【ピアノ】公式映像で知るヨーゼフ・ラーボア:ヴィトゲンシュタインのための左手協奏曲3作品

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【ピアノ】公式映像で知るヨーゼフ・ラーボア:ヴィトゲンシュタインのための左手協奏曲3作品

► はじめに

 

右腕を失ったピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタインのために書かれた左手作品といえば、ラヴェルやプロコフィエフ、ブリテンらの協奏曲がまず思い浮かぶのではないでしょうか。しかし、ヴィトゲンシュタインが最初に作品を委嘱した相手は、彼らのような大作曲家ではなく、幼いころから彼を指導していた盲目の音楽家、ヨーゼフ・ラーボアでした。

本記事では、ラーボアがヴィトゲンシュタインのために作曲した左手のための協奏曲3作品を取り上げた、CDの公式プロモーション映像を紹介します。ピアニストのオリヴァー・トリエンドルと指揮者ユージン・ツィガーンへのインタビューを通じて、作品の音楽的な特徴や演奏上の課題だけでなく、ラーボアとヴィトゲンシュタイン家の関わり、さらには左手音楽史の背景まで知ることができる映像です。

 

► ヨーゼフ・ラーボアとヴィトゲンシュタイン家

 

ヨーゼフ・ラーボア(1842-1924)は、3歳で視力を失いながらも音楽家として活躍した人物です。とくにオルガニストとして高く評価され、映像の中では、ブルックナーに次ぐ存在として紹介されています。

ウィーンでは、実業家カール・ヴィトゲンシュタイン(パウルの父)から手厚い支援を受けました。経済的な援助にとどまらず、作品の出版にも尽力したといいます。ラーボアはヴィトゲンシュタイン家の子どもたちの音楽指導も担っており、その中には、のちにピアニストとなるパウル、そしてクラリネットの腕前にも優れ、やがて哲学者として名を残すルートヴィヒもいました。

 

パウル・ヴィトゲンシュタインについてさらに詳しく知る

【ピアノ】パウル・ヴィトゲンシュタイン 完全ガイド:右腕を失ったピアニストが切り拓いた「左手音楽」の世界

 

► 公式映像で聴くラーボアの左手協奏曲

‣ CDプロモーション映像

 

紹介する映像は、ドイツのレーベルCapriccio(カプリッチョ)が公式YouTubeチャンネルで公開しているものです。映像には、録音風景とインタビューが収められています。

JOSEF LABOR: Concertos for piano left hand Nos. 1-3
映像:Capriccio Records 公式YouTube

 

映像の特記事項

・公開日:2023年11月23日
・動画の長さ:7分15秒
・カラー映像
・言語:英語・ドイツ語(英語の発言にはドイツ語字幕、ドイツ語の発言には英語字幕)
・映る内容:録音風景と、ピアニスト・指揮者へのインタビュー
・演奏:オリヴァー・トリエンドル(ピアノ)、ユージン・ツィガーン(指揮)、ラインラント=プファルツ州立フィルハーモニー管弦楽団
・収録:2023年1月9日、ルートヴィヒスハーフェン

 

‣ 映像の見どころ

 

第1番協奏曲の演奏の様子とインタビューが交互に映し出される構成になっており、音楽を聴きながら作品の背景を知ることができます。主に語られている話題は、次のとおりです。

 

ヴィトゲンシュタインが認めた「基準」

映像の冒頭では、ヴィトゲンシュタインがラーボアの作品、とりわけ第1番を「あらゆるものの基準」とみなしていたことが紹介されています。しかも彼は、ラヴェルやプロコフィエフらによる、今日よく知られた左手の協奏曲がすでに書かれた後でも、その評価を変えなかったといいます。演奏者は、この作品を弾きこなしたヴィトゲンシュタインは卓越したピアニストだったに違いない、と述べています。

 

右腕の喪失と委嘱

戦地で負傷して右腕を切断し、ロシア軍の捕虜となったヴィトゲンシュタインは、捕虜の身でありながら左手のピアニストとして再起する道を選びました。そして1915年、ラーボアに作品を依頼します。映像ではこれが「ピアノ左手とオーケストラのための最初の作品」と紹介されています(それ以前にも左手と管弦楽のための作品は存在するため、正確には「最初期の作品の一つ」と言えます)。

 

譜面に書き起こすことの難しさ

視力を持たないラーボアにとって、本当の壁は作曲そのものよりも、作品を楽譜として書き取ってもらうことにあったのではないか——映像ではそう推測しています。3曲のスコアを比べると、少なくとも2人の筆記者が関わっていた形跡があるそうです。第1番・第2番は明快な書き方である一方、第3番は急に複雑になり、口述筆記に由来すると思われる問題も見受けられるとのこと。「これは本当に作曲者の意図どおりなのか」と考えさせられる、興味深い指摘です。

 

ヴィトゲンシュタイン自身の運指

スコアに加え、ヴィトゲンシュタインが自ら書き込んだ運指入りのソロパート譜も残されています。トリエンドルは、それが必ずしも弾きやすいとは限らず、ときには実用的でないと率直に認めつつも、一部は自分の演奏に取り入れたと話しています。

 

ブラームスとの関係と、ラーボア独自の作風

ブラームスと親しく、その蔵書にも触れることができたラーボア。伝統的な形式を受け継ぎながらも、ブラームスの模倣には走らず、ブラームス本人もその姿勢を高く評価していたそうです。

スコアにはどこかで聴いたことのあるような要素が多く見つかる一方、そのどれもが少しずつ違った方向へ展開していくとのこと。リスト的な要素やベートーヴェン風の和声が、やがてレーガーを思わせる響きへ向かうなど、当時のさまざまな影響が溶け合いながら、予想を裏切る驚きに満ちた音楽になっていると語られています。

 

技術的な難所:左手による3度の音階

作品には、高度な技巧を要する箇所も数多く盛り込まれています。トリエンドルは、左手で3度の音階を弾いたのは人生で初めてだったと明かしていました。映像にはその実際の演奏シーンも収められており、左手ピアノの技術に関心のある方にとっては見逃せない場面です。

 

► 収録CDについて

 

映像で紹介されている演奏は、CapriccioレーベルからCDとしてリリースされています。ラーボアの左手のための協奏曲3作品をまとめて聴くことができる録音です。

 

JOSEF LABOR: Concertos for piano left hand and orchestra(Wittgenstein Concertos)

・ピアノ:オリヴァー・トリエンドル
・指揮:ユージン・ツィガーン
・管弦楽:ラインラント=プファルツ州立フィルハーモニー管弦楽団
・レーベル:Capriccio(C5521)
・発売時期:2024年2月

 

 

► 終わりに

 

ヴィトゲンシュタインの名前は、ラヴェルの協奏曲とともに語られることがほとんどです。しかし、その歩みの最初にあったのは、少年時代の師であるラーボアとの関わりでした。

今回の映像は、作品の音楽的な特徴、作曲と記譜をめぐる事情、演奏者の視点から見た技術的な課題まで、短い時間の中で幅広く扱っています。後に生まれる名作の陰に隠れがちなラーボアの作品を、左手のための協奏曲の「前史」として味わってみてはいかがでしょうか。

 

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