- 左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別
- ► はじめに
- ► 曲目索引
- ► 作曲家別
- ‣ Bach, Carl Philipp Emanuel(1714-1788) C.P.E.バッハ
- ‣ Bartók, Béla(1881-1945) バルトーク
- ‣ Berens, Hermann(1826-1880) べレンス
- ‣ Berger, Ludwig(1777-1839) ベルガー
- ‣ Blumenfeld, Felix(1863-1931) ブルーメンフェルド
- ‣ Bober, Melody(1955-) ボバー
- ‣ Bonamici, Ferdinando(1827–1905) ボナミーチ
- ‣ Bortkiewicz, Sergei Eduardovich(1877-1952) ボルトキエヴィチ
- ‣ Brahms, Johannes(1833-1897) ブラームス
- ‣ Bridge, Frank(1879-1941) ブリッジ
- ‣ Britten, Benjamin(1913-1976) ブリテン
- ‣ Czerny, Carl(1791-1857) ツェルニー
- ‣ Dreyschock, Alexander(1818-1869) ドライショク
- ‣ Fumagalli, Adolfo(1828-1856) フマガッリ
- · Notturno-Studio Op.2
- · Studio da Concerto: nell’opera Lucia di Lammermoor Op.18 No.1
- · Studio da Concerto: coro nell’opera I Lombardi di Verdi “o Signore! del tetto natio” Op.18 No.2
- · “Casta diva che inargenti” nell’opera Norma di Bellini Op.61
- · Andante nel Mosé (Mi manca la voce) Op.102
- · Grande Fantaisie sur Robert le Diable de Meyerbeer Op.106
- ‣ Hofmann, Josef Casimir(1876-1957) ヨゼフ・ホフマン
- ‣ Joseffy, Rafael(1852-1915) ヨゼフィ
- ‣ Kalkbrenner, Frédéric(1785-1849) カルクブレンナー
- ‣ Köhler, Louis Heinrich(1820-1886) ケーラー
- ‣ Le Beau, Luise Adolpha(1850-1927) ル・ボー
- ‣ Leschetizky, Theodor(1830-1915) レシェティツキー
- ‣ Lipatti, Dinu(1917-1950) リパッティ
- ‣ Liszt, Franz(1811-1886) リスト
- ‣ Marxsen, Eduard(1806-1887) マルクスゼン
- ‣ Mompou, Federico(1893-1987) モンポウ
- ‣ Moszkowski, Moritz(1854-1925) モシュコフスキー
- ‣ Philipp, Isidor(1863-1958) フィリップ
- ‣ Ponce, Manuel(1882-1948) ポンセ
- ‣ Ravel, Maurice(1875-1937) ラヴェル
- ‣ Reger, Max(1873-1916) レーガー
- ‣ Reinecke, Carl(1824-1910) ライネッケ
- ‣ Saint-Saëns, Camille(1835-1921) サン=サーンス
- ‣ Sancan, Pierre(1916-2008) サンカン
- ‣ Schaum, John W.(1905-1988) ショーム
- ‣ Schmidt, Franz(1874-1939) フランツ・シュミット
- ‣ Schulhoff, Erwin(1894-1942) シュールホフ
- ‣ Scriabin, Alexander(1872-1915) スクリャービン
- ‣ Thompson, John(1889-1963) ジョン・トンプソン
- ‣ Wittgenstein, Paul(1887-1961) ヴィトゲンシュタイン
- ‣ Yuya Takano タカノユウヤ
- ‣ Zichy, Géza(1849-1924) ジチー
- ► 終わりに
左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別
► はじめに
左手のためのピアノ曲には、リハビリや技術向上を目的とした練習曲から、演奏会で取り上げられるコンサートピースまで、幅広い作品があります。
本ライブラリーでは、その中から興味深い作品を作曲家別に紹介しています。網羅的な作品目録ではなく、選択的なライブラリーとして構成しており、各作品には難易度・演奏時間・分類などを掲載しています。レパートリー選びの参考としてご活用ください。
左手作品に関する代表的な文献(Donald L. Patterson「One Handed」、Theodore Edel「Piano Music for One Hand」など)を基礎資料としつつ、自身による調査・分析結果も反映しています。また、本ライブラリーでは、これらの文献に掲載されていない作品や教育用教材、近年確認できた作品についても独自に追加・整理しています。
本記事は随時更新し、新たな作品を順次追加していく予定です。ブックマークのうえ、ご活用ください。(最終更新:2026年7月9日)
作品名について
・一般的に広く用いられている原題を掲載し、可能なものについては邦題を併記
・邦題に複数の訳が存在する場合や、定着した邦題が見当たらない場合は、原題のみを掲載
編曲作品について
編曲作品は、原則として以下の基準で掲載しています:
・編曲者が左手作品として独自の音楽的創意・構成を加えているもの(例:バッハ=ブラームス《シャコンヌ》、ゴドフスキ作品など)→ 編曲者の項目に掲載
・既存作品を左手で演奏できるよう実用的に編曲したもの(例:A.R.パーソンズ編曲によるC.P.E.バッハ作品など)→ 原曲作曲家の項目に掲載
・同一作品に複数の左手編曲が存在する場合は、それぞれの編曲者の項目に掲載
► 曲目索引
検索のコツ
ブラウザの検索機能(Ctrl+F または Cmd+F)を使うと、下記のキーワードから目的の作品をすぐに探せます。
【演奏時間】
「1分」「2分」「3分」などで検索すると、「3分30秒」のような表記も検索できます。
【難易度】
「ブルグミュラー25の練習曲」「ツェルニー30番」「ツェルニー40番」「ツェルニー50番」
【分類】
「オリジナル作品」「編曲作品」「作曲家自身による編曲作品」
► 作曲家別
‣ Bach, Carl Philipp Emanuel(1714-1788) C.P.E.バッハ
· Klavierstück for the right or left hand alone
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:右手あるいは左手のための小品
作曲年:1770年以前に作曲
演奏時間:約1分
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品
「左手のみでも右手のみでも弾ける作品」というユニークなコンセプトの作品です。和音が一切出てこないうえに、終始音域が狭めのアルペジオ中心なので、手の大きさを問わない書法となっています。子供向けの学習教材として作曲された可能性が考えられるでしょう。
現在知られている片手独奏作品の中では、最も早い時期の作品の一つとされています。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】片手作品入門:C.P.E.バッハ「Klavierstück for the right or left hand alone」演奏・分析ガイド
· Solfeggio in C minor, Wq 117/2 H220(arr. A. R. Parsons, for left hand)
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)

邦題:ソルフェッジョ ハ短調 Wq 117/2 H220(A.R.パーソンズ編、左手独奏版)
原曲作曲年:1766年
演奏時間:約1分10秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:編曲作品
原曲について
C.P.E.バッハが1766年にポツダムで作曲した鍵盤練習曲で、「ソルフェッジョ」と題する作品の中ではよく知られた一曲です。全曲のほぼすべてが16分音符のパッセージで構成されており、左右の手を交互に用いることを前提とした書法のため、片手だけで弾けるよう編曲するには様々な工夫が求められます。
編曲の特徴
A.R.パーソンズによる左手独奏版では、以下のような処理が施されています:
・連桁を一本にまとめ、片手演奏の流れに合わせた読みやすさを確保
・大きな跳躍が生じる箇所は、和声を保ちながら音の並びを変更して手の移動を抑制
・オクターブの下の音を省略したり、オクターヴの音域を1オクターブ上げたりして無理な跳躍を回避
・装飾音を書き譜にして演奏の目安を明示(C.P.E.バッハ時代の演奏慣習も考慮)
・タイを加えて和声の響きを補う処理も見られる
編曲技法の観点から参考になる箇所が多く、左手のための編曲を学ぶ素材としても有用な一曲です。詳しい解説は以下の記事を参考にしてください。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】C.P.E.バッハ「ソルフェッジョ ハ短調」から学ぶ、左手用編曲のテクニック
‣ Bartók, Béla(1881-1945) バルトーク
ベーラ・バルトーク(1881年ナジセントミクローシュ生まれ、1945年ニューヨーク没)はハンガリーの作曲家・ピアニストです。左手のための独奏曲は1作品のみ作曲しました。民俗音楽の研究者としても知られていますが、この練習曲が書かれた1903年はまだリストやシュトラウスへの傾倒が強い時期にあたり、後年の民族音楽的語法とは異なるロマン派的な書法が色濃く残っています。
· Etude for the Left Hand (Tanulmány balkézre)
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

