- 左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 S-V
- ► はじめに
- ► 作曲家別 S-V
- ‣ Saint-Saëns, Camille(1835-1921) サン=サーンス
- ‣ Samazeuilh, Gustave(1877-1967) ギュスターヴ・サマズイユ
- ‣ Sancan, Pierre(1916-2008) サンカン
- ‣ Sartorio, Arnoldo(1853-1936) アルノルド・サルトーリオ
- ‣ Satter, Gustav ギュスターヴ・サッター
- ‣ Sauer, Emil von(1862-1942) エミール・フォン・ザウアー
- ‣ Saxton, Robert (1953-) サクストン
- ‣ Schaum, John W.(1905-1988) ジョン・W・ショーム
- ‣ Schmidt, Franz(1874-1939) フランツ・シュミット
- ‣ Schmitz-Gohr, Else(1901- ) シュミッツ=ゴーア
- ‣ Schulhoff, Erwin(1894-1942) シュールホフ
- ‣ Schumann, Robert(1810-1856) ロベルト・シューマン
- ‣ Scriabin, Alexander(1872-1915) スクリャービン
- ‣ Slonimsky, Sergei(1932-2020) セルゲイ・スロニムスキー
- ‣ Sosa, Raoul(1939-) ラウル・ソーザ
- ‣ Spindler, Fritz(1817-1905) フリッツ・シュピンドラー
- ‣ Stallaert, Alphonse(1920-1995) アルフォンス・スタラールト
- ‣ Strakosch, Maurice(1825-1887) モーリツ・シュトラコッシュ
- ‣ Strategier, Herman(1912-1988) ヘルマン・ストラテヒール
- ‣ Strauss, Richard(1864-1949) リヒャルト・シュトラウス
- ‣ Stravinsky, Igor(1882-1971) イーゴリ・ストラヴィンスキー
- ‣ Stravinsky, Sviatoslav Soulima(1910-1994) スーリマ・ストラヴィンスキー
- ‣ Sueyoshi, Yasuo(1937-2018) 末吉保雄
- ‣ Takács, Jenő(1902-2005) タカーチュ
- ‣ Takahashi, Yuji(1938- ) 高橋悠治
- ‣ Takano, Yuya タカノユウヤ
- ‣ Tappert, Wilhelm(1830-1907) ヴィルヘルム・タッペルト
- ‣ Teichmann, Fritz フリッツ・タイヒマン
- ‣ Thompson, John(1889-1963) ジョン・トンプソン
- ‣ Tisné, Antoine(1932-1998) アントワーヌ・ティスネ
- ‣ Tomášek, Jaroslav(1896-1970) ヤロスラフ・トマーシェク
- ‣ Vaughan Williams, Ralph(1872-1958) ヴォーン・ウィリアムズ
- ‣ Vilanova, Ranieri(1827-1881) ラニエリ・ヴィラノーヴァ
- ‣ Vinogradoff, Paul(1888-1974) ポール・ヴィノグラドフ
- ► 終わりに
左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 S-V
► はじめに
本ページでは、S-Vで始まる作曲家の左手ピアノ作品をまとめています。作曲作品・編曲作品・教本・室内楽・協奏曲などを、作曲家ごとに整理しています。
作品を探す際は、以下のアルファベット別ページもご利用ください。
► 作曲家別 S-V
‣ Saint-Saëns, Camille(1835-1921) サン=サーンス
· Six Études pour la main gauche seule, Op.135 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1曲 1-3小節)

邦題:左手のための6つの練習曲 Op.135
作曲年:1912年
演奏時間:全曲合計 約18分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構成
1. Prélude(前奏曲) 2. Alla Fuga(フーガのように) 3. Moto Perpetuo(無窮動)
4. Bourée(ブーレ) 5. Élégie(エレジー) 6. Gigue(ジーク)
70代半ばを過ぎたサン=サーンス晩年の作で、彼が手がけた練習曲集としては最後の作品にあたり、先行作にはOp.52、Op.111があります。左手のための作品としてはこの一作のみが残されました。
和音中心ではなく、単一の音符の連続によるパッセージワークや、声部の独立を意識した対位法的な書法を基調としています。17世紀フランス舞曲への関心が組曲という形式の選択ににじみ出ているのが特徴です。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】サン=サーンス「左手のための6つの練習曲 Op.135」:作品の背景とエチュードとしての価値
‣ Samazeuilh, Gustave(1877-1967) ギュスターヴ・サマズイユ
ギュスターヴ・サマズイユは、ボルドー生まれのフランスの作曲家・音楽評論家です。幼なじみのモーリス・ラヴェルとは生涯にわたる友情で結ばれ、エルネスト・ショーソンに個人的に音楽を学んだのち、ショーソンの没後はスコラ・カントルムでヴァンサン・ダンディやポール・デュカスに師事しました。19歳でドビュッシーと出会って以降はその信奉者となり、印象主義の様式を色濃く受け継いだ作風で知られています。作曲活動と並行して音楽批評家・翻訳家・著述家としても健筆をふるいました。
· Esquisses pour le Piano: III. Sérénade(pour la main gauche seule) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:セレナード(左手のためのエスキス 第3曲)
作曲年:1944〜1945年
出版年:1945年
演奏時間:約4分
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ジャン・ドワイヤン
備考:「Esquisses pour le Piano(ピアノのためのエスキス)」全4曲中の第3曲
32分音符による下行音型や同音連打、平行和音などが特徴的な、ギター風の軽やかな性格を持つ作品。曲の最後は、まるでさっと身を隠すかのように静かに終わります。
サマズイユ自身、脚注で「技巧的に十分でないピアニストは両手で演奏してもよい」と付け加えています。
· Esquisses pour le Piano: IV. Souvenir(pour la main droite seule) [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:スーヴニール(右手のためのエスキス第4曲)
作曲年:1944〜1945年
出版年:1945年
演奏時間:約3分30秒
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:マルセル・シアンピ
備考:「Esquisses pour le Piano(ピアノのためのエスキス)」全4曲中の第4曲
第3曲と同じく平行和音がサウンド上の特徴となっていますが、こちらは軽やかさというよりも神秘的な雰囲気をたたえた作品と言えるでしょう。中〜高音域の保続音を伴った、立体的な響きによる幕開け。終盤に現れる高速音型による反復音型(ドローン)が、耳に残る印象的な瞬間を作り出しています。
サマズイユ自身、両手による演奏も許容しています。
‣ Sancan, Pierre(1916-2008) サンカン
ピエール・サンカン(1916年マザメ生まれ、2008年パリ没)はフランスの作曲家・ピアニスト・指揮者・教育者です。モロッコで音楽を始め、パリ音楽院でフーガ、指揮、ピアノ、作曲を学び、1943年にカンタータ「イカロスの伝説」でローマ大賞を受賞しました。1956年からパリ音楽院のピアノ科教授を務め、ミシェル・ベロフやジャン=フィリップ・コラールらを育てています。ドビュッシーの優れた解釈者としても知られており、現代的な技法と印象主義的な和声語法を結びつけた独自のスタイルを持ちます。
· Caprice romantique, pour piano(main gauche seule) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のためのロマンティックなカプリス
作曲年:1949年
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
3拍子の気だるい雰囲気で静かに開始する、大きなワルツを思わせる作品。機能和声から逸脱した現代的な和声語法を持ちながらも耳なじみのよい書法で、演奏会でも映える仕上がりになっています。各部分でテンポと性格が変化したりと対比が意識されており、黒鍵グリッサンドが現れるのも特徴の一つです。マダム・ヴォスコチャキに献呈されました。
‣ Sartorio, Arnoldo(1853-1936) アルノルド・サルトーリオ
アルノルド・サルトーリオは、ドイツの作曲家・ピアノ教育者です。一般の音楽史で広く名の知られた作曲家ではありませんが、左手のためのピアノ音楽という分野に限れば、複数の曲集を残した重要な人物の一人に数えられます。その代表的な曲集が、1921年にフィラデルフィアのセオドア・プレッサー社から刊行された「Left Hand Proficiency」です。
· Bridal Song from Lohengrin [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:歌劇《ローエングリン》より 婚礼の合唱(左手編曲版)
原曲:リヒャルト・ワーグナー、歌劇《ローエングリン》第3幕「婚礼の合唱(Bridal Chorus)」
編曲年:1921年頃(収録曲集の出版年より)
出版:Philadelphia: Theodore Presser Co.(曲集《Left Hand Proficiency》所収)
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)
作品の背景
本作は、左手独奏用の名旋律編曲とサルトーリオ自身によるオリジナル小品とを合わせて全20曲を収めたアンソロジー「Left Hand Proficiency」の一曲として出版されました。運指・ペダリングの指示が細かく記されており、実際の演奏に取り組みやすい版になっています。
音楽的な特徴
原曲であるワーグナーの婚礼の合唱の旋律を大切に活かし、過度な装飾を加えないシンプルな伴奏付けで編まれています。原曲を知る人であれば聴いてすぐにそれと分かる親しみやすさがあり、結婚式や記念の演奏はもちろん、演奏会プログラムの導入としても扱いやすい小品です。
‣ Satter, Gustav ギュスターヴ・サッター
ギュスターヴ・サッター(1832年2月12日生まれ、没年不詳)は、ウィーンあるいはラン(現スロヴェニア領ブレジツェ)の生まれとされるピアニスト、作曲家です。生涯については不確かな点が多く、自身の出自について誇張した発言をすることもあったと伝えられています。1882年時点ではなお演奏活動を続けていた記録が残っている一方、それ以降の消息については判然としていません。
