【ピアノ】左手演奏のポジション移動を減らす運指:短い音は「次の音とセット」で考える

【ピアノ】左手演奏のポジション移動を減らす運指:短い音は「次の音とセット」で考える

はじめに

 

左手だけであらゆる要素を受け持つ作品では、どうしても手の横方向への移動(ラテラル・ムーブメント)が多くなります。両手作品なら右手と分担できる音も、すべて片手で処理しなければならないためです。だからこそ、ポジション移動の設計が演奏の安定感に大きく関わってくると言えるでしょう。

姉妹サイトの記事【ピアノ】運指の工夫でポジション移動を減らす方法では、両手作品を題材にこのテーマを取り上げました。本記事ではその左手演奏版として、左手のための作品から複数の場面を選び、運指の考え方を具体的に見ていきます。

以下で取り上げる例に共通するのは、「短い音を単独で考えず、直後に来る音まで含めて運指を決める」という視点です。この考え方を身につけておくと、ほかの左手作品を譜読みするときにも応用が利くことでしょう。

 

本記事の対象者:左手作品に取り組む中級者以上の方

 

► 具体例

‣ 例①:短い音価の和音は、直後の和音と同じポジションで取る

 

ライネッケ「左手のためのピアノソナタ Op.179 より 第4楽章」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、105-108小節)

ライネッケ「左手のためのピアノソナタ Op.179 より 第4楽章」105-108小節

赤で示した和音は音価が短く、鳴らしてすぐ次の和音へ移らなければなりません。ここで手のポジションを大きく変える運指を選ぶと、次の和音の準備が間に合わず、リズムの不正確さやミスタッチの原因になりがちです。

そこで、この短い和音を単独で考えるのではなく、直後の和音と一組のものとして運指を組み立ててみましょう。譜例に書き込んだ運指(赤の和音を2と3の指で弾く)なら、手の位置を大きく変えずに、2つの和音を続けて弾けます。

この部分はマーチを思わせる歯切れのいい性格を持つため、移動の負担を運指で減らしておけば、リズムの輪郭をくっきりと保ったまま演奏できるでしょう。

 

‣ 例②:和音の運指の候補を「次への移動」で絞り込む

 

バッハ=ブラームス「シャコンヌ」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

バッハ=ブラームス「シャコンヌ」1-3小節

赤で示した和音には、542・531・421・321といった運指の候補が考えられます。和音そのものの掴みやすさだけを比べれば、どれを選んでも大差はありません。

違いが出てくるのは、次の和音へ移るときです。メロディが完全5度跳躍するため、531・421・321のいずれかを選ぶと、次の和音へ向かう際に手を横へ大きく動かす必要が生じてしまいます。手の移動をできるだけ小さく抑え、自然な軌道で次の和音へつなげることを優先するなら、これらの候補は外したほうが賢明でしょう。

こうして絞り込んでいくと、この箇所では542が、次の和音への移動まで考慮した運指として有力な候補になります。和音の運指は「その和音が弾きやすいか」だけでなく、「次へどう移るか」まで含めて判断するのがポイントです。

このシャコンヌ冒頭の運指については、【ピアノ】左手演奏の和音運指はどう考える?:シャコンヌ冒頭を例に解説 でさらに詳しく解説しているので、参考にしてください。

 

‣ 例③:装飾音を、直後の和音と同じポジションで取る

 

レーガー「左手のための4つの特別な練習曲 より 第4曲 前奏曲とフーガ – 前奏曲」

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、17-18小節)

レーガー「左手のための4つの特別な練習曲 より 第4曲 前奏曲とフーガ - 前奏曲」17-18小節

赤で示した装飾音は、直前の旋律音からの流れをそのまま追えば、2の指で取ることが自然に思えます。ところが、そうすると直後の和音へ入る瞬間に大きめのポジション移動が起こってしまいます。

装飾音をたっぷり長めに弾けば移動の時間は確保できますが、それでは装飾音としての性格が失われ、音楽の表情が変わってしまいかねません。

ここでも発想は同じで、装飾音を直後の和音とひとまとまりにして考えます。赤の装飾音を直前の旋律音(F)に付随する音としてではなく、直後の旋律音(Es)へ向かう音として捉えてみましょう。

具体的には、赤の音をごく短く1の指で弾き、そのまま同じ手のポジションで次の和音をとります。こうすれば、装飾音を短く軽やかに処理しながら、次の和音への移動もスムーズになります。

 

► 終わりに

 

本記事で取り上げた例に共通しているのは、短い音を単独で処理せず、その直後に来る音まで含めて運指を考えるという発想です。

もちろん、すべての手の横移動をなくすことはできません。しかし、運指を一つ先の音まで見据えて決めるだけで、不要なポジション移動を減らせる場面は少なくありません。

左手作品を譜読みするときは、目の前の音だけで運指を決めるのではなく、「この指で取ったあと、次の音へどう移るのか」というところまで意識してみてください。

 

併読推奨記事

左手演奏の運指をどう組み立てていくか、より広い視点で知りたい方は、下記の記事も参考にしてみてください。「演奏の技術・知識」の項目に運指関連記事をまとめています。

【ピアノ】左手ピアノの技術・知識 記事まとめ:作曲・編曲と演奏の視点から

 


 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

左手・片手のためのピアノ音楽を専門とし、作曲・編曲、講演などを行っています。また、当サイト「One-Hand Piano Institute」を運営し、作品・作曲家・音楽史・技術(作曲・編曲・演奏)・楽譜・文献まで、片手で演奏するピアノ音楽を多角的に紹介しています。

日本音楽コンクールをはじめ、国内外の作曲コンクールで受賞歴を持ち、これらの受賞作品はいずれも、左手ピアノを編成に含むアンサンブル作品、および、左手のためのピアノ独奏作品です。
また、大学院では左手のためのピアノ音楽における作曲・編曲をテーマに研究し、首席で修了しています。

右手の負傷をきっかけに出会った左手のためのピアノ音楽に心惹かれ、以来15年以上、この分野に取り組んできました。左手音楽の魅力と可能性を、より多くの方に知っていただけたら嬉しく思います。

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