邦題:4つのピアノ曲 より 左手のための練習曲 BB27
作曲年:1903年
演奏時間:約9分
難易度:ツェルニー50番入門程度以降
分類:オリジナル作品
作品について
バルトーク22歳の作で、ソナタ形式による大規模な単一楽章作品。広い音域と、多出するオクターブ・和音が全体のサウンドを作り出しています。シュトラウスの影響が冒頭の「行動への呼びかけ」とも言える音型ににじんでおり、第2主題はブラームスを思わせる性格を持っています。ロマン派の名残と練習曲的な性格も感じられ、後のバルトークの語法とは異なる習作と言えるでしょう。
献呈:Mesterenek, Thoman Istvánnak ajánlva(師イシュトヴァン・トマーンへ)
初演のエピソード
1903年12月14日、ベルリンのザール・ベヒシュタインでのデビュー・リサイタルで、プログラムの第1曲目に置いてバルトーク自身が初演しました。当日の聴衆にはゴドフスキーとブゾーニがおり、演奏後にゴドフスキーはバルトークを楽屋に訪ね直接賛辞を伝えたと記録されています。バルトーク自身も師に宛てた手紙で、この左手練習曲がもっとも聴衆に印象を与えたと記しました。
‣ Berens, Hermann(1826-1880) べレンス
· Training of the Left Hand Op.89
邦題:左手のトレーニング Op.89
作曲年:1872年頃(1872年出版)
演奏時間:番号による
難易度:ツェルニー30番に入門した段階以降での開始をおすすめ
分類:オリジナル作品
1872年にC.F.ペータース社から出版されました。正確な作曲年は定かではありませんが、1872年、またはその直前に書かれたものと考えられます。
本曲集は2部構成になっています:
第1部 46のトレーニング
・左手のみで演奏する、基礎的な指の動きを集中的に鍛える短いエクササイズ群
・音階、アルペジオ、跳躍、反復音など、左手に必要な様々な動作パターンが網羅
・各トレーニングは1〜2ページ程度の短い楽曲で、特定の技術課題に焦点を当てている
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1部 第3曲 曲頭)

第2部 25の練習曲
・左手のみで演奏する、独立した練習曲として完成された楽曲
・各曲には最終的なテンポ指定、強弱記号、アーティキュレーションなど、表現上の細かい指示が記されている
・技術的な訓練と音楽的な表現の両方を学べる
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第2部 第4曲 曲頭)

この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】ベレンス「左手のトレーニング Op.89」導入完全ガイド
‣ Berger, Ludwig(1777-1839) ベルガー
· Etude de Chant for the left hand Op.12-9
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:12の練習曲 Op.12 より 第9曲
作曲年:1820年頃
演奏時間:約3分10秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品
この作品以前から、左手または右手のどちらでも演奏可能な作品は存在しましたが、1820年前後に作曲された作品は、明確に左手のためだけに書かれ、最初に出版された作品だと言われています。
シューマンが賞賛したとされているこの作品は、左手作品の中では比較的知られている作品と言えるでしょう。ピアニストAnja Wackhusenの録音音源「Fur Die Linke Hand Allein-for Left Hand Only」などにも収録されています。
長調と中間部の短調の対比が美しい、シンプルながらも耳馴染みの良い小品です。
‣ Blumenfeld, Felix(1863-1931) ブルーメンフェルド
· Étude pour la main gauche seule Op.36
邦題:左手のための練習曲 Op.36
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)

