【ピアノ】レオン・フライシャー「左手のためのピアノ協奏曲集・ピアノ作品集」レビュー:左手作品の名盤
► はじめに
左手のための作品というジャンルは、ピアノ音楽の中でもやや特殊な位置づけにあります。その代表的な名盤として長く親しまれてきたのが、レオン・フライシャーによる「左手のためのピアノ協奏曲集」と「左手のためのソロ・ピアノ作品集」。
本記事では、2009年にSONYから2枚組として復刻されたこの録音について、収録内容や演奏の特徴を交えながら紹介します。
演奏:レオン・フライシャー(Leon Fleisher, 1928-2020)
リリース年:2009年
レーベル:SONY
収録時間:Disc1 67分46秒/Disc2 73分12秒
録音:1990年10月(Disc1①③)、1991年10月(Disc1②)、1991年6月(Disc2)
録音場所:Disc1=ボストン、シンフォニー・ホール/Disc2=ボストン、ニュー・イングランド音楽院 ジョーダン・ホール
レオン・フライシャー「左手のためのピアノ協奏曲集・ピアノ作品集」
► 演奏者 レオン・フライシャーについて
フライシャーは1928年7月23日、サンフランシスコに生まれたアメリカのピアニストで、指揮者としても活動しました。
若い頃からその才能は高く評価されていました。1938年から1948年にかけてはアルトゥール・シュナーベルに師事し、イタリアそしてニューヨークで研鑽を積みました。1952年にはブリュッセルのエリザベト王妃国際コンクールで、アメリカ人として初めて優勝を果たし、国際的な活躍の道を切り開きます。その後もセル指揮クリーヴランド管弦楽団との共演をはじめ、数多くの録音を残し、指揮者としてもアメリカ各地で客演を重ねました。
しかし1960年代、フライシャーは右手の腱鞘炎(後にジストニアと診断)を発症し、両手での演奏が困難になってしまいます。1965年以降は右手が思うように動かなくなったことで、演奏活動そのものが大きな転機を迎えました。それでも彼は演奏を諦めることなく、1970年代以降はラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」をはじめ、左手作品の演奏活動を本格化させました。
以後、左手作品の演奏や新作の委嘱に長年にわたって力を注ぎ、このジャンルの普及に大きく貢献した人物として知られています。2020年に92歳で生涯を終えました。
► 収録内容の詳細
‣ 収録曲一覧
Disc1
・ラヴェル:左手のためのピアノ協奏曲
・プロコフィエフ:ピアノ協奏曲 第4番 Op.53(左手のための)
・ブリテン:左手ピアノと管弦楽のための主題と変奏 ディヴァージョンズ Op.21
指揮は小澤征爾、オーケストラはボストン交響楽団が務めています。
Disc2
・タカーチュ:左手のためのトッカータとフーガ Op.56
・サン=サーンス:左手のための6つの練習曲 Op.135
・サクストン:シャコニィ(1988)
・J.S.バッハ(ブラームス編):シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 BWV1004 より)
・ブルーメンフェルド:左手のための練習曲 Op.36
・スクリャービン:左手のための2つの小品 Op.9
・ゴドフスキー:宝石のワルツの主題による交響的変容
Disc2はフライシャーのソロ・ピアノによる録音です。
‣ アルバムの特徴
Disc1、Disc2ともに、左手のための作品の中でもいわゆる名曲として知られるものが数多く選ばれており、このジャンルへの入門盤としても適した構成になっています。
Disc2に収められたサクストンの「シャコニィ」は、本録音の中では最もマイナーな作品ですが、フライシャー自身に献呈された作品であり、彼とこのレパートリーとの深い結びつきを感じさせる一曲です。
左手協奏曲・独奏曲・練習曲・編曲作品までバランス良く収録されており、このジャンル全体の入り口として非常に優れた選曲と言えるでしょう。
左手協奏曲の主要3作品(ラヴェル・プロコフィエフ・ブリテン)と代表的な独奏作品群を一つのセットで聴ける録音は意外に少なく、この2枚組ならではの価値となっています。
‣ 演奏の印象
とりわけおすすめしたいのは、Disc2のソロ作品集です。
全体を通して、装飾を排し客観性を重視した端正な演奏が印象的で、過剰な感情表現に頼らない姿勢が貫かれています。例えばブルーメンフェルドのOp.36は、情感豊かに弾き込む解釈と、あっさりと軽やかに聴かせる解釈とに分かれる作品ですが、フライシャーは明らかに後者です。まるで一陣の風が吹き抜けていくような、すっきりとした演奏に仕上がっています。
左手のための作品は演奏技術上の難しさゆえか、独特のタメや揺らしを加えて弾かれてしまうことが少なくありません。それに対してフライシャーの演奏は非常に清潔で、ある意味お手本のような解釈といっても過言ではないでしょう。奇をてらわない誠実な音楽づくりは、左手作品という特殊なジャンルに初めて触れる方にとっても、作品そのものの姿を素直に把握する助けとなります。
► 終わりに
このアルバムは、左手のための音楽という限られたレパートリーの中から代表作を体系的に知ることができる優れた録音の一つです。協奏曲と独奏曲の両方を一度に楽しめるため、左手作品に興味を持ち始めた方の最初の一枚としてはもちろん、すでに親しんでいる方にとっても長く手元に置いておきたい名盤と言えるでしょう。
レオン・フライシャー「左手のためのピアノ協奏曲集・ピアノ作品集」
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