【ピアノ】片手のためのロマンス作品ガイド:年代順にたどる

【ピアノ】片手のためのロマンス作品ガイド:年代順にたどる

► はじめに

 

ロマンス(Romance/Romanze)は、歌うような旋律と抒情性を前面に押し出した性格小品として、片手のための作品の中にもさまざまな形で残されています。

本記事では、「Romance」「Romanze」「ロマンス」などの名称を持つ片手作品を、成立年の古い順に紹介します。単独の独奏曲だけでなく、組曲や編曲集の中の一曲としてロマンスが置かれている例も見られるため、そうした作品についても該当箇所を中心に取り上げました。選曲や学習の手がかりとしてお役立てください。

なお、記事内で示す成立年は、原則として作品の作曲年を記載し、それが確認できない場合や編曲作品については、出版年など確認できる年代を示しています。

 

► 年代順にたどる作品紹介

‣ シュピンドラー「左手のためのロマンス 変イ長調 Op.156-1」(1864年頃)

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)

シュピンドラー「左手のためのロマンス 変イ長調 Op.156-1」1-2小節

ドレスデンを中心に活動し、330曲を超える作品を残したサロン音楽の作曲家、フリッツ・シュピンドラー(1817-1905)による「ロマンス集 Op.156」全3曲の第1曲

同曲集の中では演奏効果・難度ともに最も高い一曲にあたり、3度・6度・オクターブの連続にアルペジオやスケールパッセージまで加わった、左手のテクニックを幅広く要求する構成になっています。

演奏時間は約3分30秒、難易度はツェルニー40番中盤程度。

 

‣ サッター「3つの演奏会用小品 より 第2曲 ロマンス」(1881年)

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-6小節)

サッター「ロマンス」1-6小節

生涯の詳細が判然としないピアニスト、ギュスターヴ・サッターによる、3曲構成の演奏会用小品集の第2曲で、左手のための作品です(第1曲は右手作品、第3曲は両手作品)。

多彩な技巧が盛り込まれ、テンポや拍子の変化が繰り返し現れ、カデンツァも含む、コンサートレパートリーとして充実した内容を持つ一曲となっています。

演奏時間は約4分30秒、難易度はツェルニー50番入門以降程度。

 

‣ シャルボネ「マッパリ(左手のための)」(刊行年不詳、19世紀)

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

シャルボネ「マッパリ(左手のための)」1-4小節

アメリカ生まれでオーストラリアやパリでも活動したピアニスト、アリス・エレン・シャルボネ(1858-1914)による編曲。正確な刊行年は不詳ですが、作曲家の生没年や活動時期から19世紀末頃の作品と推定し、本記事ではこの位置に配置しました。フロトウの歌劇《マルタ》で歌われるロマンス「マッパリ(M’appari)」の旋律に基づいており、原題も「Transcription de la Romance de Martha」となっています。

冒頭にはAd libitumの自由な序奏が置かれ、主部にもカデンツァ風の音の運びが顔をのぞかせる、華やかで装飾的な一曲です。

ヴィクトリア州総督夫妻に献呈されました。

演奏時間は約4分、難易度はツェルニー50番入門以降程度。

 

‣ ビルケダル=バルフォド「左手のための練習曲集 より 第4曲 悲歌風ロマンス」(1895年頃)

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ビルケダル=バルフォド「左手のための練習曲集 より 第4曲 悲歌風ロマンス」1-4小節

デンマークの作曲家・オルガニスト、ルードヴィヒ・ビルケダル=バルフォド(1850-1937)が残した左手のための練習曲集の中の一曲

全6曲からなるこの曲集は、複数の舞曲・性格小品で構成されており、第4曲にロマンスが置かれています。32分音符によるターンの音型が繰り返し現れる優雅な性格を持ち、ABAという簡潔な構成でまとめられています。

演奏時間は約2分、難易度はツェルニー40番修了程度。

 

‣ フット「左手のための3つのピアノ小品 Op.37 より 第3曲 ロマンツェ」(1897年)

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

フット「左手のための3つのピアノ小品 Op.37 より 第3曲 ロマンツェ」1-3小節

アメリカの作曲家アーサー・フット(1853-1937)が、恩師スティーヴン・ヘラーに献呈した全3曲の組曲の終曲

半音階的な和声を多用した一曲で、3曲の中では規模・内容ともに最も充実しており、単曲を取り出して演奏する場合にはこのロマンスが特におすすめできます。

演奏時間は約5分30秒、難易度はツェルニー40番修了程度。

 

‣ レーガー「左手のための4つの特別な練習曲 より 第3曲 ロマンツェ」(1901年)

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

レーガー「左手のための4つの特別な練習曲 より 第3曲 ロマンツェ」1-4小節

J.S.バッハとブラームスの系譜を意識した作曲家、マックス・レーガー(1873-1916)による性格的小品集の第3曲

「練習曲(Studien)」と題されてはいるものの、実際には技巧的な練習というより性格小品としての性格が強く出ています。広い音域を駆使した豊かな音響を持つ叙情的な音楽で、単独で取り上げても十分な存在感を持つ一曲です。

演奏時間は約5分30秒、難易度はツェルニー40番修了程度。

 

‣ シューマン/ホーホシュテッター編「アルバムの綴り Op.124 より 第11曲 ロマンス」(1917年)

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

シューマン=ホーホシュテッター「アルバムの綴り Op.124 より 第11曲 ロマンス」1-3小節

無名時代のレーガーをいち早く見出したことでも知られる音楽家、ツェーザル・ホーホシュテッターが、第一次世界大戦の負傷者へ捧げた曲集「Album für das einhändige Klavierspiel」に収めた編曲

多少の創作的な補筆が加えられているものの、原曲の雰囲気はしっかりと保たれています。主要な旋律がオクターヴで奏されるため演奏にはやや高いハードルが伴い、跳躍の多さも技術的な難所となっています。

演奏時間は約1分40秒、難易度はツェルニー40番中盤程度。

 

ホーホシュテッターについてさらに詳しく知る

【ピアノ】片手作品から読み解くツェーザル・ホーホシュテッター:第一次世界大戦の負傷者へ捧げた名曲編曲集

 

‣ レーガー/ホーホシュテッター編「葉と花 より ロマンス 第1番」(1917年)

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

レーガー=ホーホシュテッター「葉と花 12のピアノ曲による3曲 より ロマンス 第1番」1-4小節

同じくホーホシュテッターが「Album für das einhändige Klavierspiel」に収めた、レーガーの《Blätter und Blüten(葉と花)》からの編曲3曲のうちの一つ

豊かな情感をたたえたロマンスで、旋律の音と音の間を埋めるように内声が発音していく書法が用いられ、片手でありながら声部の絡み合いを感じさせる作りになっています。6度音程の連続が随所に現れるのもサウンド面での特徴と言えるでしょう。

演奏時間は約2分30秒、難易度はツェルニー40番中盤程度。

 

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‣ ライズ『「肉体の中の悪魔」から6枚の絵 より 第1曲 ロマンス』(2001年)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

南インド古典音楽やジャズから影響を受けたアメリカの作曲家、ジェイ・ライズ(1950- )による全6曲の曲集のうち、左手独奏のために書かれた2曲の一つ目

どこかエレジーを思わせる叙情性をたたえた作品で、無調的な語法のうちにカンタービレな旋律が浮かび上がります。曲頭に置かれた鐘の響きを思わせる多層的な音響が、クライマックスを経たのちに再び現れる構成が印象的です。

演奏時間は約4分50秒、難易度はツェルニー50番入門以降程度。

 

► 作品一覧表

 

作曲家 作品 成立年 演奏時間 難易度目安
シュピンドラー Op.156 より 第1曲 1864年頃 約3分30秒 ツェルニー40番中盤
サッター 3つの演奏会用小品 より 第2曲 1881年 約4分30秒 ツェルニー50番入門以降
シャルボネ マッパリ 不詳(19世紀末頃と推定) 約4分 ツェルニー50番入門以降
ビルケダル=バルフォド 練習曲集 より 第4曲 1895年頃 約2分 ツェルニー40番修了
フット Op.37 より 第3曲 1897年 約5分30秒 ツェルニー40番修了
レーガー 4つの特別な練習曲 より 第3曲 1901年 約5分30秒 ツェルニー40番修了
シューマン/ホーホシュテッター編 Op.124 より 第11曲 1917年 約1分40秒 ツェルニー40番中盤
レーガー/ホーホシュテッター編 葉と花 より ロマンス 第1番 1917年 約2分30秒 ツェルニー40番中盤
ライズ 「肉体の中の悪魔」より 第1曲 2001年 約4分50秒 ツェルニー50番入門以降

※難易度表記はあくまで目安です。左手演奏への慣れや手の大きさなどによって実際の難しさは変わります。

 

► どの作品に取り組むか

 

これから片手のロマンス作品に触れてみたい方には、シュピンドラーの小品やホーホシュテッター編の2作品など、演奏時間・難易度ともに無理のない作品から入るのがおすすめです。

そこからレーガーやフットへと進み、さらにサッターのような演奏会用の充実した作品へと歩みを進めることで、片手一つでの抒情表現が、時代とともにどのように広がってきたかを実際の響きを通して味わうことができます。

 

► 終わりに

 

片手だけでロマンスの歌を紡ぐという発想は、19世紀から現代に至るまで、さまざまな形で現れてきました。単独の独奏曲として書かれたものもあれば、組曲や編曲集の一部として置かれたものもあり、片手一本での抒情表現の幅広さを感じさせてくれます。気になった作品から、実際の音を確かめてみてください。

当サイトでは、作曲家・作品ごとに片手作品を整理した「左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別」を公開しています。ロマンス以外の作品についても知りたい場合は、あわせてご覧いただければと思います。

 

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