- 【ピアノ】片手のためのスケルツォ作品ガイド:年代順にたどる
- ► はじめに
- ► 演奏形態について
- ► 年代順にたどる作品紹介
- ‣ ライネッケ「左手のためのピアノソナタ Op.179 より 第3楽章 メヌエット」(1884年作曲)[LH]
- ‣ レーガー「左手のための4つの特別な練習曲 より 第1曲 スケルツォ」(1901年作曲)[LH]
- ‣ リソフスキー「3つの小品 より 第3曲 スケルツォ(右手のための)」(1904年頃出版)[RH]
- ‣ サルトーリオ「左手のための10の旋律的小品 Op.20 より 第4曲 スケルツォ」(1915年出版)[LH]
- ‣ ボウエン「カプリース(右手のための) Op.42-2」(1916年頃出版)[RH]
- ‣ ブラウン「左手のための3つのピアノ小品 より 第1曲 スケルツォ」(1922年作曲)[LH]
- ‣ シュミット「ベートーヴェンの主題による協奏的変奏曲 より 2.主題(スケルツォ)」(1923年作曲)[LH]
- ‣ マレオ「左手のための2つの練習曲 より 第2曲 スケルツォ」(1924年出版)[LH]
- ‣ ランロワ「ある手のために…(左手のための小品)」(1936年頃出版)[LH]
- ‣ コル・デ・フロート「左手と管弦楽のための幻想変奏曲 より 第3楽章 スケルツォ」(1960-1962年作曲)[LH]
- ‣ ティングリー「スケルツィーノ(左手のための)」(1999年出版)[LH]
- ► 作品一覧表
- ► どの作品に取り組むか
- ► 終わりに
【ピアノ】片手のためのスケルツォ作品ガイド:年代順にたどる
► はじめに
スケルツォ(Scherzo)は、イタリア語で「冗談」を意味し、軽快で諧謔的な性格を持つ楽曲や楽章を指します。片手のための作品でも、組曲や曲集、協奏的な作品の一部としてスケルツォが置かれる例が多く、跳躍やスタッカートを活かした軽やかな書法がさまざまに工夫されてきました。
本記事では、作品名や楽章名に「Scherzo」と明記された作品を中心に、スケルツォ風の性格を持つ楽章・小品も取り上げます。片手のための作品において、軽快さや諧謔性がどのような書法で表現されているかにも注目しながら、成立年の古い順に紹介します。
選曲や、作品の歴史をたどる際の手がかりとしてお役立てください。
なお、記事内で示す年代は、原則として作曲年です。作曲年が確認できない場合や、出版年を基準とする場合には、その旨を明記しています。年代を範囲で示す場合は、原則として着手年を基準に並べています。
► 演奏形態について
本ガイドでは、作品名の末尾に以下の記号を付しています:
[LH]:左手のみで演奏
[RH]:右手のみで演奏
[LH/RH]:左手または右手で演奏
[LH][RH]:左手作品と右手作品が両方入っている項目など
作品を実際にどちらの手で演奏できるかではなく、作曲者・編曲者が指定した演奏形態を基準として、[LH][RH][LH/RH]を付しています。
► 年代順にたどる作品紹介
‣ ライネッケ「左手のためのピアノソナタ Op.179 より 第3楽章 メヌエット」(1884年作曲)[LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

カール・ライネッケ(1824-1910)が作曲した全4楽章からなる左手ソナタの第3楽章。楽章名はメヌエットですが、性格はスケルツォ風で、トリオを含む構成です。跳躍が多く、技術的なハードルも高めの楽章です。この楽章は、記事「【ピアノ】片手のためのメヌエット作品ガイド:年代順にたどる」でも取り上げています。
演奏時間は約3分30秒、難易度はツェルニー50番入門以降程度。
ライネッケについてさらに詳しく知る
左手作品から読み解くカール・ライネッケ:19世紀に左手ソナタを書いた先駆者
‣ レーガー「左手のための4つの特別な練習曲 より 第1曲 スケルツォ」(1901年作曲)[LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

マックス・レーガー(1873-1916)が作曲し、1902年頃に出版された全4曲の曲集の冒頭を飾るスケルツォ。冒頭から技術的な難所が続き、4曲の中ではもっとも練習曲らしさを感じさせる作品に仕上がっています。曲集の各曲は独立して演奏することも、いくつかをまとめて取り上げることも可能です。
演奏時間は約2分30秒、難易度はツェルニー40番修了程度。
楽譜:「Piano Music for One Hand」(選曲・編集:レイモンド・レヴェンタール/G. Schirmer)に収録
‣ リソフスキー「3つの小品 より 第3曲 スケルツォ(右手のための)」(1904年頃出版)[RH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