作曲年:1905年
演奏時間:約6分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
タイトルに「練習曲」とありますが、音楽的な内容は技術的な習作を超えた充実度を誇ります。
構成面では、メロディを内声に置いてその上下を伴奏声部が包み込むタールベルク的奏法が冒頭と終結部を彩り、中間部には劇的な表現とカデンツァが挿入されるという、明快な三部構造をとっています。
特に結尾部では徐々に音が薄れていくなかで独特の和声進行が現れ、グリーグの「抒情小品集 第3集 春に寄す op.43-6」に通じる淡い色彩感を帯びています。どことなく春の訪れを想起させるような、余韻の深い一曲と言えるでしょう。
‣ Bober, Melody(1955-) ボバー
メロディ・ボバーはアメリカの作曲家兼ピアノ教育者で、初級から中級向けの教育用作品を数百曲以上手がけています。ジャズを学んだ経験を持ち、Alfred Musicをはじめとする出版社から多数の教材を発表。指導現場で長く支持されている作曲家の一人です。
· Grand One-Hand Solos for Piano, Book1-6
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
難易度:Book1(バイエル併用程度)〜 Book6(ツェルニー30番中盤程度)
分類:オリジナル作品
備考:左手のための作品のみならず、右手のための作品も収録
シリーズの概要
全6巻からなる片手のための教材シリーズです。
主な特徴:
・左手・右手の両方を対象とした作品が収録
・Book1〜3には連弾(2手または3手)対応の曲も含まれている
・Book4以降は全曲ソロ用で、片手のみで最後まで演奏が完結
・ラグタイム、ブルース、タンゴ、マラゲーニャなど多彩なジャンルを取り入れている
・運指とペダリングの指示も丁寧に付されている
・大きくない手でも弾きやすい作品が中心で、1曲あたりの長さも短め
各巻の収録曲(左手作品のみ掲載)
Book1
・Secret Mission(連弾)
・Setting Sun(連弾)
・Victory Parade(連弾)
Book2
Lazy Day
Mystery Novel(連弾)
T-Rex Trek(連弾)
Snowbird Waltz(連弾)
Book3
・Treasure Hunt(連弾)
・Left-Hand Boogie Stomp
・Blues Beat
・Climbing the Cascades
Book4(全曲ソロ)
・Boogie Blues Riff
・Our Little Waltz
・Autumn Wind
・Nocturne
Book5(全曲ソロ)
・Malagueña Mood
・Whispers in the Wind
・Bassline Bravo!
・Skater’s Dream
Book6(全曲ソロ)
・Best of Times
・On Stormy Seas
・Moonlit Memory
・Scat Jammin’
このシリーズについてさらに詳しく知る
【ピアノ】メロディ・ボバー「Grand One-Hand Solos for Piano」シリーズ 完全ガイド
‣ Bonamici, Ferdinando(1827–1905) ボナミーチ
1827年ナポリ生まれ、1905年同地没。ナポリ音楽院の書記を経てピアノ教師として活動し、晩年は教育と作曲に専念しました。左手のためのピアノ音楽という分野において、技術の体系化を明確な目的として膨大な練習曲・練習パッセージを書き残した人物です。
· 100 exercices et 153 passages divers pour la main gauche seule, Op.271
100の練習曲集 シリーズ1 より 第1番
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:左手のための100の練習曲と153の多様なパッセージ Op.271
作曲年・出版年:不明(イシドール・フィリップ校訂版:1915年)
難易度:ツェルニー30番入門程度〜(短い練習曲が中心)
分類:オリジナル作品(練習曲集)
Op.271〜273の3曲集のうち最も規模が大きく、100の練習曲と153のパッセージを収めています。100曲はいずれも3段程度に収まる短いもので、3つのシリーズに整理されています。技術的な有用性という点では3曲集の中で最も充実しており、フィリップは1915年の校訂版序文でこの曲集を「左手のために存在する最も完全な作品」と評しました。
巻頭には実践的な演奏指示も記されており、ベンチの位置、テンポ設定、反復回数、疲労時の休息の取り方など、現代の教則本にも通じる細かな配慮が見られます。
ボナミーチをさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くボナミーチ:膨大な練習曲が語るもの
· 30 exercices-études pour la main gauche seule, Op.272
30の訓練的練習曲集 Op.272 より 第1番
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:左手のための30の訓練的練習曲集 Op.272
作曲年・出版年:不明(イシドール・フィリップ校訂版:1915年)
難易度:ツェルニー30番修了程度〜
分類:オリジナル作品(練習曲集)
Op.271とOp.273の中間に位置する曲集で、技術的な訓練と音楽的な性格の両面を兼ね備えることを目指した作品群です。一つのテクニックを反復して身につけるツェルニー的な課題が中心ですが、第10番のようにテンポが途中で変化し、そのままエンディングへと向かうといった音楽的な工夫も見られます。
数曲を除き各曲にボナミーチ自身による解説が付されており、奏法の意図が丁寧に説明されている点が特徴の一つと言えるでしょう。
ボナミーチをさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くボナミーチ:膨大な練習曲が語るもの
· 34 études mélodiques pour la main gauche seule, Op.273
34の旋律的練習曲集 Op.273 より 第3番
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:左手のための34の旋律的練習曲集 Op.273
作曲年・出版年:不明(イシドール・フィリップ校訂版:1915年)
難易度:ツェルニー40番中盤程度〜
分類:オリジナル作品(練習曲集)
3曲集の中で技術的に最も難しく、広い音域を駆使した楽曲的な性格が際立ちます。Op.271から始まる3曲集の流れで言えば、基礎的な指の訓練から音楽的表現へと重心が移った到達点にあたる一冊です。
第3番はレヴェンタール編のアンソロジーにも収録されており、Op.273の中では最もよく知られた曲となりました。上行・下行のグリッサンドが主題の合間に繰り返し現れる、装飾的な性格の作品です。
ボナミーチをさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くボナミーチ:膨大な練習曲が語るもの
‣ Bortkiewicz, Sergei Eduardovich(1877-1952) ボルトキエヴィチ
· 12 Nouvelles Études Op.29-5 “Le Poète”
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:12の新しい練習曲 より 詩人 Op.29-5
作曲年:1924年
演奏時間:約6分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
ロシア出身でオーストリアで活躍した作曲家・ピアニスト、セルゲイ・ボルトキエヴィチによる左手のためのコンサート用練習曲です。
本作「詩人」は、各曲に情景描写的なタイトルが付けられた「12の新しい練習曲 Op.29」の第5曲目にあたり、全12曲の中で、本楽曲のみが「左手だけのため」に書かれています。
· 4 Klavierstücke No.3 Hochzeitsang Op.65-3
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:4つのピアノ曲 第3番 より 祝婚歌 Op.65-3
作曲年:1947年 ※第3番は1934年に原曲が初演されている
演奏時間:約4分20秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
ボルトキエヴィチがその晩年、70歳の誕生日を記念して1947年にウィーンで出版した、彼の生涯最後のピアノ曲集「4つのピアノ曲 Op.65」に収められている作品です。全4曲の中で、この第3曲のみが唯一「左手だけのため」に書かれています。
この曲はもともとは「ロシアの結婚の歌」というタイトルで1934年頃に構想されており、同年6月にピアニストのルドルフ・ホルン(本作の献呈者)によってベルリンのラジオ番組ですでに初演されていました。その後、長年温められていたこの作品に改訂が加えられ、1947年になって他の3つの両手用の楽曲とともに一つの曲集(Op.65)として結実しました。
「祝婚歌(婚礼の歌)」というタイトルの通り、人生の門出を祝うような温かさと、ボルトキエヴィチならではの優美でノスタルジックな旋律が印象的な小品です。
‣ Brahms, Johannes(1833-1897) ブラームス
· Chaconne by J.S. Bach for the left hand alone
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:ピアノのための5つの練習曲 より J.S.バッハのシャコンヌ
編曲年:1877年
演奏時間:約17分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品
J.S.バッハの名作「シャコンヌ」を、ブラームスが左手のみで演奏できるように編曲した異色の作品、通称「バッハ=ブラームス シャコンヌ」。左手独奏作品の中でも芸術性が高い一曲で、多くのピアニストに愛奏されています。
本作は1877年6月、ブラームスが親しい友人であったクララ・シューマンへ宛てた手紙とともに贈られました。当時、右手を痛めていたクララのために、左手だけで演奏できるように編曲したものです。ブラームスは手紙の中で「今日、君に送るものほど面白いものは他にないと思う」と書き添えており、音楽的なユーモアと彼女への深い思いやりが詰まった名編曲として知られています。
この作品をさらに詳しく知る
特徴、おすすめ楽譜、練習のポイント、必要な技術レベルまで網羅した完全ガイド
【ピアノ】バッハ=ブラームス「シャコンヌ」完全ガイド:難易度・楽譜選択のポイント
J.S.バッハ「シャコンヌ」の他の左手編曲と比較する
【ピアノ】左手のみで演奏するJ.S.バッハ「シャコンヌ」編曲版の種類と背景
‣ Bridge, Frank(1879-1941) ブリッジ
イギリスの作曲家、フランク・ブリッジ(1879年ブライトン生まれ、1941年イーストボーン没)は、作曲家として活動する傍ら、ヴィオラ奏者・指揮者としても幅広く活躍しました。室内楽の書き手として特に高く評価されています。ベンジャミン・ブリテンを指導したことでも知られています。
· 3 Improvisations for the Left Hand
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:左手のための3つのインプロヴィゼーション
作曲年:1918年
演奏時間:全曲合計 約8分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
構成
1. At Dawn(夜明けに) 2. A Vigil(通夜) 3. A Revel(歓楽)
この作品は、第一次世界大戦での負傷がきっかけで右手を失ったピアニスト、ダグラス・G・A・フォックスのために1918年に書かれました。ブリッジはフォックスを励ますためにこの曲を贈り、「この曲が独り立ちして、貴方にほほえみかけてくれることを願って」という言葉を手紙に添えたと伝わっています。
3曲は対照的な性格を持っています。印象主義的な和声が音楽を作っており、3曲まとめて演奏会で取り上げることに適した、まとまりのある作品群です。第1曲から第3曲へ向けて徐々に音楽が分かりやすくなっていくのが特徴の一つと言えるでしょう。
音源について
ステファン・ヴァルズィッキ「Piano Music for the Left Hand」(Nimbus Alliance、2015年)やポール・コーカー「Malgré Tout…Piano music for left hand」(Doron Music、2012年)などに収録されています。これらのアルバムの詳細は以下の記事をご参照ください。
・【ピアノ】ステファン・ヴァルズィッキ「Piano Music for the Left Hand」レビュー
・【ピアノ】ポール・コーカー「Malgré Tout…Piano music for left hand」レビュー
‣ Britten, Benjamin(1913-1976) ブリテン
· Diversions on a theme for piano(left hand)and orchestra Op.21
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のためのピアノ協奏曲
作曲年:1940年
演奏時間:約25分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品
パウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱により1940年に完成。初演は1942年1月17日、フィラデルフィア管弦楽団、ユージン・オーマンディ指揮のもとヴィトゲンシュタイン自身が演奏しました。当初の題名は「コンサート・ヴァリエーションズ」で、「ディヴァージョンズ」は後から改められたものです。
ブリテンはこの作品で「両手のテクニックを模倣しない」という立場を明確にしています。単一のラインが持つ可能性をあらゆる角度から探ることを目的とした変奏曲であり、各変奏はそれぞれ異なる音楽的表情を追求しています。
ヴィトゲンシュタインはオーケストラの書法が厚すぎると異議を唱えましたが、ブリテンは変更に応じませんでした。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】ラヴェルとブリテンの左手協奏曲:対照的な二つのコンセプトを比較する
‣ Czerny, Carl(1791-1857) ツェルニー
カール・ツェルニー(1791年ウィーン生まれ、1857年同地没)はウィーンのピアニスト・作曲家・教育者で、多作なピアノ曲の書き手の一人です。ベートーヴェンと親しく、その音楽の初演に携わるとともに32曲のソナタをすべて暗譜していたと伝わっています。教師としてはのちのフランツ・リストを9歳から無償で2年間指導し、その後の活躍の土台を作りました。
· Two Studies for the Left Hand Alone, Op.735
第1番 ト短調 Allegro maestoso
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

第2番 変イ長調 Andante expressivo
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:左手のための2つの練習曲 Op.735
作曲年:不明
演奏時間:第1番 約2分50秒 / 第2番 約3分10秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
構造はシンプルですが、オクターブ、音階、トリル、分散和音など幅広い技術が要求される作品。2曲は性格が対照的で、第1番は堂々としたAllegro maestoso、第2番はAndante expressivoによる歌うような書法です。
なお、ツェルニー自身は左右どちらの手でも弾かれることを想定していたとも考えられています。
· Etude for One Hand in A major
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、曲頭)

邦題:片手のための練習曲 イ長調
作曲年:不明
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
単一のテクニックの練習に絞ったエチュードではなく、様々なテクニックを含む総合的練習曲。ツェルニーのエチュードとしては珍しく、テンポ変化が多いうえに、カデンツァ風の音の扱いも見られます。この点で短かい小品を集めたかのような印象を持つ一作となっています。
レヴェンタール編のアンソロジーにも収録されており、Op.735よりも知られた曲となりました。
‣ Dreyschock, Alexander(1818-1869) ドライショク
· Variations pour la Main gauche seul Op.22
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:左手のための変奏曲 Op.22
作曲年:1843年頃
演奏時間:約7分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
導入部は朗唱風のパッセージから始まり、アンダンテ・コン・エスプレッシオーネの主題が提示され、アルベルティ・バスの伴奏に乗った叙情的なメロディーに続いて、3つの変奏とフィナーレが展開されます。
全曲を通して音域は幅広く取られていますが、すべて一段の楽譜で書かれているのが特徴と言えるでしょう。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くドライショク:片手で二人分を弾いた男
· God save the Queen, variation Op.129
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」による大変奏曲 Op.129(左手のための)
作曲年:1854年以前
演奏時間:約8分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
タイトルのとおり英国国歌を素材にとった変奏曲です。
音楽的な構成や主題変容を味わう作品というよりは、超絶技巧そのものを楽しむパフォーマンスピースとしての性格が強いように感じます。
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【ピアノ】左手作品から読み解くドライショク:片手で二人分を弾いた男
‣ Fumagalli, Adolfo(1828-1856) フマガッリ
· Notturno-Studio Op.2
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、Andante部分より)

