- 左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 M-O
- ► はじめに
- ► 作曲家別 M-O
- ‣ Magnússon, Þórður(1973- ) マグヌッソン
- ‣ Maler, Wilhelm(1902-1976) ヴィルヘルム・マーラー
- ‣ Mamiya, Michio(1929-2024) 間宮芳生
- ‣ Mareo, Eric(1891-1958 or 1960) エリック・マレオ
- ‣ Martinů, Bohuslav(1890-1959) マルティヌー
- ‣ Marxsen, Eduard(1806-1887) マルクスゼン
- ‣ Massoud, Kathleen キャスリーン・マスード
- ‣ Matičič, Janez(1926-2022) ヤネズ・マティチッチ
- ‣ Meinders, Frédéric(1946- ) フレデリック・マインデルス
- ‣ Mier, Martha(1936- ) マーサ・マイヤー
- ‣ Mignone, Francisco(Paulo)(1897-1986) ミニョーネ
- ‣ Mihalovici, Marcel(1898-1985) マルセル・ミハロヴィッチ
- ‣ Miller, Carolyn(1941- ) キャロリン・ミラー
- ‣ Mompou, Federico(1893-1987) モンポウ
- ‣ Morgan, Ruby ルビー・モーガン
- ‣ Moszkowski, Moritz(1854-1925) モシュコフスキー
- ‣ Nepomuceno, Alberto(1864-1920) アウベルト・ネポムセーノ
- ‣ Niemann, Rudolf(1838-1898) ルドルフ・ニーマン
- ‣ Noona, Walter & Carol ノーナ夫妻
- ‣ Nordgren, Pehr Henrik(1944-2008) ノルドグレン
- ‣ Nowak, Alison(1948- ) アリソン・ノヴァク
- ‣ Nowak, L. Augustus L・オーガスタス・ノヴァク
- ‣ Nowak, Lionel(1911-1995) ライオネル・ノヴァク
- ‣ Odom, John ジョン・オドム
- ‣ Ohana, Maurice(1913-1992) モーリス・オアナ
- ‣ Olson, Lynn Freeman(1938-1987) リン・フリーマン・オルソン
- ‣ Orthel, Léon(1905-1985) レオン・オルテル
- ► 終わりに
左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 M-O
► はじめに
本ページでは、M-Oで始まる作曲家の左手ピアノ作品をまとめています。作曲作品・編曲作品・教本・室内楽・協奏曲などを、作曲家ごとに整理しています。
作品を探す際は、以下のアルファベット別ページもご利用ください。
► 作曲家別 M-O
‣ Magnússon, Þórður(1973- ) マグヌッソン
ソールデュル・マグヌッソン(1973年アイスランド・レイキャヴィーク生まれ)は同国出身の作曲家です。レイキャヴィーク音楽大学で作曲と音楽理論を修め、1996年に学位を取得しました。翌年にはパリ音楽院に留学し、エマヌエル・ヌネスのもとで研鑽を積んでいます。
作品は北欧諸国のほか、日本を含めて各国で演奏されています。
· Scenes of Iceland for piano(left hand) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:アイスランドの風景 ピアノ(左手)のために
作曲年:2013年
演奏時間:
第1曲 東部の小川の滝(Andante) 約2分50秒
第2曲 鳥の目から見た高地(Moderato) 約4分20秒
第3曲 オーロラの舞(Allegretto) 約2分10秒
第4曲 うららかなひと時、夏至の深夜の煌々と明るい夜に(Adagio) 約4分30秒
第5曲 大河ラーガルフリョゥトのほとりを歩く(Adagio) 約3分10秒
全曲合計 約17分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:舘野泉
本作は、舘野泉より作曲者へ委嘱された作品で、2013年5月に東京で行われたリサイタルでの演奏を念頭に書かれました。委嘱にあたっては、日本の聴き手にとって馴染みの薄いアイスランドという土地の光や風、大気の質感を音楽として伝えてほしいという依頼があったといい、作曲者はこれに応える形で、自身が幼少期を過ごしたアイスランド東部の風土や、そこで培われた個人的な原風景をもとに全5曲の組曲としてまとめています。
第3曲〈オーロラの舞〉は、書法自体はエチュード風の性格を持ちながらも、強弱の劇的な交代によって空間的な遠近感を演出しており、視覚的なイメージの喚起に成功している一曲です。
‣ Maler, Wilhelm(1902-1976) ヴィルヘルム・マーラー
ヴィルヘルム・マーラー(1902年6月21日ハイデルベルク生まれ、1976年4月29日ハンブルク没)はドイツの作曲家・音楽教育者・理論家です。ハイデルベルクでヘルマン・グラープナーに、その後ミュンヘンでヨーゼフ・ハースに、さらにベルリンでフィリップ・ヤルナッハに作曲を学びました。1928年からケルン音楽大学で作曲を教え、1946年にデトモルト音楽アカデミーの院長、1959年にはハンブルク音楽大学の学長に就任しました。1930年前後に著した和声学の教科書は長く参照されており、理論家としても一定の評価を得ています。レーガーとブゾーニの両方から影響を受けた作風で知られています。
· Präludium und Fuge [LH/RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:前奏曲とフーガ
作曲年:不明
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ローター・クアスト
収録:「片手で弾くピアノ曲集」(編:ヴァルター・ゲオルギイ/音楽之友社)ほか
備考:右手演奏用の代替運指も付されている
前奏曲
静謐な雰囲気で、16分音符が全曲を支配するJ.S.バッハのプレリュードを思わせる書法です。拍子記号が3/4と4/4の間を交互に揺れ動く構成をとりながら、オクターブと対位法的な動きが絡み合い、最後はピカルディ終止でフーガへとつながっていきます。
フーガ
J.S.バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第2番 BWV847 フーガ」を思わせるリズム素材を持つ3声のフーガ。片手の中で多声を処理しながら、その中でのトリル処理も要求されます。調性的には保守的な書き方ながら、声部の扱いは丁寧で、こちらもピカルディ終止で締めくくられます。
‣ Mamiya, Michio(1929-2024) 間宮芳生
間宮芳生(1929年北海道生まれ、2024年没)は、日本の現代音楽シーンを中心に知られる作曲家の一人です。池内友次郎に作曲を、田村宏にピアノを師事しました。日本はもとよりアジア、アフリカ、スカンディナヴィアなど世界各地の民俗音楽を研究し、その成果は現在まで16作を数える「合唱のためのコンポジション」シリーズをはじめ、数多くの作品に反映されています。作風は合唱曲やオペラから、管弦楽曲、協奏曲、室内楽、独奏曲、日本の伝統楽器のための音楽まで、ほとんどあらゆる分野に及んでいます。
「ヴァイオリン協奏曲 第1番」による毎日芸術賞(1960年)、「オーケストラのための2つのタブロー’65」による尾高賞(1965年)、「ピアノ協奏曲 第2番」による尾高賞(1970年)、オペラ「鳴神」によるザルツブルク・テレビオペラ金賞など数々の受賞歴を持ちます。
· Wind Wrought・Offertorium for piano(left hand) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:風のしるし・オッフェルトリウム ピアノ(左手)のために
作曲年:2004年
演奏時間:全曲合計 約25分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:舘野泉
初演:2004年5月18日、東京・紀尾井ホールにおける舘野泉ピアノ・リサイタルにて
構成(全5曲)
I. プレスト(さわがしく)―アレグロ・ノン・トロッポ(透明に) 約2分40秒
II. モデラート(山にいて夜毎鳴く鳥の声…)―アンダンテ・アンティクァト 約8分20秒
III. アレグレット・トランクィロ(「三つの聖詞」より第1曲) 約4分
IV. アダージョ(「三つの聖詞」より第2曲) 約6分10秒
V. 小さなシャコンヌ、アンダンテ 約3分30秒
作品の背景
本作は、2002年1月に脳溢血で倒れた舘野泉が、左手のピアニストとして舞台に復帰するリサイタルのために書き下ろされました。
タイトルの「風のしるし」は、アメリカ先住民ナヴァホ族の創世神話に登場する風の神ニルチィ・リガイに由来し、指先の渦(指紋)は、誕生の瞬間に風の神が体を通り抜けた際に残していった風紋である、という伝承にちなんでいます。
第3曲・第4曲は、1979年にギター独奏曲として書かれた「三つの聖詞(Sacred Spells)」の第1曲・第2曲を、左手ピアノ用にやや縮小しながら書き直したものです。
音楽的な特徴
使われている音自体は比較的シンプルですが、20世紀以降の音楽でしばしば用いられるプロポーショナル・ノーテーション(音符の配置間隔がおおよその時間の長さに対応する、拍子に縛られない記譜法)が採用されている箇所もあり、読み慣れていないと譜読みにやや時間がかかるかもしれません。
また「さわがしく」「はずんで」「ひきつるように」「透明に」「山にいて夜毎鳴く鳥の声…」といった、日本語による書き込みが随所に見られ、演奏者を音楽の世界観へと自然に導いてくれます。
‣ Mareo, Eric(1891-1958 or 1960) エリック・マレオ
エリック・マレオ(Eric Mareo, 1891年 – 1958/1960年頃)は、20世紀初頭に活動したオーストラリア出身の作曲家、ピアニスト、音楽監督です。本名はエリック・ヨアヒム・ペチョッチ(Eric Joachim Pechotsch)で、エリック・カーティス(Eric Curtis)というペンネームでも楽曲を発表しています。
· Two Left Hand Studies for the Pianoforte [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1曲 1-5小節)

邦題:左手のための2つの練習曲
出版年:1924年
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ノラに(For Nora)
構成(全2曲)
第1曲 Lament 約3分 難易度:ツェルニー30番中盤程度
第2曲 Scherzo 約1分30秒 難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度
第1曲 Lament
Andante—Poco più mosso—Andanteという緩・急・緩の三部構成をとり、タイトルどおり哀悼的・悲歌的な性格を持つ小品。書法自体は音数の少ないシンプルなものですが、その簡潔さの中から旋律線がくっきりと浮かび上がる書かれ方をしています。曲の終盤に一度だけ現れる16分音符の動きが、耳に残る印象的な瞬間となっています。
第2曲 Scherzo
全体を通してAllegrettoで演奏される、第1曲とは対照的に軽快でリズミカルな性格の小品。第1曲に比べてテンポも速く、音数も増えて技巧的な密度が高まっています。和音を中心とした進行部分と、単音主体で動く部分とが入れ替わるように現れる構成となっており、その対比が曲の聴きどころと言えるでしょう。
‣ Martinů, Bohuslav(1890-1959) マルティヌー
ボフスラフ・マルティヌー(1890年12月8日ポリチカ生まれ、1959年8月28日リースタル没)はチェコを代表する作曲家のひとりで、20世紀で最も多作な作曲家の一人としても知られています。1923年にパリに渡りアルベール・ルーセルに師事し、新古典主義、ジャズ、チェコの民族音楽を独自に融合させた作風を確立しました。6曲の交響曲をはじめ、オペラ、室内楽、協奏曲など幅広いジャンルに400曲以上の作品を残しています。
‣ Concertino (Divertimento) for Piano Left Hand and Chamber Orchestra in G major, H.173 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手ピアノと小管弦楽のためのコンチェルティーノ(ディヴェルティメント)ト長調 H.173
作曲年:1926〜1928年
演奏時間:約20分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
献呈:オタカール・ホルマン
初演:1947年2月26日、プラハ(ホルマン独奏、プラハ交響楽団)
構成(全3楽章)
I. Allegro moderato
II. Andante
III. Allegro con brio
作品の背景
第一次世界大戦での戦傷により右手に障がいを負ったチェコのピアニスト、オタカール・ホルマン(1894-1967)のために書かれた作品です。ホルマンはヤナーチェク、シュールホフらに同様の委嘱をしており、マルティヌーもその一人でした。着手は1926年ですが完成は1928年にずれ込み、さらに初演は作曲から20年近く経った1947年まで待つことになりました。
音楽的な特徴
新古典主義的な性格を持ち、各楽章ともピアノへ高い技術的要素が求められます。第3楽章にはカデンツァが含まれています。
左手ピアノを含む協奏曲や室内楽作品は、その成立背景から近現代作品の割合が多いのですが、その中にあって本作は全楽章ともに耳馴染みが良く親しみやすい作品と言えるでしょう。独奏以外の左手作品の「聴く」入門としてもおすすめできる仕上がりです。
作曲のきっかけを作ったオタカール・ホルマンについて、さらに詳しく知る
‣ Marxsen, Eduard(1806-1887) マルクスゼン
· Three Impromptus: Homage to Dreyschock Op.33 No.2 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第2曲 1-4小節)

邦題:3つの即興曲「ドライショクへのオマージュ」Op.33 より 第2曲
作曲年:1844年以前
演奏時間:約3分50秒
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
副題が示すとおり、当時ヨーロッパの演奏界で「2本の右手を持つ男」と称されていた左手の名手アレクサンダー・ドライショクへの献呈作品です。
4小節の短い導入部に続き、f-mollのメランコリックな主部が始まります。中間部はF-durのAllegrettoに転じ、その後に再び冒頭の旋律に戻って静かに閉じる三部構造です。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くマルクスゼン:ブラームスの恩師が遺した片手の音楽
· Studies for the Left Hand Alone(in six characteristic pieces dedicated to Henselt)Op.40 [LH]
邦題:左手のための練習曲「6つの性格的な小品」Op.40(ヘンゼルトに捧げる)
作曲年:1844年頃
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
「練習曲(Etüden)」と「性格的な小品(charakteristische Stücke)」という二つの顔を持つこの曲集は、練習曲でありながら、それぞれが独立した小品として構想されている点に特徴があります。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くマルクスゼン:ブラームスの恩師が遺した片手の音楽
‣ Massoud, Kathleen キャスリーン・マスード
キャスリーン・マスードは、ハートフォードのハート音楽大学とケンブリッジのロンジー音楽院でピアノ演奏を学んだアメリカの作曲家・ピアノ教師です。1980年に夫とともにマサチューセッツ州ニューベッドフォードにマスード・ピアノ・スタジオを開設し、以後40年以上にわたり個人レッスンを続けています。全米ピアノ教師ギルドの会員であり、マサチューセッツ州ピアノ教師協会南東支部の会長も務めました。作品はアルフレッド社やFJH Music社から出版されています。
· The Ocean Deep(For Right Hand or Left Hand Alone) [LH/RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:深海(右手、もしくは左手のための)
出版:Alfred Music Publishing Co., Inc., 1999年(Signature Series)、全2ページ
演奏時間:約1分40秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:教え子アイヴィ・ラプラント(Ivy Laplante)に献呈
作品の背景
アルフレッド社のSignature Seriesより刊行された初級レベルの小品で、タイトル自体が示す通り、右手のみでも左手のみでも演奏できるよう書かれているのが特徴と言えるでしょう。運指とペダリングが記譜されており、「Hold the damper pedal down throughout(ダンパーペダルを全体を通して踏み続けること)」という指示のほか、和声の変化に応じてペダルを踏み替えてもよい旨の注記も添えられています。
音楽的な特徴
使われている音はきわめてシンプルで、空間的な響きを持つ音楽です。タイトル通り、深い海の中にたゆたっているかのような環境音楽的な曲想が特徴的で、1オクターヴ下げて演奏する指示が曲中に7回登場するため、その適用範囲を正確に読み取ることが演奏の際のポイントとなるでしょう。
‣ Matičič, Janez(1926-2022) ヤネズ・マティチッチ
ヤネズ・マティチッチは、リュブリャナ生まれ、同地没のスロベニアの作曲家・ピアニストです。1950年にリュブリャナ音楽アカデミーで作曲を、翌1951年には指揮を修めました。1959年から1961年にかけてパリに渡り、ナディア・ブーランジェに師事しています。1950年代末から1970年代にかけては、ピエール・シェフェール率いる音楽研究グループと協働し、電子音響音楽の実験にも取り組みました。2007年にはスロベニア科学芸術アカデミーの正会員となり、同年、音楽への生涯の貢献によりプレシェーレン賞を受賞しています。
· Tri etude za levo roko(Three Studies for Left Hand) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のための3つの練習曲
作曲年:1956年(1987年に改訂再版)
出版年:1956年 / 1987年
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構成(全3曲)
第1曲 Allegro moderato 演奏時間:約3分30秒
第2曲 Lento tranquillo 演奏時間:約3分30秒
第3曲 Vivace 演奏時間:約1分50秒
作品の背景
オクターブ、和音、オクターブの間に挟む和音(シアリングスタイル)、トレモロ、跳躍など、他にもさまざまなテクニックが求められる技術難度の高い練習曲集。調性から離れる箇所も多く、随所に刺激的な音も用いられています。
第1曲 Allegro moderato
冒頭の波打つような音型が、さまざまな形に変形されながら進んでいく、カンタービレな音楽。旋律と伴奏を左手のみでどのように同居させるかという点に工夫が凝らされており、書法的にも優れた作品です。
第2曲 Lento tranquillo
立体的な音楽で、あちこちからさまざまな楽器の音が聴こえてくるような、室内楽作品を思わせる左手独奏曲。楽譜通りに演奏する場合、ある程度の手の大きさが求められます。随所にラヴェルの影響が感じられる作品です。
第3曲 Vivace
