。
· Two Studies for the Left Hand Alone, Op.735 [LH]
第1番 ト短調 Allegro maestoso
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

第2番 変イ長調 Andante expressivo
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:左手のための2つの練習曲 Op.735
作曲年:不明
演奏時間:第1番 約2分50秒 / 第2番 約3分10秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構造はシンプルですが、オクターブ、音階、トリル、分散和音など幅広い技術が要求される作品。2曲は性格が対照的で、第1番は堂々としたAllegro maestoso、第2番はAndante expressivoによる歌うような書法です。
なお、ツェルニー自身は左右どちらの手でも弾かれることを想定していたとも考えられています。
· Etude for One Hand in A major [LH/RH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、曲頭)

邦題:片手のための練習曲 イ長調
作曲年:不明
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
単一のテクニックの練習に絞ったエチュードではなく、様々なテクニックを含む総合的練習曲。ツェルニーのエチュードとしては珍しく、テンポ変化が多いうえに、カデンツァ風の音の扱いも見られます。この点で短かい小品を集めたかのような印象を持つ一作となっています。
レヴェンタール編のアンソロジーにも収録されており、Op.735よりも知られた曲となりました。
► 終わりに
作品を探す際は、以下のアルファベット別ページもご利用ください。
併読推奨記事
本Webメディアの全記事への入り口となる総合ガイドです。入門・基礎知識、作品ライブラリー、楽曲別ガイド、技術・知識、作曲家シリーズ、参考文献・資料・レビューまで、目的別に記事をまとめています。
► 関連コンテンツ
YouTubeチャンネル
・Piano Poetry
チャンネルはこちら
SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら