【ピアノ】左手のみで弾く広範囲アルペッジョの運指:1の指の使い方と白鍵・黒鍵の関係
► はじめに
左手だけで演奏する作品では、本来であれば両手で分担する広い音域を、片手でカバーしなければならない場面がたびたび出てきます。なかでも、広い音程にわたるアルペッジョは、運指の選び方によって演奏の安定性が大きく変わる箇所と言えるでしょう。
本記事では、左手のための作品から複数の譜例を取り上げ、広範囲のアルペッジョに適した運指の考え方を整理します。判断の手がかりとなるのは、「1の指を続けて使うか、それとも1の指を越えて2の指を使うか」という視点と、「着地点が白鍵か黒鍵か」という違いです。
ただし、最適な運指は手の大きさや前後の音型によっても変わります。ここで紹介する考え方を手がかりに、実際の演奏に応用できる選択肢を探っていきましょう。
本記事の対象者:左手作品に取り組む中級者以上の方
► 左手のみで広範囲アルペッジョを弾く運指の決め方
‣ 着地点が白鍵であれば、1の指を使う運指を優先して検討する
ライネッケ「左手のためのピアノソナタ Op.179 より 第4楽章」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、224-228小節)

227小節目には、10度に広がるアルペッジョが現れます。10度に手が届かない場合、ミスタッチが起こりやすい箇所になるでしょう。ここでは、赤で示したE音を1の指で取る運指が一般的です。
「5312」のように、最後の音を2の指で弾く方法もないわけではありません。ただし、この跳躍の着地点は白鍵。白鍵は黒鍵のように盛り上がっていないため、素早く2の指を伸ばすと外しやすくなってしまいます。
その点、1の指で取る運指(5421)であれば、下の3音を弾いている最中から指を伸ばして着地点を見定めておけるので、狙いがつけやすくなります。着地点が白鍵(白鍵→白鍵)であれば、1の指を使う運指を優先して検討するようにしましょう。
なお、どうしても「5312」で弾く場合は、G音とE音(赤の音符)のあいだに、ほんのわずかな間を取る必要が出てきます。
ヴィンディング「ピアノのための3つの小品 Op.27(左手のための)より 第3曲 フィナーレ」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、136-139小節)
-3.Finale_mm136-139_B.png)
この譜例も同じパターンで、着地する赤の音符は白鍵の音。1の指で弾いたほうが、ミスを防ぎやすいでしょう。
‣ 着地点が黒鍵であれば、2の指や「2と3を束ねる」運指も有効
ブルーメンフェルド「左手のための練習曲 Op.36」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、29-30小節)

この譜例でも、赤で示したEs音を1の指で取るのは良い選択になります。直前の音(B音)も着地点も黒鍵という「黒鍵→黒鍵」の動きであっても、この箇所では1の指を続けて使っても無理はありません。
一方、先ほどの例とは違い、今回の着地点は黒鍵。黒鍵は白鍵より一段高く出っ張っているため、「5312」のように2の指で弾いても、外してしまう心配はそれほど大きくありません。
特に試してみたいのが、2と3の指を束ねて「531[23]」のように弾く方法です。2本の指を束ねて打鍵することで、1本の指だけで弾く場合よりも黒鍵を確実に捉えられるうえ、着地点をしっかり支えられるため、打鍵が安定します。さらに、この音符を弾いた直後には、即座に低音へ跳ばなければなりません。2本を束ねた指で打鍵すると、その反動を次の跳躍に活かしやすいという利点もあるのです。
この箇所で候補になる運指は、「5311」と「531(23)」の二つと考えていいでしょう。
‣ 1の指で弾いた白鍵から黒鍵へ跳ぶ場合は、1の指を続けず2の指で取る
モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92 より 第4曲」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、54-56小節)

56小節目の青で示した音符に注目してください。直前に1の指で弾く音は白鍵で、続く青の音符は黒鍵。ここで1の指を続けて使うと、白鍵から一段高い黒鍵へと指を持ち上げる動きが加わり、かなり弾きにくくなってしまいます。そのため、この音符は2の指で弾くのが適切でしょう。
‣ 例外:低音側が黒鍵だと2の指のほうが楽なことも
モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92 より 第11曲」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、117-121小節)