邦題:ノットゥルノ=スタジオ Op.2
作曲年:不明
演奏時間:約8分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品
学生時代に書かれた習作とみられる作品です。リコルディから出版されていますが、詳細な資料が少ない作品となっています。
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【ピアノ】左手作品から読み解くフマガッリ:28歳で逝った「ピアノのパガニーニ」
· Studio da Concerto: nell’opera Lucia di Lammermoor Op.18 No.1
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:スタジオ・ダ・コンチェルト(ドニゼッティ《ランメルモールのルチア》より) Op.18 No.1
編曲年:不明
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品
ドニゼッティのオペラ《ルチア》の終幕、テノールが歌うアリアを題材にしています。金管楽器の導入部を忠実に受け継ぎつつ、主旋律のあいだに2つのカデンツァを織り込んだ構成です。旋律そのものの美しさが作品を支えていますが、アルペジオの扱いがやや単調になる場面も見受けられます。
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【ピアノ】左手作品から読み解くフマガッリ:28歳で逝った「ピアノのパガニーニ」
· Studio da Concerto: coro nell’opera I Lombardi di Verdi “o Signore! del tetto natio” Op.18 No.2
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:スタジオ・ダ・コンチェルト(ヴェルディ《十字軍のロンバルディア人》より「おお、故郷の屋根よ」) Op.18 No.2
編曲年:不明
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品
ヴェルディのオペラから合唱曲を素材にとっています。終盤にオクターブのグリッサンドが現れる点が特徴的です。また、トリルと和音を左手だけで同時にこなす書法も含まれており、片手演奏の可能性を引き出そうとする工夫が随所に見られます。音楽的な魅力という点ではやや控えめな作品と言えるでしょう。
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【ピアノ】左手作品から読み解くフマガッリ:28歳で逝った「ピアノのパガニーニ」
· “Casta diva che inargenti” nell’opera Norma di Bellini Op.61
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:「清らかな女神(カスタ・ディーヴァ)」(ベッリーニ《ノルマ》より) Op.61
編曲年:不明(1851年出版)
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:編曲作品
トマジーニ夫人に献呈。フマガッリの左手作品のなかで最も広く知られる一曲で、演奏会用トランスクリプションとして時折耳にします。
オクターブを多用した重厚な書法、随所に挿入されるカデンツァ、幅広い音域を縦横に駆け巡るアルペジオが、豊かな音響を生み出します。
ただし、抒情的な箇所の伴奏処理では原曲の管弦楽パターンをほぼそのまま踏襲しており、左手に適した音型へ置き換える創意に欠けるという批評もあります。その結果、第1セクションだけで16か所もの大きな跳躍が生じており、これは練習で解決できる種類の問題ではありません。不滅の旋律が作品を成立させているとはいえ、こうした構造上の課題も無視できないでしょう。
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【ピアノ】左手作品から読み解くフマガッリ:28歳で逝った「ピアノのパガニーニ」
· Andante nel Mosé (Mi manca la voce) Op.102
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:アンダンテ「声がない(Mi manca la voce)」(ロッシーニ《モーゼ》より) Op.102(遺作)
編曲年:不明
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:編曲作品
ロッシーニのオペラ《モーゼ》のアリアに基づく作品で、全曲にわたって3段譜が用いられています。左手作品において3段譜が通篇に使われることは非常に珍しく、フマガッリの表現に対する意欲がうかがえます。音響的には充実していますが、原曲の管弦楽伴奏に必要以上に縛られているために極端な跳躍が頻出し、音楽の流れにぎこちなさが生じています。
なお、「One Handed」(ドナルド・L・パターソン 編)では “Op.100 No.19” と記載されていますが、実際の楽譜で Op.102(遺作)と確認されているため、パターソンの記載は誤りと考えられます。
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【ピアノ】左手作品から読み解くフマガッリ:28歳で逝った「ピアノのパガニーニ」
· Grande Fantaisie sur Robert le Diable de Meyerbeer Op.106
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-8小節)

邦題:《ロベール・ル・ディアーブル》による大幻想曲(マイアベーア) Op.106
編曲年:不明
演奏時間:約15分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品
6曲のなかで規模・難度ともに最大の作品で、リストへの献呈という選択が、フマガッリ自身のこの曲への自信を物語っています。
鍵盤全体を席巻する高速のオクターブ、和音、跳躍が連続し、終盤にはオクターブのグリッサンドも登場します。随所に力強い書き方が光る一方、各セクションをつなぐ転換部は唐突で工夫に乏しく、形式的な仕上がりとしては物足りないという評価も残されてきました。
左手一本の限界に挑んだ記念碑的な作品と言えますが、音楽的な完成度という観点では評価が割れるところです。
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【ピアノ】左手作品から読み解くフマガッリ:28歳で逝った「ピアノのパガニーニ」
‣ Hofmann, Josef Casimir(1876-1957) ヨゼフ・ホフマン
ヨゼフ・ホフマン(1876年クラクフ近郊ポドゴルジェ生まれ、1957年ロサンゼルス没)はポーランド系アメリカ人のピアニスト・作曲家・発明家です。幼少期から神童として名をはせ、アントン・ルービンシュタインが唯一受け入れた私的な弟子となりました。20世紀を代表する大ピアニストのひとりとして長年にわたり演奏活動を続け、特にショパンの演奏で高い評価を得ています。作曲家としても100曲以上の作品を残しており、多くは「ミヒャエル・ドヴォルスキー」という筆名で出版されています。また70以上の特許を持つ発明家でもありました。
· Etude for the Left Hand in C major, Op.32
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:左手のための練習曲 ハ長調 Op.32
作曲年:不明
演奏時間:約3分50秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
Andanteの柔らかい曲想から、スケルツォ的性格のマーチへと向かう構成です。半音階的な和声や広い音域を使用した充実した一作です。ホフマンは多くの作品で筆名を使用しましたが、この作品は自身の名前で出版されました。ホフマンによるピアノロールの演奏記録も残っています。
録音機会は多くない作品ですが、ピアニストArtem Yasynskyyの録音音源「Hofmann: Piano Works」などに収録されています。
‣ Joseffy, Rafael(1852-1915) ヨゼフィ
· J.S. Bach: Partita No.3, BWV1006 Gavotte
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:J.S.バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006 より ガヴォット」:ヨゼフィによる左手独奏用編曲版
作曲年:1720年(ヨゼフィ編曲版:1880年出版)
演奏時間:約3分30秒
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品
ラファエル・ヨゼフィ(1852-1915年)は、ヴァイマルでリストに師事したハンガリー出身のピアニストです。1879年にアメリカでデビューを果たし、そのまま同地に拠点を移しました。
原曲への忠実度は比較的高く、旋律は主に単音で書かれています。ヨゼフィはいくつかの箇所で和音に音を追加したり、独自の低音声部を付け加えたりしていますが、装飾音の処理にはやや不自然な部分もあることが指摘されてきました。
Ruby Morgan 編曲版について
2021年、Ruby Morgan編の左手独奏曲アンソロジー「An Anthology of Piano Music for the Left Hand Alone」が出版されました。このアンソロジーには、ヨゼフィ版をもとにMorganがさらに手を加えた楽譜が収録されています。
主な改訂点は以下のとおりです:
・演奏上の難点となっていた装飾音を整理・削除
・ヴァイオリン原典譜のアーティキュレーションを積極的に反映
・リュート版と考えられる「BWV1006a」の要素を部分的に取り入れた
‣ Kalkbrenner, Frédéric(1785-1849) カルクブレンナー
· Fugue à quatre parties pour la main gauche seule
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-8小節)