レオニード・リソフスキー(1866-1934)は、ロシアの作曲家として紹介されていますが、その経歴については確認できる資料が限られています。
「3つの小品」のうち、右手独奏はこの第3曲のみで、残る2曲は両手用です。16分音符を含むモティーフが印象的な軽やかな主部に始まり、重厚でメランコリックな雰囲気の中間部を経て、再び諧謔的な主部へと戻る3部構成で、各部分のバランスがよく考えられています。ニコライ・ソロヴィヨフ(1846-1916)に献呈されました。
演奏時間は約4分、難易度はツェルニー40番修了程度。
‣ サルトーリオ「左手のための10の旋律的小品 Op.20 より 第4曲 スケルツォ」(1915年出版)[LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

アルノルド・サルトーリオ(1853-1936)は、ドイツの作曲家・ピアノ教育者で、左手のためのピアノ音楽の分野では複数の曲集を残した重要な人物の一人です。この曲集は、数多く使い分けていた変名のひとつ「カルロッタ・ボッカ」名義で出版されました。
全10曲の第4曲にあたり、音数が少なく、全体に軽やかな印象を与えるスケルツォです。スタッカートとレガートの対比を軸に、曲全体が組み立てられています。
演奏時間は約1分50秒、難易度はツェルニー40番修了程度。
‣ ボウエン「カプリース(右手のための) Op.42-2」(1916年頃出版)[RH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

ヨーク・ボウエン(1884-1961)が作曲し、1916年頃に出版された全7曲の組曲「Curiosity Suite, Op.42」の第2曲。組曲の大半は両手用ですが、右手のための曲はこの1曲だけです。
3/4拍子のPrestoで、スケルツォ風の性格を持つ小品です。冒頭を耳にすると、ベートーヴェンの「ピアノソナタ 第2番 Op.2-2 第3楽章」を思い出す方もいるかもしれません。カデンツァ風の経過句も含み、全体的にleggieroな音楽です。
楽譜の冒頭には「右手の器用さを心から楽しむ人々へ」という献辞と、「やや左寄りに座るのが望ましい」という演奏上の助言が添えられています。
演奏時間は約3分、難易度はツェルニー40番修了程度。
‣ ブラウン「左手のための3つのピアノ小品 より 第1曲 スケルツォ」(1922年作曲)[LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1曲 1-7小節)

ルドルフ・ブラウン(1869-1925)は、生まれつき盲目でありながらウィーンで活躍した作曲家で、パウル・ヴィトゲンシュタインのために複数の作品を書いています。
1922年夏に作曲され、1928年にウィーンのドブリンガー社から出版された曲集の第1曲で、やはりヴィトゲンシュタインに献呈されています。3曲の中でもっとも規模が大きく、演奏時間・内容の両面で、曲集の中で大きな比重を占める番号です。アーティキュレーションの指定はほとんど書き込まれておらず、書法の凝り方というよりも、奏者に求められる演奏技巧の高さが特徴と言えるでしょう。
演奏時間は約7分、難易度はツェルニー50番入門以降程度。
‣ シュミット「ベートーヴェンの主題による協奏的変奏曲 より 2.主題(スケルツォ)」(1923年作曲)[LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、楽曲全体の冒頭部分 1-3小節)

フランツ・シュミット(1874-1939)が作曲した、左手ピアノと管弦楽のための協奏的変奏曲で、1924年2月2日にヴィトゲンシュタイン自身の独奏で初演されました。主題に選ばれたのは、ベートーヴェンの「ヴァイオリンソナタ 第5番《春》Op.24 第3楽章」のスケルツォで、緩やかな序奏は、この主題の登場を準備する形で書かれています。譜例は、楽曲全体の冒頭部分です。
演奏時間は全曲で約28分、難易度はツェルニー50番入門以降程度。
‣ マレオ「左手のための2つの練習曲 より 第2曲 スケルツォ」(1924年出版)[LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

