【ピアノ】「左手ピアノ作品ライブラリー」の編集方針:文献・楽譜・音源で一曲ずつ確かめる調査方法
► はじめに
本サイトでは、左手のためのピアノ作品を中心に、右手のための作品や、どちらの手でも演奏できる作品も含めた「左手ピアノ作品ライブラリー」を公開しています。作曲家別に作品を整理し、難易度、演奏時間、作品の分類なども併記しています。
ライブラリーでは作品情報を一覧できるようにしていますが、そこでは「どのような資料を使い、どのように確認して掲載しているのか」までは詳しく説明していません。
そこで本記事では、このライブラリーがどのような資料を出発点とし、どのような手順で作品を確認しているのかをまとめました。
►「左手ピアノ作品ライブラリー」の編集方針
‣ なぜ、左手ピアノ作品のライブラリーを作っているのか
日本語で体系的にたどれるリストがまだ多くない
片手のためのピアノ作品は、19世紀から現代まで、実は相当な数が書かれてきました。ところが、それらを日本語で体系的にたどれるリストは、まだ多くありません。
海外には片手作品を扱った重要な文献がありますが、英語やドイツ語で書かれたものが中心で、入手にも手間がかかります。「左手で弾ける曲を探したい」「片手作品を幅広く知りたい」と思っても、日本語だけでは手がかりにたどり着きにくいのが現状でしょう。
こうした状況を少しでも変えたいという思いが、ライブラリーを作り始めたきっかけでした。
サイト全体をつなぐ「ハブ」として
もう一つの理由は、サイト内の記事どうしを結びつける中心が必要だったことです。
片手・左手ピアノの作編曲法、歴史、作品を扱う本サイト「One-Hand Piano Institute」では、例えば、これまでに次のような記事を公開してきました。
・【ピアノ】左手作品の歴史:誕生から現代までを年表でたどる完全ガイド
・【ピアノ】左手編曲のテクニック 完全ガイド
・【ピアノ】左手作品 楽曲別ガイド 記事まとめ:独奏曲から協奏曲まで
・【ピアノ】左手作品から読み解く作曲家シリーズ 記事まとめ
歴史の記事で名前が出てきた作曲家を、ライブラリーで引いて作品を確かめる。ライブラリーで気になった作品があれば、楽曲別ガイドで詳しい解説を読む。そうした行き来ができるように、ライブラリーの各作品から個別の解説記事へリンクを張っています。
つまりライブラリーは、単独の一覧表ではなく、サイト全体の記事を横断するための入口という位置づけです。こべt記事の全体像は、左手ピアノ総合ガイド:すべての記事への入り口でご覧ください。
‣ 出発点にしている文献
ライブラリーの土台となっているのは、片手作品について記述のある、次のような代表的文献です。
・Georgii, Walter. Klaviermusik. 6th ed. Atlantis Musikbuch-Verlag, 1984.
・Edel, Theodore. Piano Music for One Hand. Indiana University Press, 1994.
・Patterson, Donald L. One Handed: A Guide to Piano Music for One Hand. Greenwood Press, 1999.
・Rezits, Joseph, and Gerald Deatsman. The Pianist’s Resource Guide 1978–79: Piano Music in Print and Literature on the Pianistic Art. Pallma Music Co., 1978.
それぞれの文献の内容や特徴については、以下の記事で詳しく取り上げました。
・【ピアノ】片手ピアノ音楽を知る手がかり:ゲオルギイ『Klaviermusik』の「片手のための音楽」
・【ピアノ】「One Handed」(ドナルド・L・パターソン 編)レビュー
・【ピアノ】「Piano Music for One Hand」(テオドール・エーデル 著)レビュー
・【ピアノ】左手ピアノ音楽を探す手がかり:「The Pianist’s Resource Guide」の書誌情報から
一冊の文献だけに頼らず、複数の資料を照合する
作曲家や作品についての記述を文献ごとに拾い出し、比較したうえで、複数の文献に共通して現れる情報と、特定の文献にしか載っていない情報とを区別しています。複数の文献に共通して現れる情報は一つの手がかりとして扱い、特定の文献にしか載っていない情報については、楽譜や音源、その他の資料も確認しながら判断しています。
照合を進めていると、作品番号や出版年、作曲家名の綴りなどに誤植や記載上の不一致が見つかることもあります。そうした箇所は、気づいたものから書き留めてきました(【ピアノ】ドナルド・L・パターソン「One Handed」に見つかった誤植・表記上の注意点)。文献の記述をそのまま鵜呑みにせず、食い違いがあれば楽譜や他の資料に当たって確かめる。そして、自身の分析内容なども反映させる。この作業が、ライブラリーの基礎になっています。
‣ 一つの作品を掲載するまでの工程
文献から作曲家名を拾い、そのまま一覧に加える——という作り方はしていません。一つの作品がライブラリーに載るまでには、おおよそ次のような段階を踏んでいます。
・文献を調べる
・複数の文献で作品情報を照合する
・楽譜を探す(必要に応じて海外から取り寄せる)
・音源を探して聴く
・可能な作品は、実際にピアノで音を出す
・演奏時間・難易度・分類などを整理する
・作品解説を書く