諧謔的な性格を持つトッカータ。冒頭に書かれた「sempre stacc.」の指示が、演奏の難易度をさらに上げています。第1曲や第2曲に比べると書法はかなり簡潔なものの、Allegro vivaceで演奏するトッカータであるため、技術面でのハードルは高い作品です。
‣ Meinders, Frédéric(1946- ) フレデリック・マインデルス
フレデリック・マインデルスは、オランダのピアニスト・作曲家です。5歳のとき両親から最初のピアノの手ほどきを受け、後にハーグ王立音楽院でヤン・デ・マンに師事し、優秀賞(Prix d’Excellence)を得ています。片手のための作品・編曲を非常に多く手がけており、本人の公式サイトには左手用・右手用の作品リストが掲載されています。
本サイトでは、現時点では作品の網羅的な紹介は行わず、本人のウェブサイトに掲載されている作品情報を資料として紹介するに留めます。
公式サイト:
https://www.fredericmeinders.com
Original Compositions:
https://www.fredericmeinders.com/compositions
Transcriptions for the left hand:
https://www.fredericmeinders.com/transcriptionsforthelefthand
Transcriptions for the right hand:
https://www.fredericmeinders.com/transcriptionsfortherighthandalone
‣ Mier, Martha(1936- ) マーサ・マイヤー
マーサ・マイヤーは1936年生まれのアメリカの作曲家・元ピアノ教師です。フロリダ州立大学を卒業後、フロリダ州レイクシティでピアノ教室を主宰するかたわら、教会音楽や伴奏者としても活動しました。1989年からアルフレッド・ミュージック社の作曲家として教育用ピアノ作品を数多く発表しており、「Jazz, Rags & Blues」シリーズや「Romantic Impressions」シリーズで国際的な人気を得ています。作品の多くはカナダ王立音楽院(RCM)の検定試験課題曲にも採用されています。
· Excursions(for Right Hand Alone) [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:遠足(右手のための)
出版:Alfred Publishing Co., Inc., 2003年(Signature Series)、全2ページ
演奏時間:約1分40秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
アルフレッド社のSignature Seriesより刊行された、右手のための小品。運指とペダリングが記譜されており、右手のために書かれた作品ですが、左手のみでの演奏も可能です。
Allegro(♩=138)―Andantino(♩=60)―Allegro(Tempo primo)という、大きく3部からなる構成をとっています。両端のAllegro部分は練習曲的な音の運びが中心となっているのに対し、中間のAndantino部分はポピュラーバラードを思わせる曲調となっており、両者の性格の対比が本作の聴きどころと言えるでしょう。
‣ Mignone, Francisco(Paulo)(1897-1986) ミニョーネ
フランシスコ(パウロ)・ミニョーネ(1897-1986)は、サンパウロに生まれリオデジャネイロで没したブラジルの作曲家・指揮者です。イタリア移民の音楽家の家庭に育ち、幼少期から父にフルートとピアノを学んだのち、サンパウロ音楽院やミラノ音楽院で研鑽を積みました。オペラや管弦楽作品で早くから評価を得る一方、リオの国立音楽学校で指揮教師を務めるなど教育面でも活躍し、渡米後はNBC交響楽団などを指揮する機会も得ています。
作風は、イタリア仕込みのロマンティックな初期様式から、ブラジルの民俗的素材を積極的に取り入れた中期の民族主義的様式へ、さらに後年は多調性や無調性、セリー主義的な語法へと変遷していきました。
· 14 Peças para a Mão Esquerda [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のための14の小品集
作曲年:1984年
演奏時間:番号による
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
作品の背景
本作は、事故によって右手に障がいを負った青年からの依頼を受け、ミニョーネが晩年の1984年に書き上げた左手独奏のための小品集です。各曲にはそれぞれ異なる奏法上の課題が織り込まれていますが、楽曲としても魅力的な「お国柄が出ている作品」としてまとめられました。
収録曲には、打楽器を打ち鳴らすような音型が繰り返される「プリンカリョン Brincalhão」、ギターの響きを表現したブラジル的な性格を持つ曲「モディーニャ・ドラマティカ Modinha Dramática」などが含まれています。
‣ Mihalovici, Marcel(1898-1985) マルセル・ミハロヴィッチ
マルセル・ミハロヴィッチは、ブカレスト生まれ、パリ没のルーマニア出身のフランスの作曲家です。ジョルジュ・エネスコに見出され、1919年にパリへ移り、スコラ・カントルムでヴァンサン・ダンディに師事しました。1932年には現代音楽団体「トリトン」の創設に参加しています。ピアニストのモニク・アースと結婚し、彼のピアノ作品の多くはアースによって初演されました。
· Passacaille pour la main gauche, Op.105 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のためのパッサカリア Op.105
作曲年:1975年
出版年:1982年頃
演奏時間:約16分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:レリア・グソー(フランスのピアニスト)
単音の連なりによる8小節からなる主題を18の変奏によって展開していく作品です。左手のみという制約がありながらも、音域の違いが高度に使い分けられており、立体的な響きを持つ作品に仕上がっています。無調的な書法によりながらも、どこか深い感情を湛えているのも特徴と言えるでしょう。
冒頭には、作曲者の独特の記譜法を読み解くためのフランス語・英語併記の記号表が置かれています。
‣ Miller, Carolyn(1941- ) キャロリン・ミラー
キャロリン・ミラーは、1941年生まれのアメリカの作曲家です。数多くの教育用ピアノ曲を発表しており、全米音楽クラブ連盟(NFMC)のフェスティバル選定曲として近年まで継続的に採用されています。
· Aria for Left Hand [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のためのアリア