邦題:左手のための4声のフーガ
作曲年:1831年頃(1831年出版)
演奏時間:約1分30秒
難易度:ツェルニー30番修了程度
分類:オリジナル作品
全12曲からなる「メソッド Op.108」の第8曲が、「左手のための4声のフーガ」で、左手のみのための最初のフーガという説が有力になっています。1831年に出版されました。正確な作曲年は定かではありませんが、1831年、またはその直前に書かれたものと考えられます。
テンポが速い4声のフーガでありながらも、シンプルな対位法で書かれているので、取り組みやすい作品として左手作品の中でも知られている一曲です。
‣ Köhler, Louis Heinrich(1820-1886) ケーラー
· Schule der linken Hand, Op. 302(School of the Left Hand)
邦題: 左手ための教本 Op.302
作曲年:幅広い年代の作品が収録されたアンソロジー
難易度:ツェルニー30番入門程度の作品から上級作品まで
分類:オリジナル作品+編曲作品
この曲集には、ケーラーが作曲・編曲した左手作品が複数収録されています。
| 曲名・内容(日本語) | 原題(独/英/仏) |
|---|---|
| 3つの小品 | Drei Vortragsstücke (l. H. allein) / Three Pieces (l. h. alone) |
| メロディの練習曲 | Melodie-Etüde |
| 練習曲 | Etüde |
| 2つの民謡 | Zwei Volkslieder (l. H. allein) / Two Popular Songs (l. h. alone) |
| 「オベロン」のメロディ | Melodie aus Oberon (l. H. allein) |
| 2つの小品 | Zwei Stücke (l. H. allein) / Two Pieces (l. h. alone) |
| 「魔弾の射手」のメロディ | Melodie aus dem Freischütz (l. H. allein) |
| ガボット | Gavotte (l. H. allein) |
| 「ジョセフ」のメロディ | Melodie aus Joseph (l. H. allein) |
| 「魔弾の射手」のメロディ | Melodie aus dem Freischütz (l. H. allein) |
注意:
・この一覧表からは、ケーラーが作曲した左手のためのエクササイズ(ハノンのような音遣いの作品)は除外
・本曲集に収録されている「両手」で演奏するケーラー作品も除外
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【ピアノ】ケーラー「左手のための教本 Op.302」完全ガイド:収録曲一覧・難易度・おすすめ作品
‣ Le Beau, Luise Adolpha(1850-1927) ル・ボー
ルイーゼ・アドルファ・ル・ボー(1850年ラシュタット生まれ、1927年バーデン=バーデン没)はドイツの女流作曲家・ピアニストです。クララ・シューマンに師事し、批評家ハンスリックからも高く評価されました。自作の演奏を各地で行い、演奏家・作曲家の両面で活動した人物です。
· Improvisata: Klavierstudie für die linke Hand allein, Op.30
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、 小節)
作成中
邦題:インプロヴィザータ(即興曲):左手のための練習曲 Op.30
作曲年:1883年頃
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
特定の音型を繰り返すエチュード的な書法が骨格をなしています。分散和音を中心とした音型が続く中、跳躍の直後に音程幅の広い和音を掴む場面が多く、演奏上の難所と言えるでしょう。
構成はAndanteとAgitatoが交互に現れる形で、Andante → Agitato → Andante → Agitatoと場面が転換します。後半に向かうにつれ、冒頭からにじんでいた下降音型の素材がより前面に押し出され、音楽に濃密さが加わっていきます。
‣ Leschetizky, Theodor(1830-1915) レシェティツキー
テオドール・レシェティツキー(1830-1915)はガリツィア(現ポーランド)のランツート生まれ、ドレスデン没のピアニスト・教育者です。ツェルニーに師事し、その指導法を受け継ぎながら独自の奏法論を発展させました。アントン・ルービンシュタインとも親しく、ペテルブルク音楽院ではピアノ科の主任を務め、後にウィーンで教育者として絶大な名声を築きました。
· Andante finale from “Lucia di Lammermoor,” Op.13
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:「ランメルモールのルチア」のアンダンテ・フィナーレ Op.13
編曲年:遅くともドライショクの生前である1869年以前(19世紀半ば頃)と考えられる
演奏時間:約6分00秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品
ドニゼッティのオペラ「ランメルモールのルチア」の名場面、六重唱「Chi me frena in tal momento」をもとにした編曲です。両手版を書いたリストが有機的な序奏を設けているのに対し、このレシェティツキー版には独自の長い前置きが付されていますが、その必然性については疑問が呈されることもあります。
ドニゼッティの美しい旋律と、ピアニストであるレシェティツキーならではのピアニスティックな装飾が結びついた編曲で、上級者用のコンサートピースに適した仕上がりと言えるでしょう。
「The Boston Music Company Digest Of Piano Pieces: For The Left Hand Alone(1917)」をはじめ、多くのアンソロジーに収録されている、左手編曲の中では比較的知られている一曲です。ヴァクフゼン「Für die linke Hand allein」など、輸入盤の録音音源には度々収録されています。
‣ Lipatti, Dinu(1917-1950) リパッティ
· Sonatine pour piano(Main gauche seule)
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1楽章 1-4小節)

邦題:左手のためのソナチネ
作曲年:1941年(1947年完成)
演奏時間:全曲合計 約7分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
教師ミハイル・ジョラと名付け親エネスクへの誕生日祝いとして構想された作品です。五線紙が不足していたため「1段で書ける=片手のための曲」を思いついたという逸話が残っています。また、ジョラが片脚の人物だったことから、一種のブラックユーモアも込められていたと伝わっています。
3楽章構成。和音・オクターブ主体の部分と対位法的な部分が混在しています。声部ごとに異なるダイナミクスが指定される箇所も見られ、左手作品の中では比較的珍しい書法と言えるでしょう。他声部が休止してメロディが単独で浮かび上がる「無伴奏表現」が全楽章を通じて印象的な作品です。
リパッティ自身によるモノラル録音が現存しており、「”Mit links” — Der Pianist Paul Wittgenstein」などに収録されています。
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【ピアノ】左手作品から読み解くリパッティ:逸話に彩られた左手のソナチネ
‣ Liszt, Franz(1811-1886) リスト
· A magyarok Istene (Ungarns Gott) S.543 R.214
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:ハンガリーの神 S.543 R.214
作曲年:1881年(原曲)
演奏時間:約3分20秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:作曲家自身による編曲作品
ハンガリーの国民的詩人ペテーフィ(Sándor Petőfi)の詩をもとにリスト自身が作曲した歌曲のトランスクリプションで、ジチー伯爵への献呈作品として書かれました。元となった歌曲はリストの後期、1881年の作品であり、リストの歌曲集において末尾から2作目に収められています。
ペテーフィは1848年のハンガリー革命を詩によって鼓舞した愛国詩人として名高く、この詩もハンガリーの神へ捧げる祈りと民族の誇りを主題としています。晩年のリストがこの詩を取り上げたことは、生涯にわたって抱き続けた故郷ハンガリーへの深い愛着を物語るものでしょう。
音楽的には、晩年のリストのピアノ作品に見られる素朴な書法と、独特の和声の動きが印象的な一曲です。構成は即興的かつ自由で、朗唱を思わせる旋律線とカデンツァ的なパッセージが織り交ぜられています。
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【ピアノ】左手作品から読み解くリスト:二つの作品に見る作曲家の素顔
‣ Marxsen, Eduard(1806-1887) マルクスゼン
· Three Impromptus: Homage to Dreyschock Op.33 No.2
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第2曲 1-4小節)

邦題:3つの即興曲「ドライショクへのオマージュ」Op.33 より 第2曲
作曲年:1844年以前
演奏時間:約3分50秒
難易度:ツェルニー30番修了程度
分類:オリジナル作品
副題が示すとおり、当時ヨーロッパの演奏界で「2本の右手を持つ男」と称されていた左手の名手アレクサンダー・ドライショクへの献呈作品です。
4小節の短い導入部に続き、f-mollのメランコリックな主部が始まります。中間部はF-durのAllegrettoに転じ、その後に再び冒頭の旋律に戻って静かに閉じる三部構造です。
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【ピアノ】左手作品から読み解くマルクスゼン:ブラームスの恩師が遺した片手の音楽
· Studies for the Left Hand Alone(in six characteristic pieces dedicated to Henselt)Op.40
邦題:左手のための練習曲「6つの性格的な小品」Op.40(ヘンゼルトに捧げる)
作曲年:1844年頃
難易度:ツェルニー30番修了程度
分類:オリジナル作品
「練習曲(Etüden)」と「性格的な小品(charakteristische Stücke)」という二つの顔を持つこの曲集は、練習曲でありながら、それぞれが独立した小品として構想されている点に特徴があります。
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【ピアノ】左手作品から読み解くマルクスゼン:ブラームスの恩師が遺した片手の音楽
‣ Mompou, Federico(1893-1987) モンポウ
フェデリコ・モンポウはバルセロナ生まれのカタルーニャの作曲家で、主にパリとバルセロナを拠点に活動しました。ピアノ独奏曲と声楽曲を中心に作品を残しており、サティ、ドビュッシー、ラヴェルとの親近性がしばしば指摘されます。小品を好み、かつ小節線を用いない記譜法はモンポウの個性の一つで、演奏者に自由なニュアンスの余地を与えています。
· Sixième Prélude (pour la main gauche) from Six Préludes
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:6つの前奏曲 より 第6番(左手のために)
作曲年:1930年
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
第6番(第VI番)は、主に単音の連なり・広い音域で書かれており、モンポウ特有の小節線のない記譜による自由なゆらぎの中で語りかけるような作品になっています。
運指の指示はありませんが、ペダリングは丁寧に書き込まれており、響きの扱いに細かな配慮がうかがえます。演奏会でも取り上げられる質を備えた小品と言えるでしょう。
· Variations sur un thème de Chopin — Variation 3 (Lento, pour la main gauche)
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ショパンの主題による変奏曲 — 第3変奏(左手のために)
作曲年:1938–1957年(全曲完成:1957年)
演奏時間:約1分
難易度:ツェルニー40番入門程度
分類:オリジナル作品(変奏曲の一部)
作品の背景
全12変奏からなる「ショパンの主題による変奏曲」は、ショパンの「プレリュード Op.28-7」を主題としています。作品の構想は1938年にさかのぼり、チェリストのガスパール・カサドとの共同プロジェクトとして出発しましたが、この試みは途中で頓挫しました。その後、ロンドンのロイヤル・バレエからの勧めをきっかけに作曲が再開され、1957年に12変奏の全曲が完成しています。変奏1〜3と第5変奏は1938年のカサド・プロジェクト由来とされており、初演は1964年にカタルーニャのピアニスト、アルベルト・アテネリェによって行われました。
第3変奏について
第3変奏はLento、左手独奏のために書かれました。全12変奏の中で左手のみによる変奏はこの第3変奏だけであり、モンポウがこの曲集の中で意図的に設けた特異な場面です。モンポウらしい静謐な書法の中に、左手独奏という制約が自然に溶け込んだ変奏と言えるでしょう。
‣ Moszkowski, Moritz(1854-1925) モシュコフスキー
· 12 Etudes for the left hand alone Op.92
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第4番 1-4小節)