· 3 Morceaux de Concert [LH][RH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第2曲 1-6小節)

邦題:3つの演奏会用小品
出版年:1881年
分類:オリジナル作品(独奏)
備考:ピアノ独奏(第1曲=右手のみ、第2曲=左手のみ、第3曲=両手)
第1曲 Solitary Bird「Oiseau solitaire」
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
邦題:孤独な鳥(右手のための)
第2曲 Romance
演奏時間:約4分30秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
邦題:ロマンス(左手のための)
両曲に共通する特徴
いずれの曲も、多彩な種類のテクニックが幅広く盛り込まれ、カデンツァも含む、演奏会用レパートリーとして充実した内容を持っています。テンポや拍子の変化が繰り返し現れる構成になっており、それぞれのセクションごとに異なる表情の変化を楽しむことができます。なお、両曲とも楽譜上に運指やペダリングの指示は付されていません。
‣ Sauer, Emil von(1862-1942) エミール・フォン・ザウアー
エミール・フォン・ザウアー(1862年ハンブルク生まれ、1942年ウィーン没)はドイツのピアニスト、作曲家です。リストの高弟の一人であり、ニコライ・ルビンシテインにも師事しました。演奏家・校訂者として長いキャリアを築き、回想録《Meine Welt(我が世界)》を著しています。
· Waldandacht: Konzert-Etüde für die linke Hand allein, No.28 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:Waldandacht(直訳:森の祈り / 森での瞑想)左手のための演奏会用練習曲 第28番
出版年:1917年頃
演奏時間:約8分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ゲザ・ジチー
作品の背景
献呈を受けたゲザ・ジチー(1849-1924)は、狩猟事故で右腕を失いながらも、生涯左手のみでピアニストとしての活動を貫いた人物として知られています。ザウアーはこの左手のピアニストのために本作を書き、後期ロマン派の豊かな和声を伴う作品に仕上げました。
音楽的な特徴
冒頭から24小節目までは1段のみで書かれ、素朴な主題が示されます。その後は大譜表による書法に移り、25小節目からはテンポが上がって3連符を主体とした劇的な曲想へと展開していきます。再現部分では冒頭主題が回帰しますが、その際には和音やオクターヴが加わり、音の厚みを増した状態で再現され、その書法のまま結尾へと向かいます。
演奏効果と音楽的な完成度の両面において、充実した内容を持つ作品と言えるでしょう。
‣ Saxton, Robert (1953-) サクストン
ロバート・サクストン(1953年ロンドン生まれ)はイギリスの作曲家です。6歳から作曲を始め、幼少期にベンジャミン・ブリテンとエリザベス・ラッチェンスに指導を受けました。ケンブリッジ大学とオックスフォード大学でも作曲を学び、ルチアーノ・ベリオにも師事しています。21歳でガウデアムス国際作曲賞を受賞。ギルドホール音楽演劇学校やロンドン王立音楽アカデミーで作曲科の主任を務め、のちにオックスフォード大学ウースター・カレッジの作曲教授を2021年まで務めました。レオン・フライシャーをはじめとする演奏家との共同作業でも知られています。
· Chacony [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:シャコニィ
作曲年:1988年
委嘱:オールドバラ音楽祭
初演:1988年6月20日、レオン・フライシャー
演奏時間:約6分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:レオン・フライシャー
題名の「Chacony」は、パーセルやブリテンが用いた「シャコンヌ」の英語古語形にあたります。伝統的なシャコンヌと同じく、繰り返される短い音型を骨格として展開していく構造ですが、大部分が全音音階でできているなど、書法やサウンドは現代的です。
楽曲展開の概要:
・1音ずつ増えていく音の積み重ねから静かに開始
・中間部では音楽が動的な性格に変わり、線的なパッセージと声部の絡み合いが前面に出てくる
・その後、冒頭の素材が戻ってくるが、今度は力強い表情で明るく締めくくられる
CHESTER MUSICから出版されているこの作品の楽譜には、より詳細な作曲コンセプト解説が書かれています。
ピアニストのフライシャーは1960年代に右手の腱鞘炎(後にジストニアと診断)で両手演奏が困難となり、左手作品の演奏・委嘱に長年尽力しました。
‣ Schaum, John W.(1905-1988) ジョン・W・ショーム
ジョン・W・ショームはアメリカのピアノ教育者・編曲家で、分かりやすい構成の教則本・練習曲集を数多く手がけました。丁寧な運指指示と無理のない曲順構成が特徴で、世界中のピアノ指導者に長く支持されています。
· LEFT HAND SOLOS for the piano, Book 1–2
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
難易度:Book 1(バイエル併用〜ブルグミュラー25の練習曲修了程度)/Book 2(ツェルニー30番入門〜修了程度)
分類:編曲作品集(独奏)
備考:楽曲によっては、運指の調整により右手のみでの演奏にも対応
シリーズの概要
著名な左手作品や古典的な小品の旋律を、初中級者でも弾きやすく左手用アレンジした編曲集です。運指・ペダルの指示が丁寧に付されており、1曲あたり1〜数ページと短め。Book 2にはスクリャービン「左手のためのノクターン Op.9-2」の弾きやすいアレンジ版のほか、ショパン「プレリュード Op.28-6」なども収録されており、名旋律を初中級レベルで味わえる点が魅力です。
Book 1 収録曲
| 曲名 | 作曲者・出典 |
|---|---|
| Can’t Help Singing | Hugo Reinhold |
| Silvery Waves | Addison P. Wyman |
| Deep Valley | H. C. MacDougall |
| Rolling Along | Paul Hiller |
| Plus and Minus | Robert Schumann |
| Sunset Waltz | Friedrich Wieck |
| Out of the Past | Carl Czerny |
| Spring Song | Felix Mendelssohn |
| Arkansas Traveler | Traditional American |
| Serenade | Ethelbert Nevin |
| Doing Things on a Big Scale | Albert Biehl |
| Memories of You | Cornelius Gurlitt |
| The Futile Courtship | Johannes Brahms |
| Robin Adair | Scottish Air |
| Halo on the Moon | Arthur Foote |
| Longing | Franz Schubert |
| Cuckoo Clock | Emil Breslaur |
| Farewell to the Piano | Ludwig van Beethoven |
Book 2 収録曲
| 曲名 | 作曲者・出典 |
|---|---|
| Dream Dust | Charles F. Dennee Op.7, No.2 |
| The Gypsy Baron (Waltz Theme) | Johann Strauss |
| Revolving Door | H. Maylath Op.163 |
| Washington’s March | Traditional |
| Spiral Staircase | A. Krause |
| Evening Sun | A. Hollaender |
| Nocturne | A. Scriabine Op.9, No.2 |
| The Squirrel and the Acorns | Loeschhorn Op.38, No.5 |
| In the Subway | L. Birkedal-Barfod |
| Flashes in the Harbor | S. Heller Op.125, No.12 |
| Sunken Gardens | L. Streabbog Op.97, No.3 |
| Prelude | F. Chopin Op.28, No.6 |
| The Silent Rose | Victor Herbert Op.15, No.1 |
| Album Leaf | Adam Geibel |
| Scotch Poem | E. A. MacDowell Op.31, No.2 |
| Chorale | H. Berens Op.89 |
| Sextet from “Lucia” | G. Donizetti |
このシリーズについてさらに詳しく知る
【ピアノ】John W. Schaum「LEFT HAND SOLOS for the piano」シリーズ 完全ガイド
‣ Schmidt, Franz(1874-1939) フランツ・シュミット
フランツ・シュミット(1874年プレスブルク生まれ、1939年ウィーン近郊没)はウィーンで活躍した作曲家で、ウィーン音楽院でブルックナーの対位法クラスに学んでいます。オペラ「ノートル=ダム」(初演1914年)でウィーンで高い評価を得た一方、ピアノのための作品は多くありません。ヴィトゲンシュタインに依頼されたことで左手作品を複数手がけており、左手のためのピアノ独奏曲としては「左手のためのトッカータ ニ短調」が唯一の作品です。
· Toccata für die linke Hand allein [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

邦題:左手のためのトッカータ ニ短調
作曲年:1938年
演奏時間:約6分30秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン
1938年10月に作曲され、パウル・ヴィトゲンシュタインに献呈した作品です。自筆譜の題名には「ピアノまたはチェンバロのための」という記載もあり、チェンバロでの演奏も想定されていました。左手独奏としての原典版は作曲から40年後の1978年に初めて出版されました。
Molto vivaceで始まる無窮動楽曲で、広い音域をわたる単一音符の連続によるパッセージワークが中心となっています。バロック的な乾いた感覚と近代的な和声が共存しており、独自の音楽語法が際立っています。
音源について
ステファン・ヴァルズィッキ「Piano Music for the Left Hand」(Nimbus Alliance、2015年)などに収録されています。このアルバムの詳細は以下の記事をご覧ください。
【ピアノ】ステファン・ヴァルズィッキ「Piano Music for the Left Hand」レビュー
· Quintet in G major for 2 Violins, Viola, Cello and Piano(Left Hand) [LH]
邦題:ピアノ五重奏曲 ト長調(左手ピアノ、2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための)
作曲年:1926年
演奏時間:約38分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(室内楽)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン
構成(全4楽章)
I. Lebhaft, doch nicht schnell
II. Adagio
III. Sehr ruhig – Lebhaft
IV. Sehr Lebhaft
作品の背景
シュミットが遺した3曲のピアノ五重奏曲は、いずれも第一次世界大戦で右腕を失ったピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタインの依頼によって書かれ、彼に献呈されています。ヴィトゲンシュタインは最初の2曲を自ら初演しましたが、1939年の時点ですでにアメリカへ移住しており、左手版として実際に出版されたのはこのト長調の一曲のみでした。この作品の初演は1929年です。後年フリードリヒ・ヴューラーの手による両手版が世に出たことで演奏機会は広がりました。
音楽的な特徴
弦楽器のパートはブラームスを思わせる響きが漂います。一方でピアノパートは、ソロとして目立つような技巧的な派手さよりも、他の楽器の中に溶け込むように書かれた部分も多くあるのが特徴と言えるでしょう。
近現代作品が大部分を占める左手室内楽作品の中にあって、聴きやすさを持ち合わせた作品でもあり、特に「III. Sehr ruhig – Lebhaft」は「聴く」入門にもおすすめです。
· Concertante Variationen über ein Thema von Beethoven [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

邦題:ベートーヴェンの主題による協奏的変奏曲
編成:左手ピアノと管弦楽のための(原典版)
作曲年:1923年
出版年:1926年
初演:1924年2月2日、パウル・ヴィトゲンシュタイン独奏により
演奏時間:約28分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン
構成
I. Langsam
II. Thema: Scherzo, allegro vivace
III. Ruhig fliessend
IV. Lebhaft, doch nicht zu schnell: Tempo di bolero
V. Langsam
VI. Sehr ruhig
VII. Massig bewegt
作品の背景と特徴
パウル・ヴィトゲンシュタインに献呈され、彼自身の独奏により初演された作品。ヴィトゲンシュタインの「School for the Left Hand 左手のための教則本」第1巻の付録には、本作の管弦楽主題が抜粋掲載されており、ヴィトゲンシュタイン自身の教育活動の中でも参照された作品であることがうかがえます。
序奏は緩やかに始まり、ベートーヴェン「ヴァイオリンソナタ 第5番 春 Op.24 第3楽章」から取られたスケルツォ主題の登場を準備する形で書かれています。
フリードリヒ・ヴューラーによる両手版(ピアノと管弦楽用編曲)が1953年に出版されました。
· Klavierkonzert in Es-dur(Piano Concerto in E-flat major) [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、ソロの初導入部 63-64小節)

邦題:ピアノ協奏曲 変ホ長調
作曲年:1934年(自筆譜には10月18日の日付あり)
出版年:写譜による初期版 1936年頃 / フリードリヒ・ヴューラーによる両手版 1952年 または1955年
初演:1935年2月10日、パウル・ヴィトゲンシュタイン独奏により
演奏時間:約40分
分類:オリジナル作品(協奏曲)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン
構成(全3楽章)
第1楽章 Allegro moderato un poco maestoso
第2楽章 Andante
第3楽章 Vivace
作品の背景と特徴
パウル・ヴィトゲンシュタインに献呈され、彼自身の独奏によって初演された作品。リヒャルト・シュトラウスを思わせる響きも感じられます。形式面では伝統的な協奏曲の枠組みを踏襲しており、第1楽章はソナタ形式、第3楽章は活気に満ちた性格で長大なカデンツァを含む構成になっています。
‣ Schmitz-Gohr, Else(1901- ) シュミッツ=ゴーア
エルゼ・シュミッツ=ゴーアは1901年生まれのドイツの作曲家です。
エファ・リーガーとケーテ・ヴァルターの編集による曲集「Frauen Komponieren: 22 Klavierstücke des 18.-20. Jahrhunderts(女性作曲家たちによる作品集:18〜20世紀の22のピアノ小品)」に、下記の左手作品が収録されています。
· Elegie(für die linke Hand allein) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:エレジー(左手のための)
出版年:1985年
演奏時間:約3分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
全体的にメランコリックな性格を持つ作品です。半音階的な和声づけと、中間部の感情的な表現の高まりが印象的で、コンパクトながら演奏会向けの一曲と言えるしょう。
冒頭は、伴奏を伴わない「レチタティーヴォ風」の語りかけるような部分から始まります。曲の終わりにも同様に無伴奏のレチタティーヴォ風の部分が戻ってきて、曲全体を締めくくる構成になっています。いわゆる機能和声からは逸脱した書き方をしていますが、そうした中に時折、非常に分かりやすい三和音が顔をのぞかせる瞬間があるのも、この作品の魅力です。
‣ Schulhoff, Erwin(1894-1942) シュールホフ
エルヴィン・シュールホフ(1894年プラハ生まれ、1942年バイエルン州没)。ドイツ系ユダヤ人の家庭に生まれたチェコの作曲家・ピアニストで、複数の都市の音楽院で学び、レーガーからも影響を受けています。ジャズをクラシック音楽の文脈に取り込んだ先駆的な存在として知られるほか、ダダイズムとの接点も持ち、既成の枠にとらわれない作風を展開しました。しかしナチス政権下で活動を封じられ、1941年にソビエトへの亡命を図る直前に逮捕され、バイエルン州の収容所で翌年に亡くなりました。
· Suite No.3(Piano Left Hand) [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1曲 1-3小節)

邦題:左手のための組曲 第3番
作曲年:1926年
演奏時間:全曲合計 約15分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
第一次世界大戦での負傷がきっかけで右腕が半永久的に麻痺したチェコのピアニスト、オタカール・ホルマンのために1926年に作曲されました。ホルマンは翌1927年11月にベオグラード(ユーゴスラビア)で初演しています。
5曲から成る組曲で、各曲がそれぞれ異なる性格を持ちます。
・Preludio(前奏曲)
・Air(アリア)
・Zingara(ツィンガラ/ジプシーの女性)
・Improvisazione(即興曲)
・Finale(フィナーレ)
和声やリズムなどあらゆる点でシュールホフの幅広い作風を反映した多彩な作品です。演奏表現のための指示も丁寧に書き込まれています。左手独奏の演奏会作品として完成度が高く、特にフィナーレの演奏効果は圧倒的と言えるでしょう。
作曲のきっかけを作ったオタカール・ホルマンについて、さらに詳しく知る
‣ Schumann, Robert(1810-1856) ロベルト・シューマン
ロベルト・シューマンは、ドイツ・ロマン派を代表する作曲家で、ライプツィヒで法律を学びながら音楽への道を志し、フリードリヒ・ヴィークにピアノを師事しました。指の故障によりピアニストとしての道を断念した後は作曲と評論に専念し、後に妻となるクララ・ヴィークとともに、19世紀ドイツ音楽界の中心的存在となりました。歌曲・ピアノ曲・交響曲・室内楽に至るまで幅広いジャンルに傑作を残しています。
· Abendlied, Op.85 No.12 [LH/RH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:夕べの歌 Op.85-12(3手のための)
作曲年:1849年
出版年:1885年
演奏時間:約3分
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度(片手奏者パート)
分類:オリジナル作品(室内楽、3手)
作品の背景
全12曲からなる4手連弾小品集「小さな子供と大きな子供のための12の連弾小品 Op.85」の最後を飾る曲で、この曲だけが例外的に3手用に書かれています。ゲオルギイは著書「Klaviermusik」の中で、この片手パートを「夢見るようなメロディ」と評しています。
音楽的な特徴
3つの手が有機的に絡み合うというよりは、両手の奏者がシンプルな和声的伴奏を担い、そこに片手のパートが旋律を乗せるという、明快な役割分担による書法で作曲されました。曲の途中、片手パートに現れるトリルは、曲名とも相まって、どこか鳥の声を想起させるような効果を生んでいます。
‣ Scriabin, Alexander(1872-1915) スクリャービン
アレクサンドル・スクリャービン(1872年モスクワ生まれ、1915年モスクワ没)。ロシアの作曲家・ピアニストで、モスクワ音楽院でヴァシリー・サフォノフらに学び、初期にはショパンから強い影響を受けています。神秘主義や共感覚的な色彩感覚を音楽に取り入れた先駆的な存在として知られるほか、独自の和声体系「神秘和音」を生み出し、既成の調性の枠にとらわれない作風を展開しました。1915年に敗血症のため43歳で急逝しました。
スクリャービンをさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くスクリャービン:右手への執着と、左手のための名品
· 2 Pieces for the left hand alone Op.9 [LH]
プレリュード Op.9-1
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

ノクターン Op.9-2
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:左手のための2つの小品 Op.9
楽曲について(オリジナル作品)
| 曲名 | 作曲年 | 演奏時間 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| プレリュード Op.9-1 | 1894年 | 約3分半 | 両手作品とあわせてレパートリーとして定着 |
| ノクターン Op.9-2 | 1894年 | 約6分 | 静寂さと劇的さを併せ持つ、カデンツァを含む充実作 |
難易度:Op.9-1 ツェルニー30番修了〜40番入門程度、Op.9-2 ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
作品全体の背景(Op.9共通)
このOp.9は、スクリャービン自身が過度な練習によって右手を痛めてしまったために作曲されたものです。1895年に出版され、後年の神秘主義的な作風とは異なる、ショパンの強い影響を受けたロマン派のスタイルを持っています。内容、知名度ともに、左手のためのピアノ曲における名作の一つと言えるでしょう。
ピアニストのデトレフ・クラウスによれば、これら2つの楽曲は「なぜこんなに悲しいのか分からない」および「白樺の木の下の夢」という、2つのロシア民謡に基づいているとされています。
この作品の演奏法をさらに詳しく知る
【ピアノ】スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9」演奏完全ガイド
‣ Slonimsky, Sergei(1932-2020) セルゲイ・スロニムスキー
セルゲイ・ミハイロヴィチ・スロニムスキー(1932年8月12日レニングラード生まれ、2020年2月9日サンクトペテルブルク没)はロシアの作曲家・ピアニスト・音楽学者です。文学者ミハイル・スロニムスキーを父に、ロシア系アメリカ人の音楽学者ニコラス・スロニムスキーを叔父に持ち、芸術的な環境で育ちました。父方の叔母は後のカーティス音楽院のピアノ教師イザベル・ヴェンゲローロヴァです。
1950年からレニングラード音楽院で作曲(オレスト・エフラホフほか)とピアノを学び、卒業後は同院の教授として1959年から長年にわたって後進を育成しました。ロシア民謡から中世聖歌、12音技法、ジャズ、新ロマン主義まで幅広い語法を自在に操る折衷的な作風を持ち、多作家としても知られています。デニソフ、シュニトケ、グバイドゥーリナらと同時代のモスクワ勢とは異なり、「レニングラード楽派」に属する存在として位置づけられます。
· Concert Etude for the Left Hand to Paganini [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:パガニーニによる左手のためのコンサート・エチュード
作曲年:2000年
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
委嘱:ハーバート・アクセルロッドとイヴリン・アクセルロッドにより、ゲイリー・グラフマンのために委嘱
収録:Ruby Morgan 編「An Anthology of Piano Music for the Left Hand Alone」(2021年)
リスト、ブラームス、ラフマニノフらが用いてきたパガニーニの有名な主題を用いた作品で、変奏形式風な展開を持っています。
この作品の根底には驚きと遊び心が漂っており、曲の冒頭から一つのテーマを低音域と中高域とに分解した急激な跳躍を伴う書法が見られるなど、早速そのユーモアが感じられます。スロニムスキーの折衷的な作風らしく、親しみやすい旋律素材とあらゆる現代的な語法が共存しているのも特徴と言えるでしょう。
1段譜で書かれた部分も多く、音数は意外と限定的で、全体的にシンプルな作りになっています。
Ruby Morganのアンソロジー(2021年)を通じて初めて出版されました。
‣ Sosa, Raoul(1939-) ラウル・ソーザ
ラウル・ソーザ(1939年7月27日ブエノスアイレス生まれ)はアルゼンチン出身のカナダのピアニスト・作曲家・指揮者です。ブエノスアイレス音楽院でピアノと音楽理論を学び、1959年にテアトロ・コロンでデビュー。1962年のヴァン・クライバーン国際コンクールでファイナリストとなり、フランス政府奨学金でマグダ・タリアフェロ(パリ・ザルツブルク)、スタニスラフ・ネイガウス(イタリア)に師事しました。ウィグモア・ホールやサル・ショパン=プレイエルをはじめ欧米各地で演奏活動を行い、1967年からはモントリオールのケベック音楽院で教鞭を執りました。
1980年に右手を負傷したことを転機として、左手独奏のレパートリーを自ら作曲・編曲しながら演奏活動を続ける道へと進みました。並行してセルジュ・チェリビダッケに指揮を学び、1986〜89年にはモントリオールのサン=レオナール交響楽団の創設指揮者を務めています。2009年にカナダ勲章を受章。モントリオール音楽院の名誉教授。カナダ音楽センターのアソシエイト・コンポーザーとして作品が保存されています。
ソーザについてさらに詳しく知る
・【ピアノ】左手作品から読み解くラウル・ソーザ:右手の負傷が開いた、もう一つのキャリア
・【ピアノ】ラウル・ソーザ「An Anthology for the Left Hand」レビュー
· Original Works
– Capriccioso(on Paganini’s Capriccio No.24) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:カプリッチョーソ(パガニーニの「奇想曲 第24番」の主題による)
作曲年:1995年
演奏時間:約12分(全12ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
パガニーニの「奇想曲 第24番」の主題に基づく変奏曲。変奏の一つは「Berceuse chinoise」と題され、黒鍵のみで演奏されます。1段譜と大譜表が場面によって使い分けられ、大きな跳躍、厚い和音、複雑な声部の重なりなど様々な書法が見られます。
冒頭のヴァイオリン的な音型の箇所では、中高域の音響を補うためにヴァイオリンでは演奏できない和音が付加されました。
初演は、1995年11月19日、ウィニペグ・アーツ・ギャラリーにて作曲者自身によって行われました。
– Sonata for violin and piano left hand [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ヴァイオリンと左手ピアノのためのソナタ
作曲:1992年
全28ページ(手稿複製)
演奏時間:約25分
分類:オリジナル作品(室内楽)
伴奏として主旋律を支えつつも、時にはヴァイオリンと対等に渡り合う左手ピアノの書法は、本作の大きな聴きどころです。初演は1992年10月23日に行われ、マルティーヌ・デロシュのヴァイオリンと、作曲者ソーザ自身のピアノによって披露されました。
– Sonata for cello and piano left hand [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:チェロと左手ピアノのためのソナタ
作曲:1995年
演奏時間:約23分
分類:オリジナル作品(室内楽)
本作は、作曲者が左手ピアノと他楽器の組み合わせに連続して取り組んでいた1995年に書かれました。これは「ヴァイオリンと左手ピアノのためのソナタ」の誕生から3年後にあたります。初演の奏者や当時の演奏状況など、詳しい背景を伝える資料は現時点では確認できておりません。
– Concerto pour la main gauche et orchestre à cordes [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手と弦楽オーケストラのための協奏曲
作曲年:1989年
演奏時間:約28分(全85ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
構成(全3楽章)
第1楽章 Allegro molto
第2楽章 Adagio
第3楽章 Allegro
初演は、1992年2月2日、I Musici de Montréal により、作曲者自身によって行われました。
· Arrangements
– Bach / Sosa: Chromatic Fantasy and Fugue in D minor, BWV903 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:バッハ/ソーザ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903(左手独奏版)
編曲年:1989年
演奏時間:約13分(全26ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
J.S.バッハの原曲を左手独奏用に編曲した作品で、ソーザ独自の創作的なアーティキュレーションは加えず、原曲の構造と声部をできる限り保ったまま片手に移し替えることを目指した編曲です。「片手演奏への妥協がごくわずか」と評される、完成度の高い仕上がりとされてきました。
初演は1990年3月15日です。ソーザ自身による録音もあり、彼の左手編曲の中では最も広く知られている作品の一つとなりました。
– Bach / Sosa: Sinfonia No.14 in B-flat major, BWV800 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:バッハ/ソーザ:シンフォニア 第14番 変ロ長調 BWV800(左手独奏版)
編曲年:1988年
演奏時間:約2分20秒(全2ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)
原曲は3声の対位法作品で、その性質上、片手で完全に再現することには大きな制約が伴います。音の変更と声部の部分的な削減によって片手版として成立させており、原曲の12小節目以降に展開されるストレッタは省かれました。
アーティキュレーションは原典準拠で創作的な付加はなく、強弱記号が一部補足されています。運指付き。
– Gluck / Sosa: Il lamento d’Orfeo [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:グルック/ソーザ:オルフェオの嘆き(左手独奏版)
編曲年:1997年
演奏時間:約3分(全3ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)
グルックのオペラ「オルフェオとエウリディーチェ」より、エウリディーチェを失ったオルフェオの嘆きの場面を原曲とした編曲です。深い哀愁を持ちながらも静かな美しさを失わないこの旋律を左手独奏として成立させており、原曲の特徴的な音の連打も引き継いでいます。
– Ravel / Sosa: La Valse [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ラヴェル/ソーザ:ラ・ヴァルス(左手独奏版)
編曲年:1993年
演奏時間:約16分(全32ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
ラヴェルの管弦楽曲「ラ・ヴァルス」の左手独奏版です。ラヴェル自身による両手版やピアノ連弾版でさえ演奏困難な作品を、さらに片手編曲した野心的な編曲です。低音のうねり、高音のきらめき、ワルツが加速していく運動感を左手ひとつで再現することを目指しており、技術的要求はきわめて高いと言えるでしょう。
ソーザ自身による録音があり、「半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903」の編曲とともに、彼の左手編曲の中では知られている作品の一つとなりました。
– Stravinsky / Sosa: L’Oiseau de feu [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ストラヴィンスキー/ソーザ:火の鳥(左手独奏版)
編曲年:1996年
演奏時間:約24分(全22ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
備考:底本 1919年版
ストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」の左手独奏版で、演奏機会の多い1919年版をもとにして編曲されました。色彩豊かなオーケストレーションを左手独奏で表現するにあたり、スタイルから大幅に変化させるのではなく、原曲の管弦楽的な音響にできる限り肉薄する方向で書かれています。
‣ Spindler, Fritz(1817-1905) フリッツ・シュピンドラー
フリッツ・シュピンドラー(1817年ヴルツバッハ〈ローベンシュタイン〉生まれ、1905年ドレスデン近郊没)はドイツの作曲家で、生涯をドレスデンを拠点に活動しました。生涯に330曲を超える作品を残し、当時のサロン音楽の書き手として一定の人気を博した人物です。作風は技巧的な華やかさよりも親しみやすさに重きを置いたものが多く見られます。
· Drei Romanzen, Op.156 No.1(As-dur) [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

邦題:左手のためのロマンス 変イ長調 Op.156-1
出版年:1864年頃
演奏時間:約3分30秒
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:マティルデ・ホッホシュテッター
本曲は全3曲からなる「ロマンス集 Op.156」の第1曲にあたり、同曲集の中では最も演奏効果と難度がともに高い一曲です(第2曲はG-dur、第3曲はB-dur)。
用いられる音型自体は複雑ではないものの、3度音程の連続、6度音程の連続、オクターブの連続に加え、アルペジオ、スケールパッセージまで多様な奏法がバランス良く盛り込まれており、左手のテクニックを幅広く要求する構成になっています。
‣ Stallaert, Alphonse(1920-1995) アルフォンス・スタラールト
アルフォンス・スタラールトは、オランダ生まれ、フランスで活躍した作曲家・指揮者です。銀行家である父の意向でユトレヒトで法律を学びましたが、音楽への思いを断ちがたく、1年間だけという条件で音楽の勉強を許され、1941年からユトレヒト音楽院でヘンドリック・アンドリーセンに作曲を、ベルトゥス・ファン・リールに指揮を師事しました。フィリップス社の楽団の指揮を経て、1946年にパリへ渡り、アンドレ・クリュイタンスに指揮を、アルテュール・オネゲルに作曲を学びました。
自らオーケストラを組織してパリで演奏活動を行ったほか、フランスやオランダ各地のオーケストラに客演指揮者として招かれるなど、作曲と指揮の両面で活動しました。
· Deux croquis, I. Pour la main gauche seule [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:2つのスケッチ 第1曲「左手のみのために」
出版年:1962年頃
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ダニエル・ワイエンベルク
pp で奏される低いF音のオルゲルプンクトから静かに開始し、この冒頭で提示されたリズムが繰り返し活用されながら音楽が進んでいきます。厚みのある和音が積み重なってクライマックスを作ったのち、静かに消えていく構成です。
※「Deux croquis pour piano」:第1曲は左手独奏、第2曲「Toccata」は両手用
‣ Strakosch, Maurice(1825-1887) モーリツ・シュトラコッシュ
編曲者モーリツ・シュトラコッシュは、1825年にメーレン地方(モラヴィア)のグロース・ゼーロヴィッツに生まれ、1887年にパリで没しました。
興行主(インプレサーリオ)であり音楽家でもあった人物で、1848年から1860年にかけてはニューヨークを拠点にピアニスト・教師として活動し、当時のニューヨーク音楽界で異彩を放つ存在だったと伝えられています。のちにピアニストとしての活動からは離れ、義妹にあたるソプラノ歌手アデリーナ・パッティの歌手としてのキャリアをマネジメントする側に回りました。
· Prayer(Preghiera)”Deh! calma o ciel” from Rossini’s Otello, Op.36 – Transcription for Left Hand Alone [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-2小節)

邦題:ロッシーニ《オテロ》より 祈り(デスデーモナの祈り)
原曲:Rossini, Gioachino / 歌劇《オテロ》第3幕、デスデーモナのアリア「Deh! calma o ciel」
編曲:Strakosch, Maurice(左手用編曲)、Op.36
出版年:1848年頃
演奏時間:約3分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
作品の背景
本作は、ロッシーニの歌劇《オテロ》第3幕でデズデーモナが歌う祈りの場面(Deh! calma o ciel)を、シュトラコッシュが左手独奏用に編曲した作品です。「Miss Laura Gibbsに献呈する」との献辞が付されており、演奏会用の作品として書かれたと考えられるでしょう。シュトラコッシュ自身、1849年9月のブロードウェイ・タバナクルでのリサイタルでこの編曲を披露したという記録も残っています。
音楽的な特徴
冒頭には8小節にわたるカデンツァ風の序奏が置かれ、そこからPREGHIERA(祈り)の主部へと入ります。この主部では音域の広いロング・アルペッジョが頻出し、それゆえに拍が乱れやすく、演奏効果の面では必ずしも成功しているとは言い難い編曲になっている点は否めません。曲の終盤では、冒頭から用いられていた分散和音の音型が回帰し、堂々とした佇まいで曲を締めくくります。
‣ Strategier, Herman(1912-1988) ヘルマン・ストラテヒール
ヘルマン・ストラテヒール(1912年アルンヘム生まれ、1988年没)はオランダのオルガニスト、作曲家です。ヘンドリク・アンドリーセンに師事し、ユトレヒトおよびロッテルダムの音楽院で教鞭を執りました。
· Tema con Variazioni [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:主題と変奏
作曲年:1959年
出版年:1963年
演奏時間:約3分50秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:コル・デ・フロート
収録:Mano sinistra I:Six pieces by Netherlands composers for piano left hand
5/8拍子による素朴でメランコリックな主題に始まり、それに続く5つの変奏とコーダから構成されています。モーダルな音の運びや平行和音の使用など、ラヴェルを思わせる響きが随所に感じられ、コンパクトながらも美しく魅力的な作品に仕上がっています。
‣ Strauss, Richard(1864-1949) リヒャルト・シュトラウス
リヒャルト・シュトラウス(1864年6月11日ミュンヘン生まれ、1949年9月8日ガルミッシュ=パルテンキルヒェン没)はドイツ後期ロマン派を代表する作曲家・指揮者です。「ドン・ファン」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」「英雄の生涯」などの交響詩で革新的な書法を確立し、「サロメ」「エレクトラ」「ばらの騎士」といったオペラで国際的な地位を築きました。若い頃からヴィトゲンシュタイン家の常連客であり、パウル・ヴィトゲンシュタインとは個人的な親交がありました。
· Parergon zur Symphonia domestica für Klavier linke Hand und Orchester, Op.73 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、ソロの初導入部 19-21小節)

邦題:家庭交響曲余録 Op.73
作曲年:1924〜1925年(スコアの日付:1925年1月27日)
演奏時間:約25分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
初演:1925年ドレスデン、フリッツ・ブッシュ指揮、ヴィトゲンシュタイン独奏(日付は資料によって異なる)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン
1924年にヴィトゲンシュタインから委嘱を受けて書かれた作品です。「Parergon」とはギリシャ語に由来する言葉でシュトラウス自身の造語とされており、「傍作」あるいは「補遺」に近い意味を持ちます。
シュトラウスの自伝的交響詩「家庭交響曲 Op.53」の「付け足し」として、主に息子フランツのテーマが中心に据えられています。作曲の直接のきっかけは、長男フランツが新婚旅行中に腸チフスで生死をさまよい、奇跡的に回復したことでした。曲全体が闘病から快癒へと向かう物語を描いており、シュトラウスにとって極めて私的な意味を持つ作品でした。
単一楽章で多くのセクションが連続し、一度登場したピアノはほぼ休みなく演奏し続けます。冒頭でピアノが登場するまで約1分30秒程度あり、この間のオーケストラの陰鬱なサウンドが、ソロの登場への期待感を高めていると言えるでしょう。闘病から始まる物語と結びついています。
ヴィトゲンシュタインは演奏権の独占を求め、他のピアニストが演奏できるようになったのは1950年以降のことでした。
· Panathenäenzug: Sinfonische Etüden in Form einer Passacaglia für Klavier (linke Hand) und Orchester, Op.74 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

※リヒャルト・シュトラウス自身によるピアノ伴奏版編曲(ソロ+ピアノ伴奏形式:2台ピアノ)から浄書
邦題:パンアテネの行列 Op.74
作曲年:1926〜1927年(スコアの完成日:1927年2月14日)
演奏時間:約25分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
初演:1928年1月16日、ベルリン、ブルーノ・ワルター指揮、ベルリン・フィル、ヴィトゲンシュタイン独奏
献呈:なし(ヴィトゲンシュタインが演奏)
Op.73に対してヴィトゲンシュタインが「ピアニスティックな輝きが足りない」「管弦楽が重すぎる」と不満を示したことを受けて、シュトラウスが新たに書き下ろした作品です。題名の「パンアテネ」は古代アテネの祭典で、4年に一度の大祭ではパルテノン神殿のアテナ女神像に向けた行列が行われていました。
曲はMaestosoの序奏、カデンツァ、そして11の変奏が絶え間なく続くパッサカリア形式で書かれています。変奏ごとにテンポが変わる指示が付されており、大まかに4つのセクションに相当する構造が内部に潜んでいます。
ピアノはほぼ全曲を通じて演奏し続けており、この辺りはOp.73との共通点と言えるでしょう。演奏機会はOp.73と比べて少なく、初演時の批評は厳しいものが多くありました。
‣ Stravinsky, Igor(1882-1971) イーゴリ・ストラヴィンスキー
イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882年ロシア生まれ、1971年アメリカ没)は、20世紀を代表する作曲家の一人です。「春の祭典」をはじめとするバレエ音楽で音楽史に大きな衝撃を与え、その後も新古典主義、さらにはセリー技法にいたるまで、生涯を通じて作風を大胆に変化させ続けました。
片手のためのピアノ音楽という観点から注目されるのが、1910年代に書かれた連弾作品 「3つのやさしい小品」と「5つのやさしい小品」 です。いずれも「やさしい小品」と題されていますが、通常の連弾作品とは異なる、ユニークな奏者構成を持っています。
· 3 Pieces faciles/Three Easy Pieces for Piano Duet(Left Hand Easy) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:3つのやさしい小品
作曲年:1914年
出版年:1917年頃
演奏時間:全曲合計 約3分30秒
編成:連弾(プリモ=両手、セコンド=左手のみ)
分類:オリジナル作品(連弾)
構成(全3曲)
・行進曲(March) 約1分 アルフレード・カゼルラに献呈
・ワルツ(Waltz) 約1分30秒 エリック・サティに献呈
・ポルカ(Polka) 約1分 セルゲイ・ディアギレフに献呈
作品の特徴
3曲とも、プリモは通常どおり両手で演奏する一方、セコンドは左手だけで演奏するように書かれています。セコンド・パートはごく限られた音数による反復的な音型を中心としており、プリモが音楽の主要部分を担うのに対して、セコンドはシンプルな伴奏的役割を果たします。パターソンも本作について、セコンド奏者を「one-handed Secondo performer」と明記しており、単に「セコンド・パートが易しい連弾曲」というだけではなく、実際に片手奏者が参加することを想定した作品と見ることができます。
3曲はいずれも著名な芸術家に献呈されており、行進曲はアルフレード・カゼルラ、ワルツはエリック・サティ、ポルカはセルゲイ・ディアギレフに捧げられている点も注目に値するでしょう。
1手でピアノを演奏する奏者を含む連弾作品として、片手音楽のレパートリーの中でもユニークな位置を占めています。
· 5 Pieces faciles/Five Easy Pieces for Piano Duet(Right Hand Easy) [LH/RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:5つのやさしい小品
作曲年:1916年
出版年:1917年頃
演奏時間:全曲合計 約6分
編成:連弾(プリモ=オクターブを中心とした書法、セコンド=両手)
分類:オリジナル作品(連弾)
構成(全5曲)
・アンダンテ(Andante) 約1分
・エスパニョーラ(Española) 約1分
・バラライカ(Balalaika) 約1分
・ナポリターナ(Napolitana) 約1分
・ギャロップ(Galop) 約2分
作品の特徴
本作は、「3つのやさしい小品」とは対照的な性格を持つ連弾作品です。タイトルには 「Right Hand Easy」とありますが、これは必ずしも「右手だけで演奏する作品」という意味ではありません。Pattersonは、「Easy Treble Part」と表記されることもあると述べており、タイトルが示しているのは、主としてプリモ側の上声部・高音側のパートが簡潔に書かれているということです。
プリモ・パートはオクターブを中心としたシンプルな書法で書かれている一方、セコンド・パートは和声やリズムを支えるため、基本的に両手を必要とする書き方になっています。
そのため、「3つのやさしい小品」のように「片手奏者が担当するパートを明確に設定した作品」ではありません。ただし、プリモ・パートの書法から、片手演奏との関連を考えることのできる作品として、エーデルやパターソンの片手音楽関係の資料にも収録されています。
片手音楽として見るポイント
ストラヴィンスキーのこの2つの連弾作品は、片手音楽との関わり方が異なる点に着目しましょう。
「3つのやさしい小品」では、セコンド奏者が左手だけで演奏することが作品の明確な特徴となっています。一方、「5つのやさしい小品」では、片手演奏そのものを目的とした構成というより、プリモ側のパートが簡潔に書かれている点に特徴があります。
| 作品 | 片手になるパート | 手 |
|---|---|---|
| Three Easy Pieces(Left Hand Easy) | セコンド | 左手 |
| Five Easy Pieces (Right Hand Easy) | プリモ側の「Easy」なパート | ※「右手のみ」とは単純に言えない |
‣ Stravinsky, Sviatoslav Soulima(1910-1994) スーリマ・ストラヴィンスキー
スーリマ・ストラヴィンスキーは1910年スイス・ローザンヌに生まれ、1994年に没した作曲家・ピアニストです。イーゴリ・ストラヴィンスキーの息子であり、父としばしば2台ピアノで共演したことでも知られています。活動の拠点はスイスとアメリカにまたがり、演奏家としての経験を活かした実践的なピアノ書法を持ち味として評価されてきました。
· Piano Suite for the Right Hand [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:右手のためのピアノ組曲
作曲年:1975年
演奏時間:約8分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ウォルター・ヒンリクセンの追悼に捧げられている
構成(全6曲)
I. Prelude
II. Marcia
III. Valse(Noble et rustique)
IV. Gavotte
V. Sarabande
VI. Gigue
作品の背景
本作はニューヨークのC.F.Peters社を興したウォルター・ヒンリクセン(1907–1969)の追悼に捧げられた組曲です。
「第1曲 Prelude」の冒頭直前には、実際には演奏されない「シンボル」として12音音列がそのまま記譜されており、この音列に基づく作曲技法を用いながら、行進曲・ワルツ・ガヴォット・サラバンド・ジーグといった、以前からの舞曲様式を各曲の性格づけに援用する構成にまとめられました。様式と語法のコントラストが興味深い作品です。
なお本作は後年、ヴィオラ独奏用にも編曲されています。
音楽的な特徴
「第4曲 Gavotte」の一部を除き、全曲を通じて一段譜で書かれた極めて薄い書法が貫かれており、同時に鳴る音はほとんどの場合2音までに留められています。強弱や表情記号は比較的細かく書き込まれており、「espressivo」「dolce」といった歌謡的な標語まで随所に見られることから、無調語法の中にあっても旋律的な歌ごころが重視されていることがうかがえます。
各曲はいずれも1ページ前後に収まる小品で、運指は一部にのみ付されている一方、ペダル指示は与えられていません。
‣ Sueyoshi, Yasuo(1937-2018) 末吉保雄
末吉保雄は1937年東京生まれ、2018年に没した作曲家です。東京で石桁真礼生に作曲を、豊増昇にピアノを師事し、1964年に渡仏。帰国後は作曲活動とともに、大学での後進の指導、NHKの音楽教育番組への出演・企画などを通じて長く教育活動にも携わりました。日本現代音楽協会名誉会員、日本フォーレ協会・日本セヴラック協会会員、OTOの会顧問なども務めています。
舘野泉のために複数のピアノ作品を献呈したことでも知られています。
· Song of the Earth / Voice of the Wind for piano(left hand) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:土の歌・風の声 ピアノ(左手)のために
作曲年:2005~2006年
初演:2006年4月、舘野泉による初演
演奏時間:全曲合計 約15分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:舘野泉
構成(中断なく演奏される全4部)
1. 巡礼の歌 約4分30秒
2. 途切れがちな風 約50秒
3. 恐怖の記憶 約2分
4. 野を渉る鐘 約7分10秒
※上記4部の仮題は、舘野泉による初演(2006年4月)のプログラムノートに作曲者自身が付記したものであり、出版譜そのものには記載されていません。
作品の背景
本作の構想は、フランスの作曲家セヴラックの生地であるラングドック地方の風土や歴史に思いを馳せることと重なって生まれました。日本セヴラック協会の例会で旧友と久々に再会し、ピレネーを望むひまわりと麦、葡萄の広がる土地――かつて巡礼者たちが行き交い、アルビジョワ十字軍による惨劇も刻まれた土地――について語り合ったことが、新曲への最初の着想になったといいます。もっとも、作曲者自身が述べるように、曲はこうした歴史や土地の情景をそのまま描写するものではなく、聴く人それぞれが音の向こうに、土の上を過ぎていった大きな時の流れに思いを馳せる契機となることを願って書かれています。
楽譜中のメトロノーム数値はあくまで示唆に留まり、各部相互の数字の差や比率を目安にしつつ、演奏者自身の判断に委ねる旨が記されています。
音楽的な特徴
使われている音の数自体は多くなくシンプルですが、随所で4段譜にわたって書かれるなど、多層的・立体的な響きを持つ作品です。終曲「野を渉る鐘」は、余韻を残しながら次第に遠ざかっていくように曲を閉じ、静かな独白のような響きの中に消えていきます。
· plein d’enfants – 6 préludes brèves pour piano m.g. [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:いっぱいのこどもたち 左手のためのピアノ小前奏曲集
作曲年:2008年
演奏時間:全曲合計 約15分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:舘野泉
構成(全6曲)
1. 雪とけて(La neige fondant…) 約2分10秒
2. 学校へ(en route pour l’école) 約2分10秒
3. えかき歌(dessiner en chantant) 約2分20秒
4. 遅くなった帰り(Il est tard, rentrer vite…) 約2分30秒
5. 一輪車(monocycle) 約2分20秒
6. 太郎を眠らせ…(berceuse) 約3分20秒
作品の背景
本作は、「子どもたち」をテーマとする作品です。表題は、小林一茶の句「雪とけて村いっぱいの子ども哉」(『新訂一茶俳句集』岩波文庫)にちなんで名付けられました。長らく作曲者の心のうちにあった子どもたちへの思いを出発点に、6曲それぞれで子ども特有の身のこなしを追いかける試みがなされています。
音楽的な特徴
無調の語法で書かれた作品ですが、全編を通じて拍子やテンポの変化が頻繁であり、これは子どもたちの落ち着きのない、瞬間ごとに移り変わる動きや感情を音楽的に描こうとした結果と考えられます。この絶え間ないリズムの変化のおかげで、無調音楽に馴染みのない聴き手でも、その面白さを通して興味深く聴くことができるでしょう。
‣ Takács, Jenő(1902-2005) タカーチュ
イェネー・タカーチュ(1902年チンファルヴァ、現在のジークェンドルフ生まれ、2005年アイゼンシュタット没)はハンガリー系オーストリアの作曲家・ピアニスト・民族音楽研究者です。ウィーン音楽院でヨーゼフ・マルクスに作曲を、ハンス・ガールに対位法を師事しました。カイロ音楽院やフィリピン大学、シンシナティ大学音楽院などで教壇に立ち、バルトークとも親交がありました。103歳まで生き、100歳の誕生日には世界各地で約200のコンサートが開かれました。
※タカーチュは、「タカーチェク」「タカークス」という表記が用いられることもあります。
· Toccata and Fuge für die linke Hand, Op.56 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のためのトッカータとフーガ Op.56
作曲年:1950年
演奏時間:全曲合計 約6分50秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Peter Girardoni
J.S.バッハの「半音階的幻想曲とフーガ」を意識した構成を持ちながら、書法は現代的で独自の音楽語法が貫かれています。作品が生まれたきっかけは、「左手だけで演奏することは本当に可能か」という友人からの問いかけで、タカーチュはその答えとして本作を書き上げました。完成後にヴィトゲンシュタインへ送ったところ、「現代的すぎる」と返却されたというエピソードも残っています。
トッカータ
速度記号のないRapidと書かれた即興的な音遣いで始まります。その後♩=66で音楽が落ち着きを見せますが、再び拍節感の薄い即興的な箇所に戻り、大まかな区切りだけが小節線で示される場面も現れます。全体を通じて幻想的で流動的な性格が貫かれています。
フーガ
無調で始まりますが、進むにつれて音楽は次第に分かりやすくなっていきます。そして最終小節で、なんとC-durの主和音(ド・ミ・ソ)で締めくくられるという、意表をついた結末を迎えます。
トッカータの最終小節とフーガの最後から2番目の小節で共通したハーモニーが出てきますが:
・トッカータでは、その神秘的な響きが未解決のままフーガに入る
・フーガでは、その響きがC-durの主和音(ド・ミ・ソ)に解決し完結する
このように両曲の関連性が示され、最終的な意味づけまでされています。無調から調性へ向かうこの流れが、この曲の大きな聴きどころの一つと言えるでしょう。
‣ Takahashi, Yuji(1938- ) 高橋悠治
高橋悠治(1938年東京生まれ)は日本の作曲家、ピアニストです。クセナキスに師事した経歴があります。作曲家としてだけでなく卓越したピアニストとしても知られ、現代音楽の演奏・創作活動を中心に展開してきました。
· Three Poems of Mao Tse-tung [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:毛沢東詞三首
出版年:1976年(楽譜表記) ※作曲者ホームページ上では「1975」と表記
演奏時間:
第1曲 Tapoti 大拍地 約5分50秒
第2曲 Ode to the Plum Tree 詠梅 約4分20秒
第3曲 Reply to Comrade Kuo Mo-Jo 和郭沫若同志 約2分
全曲合計 約12分10秒
分類:オリジナル作品(連作)
テキスト:毛沢東の詩(中国語・日本語・英語で楽譜に併記)
毛沢東の詩3篇にもとづく連作で、各曲の後には日本語・英語・中国語で対応する詩文が記されています。第1曲・第2曲は右手(一手)で演奏できるよう書かれているのに対し、第3曲は部分的に両手を必要とする書法になっており、3曲の性格には違いが見られます。楽譜には小節線・拍子記号がいずれも用いられていません。
強奏と弱奏が入れ替わりながら現れる書法が全曲を通じての大きな特徴であり、強弱の変化に留まらず、音楽における遠近感・空間性の表現としても機能しています。
なお、作曲者自身のホームページ上で楽譜が公開されています。
‣ Takano, Yuya タカノユウヤ
· J.S. Bach: Partita No.2, BWV1004 (Complete) – Arranged for the left hand alone [LH]
邦題:J.S.Bach 《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 全曲》 左手独奏用編曲版
※シャコンヌを除く全4曲 シャコンヌはBach=Brahms版
作品データ:
・編曲者:タカノユウヤ(本Webメディア運営者)
・編曲時期:2019年
・演奏時間:約17分
・難易度:ツェルニー50番入門以降程度
編曲の意義:
1. レパートリーの拡充
・左手独奏版として初めての試み
・ブラームスによるシャコンヌ編曲と併せて全曲演奏が可能に
2. 演奏技法・編曲技法への取り組み
・ブラームス版の編曲技法を詳細に分析し、その書法をもとに残り4曲を編曲
・5本の指による演奏の可能性を追求
・チャレンジングかつ演奏効果の高い編曲を実現
3. 作曲家・編曲家としての視点
・演奏家の挑戦意欲に応える作品作り
・技術的課題と音楽的表現の融合を目指した編曲
この作品の楽譜を見る
· Elgar: Salut d’amour for the left hand alone Op.12 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、曲頭)

邦題:愛のあいさつ 〜左手独奏のための〜 作曲:エルガー
作品データ:
・編曲者:タカノユウヤ(本Webメディア運営者)
・2017年度 月刊ピアノ×ピティナ編曲オーディション 上級部門 第1位 受賞作品
・編曲時期:2017年2月
・演奏時間:約3分
・難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度から挑戦可能
・ピティナ・ピアノ曲事典
楽譜の入手方法
本作品の楽譜は以下の方法で入手できます:
・ぷりんと楽譜で購入可能(» 愛のあいさつ〜左手独奏のための〜)
・「月刊ピアノ 2017年10月号」バックナンバー
・ミュッセ
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】「愛のあいさつ 〜左手独奏のための〜」編曲者による演奏解説
· Famous Melodies Arranged for the left hand alone [LH]
編曲・演奏:タカノユウヤ
形態:民謡・讃美歌・クラシック小品などの左手独奏編曲(随時追加予定)
収録曲
| 曲名 | 原曲 | ジャンル | 演奏時間 |
|---|---|---|---|
| ケンタッキーの我が家 | My Old Kentucky Home(S.フォスター) | アメリカ民謡 | 2:31 |
| めぐり逢い | Comme au premier jour(アンドレ・ギャニオン) | ヒーリング / イージーリスニング | 2:48 |
| 蛍の光 | Auld Lang Syne(スコットランド民謡) | トラディショナル | 2:08 |
| 愛のあいさつ | Salut d’Amour(エルガー) | クラシック | 3:05 |
| アメイジング・グレイス | 讃美歌 | トラディショナル | 2:57 |
| ダニー・ボーイ | アイルランド民謡 | トラディショナル | 2:34 |
| 雪の華 | 中島美嘉(作曲:松本良喜) | J-POP | 3:48 |
| 粉雪 | レミオロメン(作曲:藤巻亮太) | J-POP | 3:44 |
| 白い恋人達 | 桑田佳祐 | J-POP | 3:12 |
| ハナミズキ | 一青窈(作曲:マシコタツロウ) | J-POP | 5:18 |
解説
広く親しまれてきた名曲を、左手独奏用に編曲したシリーズ。クラシックの小品から讃美歌、各地の民謡まで幅広く選ばれています。懐かしいメロディが左手だけの演奏でどのように響くかを楽しめる内容となっており、今後も曲数が随時追加される予定です。
詳細・音源は以下の記事をご覧ください。
‣ Tappert, Wilhelm(1830-1907) ヴィルヘルム・タッペルト
ヴィルヘルム・タッペルトは1830年2月19日、シュレジエン地方オーバー・トーマスヴァルダウの生まれ。1907年10月27日にベルリンで没しています。もともとは教職に就いていましたが、1856年に音楽の道へと転じ、デーンおよびアードルフ・クラクのもとで研鑽を積みました。
1858年からはグロガウで批評家・教師として活動を開始し、1866年にベルリンへ移ってからは音楽教師・著述家として広く名を知られる存在になりました。とりわけリヒャルト・ワーグナーへの傾倒は篤く、熱心なヴァグネリアンとしても知られています。
· 50 Exercises for the Left Hand [LH]
邦題:左手のための50の練習曲
出版年:1892年
演奏時間:番号による
分類:オリジナル作品(独奏)
作品の背景
本作は単声の音型練習から出発し、巻を追うごとに次第に規模を増して本格的な演奏会用エチュードへと発展していく構成を持つ左手専用の練習曲集です。全体としては短めの小品が中心で、単音や複音の扱い、低音のメロディ、アルペッジョ練習、オクターヴの練習などが盛り込まれています。
レイモンド・レヴェンタール編纂の曲集「Piano Music for One Hand:A COLLECTION OF STUDIES, EXERCISES AND PIECES」には、本作から第22番と第45番の2曲が抜粋・収録され、親しまれてきました(同曲集内の表記では「48 Exercises for the Left Hand」となっており、原典の巻数表記との間に相違あり)。
No.22(Exercise)
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

作曲年:不明
演奏時間:約50秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
低音域に置かれた旋律線と、その上で動く伴奏音型との弾き分けを課題とした練習曲。手のポジション移動が頻繁に発生し、和音の形を先取りして準備する感覚を養う内容になっています。
No.45(Exercise)
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

作曲年:不明
演奏時間:約1分
難易度:ツェルニー30番中盤程度
形や音域幅の異なる様々なアルペッジョを展開していく練習曲。実質的には運指トレーニングも兼ねた内容です。譜面中には作曲者自身による運指上の注記が記されています。
‣ Teichmann, Fritz フリッツ・タイヒマン
· Lyrische Stücke für die rechte oder linke Hand allein [LH/RH]
※編曲者(Fritz Teichmann)の生没年が不詳であり、著作権保護期間(PD)の確定が困難なため、安全を考慮して譜例の掲載は控えております。
邦題:グリーグの旋律による、右手または左手のための抒情小曲集
原曲:Grieg, Edvard /「抒情小曲集」各巻より
編曲:Teichmann, Fritz(右手・左手いずれでも演奏可能な編曲)
出版年:1911年頃
演奏時間:番号による
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)
作品の背景
本作は、グリーグの「抒情小曲集」各巻から選ばれた楽曲を中心に、全12曲を一つにまとめた曲集です。原曲の多くはOp.12、Op.38、Op.43、Op.57、Op.65、Op.68といった複数の巻にまたがって選ばれており、いずれも右手のみ、あるいは左手のみで演奏できるよう書き改められています。
「Solvejgs Lied(ソルヴェイグの歌)」と「Solvejgs Wiegenlied(ソルヴェイグの子守歌)」が加えられているのが、構成上の特徴と言えるでしょう。
収録曲
1. Vals(ワルツ) Op.12-2
2. Vægtersang(夜警の歌)〜Intermezzo Op.12-3
3. Folkevise(民謡) Op.12-5
4. Fædrelandssang(祖国の歌) Op.12-8
5. Vuggevise(子守歌) Op.38-1
6. Ensom vandrer(孤独なさすらい人) Op.43-2
7. Gade(ガーデ) Op.57-2
8. Illusion(幻影) Op.57-3
9. Salon(サロン) Op.65-4
10. Bestemors menuett(おばあさんのメヌエット) Op.68-2
11. Solvejgs Lied(ソルヴェイグの歌)
12. Solvejgs Wiegenlied(ソルヴェイグの子守歌)
‣ Thompson, John(1889-1963) ジョン・トンプソン
ジョン・S・トンプソン(1889年、ペンシルベニア州ウィリアムズタウン生まれ、1963年没)。若い頃はアメリカ・ヨーロッパ各地で演奏活動を行いましたが、後に教育者へと転身し、フィラデルフィア、インディアナポリス、カンザスシティの音楽院でピアノ科を主導しました。「Teaching Little Fingers to Play」や「Modern Course for the Piano」シリーズはピアノ教則本の定番として世界的に広く使われ続けています。
