左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 S-V

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左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 S-V

► はじめに

 

本ページでは、S-Vで始まる作曲家の左手ピアノ作品をまとめています。作曲作品・編曲作品・教本・室内楽・協奏曲などを、作曲家ごとに整理しています。

作品を探す際は、以下のアルファベット別ページもご利用ください。

左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別

 

► 作曲家別 S-V

‣ Saint-Saëns, Camille(1835-1921) カミーユ・サン=サーンス

 

カミーユ・サン=サーンスは、フランスの作曲家・オルガニスト・ピアニスト・指揮者です。1835年にパリで生まれ、1921年に、アルジェで亡くなりました。幼少から神童として知られ、10歳でパリのサル・プレイエルにデビューし、パリ音楽院で、オルガンと作曲を学びました。教会オルガニストとして活動した後、ヨーロッパやアメリカ大陸で、演奏家・作曲家として活躍し、ガブリエル・フォーレ(Gabriel Fauré)を教えています。代表作に、歌劇「サムソンとデリラ」、「動物の謝肉祭」などがあります。

 

· Six Études pour la main gauche seule, Op.135 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1曲 1-3小節)

サン=サーンス「左手のための6つの練習曲 Op.135 より 前奏曲」冒頭部分の楽譜。

邦題:左手のための6つの練習曲 Op.135

 

作曲年:1912年頃
出版年:1912年
演奏時間:全曲合計 約18分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

構成

1. Prélude(前奏曲) 2. Alla Fuga(フーガのように) 3. Moto Perpetuo(無窮動)
4. Bourée(ブーレ) 5. Élégie(エレジー) 6. Gigue(ジーク)

 

70代半ばを過ぎたサン=サーンス晩年の作で、彼が手がけた練習曲集としては最後の作品にあたり、先行作にはOp.52、Op.111があります。左手のための作品としてはこの一作のみが残されました。

和音中心ではなく、単一の音符の連続によるパッセージワークや、声部の独立を意識した対位法的な書法を基調としています。17世紀フランス舞曲への関心が組曲という形式の選択ににじみ出ているのが特徴です。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】サン=サーンス「左手のための6つの練習曲 Op.135」:作品の背景とエチュードとしての価値

 

‣ Samazeuilh, Gustave(1877-1967) ギュスターヴ・サマズイユ

 

ギュスターヴ・サマズイユは、ボルドー生まれのフランスの作曲家・音楽評論家です。幼なじみのモーリス・ラヴェルとは生涯にわたる友情で結ばれ、エルネスト・ショーソンに個人的に音楽を学んだのち、ショーソンの没後はスコラ・カントルムでヴァンサン・ダンディやポール・デュカスに師事しました。19歳でドビュッシーと出会って以降はその信奉者となり、印象主義の様式を色濃く受け継いだ作風で知られています。作曲活動と並行して音楽批評家・翻訳家・著述家としても健筆をふるいました。

 

· Esquisses pour le Piano: III. Sérénade(pour la main gauche seule) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:セレナード(左手のためのエスキス 第3曲)

 

作曲年:1944〜1945年
出版年:1945年
演奏時間:約4分
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ジャン・ドワイヤン
備考:「Esquisses pour le Piano(ピアノのためのエスキス)」全4曲中の第3曲

 

32分音符による下行音型や同音連打、平行和音などが特徴的な、ギター風の軽やかな性格を持つ作品。曲の最後は、まるでさっと身を隠すかのように静かに終わります。

サマズイユ自身、脚注で「技巧的に十分でないピアニストは両手で演奏してもよい」と付け加えています。

 

· Esquisses pour le Piano: IV. Souvenir(pour la main droite seule) [RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:スーヴニール(右手のためのエスキス第4曲)

 

作曲年:1944〜1945年
出版年:1945年
演奏時間:約3分30秒
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:マルセル・シアンピ
備考:「Esquisses pour le Piano(ピアノのためのエスキス)」全4曲中の第4曲

 

第3曲と同じく平行和音がサウンド上の特徴となっていますが、こちらは軽やかさというよりも神秘的な雰囲気をたたえた作品と言えるでしょう。中〜高音域の保続音を伴った、立体的な響きによる幕開け。終盤に現れる高速音型による反復音型(ドローン)が、耳に残る印象的な瞬間を作り出しています。

サマズイユ自身、両手による演奏も許容しています。

 

‣ Sancan, Pierre(1916-2008) ピエール・サンカン

 

ピエール・サンカン(1916年マザメ生まれ、2008年パリ没)はフランスの作曲家・ピアニスト・指揮者・教育者です。モロッコで音楽を始め、パリ音楽院でフーガ、指揮、ピアノ、作曲を学び、1943年にカンタータ「イカロスの伝説」でローマ大賞を受賞しました。1956年からパリ音楽院のピアノ科教授を務め、ミシェル・ベロフやジャン=フィリップ・コラールらを育てています。ドビュッシーの優れた解釈者としても知られており、現代的な技法と印象主義的な和声語法を結びつけた独自のスタイルを持ちます。

 

· Caprice romantique, pour piano(main gauche seule) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:左手のためのロマンティックなカプリス

 

作曲年:1949年
出版年:1949年
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

3拍子の気だるい雰囲気で静かに開始する、大きなワルツを思わせる作品。機能和声から逸脱した現代的な和声語法を持ちながらも耳なじみのよい書法で、演奏会でも映える仕上がりになっています。各部分でテンポと性格が変化したりと対比が意識されており、黒鍵グリッサンドが現れるのも特徴の一つです。マダム・ヴォスコチャキに献呈されました。

 

‣ Santos, Enrique  エンリケ・サントス

 

サントスの下記作品を録音したセルヒオ・バレル(Sergio Barer)の公式プロフィールによれば、1980年代末の怪我のあと、バレルのために作品を書いた作曲家の1人とされています。

 

バレルについて詳しく知る

【ピアノ】セルジオ・バレル「Piano Music for One Hand」レビュー

 

· For the Right Hand [RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:右手のために

 

演奏時間:約3分25秒
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:セルヒオ・バレル(Sergio Barer)のCD「Piano Music For One Hand」(Corsaire Records、1992年)

 

孤独さを感じさせるメロディを持つ作品。同じ型の音型を反復して、咳き込むように聴こえる箇所が数回あり、感情の表出を思わしているかのようです。拍節にとらわれない自由な表現の箇所が数か所あるほか、完全5度の連続によるサウンドが耳に残ります。最後は、最も低いH音(ロ音)へと沈んでいきます。

 

‣ Sartorio, Arnoldo(1853-1936) アルノルド・サルトーリオ

 

アルノルド・サルトーリオは、ドイツの作曲家・ピアノ教育者です。一般の音楽史で広く名の知られた作曲家ではありませんが、左手のためのピアノ音楽という分野に限れば、複数の曲集を残した重要な人物の一人に数えられます。その代表的な曲集が、1921年にフィラデルフィアのセオドア・プレッサー社から刊行された「Left Hand Proficiency」です。

 

· Ten Melodious Compositions for the Left Hand Alone, Op.20 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第7曲 1-3小節)

ボッカ「左手のための10の旋律的小品 Op.20 より 第7曲 夜想曲」1-3小節

邦題:左手のための10の旋律的小品 Op.20

 

出版年:1915年
演奏時間:全曲合計 約23分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

本作は、サルトーリオが変名「Carlotta Bocca(カルロッタ・ボッカ)」名義で出版した曲集です。サルトーリオは十数の変名を使い分けていたとされます。

 

第1曲 Meditation(瞑想曲) 約2分30秒
終始素朴な表情を保つ、牧歌を思わせる曲。中間部はやや重厚になりますが、それ以外の音楽性は基本的に変わりません。

第2曲 Impromptu(即興曲) 約2分
16分音符のパッセージが中心で、8分音符の部分が音楽を引き締めています。しっかりと鳴らす箇所もあり、演奏会向けのまとまりがあります。

第3曲 Humoresque(ユーモレスク) 約2分10秒
8分音符や4分音符による大ぶりなメロディと、その間を埋める16分音符が特徴。メロディは3度や6度の音程で彩られる箇所が多く、「Meditation」との共通点もあります。

第4曲 Scherzo(スケルツォ) 約1分50秒
音数が少なく、全体に軽やかな印象の曲。スタッカートとレガートの対比を聴かせる構造が連続することで、曲全体が成り立っています。

第5曲 Arabesque(アラベスク) 約2分
和音トリルや3度音程の連続など、大部分が和音の連なりでできており、それがサウンド上の特徴になっています。

第6曲 Burlesque(ブルレスケ) 約2分
やや諧謔的な曲。メロディに半音で接近する非和声音が多用されている点が特徴です。

第7曲 Nocturne(夜想曲) 約2分30秒
低めの音域で深い響きを持って歌われる夜想曲。中低域で構成され、ト音記号の五線を上に越える音は一度も出てきません。中間部は16分音符が増えてやや運動的になる、大きく3部分の構成です。

第8曲 Romance(ロマンス) 約2分40秒
主題はシンプルで、その繰り返しが多いため、主題に自然と馴染みが出てきます。音が低音域に密集して重い響きになる箇所があり、やや曲調にそぐわないように感じます。

第9曲 Capriccietto(カプリッチェット) 約2分
諧謔的な曲。音遣いは軽やかですが、書かれたダイナミクスどおりに表現すると、意外に獰猛さのある音楽になります。「Burlesque」や「Scherzo」と共通点の多い書法と言えるでしょう。

第10曲 March(行進曲) 約3分20秒
3連符による、行進を思わせるリズムが特徴で、このリズムはメロディにも用いられています。全体に堂々とした曲想ですが、勢いだけでなく、単音のメロディ部分と和音によるメロディ部分との違いなど、細部も聴き取りたい曲です。

 

· Bridal Song from Lohengrin [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

ワーグナー=サルトーリオ「歌劇《ローエングリン》より 婚礼の合唱(左手編曲版)」1-5小節

邦題:歌劇《ローエングリン》より 婚礼の合唱(左手編曲版)

 

原曲:リヒャルト・ワーグナー、歌劇《ローエングリン》第3幕「婚礼の合唱(Bridal Chorus)」
編曲年:1921年頃(収録曲集の出版年より)
出版:Philadelphia: Theodore Presser Co.(曲集《Left Hand Proficiency》所収)
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)

 

作品の背景

本作は、左手独奏用の名旋律編曲とサルトーリオ自身によるオリジナル小品とを合わせて全20曲を収めたアンソロジー「Left Hand Proficiency」の一曲として出版されました。運指・ペダリングの指示が細かく記されており、実際の演奏に取り組みやすい版になっています。

 

音楽的な特徴

原曲であるワーグナーの婚礼の合唱の旋律を大切に活かし、過度な装飾を加えないシンプルな伴奏付けで編まれています。原曲を知る人であれば聴いてすぐにそれと分かる親しみやすさがあり、結婚式や記念の演奏はもちろん、演奏会プログラムの導入としても扱いやすい小品です。

 

‣ Satter, Gustav  ギュスターヴ・サッター

 

ギュスターヴ・サッター(1832年2月12日生まれ、没年不詳)は、ウィーンあるいはラン(現スロヴェニア領ブレジツェ)の生まれとされるピアニスト、作曲家です。生涯については不確かな点が多く、自身の出自について誇張した発言をすることもあったと伝えられています。1882年時点ではなお演奏活動を続けていた記録が残っている一方、それ以降の消息については判然としていません。

 

· 3 Morceaux de Concert [LH][RH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第2曲 1-6小節)

サッター「ロマンス」1-6小節

邦題:3つの演奏会用小品

 

出版年:1881年
分類:オリジナル作品(独奏)
備考:ピアノ独奏(第1曲=右手のみ、第2曲=左手のみ、第3曲=両手)

 

第1曲 Solitary Bird「Oiseau solitaire」

演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
邦題:孤独な鳥(右手のための)

 

第2曲 Romance

演奏時間:約4分30秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
邦題:ロマンス(左手のための)

 

両曲に共通する特徴

いずれの曲も、多彩な種類のテクニックが幅広く盛り込まれ、カデンツァも含む、演奏会用レパートリーとして充実した内容を持っています。テンポや拍子の変化が繰り返し現れる構成になっており、それぞれのセクションごとに異なる表情の変化を楽しむことができます。なお、両曲とも楽譜上に運指やペダリングの指示は付されていません。

 

‣ Sauer, Emil von(1862-1942) エミール・フォン・ザウアー

 

エミール・フォン・ザウアー(1862年ハンブルク生まれ、1942年ウィーン没)はドイツのピアニスト、作曲家です。リストの高弟の一人であり、ニコライ・ルビンシテインにも師事しました。演奏家・校訂者として長いキャリアを築き、回想録《Meine Welt(我が世界)》を著しています。

 

· Waldandacht: Konzert-Etüde für die linke Hand allein, No.28 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ザウアー「Waldandacht(直訳:森の祈り / 森での瞑想)左手のための演奏会用練習曲 第28番」1-4小節

邦題:Waldandacht(直訳:森の祈り / 森での瞑想)左手のための演奏会用練習曲 第28番

 

出版年:1917年頃
演奏時間:約8分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ゲザ・ジチー

 

作品の背景

献呈を受けたゲザ・ジチー(1849-1924)は、狩猟事故で右腕を失いながらも、生涯左手のみでピアニストとしての活動を貫いた人物として知られています。ザウアーはこの左手のピアニストのために本作を書き、後期ロマン派の豊かな和声を伴う作品に仕上げました。

 

音楽的な特徴

冒頭から24小節目までは1段のみで書かれ、素朴な主題が示されます。その後は大譜表による書法に移り、25小節目からはテンポが上がって3連符を主体とした劇的な曲想へと展開していきます。再現部分では冒頭主題が回帰しますが、その際には和音やオクターヴが加わり、音の厚みを増した状態で再現され、その書法のまま結尾へと向かいます。

演奏効果と音楽的な完成度の両面において、充実した内容を持つ作品と言えるでしょう。

 

‣ Sawyer, Henry S.  ヘンリー・S・ソーヤー

 

ヘンリー・S・ソーヤーは、シカゴの出版社 McKinley Music Co. を中心に、1900年から1926年ごろまで、作品を出版した、作曲家・編曲者です。

 

· Minuet in G for the Left Hand Alone [LH]

 

※編曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:メヌエット ト長調(左手のための)

 

原曲:ベートーヴェン「6つのメヌエット WoO 10 より 第2番 ト長調」、1795年頃の作
編曲:ヘンリー・S・ソーヤー(Henry S. Sawyer)、楽譜に「Arranged by Henry S. Sawyer」の記載
出版:1924年、McKinley Music Co.(シカゴ)
演奏時間:約1分40秒
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度
分類:編曲作品(独奏)
楽譜:欧州の古書市場などで稀に出回ることがある

 

楽譜に印刷された解説(英語)の要点

楽譜の表紙の上部には、「レガート、スタッカート、重音(3度、6度など)、跳躍、ペダルの練習」という、この曲の練習目的が書かれています。2ページ目の冒頭には、次の趣旨の解説があります。

奏法:

・最初の2つの部分は、レガート、トリオは、スタッカート(指と手首の両方)で弾く
・左手がすべてを受け持つので、弱い指を鍛え、手の発達と広がりをはかる良い機会になる

技術:

・3度と6度の重音、跳躍がある
・跳躍は、ペダルの助けで、和声を片手でできるだけ豊かに保つ

解釈:

・正しく弾けば、両手の原曲に近い、ほぼ完全な響きになるはず
・楽句をはっきりと出し、ペダルは指示された箇所のみに使う
・冒頭の2つの部分とトリオの様式とテンポの対比をよく研究すること

 

音楽的な特徴

片手演奏ならではの手の横方向への急速な移動が、比較的多く含まれます。ただし、全体としては、原曲の全曲の姿を残す方向での編曲と言えるでしょう。運指とペダルが細かく書き込まれているため、演奏の助けとなるとともに、音楽的な面も伝えてくれています。

 

‣ Saxton, Robert (1953-) サクストン

 

ロバート・サクストン(1953年ロンドン生まれ)はイギリスの作曲家です。6歳から作曲を始め、幼少期にベンジャミン・ブリテンとエリザベス・ラッチェンスに指導を受けました。ケンブリッジ大学とオックスフォード大学でも作曲を学び、ルチアーノ・ベリオにも師事しています。21歳でガウデアムス国際作曲賞を受賞。ギルドホール音楽演劇学校やロンドン王立音楽アカデミーで作曲科の主任を務め、のちにオックスフォード大学ウースター・カレッジの作曲教授を2021年まで務めました。レオン・フライシャーをはじめとする演奏家との共同作業でも知られています。

 

· Chacony [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:シャコニィ

 

作曲年:1988年
委嘱:オールドバラ音楽祭
初演:1988年6月20日、レオン・フライシャー
演奏時間:約6分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:レオン・フライシャー

 

題名の「Chacony」は、パーセルやブリテンが用いた「シャコンヌ」の英語古語形にあたります。伝統的なシャコンヌと同じく、繰り返される短い音型を骨格として展開していく構造ですが、大部分が全音音階でできているなど、書法やサウンドは現代的です。

楽曲展開の概要:

・1音ずつ増えていく音の積み重ねから静かに開始
・中間部では音楽が動的な性格に変わり、線的なパッセージと声部の絡み合いが前面に出てくる
・その後、冒頭の素材が戻ってくるが、今度は力強い表情で明るく締めくくられる

CHESTER MUSICから出版されているこの作品の楽譜には、より詳細な作曲コンセプト解説が書かれています。

 

ピアニストのフライシャーは1960年代に右手の腱鞘炎(後にジストニアと診断)で両手演奏が困難となり、左手作品の演奏・委嘱に長年尽力しました。

 

‣ Saya, Mark(1954- ) マーク・サヤ

 

マーク・サヤは、インディアナ州ミシガンシティ生まれのアメリカの作曲家で、ロサンゼルスのロヨラ・メリーマウント大学にて1992年から作曲と音楽理論を教えてきました。インディアナ大学サウスベンド校で音楽学士号を取り、シンシナティ大学音楽院で修士号と博士号(D.M.A.)を得ました。主に声楽、ピアノ、打楽器のための作品を書いています。