作曲年:不明
出版年:1994年頃
演奏時間:約2分40秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Aria for Left Hand: Piano Solo(Amazon.co.jp)
ポピュラー風の穏やかでシンプルなメロディに、アルペッジョ伴奏が寄り添う作りが中心となっています。雰囲気の変わる中間部ではメロディの動きが8分音符中心になりますが、伴奏部分は動きが少なくなるので、演奏はしやすいでしょう。
運指とペダルの指示も添えられており、教育的配慮がされています。
‣ Mompou, Federico(1893-1987) モンポウ
フェデリコ・モンポウはバルセロナ生まれのカタルーニャの作曲家で、主にパリとバルセロナを拠点に活動しました。ピアノ独奏曲と声楽曲を中心に作品を残しており、サティ、ドビュッシー、ラヴェルとの親近性がしばしば指摘されます。小品を好み、かつ小節線を用いない記譜法はモンポウの個性の一つで、演奏者に自由なニュアンスの余地を与えています。
· Sixième Prélude (pour la main gauche) from Six Préludes [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:6つの前奏曲 より 第6番(左手のために)
作曲年:1930年
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
第6番(第VI番)は、主に単音の連なり・広い音域で書かれており、モンポウ特有の小節線のない記譜による自由なゆらぎの中で語りかけるような作品になっています。
運指の指示はありませんが、ペダリングは丁寧に書き込まれており、響きの扱いに細かな配慮がうかがえます。演奏会でも取り上げられる質を備えた小品と言えるでしょう。
· Variations sur un thème de Chopin — Variation 3(Lento, pour la main gauche) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ショパンの主題による変奏曲 — 第3変奏(左手のために)
作曲年:1938-1957年(全曲完成:1957年)
演奏時間:約1分
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度
分類:オリジナル作品(変奏曲の一部、独奏)
作品の背景
全12変奏からなる「ショパンの主題による変奏曲」は、ショパンの「プレリュード Op.28-7」を主題としています。作品の構想は1938年にさかのぼり、チェリストのガスパール・カサドとの共同プロジェクトとして出発しましたが、この試みは途中で頓挫しました。その後、ロンドンのロイヤル・バレエからの勧めをきっかけに作曲が再開され、1957年に12変奏の全曲が完成しています。変奏1〜3と第5変奏は1938年のカサド・プロジェクト由来とされており、初演は1964年にカタルーニャのピアニスト、アルベルト・アテネリェによって行われました。
第3変奏について
第3変奏はLento、左手独奏のために書かれました。全12変奏の中で左手のみによる変奏はこの第3変奏だけであり、モンポウがこの曲集の中で意図的に設けた特異な場面です。モンポウらしい静謐な書法の中に、左手独奏という制約が自然に溶け込んだ変奏と言えるでしょう。
‣ Morgan, Ruby ルビー・モーガン
ルビー・モーガンは、ソリストおよび室内楽奏者として20年以上のキャリアを積んできたアメリカのピアニストですが、その活動のさなかにフォーカル・ジストニアを発症しました。この疾患は、ゲイリー・グラフマンやレオン・フライシャーといった著名なピアニストも経験したことで知られています。発症後は左手のみによるリサイタル活動へと軸足を移し、ラヴェルの「左手のための協奏曲」やヤナーチェクの「左手ピアノと管楽アンサンブルのためのカプリッチョ」などをレパートリーとしてきました。
教育者としてはファーマン大学でピアノ科教授を長年務めたほか、ブレヴァード音楽センターでも指導にあたっています。
· An Anthology of Piano Music for the Left Hand Alone
出版:2021年
難易度:ツェルニー30番中盤程度〜ツェルニー50番入門以降程度
分類:小品集(アンソロジー)
本作は、自らも左手のみで舞台に立ってきた奏者の視点から編まれたアンソロジーです。巻頭のIntroductionでは、左手作品が生み出されてきた背景として4つの流れが整理されています。定番の歴史的作品と20〜21世紀の作品をバランスよく収め、運指・ペダリングの指定や装飾音の書き出しなど、学習者に配慮した校訂が随所に施されている点が特徴と言えるでしょう。
本アンソロジーの収録曲は、既存の左手作品や、モーガン自身による編曲作品など様々です。より詳しくは以下の記事をご覧ください。
【ピアノ】Ruby Morgan「An Anthology of Piano Music for the Left Hand Alone」完全ガイド
‣ Moszkowski, Moritz(1854-1925) モシュコフスキー
· 12 Etudes for the left hand alone Op.92 [LH]
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第4番 1-4小節)

邦題:左手のための12の練習曲 Op.92
作曲年:1915年頃(1915年出版)
演奏時間:全曲合計 約28分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
「左手のための12の練習曲 Op.92」は、パリのEnoch & Cie社から1915年に出版された曲集で、ピアニストのハロルド・バウアー(1873-1951)に献呈されています。
モシュコフスキーといえば「15の練習曲 Op.72」を思い浮かべる方が多いかもしれません。それに比べるとOp.92の知名度は高くありませんが、左手独奏に必要なテクニックが巧みに取り入れられており、なおかつ身体への負担がかかりすぎないよう計算されて音が選ばれているのが特徴です。
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【ピアノ】モシュコフスキー「左手のための12の練習曲 Op.92」完全ガイド
‣ Nepomuceno, Alberto(1864-1920) アウベルト・ネポムセーノ
アウベルト・ネポムセーノは1864年にフォルタレーザに生まれ、1920年にリオデジャネイロで没した、ブラジル音楽における国民楽派の台頭に大きな役割を果たした作曲家・指揮者です。国内外で研鑽を積み、帰国後はリオの国立音楽学校の校長を務めました。