· For Left Hand Alone [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
出版:THE WILLIS MUSIC COMPANY
難易度:
Book One=バイエル後半程度
Book Two=ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:教育用小品集(アンソロジー)
収録内容
Book One(1959年、全11曲):シュトラウス、ベートーヴェン、グリーグといったクラシック編曲に加え、オリジナル小品を含む構成。
Book Two(1962年、全9曲):C.P.E.バッハの編曲に加え、オリジナル小品などを収録。
特徴と編纂の意図
各曲は1〜2ページ程度の短い分量にまとめられ、冒頭には簡潔な解説文が添えられています。運指・ペダリングも書き込まれており、独習・指導いずれの場面でも使いやすい体裁になっている点が特徴と言えるでしょう。
序文からは、片手奏法を単なる余興としてではなく、正確さ・器用さ・運指感覚を養う教育的な手段として位置づけている姿勢がうかがえます。
このアンソロジーについてさらに詳しく知る
【ピアノ】ジョン・トンプソン「FOR LEFT HAND ALONE」シリーズ 完全ガイド
· Nocturne for Left Hand Alone [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のためのノクターン
作曲年:不明
演奏時間:約2分30秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
日本でも広く使われている「トンプソン 現代ピアノ教本 第4巻」に収録されたオリジナル左手独奏曲です。同巻ではショパン「プレリュード Op.28-6」とシューマン「トロイメライ」に挟まれる位置に置かれており、難易度の目安として参考になります。運指とペダリングの指示が付されているため、学習しやすい構成と言えるでしょう。
曲は「ABA+短いエンディング」の三部構造です。AセクションはAndante cantabile、Es-durによる穏やかな曲想。Bセクションは平行調のc-mollに転じ、Più mosso・con animaの指示とともに場面が切り替わります。最後の和音はEs-durの主和音ですが、アルペジオの中にC音が含まれており、ペダルで響きが重なることで六の和音の色合いが生まれる、洒落た締めくくりになっています。
‣ Tisné, Antoine(1932-1998) アントワーヌ・ティスネ
アントワーヌ・ティスネは1932年ルルド生まれ、1998年に没したフランスの作曲家です。タルブ音楽院で学んだのち、1952年にパリ音楽院の作曲科に入学し、ジョルジュ・ユゴンに和声を、ノエル・ガロンとジャン・リヴィエにフーガと対位法を師事、その後ミヨーやジョリヴェにも学びました。1962年にはローマ大賞の第2位を受賞しています。文化省の首席音楽視学官を1967年から1992年まで務めたのち、パリ市の音楽院群を統括する音楽視学官に任命されました。
独奏曲から管弦楽曲まで、生涯に300曲を超える作品を残しており、国家功労賞オフィシエ、芸術文化勲章コマンドゥールなど、フランスの文化勲章も複数受章しています。
科学的発見への関心と瞑想的な思索とが結びついた、渦を巻くような音の動きや色彩的な煌めきを特徴とする作風で知られています。
· Lac(for Piano Left Hand) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:湖(左手のための)
作曲年:不明
演奏時間:約11分
分類:オリジナル作品(独奏)
本作は、ダヴィッド・ニーマンによる詩に基づいて書かれた作品で、原詩に込められた象徴性を音楽的に写し取るように作曲されています。
世界各地への旅で得た印象を音楽に昇華させてきたというティスネ。この作品も、自然への深い観照と、芸術・詩への愛情から生まれる着想の豊かさが感じられる一作です。
「Ravel; Chopin; Saint-Saëns: An anthology for the left hand / Raoul Sosa」などに収録されています。
‣ Tomášek, Jaroslav(1896-1970) ヤロスラフ・トマーシェク
ヤロスラフ・トマーシェクは、チェコの作曲家・音楽学者で、プラハ・カレル大学で音楽学と美学を修めるかたわら、ヴィーチェスラフ・ノヴァークに作曲を、ヤロスラフ・クシチカに管弦楽法を師事しました。作風は小規模編成の作品を中心としています。
· Sonáta pro klavír, Op.7 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ピアノソナタ Op.7(左手のための)
作曲年:1925年
演奏時間:約20分(オタカール・ホルマンによる演奏記録に基づく)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:オタカール・ホルマン
構成(全2楽章)
第1楽章 Maestoso lugubre 約7分10秒
第2楽章 Allegro appassionato 約12分30秒
作品の背景
右手を負傷し左手のピアニストへと転向したオタカール・ホルマンのために書かれた作品ですが、同時にホルマンの最初の妻を追悼する意味も込められていたとされています。第1楽章の重々しく悲痛な性格から始まり、終楽章の最後は長和音の強打によって閉じられ、喪失の先に光を見出すかのような構成になっています。技巧・体力の両面で演奏者に大きな負担を強いる、規模の大きな左手作品です。
オタカール・ホルマンについてさらに詳しく知る
‣ Vaughan Williams, Ralph(1872-1958) ヴォーン・ウィリアムズ
ラルフ・ヴォーン・ウィリアムズはイギリスを代表する作曲家の一人です。イギリス民謡や教会旋法を取り入れた独自の語法により、幅広いジャンルで数多くの作品を残しました。
· Concerto for Two Pianos and Orchestra [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:2台のピアノのための協奏曲
原曲:ピアノ協奏曲 ハ長調(1926〜1931年作曲、ハリエット・コーエンに献呈、1933年に初演)
2台ピアノ版への改作:ジョゼフ・クーパーの協力のもと編曲
初演(2台ピアノ版):1946年、シリル・スミスとフィリス・セリックにより
2台ピアノ・3手版の編曲:ジョン・オドム(John Odom)とされている
演奏時間:約26分
分類:編曲作品(2台ピアノ+管弦楽)
作品の背景
本作はもともと、ハリエット・コーエンのために書かれた「ピアノ協奏曲 ハ長調」として構想されましたが、演奏の難度があまりに高いとの評もあり、後にジョゼフ・クーパーの協力を得て2台ピアノのための協奏曲へと改められました。1946年にスミスとセリック自身によって初演されて以来、この作品は夫妻にとって特別な意味を持つレパートリーとなり、シリル・スミスの発病より10年ほど前から、二人と縁の深い作品として大切にされてきました。
「3手」版への編曲
1956年、スミスは血栓症を発症し、左腕が麻痺してしまいます。発病後、夫妻は「3手」のための作品によって演奏活動を継続しましたが、ヴォーン・ウィリアムズはすでに1958年に世を去っていたため、本作の新たな2台ピアノ・3手版の編曲は、作曲者本人ではなく別の編曲者に依頼されることとなりました。1974年6月に放送されたBBC番組「Face the Music」の中で、夫妻自身がこの新しい編曲について語っており、編曲者としてジョン・オドム(John Odom)の名前を挙げています。番組ではまた、それ以前に2台ピアノ版をすでに演奏していたこと、そして「この夏」に3手版として新たに取り組む予定であることも語られました。
エピソード
新しい3手版の楽譜が郵送で届いたのは1974年8月1日のことでした。奇しくもこれは、シリル・スミスが世を去る前日にあたります。スミスがセリックにかけた最後の言葉は「明日からこれに取り組もう」だったと伝えられています。
シリル・スミスについて詳しく知る
【ピアノ】片手音楽から読み解くシリル・スミス:左腕の自由を失ったピアニストが拓いた「3手」の音楽
‣ Vilanova, Ranieri(1827-1881) ラニエリ・ヴィラノーヴァ
· Romanza nell’opera “Mignon” del Maestro Amb. Thomas, ridotta per la mano sinistra da Ranieri Vilanova [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:歌劇「ミニョン」のロマンツァ
原曲:Thomas, Ambroise / 歌劇「ミニョン」より
編曲:Vilanova, Ranieri(左手用編曲)
出版年:1877年
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
原曲の作曲者アンブロワーズ・トマ(1811年生、1896年没)はフランスのオペラ作曲家で、1856年からパリ音楽院の作曲科教授、1871年からは院長を務めました。1866年に初演された「ミニョン」はオペラ・コミック座で1000回もの上演を重ね、オペラ史上でも成功を収めた作品の一つとして知られています。
この左手編曲は、オクターヴ、アルペジオ、トレモロ、連続する和音などを多用し、原曲の旋律を華やかに彩ったパラフレーズです。Andantinoに転じる直後の部分では、両手で演奏するかのように、小節の頭で旋律と音域の離れたバスとを同時に記譜している箇所が頻出しており、左手のみで演奏するための編曲としては、必ずしも弾きやすい書法とは言い難い面があります。もっとも、それ以外の部分については、音数こそ多いものの実際には無理なく演奏できるよう書かれており、聴感上の効果は十分に上がる作りと言えるでしょう。
‣ Vinogradoff, Paul(1888-1974) ポール・ヴィノグラドフ
ポール・ヴィノグラドフ(1888年、現ポーランド領ヘウム生まれ、1974年没)はロシア帝国出身のピアニスト・作曲家・教育者です。8歳でパリ音楽院に入学後、スクリャービンの推薦でモスクワ音楽院に進み、イグームノフにピアノを、タネーエフに作曲を師事しました。1918年に来日、ジャワやオーストラリアでの活動を経て再来日後は日本に永住し、後進を育てました。イグームノフを通じたロシアピアニズムの伝統を日本に伝えた先駆的な存在として知られています。
· Kōjō no Tsuki(Moon over the Ruined Castle)(arr. Vinogradoff, for left hand) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:荒城の月(左手のための)
原曲作曲者:瀧廉太郎(1879–1903)
収録:ピアノ名曲集 [1](共同音楽出版社、1969年)
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)
原曲の旋律や伴奏を忠実に再現するタイプの編曲ではなく、創作的な意図が前面に出た一作です。冒頭から相当の長さにわたって幻想的な分散和音が続き、旋律はその後に姿を現します。この部分は、ジチーが左手用編曲したリスト「愛の夢 第3番」の創作的序奏を思い出すことでしょう。原曲の伴奏音型への意識は薄く、ヴィノグラドフ独自の音楽的世界が展開されます。
► 終わりに
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