文献の出版後に作曲・編曲された作品に関しては当然記載されていません。そこで、「文献を調べる」から着手せず、国内外の出版社や古書店のサイトから片手に関するキーワードで直接調べていくことも定期的に行なっています。
以下、主な工程を見ていきましょう。
· 楽譜を探す
片手作品の楽譜は、国内の楽器店で手に入るものは多くありません。海外の出版社や楽譜店、古書店から取り寄せることもしばしばです。IMSLPなどで公開されているパブリックドメインの楽譜を探すこともありますが、できる限り、出版譜の現物を入手して確認するようにしています。
海外からの取り寄せには、想像以上に時間がかかる場合もあります。実際の注文から到着までの日数は、【ピアノ】左手音楽の海外資料、取り寄せに何日かかる?実際の注文から到着までを記録 にまとめたので、あわせてご覧ください。
· 音源を聴き、ピアノで音を出す
この工程は、ライブラリーの中でも特に重視している部分です。
楽譜が手元にあるだけでは、掲載のための情報として十分とは考えていません。録音が残っていれば実際に聴き、弾ける作品については自分でピアノに向かって音を確かめています。難易度や演奏時間の記載も、こうした確認を踏まえて判断しています。
この工程があるからこそ、本ライブラリーは「作曲家名と作品名を集めたデータベース」ではなく、可能な範囲で楽譜・音源・実際の演奏を通して作品を確かめたライブラリーを目指せるのだと考えています。
· 作品情報を整理する
確認を終えた作品について、次のような情報を整理して掲載します。
・難易度(ツェルニーなどの有名な両手用教則本を参考例に、10段階表記)
・演奏時間
・分類(オリジナル作品 / 編曲作品 / 作曲家自身による編曲作品、独奏 / 室内楽 / 協奏曲)
・演奏形態([LH][RH][LH/RH])
演奏時間は、ダ・カーポ、ダル・セーニョ、および1番・2番かっこを伴う反復は演奏するものとし、かっこを伴わない単純な反復記号については繰り返さないものとして算出しています。録音しか見当たらない作品については「録音の実測」、楽譜・録音が手に入る作品や楽譜のみが手に入る作品の場合は「楽譜からの推定」を基準にしています。
また演奏形態は、「実際にどちらの手で弾けるか」ではなく、作曲者・編曲者が指定した形態をもとに記号を付けています。
こうした基準を一定にしておくことで、異なる作品同士を比較しやすくすることを目指しました。
· 譜例を自ら浄書する
パブリックドメインの作品で、楽譜を入手できたものについては、譜例を自身で浄書して掲載しています。文章だけでは伝わりにくい音型や書法上の特徴も、数小節の譜例を示すことで具体的に伝えられます。
· 文献にない作品を加える
代表的な文献は、刊行時点までの情報しか載っていません。そのため、それ以降に書かれた作品や、文献では取り上げられなかった教育用教材、調査の中で新たに存在が分かった作品についても、独自に調べて追加しています。
‣ なぜ「網羅的なリスト」ではなく「選択的なライブラリー」なのか
本ライブラリーは、片手作品をすべて並べた目録を目指しているわけではありません。
文献に作曲家の名前が載っていても、それだけで掲載することは基本的にしていません。例えば、
・作品名しか分からない
・楽譜が確認できない
・音源も確認できない
このような場合は、文献に情報が記載されていたとしても、原則として掲載を見送っています。掲載の目安は、楽譜か音源の少なくとも一方を確認できることです。作曲家名と作品名だけを並べるのではなく、できる限り作品について楽譜・音源で確認した情報を加えることを基本方針として編集してきました。
ただし、絶版で楽譜が中古市場にも出回っていない作品でも、音源を確認できれば掲載の対象としています。楽譜が手に入らなくても、響きを知る手段が残っているなら、その作品を紹介する意味は十分にあると考えるからです。
‣ 人数を増やすことが目的ではない
掲載している作曲家の数は、少しずつ増えてきました。現在はさらに多くの作曲家を調査しており、今後も掲載数は増加していく予定です。
とはいえ、ただ単に人数を増やすことが目的ではありません。楽譜や音源を確認できる作品を中心に、一人ずつ、一曲ずつ調べていった結果として規模が大きくなっていくことを目指しています。
► ライブラリーの使い方
目的に応じて、次のページを使い分けていただくことができます。
作曲家・作品から幅広く探したい方
アルファベット別のページ内でブラウザの検索機能(Ctrl+F または Cmd+F)を使えば、演奏時間や難易度、分類のキーワードなどから作品を探せます。
実際に弾く曲を探している方
【ピアノ】左手作品は何から弾けばいい?:定番曲限定・レベル別おすすめ曲
楽譜を入手しやすい定番作品に絞り、演奏レベルごとにおすすめの作品を紹介しています。
作品について詳しく知りたい方
【ピアノ】左手作品 楽曲別ガイド 記事まとめ:独奏曲から協奏曲まで
作曲の背景や作品の特徴、演奏上のポイントなどを、楽曲別に掘り下げて解説しています。
► 終わりに
「左手ピアノ作品ライブラリー」は、文献を読み比べ、楽譜を取り寄せ、音源を聴き、ピアノで音を確かめる——そうした作業の積み重ねでできています。
片手のための作品には、まだ一般には知られていないものが数多くありますが、調べるほどに新しい発見があり、その面白さこそが、このライブラリーを続ける原動力になっています。今後も一曲ずつ確かめながら更新を続けていくので、レパートリー探しや聴く作品探しの際にはぜひご活用ください。
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