この譜例の赤の音符は白鍵なので、ここまでの考え方に従えば1の指で取ることになります。ところが実際には、2の指で弾いたほうが楽に感じる人もいるかもしれません。
理由は、アルペッジョの出だしの2音(As音とGes音)がどちらも黒鍵であるから。黒鍵に乗った手の流れから白鍵のC音を弾き、そこから手を横へ飛ばす動きは、アルペッジョのすべての音が白鍵の場合に比べてどうしてもぎこちなくなりがちです。
1の指で取るのが原則的な選択肢であっても、2の指を使ったほうが自然に弾ける場合があります。実際に弾き比べて判断するといいでしょう。
‣ 音域が1オクターブ〜9度程度に収まる場合は、特殊な運指を使わない
モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92 より 第4曲」
譜例(再掲、54-56小節)

手の大きさにもよりますが、55小節目の赤の音符のようにアルペッジョが1オクターブ以内に収まっているのであれば、5つの音を鳴らす場面であっても、素直に「54321」で弾くほうが無難です。
ここまで紹介してきた「1の指→1の指」や「1の指を越えて2の指を使う」運指は、あくまで手の届かない範囲を補うための手段。使わずに済む場面では、使わないほうが確実性は高まります。
ヴィンディング「ピアノのための3つの小品 Op.27(左手のための)より 第2曲 カンツォネッタ」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、105-109小節)
-2.Canzonetta_mm105-109.png)
こちらも手の大きさ次第ではありますが、赤の音符のように9度のアルペッジョであれば、そのまま「5321」で弾くほうが安全と言えるでしょう。
‣「白鍵→黒鍵」の6度音程を残さない運指
モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92 より 第9曲」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、36-38小節)

37小節目のアルペッジョは、なかなか扱いにくい形をしています。下から「Es B G Es」の4音だけであれば、それほど難しくはありません。しかし、G音の3度下にEs音が加わっていることで、一気に弾きにくさが増しているのです。
仮に下から「521」の運指で弾き始めると、最後に「白鍵(G音)→黒鍵(最高音のEs音)」という6度の幅が残ってしまいます。新たなポジションを即座に用意して白鍵から黒鍵へ向かってこの幅を広げながら取るのは、手の形として無理が生じやすいところ。
そこで候補になるのが、「53212」という運指です。問題の6度音程の下の音、つまりG音を1の指で弾いてしまうのがポイントです。そうすることで、最後に残るG音とEs音の6度を、1の指と2の指で取れる形に組み替えられます。3の指と2の指のあいだを広げる必要はありますが、白鍵から黒鍵へ向かって6度の幅を一気に広げるよりも、手の形を整えやすい運指と言えるでしょう。
また、赤の音符へは「白鍵→黒鍵」で到達するため、先ほど説明した原則どおり、ここは2の指で弾きます。
モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92 より 第12曲」
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、37-39小節)

このアルペッジョも、下から「5321」で弾き始めると「白鍵(D音)→黒鍵(最高音のB音)」の6度が残り、手の形に無理が出てきます。ここでは「543212」で弾くのが無難でしょう。先ほどの例と同じく、6度音程の下の音であるD音を1の指で取ってしまう考え方になります。
► 運指を決めるときのチェックポイント
・音域が1オクターブ〜9度程度に収まる場合、まずは通常の運指(「54321」「5321」など)で弾けないか検討する
・跳躍の着地点が白鍵(白鍵→白鍵)であれば、1の指を続けて使う運指を優先的に検討する
・着地点が黒鍵の場合は、2の指や、2と3の指をそろえて使う運指も候補に入れる
・1の指で弾いた白鍵から黒鍵へ跳ぶ場合は、1の指を続けず2の指で取る方法を検討する
・最後に「白鍵→黒鍵」の6度音程が残る場合は、その下の音を1の指で弾くことで、最後の音程を取りやすくできないか検討する
これらはあくまで原則であり、手の大きさ、手の向き、音域、直後の跳躍の大きさ、求められる音の強さなども関係します。
► 終わりに
広範囲のアルペッジョは、左手のための作品で見せ場になりやすい反面、ミスが目立ちやすい箇所でもあります。運指の最適解は手の大きさや指の長さによって変わるため、今回紹介した考え方を手がかりに、自身の手で実際に試しながら決めてみてください。
特に「着地点が白鍵か黒鍵か」「1の指の連続や1の指を越える運指が、本当に必要か」という2点を意識するだけでも、迷う場面は減るはずです。
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左手演奏の運指をどう組み立てていくか、より広い視点から知りたい方は、下記の記事もあわせてご覧ください。「演奏の技術・知識」の項目に、運指に関する記事をまとめています。
【ピアノ】左手ピアノの技術・知識 記事まとめ:作曲・編曲と演奏の視点から
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