 

· Sinister Variations(for solo piano, left hand only/on Paganini’s famous theme)[LH]

 

邦題:不吉な変奏曲(パガニーニの有名な主題による、左手のための)
作曲年・出版年:不明
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Saya, Mark- Sinister Variations, for solo piano (left hand only)(mediapressmusic.com)

 

作品の背景

パガニーニの有名な主題による、主題と変奏の曲。楽譜の冒頭には、副題として「パガニーニの有名な主題による(on Paganini’s famous theme)」と書かれています。

題名の「Sinister」には、「不吉な」という意味のほかに、もとのラテン語で「左」を意味するという語源があり、左手のための曲であることとの掛け言葉なのかもしれません(筆者の推測)。

 

音楽的な特徴

単音の連続を中心に曲が始まり、跳躍を多く含む技巧的なパッセージが続きます。速いパッセージの途中に装飾音が挟み込まれている箇所が数か所あり、リズムが分かりにくくなってしまいがちなので、演奏の際には意識するといいでしょう。

 

‣ Schaum, John W.(1905-1988) ジョン・W・ショーム

 

ジョン・W・ショームはアメリカのピアノ教育者・編曲家で、分かりやすい構成の教則本・練習曲集を数多く手がけました。丁寧な運指指示と無理のない曲順構成が特徴で、世界中のピアノ指導者に長く支持されています。

 

· LEFT HAND SOLOS for the piano, Book 1–2

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

難易度:Book 1(バイエル併用〜ブルグミュラー25の練習曲修了程度)/Book 2(ツェルニー30番入門〜修了程度)
分類:編曲作品集(独奏)
備考:楽曲によっては、運指の調整により右手のみでの演奏にも対応

 

シリーズの概要

著名な左手作品や古典的な小品の旋律を、初中級者でも弾きやすく左手用アレンジした編曲集です。運指・ペダルの指示が丁寧に付されており、1曲あたり1〜数ページと短め。Book 2にはスクリャービン「左手のためのノクターン Op.9-2」の弾きやすいアレンジ版のほか、ショパン「プレリュード Op.28-6」なども収録されており、名旋律を初中級レベルで味わえる点が魅力です。

 

Book 1 収録曲

曲名 作曲者・出典
Can’t Help Singing Hugo Reinhold
Silvery Waves Addison P. Wyman
Deep Valley H. C. MacDougall
Rolling Along Paul Hiller
Plus and Minus Robert Schumann
Sunset Waltz Friedrich Wieck
Out of the Past Carl Czerny
Spring Song Felix Mendelssohn
Arkansas Traveler Traditional American
Serenade Ethelbert Nevin
Doing Things on a Big Scale Albert Biehl
Memories of You Cornelius Gurlitt
The Futile Courtship Johannes Brahms
Robin Adair Scottish Air
Halo on the Moon Arthur Foote
Longing Franz Schubert
Cuckoo Clock Emil Breslaur
Farewell to the Piano Ludwig van Beethoven

 

Book 2 収録曲

曲名 作曲者・出典
Dream Dust Charles F. Dennee Op.7, No.2
The Gypsy Baron (Waltz Theme) Johann Strauss
Revolving Door H. Maylath Op.163
Washington’s March Traditional
Spiral Staircase A. Krause
Evening Sun A. Hollaender
Nocturne A. Scriabine Op.9, No.2
The Squirrel and the Acorns Loeschhorn Op.38, No.5
In the Subway L. Birkedal-Barfod
Flashes in the Harbor S. Heller Op.125, No.12
Sunken Gardens L. Streabbog Op.97, No.3
Prelude F. Chopin Op.28, No.6
The Silent Rose Victor Herbert Op.15, No.1
Album Leaf Adam Geibel
Scotch Poem E. A. MacDowell Op.31, No.2
Chorale H. Berens Op.89
Sextet from “Lucia” G. Donizetti

 

このシリーズについてさらに詳しく知る

【ピアノ】John W. Schaum「LEFT HAND SOLOS for the piano」シリーズ 完全ガイド

 

‣ Scheidler, Johann David(1748-1802) ヨハン・ダーヴィト・シャイドラー

 

ヨハン・ダーヴィト・シャイドラーは、18世紀ドイツのチェロ奏者・作曲家です。1748年頃に生まれ、1802年にゴータで亡くなりました。残っている作品は多くありません。

 

· 2 Pieces for Piano 3-Hands [LH/RH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1曲 1-4小節)

シャイドラー「3手のための2つの小品 より 第1曲」1-4小節

邦題:3手のための2つの小品

 

作曲年:不明
出版:1938年、B. Schott’s Söhne(マインツ)
演奏時間:第1曲 約1分20秒、第2曲 約1分
難易度:ともに、ツェルニー30番中盤程度(片手奏者パート)
分類:オリジナル作品(室内楽、3手連弾)

 

構成(全2曲)

第1曲 Tempo di Minuetto, a tre mani(メヌエットのテンポで、3手のための)
第2曲 Minuetto moderato, a tre mani(中庸のメヌエット、3手のための)

 

音楽的な特徴

第1曲 Tempo di Minuetto
明るく優雅なメヌエット。小節線が3段を突き通していますが、内容的に最上段が片手のパートで、基本的に片手のパートがメロディをとっていきます。両手のパートには、3連符や16分音符など、さまざまな音価の伴奏形が出てきて、短い曲ながら変化があります。

第2曲 Minuetto moderato
第1曲と性格が近い作品。シンコペーションや、第1曲よりも細かく書かれたアーティキュレーションが特徴です。この曲でも、最上段が片手のパートです。

 

· Variazio 6 a tre mani(from Canzonette fürs Klavier mit Veränderungen) [LH/RH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

シャイドラー「鍵盤のためのカンツォネッタと変奏 より 第6変奏 3手のための」1-4小節

邦題:鍵盤のためのカンツォネッタと変奏 より 第6変奏 3手のための

 

作曲年:不明
出版:1781年、Carl Wilhelm Ettinger(ゴータ)
演奏時間:約30秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲修了程度(片手奏者のパート)
分類:オリジナル作品(室内楽、3手連弾)

 

作品の背景

主題と41の変奏からなる複数の作曲家による変奏曲集で、シャイドラーの変奏を6つとし、そのうちの「No.6」を3手としています。この項目では、3手の第6変奏のみを扱っています。

曲集の題名は、「Canzonette fürs Klavier mit Veränderungen von verschiedenen Tonkünstlern」(さまざまな作曲家による変奏つきの、鍵盤のためのカンツォネッタ)。

41の変奏の内訳は、シャルロッテ・アマーリエ(Charlotte Amalie von Sachsen-Gotha-Altenburg)4、ベンダ(Georg Benda)3、クラーマー(Johann Thielemann Cramer)11、ゴルデ(Johann Gottfried Golde, junior)8、シャイドラー 6、シェルリッツ(Johann Valentin Scherlitz)3、シュヴァイツァー(Anton Schweitzer)6。曲集は匿名で出版され、IMSLPはその理由を、貴族の女性が自分の名前で出版するのはふさわしくないこととしています。

 

音楽的な特徴

最上段が片手のパートで、短い変奏ながらも片手で演奏する旋律の部分に、ノンレガート、レガート、スタッカート、2音1組によるアーティキュレーションの連続、トリル、その他の装飾音など、さまざまな表情が見られます。

 

‣ Schickele, Peter(1935-2024) ピーター・シッケレ

 

ピーター・シッケレは、アメリカの作曲家・音楽教育者です。1935年にアイオワ州エイムズで生まれ、2024年にニューヨーク州ベアーズヴィルで亡くなりました。スワースモア大学(1957年)で音楽の学士号を、ジュリアード音楽院(1960年)で作曲の修士号を取得し、ロイ・ハリス(Roy Harris)とヴィンセント・パーシケッティ(Vincent Persichetti)に作曲を学んでいます。100曲を超える自作のほか、映画音楽なども手がけました。

 

· Two Miniatures for Piano, Left Hand [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:左手のための2つのミニアチュア

 

作曲年:1996年(7月26日に完成)
出版:1998年、Elkan-Vogel, Inc.(ペンシルヴェニア州ブリンマー、Theodore Presser Company の子会社)
演奏時間:全曲合計 約3分
難易度:ツェルニー30番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
初演:1996年11月17日、フィラデルフィアのCurtis Hall(グラフマンの演奏)
楽譜:Two Miniatures / Peter Schickele(performersmusicchicago.com)

 

構成(全2曲)

第1曲 Lullaby(子守歌)
第2曲 Boogie(ブギ)

 

作曲者の解説の要点(出典:ドナルド・L・パターソンによる片手ピアノ作品の文献目録)

指揮者ジェームズ・フリーマン(James Freeman)が率いる音楽団体「Orchestra 2001」(スワースモア大学)の祝賀の会で、ゲイリー・グラフマン(Gary Graffman)が弾くために書かれました。作曲者は、グラフマンの家族がロシア出身であることと、彼がピアノの練習のかたわらニューヨークの路上でスティックボール(棒とゴムボールの遊び)をして育ったことを挙げ、「この2つの事実が、2曲の性格を説明しているのかもしれない」と、冗談めかして述べています。

 

音楽的な特徴

Lullaby

前半では5/4拍子と3/4拍子が入れ替わり、浮遊感があります。行きつ戻りつの音型が多く、これも浮遊感を生んでいる要素の一つでしょう。子守歌らしく、強弱は p と pp 、それにクレッシェンド・ディミヌエンドの記号(< >)しかなく、静かな音楽です。

 

‣ Schmidt, Franz(1874-1939) フランツ・シュミット

 

フランツ・シュミット(1874年プレスブルク生まれ、1939年ウィーン近郊没)はウィーンで活躍した作曲家で、ウィーン音楽院でブルックナーの対位法クラスに学んでいます。オペラ「ノートル=ダム」(初演1914年)でウィーンで高い評価を得た一方、ピアノのための作品は多くありません。ヴィトゲンシュタインに依頼されたことで左手作品を複数手がけており、左手のためのピアノ独奏曲としては「左手のためのトッカータ ニ短調」が唯一の作品です。

 

· Toccata für die linke Hand allein [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)

フランツ・シュミット「左手のためのトッカータ ニ短調」1-2小節

邦題:左手のためのトッカータ ニ短調

 

作曲年:1938年
出版年:1978年頃
演奏時間:約6分30秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン
楽譜:Toccata für die linke Hand allein(Musse.jp)

 

1938年10月に作曲され、パウル・ヴィトゲンシュタインに献呈した作品です。自筆譜の題名には「ピアノまたはチェンバロのための」という記載もあり、チェンバロでの演奏も想定されていました。左手独奏としての原典版は作曲から40年後の1978年頃に初めて出版されました。

Molto vivaceで始まる無窮動楽曲で、広い音域をわたる単一音符の連続によるパッセージワークが中心となっています。バロック的な乾いた感覚と近代的な和声が共存しており、独自の音楽語法が際立っています。

 

音源について

ステファン・ヴァルズィッキ「Piano Music for the Left Hand」(Nimbus Alliance、2015年)などに収録されています。このアルバムの詳細は以下の記事をご覧ください。

【ピアノ】ステファン・ヴァルズィッキ「Piano Music for the Left Hand」レビュー

 

· Quintet in G major for 2 Violins, Viola, Cello and Piano(Left Hand) [LH]

 

邦題:ピアノ五重奏曲 ト長調(左手ピアノ、2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための)

 

作曲年:1926年
演奏時間:約38分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(室内楽)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン

 

構成(全4楽章)

I. Lebhaft, doch nicht schnell
II. Adagio
III. Sehr ruhig – Lebhaft
IV. Sehr Lebhaft

 

作品の背景

シュミットが遺した3曲のピアノ五重奏曲は、いずれも第一次世界大戦で右腕を失ったピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタインの依頼によって書かれ、彼に献呈されています。ヴィトゲンシュタインは最初の2曲を自ら初演しましたが、1939年の時点ですでにアメリカへ移住しており、左手版として実際に出版されたのはこのト長調の一曲のみでした。この作品の初演は1929年です。後年フリードリヒ・ヴューラーの手による両手版が世に出たことで演奏機会は広がりました。

 

音楽的な特徴

弦楽器のパートはブラームスを思わせる響きが漂います。一方でピアノパートは、ソロとして目立つような技巧的な派手さよりも、他の楽器の中に溶け込むように書かれた部分も多くあるのが特徴と言えるでしょう。

近現代作品が大部分を占める左手室内楽作品の中にあって、聴きやすさを持ち合わせた作品でもあり、特に「III. Sehr ruhig – Lebhaft」は「聴く」入門にもおすすめです。

 

· Concertante Variationen über ein Thema von Beethoven [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

シュミット「ベートーヴェンの主題による協奏的変奏曲」1-3小節

邦題:ベートーヴェンの主題による協奏的変奏曲

 

編成:左手ピアノと管弦楽のための(原典版)
作曲年:1923年
出版年:1926年
初演:1924年2月2日、パウル・ヴィトゲンシュタイン独奏により
演奏時間:約28分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン

 

構成

I. Langsam
II. Thema: Scherzo, allegro vivace
III. Ruhig fliessend
IV. Lebhaft, doch nicht zu schnell: Tempo di bolero
V. Langsam
VI. Sehr ruhig
VII. Massig bewegt

 

作品の背景と特徴

パウル・ヴィトゲンシュタインに献呈され、彼自身の独奏により初演された作品。ヴィトゲンシュタインの「School for the Left Hand 左手のための教則本」第1巻の付録には、本作の管弦楽主題が抜粋掲載されており、ヴィトゲンシュタイン自身の教育活動の中でも参照された作品であることがうかがえます。

序奏は緩やかに始まり、ベートーヴェン「ヴァイオリンソナタ 第5番 春 Op.24 第3楽章」から取られたスケルツォ主題の登場を準備する形で書かれています。

フリードリヒ・ヴューラーによる両手版(ピアノと管弦楽用編曲)が1953年に出版されました。

 

· Klavierkonzert in Es-dur(Piano Concerto in E-flat major) [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、ソロの初導入部 63-64小節)

シュミット「ピアノ協奏曲 変ホ長調」63-64小節

邦題:ピアノ協奏曲 変ホ長調

 

作曲年:1934年(自筆譜には10月18日の日付あり)
出版年:写譜による初期版 1936年頃 / フリードリヒ・ヴューラーによる両手版 1952年 または1955年
初演:1935年2月10日、パウル・ヴィトゲンシュタイン独奏により
演奏時間:約40分
分類:オリジナル作品(協奏曲)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン

 

構成(全3楽章)

第1楽章 Allegro moderato un poco maestoso
第2楽章 Andante
第3楽章 Vivace

 

作品の背景と特徴

パウル・ヴィトゲンシュタインに献呈され、彼自身の独奏によって初演された作品。リヒャルト・シュトラウスを思わせる響きも感じられます。形式面では伝統的な協奏曲の枠組みを踏襲しており、第1楽章はソナタ形式、第3楽章は活気に満ちた性格で長大なカデンツァを含む構成になっています。

 

‣ Schmitt, Susan  スーザン・シュミット

 

スーザン・シュミットは、アメリカの作曲家です。ドナルド・L・パターソンによる片手ピアノ作品の文献目録では、「1940年代に活動した(flourished in 1940’s)」としています。

 

· Three Ideal Pieces for the Left Hand Alone [LH]

 

※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:左手のための3つの理想的な小品

 

作曲年:不明
出版:1921年、Boston Music Company(ボストン)
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏、第3曲)、編曲作品(独奏、第1曲・第2曲)
献呈:第1曲は、キャサリン・ハット・モートン(Katharine Hutt Morton)に
楽譜:欧州の古書市場などで稀に出回ることがある

 

構成(全3曲)

第1曲 The Merry Swiss Boy(陽気なスイスの少年):古い民謡の編曲
第2曲 Song of the Mermaids(人魚の歌):ウェーバーのオペラ《オベロン》より「バルカロール」の編曲
第3曲 Tom Thumb Waltz(親指トムのワルツ):オリジナル作品

 

作品の背景

表紙の中央には、大きな逆三角形が置かれ、その左右に、2人の人物が描かれています。左は、羽根飾りのついた帽子をかぶって両手を頬に当てた、半ズボンの少年。右は、シルクハットとモノクルをつけてステッキを持った、燕尾服の紳士です。色づかいは、赤みのある茶色(サーモンピンク)とクリーム色の、2色が基調です。逆三角形のモチーフと、人物の描き方は、当時の流行のデザインを感じさせ、曲目のリストが、表紙の中央に、まとめられています。

 

音楽的な特徴

各曲は短く、音数もシンプルな易しい小品。表紙のイラストとあわせて楽しみながら学習できる教育目的があるようにも感じます。

 

‣ Schmitz-Gohr, Else(1901- ) エルゼ・シュミッツ=ゴーア

 

エルゼ・シュミッツ=ゴーアは1901年生まれのドイツの作曲家です。

エファ・リーガーとケーテ・ヴァルターの編集による曲集「Frauen Komponieren: 22 Klavierstücke des 18.-20. Jahrhunderts(女性作曲家たちによる作品集:18〜20世紀の22のピアノ小品)」に、下記の左手作品が収録されています。

 

· Elegie(für die linke Hand allein) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:エレジー(左手のための)

 

出版年:1985年
演奏時間:約3分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

全体的にメランコリックな性格を持つ作品です。半音階的な和声づけと、中間部の感情的な表現の高まりが印象的で、コンパクトながら演奏会向けの一曲と言えるしょう。

冒頭は、伴奏を伴わない「レチタティーヴォ風」の語りかけるような部分から始まります。曲の終わりにも同様に無伴奏のレチタティーヴォ風の部分が戻ってきて、曲全体を締めくくる構成になっています。いわゆる機能和声からは逸脱した書き方をしていますが、そうした中に時折、非常に分かりやすい三和音が顔をのぞかせる瞬間があるのも、この作品の魅力です。

 

‣ Schouwman, Hans(1902-1967) ハンス・スハウマン

 

ハンス・スハウマンは、オランダの作曲家・ピアニストです。1902年8月8日にホリンヘム(Gorinchem)で生まれ、1967年4月8日にデン・ハーグで亡くなりました。ペーター・ファン・アンローイに師事し、以後も作曲に多くの時間を費やしました。

 

· Drie preludes [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1曲 1-3小節)

スハウマン「3つの前奏曲(左手のための) より 第1曲」1-3小節

邦題:3つの前奏曲(左手のための)

 

作曲年:1959年10月
出版年:1959年
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:コル・デ・フロート
楽譜:Drie preludes : voor piano (linkerhand alleen), oct. 1959 / Hans Schouwman(webshop.donemus.com)

 

構成(全3曲)

1. Andante maestoso
2. Allegro leggiero
3. Moderato a piacere

 

音楽的な特徴

性格の異なる曲からなる曲集です。たとえば第1曲(Andante maestoso)は、次のような特徴をもっています(以下は、第1曲についての記述です)。

・4/4拍子と3/4拍子が行き来する
・3/4拍子の部分が多く、全体的にサラバンドを思わせる
・手の大きさが求められる和音が多く出てくる
・メロディに対して、下ぶら下げで和音がついている箇所が多く、ハーモニーの移り変わりをよく聴き取りたい曲

 

‣ Schroeder, Hermann(1904-1984) ヘルマン・シュレーダー

 

ヘルマン・シュレーダー(Hermann Schroeder)は、ドイツの作曲家・指揮者・音楽教育者で、カトリック教会音楽の分野でも知られます。1904年3月26日にベルンカステルで生まれ、1984年10月7日にバート・オルプで亡くなりました。ケルン音楽大学で学び、トリーアの大聖堂オルガニストやトリーア市立音楽学校の校長を経て、1946年から同大学で教え、1948年に教授になりました。作曲家のシュトックハウゼン(Karlheinz Stockhausen)が、教え子の一人です。

 

· Capriccetto(Violine und Klavier zu 1 Hand) [LH/RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:小さなカプリッチョ(ヴァイオリンと片手ピアノのための)

 

作曲年:不明
出版:1955年、Edition Tonger(Walter Georgii 編《Einhändig》第2巻)
編成:ヴァイオリン+片手ピアノ
演奏時間:約1分20秒
難易度:ツェルニー40番修了程度(片手ピアノのパート)
分類:オリジナル作品(室内楽)
楽譜:Einhändig Band II, 3. Teil, 4. Teil, 5. Teil Partitur+1Stimme(noten-roehr.de)

 

片手ピアノのパートは、終始1段で書かれており、全曲が2ページに収まる、題名のとおりの小さなカプリッチョ。

冒頭の片手ピアノは伴奏的に始まりますが、途中から、ヴァイオリンのパートと対話していき、音型自体も、ヴァイオリン的な音型が主体になります。

ラストは、2つの楽器がともに力強く終わりますが、最後の音のタイミングがわずかにずれており、弾く側にも聴く側にもアンサンブルの面白みが感じられます。

 

‣ Schubert, Franz(1797-1828) フランツ・シューベルト

 

フランツ・シューベルトは、オーストリアの作曲家で、1797年にウィーンで生まれ、1828年11月19日に、ウィーンで亡くなりました。本ライブラリーでは、シューベルトの作品を、片手のための編曲として扱った曲を載せています(シューベルト自身が、片手のための曲を書いたものではありません)。

 

· Marche héroïque Op.27 Nr.1(Übertragung für 3 Hände) [LH/RH]

 

※編曲者が不詳であるため、譜例の掲載は控えております。

邦題:英雄的行進曲 Op.27-1(3手のための編曲)

 

編曲者:楽譜には編曲者の表記が見当たらず、片手音楽の各種主要資料にも未記載
出版:1955年、Edition Tonger(Walter Georgii 編《Einhändig》第2巻)
演奏時間:約2分40秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度(片手ピアノのパート)
分類:オリジナル作品(室内楽、3手)
楽譜:Einhändig Band II, 3. Teil, 4. Teil, 5. Teil Partitur+1Stimme(noten-roehr.de)

 

作品の背景

原曲の「3つの英雄的行進曲 Op.27 D 602」は、シューベルトが書いたピアノ4手連弾のための3曲の行進曲。この編曲は、そのうちの第1番を3手のために編曲したものです。

 

音楽的な特徴

三部分による形式(行進曲 – トリオ – 行進曲)という原曲のサイズをそのまま残しています。音遣いとしても、原曲の4手の雰囲気をできる限り残そうとしています。

片手パートの特徴

・片手パートのSecondoは、メロディを演奏する両手パートのPrimoを支えるパート
・リズムの土台もこの片手パートが作っている
・終始、バスや伴奏の部分に徹しており、メロディは一度も出てこない
・オクターヴの連続やトリルを伴う伴奏形を演奏する技術が求められる

 

‣ Schulhoff, Erwin(1894-1942) エルヴィン・シュールホフ

 

エルヴィン・シュールホフ(1894年プラハ生まれ、1942年バイエルン州没)。ドイツ系ユダヤ人の家庭に生まれたチェコの作曲家・ピアニストで、複数の都市の音楽院で学び、レーガーからも影響を受けています。ジャズをクラシック音楽の文脈に取り込んだ先駆的な存在として知られるほか、ダダイズムとの接点も持ち、既成の枠にとらわれない作風を展開しました。しかしナチス政権下で活動を封じられ、1941年にソビエトへの亡命を図る直前に逮捕され、バイエルンのヴュルツブルク(Wülzburg)の収容所で翌年に亡くなりました。

 

· Suite No.3(Piano Left Hand) [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1曲 1-3小節)

シュールホフ「組曲 第3番 より 前奏曲」1-3小節

邦題:左手のための組曲 第3番

 

作曲年:1926年
出版年:1983年頃
演奏時間:全曲合計 約15分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「左手のためのピアノ作品集」(監修:舘野泉/音楽之友社)

 

第一次世界大戦での負傷がきっかけで右腕が半永久的に麻痺したチェコのピアニスト、オタカール・ホルマンのために1926年に作曲されました。ホルマンは翌1927年11月にベオグラード(ユーゴスラビア)で初演しています。

5曲から成る組曲で、各曲がそれぞれ異なる性格を持ちます。

・Preludio(前奏曲)
・Air(アリア)
・Zingara(ツィンガラ/ジプシーの女性)
・Improvisazione(即興曲)
・Finale(フィナーレ)

和声やリズムなどあらゆる点でシュールホフの幅広い作風を反映した多彩な作品です。演奏表現のための指示も丁寧に書き込まれています。左手独奏の演奏会作品として完成度が高く、特にフィナーレの演奏効果は圧倒的と言えるでしょう。

 

作曲のきっかけを作ったオタカール・ホルマンについて、さらに詳しく知る

【ピアノ】左手音楽から読み解くオタカール・ホルマン

 

‣ Schuller, Gunther(1925-2015) ガンサー・シュラー

 

ガンサー・シュラーは、アメリカの作曲家・指揮者・ホルン奏者・教育者です。1925年にニューヨークで生まれ、2015年に、ボストンで亡くなりました。ホルン奏者として、シンシナティ交響楽団の首席ホルン奏者や、メトロポリタン歌劇場管弦楽団で活躍し、1957年には、ジャズとクラシックを融合させる音楽を、「サード・ストリーム(Third Stream)」と名づけました。1967年から77年まで、ニューイングランド音楽院の学長を務め、1994年に、「Of Reminiscences and Reflections」でピュリッツァー賞(音楽部門)を受けています。

 

· Sextet for Left Hand Piano and Woodwind Quintet(1994) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:左手ピアノと木管五重奏のための六重奏曲

 

編成:左手ピアノ、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン
作曲年:1994年
初演:1994年3月5日
出版:1994年、Associated Music Publishers(ニューヨーク)
演奏時間:約14分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(室内楽、左手ピアノと木管五重奏)
委嘱:ディナ・コステン(Dina Kosten)と、ケネディ・センターのシアター・チェンバー・プレイヤーズ(Theater Chamber Players of the Kennedy Center)
献呈:レオン・フライシャー(Leon Fleisher)
楽譜:Sextet / Gunther Schuller(classicalondemand.com)

 

構成(全4楽章)

第1楽章 Prelude(前奏曲)
第2楽章 Aria(アリア)
第3楽章 Scherzo (Plaisanterie)(スケルツォ(冗談))
第4楽章 Toccata(トッカータ)

 

出版社のページに掲載された作曲者自身の解説より

この曲は、左手ピアノとフルートを含む完全な木管五重奏のために書かれた、木管とピアノの曲としてはやや珍しい作品です。モーツァルトとベートーヴェンの、両手ピアノと木管四重奏のための「五重奏曲」は、この編成の二大傑作ですが、フルートが入っていません。そのため、フルート奏者は2世紀にわたって不満を抱いてきており、この曲がその需要を満たすことを望んでいます。

各楽章は、気分も性格も対照的ですが、中央にクライマックスを置く形(アーチ形、ピラミッド形)か、その逆に、中央でテンポと強度が緩む形(逆ピラミッド形)を共通の特徴とします。スケルツォでは、中央の部分が技巧的な見せ場になり、この楽章は「不愉快なほど」要求が多く、技術的に難しい、と作曲者は書いています。

 

音楽的な特徴

全体的に左手ピアノ以外のパートは、「マス(塊)」として扱われる書法が多い中、左手ピアノのパートには、独立的な役割が与えられ、フィーチャーされています。

 

‣ Schultz, Robert(1948- ) ロバート・シュルツ

 

ロバート・シュルツは、アメリカの作曲家・編曲家です。1948年にペンシルベニア州ユニオンタウンで生まれ、ウェストバージニア大学で、作曲を学びました。1978年にフロリダ州マイアミに移り、Columbia Pictures Publications の編曲者となって、1年のうちに、上級鍵盤楽器エディター(Senior Keyboard Editor)に昇進しています。1980年に「シュルツ・ピアノ・ライブラリー(The Schultz Piano Library)」を設立しました。

 

· Colorscape, Op.62: Piano Solos for the Left Hand [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:カラースケープ(左手のためのピアノ独奏曲集)

 

作曲年:2022年11月に完成
出版:Schultz Music Publications(カタログ番号 SMP565。デジタル版は SMP565D)
演奏時間:13分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
校訂:ティナ・ファイゲン(Tina Faigen)
委嘱・初演:ピアニストのウォルター・モラレス(Walter Morales)のために書かれ、2024年2月16日にピッツバーグで初演
楽譜:Colorscape Op. 62 Piano LH / Robert Schultz(schultzmusic.com)

 

構成(全6曲)

6曲は、緩・急が交互に並びます。

第1曲 Forest Green(森の緑)
第2曲 Brick Red(レンガ色の赤)
第3曲 Ice Blue(氷の青)
第4曲 Blizzard White(吹雪の白)
第5曲 Flaxen Yellow(亜麻色の黄)
第6曲 Pitch Black(漆黒)

 

作品の背景

出版社のページによると、モラレスが、計画段階にあった、左手のための作品だけの演奏会のために、この曲を依頼しました。「ドラマ、叙情性、美しい現代的な和声、力強さ、興奮に満ちた」作品としています。

 

音楽的な特徴

出版社は、ピアノの全音域と表現力を使った作品としています。

第6曲はフィナーレにふさわしい重厚さを持っていますが、全体的に、必要以上に音を詰め込まず、空間や空気感が大切にされているように感じます。機能和声からは逸脱していますが、聴きやすい音楽と言えるでしょう。

 

作曲家自身のYouTubeチャンネルでの演奏(演奏:Walter Morales)

 

‣ Schumann, Robert(1810-1856) ロベルト・シューマン

 

ロベルト・シューマンは、ドイツ・ロマン派を代表する作曲家で、ライプツィヒで法律を学びながら音楽への道を志し、フリードリヒ・ヴィークにピアノを師事しました。指の故障によりピアニストとしての道を断念した後は作曲と評論に専念し、後に妻となるクララ・ヴィークとともに、19世紀ドイツ音楽界の中心的存在となりました。歌曲・ピアノ曲・交響曲・室内楽に至るまで幅広いジャンルに傑作を残しています。

 

· Abendlied, Op.85 No.12 [LH/RH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

シューマン「夕べの歌 Op.85-12(3手のための)」1-5小節

邦題:夕べの歌 Op.85-12(3手のための)

 

作曲年:1849年
出版年:1885年
演奏時間:約3分
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度(片手奏者パート)
分類:オリジナル作品(室内楽、3手)
楽譜:Einhändig Band II, 3. Teil, 4. Teil, 5. Teil Partitur+1Stimme(noten-roehr.de)

 

作品の背景

全12曲からなる4手連弾小品集「小さな子供と大きな子供のための12の連弾小品 Op.85」の最後を飾る曲で、この曲だけが例外的に3手用に書かれています。ゲオルギイは著書「Klaviermusik」の中で、この片手パートを「夢見るようなメロディ」と評しています。

 

音楽的な特徴

3つの手が有機的に絡み合うというよりは、両手の奏者がシンプルな和声的伴奏を担い、そこに片手のパートが旋律を乗せるという、明快な役割分担による書法で作曲されました。曲の途中、片手パートに現れるトリルは、曲名とも相まって、どこか鳥の声を想起させるような効果を生んでいます。

 

‣ Schytte, Ludvig Theodor(1848-1909) ルズヴィ・テオドア・シュッテ

 

ルズヴィ・テオドア・シュッテは、デンマーク・オーフス生まれの作曲家・ピアニスト・教育者です。当初は薬剤師を志していましたが、その後音楽の道に転じ、ニルス・ゲーゼとエドムント・ノイペルトに師事しました。1884年にはドイツへ渡り、フランツ・リストにも学んでいます。1886年から1907年にかけてウィーンで演奏・教育活動を行い、最後の2年間はベルリンで過ごしました。今日では教育用のピアノ小品の作曲家として広く知られています。

 

· Melodische Speciale-Etüden für Pianoforte, Op.75 Nos.5-6(Für die linke Hand allein) [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第5曲 1-3小節)

シュッテ「ピアノのための旋律的特殊練習曲 Op.75(第5曲:左手独奏のための)」1-3小節

邦題:ピアノのための旋律的特殊練習曲 Op.75(第5曲・第6曲:左手独奏のための)
作曲年 / 出版年:不明
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

《旋律的特殊練習曲》作品75は、性格の異なる複数の小品からなる練習曲集で、そのうち「Für die linke Hand allein(左手独奏のための)」と明記されているのは第5曲と第6曲の2曲です。

 

第5曲 Con moto 演奏時間:約2分

大きく3部分(ABA)からなる曲です。特定のリズムパターンを持つ旋律と、その旋律が伸びている間を埋める細かいパッセージという書法が、中間部を含め全体を通して一貫しており、特に凝った工夫は見られません。まさに「練習曲」という題名通りの内容と言えます。中間部ではオクターヴによるメロディに変わり、その後半では32分音符による細かい断片が再び現れ、自然な形で冒頭部の再現へとつながっていきます。

 

第6曲 Moderato e cantabile 演奏時間:約2分20秒

特定のリズムパターンを持つ旋律と、それを隙間を埋める細かいパッセージという書法は第5曲と共通しています。一方でこちらは長調(Dur)で書かれ、第5曲に比べると音型の変化は少なく、同型による訓練的な性格が一貫して保たれています。音型の変化が少ない分、和声の移り変わりに耳を傾けたくなる作品と言えるでしょう。曲の最後は、遠ざかっていくように静かに閉じられます。

 

‣ Scriabin, Alexander(1872-1915) スクリャービン

 

アレクサンドル・スクリャービン(1872年モスクワ生まれ、1915年モスクワ没)。ロシアの作曲家・ピアニストで、モスクワ音楽院でヴァシリー・サフォノフらに学び、初期にはショパンから強い影響を受けています。神秘主義や共感覚的な色彩感覚を音楽に取り入れた先駆的な存在として知られるほか、独自の和声体系「神秘和音」を生み出し、既成の調性の枠にとらわれない作風を展開しました。1915年に敗血症のため43歳で急逝しました。

 

スクリャービンをさらに詳しく知る

【ピアノ】左手作品から読み解くスクリャービン:右手への執着と、左手のための名品

 

· 2 Pieces for the left hand alone Op.9 [LH]

 

プレリュード Op.9-1

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9-1」の曲頭の楽譜。

ノクターン Op.9-2

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9-2」の曲頭の楽譜。

邦題:左手のための2つの小品 Op.9

 

楽曲について(オリジナル作品)

曲名 作曲年 演奏時間 特徴
プレリュード Op.9-1 1894年 約3分半 両手作品とあわせてレパートリーとして定着
ノクターン Op.9-2 1894年 約6分 静寂さと劇的さを併せ持つ、カデンツァを含む充実作

 

難易度:Op.9-1 ツェルニー30番修了〜40番入門程度、Op.9-2 ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「Piano Music for One Hand」(選曲・編集:レイモンド・レヴェンタール/G. Schirmer) 他

 

作品全体の背景(Op.9共通)

このOp.9は、スクリャービン自身が過度な練習によって右手を痛めてしまったために作曲されたものです。1895年に出版され、後年の神秘主義的な作風とは異なる、ショパンの強い影響を受けたロマン派のスタイルを持っています。内容、知名度ともに、左手のためのピアノ曲における名作の一つと言えるでしょう。

ピアニストのデトレフ・クラウスによれば、これら2つの楽曲は「なぜこんなに悲しいのか分からない」および「白樺の木の下の夢」という、2つのロシア民謡に基づいているとされています。

 

この作品についてさらに詳しく知る

・【ピアノ】スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9」演奏完全ガイド
・【ピアノ】ピーター・コラッジオのセミナー(2005年)から学ぶスクリャービン「左手のためのプレリュード Op.9-1」
・【ピアノ】アルトゥール・シミホのマスタークラス動画(2023年)から学ぶスクリャービン「左手のためのノクターン Op.9-2」
・【ピアノ】スクリャービン「左手のための2つの小品 Op.9」、楽譜12種類を実際に購入して比較してみた

 

‣ Sheftel, Paul  ポール・シェフテル

 

ポール・シェフテルは、アメリカのピアニスト・作曲家・教育者です。ジュリアード音楽院で学士号と修士号を取得し、ピアノ演奏、楽理、作曲を学びました。ジョゼフ・ロリーノとのピアノ・デュオ「ロリーノ&シェフテル」として、ヨーロッパとアメリカで演奏し、カーネギーホールでの演奏会や、ベルリン・フィルなどとの共演も重ねています。ジュリアード音楽院やマンハッタン音楽学校などで教え、出版社カール・フィッシャーではピアノ部門の編集者を務めました。

 

· One Piano, One Hand: Four Pieces for Piano, One Hand [LH][RH]

 

※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:1台のピアノ、1つの手(片手のための4つの小品)

 

出版年:1999年
演奏時間:全曲合計 約4分15秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Elaine と Joe、および妻 Sara へ(題名の着想は Sara に負うとの記載あり)
楽譜:One Piano, One Hand: Four Pieces for Piano, One Hand(Amazon.co.jp)

 

作品の背景

曲集の序文によれば、この4曲は、2つの「災難」から生まれました。1つは、スキー旅行で左肩を脱臼して帰ってきた大人の生徒で、右手で弾く「Alright」と「Cold Shoulder」が書かれました。もう1つは、ジャマイカでの休暇から、一時的に右手が使えない状態で帰ってきた大人の生徒で、左手のための「Jamaica Mistake」と「Underhanded」が書かれました。

序文は、誰もがいつかは片手だけで弾く曲が必要になるかもしれないとしたうえで、これらの曲は、もともと想定した手とは別の手でも弾けると述べています。「Underhanded」と「Cold Shoulder」は、両手でも無理なく弾けるとされ、片手奏者の聴衆を驚かせたければ、同じ曲を両手で繰り返し、最後に片手で弾く演出も提案されています。

 

各曲について

Alright(右手独奏) 約50秒
終始、単音によるパッセージワークですが、バロック音楽でよく出てくるように音遣いが2声的になっていて、不思議さと切なさを帯びたメロディが浮かび上がります。

Cold Shoulder(右手独奏) 約1分20秒
全40小節にも関わらず、17小節目になってようやくメロディが出てきます。25-33小節は As音のみでメロディが作られ、最後の8小節間にもメロディがないという、やや変わった曲。ただし、伴奏部分がやや旋律的なアルペジオになっています。

Jamaica Mistake(左手独奏) 約25秒
終始リズミカルな、短い作品。両手曲の左手パートだけを弾いているような雰囲気がありますが、後半では、その伴奏的なリフの中に隠されたメロディックな線が聴こえてきます。

Underhanded(左手独奏) 約1分40秒
メランコリックで、孤独さを感じる小品。全音符を中心とした動きの少ないメロディを、8分音符の伴奏が紡いでいきます。

 

‣ Sherwood, Edgar(1845-1919) エドガー・シャーウッド

 

エドガー・シャーウッドは、アメリカのピアニスト・作曲家・音楽教師です。ニューヨーク州ライオンズの生まれで、はじめは医師を志しましたが、音楽の才能を示し、ほぼ独学で音楽を身につけました。ダンズヴィル、シカゴ、ニューヨークなどで教え、執筆し、その後、ニューヨーク州ロチェスターに落ち着いて、ピアニスト・教師として活動しました。声楽曲とピアノ曲を合わせて100曲を超える作品を残しています。

 

· The Nun and the Fountain(Fantasie Illustrative)

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

シャーウッド「尼僧と泉」1-4小節

邦題:尼僧と泉

 

作曲年:不明
出版年:1875年
演奏時間:約2分(楽曲全体で)
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Mrs. Edgar Holmes
備考:厳密な左手独奏曲ではなく、左手独奏のために書かれた部分を含む構成

 

楽譜の冒頭には、「To be played with the left hand alone.」(左手のみで弾くこと)と書かれ、25小節目に「Both hands.」(両手で)の指示があります。

左手独奏の部分は、アルペッジョを中心とした芳醇なサウンドになっており、ほとんど中音域で構成されています。両手になる25小節目からは音域が大きく広がり、左手独奏部分との対照が効果的になるように書かれています。

 

‣ Sideris, Nikolas(1977- ) ニコラス・シデリス

 

ニコラス・シデリス(Nikolas Sideris)は、ギリシャ生まれの作曲家・ピアニストです。5歳でピアノを始め、ピアノの演奏ディプロマを取得した後、イギリスのロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校で、作曲の修士号と博士号を取りました。連弾曲集「Piano Stories」は、2013年のルクセンブルクの作曲コンクール「Artistes en Herbe」で第1位になりました。2012年には、楽譜出版社 Editions Musica Ferrum を設立し、自作を含む現代の作品を出版しています。

 

· One [LH/RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:ワン

 

作曲年:2017年または2018年と考えられる
出版:
 2022年、Breitkopf & Härtel(《One Hand Piano 2》、Barbara Arens 編、EB 9409 所収)
 原曲集は、Editions Musica Ferrum 刊《24 Days of Music》
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー30番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:【ピアノ】Barbara Arens「ONE HAND PIANO 40 Pieces for Left or Right」シリーズ 完全ガイド

 

作品の背景

バーバラ・アレンス(Barbara Arens)編の「ONE HAND PIANO 40 Pieces for Left or Right 第2巻」の序文によれば、シデリスは、自身の「美しい《One》」の収録を快く許可してくれたこと(”kindly allowed me to include his beautiful One”)が書かれています。つまり、この曲は書き下ろしではなく、既存の曲の収録です。

 

タイトルの意味

題名の意味について、作曲者や出版社が書いた説明は、見つかりませんでした。以下は、筆者の推測です。

・曲全体が、1段の楽譜に書かれ、1本の連続した動きから旋律が立ち上がること(「ひとつ」の線・響き)。
・片手で弾く曲集に収められた曲であること(「ひとつの手」)。

 

音楽的な特徴

最後の部分を除いて、終始、同じ8分音符の音型が続きますが、その中から、4分音符で声部分けされたメロディが浮かび上がります。途中の23小節目には、「cambia l’umore」(脚注によれば、「別の気分と性格で」の意)という指示があり、そこから曲想が変わります。

 

‣ Slonimsky, Sergei(1932-2020) セルゲイ・スロニムスキー

 

セルゲイ・ミハイロヴィチ・スロニムスキー(1932年8月12日レニングラード生まれ、2020年2月9日サンクトペテルブルク没)はロシアの作曲家・ピアニスト・音楽学者です。文学者ミハイル・スロニムスキーを父に、ロシア系アメリカ人の音楽学者ニコラス・スロニムスキーを叔父に持ち、芸術的な環境で育ちました。父方の叔母は後のカーティス音楽院のピアノ教師イザベル・ヴェンゲローロヴァです。

1950年からレニングラード音楽院で作曲(オレスト・エフラホフほか)とピアノを学び、卒業後は同院の教授として1959年から長年にわたって後進を育成しました。ロシア民謡から中世聖歌、12音技法、ジャズ、新ロマン主義まで幅広い語法を自在に操る折衷的な作風を持ち、多作家としても知られています。デニソフ、シュニトケ、グバイドゥーリナらと同時代のモスクワ勢とは異なり、「レニングラード楽派」に属する存在として位置づけられます。

 

· Concert Etude for the Left Hand to Paganini [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:パガニーニによる左手のためのコンサート・エチュード

 

作曲年:2000年
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
委嘱:ハーバート・アクセルロッドとイヴリン・アクセルロッドにより、ゲイリー・グラフマンのために委嘱
収録:「An Anthology of Piano Music for the Left Hand Alone」(編:ルビー・モーガン/Carl Fischer)

 

リスト、ブラームス、ラフマニノフらが用いてきたパガニーニの有名な主題を用いた作品で、変奏形式風な展開を持っています。

この作品の根底には驚きと遊び心が漂っており、曲の冒頭から一つのテーマを低音域と中高域とに分解した急激な跳躍を伴う書法が見られるなど、早速そのユーモアが感じられます。スロニムスキーの折衷的な作風らしく、親しみやすい旋律素材とあらゆる現代的な語法が共存しているのも特徴と言えるでしょう。

1段譜で書かれた部分も多く、音数は意外と限定的で、全体的にシンプルな作りになっています。

Ruby Morganのアンソロジー(2021年)を通じて初めて出版されました。

 

‣ Smith, Botond(2006- ) ボトンド・スミス

 

ボトンド・スミスは、ハンガリー出身とされる作曲家です。楽譜の版の表記では、作曲者本人の名前が「Botond Kovács(コヴァーチ・ボトンド)」とも書かれています。

 

· Solitude, Op. 9(Elegy for the left hand alone)[LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:孤独(左手のためのエレジー)

 

作曲年:2024年
出版年:2024年
初演:2024年4月2日
演奏時間:約8分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

作品の背景

楽譜の前書きには、作曲者の言葉が英語とハンガリー語で載っています。要旨は、次のとおりです。

・作曲者は、ピアノの演奏、作曲、そして両者の関係について、長いあいだ考えてきた
・この数年の経験から、作曲家が、作品に内在する可能性を最大限に引き出すだけでなく、芸術的なメッセージに合わせて楽器の能力も最大限に活かしてこそ、その作品は、真の音楽的な傑作と呼べる、という結論に至った
・この曲は、一種の実験でもある
・制作中は、少ない材料からできる限り多くを引き出すよう、意識して試みた
・意識的な構想と編集によって、たった5本の指からどれほど多くのものが得られるかに、作曲者自身も驚いた

この曲が、ピアニストにも作曲家にも、新しく興味深い経験となることを願う、と結ばれています。

 

音楽的な特徴

難しい跳躍、分厚い和音、オクターヴ、広い音域を使ったアルペジオ、カデンツァなどが現れ、協奏曲を聴いているような作品。最後は、pp で悲痛に沈み込むように終わることから、題名のとおり「エレジー(悲歌)」を想起させます。

 

‣ Sol, Nahre(1991- ) ナーレ・ソル

 

ナーレ・ソルは、作曲家・ピアニストとして活動しています。ジュリアード音楽院とトロントのグレン・グールド音楽院(王立音楽院)で学び、2013年にはウーリー助成を受けて、パリでガブリエル・タッキーノとナルシス・ボネに師事しました。即興、前衛、伝統的な西洋の形式と和声、ジャズ、ミニマリズムなどを組み合わせた音楽を手がけています。

 

· Etude for Right Hand Alone [RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:右手のためのエチュード

 

作曲年:2018年(作曲家の動画の説明に「今週書いた」とあり、動画の公開は2018年1月28日)
演奏時間:約55秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Etude for Right Hand Alone / Nahre Sol(nahresol.com)

 

作品の背景

作曲者のYouTube チャンネルの企画「Practice Notes」の第49回(Practice Notes 49)で紹介された作品。作曲者自身が演奏し、解説も加えています。動画の公開は2018年1月28日で、動画の説明によれば、その週に書いた右手だけのための練習曲で、この曲を練習して気づいたことを、いくつか(a few afterthoughts)添えたとあります。

 

音楽的な特徴

無調語法で跳躍する音を連続させた、単音によるパッセージワークの練習曲。終盤でわずかに和音が出てきます。中低域で動き回る高速パッセージを弾くために手をさまざまな角度で開く必要があり、難度の高い曲になっています。

 

作曲家自身のYouTubeチャンネルでの演奏と解説

 

‣ Sosa, Raoul(1939-) ラウル・ソーザ

 

ラウル・ソーザ(1939年7月27日ブエノスアイレス生まれ)はアルゼンチン出身のカナダのピアニスト・作曲家・指揮者です。ブエノスアイレス音楽院でピアノと音楽理論を学び、1959年にテアトロ・コロンでデビュー。1962年のヴァン・クライバーン国際コンクールでファイナリストとなり、フランス政府奨学金でマグダ・タリアフェロ(パリ・ザルツブルク)、スタニスラフ・ネイガウス(イタリア)に師事しました。ウィグモア・ホールやサル・ショパン=プレイエルをはじめ欧米各地で演奏活動を行い、1967年からはモントリオールのケベック音楽院で教鞭を執りました。

1980年に右手を負傷したことを転機として、左手独奏のレパートリーを自ら作曲・編曲しながら演奏活動を続ける道へと進みました。並行してセルジュ・チェリビダッケに指揮を学び、1986〜89年にはモントリオールのサン=レオナール交響楽団の創設指揮者を務めています。2009年にカナダ勲章を受章。モントリオール音楽院の名誉教授。カナダ音楽センターのアソシエイト・コンポーザーとして作品が保存されています。

 

ソーザについてさらに詳しく知る

・【ピアノ】左手作品から読み解くラウル・ソーザ:右手の負傷が開いた、もう一つのキャリア
・【ピアノ】ラウル・ソーザ「An Anthology for the Left Hand」レビュー

 

· Original Works
– Capriccioso(on Paganini’s Capriccio No.24) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:カプリッチョーソ(パガニーニの「奇想曲 第24番」の主題による)

 

作曲年:1995年
演奏時間:約12分(全12ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

パガニーニの「奇想曲 第24番」の主題に基づく変奏曲。変奏の一つは「Berceuse chinoise」と題され、黒鍵のみで演奏されます。1段譜と大譜表が場面によって使い分けられ、大きな跳躍、厚い和音、複雑な声部の重なりなど様々な書法が見られます。

冒頭のヴァイオリン的な音型の箇所では、中高域の音響を補うためにヴァイオリンでは演奏できない和音が付加されました。

初演は、1995年11月19日、ウィニペグ・アーツ・ギャラリーにて作曲者自身によって行われました。

 

– Sonata for violin and piano left hand [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:ヴァイオリンと左手ピアノのためのソナタ

 

作曲:1992年
全28ページ(手稿複製)
演奏時間:約25分
分類:オリジナル作品(室内楽)

 

伴奏として主旋律を支えつつも、時にはヴァイオリンと対等に渡り合う左手ピアノの書法は、本作の大きな聴きどころです。初演は1992年10月23日に行われ、マルティーヌ・デロシュのヴァイオリンと、作曲者ソーザ自身のピアノによって披露されました。

 

– Sonata for cello and piano left hand [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:チェロと左手ピアノのためのソナタ

 

作曲:1995年
演奏時間:約23分
分類:オリジナル作品(室内楽)

 

本作は、作曲者が左手ピアノと他楽器の組み合わせに連続して取り組んでいた1995年に書かれました。これは「ヴァイオリンと左手ピアノのためのソナタ」の誕生から3年後にあたります。初演の奏者や当時の演奏状況など、詳しい背景を伝える資料は現時点では確認できておりません。

 

– Concerto pour la main gauche et orchestre à cordes [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:左手と弦楽オーケストラのための協奏曲

 

作曲年:1989年
演奏時間:約28分(全85ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)

 

構成(全3楽章)

第1楽章 Allegro molto
第2楽章 Adagio
第3楽章 Allegro

 

初演は、1992年2月2日、I Musici de Montréal により、作曲者自身によって行われました。

 

· Arrangements
– Bach / Sosa: Chromatic Fantasy and Fugue in D minor, BWV903 [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:バッハ/ソーザ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903(左手独奏版)

 

編曲年:1989年
演奏時間:約13分(全26ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)

 

J.S.バッハの原曲を左手独奏用に編曲した作品で、ソーザ独自の創作的なアーティキュレーションは加えず、原曲の構造と声部をできる限り保ったまま片手に移し替えることを目指した編曲です。「片手演奏への妥協がごくわずか」と評される、完成度の高い仕上がりとされてきました。

初演は1990年3月15日です。ソーザ自身による録音もあり、彼の左手編曲の中では最も広く知られている作品の一つとなりました。

 

– Bach / Sosa: Sinfonia No.14 in B-flat major, BWV800 [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:バッハ/ソーザ:シンフォニア 第14番 変ロ長調 BWV800(左手独奏版)

 

編曲年:1988年
演奏時間:約2分20秒(全2ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)

 

原曲は3声の対位法作品で、その性質上、片手で完全に再現することには大きな制約が伴います。音の変更と声部の部分的な削減によって片手版として成立させており、原曲の12小節目以降に展開されるストレッタは省かれました。

アーティキュレーションは原典準拠で創作的な付加はなく、強弱記号が一部補足されています。運指付き。

 

– Gluck / Sosa: Il lamento d’Orfeo [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:グルック/ソーザ:オルフェオの嘆き(左手独奏版)

 

編曲年:1997年
演奏時間:約3分(全3ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)

 

グルックのオペラ「オルフェオとエウリディーチェ」より、エウリディーチェを失ったオルフェオの嘆きの場面を原曲とした編曲です。深い哀愁を持ちながらも静かな美しさを失わないこの旋律を左手独奏として成立させており、原曲の特徴的な音の連打も引き継いでいます。

 

– Ravel / Sosa: La Valse [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:ラヴェル/ソーザ:ラ・ヴァルス(左手独奏版)

 

編曲年:1993年
演奏時間:約16分(全32ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)

 

ラヴェルの管弦楽曲「ラ・ヴァルス」の左手独奏版です。ラヴェル自身による両手版やピアノ連弾版でさえ演奏困難な作品を、さらに片手編曲した野心的な編曲です。低音のうねり、高音のきらめき、ワルツが加速していく運動感を左手ひとつで再現することを目指しており、技術的要求はきわめて高いと言えるでしょう。

ソーザ自身による録音があり、「半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903」の編曲とともに、彼の左手編曲の中では知られている作品の一つとなりました。

 

– Stravinsky / Sosa: L’Oiseau de feu [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:ストラヴィンスキー/ソーザ:火の鳥(左手独奏版)

 

編曲年:1996年
演奏時間:約24分(全22ページ、手稿複製)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
備考:底本 1919年版

 

ストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」の左手独奏版で、演奏機会の多い1919年版をもとにして編曲されました。色彩豊かなオーケストレーションを左手独奏で表現するにあたり、スタイルから大幅に変化させるのではなく、原曲の管弦楽的な音響にできる限り肉薄する方向で書かれています。

 

‣ Sowiński, Albert(1805?-1880) アルベルト・ソヴィンスキ

 

アルベルト・ソヴィンスキは、ポーランド出身の作曲家・ピアニスト・著述家で、生涯の大半をパリで過ごしました。1828年にフランスに渡り、パリで、演奏家、作曲家、研究者として活動しました。ポーランドの民謡や愛国歌を集めた曲集を出版し、1857年には、ポーランドとスラヴの音楽家の辞典「Les musiciens polonais et slaves」を著しています。1880年3月5日に、パリで亡くなりました。

 

· Étude pour la main gauche seule(Grandes études de concert à sujets développés, Op.60 No.5)[LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1小節目)

ソヴィンスキ「左手のための練習曲(「展開された主題による大演奏会用練習曲集」より)」1小節目

邦題:左手のための練習曲(「展開された主題による大演奏会用練習曲集」より)

 

作曲年:不明
出版年:1843年(この曲が含まれる第1集の出版年)
演奏時間:約4分(テンポの指示がない作品なので、解釈により大きく左右する可能性がある)
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Sigismond Thalberg(この曲が含まれる第1集の献呈)
楽譜:Grandes etudes de concert op.60, part 1(PWM、校訂:Agnieszka Kopińska)

 

作品の背景

「Grandes études de concert à sujets développés Op.60」は、12曲の練習曲を2集に分けた曲集。各曲は、「Étude d’extension」「Étude de notes doubles」「Étude d’arpèges」「Étude de vélocité」のように、技巧や様式を示す題名がつけられており、第5番「Étude pour la main gauche seule」が、左手のみのための練習曲です。出版社PWMの第1集の紹介は、この集の6曲を、大規模で響きが良く、印象的な音型、パッセージ、和音の連続、猛烈なテンポのオクターヴに満ちた作品と述べ、Op.60 を、19世紀前半から続く名人芸の流行の一部と位置づけています。

 

音楽的な特徴

分散和音の中から、8分音符2つによるメロディを取り出して歌わせる、という書法をもつ作品。ショパン「Op.10-9」のような書法と考えるとイメージがつきやすいかもしれません。途中で不意にフェルマータが何度か出てきます。最後は、遠ざかるように、ぽつんと一つの音を響かせて終わります。

 

‣ Spindler, Fritz(1817-1905) フリッツ・シュピンドラー

 

フリッツ・シュピンドラー(1817年ヴルツバッハ〈ローベンシュタイン〉生まれ、1905年ドレスデン近郊没)はドイツの作曲家で、生涯をドレスデンを拠点に活動しました。生涯に330曲を超える作品を残し、当時のサロン音楽の書き手として一定の人気を博した人物です。

 

· Drei Romanzen, Op.156 No.1(As-dur) [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)

シュピンドラー「左手のためのロマンス 変イ長調 Op.156-1」1-2小節

邦題:左手のためのロマンス 変イ長調 Op.156-1

 

出版年:1864年頃
演奏時間:約3分30秒
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:マティルデ・ホッホシュテッター
収録:「The Boston Music Company Digest of Piano Pieces: for the Left Hand Alone」(編:フェリックス・フォックス/Kessinger Publishing)

 

本曲は全3曲からなる「ロマンス集 Op.156」の第1曲にあたり、同曲集の中では最も演奏効果と難度がともに高い一曲(第2曲はG-dur、第3曲はB-dur)。

用いられる音型自体は複雑ではないものの、3度音程の連続、6度音程の連続、オクターブの連続に加え、アルペジオ、スケールパッセージまで多様な奏法がバランス良く盛り込まれており、左手のテクニックを幅広く要求する構成になっています。

演奏機会は多くありませんが、John Evans演奏の音源「Back at the Bechstein」などに収録されています。

 

‣ Stallaert, Alphonse(1920-1995) アルフォンス・スタラールト

 

アルフォンス・スタラールトは、オランダ生まれ、フランスで活躍した作曲家・指揮者です。銀行家である父の意向でユトレヒトで法律を学びましたが、音楽への思いを断ちがたく、1年間だけという条件で音楽の勉強を許され、1941年からユトレヒト音楽院でヘンドリック・アンドリーセンに作曲を、ベルトゥス・ファン・リールに指揮を師事しました。フィリップス社の楽団の指揮を経て、1946年にパリへ渡り、アンドレ・クリュイタンスに指揮を、アルテュール・オネゲルに作曲を学びました。

自らオーケストラを組織してパリで演奏活動を行ったほか、フランスやオランダ各地のオーケストラに客演指揮者として招かれるなど、作曲と指揮の両面で活動しました。

 

· Deux croquis, I. Pour la main gauche seule [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:2つのスケッチ 第1曲「左手のみのために」

 

出版年:1962年頃
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ダニエル・ワイエンベルク

 

pp で奏される低いF音のオルゲルプンクトから静かに開始し、この冒頭で提示されたリズムが繰り返し活用されながら音楽が進んでいきます。厚みのある和音が積み重なってクライマックスを作ったのち、静かに消えていく構成です。

※「Deux croquis pour piano」:第1曲は左手独奏、第2曲「Toccata」は両手用

 

‣ Stark, Bruce  ブルース・スターク

 

ブルース・スタークは、アメリカの作曲家です。カリフォルニア州レイクサイドで育ち、ドラムなどの打楽器から始めて、ジャズ・ピアノへ進みました。大学では物理学を学んでいましたが、クラシック音楽を本格的に学ぶために進路を変え、ジュリアード音楽院で作曲の修士号を取っています。その後、20年以上、東京で編曲家・ジャズ・ピアニストとして活動しながら、演奏会用の作品を書きました。2013年に米国に戻り、ワシントン州レドモンドの DigiPen Institute of Technology の音楽の教員を務めています。

 

· Nocturne for Left Hand Piano [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:左手のための夜想曲

 

作曲年:2021年
演奏時間:約5分10秒(収録CDのトラック表記は5分09秒)
分類:オリジナル作品(独奏)
音源:CD《Unbound: American Piano Music for the Left Hand》(Nariaki Sugiura, piano、Centaur Records、CRC 4168、©2026)の第2曲(【ピアノ】ナリアキ・スギウラ「Unbound: American Piano Music for the Left Hand」レビュー)

 

作品の背景

CDの解説書に、作曲者自身の言葉が載っています。それによれば、以下のような趣旨のことが書かれています。

・2021年の春に、作曲者の長年の友人であるピアニスト、ナリアキ・スギウラ(Nariaki Sugiura)の委嘱で書かれた
・曲は、広い音域にわたるアルペジオで、内省的に始まる
・その後、より表情豊かで活動的な楽句へと広がり、静かな終わりへ戻る
・夜のイメージと、夜の訪れとともに目覚めるものたちが、音楽のもとになっている
・発想が夢の中のように途切れずに互いに流れ込み、即興的な雰囲気がある

 

音楽的な特徴

印象派的な作品で、はかなさが漂い、人がひとりでいるような感じがします。幻想的に開始し、途中で運動的になったり、音型が変化したりしますが、幻想的な雰囲気は変わらず、霧の中にいるかのよう。ダンパーペダルで空間的になった響きの中に、さまざまな音が溶け込んでいく曲です。

 

· If Stars Could Speak(8 Piano Pieces for Left Hand) [LH]

 

邦題:星が語れるなら(左手のための8つのピアノ小品)

作曲年・出版年:不明
演奏時間:全曲合計 約23分
分類:オリジナル作品(独奏)
音源:CD《Unbound: American Piano Music for the Left Hand》(Nariaki Sugiura, piano、Centaur Records、CRC 4168、©2026)の第11〜18曲(【ピアノ】ナリアキ・スギウラ「Unbound: American Piano Music for the Left Hand」レビュー)

 

構成(全8曲)

No.1 If Stars Could Speak(星が語れるなら) 約2分40秒
No.2 Wind Chimes(ウィンド・チャイム) 約2分20秒
No.3 Groove(グルーヴ) 約3分30秒
No.4 Like Leaves in the Wind(風にそよぐ葉のように) 約2分
No.5 To the Late Night(遅い夜へ) 約3分
No.6 Music Box Dreams(オルゴールの夢) 約2分40秒
No.7 Lyric Flow(叙情の流れ) 約3分50秒
No.8 Blues(ブルース) 約3分

 

作品の背景

CDの解説書にある作曲者の言葉によれば、曲の性格は幅広く、短い詩的な小品(If Stars Could Speak、Wind Chimes、Music Box Dreams)、流れるような叙情的な曲(Like Leaves in the Wind、Lyric Flow)、ジャズに着想を得た曲(Groove、To the Late Night、Blues)に分けられるとのことです。

作曲者は、スギウラの委嘱の発案に、とくに感謝を述べています。新しい音楽的領域を探る機会になり、同時に、特別な演奏家たちにレパートリーを提供できたとのことです。

作曲者の公式サイトによれば、この曲集は、ノースダコタ大学の支援を受けて委嘱され、一部の曲が、2024年6月に、インディアナ州でスギウラによって初演されました(翌日に、ウォーソーの教会で2曲が演奏されたとも書かれています)。同年9月にも、別の曲が演奏されました。

 

音楽的な特徴

No. 1 If Stars Could Speak
どことなく不吉な雰囲気の曲。第9音を絡ませたマイナーコードのアルペジオが美しく響きます。

No. 2 Wind Chimes
切ない雰囲気に包まれた、何かの静かな終わりを感じさせる曲。高音の分散和音が美しく、題名を思い起こさせます。

No. 3 Groove
リズムが前面に出た、踊りのような曲。ジャズのアドリブを聴いているような箇所もあり、全体的に広い音域が使われています。

No. 4 Like Leaves in the Wind
完全5度や完全4度の音程を連ねたアルペジオが多く使われ、透き通った世界観のある曲。第2曲と同じように、高音の分散和音が美しく、題名を思い起こさせます。

No. 5 To the Late Night
題名のとおり、夜を思わせる大人の音楽。ジャズ・バラード風の書法に、西洋音楽の無調的な語法で使われる不協和な響きも、少し取り入れられています。最後は、クラスターで締めくくる劇的な表現に驚かされることでしょう。

No. 6 Music Box Dreams
題名はオルゴールですが、通常のオルゴール風の曲想ばかりではなく、もう少しドラマ性もあります。最後はぜんまいが切れたかのように、完全終止せず、ふいに終わります。

No. 7 Lyric Flow
オクターヴの響きが印象的で、広い屋外の自然を思わせるような曲。どことなく、フィリップ・アーバーグのサウンドを思わせます。

No. 8 Blues
片手で弾くブルースは、教育用の作品も含めていくつか見られますが、そのなかでは比較的音数が多く、内容も充実しています。かなり低い低音が数回出てきて、最後は高音まで上がるため、中低音域を中心に構成されがちなブルースに、音響的な幅広さが加わっています。

 

‣ Stein, Leon(1910-2002) レオン・スタイン

 

レオン・スタインは、アメリカ・シカゴ生まれの作曲家・音楽学者です。デポール大学で博士号を取得しました。同大学で1931年から1978年まで教鞭をとり、1966年から1976年までは音楽学部長を務めています。シカゴ・シティ交響楽団をはじめとする複数の楽団の指揮も手がけました。70曲を超える作品を残したほか、音楽分析に関する著作でも知られています。

 

· Toccata No.3 for piano(for the left hand) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:トッカータ 第3番(左手のための)

 

作曲年:1981年
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
備考:ノーマン・マローンの委嘱

 

3小節からなる短いAdagioの序奏は和音を中心に書かれており、それに続くAllegroの部分では、16分音符の運動的なパッセージが展開されます。要所には序奏部分の特徴であった和音進行が挟み込まれ、変化がつけられています。

 

‣ Steiner, Eric  エリック・スタイナー

 

エリック・スタイナーは、1950~60年代にアメリカで活動していたとみられるピアノ教育者・編曲者です。Belwin社から刊行された「Eric Steiner Piano Course」と題する教則本シリーズをはじめ、子供・初級者向けのピアノ曲集を数多く手がけていたことが確認できます。

 

· One Hand Only for the Young Pianist: Fifteen Selections to be played with One Hand Only [LH/RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:片手だけで(若きピアニストのための、片手独奏による15の小品集)

 

編纂・校訂・作曲・編曲:エリック・スタイナー
出版年:1962年
難易度:ブルグミュラー25の練習曲入門程度
分類:オリジナル作品、編曲作品(独奏)

 

構成(全15曲)

・Andante in C(原曲:モーツァルト)
・Andantino(原曲:E.H.ルメア)
・Autumn Song(原曲:メンデルスゾーン)
・Golden Stars(原曲:シュトレアボッグ)
・Good-bye, Flo(原曲:ジョージ・M・コーハン)
・Holiday Procession(原曲:ツェルニー)
・Mountain Brook(原曲:フェリックス・ルクピー)
・Sea Chantey(原曲:フィンランド民謡)
・Song of Grace(原曲:ベートーヴェン)
・Three Puppies(原曲:コンコーネ)
・Victory Bells(スタイナーによるオリジナル)
・Waltz of Nostalgia(スタイナーによるオリジナル)
・Who Is Sylvia?(原曲:シューベルト)
・Who Is the Man?(原曲:巡礼賛歌)
・The Young Voyageur(原曲:民謡)

うち2曲はスタイナー自身のオリジナル、残り13曲は著名作曲家・民謡からの編曲。全曲が左手独奏版・右手独奏版の両方で収録されています。

 

作品の背景

この曲集の最大の特徴は、収録された15曲それぞれが、同じ内容のまま左手独奏用と右手独奏用の2種類の運指で掲載されている点でしょう。いずれも1ページに収まる初級レベルの小品で、運指とペダリングの指示が付されています。

「Who Is Sylvia?」など、特定の曲には、旋律の下に元の歌詞が添えられています。もっとも、これは弾き歌いのためではなく、あくまでピアノ片手独奏のための曲集であり、歌詞は原曲を思い起こすための参考として添えられているものと考えられます。

 

‣ Strakosch, Maurice(1825-1887) モーリツ・シュトラコッシュ

 

編曲者モーリツ・シュトラコッシュは、1825年にメーレン地方(モラヴィア)のグロース・ゼーロヴィッツに生まれ、1887年にパリで没しました。

興行主(インプレサーリオ)であり音楽家でもあった人物で、1848年から1860年にかけてはニューヨークを拠点にピアニスト・教師として活動し、当時のニューヨーク音楽界で異彩を放つ存在だったと伝えられています。のちにピアニストとしての活動からは離れ、義妹にあたるソプラノ歌手アデリーナ・パッティの歌手としてのキャリアをマネジメントする側に回りました。

 

· Prayer(Preghiera)”Deh! calma o ciel” from Rossini’s Otello, Op.36 – Transcription for Left Hand Alone [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)

シュトラコッシュ編曲「ロッシーニ《オテロ》より 祈り(デスデーモナの祈り)」1-2小節

邦題:ロッシーニ《オテロ》より 祈り(デスデーモナの祈り)

 

原曲:Rossini, Gioachino / 歌劇《オテロ》第3幕、デスデーモナのアリア「Deh! calma o ciel」
編曲:Strakosch, Maurice(左手用編曲)、Op.36
出版年:1848年頃
演奏時間:約3分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)

 

作品の背景

本作は、ロッシーニの歌劇《オテロ》第3幕でデズデーモナが歌う祈りの場面(Deh! calma o ciel)を、シュトラコッシュが左手独奏用に編曲した作品です。「Miss Laura Gibbsに献呈する」との献辞が付されており、演奏会用の作品として書かれたと考えられるでしょう。シュトラコッシュ自身、1849年9月のブロードウェイ・タバナクルでのリサイタルでこの編曲を披露したという記録も残っています。

 

音楽的な特徴

冒頭には8小節にわたるカデンツァ風の序奏が置かれ、そこからPREGHIERA(祈り)の主部へと入ります。この主部では音域の広いロング・アルペッジョが頻出し、それゆえに拍が乱れやすく、演奏効果の面では必ずしも成功しているとは言い難い編曲になっている点は否めません。曲の終盤では、冒頭から用いられていた分散和音の音型が回帰し、堂々とした佇まいで曲を締めくくります。

 

‣ Strategier, Herman(1912-1988) ヘルマン・ストラテヒール

 

ヘルマン・ストラテヒール(1912年アルンヘム生まれ、1988年没)はオランダのオルガニスト、作曲家です。ヘンドリク・アンドリーセンに師事し、ユトレヒトおよびロッテルダムの音楽院で教鞭を執りました。

 

· Tema con Variazioni [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:主題と変奏

 

作曲年:1959年
出版年:1963年頃
演奏時間:約3分50秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:コル・デ・フロート
収録:Mano sinistra I:Six pieces by Netherlands composers for piano left hand

 

5/8拍子による素朴でメランコリックな主題に始まり、それに続く5つの変奏とコーダから構成されています。モーダルな音の運びや平行和音の使用など、ラヴェルを思わせる響きが随所に感じられ、コンパクトながらも美しく魅力的な作品に仕上がっています。

 

コル・デ・フロートについてさらに詳しく知る

【ピアノ】左手作品から読み解くコル・デ・フロート:オランダ左手ピアノ音楽の一章

 

‣ Strauss, Richard(1864-1949) リヒャルト・シュトラウス

 

リヒャルト・シュトラウス(1864年6月11日ミュンヘン生まれ、1949年9月8日ガルミッシュ=パルテンキルヒェン没)はドイツ後期ロマン派を代表する作曲家・指揮者です。「ドン・ファン」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」「英雄の生涯」などの交響詩で革新的な書法を確立し、「サロメ」「エレクトラ」「ばらの騎士」といったオペラで国際的な地位を築きました。若い頃からヴィトゲンシュタイン家の常連客であり、パウル・ヴィトゲンシュタインとは個人的な親交がありました。

 

· Parergon zur Symphonia domestica für Klavier linke Hand und Orchester, Op.73 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、ソロの初導入部 19-21小節)

シュトラウス「家庭交響曲余録 Op.73」19-21小節

邦題:家庭交響曲余録 Op.73

 

作曲年:1924〜1925年(スコアの日付:1925年1月27日)
演奏時間:約25分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
初演:1925年ドレスデン、フリッツ・ブッシュ指揮、ヴィトゲンシュタイン独奏(日付は資料によって異なる)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン

 

1924年にヴィトゲンシュタインから委嘱を受けて書かれた作品です。「Parergon」とはギリシャ語に由来する言葉でシュトラウス自身の造語とされており、「傍作」あるいは「補遺」に近い意味を持ちます。

シュトラウスの自伝的交響詩「家庭交響曲 Op.53」の「付け足し」として、主に息子フランツのテーマが中心に据えられています。作曲の直接のきっかけは、長男フランツが新婚旅行中に腸チフスで生死をさまよい、奇跡的に回復したことでした。曲全体が闘病から快癒へと向かう物語を描いており、シュトラウスにとって極めて私的な意味を持つ作品でした。

単一楽章で多くのセクションが連続し、一度登場したピアノはほぼ休みなく演奏し続けます。冒頭でピアノが登場するまで約1分30秒程度あり、この間のオーケストラの陰鬱なサウンドが、ソロの登場への期待感を高めていると言えるでしょう。闘病から始まる物語と結びついています。

ヴィトゲンシュタインは演奏権の独占を求め、他のピアニストが演奏できるようになったのは1950年以降のことでした。

 

· Panathenäenzug: Sinfonische Etüden in Form einer Passacaglia für Klavier (linke Hand) und Orchester, Op.74 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

シュトラウス「パンアテネの行列 Op.74」1-3小節

※リヒャルト・シュトラウス自身によるピアノ伴奏版編曲(ソロ+ピアノ伴奏形式:2台ピアノ)から浄書

 

邦題:パンアテネの行列 Op.74

 

作曲年:1926〜1927年(スコアの完成日:1927年2月14日)
演奏時間:約25分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
初演:1928年1月16日、ベルリン、ブルーノ・ワルター指揮、ベルリン・フィル、ヴィトゲンシュタイン独奏
献呈:なし(ヴィトゲンシュタインが演奏)

 

Op.73に対してヴィトゲンシュタインが「ピアニスティックな輝きが足りない」「管弦楽が重すぎる」と不満を示したことを受けて、シュトラウスが新たに書き下ろした作品です。題名の「パンアテネ」は古代アテネの祭典で、4年に一度の大祭ではパルテノン神殿のアテナ女神像に向けた行列が行われていました。

曲はMaestosoの序奏、カデンツァ、そして11の変奏が絶え間なく続くパッサカリア形式で書かれています。変奏ごとにテンポが変わる指示が付されており、大まかに4つのセクションに相当する構造が内部に潜んでいます。

ピアノはほぼ全曲を通じて演奏し続けており、この辺りはOp.73との共通点と言えるでしょう。演奏機会はOp.73と比べて少なく、初演時の批評は厳しいものが多くありました。

 

‣ Stravinsky, Igor(1882-1971) イーゴリ・ストラヴィンスキー

 

イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882年ロシア生まれ、1971年アメリカ没)は、20世紀を代表する作曲家の一人です。「春の祭典」をはじめとするバレエ音楽で音楽史に大きな衝撃を与え、その後も新古典主義、さらにはセリー技法にいたるまで、生涯を通じて作風を大胆に変化させ続けました。

片手のためのピアノ音楽という観点から注目されるのが、1910年代に書かれた連弾作品 「3つのやさしい小品」と「5つのやさしい小品」 です。いずれも「やさしい小品」と題されていますが、通常の連弾作品とは異なる、ユニークな奏者構成を持っています。

 

· 3 Pieces faciles/Three Easy Pieces for Piano Duet(Left Hand Easy) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:3つのやさしい小品

 

作曲年:1914年
出版年:1917年頃
演奏時間:全曲合計 約3分30秒
編成:連弾(プリモ=両手、セコンド=左手のみ)
分類:オリジナル作品(連弾)

 

構成(全3曲)

・行進曲(March) 約1分 アルフレード・カゼルラに献呈
・ワルツ(Waltz) 約1分30秒 エリック・サティに献呈
・ポルカ(Polka) 約1分 セルゲイ・ディアギレフに献呈

 

作品の特徴

3曲とも、プリモは通常どおり両手で演奏する一方、セコンドは左手だけで演奏するように書かれています。セコンド・パートはごく限られた音数による反復的な音型を中心としており、プリモが音楽の主要部分を担うのに対して、セコンドはシンプルな伴奏的役割を果たします。パターソンも本作について、セコンド奏者を「one-handed Secondo performer」と明記しており、単に「セコンド・パートが易しい連弾曲」というだけではなく、実際に片手奏者が参加することを想定した作品と見ることができます。

3曲はいずれも著名な芸術家に献呈されており、行進曲はアルフレード・カゼルラ、ワルツはエリック・サティ、ポルカはセルゲイ・ディアギレフに捧げられている点も注目に値するでしょう。

1手でピアノを演奏する奏者を含む連弾作品として、片手音楽のレパートリーの中でもユニークな位置を占めています。

 

· 5 Pieces faciles/Five Easy Pieces for Piano Duet(Right Hand Easy) [LH/RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:5つのやさしい小品

 

作曲年:1916年
出版年:1917年頃
演奏時間:全曲合計 約6分
編成:連弾(プリモ=オクターブを中心とした書法、セコンド=両手)
分類:オリジナル作品(連弾)

 

構成(全5曲)

・アンダンテ(Andante) 約1分
・エスパニョーラ(Española) 約1分
・バラライカ(Balalaika) 約1分
・ナポリターナ(Napolitana) 約1分
・ギャロップ(Galop) 約2分

 

作品の特徴

本作は、「3つのやさしい小品」とは対照的な性格を持つ連弾作品です。タイトルには 「Right Hand Easy」とありますが、これは必ずしも「右手だけで演奏する作品」という意味ではありません。Pattersonは、「Easy Treble Part」と表記されることもあると述べており、タイトルが示しているのは、主としてプリモ側の上声部・高音側のパートが簡潔に書かれているということです。

プリモ・パートはオクターブを中心としたシンプルな書法で書かれている一方、セコンド・パートは和声やリズムを支えるため、基本的に両手を必要とする書き方になっています。

そのため、「3つのやさしい小品」のように「片手奏者が担当するパートを明確に設定した作品」ではありません。ただし、プリモ・パートの書法から、片手演奏との関連を考えることのできる作品として、エーデルやパターソンの片手音楽関係の資料にも収録されています。

 

片手音楽として見るポイント

ストラヴィンスキーのこの2つの連弾作品は、片手音楽との関わり方が異なる点に着目しましょう。

「3つのやさしい小品」では、セコンド奏者が左手だけで演奏することが作品の明確な特徴となっています。一方、「5つのやさしい小品」では、片手演奏そのものを目的とした構成というより、プリモ側のパートが簡潔に書かれている点に特徴があります。

作品 片手になるパート 手
Three Easy Pieces(Left Hand Easy) セコンド 左手
Five Easy Pieces (Right Hand Easy) プリモ側の「Easy」なパート ※「右手のみ」とは単純に言えない

 

‣ Stravinsky, Sviatoslav Soulima(1910-1994) スーリマ・ストラヴィンスキー

 

スーリマ・ストラヴィンスキーは1910年スイス・ローザンヌに生まれ、1994年に没した作曲家・ピアニストです。イーゴリ・ストラヴィンスキーの息子であり、父としばしば2台ピアノで共演したことでも知られています。活動の拠点はスイスとアメリカにまたがり、演奏家としての経験を活かした実践的なピアノ書法を持ち味として評価されてきました。

 

· Piano Suite for the Right Hand [RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:右手のためのピアノ組曲

 

作曲年:1975年
出版年:1980年頃
演奏時間:約8分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ウォルター・ヒンリクセンの追悼に捧げられている

 

構成(全6曲)

I. Prelude
II. Marcia
III. Valse(Noble et rustique)
IV. Gavotte
V. Sarabande
VI. Gigue

 

作品の背景

本作はニューヨークのC.F.Peters社を興したウォルター・ヒンリクセン(1907–1969)の追悼に捧げられた組曲です。

「第1曲 Prelude」の冒頭直前には、実際には演奏されない「シンボル」として12音音列がそのまま記譜されており、この音列に基づく作曲技法を用いながら、行進曲・ワルツ・ガヴォット・サラバンド・ジーグといった、以前からの舞曲様式を各曲の性格づけに援用する構成にまとめられました。様式と語法のコントラストが興味深い作品です。

なお本作は後年、ヴィオラ独奏用にも編曲されています。

 

音楽的な特徴

「第4曲 Gavotte」の一部を除き、全曲を通じて一段譜で書かれた極めて薄い書法が貫かれており、同時に鳴る音はほとんどの場合2音までに留められています。強弱や表情記号は比較的細かく書き込まれており、「espressivo」「dolce」といった歌謡的な標語まで随所に見られることから、無調語法の中にあっても旋律的な歌ごころが重視されていることがうかがえます。

各曲はいずれも1ページ前後に収まる小品で、運指は一部にのみ付されている一方、ペダル指示は与えられていません。

 

‣ Sueyoshi, Yasuo(1937-2018) 末吉保雄

 

末吉保雄は1937年東京生まれ、2018年に没した作曲家です。東京で石桁真礼生に作曲を、豊増昇にピアノを師事し、1964年に渡仏。帰国後は作曲活動とともに、大学での後進の指導、NHKの音楽教育番組への出演・企画などを通じて長く教育活動にも携わりました。日本現代音楽協会名誉会員、日本フォーレ協会・日本セヴラック協会会員、OTOの会顧問なども務めています。

舘野泉のために複数のピアノ作品を献呈したことでも知られています。

 

· Song of the Earth / Voice of the Wind for piano(left hand) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:土の歌・風の声 ピアノ(左手)のために

 

作曲年:2005~2006年
初演:2006年4月、舘野泉による初演
演奏時間:全曲合計 約15分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:舘野泉

 

構成(中断なく演奏される全4部)

1. 巡礼の歌 約4分30秒
2. 途切れがちな風 約50秒
3. 恐怖の記憶 約2分
4. 野を渉る鐘 約7分10秒

 

※上記4部の仮題は、舘野泉による初演(2006年4月)のプログラムノートに作曲者自身が付記したものであり、出版譜そのものには記載されていません。

 

作品の背景

本作の構想は、フランスの作曲家セヴラックの生地であるラングドック地方の風土や歴史に思いを馳せることと重なって生まれました。日本セヴラック協会の例会で旧友と久々に再会し、ピレネーを望むひまわりと麦、葡萄の広がる土地――かつて巡礼者たちが行き交い、アルビジョワ十字軍による惨劇も刻まれた土地――について語り合ったことが、新曲への最初の着想になったといいます。もっとも、作曲者自身が述べるように、曲はこうした歴史や土地の情景をそのまま描写するものではなく、聴く人それぞれが音の向こうに、土の上を過ぎていった大きな時の流れに思いを馳せる契機となることを願って書かれています。

楽譜中のメトロノーム数値はあくまで示唆に留まり、各部相互の数字の差や比率を目安にしつつ、演奏者自身の判断に委ねる旨が記されています。

 

音楽的な特徴

使われている音の数自体は多くなくシンプルですが、随所で4段譜にわたって書かれるなど、多層的・立体的な響きを持つ作品です。終曲「野を渉る鐘」は、余韻を残しながら次第に遠ざかっていくように曲を閉じ、静かな独白のような響きの中に消えていきます。

 

· plein d’enfants – 6 préludes brèves pour piano m.g. [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:いっぱいのこどもたち 左手のためのピアノ小前奏曲集

 

作曲年:2008年
演奏時間:全曲合計 約15分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:舘野泉
楽譜:いっぱいのこどもたち 左手のためのピアノ小前奏曲集(Amazon.co.jp)

 

構成(全6曲)

1. 雪とけて(La neige fondant…) 約2分10秒
2. 学校へ(en route pour l’école) 約2分10秒
3. えかき歌(dessiner en chantant) 約2分20秒
4. 遅くなった帰り(Il est tard, rentrer vite…) 約2分30秒
5. 一輪車(monocycle) 約2分20秒
6. 太郎を眠らせ…(berceuse) 約3分20秒

 

作品の背景

本作は、「子どもたち」をテーマとする作品です。表題は、小林一茶の句「雪とけて村いっぱいの子ども哉」(『新訂一茶俳句集』岩波文庫)にちなんで名付けられました。長らく作曲者の心のうちにあった子どもたちへの思いを出発点に、6曲それぞれで子ども特有の身のこなしを追いかける試みがなされています。

 

音楽的な特徴

無調の語法で書かれた作品ですが、全編を通じて拍子やテンポの変化が頻繁であり、これは子どもたちの落ち着きのない、瞬間ごとに移り変わる動きや感情を音楽的に描こうとした結果と考えられます。この絶え間ないリズムの変化のおかげで、無調音楽に馴染みのない聴き手でも、その面白さを通して興味深く聴くことができるでしょう。

 

‣ Takács, Jenő(1902-2005) タカーチュ

 

イェネー・タカーチュ(1902年チンファルヴァ、現在のジークェンドルフ生まれ、2005年アイゼンシュタット没)はハンガリー系オーストリアの作曲家・ピアニスト・民族音楽研究者です。ウィーン音楽院でヨーゼフ・マルクスに作曲を、ハンス・ガールに対位法を師事しました。カイロ音楽院やフィリピン大学、シンシナティ大学音楽院などで教壇に立ち、バルトークとも親交がありました。103歳まで生き、100歳の誕生日には世界各地で約200のコンサートが開かれました。

 

※タカーチュは、「タカーチェク」「タカークス」という表記が用いられることもあります。

 

· Toccata und Fuge für die linke Hand, Op.56 [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:左手のためのトッカータとフーガ Op.56

 

作曲年:1950年
演奏時間:全曲合計 約7分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Peter Girardoni
楽譜:Toccata und Fuge für die linke Hand, Op.56(Rakuten.co.jp)

 

J.S.バッハの「半音階的幻想曲とフーガ」を意識した構成を持ちながら、書法は現代的で独自の音楽語法が貫かれています。作品が生まれたきっかけは、「左手だけで演奏することは本当に可能か」という友人からの問いかけで、タカーチュはその答えとして本作を書き上げました。完成後にヴィトゲンシュタインへ送ったところ、「現代的すぎる」と返却されたというエピソードも残っています。

 

トッカータ

メトロノーム記号を伴わない「Rapid」の指示のもと、即興的な音遣いで始まります。その後♩= 66で音楽が落ち着きを見せますが、再び拍節感の薄い即興的な箇所に戻り、大まかな区切りだけが小節線で示される場面も現れます。全体を通じて幻想的で流動的な性格が貫かれています。

 

フーガ

無調で始まりますが、進むにつれて音楽は次第に分かりやすくなっていきます。そして最終小節で、なんとC-durの主和音(ド・ミ・ソ)で締めくくられるという、意表をついた結末を迎えます。

トッカータの最終小節とフーガの最後から2番目の小節で共通したハーモニーが出てきますが:

・トッカータでは、その神秘的な響きが未解決のままフーガに入る
・フーガでは、その響きがC-durの主和音(ド・ミ・ソ)に解決し完結する

このように両曲の関連性が示され、最終的な意味づけまでされています。無調から調性へ向かうこの流れが、この曲の大きな聴きどころの一つと言えるでしょう。

 

‣ Takahashi, Yuji(1938- ) 高橋悠治

 

高橋悠治(1938年東京生まれ)は日本の作曲家、ピアニストです。クセナキスに師事した経歴があります。作曲家としてだけでなく卓越したピアニストとしても知られ、現代音楽の演奏・創作活動を中心に展開してきました。

 

· Three Poems of Mao Tse-tung [RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:毛沢東詞三首

 

出版年:1976年(楽譜表記) ※作曲者ホームページ上では「1975」と表記
演奏時間:
  第1曲 Tapoti 大拍地 約5分50秒
  第2曲 Ode to the Plum Tree 詠梅 約4分20秒
  第3曲 Reply to Comrade Kuo Mo-Jo 和郭沫若同志 約2分
 全曲合計 約12分10秒
分類:オリジナル作品(連作)
テキスト:毛沢東の詩(中国語・日本語・英語で楽譜に併記)

 

毛沢東の詩3篇にもとづく連作で、各曲の後には日本語・英語・中国語で対応する詩文が記されています。第1曲・第2曲は右手(一手)で演奏できるよう書かれているのに対し、第3曲は部分的に両手を必要とする書法になっており、3曲の性格には違いが見られます。楽譜には小節線・拍子記号がいずれも用いられていません。

強奏と弱奏が入れ替わりながら現れる書法が全曲を通じての大きな特徴であり、強弱の変化に留まらず、音楽における遠近感・空間性の表現としても機能しています。

なお、作曲者自身のホームページ上で楽譜が公開されています。

 

‣ Takano, Yuya  タカノユウヤ

· J.S. Bach: Partita No.2, BWV1004 (Complete) – Arranged for the left hand alone [LH]

 

邦題:J.S.バッハ《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 BWV1004》(シャコンヌを除く4曲)左手独奏用編曲

※シャコンヌはバッハ=ブラームス版の使用を想定

 

作品データ:

・編曲者:タカノユウヤ(本Webメディア運営者)
・編曲時期:2019年
・演奏時間:約17分
・難易度:ツェルニー50番入門以降程度

 

編曲の意義:

1. レパートリーの拡充
・左手独奏版として初めての試み
・ブラームスによるシャコンヌ編曲と併せて全曲演奏が可能に

2. 演奏技法・編曲技法への取り組み
・ブラームス版の編曲技法を詳細に分析し、その書法をもとに残り4曲を編曲
・5本の指による演奏の可能性を追求
・チャレンジングかつ演奏効果の高い編曲を実現

3. 作曲家・編曲家としての視点
・演奏家の挑戦意欲に応える作品作り
・技術的課題と音楽的表現の融合を目指した編曲

 

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One-Hand Piano Editions(ECサイトへリンク)

 

· Elgar: Salut d’amour for the left hand alone Op.12 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、曲頭)

エルガー「愛のあいさつ 〜左手独奏のための〜」楽譜 冒頭部分。

邦題:愛のあいさつ 〜左手独奏のための〜 作曲:エルガー

 

作品データ:

・編曲者:タカノユウヤ(本Webメディア運営者)
・2017年度 月刊ピアノ×ピティナ編曲オーディション 上級部門 第1位 受賞作品
・編曲時期:2017年2月
・演奏時間:約3分
・難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度から挑戦可能
・ピティナ・ピアノ曲事典

 

楽譜の入手方法

本作品の楽譜は以下の方法で入手できます:

・ぷりんと楽譜で購入可能(» 愛のあいさつ〜左手独奏のための〜)
・「月刊ピアノ 2017年10月号」バックナンバー
・ミュッセ

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】「愛のあいさつ 〜左手独奏のための〜」編曲者による演奏解説

 

· Famous Melodies Arranged for the left hand alone [LH]

 

編曲・演奏:タカノユウヤ
形態:民謡・讃美歌・クラシック小品などの左手独奏編曲(随時追加予定)

 

収録曲

曲名 原曲 ジャンル 演奏時間 楽譜
ケンタッキーの我が家 My Old Kentucky Home(S.フォスター) アメリカ民謡 2:31
めぐり逢い Comme au premier jour(アンドレ・ギャニオン) ヒーリング / イージーリスニング 2:48
雨の日と月曜日は Rainy Days And Mondays(カーペンターズ) 洋楽ポップス 2:20
Greatest Love Of All ホイットニー・ヒューストン / ジョージ・ベンソン 洋楽ポップス 2:58
Viva La Vida コールドプレイ / ガイ・ベリーマン、ジョニー・バックランド、ウィル・チャンピオン、クリス・マーティン 洋楽ポップス 2:56
We’re All Alone ボズ・スキャッグス / リタ・クーリッジ 洋楽ポップス 3:21
蛍の光 Auld Lang Syne(スコットランド民謡) トラディショナル 2:08
愛のあいさつ Salut d’Amour(エルガー) クラシック 3:05 ◯
献呈 Widmung(シューマン) クラシック 2:25
アメイジング・グレイス 讃美歌 トラディショナル 2:57 ◯
ダニー・ボーイ アイルランド民謡 トラディショナル 2:34 ◯
雪の華 中島美嘉(作曲:松本良喜) J-POP 3:48
粉雪 レミオロメン(作曲:藤巻亮太) J-POP 3:44
白い恋人達 桑田佳祐 J-POP 3:12
ハナミズキ 一青窈(作曲:マシコタツロウ) J-POP 5:18

 

解説

広く親しまれてきた名曲を、左手独奏用に編曲したシリーズ。クラシックの小品から讃美歌、各地の民謡まで幅広く選ばれています。懐かしいメロディが左手だけの演奏でどのように響くかを楽しめる内容となっており、今後も曲数が随時追加される予定です。

 

詳細・音源は以下の記事をご覧ください。

左手独奏で楽しむ名曲ピアノアレンジ集

 

‣ Tanner, Hilda Hulbert  ヒルダ・ハルバート・タナー

 

ヒルダ・ハルバート・タナーについては、生没年を含む詳しい経歴は確認できませんでした。

 

· Shadow Waltz(for left hand alone) [LH]

 

※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:シャドウ・ワルツ(左手のための)

 

出版:1982年、Alfred Music(The Myklas Solo Series)
演奏時間:約1分
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Kathryn Hulbert Hall
楽譜:Shadow Waltz (for left hand alone)(alfred.com)

 

C-durで始まり、跳躍や臨時記号を交えながらさまざまな和声を経たのち、最後にはC-durの主和音へと戻ってくる構成の作品です。8分音符と4分音符を中心とした流れるようなパッセージによって、印象的なワルツを奏でていきます。

 

‣ Tappert, Wilhelm(1830-1907) ヴィルヘルム・タッペルト

 

ヴィルヘルム・タッペルトは1830年2月19日、シュレジエン地方オーバー・トーマスヴァルダウの生まれ。1907年10月27日にベルリンで没しています。もともとは教職に就いていましたが、1856年に音楽の道へと転じ、デーンおよびアードルフ・クラクのもとで研鑽を積みました。

1858年からはグロガウで批評家・教師として活動を開始し、1866年にベルリンへ移ってからは音楽教師・著述家として広く名を知られる存在になりました。とりわけリヒャルト・ワーグナーへの傾倒は篤く、熱心なヴァグネリアンとしても知られています。

 

· 50 Exercises for the Left Hand [LH]

 

邦題:左手のための50の練習曲

 

出版年:1892年
演奏時間:番号による
分類:オリジナル作品(独奏)

 

作品の背景

本作は単声の音型練習から出発し、巻を追うごとに次第に規模を増して本格的な演奏会用エチュードへと発展していく構成を持つ左手専用の練習曲集です。全体としては短めの小品が中心で、単音や複音の扱い、低音のメロディ、アルペッジョ練習、オクターヴの練習などが盛り込まれています。

レイモンド・レヴェンタール編纂の曲集「Piano Music for One Hand:A COLLECTION OF STUDIES, EXERCISES AND PIECES」には、本作から第22番と第45番の2曲が抜粋・収録され、親しまれてきました(同曲集内の表記では「48 Exercises for the Left Hand」となっており、原典の巻数表記との間に相違あり)。

 

No.22(Exercise)

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

タッペルト「左手のための50の練習曲 より No.22(Exercise)」1-4小節

作曲年:不明
演奏時間:約50秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度

低音域に置かれた旋律線と、その上で動く伴奏音型との弾き分けを課題とした練習曲。手のポジション移動が頻繁に発生し、和音の形を先取りして準備する感覚を養う内容になっています。

 

No.45(Exercise)

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

タッペルト「左手のための50の練習曲 より No.45(Exercise)」1-4小節

作曲年:不明
演奏時間:約1分
難易度:ツェルニー30番中盤程度

形や音域幅の異なる様々なアルペッジョを展開していく練習曲。実質的には運指トレーニングも兼ねた内容です。譜面中には作曲者自身による運指上の注記が記されています。

 

‣ Taubert, Carl Gottfried Wilhelm(1811-1891) ヴィルヘルム・タウベルト

 

ヴィルヘルム・タウベルトは、生涯のほとんどをベルリンで過ごした指揮者・作曲家・ピアニストです。ピアノをルートヴィヒ・ベルガーに、作曲をベルンハルト・クラインに学び、1831年にベルリン宮廷演奏会の副指揮者として活動を始めました。1845年から69年にかけて宮廷楽長を務め、1865年以降はプロイセン芸術アカデミーでも教えています。幅広いジャンルにわたる作品を残しました。

 

· Canzonetta(12 Etudes de concert pour le Piano-Forte, Op.40-2) [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

タウベルト「カンツォネッタ(ピアノのための12の演奏会用エチュード Op.40 第2曲)」1-3小節

邦題:カンツォネッタ(ピアノのための12の演奏会用エチュード Op.40 第2曲)
出版年:1850年代頃
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

この曲は、全12曲・2巻からなる「演奏会用エチュード集 Op.40」の第2曲にあたります。

タイトル通り、起伏に富んだ、演奏会にふさわしい性格を持つ作品と言えるでしょう。12小節間にわたる華やかなAllegro briosoの序奏に続き、Andantinoに移ってカンタービレな旋律が歌われます。この旋律の登場以降は、音の数自体は多いものの、曲の最後まで一貫して弱奏が保たれます。

 

‣ Tautenhahn, Gunther(1938- ) ギュンター・タウテンハーン

 

ギュンター・タウテンハーンは、リトアニアのカウナス生まれの作曲家です。ニューヨークとウィーンで作曲を学び、1967年にカリフォルニアへ移りました。作品は、室内楽団や管弦楽団によって各国で演奏・放送されており、ASCAP(米国作曲家・著作家・出版者協会)のスタンダード賞を6回受けています。

 

· Bagatelle: for right hand piano #1 [RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:バガテル 第1番(右手のための)

 

作曲年:1975年7月
出版年:1976年頃(全2ページ)
演奏時間:約1分15秒
難易度:ツェルニー30番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

大きく3部分にコーダが付く構成。Moderato cantabile のワルツ風の部分、più mosso con spirito の2/4拍子の部分、そのあとにワルツ風の部分が戻ってきます。非常に薄い書法が特徴的です。

 

‣ Teichmann, Fritz  フリッツ・タイヒマン

 

フリッツ・タイヒマンは、20世紀初頭に活動した、ドイツ語圏の音楽家と考えられます。

 

· Lyrische Stücke für die rechte oder linke Hand allein [LH/RH]

 

※編曲者(Fritz Teichmann)の生没年が不詳であり、著作権保護期間(PD)の確定が困難なため、安全を考慮して譜例の掲載は控えております。

邦題:グリーグの旋律による、右手または左手のための抒情小曲集

 

原曲:Grieg, Edvard /「抒情小曲集」各巻より
編曲:Teichmann, Fritz(右手・左手いずれでも演奏可能な編曲)
出版年:1911年頃
演奏時間:番号による
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)
楽譜:ペータース版は、欧州の古書市場などで稀に出回ることがある

 

作品の背景

本作は、グリーグの「抒情小曲集」各巻から選ばれた楽曲を中心に、全12曲を一つにまとめた曲集です。原曲の多くはOp.12、Op.38、Op.43、Op.57、Op.65、Op.68といった複数の巻にまたがって選ばれており、いずれも右手のみ、あるいは左手のみで演奏できるよう書き改められています。

「Solvejgs Lied(ソルヴェイグの歌)」と「Solvejgs Wiegenlied(ソルヴェイグの子守歌)」が加えられているのが、構成上の特徴と言えるでしょう。

 

収録曲

1. Vals(ワルツ) Op.12-2
2. Vægtersang(夜警の歌)〜Intermezzo Op.12-3
3. Folkevise(民謡) Op.12-5
4. Fædrelandssang(祖国の歌) Op.12-8
5. Vuggevise(子守歌) Op.38-1
6. Ensom vandrer(孤独なさすらい人) Op.43-2
7. Gade(ガーデ) Op.57-2
8. Illusion(幻影) Op.57-3
9. Salon(サロン) Op.65-4
10. Bestemors menuett(おばあさんのメヌエット) Op.68-2
11. Solvejgs Lied(ソルヴェイグの歌)
12. Solvejgs Wiegenlied(ソルヴェイグの子守歌)

 

‣ Terzibaschitsch, Anne(1955- ) アンネ・テルツィバシッチュ

 

アンネ・テルツィバシッチュは、1955年8月5日、ドイツのエッセン生まれのピアニスト・ピアノ教師・作曲家です。5歳でピアノを始め、10歳でヴァイオリン、12歳でチェロを習いました。1975年から83年までカールスルーエ音楽大学でピアノを学び、その後は、ピアニストとして、またピアノの指導者として、長く独立して活動しています。教育の現場から生まれた作品や編曲が多く、そのほとんどがミュージックフェアラーク・ホルツシュー社(Musikverlag Holzschuh)から出版されています。

 

· Klaviermusik für eine Hand allein / Pianomusic for one hand alone

 

邦題:片手だけのためのピアノ音楽
出版:2003年(楽譜の著作権表示による)、Manching:Musikverlag Holzschuh(出版者番号 VHR 3544)
演奏時間:1曲あたり1ページ程度の短い曲が中心
難易度:ブルグミュラー25の練習曲修了程度〜ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Klaviermusik für eine Hand allein(Amazon.co.jp)

 

書名どおり、片手だけで弾く曲を集めた曲集。序文(Vorwort)と、巻末の付録(Anhang)が付いています。

1曲あたり1ページ程度の短い作品を中心にまとめられており、性格小品、変奏曲、練習曲、移調練習など、さまざまな種類の曲が収められています。

 

‣ Thompson, John(1889-1963) ジョン・トンプソン

 

ジョン・S・トンプソン(1889年、ペンシルベニア州ウィリアムズタウン生まれ、1963年没)。若い頃はアメリカ・ヨーロッパ各地で演奏活動を行いましたが、後に教育者へと転身し、フィラデルフィア、インディアナポリス、カンザスシティの音楽院でピアノ科を主導しました。「Teaching Little Fingers to Play」や「Modern Course for the Piano」シリーズはピアノ教則本の定番として世界的に広く使われ続けています。

 

· For Left Hand Alone [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

出版:THE WILLIS MUSIC COMPANY
難易度:
 Book One=バイエル後半程度
 Book Two=ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:小品集(アンソロジー)

 

収録内容

Book One(1959年、全11曲):シュトラウス、ベートーヴェン、グリーグといったクラシック編曲に加え、オリジナル小品を含む構成。

Book Two(1962年、全9曲):C.P.E.バッハの編曲に加え、オリジナル小品などを収録。

 

特徴と編纂の意図

各曲は1〜2ページ程度の短い分量にまとめられ、冒頭には簡潔な解説文が添えられています。運指・ペダリングも書き込まれており、独習・指導いずれの場面でも使いやすい体裁になっている点が特徴と言えるでしょう。

序文からは、片手奏法を単なる余興としてではなく、正確さ・器用さ・運指感覚を養う教育的な手段として位置づけている姿勢がうかがえます。

 

このアンソロジーについてさらに詳しく知る

【ピアノ】ジョン・トンプソン「FOR LEFT HAND ALONE」シリーズ 完全ガイド

 

· Nocturne for Left Hand Alone [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:左手のためのノクターン

 

作曲年:不明
出版年:1940年頃
演奏時間:約2分30秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

日本でも広く使われている「トンプソン 現代ピアノ教本 第4巻」に収録されたオリジナル左手独奏曲です。同巻ではショパン「プレリュード Op.28-6」とシューマン「トロイメライ」に挟まれる位置に置かれており、難易度の目安として参考になります。運指とペダリングの指示が付されているため、学習しやすい構成と言えるでしょう。

曲は「ABA+短いエンディング」の三部構造です。AセクションはAndante cantabile、Es-durによる穏やかな曲想。Bセクションは平行調のc-mollに転じ、Più mosso・con animaの指示とともに場面が切り替わります。最後の和音はEs-durの主和音ですが、アルペジオの中にC音が含まれており、ペダルで響きが重なることで六の和音の色合いが生まれる、洒落た締めくくりになっています。

 

‣ Tingley, George Peter(1950- ) ジョージ・ピーター・ティングリー

 

ジョージ・ピーター・ティングリーは、1950年、アメリカ・カリフォルニア州オークランド生まれの作曲家・ピアニスト・教育者です。カリフォルニア州立大学ヘイワード校でピアノ演奏の学士号を、南カリフォルニア大学で音楽理論の学士・修士号を取得したのち、パリでナディア・ブーランジェに個人的に作曲を師事しています。帰国後はカリフォルニア州ポイント・リッチモンドを拠点にピアノ指導にあたりながら、教育用ピアノ曲の出版活動を開始し、多くの作品を発表しました。

 

· Scherzino(for left hand alone) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:スケルツィーノ(左手のための)

 

出版:1999年、Alfred Music(Signature Series)
演奏時間:約40秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Scherzino (for left hand alone)(alfred.com)

 

分散和音とスケールを組み合わせたシンプルな書法による、速いテンポのスケルツォ。跳躍を随所に交えながら進み、アクセント、スタッカート、スラーなどの指示によってメロディの各所に表情の違いが与えられており、短いながらも起伏に富んだ性格を持つ小品です。

 

‣ Tisné, Antoine(1932-1998) アントワーヌ・ティスネ

 

アントワーヌ・ティスネは1932年ルルド生まれ、1998年に没したフランスの作曲家です。タルブ音楽院で学んだのち、1952年にパリ音楽院の作曲科に入学し、ジョルジュ・ユゴンに和声を、ノエル・ガロンとジャン・リヴィエにフーガと対位法を師事、その後ミヨーやジョリヴェにも学びました。1962年にはローマ大賞の第2位を受賞しています。文化省の首席音楽視学官を1967年から1992年まで務めたのち、パリ市の音楽院群を統括する音楽視学官に任命されました。

独奏曲から管弦楽曲まで、生涯に300曲を超える作品を残しており、国家功労賞オフィシエ、芸術文化勲章コマンドゥールなど、フランスの文化勲章も複数受章しています。

科学的発見への関心と瞑想的な思索とが結びついた、渦を巻くような音の動きや色彩的な煌めきを特徴とする作風で知られています。

 

· Lac(for Piano Left Hand) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:湖(左手のための)

 

作曲年:不明
演奏時間:約11分
分類:オリジナル作品(独奏)

 

本作は、ダヴィッド・ニーマンによる詩に基づいて書かれた作品で、原詩に込められた象徴性を音楽的に写し取るように作曲されています。

世界各地への旅で得た印象を音楽に昇華させてきたというティスネ。この作品も、自然への深い観照と、芸術・詩への愛情から生まれる着想の豊かさが感じられる一作です。

「Ravel; Chopin; Saint-Saëns: An anthology for the left hand / Raoul Sosa」などに収録されています。

 

‣ Tomášek, Jaroslav(1896-1970) ヤロスラフ・トマーシェク

 

ヤロスラフ・トマーシェクは、チェコの作曲家・音楽学者で、プラハ・カレル大学で音楽学と美学を修めるかたわら、ヴィーチェスラフ・ノヴァークに作曲を、ヤロスラフ・クシチカに管弦楽法を師事しました。作風は小規模編成の作品を中心としています。

 

· Sonáta pro klavír, Op.7 [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:ピアノソナタ Op.7(左手のための)

 

作曲年:1925年
演奏時間:約20分(オタカール・ホルマンによる演奏記録に基づく)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:オタカール・ホルマン

 

構成(全2楽章)

第1楽章 Maestoso lugubre 約7分10秒
第2楽章 Allegro appassionato 約12分30秒

 

作品の背景

右手を負傷し左手のピアニストへと転向したオタカール・ホルマンのために書かれた作品ですが、同時にホルマンの最初の妻を追悼する意味も込められていたとされています。第1楽章の重々しく悲痛な性格から始まり、終楽章の最後は長和音の強打によって閉じられ、喪失の先に光を見出すかのような構成になっています。技巧・体力の両面で演奏者に大きな負担を強いる、規模の大きな左手作品です。

 

オタカール・ホルマンについてさらに詳しく知る

【ピアノ】左手音楽から読み解くオタカール・ホルマン

 

‣ Unger, Hermann(1886-1958) ヘルマン・ウンガー

 

ヘルマン・ウンガーは、ドイツの作曲家・文献学者・音楽著述家です。1886年10月26日にカーメンツ(ザクセン)で生まれ、1958年12月31日に、ケルンで亡くなりました。フライブルク、ライプツィヒ、ミュンヘンで、ドイツ文学、考古学、音楽学、古典文献学を学び、1910年にミュンヘンで博士号を取りました。ミュンヘンで、エドガー・イステル(Edgar Istel)とヨーゼフ・ハース(Joseph Haas)に作曲を学び、1911年には、ハースの紹介で、マックス・レーガー(Max Reger)のもとを訪れています。1913年にケルンに移り、音楽・演劇新聞の編集者を務めました。第一次世界大戦後は、ケルン市立図書館の館長や、ケルン大学の講師を務め、1927年からは、ライン音楽学校(Rheinische Musikschule)の教授、1935年には、同校の校長に任命されています。

 

· Romanze(Violine und Klavier zu 1 Hand) [LH/RH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

ウンガー「ロマンス(ヴァイオリンと片手ピアノのための)」1-5小節

邦題:ロマンス(ヴァイオリンと片手ピアノのための)

 

作曲年:不明
出版:1955年、Edition Tonger(Walter Georgii 編《Einhändig》第2巻)
編成:ヴァイオリン+片手ピアノ
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー40番修了程度(片手ピアノのパート)
分類:オリジナル作品(室内楽)
楽譜:Einhändig Band II, 3. Teil, 4. Teil, 5. Teil Partitur+1Stimme(noten-roehr.de)

 

片手ピアノのパートは、書法の計画が明確です。

・1-11小節:3度音程の連続だけで進む
・12-19小節:6度音程の連続に、バスのG音のオルゲルプンクト(保続音)が加わるだけで進む
・20小節目から:3度と6度が組み合わされ、28小節目あたりから、分厚い和音になっていく
・41小節目あたりから:少しずつ落ち着いてきて、最後は、6度音程の和音で締めくくる

ピアノは、ヴァイオリンの伴奏に回っているわけではなく、お互いに主張し合いながらも、支え合いながら進んでいきます。和声は伝統的なロマン派に属すもので、半音階的な部分が複数見られます。

 

‣ Vandall, Robert D.(1944-2017) ロバート・D・ヴァンドール

 

ロバート・D・ヴァンドールは、アメリカ・オハイオ州出身のピアニスト・作曲家・教育者です。ボールドウィン=ウォーレス大学で音楽の学位を取得し、オハイオ州ニューフィラデルフィアで妻カレンとともに自身のピアノ教室を営みながら、教育用ピアノ作品の作曲家として非常に多くの作品を残しました。

 

· Left’s Turn Only(for left hand alone) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:レフツ・ターン・オンリー(左手のための)

 

出版:1981年、Alfred Music(The Myklas Solo Series)
演奏時間:約1分30秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Left’s Turn Only(for left hand alone)- Piano Solo(alfred.com)

 

ブルース風の作風を持つ作品で、ブルーノートなどブルースらしい響きが随所に表現されています。運指やペダリングまで細かく指示された学習向けの楽曲ですが、初級レベルの曲としてはアクセントやスタッカートなどの記号が比較的丁寧に書き込まれている印象があります。そうした指示を丁寧に表現することで、よりブルースらしい雰囲気に近づけることができるでしょう。

 

· Journey(for the right hand alone) [RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:ジャーニー(右手のための)

 

出版:2013年、Alfred Music(Signature Series)
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:イングリッド・ジェイコブソン・クラーフィールドへ(with admiration)
楽譜:Journey (for right hand alone)(Amazon.co.jp)

 

音遣い的にピアノという楽器がよく鳴り響くように書かれた作品。鍵盤の広い音域を用い、和音を主体に聴かせる箇所と、16分音符による細かいパッセージの箇所とが交互に現れ、随所に大きな跳躍も加わることで、聴きごたえのある構成になっています。曲の最後は、第9音を加えた主調の主和音によって、力強く締めくくられます。

 

‣ Vaughan Williams, Ralph(1872-1958) ヴォーン・ウィリアムズ

 

ラルフ・ヴォーン・ウィリアムズはイギリスを代表する作曲家の一人です。イギリス民謡や教会旋法を取り入れた独自の語法により、幅広いジャンルで数多くの作品を残しました。

 

· Concerto for Two Pianos and Orchestra [RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:2台のピアノのための協奏曲

 

原曲:ピアノ協奏曲 ハ長調(1926〜1931年作曲、ハリエット・コーエンに献呈、1933年に初演)
2台ピアノ版への改作:ジョゼフ・クーパーの協力のもと編曲
初演(2台ピアノ版):1946年、シリル・スミスとフィリス・セリックにより
2台ピアノ・3手版の編曲:ジョン・オドム(John Odom)とされている
演奏時間:約26分
分類:編曲作品(2台ピアノ+管弦楽)

 

作品の背景

本作はもともと、ハリエット・コーエンのために書かれた「ピアノ協奏曲 ハ長調」として構想されましたが、演奏の難度があまりに高いとの評もあり、後にジョゼフ・クーパーの協力を得て2台ピアノのための協奏曲へと改められました。1946年にスミスとセリック自身によって初演されて以来、この作品は夫妻にとって特別な意味を持つレパートリーとなり、シリル・スミスの発病より10年ほど前から、二人と縁の深い作品として大切にされてきました。

 

「3手」版への編曲

1956年、スミスは血栓症を発症し、左腕が麻痺してしまいます。発病後、夫妻は「3手」のための作品によって演奏活動を継続しましたが、ヴォーン・ウィリアムズはすでに1958年に世を去っていたため、本作の新たな2台ピアノ・3手版の編曲は、作曲者本人ではなく別の編曲者に依頼されることとなりました。1974年6月に放送されたBBC番組「Face the Music」の中で、夫妻自身がこの新しい編曲について語っており、編曲者としてジョン・オドム(John Odom)の名前を挙げています。番組ではまた、それ以前に2台ピアノ版をすでに演奏していたこと、そして「この夏」に3手版として新たに取り組む予定であることも語られました。

 

エピソード

新しい3手版の楽譜が郵送で届いたのは1974年8月1日のことでした。奇しくもこれは、シリル・スミスが世を去る前日にあたります。スミスがセリックにかけた最後の言葉は「明日からこれに取り組もう」だったと伝えられています。

 

シリル・スミスについて詳しく知る

【ピアノ】片手音楽から読み解くシリル・スミス:左腕の自由を失ったピアニストが拓いた「3手」の音楽

 

‣ Vella, August  オーガスト・ヴェラ

 

オーガスト・ヴェラ(生没年不明)は、ジョセフ・リカルディとの共著で、片手のためのピアノ教則本「Elementary Piano for One Hand」(1981年、Boston Music Company)を手がけた人物です。作品の詳細については、共著者リカルディの項目(左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 P-R)をご覧ください。

 

‣ Vilanova, Ranieri(1827-1881) ラニエリ・ヴィラノーヴァ

 

ラニエリ・ヴィラノーヴァは、19世紀のピアニスト・作曲家・音楽教師で、ニューヨークで活動しました。1827年に生まれ、1881年に亡くなりました。1860年代から1870年代にかけて、ニューヨークで、上流階級の子女に、ピアノを教える教師として名声を築き、自宅で、弟子たちとともに、サロン形式の演奏会(Soirée Musicale)を開いています。自作のノクターンや、オペラの編曲などを演奏し、歌曲やピアノ曲、編曲を、作品として残しました。

 

· Romanza nell’opera “Mignon” del Maestro Amb. Thomas, ridotta per la mano sinistra da Ranieri Vilanova [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

ヴィラノーヴァ編曲「歌劇《ミニョン》のロマンツァ」1-3小節

邦題:歌劇「ミニョン」のロマンツァ

 

原曲:Thomas, Ambroise / 歌劇「ミニョン」より
編曲:Vilanova, Ranieri(左手用編曲)
出版年:1877年
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)

 

原曲の作曲者アンブロワーズ・トマ(1811年生、1896年没)はフランスのオペラ作曲家で、1856年からパリ音楽院の作曲科教授、1871年からは院長を務めました。1866年に初演された「ミニョン」はオペラ・コミック座で1000回もの上演を重ね、オペラ史上でも成功を収めた作品の一つとして知られています。

この左手編曲は、オクターヴ、アルペジオ、トレモロ、連続する和音などを多用し、原曲の旋律を華やかに彩ったパラフレーズです。Andantinoに転じる直後の部分では、両手で演奏するかのように、小節の頭で旋律と音域の離れたバスとを同時に記譜している箇所が頻出しており、左手のみで演奏するための編曲としては、必ずしも弾きやすい書法とは言い難い面があります。もっとも、それ以外の部分については、音数こそ多いものの実際には無理なく演奏できるよう書かれており、聴感上の効果は十分に上がる作りと言えるでしょう。

 

‣ Vilinsky, Mykola(1888-1956) ミコラ・ヴィリンスキー

 

ミコラ・ヴィリンスキーは、1888年、現ウクライナ・ムィコラーイウ州ホルタ生まれの作曲家です。オデーサ音楽院でヴィトルド・マリシェフスキに作曲を師事し、1920年から同院で教鞭をとって1926年に教授へ昇任しました。第二次世界大戦中はタシケント音楽院、1944年以降は没するまでキーウ音楽院で教え、エミール・ギレリスやダヴィッド・オイストラフら多くの名演奏家・作曲家を育てています。ウクライナ民謡の要素を取り入れた作風でも知られています。1953年にレーニン勲章を受章し、1956年にキーウで没しました。

 

· Prelude for the Left Hand Op.3 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

ヴィリンスキー「左手のための前奏曲 Op.3」1-3小節

邦題:左手のための前奏曲 Op.3

 

作曲年:1914年
出版年:1961年(没後出版)
演奏時間:約2分10秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

どこか孤独感と陰鬱さを漂わせた曲想を持つ作品で、ヴォイシングにはラヴェルを思わせるような響きも感じられます。3連符による伴奏形が絶え間なく続き、中間部以降はその音型に多少の変化が加えられるものの、3連符というリズムの特徴自体は最後まで維持されます。

音程の広い和音を続けて弾く場面が多いため、ある程度の手の大きさも求められるでしょう。

 

‣ Viner, Frederick(1994- ) フレデリック・ヴァイナー

 

フレデリック・ヴァイナーは、1994年、イギリスのタンブリッジ・ウェルズ生まれの作曲家・ピアニストです。ヨーク大学で学士号(2016年)、オックスフォード大学で修士号(2017年)を取得し、2023年にヨーク大学で博士号を取得しました。イートン・カレッジの作曲家レジデンスを2年間務め、ヨーク大学やハル大学などでも教えています。2016年には、管弦楽曲「Sleeping Gomatz」で、ゲイツヘッドのセージ主催の作曲コンクール「Mozart’s of Tomorrow」で第1位を獲得しました。

 

ワンハンド作品(作曲家自身のウェブサイトで公開)

作曲家自身のウェブサイトの作品一覧には、ワンハンド作品が複数曲載っています。いずれも短い作品が中心で、楽譜は販売されており、一部は音源も公開されています。

作品ごとの手の指定、制作年、演奏時間、楽譜の入手先、音源は、作曲家のウェブサイトの作品一覧で確認してください。

 

関連リンク

作品一覧(楽譜・音源):
https://frederickviner.com/list-of-works/

作曲家の経歴(作曲家自身のウェブサイト):
https://frederickviner.com/about/

 

‣ Vinogradoff, Paul(1888-1974) ポール・ヴィノグラドフ

 

ポール・ヴィノグラドフ(1888年、現ポーランド領ヘウム生まれ、1974年没)はロシア帝国出身のピアニスト・作曲家・教育者です。8歳でパリ音楽院に入学後、スクリャービンの推薦でモスクワ音楽院に進み、イグームノフにピアノを、タネーエフに作曲を師事しました。1918年に来日、ジャワやオーストラリアでの活動を経て再来日後は日本に永住し、後進を育てました。イグームノフを通じたロシアピアニズムの伝統を日本に伝えた先駆的な存在として知られています。

 

· Kōjō no Tsuki(Moon over the Ruined Castle)(arr. Vinogradoff, for left hand) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:荒城の月(左手のための)

 

原曲作曲者:瀧廉太郎(1879–1903)
収録:ピアノ名曲集 [1](共同音楽出版社、1969年)
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)

 

原曲の旋律や伴奏を忠実に再現するタイプの編曲ではなく、創作的な意図が前面に出た一作です。冒頭から相当の長さにわたって幻想的な分散和音が続き、旋律はその後に姿を現します。この部分は、ジチーが左手用編曲したリスト「愛の夢 第3番」の創作的序奏を思い出すことでしょう。原曲の伴奏音型への意識は薄く、ヴィノグラドフ独自の音楽的世界が展開されます。

 

‣ Vleminckx, Walter(1944-2024) ワルター・フレミンクス

 

ワルター・フレミンクスは、ベルギーのピアニスト・ピアノ教師です。1944年にアントワープで生まれ、7歳でピアノを始めました。地元の王立音楽院で、ウジェーヌ・トレイ(Eugène Traey)のピアノ科に学び、1966年からは、ブリュッセル王立音楽院でロベール・ステヤート(Robert Steyaert)に師事しました。ブリュッセル王立音楽院とメヘレン市立音楽院で、長年ピアノ教師と伴奏者を務めました。ソリスト、室内楽奏者、伴奏者として演奏し、ベルギー国立管弦楽団、BRTフィルハーモニー管弦楽団、リエージュ管弦楽団、プリマ・ラ・ムジカ室内管弦楽団などと共演し、いくつかのCDも録音しています。1970年のベートーヴェン・コンクールと、1972年の欧州放送連合によるスクリャービン・コンクールで入賞し、1974年には、ベルギー政府からヴィルトゥオジティ賞を受けています。

参考:下記出版楽譜に記載された人物紹介文

 

· Etude for the left hand [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:左手のための練習曲

 

作曲年:不明
出版:2024年、Muse Press(日本)
演奏時間:約1分10秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Walter Vleminckx: Piano Transcriptions and Original Works(muse-press.com)

備考:
曲集《Walter Vleminckx: Piano Transcriptions and Original Works (Gounod, Ponchielli, J. Strauss II & Vleminckx)》の1曲。校訂・運指は、福間洸太朗(Kotaro Fukuma)

 

作品の背景(上記出版楽譜の解説文より)

作曲者はピアノ教師として、生徒のために、左手だけ、または右手だけで弾ける短い曲を書いてきた、と述べています。この曲集の1曲が、そうした左手のための練習曲です。

 

音楽的な特徴(運営者の見解)

古典的な、トニックとドミナントを中心とした、どこか諧謔さも持ち合わせた作品。形式は、A(1-16小節)、B(17-32小節)、A(1-16小節の繰り返し)です。

Aセクションは中高域で始まりますが、Bセクションでは音域が中低域に移ります。Bセクションは「トニック→ドミナント→ドミナント→トニック」という、問いかけと応答のような和声の構造から始まり、半音階的な和声を経て、8小節の楽節を締めくくります。この楽節は変奏されながら反復され、後半の8小節の楽節では、単音の連なりによるパッセージが出てきて、この楽曲では唯一の表現を見せます。

 

· Schumania(for the left hand) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:シューマニア(左手のための)

 

作曲年:2020年
出版:2024年、Muse Press(日本) ※上記と同じ曲集の1曲
演奏時間:約2分40秒
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:福間洸太朗
楽譜:Walter Vleminckx: Piano Transcriptions and Original Works(muse-press.com)

備考:
曲集《Walter Vleminckx: Piano Transcriptions and Original Works (Gounod, Ponchielli, J. Strauss II & Vleminckx)》の1曲。校訂・運指は、福間洸太朗(Kotaro Fukuma)

 

上記楽譜に書かれた解説文の要点

福間氏は、フレミンクス夫妻と2018年にアントワープの演奏会で知り合い、公演の翌日に自宅に招かれ、内輪のホームコンサートを開きました。その後も、息子のようにかわいがってもらい、定期的に自宅へ遊びに行くようになった、と書いています。「シューマニア」は、2020年の福間氏の誕生日にフレミンクスが贈ってくれた曲とのことです。楽譜の出版は、福間氏がフレミンクス夫妻に少しでも恩返しがしたいと考えて企画したものです。あとがきでは、2024年10月付で、作曲者が、楽譜の完成を待たずに亡くなったことが記されています。

 

音楽的な特徴(運営者の見解)

夢見るような曲想で、どことなくシューマンの「謝肉祭 Op.9 より オイゼビウス」を思わせる美しい作品。5/8拍子という曖昧さのある表現が、その夢見るような曲想をさらに強めているように感じます。

形式は、A(1-16小節)、B(17-40小節)、A(41-56小節)、コーダ(57-73小節)。

曲の冒頭(2小節目)から、トニック・ディミニッシュという、不安定な和声が出てきて、半音階的な動きを予見させます。特に中盤以降は半音階的な動きが多くなり、サウンドの特徴になります。Bセクションでは、ややメランコリックな印象の和声が中心になり、思案げな表情をのぞかせます。この作品で、最も強いダイナミクス( f )は、Bセクションにありますが、単純に大きな音というよりも、高い気持ちで表現したい箇所なのかもしれません。

コーダのうち67-69小節は、音型的にも和声的にも音楽としては落ち着いていますが、大きめのダイナミクス(mf )が指定されており、深い響きが求められています。最終小節のフェルマータの伸ばしの後に8分休符が置かれており、視覚的にも音が消えた後の空気感のようなものが感じられます。

 

► 終わりに

 

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