【ピアノ】左手演奏の和音運指はどう考える?:シャコンヌ冒頭を例に解説
► はじめに
左手だけで演奏する作品では、3音以上からなる和音の運指に悩む場面が少なくありません。両手で音を分担できないため、どの指を使うかによって手の動きや音楽の流れが大きく変わります。
本記事では、J.S.バッハ作曲・ブラームス編曲「シャコンヌ」冒頭を例に、左手の和音運指をどのような考え方で決めていくのか、そのプロセスを紹介します。
本記事の対象者:左手作品に取り組む中級者以上の方
► 運指の考え方
‣ ①の和音の運指
バッハ=ブラームス「シャコンヌ」
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

①の和音については、542・531・421・321のいずれの運指でも、和音自体の掴みやすさに大きな差はありません。ただし、531・421・321を選んでしまうと、続く②へ移る際に手が横方向へ動く距離が大きくなってしまいます。手の移動量をできるだけ少なくし、無理のない軌道で次の和音へ移れるようにするという観点からは、これらの候補は避けたほうがいいでしょう。
そう考えると、①の運指はまず542に定めるのが妥当だと言えます。
‣ ②の和音の運指
(再掲)

10度という音程は、同時打鍵できるかどうかが演奏者によって分かれやすい音程です。一方で9度であれば問題になるケースが減るため、②のトップノート(一番高い音)は1の指で取ることになります。
②から③にかけては手の形があまり変化せずに弾けるため、②の運指を選ぶうえで実質的に検討すべきなのは、①から②への接続の部分だけということになります。①を542と定めた時点で、①→②の運指の候補は実質的に以下の2通りまで絞られるでしょう:
・542 → 5321
・542 → 5421
①から②へ移る際、トップノートは5度跳躍するので、ここで①のトップノートを2の指で取っておくと、音楽の横の流れやトップノート同士のつながりを自然に表現できます。ちなみに、イシドール・フィリップ校訂版では①の和音にテヌートが付されています。この指示は、少なくともトップノート同士のつながりを意識した演奏と親和性が高いと考えられます。
次に、②を5321と5421のどちらで取るかですが、これは②の下2音にあたる完全4度をどちらが無理なく弾けるかで判断すればいいでしょう。よほど手の大きな方でない限り、5321のほうが掴みやすいはずです。
以上をまとめると、①は542、②は5321とするのが適当な運指だと考えられます。
‣ ③の和音の運指
(再掲)

③は音価が長く、この曲自体もテンポがそれほど速くないのが一般的です。ダンパー・ペダルを使用することを踏まえると、④への接続も③の運指選びには影響しません。
つまり③の運指を考えるうえで焦点となるのは、③そのものの音楽的・技術的な条件です。先ほども述べたとおり、10度の音程は同時打鍵の可否が分かれやすいポイントであり、③にはこの10度が含まれています。そのため演奏方法としては、次の3つのアプローチが考えられるでしょう:
・和音をアルペッジョにして弾く
・楽譜上の書き方のように、バス音と上3声を分けて、バスを装飾音のように先取りして弾く
・10度が届く奏者であれば、4音を同時に打鍵する
· アルペッジョにする場合
候補となる運指は5321・5431・5212の3通りです。このうち5431は、5と4の指で減5度という音程を取ることになるため、手への負担がかなり大きくなってしまいます。5212は、1と2の指を交差させるため、アルペッジョで弾く場合にのみ現実的な運指と言えるでしょう。
③をアルペッジョで弾く場合の適当な運指:5321または5212
· バスと上3声を分けて弾く場合
バス音を独立した動きとして扱えるため、5431の運指であっても、5の指で打鍵したあとに手を横へ移動させて上3声を弾くことができます。この方法であれば、アルペッジョにする場合と比べて手への負担も少なく、音楽の流れとしても自然に仕上がります。
③でこの弾き方を選ぶ場合の適当な運指:5321または5431
· 4音を同時に打鍵する場合
この場合は5321がもっとも無理のない選択です。よほど手が大きく開く方でない限り、5431での同時打鍵は難しいでしょう。なお、4音を同時に打鍵できる手の大きさを持つ奏者であっても、トップノートの響きをしっかりと聴かせたい場面では、あえてアルペッジョを選ぶという表現上の選択肢もあります。
► 終わりに
今回はシャコンヌ冒頭のわずか数小節を例に、和音の運指をどのように組み立てていくかを見てきました。単に「届くか届かないか」だけで判断するのではなく、前後の和音との接続、トップノートの流れ、ペダルの使用状況といった複数の要素を総合的に考え合わせることが、左手演奏の運指選びには欠かせません。同じ和音であっても、演奏する文脈や表現したい音楽によって最適な運指は変わってきます。
本記事で紹介した考え方はシャコンヌに限らず、他の多くの左手作品にも応用できます。運指を「覚える対象」ではなく、「条件から組み立てるもの」と捉えることで、初めて目にする左手作品でも自分で運指を組み立てられるようになるでしょう。
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左手のためのピアノ音楽に関する記事まとめです。入門ガイド、左手音楽史、楽曲別演奏解説、技術解説、レパートリー紹介まで網羅。初心者から上級者まで体系的に学べます。
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