自国作品の積極的な演奏を通じてブラジル音楽の地位向上に尽力し、作曲家としては国民主義的な代表作を残しました。今日でも「ブラジル国民楽派の父」と称されています。
· 5 Pequenas Peças para Crianças(Cinco pequenas peças para a mão esquerda) [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1曲 1-5小節)

邦題:子どものための5つの小品(左手のための5つの小品)
作曲年:1906年
演奏時間:
1. Barcarola(バルカローラ) 約1分50秒
2. Melodia(メロディア) 約2分
3. Dança(ダンサ)〜Trio 約2分40秒
4. Brincando(ブリンカンド) 約1分10秒
5. Polca(ポルカ) 約1分
全曲合計 約8分40秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:娘 シグリッド・ネポムセーノ
娘シグリッドのために、1906年に書かれた5曲からなる小品集です。1907年8月、ペトロポリスのアウディトリオ・コレジオ・シオンにて、シグリッド自身の演奏により初演されました。
各曲はいずれも1〜2ページ程度の短い作品で、第4曲(Brincando)は大譜表で記譜されているものの、実際には下段(低音部譜表)が一度も使われないという書き方がされています。
手の大きさをあまり問わない書法になっており、親しみやすさとどこか懐かしさを感じさせる曲調が魅力の小品集です。
· Nocturnes for Left Hand Alone, Op.33 [LH]
出版:New York: G. Schirmer(1917)/ Rio(1907)
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:娘 シグリッド・ネポムセーノ
Nocturne No.1 in C major
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

難易度:ツェルニー40番修了程度
演奏時間:約5分30秒
静かなバルカローレ(舟歌)風の楽想で幕を開ける作品です。全体を通じて聴かれる3度音程の響きも、この作品のサウンド的な特徴の一つと言えるでしょう。中間部のAgitatoで場面が大きく転換したのち、冒頭のテンポが戻ってきます。メランコリックな歌の部分と技巧的な部分がバランスよく同居した書き方となっています。
Nocturne No.2 in G major
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

難易度:ツェルニー40番修了程度
演奏時間:約5分30秒
感情豊かな旋律をシンプルな伴奏の上でゆったりと歌わせていく、ギター演奏を思わせる作品です。第1番のような大きな場面転換や込み入った技巧は少なく、構成・響きともにあっさりとまとめられています。どことなく、サン=サーンス「左手のための6つの練習曲 Op.135」を思わせる雰囲気も感じることでしょう。
‣ Niemann, Rudolf(1838-1898) ルドルフ・ニーマン
ルドルフ・ニーマンは、ドイツ北部ヴェッセルブーレン生まれのピアニスト・作曲家です。オルガニストの父から音楽の手ほどきを受けたのち、ライプツィヒ音楽院でモシェレスらにピアノと作曲を学び、パリでも研鑽を積んだうえで、ベルリンではハンス・フォン・ビューローに師事しました。ヴァイオリニスト、アウグスト・ヴィルヘルミの伴奏者として大規模な演奏旅行に同行するなど、演奏家としても活躍し、後年はヴィースバーデンを拠点に活動しました。息子は、後にドイツを代表する作曲家の一人となるワルター・ニーマンです。
· Valse de Concert, Op.36 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:コンサート・ワルツ Op.36(左手のための)
出版年:1893年
演奏時間:約4分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:モーリッツ・ローゼンタール
明るい表情を持つ、コンサート用のワルツ。小節数自体は多いものの、技巧的な難所(3度音程の連続 など)は数箇所に限られているため、規模の割には比較的取り組みやすい作品と言えます。「ズン・チャッ・チャ」のワルツ伴奏を基調としながらも、3拍子の枠の中で自由にアルペジオが展開される箇所もあり、書法にはある程度の変化が持たせられています。
‣ Noona, Walter & Carol ノーナ夫妻
ウォルター・ノーナおよびキャロル・ノーナは、子供向けピアノ教則本「Musik wird lebendig(音楽が生き生きと)」シリーズの著者です。本項の作品が収められた「Ricos Konzert 2」もこのシリーズの一冊にあたります。
· Walzer für die linke Hand [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のためのワルツ
出版年:1989年
演奏時間:約40秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:Musik wird lebendig – Ricos Konzert 2
備考:同曲集内で既存作曲家の作品には作曲者名が明記されているのに対し、本曲には作曲者名の記載がなく、教材の著者であるノーナ夫妻自身によるオリジナル作品と考えられる
曲名の下には「Fröhlich(陽気に、楽しく)」という発想標語が添えられています。低音部に常に旋律が置かれ、その上でワルツのリズムが刻まれるという構成になっています。
‣ Nordgren, Pehr Henrik(1944-2008) ノルドグレン
ペール・ヘンリック・ノルドグレンは、現代フィンランドを代表する作曲家の一人です。ヨーナス・コッコネンに作曲を師事したのち、1970年から73年にかけて来日し、作曲を学びました。帰国後はカウスティネンを拠点に創作活動を続け、交響曲、協奏曲、室内楽曲、ピアノ曲、オペラなど幅広いジャンルに作品を残しています。
· Kwaidan II – Three Piano Ballads to Japanese Ghost Stories by Lafcadio Hearn, for Left Hand Alone Op.127 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:小泉八雲の「怪談」によるバラードII Op.127 ピアノ(左手)のために
作曲年:2004年(3月~4月にかけて作曲)
演奏時間:全曲合計 約22分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:舘野泉