エリック・マレオ(1891-1958年頃または1960年頃)は、オーストラリア出身の作曲家・ピアニスト・音楽監督で、「エリック・カーティス」の筆名でも作品を発表しました。
悲歌的な第1曲「Lament」とは対照的に、軽快でリズミカルな性格を持つ小品です。全体がAllegrettoで進み、第1曲よりテンポが速く、音数も増えて技巧的な密度が高まっています。和音を中心とした進行部分と、単音主体で動く部分とが入れ替わるように現れる構成で、その対比が聴きどころと言えるでしょう。「ノラに」と献辞が添えられています。
演奏時間は約1分30秒、難易度はツェルニー30番修了〜40番入門程度。
‣ ランロワ「ある手のために…(左手のための小品)」(1936年頃出版)[LH]
※作曲者の没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。
テオ・ランロワは1909年生まれのベルギーの作曲家ですが、没年は明らかになっていません。
AndanteにScherzoが続く2部構成の小品で、作曲者の妻に献呈されました。Andanteの冒頭から歌謡性と華やかさをあわせ持ち、楽譜にはフェルマータや小音符、rubatoやテンポの変化を示す用語が随所に書き込まれています。譜面からも、自由な音楽づくりが伝わってくる作品です。
難易度はツェルニー40番修了程度。
‣ コル・デ・フロート「左手と管弦楽のための幻想変奏曲 より 第3楽章 スケルツォ」(1960-1962年作曲)[LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
コル・デ・フロート(1914-1993)は1959年に右手に障がいを負い、それがきっかけで、多くの作曲家が彼のために左手作品を書きました。
全7楽章からなる、デ・フロート自身による協奏曲で、第1〜3楽章の序奏・夜想曲・スケルツォがひとつ目のグループにあたり、スケルツォはその締めくくりに置かれています。各グループの内部はアタッカで続けて演奏されます。作品全体は活気に満ちた大規模なものですが、独奏ピアノの書法は比較的簡潔にとどめられています。
演奏時間は全曲で約22分、難易度はツェルニー50番入門以降程度。
※コル・デ・フロートは、「コル・デ・グロート」という表記が用いられることもあります。
コル・デ・フロートについてさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くコル・デ・フロート:オランダ左手ピアノ音楽の一章
‣ ティングリー「スケルツィーノ(左手のための)」(1999年出版)[LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
ジョージ・ピーター・ティングリー(1950- )が作曲した、分散和音とスケールを組み合わせたシンプルな書法による、速いテンポのスケルツォ。
跳躍を随所に交えながら進み、アクセントやスタッカート、スラーなどの指示によって、メロディの各所に表情の違いが与えられています。短いながらも起伏に富んだ小品です。
演奏時間は約40秒、難易度はブルグミュラー25の練習曲中盤程度。
楽譜:Scherzino (for left hand alone)(alfred.com)
► 作品一覧表
| 作曲家 | 作品 | 演奏形態 | 成立年 | 演奏時間 | 難易度目安 |
|---|---|---|---|---|---|
| ライネッケ | Op.179 より 第3楽章 | LH | 1884年作曲 | 約3分30秒 | ツェルニー50番入門以降 |
| レーガー | 4つの特別な練習曲 より 第1曲 | LH | 1901年作曲 | 約2分30秒 | ツェルニー40番修了 |
| リソフスキー | 3つの小品 より 第3曲 | RH | 1904年頃出版 | 約4分 | ツェルニー40番修了 |
| サルトーリオ | 10の旋律的小品 Op.20 より 第4曲 | LH | 1915年出版 | 約1分50秒 | ツェルニー40番修了 |
| ボウエン | カプリース Op.42-2 | RH | 1916年頃出版 | 約3分 | ツェルニー40番修了 |
| ブラウン | 3つのピアノ小品 より 第1曲 | LH | 1922年作曲 | 約7分 | ツェルニー50番入門以降 |
| シュミット | ベートーヴェンの主題による協奏的変奏曲 より 主題(スケルツォ) | LH | 1923年作曲 | 約28分(全曲) | ツェルニー50番入門以降 |
| マレオ | 2つの練習曲 より 第2曲 | LH | 1924年出版 | 約1分30秒 | ツェルニー30番修了〜40番入門 |
| ランロワ | ある手のために… | LH | 1936年頃出版 | – | ツェルニー40番修了 |
| コル・デ・フロート | 幻想変奏曲 より 第3楽章 | LH | 1960-1962年作曲 | 約22分(全曲) | ツェルニー50番入門以降 |
| ティングリー | スケルツィーノ | LH | 1999年出版 | 約40秒 | ブルグミュラー25の練習曲中盤 |
※難易度表記はあくまで目安です。片手演奏への慣れや手の大きさなどによって実際の難しさは変わります。
► どの作品に取り組むか
これから片手のスケルツォ作品に触れてみたい方には、ティングリーの「スケルツィーノ」が取り組みやすいでしょう。演奏時間が短く、難易度も比較的抑えられているため、スケルツォらしい軽やかな曲想を気軽に味わうことができます。
さらに、ライネッケ、レーガー、サルトーリオなどの作品に取り組むと、スケルツォという性格が、跳躍やスタッカート、音型の対比など、さまざまな書法で表現されていることを実感できます。右手のための作品に関心がある方は、リソフスキーやボウエンの作品をチェックしてみましょう。
より大きな規模の作品に関心がある方は、ブラウンの作品にも目を向けてみてください。シュミットとコル・デ・フロートの作品は管弦楽を伴う協奏的作品のため、独奏曲として取り組むのとは性格が異なりますが、鑑賞を通じて、片手のスケルツォが大編成の中でどのように扱われているかを知ることができます。
► 終わりに
片手だけでスケルツォの諧謔的な性格を表現するという試みは、19世紀のソナタ楽章から、20世紀の協奏曲や教育用小品まで、時代やジャンルを超えて続いてきました。軽やかさや機知といった性格は、音数の限られた片手の書法だからこそ、かえって際立つところがあります。気になった作品から、ぜひ実際の音を確かめてみてください。
当サイトでは、作曲家・作品ごとに片手作品を整理した「左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別」を公開しています。スケルツォ以外の作品についても知りたい場合は、あわせてご覧いただければと思います。
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