【ピアノ】代表的なピアノ曲事典6冊に左手作品はどれだけ載っている?:掲載状況を調査・比較
► はじめに
片手(特に左手)のピアノ作品について調べようとしたとき、多くの方がまず手に取るのは一般的なピアノ曲事典ではないでしょうか。しかし実際にページをめくってみると、左手独奏作品︎(左手のためのピアノ曲)に関する情報は想像以上に少なく、目当ての作品にたどり着けずに困った経験をお持ちの方も多いと思います。
本記事では、ピアノ学習者や指導者の間で長年参照されてきた代表的な事典6冊を実際に手に取り、左手のための作品がどの程度、どのような形で収録されているのかを調べてみました。事典選びの参考や、片手作品を探す際の道しるべとしてお役立ていただければ幸いです。
► なぜ、左手作品は見つけにくいのか
結論から言うと、今回確認できた範囲では、いずれにおいても左手作品の扱いはごく限定的なものに留まっていました。収録されている場合でも、ラヴェルやプロコフィエフといった知名度の高いごく一部の作品に限られており、詳しい解説が付いている例はほとんど見当たりません。多くは作品名が列挙されているだけ、あるいは作曲家の作品リストの中に一行だけ記載されているだけというケースが目立ちました。
つまり、一般的な事典だけを頼りに左手作品の情報を集めようとしても、どうしても限界があります。左手のためのピアノ音楽を本格的に調べたいのであれば、片手音楽に特化した専門の資料にあたる必要が出てきます。
片手音楽に特化した定番の資料 レビュー記事:
・【ピアノ】「Piano Music for One Hand」(テオドール・エーデル 著)レビュー
・【ピアノ】「One Handed」(ドナルド・L・パターソン 編)レビュー
► 調査対象の6冊
曲数計算の基準:
・協奏曲・室内楽を含む
・ゴドフスキー「ショパンのエチュードによる練習曲」は1作品として計上
掲載状況まとめ
| 書籍 | 著者/出版社 | 初版年 | ページ数 | 掲載数 | 解説 | 掲載作品代表例(一部) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ピアノ音楽史事典 | 千蔵八郎/春秋社 | 1996年 | 674 | 3 | △ | ラヴェル、サン=サーンス、プロコフィエフ |
| 名曲事典 ピアノ・オルガン編 | 千蔵八郎/音楽之友社 | 1971年 | 1070 | 3 | × | プロコフィエフ、ヤナーチェク、ラヴェル |
| 鍵盤音楽の歴史 | F.E.カービー(訳:千蔵八郎)/全音楽譜出版社 | 1979年(邦訳) | 804 | 1 | × | サン=サーンス |
| ピアノ音楽事典 作品篇 | 井口基成・野村光一・安川加寿子(編集顧問)/全音楽譜出版社 | 1982年 | 839 | 1 | × | スクリャービン |
| ピアノ学習ハンドブック | 千蔵八郎/春秋社 | 1989年 | 249 | 1 | × | ゴドフスキー |
| ピアノ・レパートリー事典 | 高橋淳/春秋社 | 1988年(増補改訂版2006年) | 504 | 15 | △ | ラヴェル、サン=サーンス、プロコフィエフ、スクリャービン、ブリテン ほか |
凡例: △=一部作品に解説あり/×=作品名の記載のみで詳しい解説なし
‣ 1. ピアノ音楽史事典(著:千蔵八郎/春秋社)
・初版:1996年
・ページ数:674ページ
ピアノ音楽の歴史を一冊にまとめた資料で、時代ごとの解説と作曲家別の作品紹介が並んで収められています。
掲載されていた左手作品は次の3曲でした:
・ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」
・サン=サーンス「左手のための6つの練習曲 Op.135」
・プロコフィエフ「ピアノ協奏曲 第4番 Op.53(左手のための)」
ラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」は解説が付けられており、サン=サーンスとプロコフィエフは作品名が挙げられているのみでした。
‣ 2. 名曲事典 ピアノ・オルガン編(著:千蔵八郎/音楽之友社)
・初版:1971年
・ページ数:1070ページ
楽曲の基本情報がしっかりと押さえられており、選曲に迷ったときの手がかりとして重宝する一冊です。譜例が4745個と非常に豊富で、作品の特徴を視覚的につかめる点も魅力と言えます。
左手作品としては以下が確認できました:
・プロコフィエフ「ピアノ協奏曲 第4番 Op.53(左手のための)」
・ヤナーチェク「カプリッチョ(左手のピアノと管楽アンサンブルのための)」
・ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」
この事典でも、すべて曲名のみの掲載に留まっていました。
‣ 3. 鍵盤音楽の歴史(著:F.E.カービー/訳:千蔵八郎/全音楽譜出版社)
・邦訳初版:1979年
・ページ数:804ページ
ピアノ音楽史を本格的に学びたい方向けに作られた、読み応えのある一冊です。
今回見つけられた左手作品は次の1曲のみでした:
・サン=サーンス「左手のための6つの練習曲 Op.135」
こちらも作品名が挙げられているだけで、詳細な言及はありませんでした。
‣ 4. ピアノ音楽事典 作品篇(編集顧問:井口基成、野村光一、安川加寿子/全音楽譜出版社)
・初版:1982年
・ページ数:839ページ
同系統の事典と比べると、一つひとつの作品にかける解説の分量が多いのが特徴です。特に主要作品については、楽曲分析や演奏上のヒントなど、実践的な学びにつながる情報が含まれています。
左手作品については、次の1曲が確認できました:
・スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9」
ただし、こちらも作品表の中に曲名が記されているだけで、掘り下げた解説は見当たりませんでした。
‣ 5. ピアノ学習ハンドブック(著:千蔵八郎/春秋社)
・初版:1989年
・ページ数:249ページ
教則本30種、エチュード58種、曲集67種、インヴェンション23種の版を横並びで比較できる、ユニークな構成の一冊です。定番教材の魅力を再認識したり、自分に合った楽譜を選ぶ基準を持つうえで参考になります。
左手作品への言及は、次の1件のみ見つかりました:
・ゴドフスキー「ショパンのエチュードによる練習曲」のうち No.5(Op.10-3「別れ」)
こちらも名前が触れられているだけで、詳しい解説はありませんでした。
‣ 6. ピアノ・レパートリー事典(著:高橋淳/春秋社)
・初版:1988年
・増補改訂版:2006年
・ページ数:504ページ
340名もの作曲家の作品リストを収めた、規模の大きな楽曲データベースです。最新の情報がやや不足していたり、解説が簡潔すぎたりする点は否めないものの、長く愛用され続けてきた実用性の高い一冊と言えるでしょう。
今回調べた6冊の中では、左手作品の掲載数が最も多く、次のような作品名が確認できました:
・ゴドフスキー「ショパンのエチュードによる練習曲」(単曲の抜き出しはなし)
・サン=サーンス「左手のための6つの練習曲 Op.135」
・スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9」
・ノルドグレン「小泉八雲の『怪談』によるバラード II Op.127」
・バッハ=ブラームス「シャコンヌ」
・ブリテン「左手ピアノと管弦楽のための主題と変奏 ディヴァージョンズ Op.21」
・プロコフィエフ「ピアノ協奏曲 第4番 Op.53(左手のための)」
・ポンセ「マルグレ・トゥー」
・モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92」
・モンポウ(前奏曲とのみ記載。第6番「左手のために」を指した記述ではない)
・ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」
・リスト「ハンガリーの神 S.543 R.214」
・リパッティ「左手のためのソナチネ」
・レーガー「左手のための4つの特別な練習曲」
・間宮芳生「風のしるし・オッフェルトリウム」
やはり作品名の列挙に留まり、個々の曲についての詳しい解説にはたどり着けませんでした。
そうはいっても、他の事典では1〜3作品程度しか確認できなかったのに対し、「ピアノ・レパートリー事典」では十数作品が掲載されていた点では特筆すべきです。作品名さえ知れればそこから他の詳細資料にも手を伸ばすことができるという点で、今回調査した中では最も実用的な一冊と言えるでしょう。
► 6冊を通して見えてきたこと
今回調べた事典はどれも、ピアノ学習において定評のある優れた資料ばかりです。一方、左手作品という切り口で見たとき、その情報量には共通して限界がありました。掲載されている曲数自体が少なく、収録されていたとしても作品名だけが記されているケースが大半で、作品背景などについてまで踏み込んだ解説に出会うことはほとんどできませんでした。
一般的なピアノ曲事典に不足があるというより、左手作品という分野自体が専門的であり、一般向け事典だけでは十分に扱いきれないと考えるほうが実情に近いでしょう。
► より深く調べたい方へ
左手作品を本気で探求したいという場合は、「Piano Music for One Hand(テオドール・エーデル 著)」や「One Handed(ドナルド・L・パターソン 編)」のような、片手音楽に特化した専門事典に目を通すことをおすすめします。これらは一曲あたりの情報量こそコンパクトですが、一般的なピアノ事典では決してたどり着けないような、貴重な情報が数多く記載されています。
筆者自身、左手作品にのめり込むようになってから、こうした専門事典のありがたみを実感するようになりました。
レビュー記事:
・【ピアノ】「Piano Music for One Hand」(テオドール・エーデル 著)レビュー
・【ピアノ】「One Handed」(ドナルド・L・パターソン 編)レビュー
► 終わりに
今回調査した6冊のうち、左手作品の掲載数が最も多かったのは「ピアノ・レパートリー事典」でした。しかし、それでも詳細な作品解説までは十分ではなく、左手作品を体系的に調べるには専門資料の活用が欠かせません。
そこで当サイトでは、「左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別」を作成しています。今回紹介した事典で物足りなさを感じた方は、あわせてご覧いただけると、より多くの作品と出会っていただけるはずです。
なお、本記事で取り上げた各事典のより詳しいレビューについては、「レベル別:ピアノ独学者のための学習参考書籍ライブラリー(姉妹サイトへリンク)」も参考にしてください。
※本記事は各事典を実際に確認し、左手のための作品の掲載状況を独自に調査・集計したものです。版によって掲載内容が異なる場合があります。
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以下の記事では、専門の片手楽曲事典(Piano Music for One Hand、One Handed)、楽譜解説、CDブックレット、研究論文など、筆者が実際に活用してきた左手作品の調べ方を具体的に紹介しています。
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