【ピアノ】公式映像で見るパウル・ヴィトゲンシュタイン:ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」

【ピアノ】公式映像で見るパウル・ヴィトゲンシュタイン:ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」

► はじめに

 

ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」は、第一次世界大戦での負傷がきっかけで右腕を失ったピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタインのために書かれた一曲です。今日では「左手のためのピアノ作品」を代表する名曲として知られていますが、作曲を委嘱した当人であるヴィトゲンシュタインが実際にこの曲を弾いている映像となると、目にする機会はあまり多くありません。

本記事では、1933年にパリで行われた演奏に関連するものとされている、ヴィトゲンシュタイン自身の演奏映像を取り上げます。

 

► ヴィトゲンシュタインとラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」

 

パウル・ヴィトゲンシュタイン(1887-1961)はウィーン生まれのピアニストで、第一次世界大戦で右腕を失う重傷を負いました。しかし演奏家としてのキャリアを断念することなく、左手のみで演奏活動を続けます。

さらに、ラヴェル、プロコフィエフ、リヒャルト・シュトラウス、ブリテンなど、20世紀を代表する作曲家たちに左手のための作品を依頼したことでも知られています。

 

ヴィトゲンシュタインについてさらに知りたい方へ

【ピアノ】パウル・ヴィトゲンシュタイン 完全ガイド:右腕を失ったピアニストが切り拓いた「左手音楽」の世界

 

► 公式動画映像で見るパウル・ヴィトゲンシュタイン

‣ ヴィトゲンシュタインの演奏映像

 

紹介する映像は、ABC Classicの公式YouTubeチャンネルで公開されています。動画の説明欄によれば、フランス大使館を通じて提供されたパブリックドメイン素材とのことです。

Paul Wittgenstein performs Ravel’s Piano Concerto for the Left Hand
映像:ABC Classic 公式YouTube

 

映像の特記事項

・尺の長さ:1分21秒
・言語:英語ナレーション、英語字幕入り
・モノクロ映像
・映る内容:ヴィトゲンシュタインの演奏シーン、ラヴェル直筆の楽譜、ラヴェルの肖像写真など
・演奏箇所:作品終盤、ソロが際立つ部分

 

‣ 映像から読み取れるヴィトゲンシュタインの演奏

 

この映像の面白さは、単に「歴史的な名ピアニストの姿が残っている」という点だけではありません。左手のみでピアノに向かう様子を、実際の動きとして確認できる貴重な資料であるところに大きな価値があります。

以下は、短い映像から筆者が確認できた範囲での観察です。

着席位置
ピアノにやや近めに座っています。左手演奏では、高音域を演奏する際の身体への負担を軽減するために、椅子を右側へずらす配置も見られ、ヴィトゲンシュタインがそれを推奨していた記録も残されています。しかしこの映像では、大きく動かしている様子は確認できません。

身体の使い方
上体はあまり動かず、前腕から先の敏捷な動きが目立ちます。

打鍵の特徴
強く鳴らしたい音がある場面では、指を立てて鍵盤の高い位置から打ち込むような弾き方をしています。

演奏全体の印象
テンポは速めで勢いがあり、現代の録音とは異なる荒々しさも感じられる一方、強い推進力と気迫が伝わってきます。

 

► ヴィトゲンシュタインとラヴェルとの緊張関係

 

この映像をより興味深くしているのが、ヴィトゲンシュタインの演奏とラヴェルの原譜との間にある緊張関係です。彼は委嘱作品を受け取った後、楽譜をそのまま忠実になぞって弾いたわけではありませんでした。

1931年には、両者の関係を象徴する出来事が起こります。ヴィトゲンシュタインが独自の解釈で楽譜に変更を加えて演奏したことをきっかけに、ラヴェルとの間に深い溝が生じました。この対立を知ったうえで原譜を見ると、ラヴェルがこの作品にどのような意図を込めていたのか、あらためて考えさせられます。

この経緯についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

【ピアノ】なぜ、ラヴェルの左手協奏曲は傑作なのか?:左手音楽史から読み解く

 

► 文字資料だけでは伝わりにくいものを読み取る

 

楽譜や文献を通じてヴィトゲンシュタインの功績を学ぶことはできても、彼が「どのように鍵盤に触れていたか」という身体的な情報までは、文字資料だけでは伝わりにくいものです。この公式映像は、その空白を埋めるための貴重な手がかりとなるでしょう。

また、ラヴェルとの間に生じた解釈をめぐる対立を踏まえたうえで映像を見ると、印象が一層深まります。

 

► 終わりに

 

ヴィトゲンシュタインは、左手のためのピアノ音楽の歴史を語るうえで避けて通れない存在です。その本人が実際にどのような姿勢で鍵盤に向かい、どのような身体の使い方で演奏していたのか。それをわずかながら確認できるのが、今回紹介した映像です。

楽譜や文献だけでは捉えにくい情報にも目を向けながら、ぜひ映像をご覧ください。

 

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