構成(全3曲)
I. 振袖火事(Furisode-Kaji) 約10分40秒・11ページ
II. 衝立の女(Tsuitate no Onna) 約6分・7ページ
III. 忠五郎の話(Chūgorō no Hanashi) 約5分・6ページ
本作は、2002年に脳溢血で倒れ右半身に麻痺を負った舘野泉が、左手のピアニストとして再出発するリサイタルのために書かれた作品です。2004年5月10日に仙台で初演され、同月中に東京・大阪・札幌・福岡・小海の各地でも披露されました。
1970年代に生まれた最初の「小泉八雲の怪談によるバラード」10曲に続く新作として、今回はユハニ・ロンポロによるフィンランド語訳の八雲怪談集の中から、それまで手つかずだった3つの物語――「振袖火事」「衝立の女」「忠五郎の話」――が選ばれました。恐怖そのものを描くというより、いずれも不思議で謎めいた出来事の奥に「恋情」を秘めた物語である点で共通しており、この点が3曲を貫くテーマとなっています。
第1曲から第3曲へ向かうにつれて、演奏時間・ページ数ともに徐々にコンパクトになっていきますが、それに反比例して音楽のエネルギーが衰えることはなく、最後まで密度の高い緊張感が保たれています。
‣ Nowak, Alison(1948- ) アリソン・ノヴァク
アリソン・ノヴァクはアメリカの作曲家で、ライオネル・ノヴァクの娘にあたります。
· View for Piano Right Hand [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ビュー(右手のための)
作曲:1981年10月25日
演奏時間:約6分40秒
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:父ライオネル・ノヴァクのために(70歳の誕生日を記念して)
本作の基となった十二音の音列は、もともとハワード・ネメロフの詩「View from an Attic Window」に曲を付けるための、未完に終わった作曲の素材として作られたものだといいます。
‣ Nowak, L. Augustus L・オーガスタス・ノヴァク
L・オーガスタス・ノヴァクは、ライオネル・ノヴァクの息子にあたる作曲家です。
· Theme and Variations [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:主題と変奏
作曲年:1987年
演奏時間:約7分
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:父ライオネル・ノヴァクのために
父の演奏録音に寄せた解説の中で作曲者は、当時の片手作品のレパートリーが技巧性や実験性に傾いた作風に偏っている印象を持っていたと述べ、それに対する応答として、調性や旋律の扱いにおいてより伝統的な選択肢を示すことを本作の狙いとしたと語っています。
‣ Nowak, Lionel(1911-1995) ライオネル・ノヴァク
ライオネル・ノヴァク(1911年オハイオ州クリーブランド生まれ、1995年ヴァーモント州ベニントン没)は、アメリカの作曲家、ピアニストです。クリーブランド音楽院で作曲をロジャー・セッションズ、クインシー・ポーター、ハーバート・エルウェルに、ピアノをベリル・ルビンシュタインとエドウィン・フィッシャーに学びました。1948年から1993年までの45年間、ベニントン・カレッジ音楽科の教員として教壇に立ち続けています。
1980年に脳卒中を患い左手の自由を失いましたが、その後も演奏・教育・作曲の各活動を制約のもとで継続しました。この出来事を受け、同僚や友人、家族をはじめとする多くの音楽家たちが、彼のために右手だけで演奏できる作品を寄せています。
ライオネル・ノヴァクについてさらに詳しく知る
【ピアノ】片手作品から読み解くライオネル・ノヴァク:左手の自由を失った音楽家と右手のための音楽
· Seven Songs from The Diary of Izumi Shikibu(10th–11th century) [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:和泉式部の日記より7つの歌
作曲年:1982年2月25日
編成:中声とピアノのための作品(ピアノパートは右手独奏)
歌詞:ウィリス・バーンストーン英訳による
演奏時間:約11分 / 全12ページ(作曲者自筆譜)
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(室内楽)
献呈:妻ローラの57歳の誕生日を記念して
ピアノパートは単段譜で書かれ、自筆譜には明確に「piano right hand」と指定があり、右手による演奏を前提とした作品となっています。各曲に固有の標題はなく、テンポおよびメトロノーム指示のみが付されています。
平安時代の女流歌人・和泉式部による日記(10世紀末〜11世紀初頭)を題材とし、亡き弟宮への哀悼から帥宮敦道親王との恋愛までを描いたその原典の繊細な情感を、ノヴァクは特定の和楽器的音階への依拠ではなく、音数を切り詰めた簡潔な書法によって間接的に映し出そうとしました。
第1曲のピアノパートには三味線を思わせる音型が見られます。また、冒頭にはペダルを最小限に留めるよう指示があり、余韻を残しすぎないドライな響きが求められています。
· Practice Piece for piano right hand [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:右手のための練習曲
作曲年:1982年
演奏時間:約2分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「Music for Solo Piano 1942–91」、および「One Hand at a Time: 19 Pieces for Piano for Left-Hand or Right-Hand Only」(2024年刊)
脳卒中の直後、複数の作曲家仲間から右手独奏作品が寄せられたことをきっかけに、指や腕の可動域に偏りがあることに気づいたノヴァクが、日々のウォームアップとして自作したのが本曲です。
小節線を持たず、付点8分音符=120というやや特殊なテンポ指示のもとに書かれた16分音符主体のエチュードで、同音連打とオクターヴ跳躍を主軸とした変奏曲風の構成をとっています。
‣ Odom, John ジョン・オドム
ジョン・オドムは、イギリス・クロイドンのホイットギフト校で音楽監督(Director of Music)を務めていた人物で、ピアニスト夫妻シリル・スミスとフィリス・セリックの「3手」レパートリーのために、複数の編曲を提供しました。J.S.バッハ、ビゼー、ブラームス、ラルフ・ヴォーン・ウィリアムズの作品など、夫妻のために数多くの3手用編曲を手がけたことが分かっています。
