【ピアノ】左手作品の高音域で手首をひねらないための運指の考え方
► はじめに
左手のみで演奏する作品であっても、音楽が高音域へ移動する場面は少なくありません。このとき、直前までの流れをそのまま受けて、何となく「5の指から1の指へ」という運指を選んでしまうことがあります。
しかし、左手で高音域を弾く場面では、親指を使うことで手首や前腕の回旋が大きくなり、身体に負担がかかる場合があります。親指は他の指よりも手首に近い位置に付いているため、左手で高音域の音を取る際には、手の向きや手首の角度を大きく変えなければならないことがあるからです。
そこで、「親指を使わない」「同じ指を繰り返す」「2の指と3の指をまとめて使う」といった選択肢を持っておくと、高音域での運指をより柔軟に考えられるようになるでしょう。
本記事では、具体的な楽曲を例に取り上げながら、左手の高音域で手首への負担を抑えるための運指の考え方を紹介します。
► 具体例
まず前提として、左手演奏では椅子の位置をやや右寄りに調整しておくと、身体全体への負担を抑えやすくなります。手首や身体を大きくひねらなくても鍵盤の右端に手が届きやすくなるからです。
図(浄書ソフトで作成)

以下、具体的な楽曲を通して運指付けについて見ていきましょう。
‣ ブルーメンフェルド「左手のための練習曲 Op.36」
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、39-40小節)

39小節目にあるレッド音符で示した高音部分では、それまでの流れをそのまま受けて「5→1」の運指で弾こうとすると、手首を大きくひねらざるを得ません。運指についての知識が浅いうちは、こうした選択を無意識にしてしまいがちです。
左手で高音域を弾く場合には、「直前の音からつながるか」だけでなく、「その指を使ったときに手首や前腕がどのような状態になるか」も考慮する必要があります。
手首への負担を考慮する場合、次のような運指が候補になるでしょう:
・「23→23」(2の指と3の指をまとめて使う)
・「1→1」
「23→23」について
2の指だけで弾こうとすると、手の中心が定まらず、手全体が不安定に感じるはずです。そこで2の指に3の指を添えて束ねることで手全体が安定し、しっかりとした打鍵につながります。
「1→1」について
親指を使う運指というと、「5→1」のように、他の指から親指へ移る運指を思い浮かべるかもしれません。しかし、「1→1」のように親指を繰り返し使う場合は、手全体を鍵盤の奥へ移動させた状態で打鍵できます。そのため、親指を使っていても、必ずしも手首を大きくひねる必要はありません。
実際にこの譜例部分において、レヴェンタール編集の楽譜などでも、「1→1」の運指が採用されています。強い打鍵がしやすく、鍵盤もとらえやすいため、有力な選択肢の一つと言えるでしょう。
必ずしも「5→1」が良くないのではなく、高音域では別の選択肢も検討する視点を持つことが重要です。
‣ スクリャービン「左手のためのノクターン Op.9-2」
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、44-45小節)

45小節目のレッド音符で示した部分も、高音域へ向かう箇所です。
ここでもオクターヴが連続するため、「5→1→2」や「2→5→1」のように、自然に「5→1」を含む運指を考えたくなるかもしれません。しかし、必ずしもそのような運指を選ぶ必要はありません。
ブルーメンフェルドの例で見たように、2の指と3の指をひとまとまりとして使う考え方を、ここではさらに連続させることができます。
手首への負担を抑えるため、次のような運指が候補になります:
・「23→23→23」(おすすめ)
・「1→1→1」
この箇所では、ブルーメンフェルドの例ほど強い打鍵は求められません。しかし、2の指と3の指を束ねておくことで手全体が安定し、連続した音型を弾きやすくなります。
► 運指の学び方
‣ 左手演奏における運指法
左手演奏を中心とした運指の考え方については、以下の記事もあわせて参考にしてみてください。
【ピアノ】「Piano Music for One Hand」レビュー:左手独奏作品を幅広く収録した楽譜集+解説集
レイモンド・レヴェンタール編集による楽譜集「Piano Music for One Hand」(G. Schirmer社、1972年刊)には、冒頭部分に左手演奏の運指をめぐる解説(英語)が収められています。譜例とともに、実用的な運指の見つけ方や、やむを得ない場合を除いて避けたい運指の傾向などがまとめられており、参考になる内容です。
【ピアノ】左手演奏の和音運指はどう考える?シャコンヌ冒頭を例に解説
シャコンヌ冒頭の数小節を題材に、左手演奏における和音の運指をどのように組み立てていくかを解説した記事。指が届くかどうかという物理的な条件だけでなく、前後の和音とのつながり、トップノート同士の関係性、ペダリングとの兼ね合いまで含めて、判断の過程を冒頭の3つの和音ごとに具体的に説明しています。
‣ 運指を体系的に学ぶ
姉妹サイトでは、運指について体系的に学べる学習パスを公開しています。左手作品に限定した教材ではありませんが、運指の組み立て方など、左手演奏にも応用できる要素が数多く含まれているので、参考にしてみてください。
対象:「ツェルニー30番入門程度」の学習段階に達しているピアノ学習者
・運指の決め方、替え指、運指の書き込み術、運指情報の収集術などを体系的に学習
・合計100項目近い多角的な視点を提供
・修了後の実演を通した個別の運指学習への橋渡し
コースの詳細(姉妹サイトへリンク)
► 終わりに
本記事では左手演奏を中心に解説してきました。ただし、考え方そのものは右手独奏にも応用できます。右手では「低音域」へ移動する場合に、できる限り「5→1」のような運指を避けることで、手首や前腕の負担を抑えられることがあります。
重要なのは、単に「5→1を避ける」ことではありません。手の移動方向と、親指を使ったときに手首や前腕へどのような動きが生じるかを、音域も考慮しながら考えることです。この視点を持つだけで運指の選択肢は広がり、身体への負担を抑えた演奏を目指すことができます。
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