邦題:左手のための12の練習曲 Op.92
作曲年:1915年頃(1915年出版)
演奏時間:全曲合計 約28分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
「左手のための12の練習曲 Op.92」は、パリのEnoch & Cie社から1915年に出版された曲集で、ピアニストのハロルド・バウアー(1873-1951)に献呈されています。
モシュコフスキーといえば「15の練習曲 Op.72」を思い浮かべる方が多いかもしれません。それに比べるとOp.92の知名度は高くありませんが、左手独奏に必要なテクニックが巧みに取り入れられており、なおかつ身体への負担がかかりすぎないよう計算されて音が選ばれているのが特徴です。
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【ピアノ】モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92」完全ガイド
‣ Philipp, Isidor(1863-1958) フィリップ
イシドール・フィリップ(1863-1958)はハンガリー出身のフランスのピアニスト・教育者で、パリ音楽院では1893年から1934年まで教鞭を執りました。左手のための教材づくりにも積極的に取り組んでおり、1895年には全編が左手独奏のための練習曲集「Exercices et études techniques」を出版しています。右手向けの音型をそのまま左手へ移すという、当時としては新鮮な発想による教材でした。
· Chaconne by J.S. Bach for the left hand alone
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004 より シャコンヌ(左手独奏編曲版)
出版年:1903年(「4 Etudes d’après Bach バッハによる4つの練習曲」の第4曲として)
演奏時間:約17分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品
1903年出版の「4 Etudes d’après Bach バッハによる4つの練習曲」は、バッハの無伴奏ソナタ・パルティータから4曲を選んで左手用に編んだもので、シャコンヌはその第4曲にあたります。ブラームス版と比べると技巧的な難度も高めの仕上がりです。
興味深いのは、フィリップが独自のシャコンヌ編曲を手がける一方で、ブラームス編のシャコンヌをデュラン社から自ら監修して出版もしている点です。独自のアーティキュレーションなどを書き込んでいる事実から、フィリップがブラームス版を高く評価していたことが見てとれます。
J.S.バッハ「シャコンヌ」の他の左手編曲と比較する
【ピアノ】左手のみで演奏するJ.S.バッハ「シャコンヌ」編曲版の種類と背景
‣ Ponce, Manuel(1882-1948) ポンセ
· Malgré tout
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:マルグレ・トゥー
作曲年:1900年
演奏時間:約3分30秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品
ポンセがまだ10代のころに書いた左手独奏のための小品で、ハバネラリズムに乗った、魅力的で生き生きとした旋律と伴奏が特徴的です。大きな跳躍、ギター風の音遣い、装飾音など、表現の工夫が随所に盛り込まれています。
題名「Malgré tout(それにもかかわらず)」は、メキシコの彫刻家ヘスス・フルクトゥオソ・コントレラス(1866-1902)の同名の彫刻作品から着想を得ています。コントレラスは癌により右腕を失いながらも制作を続けたことで知られており、ポンセはこの彫刻に敬意を込めてこの曲を書いたとされています。
· Prelude and Fugue
前奏曲
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

フーガ
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:前奏曲とフーガ
作曲年:1931年
演奏時間:約5分30秒(前奏曲とフーガ合計で)
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品
ヘンデルの主題による左手独奏のための前奏曲とフーガ。パウル・ウィトゲンシュタインのために書かれた可能性が考えられています。
前奏曲は旋律を声部分けで示しながらギターで演奏しているかのように線的に進み、フーガは半音階的な進行と「嘆息」の動機が印象的です。
‣ Ravel, Maurice(1875-1937) ラヴェル
· Concerto pour la main gauche
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、ソロの初導入部 29-33小節)

※ラヴェル自身によるピアノ伴奏版編曲(ソロ+ピアノ伴奏形式:2台ピアノ)から浄書
邦題:左手のためのピアノ協奏曲
作曲年:1929-1930年
演奏時間:約18-20分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品
背景
第一次世界大戦で右腕を失ったピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱により誕生しました。彼はリヒャルト・シュトラウス、プロコフィエフ、ブリテンら多くの作曲家に左手作品を依頼した人物で、ラヴェルとの出会いは1929年のウィーンとされています。
この曲の何が革新的か
最大の革新は、左手作品を「特殊なレパートリー」から「本格的な協奏曲」へ押し上げたことにあります。ラヴェルは「左手のために書いたと感じさせたくない」という姿勢で作曲に臨み、サン=サーンス、アルカン、スクリャービンらの先行作品を丁寧に研究しました。それまでの左手作品の多くが練習曲的な小品や両手作品の翻訳に留まりがちだったのに対し、この協奏曲はオーケストラと対等に渡り合う本格的なソロ作品として設計されたものです。片腕の演奏家を「オーケストラと対峙する英雄」として描いたようにも感じられます。単一楽章の持続的な構造、中間部でのジャズ語法の統合も大きな特徴と言えるでしょう。
なぜ、これほど有名か
同じ委嘱作品群の中で今日最も演奏される理由は、独奏者の存在感を正面に押し出した書法の完成度にあります。加えて、楽譜解釈をめぐるラヴェルとヴィトゲンシュタインの対立が、かえって作品の評判を高めた側面も見逃せません。独占演奏権の失効後、カサドシュが1937〜71年の間に170回以上演奏したことも、広く普及した大きな要因となっています。
左手音楽史での位置づけ
1929-1930年当時、左手専用の大規模な作品はほとんど存在していませんでした。この協奏曲は左手音楽を「独立した音楽語法」として確立した作品と見なされており、以降に書かれた左手作品の多くが、この曲の存在を出発点として持っていると考えられます。左手ピアノ史を「この曲以前・以後」に分けて考えることも、決して誇張ではないでしょう。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】なぜ、ラヴェルの左手協奏曲は傑作なのか?:左手音楽史から読み解く
‣ Reger, Max(1873-1916) レーガー
マックス・レーガー(1873年バイエルン州ブラント生まれ、1916年ライプツィヒ没)はドイツの作曲家です。ミュンヘン時代にはピアニストとしても知られ、オルガンとピアノのためのフーガを数多く残しました。J.S.バッハとブラームスの系譜を意識した作曲家として位置づけられています。
· Vier Spezialstudien für die linke Hand allein, für Pianoforte
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第4曲 1-2小節)

邦題:左手のための4つの特別な練習曲
構成
1. Scherzo(スケルツォ) 2. Humoreske(ユモレスク)
3. Romanze(ロマンス) 4. Prelude and Fugue(前奏曲とフーガ)
作曲年:1901年
演奏時間:全曲合計 約11分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
レーガーのピアノ音楽に典型的な4つの性格的小品。半音階的な和声の使用など、彼の特徴がよく出ている作品です。各曲は独立して演奏することも、いくつかをまとめて取り上げることも可能です。
スケルツォ
・冒頭から技術的な難所が続く、全4曲の中では最も練習曲らしさを感じさせる作品
ユモレスク
・スタッカートの3度を中心とした、明るい性格の曲
ロマンス
・広い音域を駆使した豊かな音響を持つ叙情的な曲
・アンコールで単独で演奏されるのも耳にする
前奏曲とフーガ
・3声のフーガで書かれている
・4曲中最も比重が大きく、演奏時間も約5分に及ぶ
・全4曲の中では最も難易度が高いが、単独で演奏される機会は一番多い
‣ Reinecke, Carl(1824-1910) ライネッケ
カール・ライネッケ(1824年アルトナ生まれ、1910年ライプツィヒ没)はドイツの作曲家・ピアニスト・指揮者・教育者です。シューマンと親しく、リストにもその演奏を評価されました。ライプツィヒ音楽院の院長とライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者という二つの要職を長年にわたって務め、ドイツのロマン派の伝統を守る立場として知られています。
· Zwei Charakterstücke und eine Fuge, Op.1 — Fuge
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:2つの性格的小品とフーガ Op.1 より フーガ(左手のみ)
作曲年:1837年
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー40番入門程度
分類:オリジナル作品
備考:「2つの性格的小品」は両手作品。フーガのみが左手独奏
連打を交えた特徴的な主題によるポリフォニックなフーガで、曲の最後はホモフォニー風に変わり、perdendosiで静かに遠ざかりながらピカルディ終止で締めくくられます。手が大きくないと弾きにくい箇所があります。
· Eine Klaviersonate für die linke Hand allein, Op.179
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1楽章 1-3小節)