· Franck / Prelude, Chorale and Fugue(three hands) [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:前奏曲、コラールとフーガ(3手版)
編曲年:不詳
演奏時間:約18分55秒(1974年録音)
分類:編曲作品(室内楽、3手)
1974年7月にレコーディングされた、シリル・スミスとフィリス・セリックの最後の録音となったアルバムに収められた1曲です(レビュー記事:【ピアノ】スミス&セリック夫妻の3手デュオ「Cyril Smith & Phyllis Sellick: Piano Duos」レビュー )。
· Mendelssohn / Allegro Brillant, Op.92(three hands) [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:華麗なるアレグロ Op.92(3手版)
編曲年:不詳
演奏時間:約8分47秒(1974年録音)
分類:編曲作品(室内楽、3手)
上記フランクの作品と同じく、アルバム「Cyril Smith & Phyllis Sellick: Piano Duos」に収録された編曲作品です。
‣ Ohana, Maurice(1913-1992) モーリス・オアナ
モーリス・オアナは、モロッコ・カサブランカ生まれ、フランスで活躍した作曲家です(生年は1913年または1914年)。バスク地方で音楽を始め、1932年にパリへ出てピアノと対位法を学びました。第二次世界大戦中は英国軍に従軍し、大戦末期にはローマでアルフレード・カゼッラに師事しました。戦後の1946〜47年頃、セリー主義などの独断的な美学に抵抗するため、友人たちと「グループ・ゾディアック」を設立しました。
· Main gauche seule(from Douze études d’interprétation, Livre I) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手独奏のために(《解釈のための12の練習曲》第1巻より)
作曲年:1981〜1982年
演奏時間:約6分40秒
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:モーリス・ラヴェルの追悼のために(”in memoriam Maurice Ravel”)
作品の背景
「解釈のための12の練習曲(Douze études d’interprétation)」は、技巧的な練習曲だけではなく、音色などにも焦点を当てた作品集で、各曲がそれぞれ異なる課題を扱っています。この第4曲には「in memoriam Maurice Ravel(モーリス・ラヴェルの追悼に)」という副題が付けられており、全12曲中で左手独奏の作品はこの1曲のみです。
音楽的な特徴
無調語法による、荒々しく運動的なエチュード。ラヴェルへの追悼という副題を持っていることもあり、終盤では、ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」の終結部でソロが際立つ箇所を思わせる場面があります。
‣ Olson, Lynn Freeman(1938-1987) リン・フリーマン・オルソン
リン・フリーマン・オルソンは、1938年に生まれ1987年に没したアメリカの作曲家です。ミネアポリスで育ち、プリンストンでフランシス・クラークにピアノ教育法を師事したのち、ニューヨークに移って活動しました。テレビ番組「キャプテン・カンガルー」の音楽を手がけたほか、Carl Fischer Music社、のちにAlfred Music社のコンサルタントを務め、生涯で1,200曲を超えるピアノ独奏曲を残しています。
· Bumblebee Toccata [LH/RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:バンブルビー・トッカータ
作曲年:不明
出版年:1983年頃
演奏時間:約40秒
難易度:ツェルニー30番入門程度
分類:原曲は両手用(作曲者自身の言及により、片手のみでの演奏も可能な作品として紹介されている)
委嘱:ジェファーソン・シティ地区音楽教師協会(Jefferson City Area Music Teachers’ Association)
楽譜:Bumblebee Toccata(Amazon.co.jp)
作品の背景
もともとは両手による独奏曲として書かれた作品です。オルソン自身は、この曲について「特別な練習課題として、この曲は片手だけで演奏することができ、半音階パターンや素早い親指の移動(シフト)の練習になります」と述べており、片手のみでの演奏にも対応できる作品として紹介されています。
音楽的な特徴
「Very fast」というユニークなテンポ指示が付けられており、曲名から連想されるイメージをいっそう膨らませてくれるのではないでしょうか。半音階と全音音階が使い分けられ、ダイナミクスも頻繁に変化するため、聴き手を落ち着かせない仕掛けになっています。
‣ Orthel, Léon(1905-1985) レオン・オルテル
レオン・オルテル(1905年、北ブラバント州ローゼンダール生まれ、1985年没)は、ハーグ王立音楽院でピアノを、アムステルダム音楽院で作曲を教えたオランダの作曲家・音楽教育者です。
· Sonatine No.5, Op.44 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ソナチネ 第5番 Op.44
作曲年:1959年
出版年:1963年頃
演奏時間:全曲合計 約8分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:コル・デ・フロート
収録:Mano sinistra I:Six pieces by Netherlands composers for piano left hand
構成(全3楽章)
・第1楽章 Poco Allegro 約2分50秒
・第2楽章 Molto tranquillo e rubato 約2分50秒
・第3楽章 Allegretto 約2分20秒
第1楽章
和音が連続するテンポの速い諧謔的な部分と、テンポを落としたカンタービレな部分が対照的に交互に現れます。最も難易度が高い楽章と言えるでしょう。
第2楽章
シンプルで美しい旋律を和音伴奏や軽やかで細かいパッセージが彩る、非常に聴きやすい緩徐楽章。どこかオンディーヌを思わせる雰囲気を持っています。
第3楽章
細かいパッセージに包まれた旋律はどこか民謡的な性格を帯びています。細かい音符の処理や平行和音の用い方など、音遣いはラヴェル「ソナチネ 嬰ヘ短調 M.40 第3楽章」を思わせます。終結部にはサプライズも。
► 終わりに
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