邦題:左手のためのピアノソナタ Op.179
作曲年:1884年
演奏時間:全曲合計 約15分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品
19世紀に出版された左手独奏のためのピアノソナタとしてはジチーのものと並ぶ稀少な作品で、やや小規模ながら演奏会でも独立して成り立つソナタです。4楽章構成で、各楽章は伝統的な形式に従っています。
第1楽章:Allegro moderato:ソナタ形式
第2楽章:Andante lento:ハンガリーの民謡「Nemenj rózsám a tarlóra」を主題とした変奏形式
第3楽章:Menuetto:スケルツォ風のメヌエット、トリオを含む
第4楽章:Allegro molto:ロンド形式、無窮動風の部分とマーチ風の部分が登場する
19世紀ロマン派の和声語法を基調とし、シューマンやブラームスへの影響が見られる一方で、保守的な書法にとどまっているという評もあります。
‣ Saint-Saëns, Camille(1835-1921) サン=サーンス
· Six Études pour la main gauche seule, Op.135
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第5曲 1-5小節)

邦題:左手のための6つの練習曲 Op.135
作曲年:1912年
演奏時間:全曲合計 約18分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品
構成
1. Prélude(前奏曲) 2. Alla Fuga(フーガのように) 3. Moto Perpetuo(無窮動)
4. Bourée(ブーレ) 5. Élégie(エレジー) 6. Gigue(ジーク)
作品について
70代半ばを過ぎたサン=サーンス晩年の作で、彼が手がけた練習曲集としては最後の作品にあたり、先行作にはOp.52、Op.111があります。左手のための作品としてはこの一作のみが残されました。和音中心ではなく、単一の音符の連続によるパッセージワークや、声部の独立を意識した対位法的な書法を基調としています。17世紀フランス舞曲への関心が組曲という形式の選択ににじみ出ているのが特徴です。
逸話
ピアニストのロベール・カサドシュは、師ルイ・ディエメ(1843-1919)がサン=サーンスと深い親交を結んでいたことを回想しています。サン=サーンスは優秀な弟子たちのためにこの6曲を書いたとされ、当時12人いた生徒の中からディエメが6人を選び、各曲を割り当てたといいます。お気に入りだったカサドシュにはBourée(ブーレ)が任されました。サン=サーンス本人の前でその曲を演奏したものの、言葉を交わす機会には恵まれなかったそうです。
‣ Sancan, Pierre(1916-2008) サンカン
ピエール・サンカン(1916年マザメ生まれ、2008年パリ没)はフランスの作曲家・ピアニスト・指揮者・教育者です。モロッコで音楽を始め、パリ音楽院でフーガ、指揮、ピアノ、作曲を学び、1943年にカンタータ「イカロスの伝説」でローマ大賞を受賞しました。1956年からパリ音楽院のピアノ科教授を務め、ミシェル・ベロフやジャン=フィリップ・コラールらを育てています。ドビュッシーの優れた解釈者としても知られており、現代的な技法と印象主義的な和声語法を結びつけた独自のスタイルを持ちます。
· Caprice romantique, pour piano (main gauche seule)
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のためのロマンティックなカプリス
作曲年:1949年
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
3拍子の気だるい雰囲気で静かに開始する、大きなワルツを思わせる作品。機能和声から逸脱した現代的な和声語法を持ちながらも耳なじみのよい書法で、演奏会でも映える仕上がりになっています。各部分でテンポと性格が変化したりと対比が意識されており、黒鍵グリッサンドが現れるのも特徴の一つです。マダム・ヴォスコチャキに献呈されました。
‣ Schaum, John W.(1905-1988) ショーム
ジョン・W・ショームはアメリカのピアノ教育者・編曲家で、分かりやすい構成の教則本・練習曲集を数多く手がけました。丁寧な運指指示と無理のない曲順構成が特徴で、世界中のピアノ指導者に長く支持されています。
· LEFT HAND SOLOS for the piano, Book 1–2
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
難易度:Book 1(バイエル併用〜ブルグミュラー25修了程度)/Book 2(ツェルニー30番入門〜修了程度)
分類:編曲作品集
備考:楽曲によっては、運指の調整により右手のみでの演奏にも対応
シリーズの概要
著名な左手作品や古典的な小品の旋律を、初中級者でも弾きやすく左手用アレンジした編曲集です。運指・ペダルの指示が丁寧に付されており、1曲あたり1〜数ページと短め。Book 2にはスクリャービン「左手のためのノクターン Op.9-2」の弾きやすいアレンジ版のほか、ショパン「プレリュード Op.28-6」なども収録されており、名旋律を初中級レベルで味わえる点が魅力です。
Book 1 収録曲
| 曲名 | 作曲者・出典 |
|---|---|
| Can’t Help Singing | Hugo Reinhold |
| Silvery Waves | Addison P. Wyman |
| Deep Valley | H. C. MacDougall |
| Rolling Along | Paul Hiller |
| Plus and Minus | Robert Schumann |
| Sunset Waltz | Friedrich Wieck |
| Out of the Past | Carl Czerny |
| Spring Song | Felix Mendelssohn |
| Arkansas Traveler | Traditional American |
| Serenade | Ethelbert Nevin |
| Doing Things on a Big Scale | Albert Biehl |
| Memories of You | Cornelius Gurlitt |
| The Futile Courtship | Johannes Brahms |
| Robin Adair | Scottish Air |
| Halo on the Moon | Arthur Foote |
| Longing | Franz Schubert |
| Cuckoo Clock | Emil Breslaur |
| Farewell to the Piano | Ludwig van Beethoven |
Book 2 収録曲
| 曲名 | 作曲者・出典 |
|---|---|
| Dream Dust | Charles F. Dennee Op.7, No.2 |
| The Gypsy Baron (Waltz Theme) | Johann Strauss |
| Revolving Door | H. Maylath Op.163 |
| Washington’s March | Traditional |
| Spiral Staircase | A. Krause |
| Evening Sun | A. Hollaender |
| Nocturne | A. Scriabine Op.9, No.2 |
| The Squirrel and the Acorns | Loeschhorn Op.38, No.5 |
| In the Subway | L. Birkedal-Barfod |
| Flashes in the Harbor | S. Heller Op.125, No.12 |
| Sunken Gardens | L. Streabbog Op.97, No.3 |
| Prelude | F. Chopin Op.28, No.6 |
| The Silent Rose | Victor Herbert Op.15, No.1 |
| Album Leaf | Adam Geibel |
| Scotch Poem | E. A. MacDowell Op.31, No.2 |
| Chorale | H. Berens Op.89 |
| Sextet from “Lucia” | G. Donizetti |
このシリーズについてさらに詳しく知る
【ピアノ】ジョン・W・ショーム「LEFT HAND SOLOS for the piano」シリーズ 完全ガイド
‣ Schmidt, Franz(1874-1939) フランツ・シュミット
フランツ・シュミット(1874年プレスブルク生まれ、1939年ウィーン近郊没)はウィーンで活躍した作曲家で、ウィーン音楽院でブルックナーの対位法クラスに学んでいます。オペラ「ノートル=ダム」(初演1914年)でウィーンで高い評価を得た一方、ピアノのための作品は多くありません。ヴィトゲンシュタインに依頼されたことで左手作品を複数手がけており、左手のためのピアノ独奏曲としては「左手のためのトッカータ ニ短調」が唯一の作品です。
· Toccata für die linke Hand allein
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

邦題:左手のためのトッカータ ニ短調
作曲年:1938年
演奏時間:約6分30秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品
1938年10月に作曲され、パウル・ヴィトゲンシュタインに献呈した作品です。自筆譜の題名には「ピアノまたはチェンバロのための」という記載もあり、チェンバロでの演奏も想定されていました。左手独奏としての原典版は作曲から40年後の1978年に初めて出版されました。
Molto vivaceで始まる無窮動楽曲で、広い音域をわたる単一音符の連続によるパッセージワークが中心となっています。バロック的な乾いた感覚と近代的な和声が共存しており、独自の音楽語法が際立っています。
音源について
ステファン・ヴァルズィッキ「Piano Music for the Left Hand」(Nimbus Alliance、2015年)に収録されています。このアルバムの詳細は以下の記事をご覧ください。
【ピアノ】ステファン・ヴァルズィッキ「Piano Music for the Left Hand」レビュー
‣ Schulhoff, Erwin(1894-1942) シュールホフ
エルヴィン・シュールホフ(1894年プラハ生まれ、1942年バイエルン州没)。ドイツ系ユダヤ人の家庭に生まれたチェコの作曲家・ピアニストで、複数の都市の音楽院で学び、レーガーからも影響を受けています。ジャズをクラシック音楽の文脈に取り込んだ先駆的な存在として知られるほか、ダダイズムとの接点も持ち、既成の枠にとらわれない作風を展開しました。しかしナチス政権下で活動を封じられ、1941年にソビエトへの亡命を図る直前に逮捕され、バイエルン州の収容所で翌年に亡くなりました。
· Suite No.3(Piano Left Hand)
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

邦題:左手のための組曲 第3番
作曲年:1926年
演奏時間:全曲合計 約15分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品
第一次世界大戦での負傷がきっかけで右腕が半永久的に麻痺したチェコのピアニスト、オタカール・ホルマンのために1926年に作曲されました。ホルマンは翌1927年11月にベオグラード(ユーゴスラビア)で初演しています。
5曲から成る組曲で、各曲がそれぞれ異なる性格を持ちます。
・Preludio(前奏曲)
・Air(アリア)
・Zingara(ツィンガラ/ジプシーの女性)
・Improvisazione(即興曲)
・Finale(フィナーレ)
和声やリズムなどあらゆる点でシュールホフの幅広い作風を反映した多彩な作品です。演奏表現のための指示も丁寧に書き込まれています。左手独奏の演奏会作品として完成度が高く、特にフィナーレの演奏効果は圧倒的と言えるでしょう。
‣ Scriabin, Alexander(1872-1915) スクリャービン
· 2 Pieces for the left hand alone Op.9
プレリュード Op.9-1
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

ノクターン Op.9-2
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:左手のための2つの小品 Op.9
楽曲について(オリジナル作品)
| 曲名 | 作曲年 | 演奏時間 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| プレリュード Op.9-1 | 1894年 | 約3分半 | 両手作品とあわせてレパートリーとして定着 |
| ノクターン Op.9-2 | 1894年 | 約6分 | 静寂さと劇的さを併せ持つ、カデンツァを含む充実作 |
難易度:ツェルニー30番中盤程度(両曲とも)
分類:オリジナル作品
作品全体の背景(Op.9共通)
このOp.9は、スクリャービン自身が過度な練習によって右手を痛めてしまったために作曲されたものです。1895年に出版され、後年の神秘主義的な作風とは異なる、ショパンの強い影響を受けたロマン派のスタイルを持っています。内容、知名度ともに、左手のためのピアノ曲における名作の一つと言えるでしょう。
ピアニストのデトレフ・クラウスによれば、これら2つの楽曲は「なぜこんなに悲しいのか分からない」および「白樺の木の下の夢」という、2つのロシア民謡に基づいているとされています。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9」演奏完全ガイド
‣ Thompson, John(1889-1963) ジョン・トンプソン
ジョン・S・トンプソン(1889年、ペンシルベニア州ウィリアムズタウン生まれ、1963年没)。若い頃はアメリカ・ヨーロッパ各地で演奏活動を行いましたが、後に教育者へと転身し、フィラデルフィア、インディアナポリス、カンザスシティの音楽院でピアノ科を主導しました。「Teaching Little Fingers to Play」や「Modern Course for the Piano」シリーズはピアノ教則本の定番として世界的に広く使われ続けています。
左手独奏作品としては「For Left Hand Alone Book One(1959年、11曲)」「For Left Hand Alone Book Two(1962年、9曲)」も手がけていますが、日本ではほとんど知られていません。
· Nocturne for Left Hand Alone
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のためのノクターン
作曲年:不明
演奏時間:約2分30秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品
日本でも広く使われている「トンプソン 現代ピアノ教本 第4巻」に収録されたオリジナル左手独奏曲です。同巻ではショパン「プレリュード Op.28-6」とシューマン「トロイメライ」に挟まれる位置に置かれており、難易度の目安として参考になります。運指とペダリングの指示が付されているため、学習しやすい構成と言えるでしょう。
曲は「ABA+短いエンディング」の三部構造です。AセクションはAndante cantabile、Es-durによる穏やかな曲想。Bセクションは平行調のc-mollに転じ、Più mosso・con animaの指示とともに場面が切り替わります。最後の和音はEs-durの主和音ですが、アルペジオの中にC音が含まれており、ペダルで響きが重なることで六の和音の色合いが生まれる、洒落た締めくくりになっています。
‣ Wittgenstein, Paul(1887-1961) ヴィトゲンシュタイン
パウル・ヴィトゲンシュタイン(1887-1961)は第一次世界大戦での負傷により右腕を失ったウィーンのピアニストです。その後も国際的な演奏活動を続け、ラヴェル、プロコフィエフ、リヒャルト・シュトラウス、ブリテンら多くの作曲家に左手独奏のための新作を委嘱したことでも知られています。晩年はニューヨークへ移り、後進の指導にもあたりました。
· Chaconne by J.S. Bach for the left hand alone
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1–5小節)

邦題:J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004 より シャコンヌ(左手独奏編曲版)
出版年:1957年(「School for the Left Hand 左手のための教則本」第3巻に収録)
演奏時間:約17分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品
「School for the Left Hand」は全3巻からなる大規模な集成で1957年に出版されました。第1巻が指の独立性を養う練習曲群、第2巻が名曲から編まれた応用練習、第3巻が演奏会用の編曲集という構成です。シャコンヌはこの第3巻に収められています。
ブラームス版を出発点としながらも、オクターブの重ねや技巧的なパッセージが大胆に書き加えられており、踏み込んだ書き換えが随所に施された版です。ヴィトゲンシュタイン自身は「音楽の内容そのものではなく、ピアノでの表現方法に手を加えた」と述べており、ブラームスもそれを意に介さないだろう、という趣旨の言葉も残しています。華やかで聴かせどころの多い、演奏会映えする編曲と言えるでしょう。
J.S.バッハ「シャコンヌ」の他の左手編曲と比較する
【ピアノ】左手のみで演奏するJ.S.バッハ「シャコンヌ」編曲版の種類と背景
‣ Yuya Takano タカノユウヤ
· J.S. Bach: Partita No.2, BWV1004 (Complete) – Arranged for the left hand alone
邦題:J.S.Bach 《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 全曲》 左手独奏用編曲版
※シャコンヌを除く全4曲 シャコンヌはBach=Brahms版
作品データ:
・編曲者:タカノユウヤ(本Webメディア運営者)
・編曲時期:2019年
・演奏時間:約17分
・演奏レベル:ツェルニー50番入門以降程度
編曲の意義:
1. レパートリーの拡充
・左手独奏版として初めての試み
・ブラームスによるシャコンヌ編曲と併せて全曲演奏が可能に
2. 演奏技法・編曲技法への取り組み
・ブラームス版の編曲技法を詳細に分析し、その書法をもとに残り4曲を編曲
・5本の指による演奏の可能性を追求
・チャレンジングかつ演奏効果の高い編曲を実現
3. 作曲家・編曲家としての視点
・演奏家の挑戦意欲に応える作品作り
・技術的課題と音楽的表現の融合を目指した編曲
この作品の楽譜を見る
· Elgar: Salut d’amour for the left hand alone Op.12
邦題:愛のあいさつ 〜左手独奏のための〜 作曲:エルガー
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、曲頭)

作品データ:
・編曲者:タカノユウヤ(本Webメディア運営者)
・2017年度 月刊ピアノ×ピティナ編曲オーディション 上級部門 第1位 受賞作品
・編曲時期:2017年2月
・演奏時間:約3分
・演奏レベル:ツェルニー40番入門程度から挑戦可能
・ピティナ・ピアノ曲事典
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】「愛のあいさつ 〜左手独奏のための〜」編曲者による演奏解説
‣ Zichy, Géza(1849-1924) ジチー
ゲザ・ジチー(1849-1924)はハンガリーの伯爵で、若年期の狩猟事故により右腕を失ったピアニストです。その後も演奏活動を続け、左手のみによる演奏技巧を高度な水準まで磨き上げました。リストとも親交があり、左手独奏のためのレパートリーを自ら開拓した先駆的な存在の一人として知られています。
· Chaconne by J.S. Bach for the left hand alone
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1–5小節)

邦題:J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004 より シャコンヌ(左手独奏編曲版)
出版年:1883年
演奏時間:約17分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品
1883年出版。ジチーがJ.S.バッハの原曲から直接編んだのではなく、ヨアヒム・ラフによる両手版ピアノ編曲を下敷きとして左手用に書き直したものとされています。さらにそのラフ版自体、フランツ・リストが着手しながら未完に終わらせたものの影響下にある可能性も指摘されており、複数の編曲の流れが交わって成立した一作と位置づけられます。
J.S.バッハ「シャコンヌ」の他の左手編曲と比較する
【ピアノ】左手のみで演奏するJ.S.バッハ「シャコンヌ」編曲版の種類と背景
► 終わりに
左手独奏作品は、両手作品と比べるとまだまだ知られていないものが多く、新たな発見に満ちたジャンルです。本ライブラリーが、レパートリーを広げるきっかけになれば幸いです。
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