【ピアノ】アドリエンヌ・E・ワイリー「Wonderful One-Handed Piano Music by Women Composers」レビュー
► はじめに
片手のためのピアノ音楽には、女性作曲家たちによる作品も少なくありません。
本記事で紹介する「Wonderful One-Handed Piano Music by Women Composers」は、そうした女性作曲家による片手作品ばかりを一枚に集めた、コンセプトの明確なアルバムです。ピアニスト、アドリエンヌ・E・ワイリー(Adrienne E. Wiley)の演奏で、普段はほとんど耳にする機会のない作曲家たちの作品に、まとめて触れることができます。
演奏:Adrienne E. Wiley(アドリエンヌ・E・ワイリー)
リリース:2023年
ストリーミング配信開始:2024年8月16日
レーベル:Centaur Records
総収録時間:約76分
録音:2021年6月25日、Blue Griffin Recording(アメリカ・ミシガン州ランシング)
本作は2025年9月現在、国内のAmazon.co.jpや楽天市場での取り扱いが確認できませんでした。試聴・購入をご希望の方は、Apple MusicやSpotifyでの配信のほか、Amazon.com(米国版)でのデジタル購入をご利用ください。
► 収録内容の詳細
‣ 収録曲一覧
| トラック | 曲 | 作曲家 | 演奏時間 |
|---|---|---|---|
| 1 | Three Preludes: I. Moderato | Yvonne Adair | 1:59 |
| 2 | Three Preludes: II. Andante | Yvonne Adair | 0:47 |
| 3 | Three Preludes: III. Allegro | Yvonne Adair | 1:22 |
| 4 | Melody | Miriam Hyde | 1:51 |
| 5 | The Circus: I. Trapeze Artist | Joan Lovell | 0:45 |
| 6 | The Circus: II. Bare-Back Rider | Joan Lovell | 0:42 |
| 7 | The Circus: III. Tight-Rope Walker | Joan Lovell | 0:43 |
| 8 | The Circus: IV. Elephant’s Waltz | Joan Lovell | 1:00 |
| 9 | The Circus: V. Dancing Bear | Joan Lovell | 0:33 |
| 10 | The Circus: VI. The Clown and the Bicycle | Joan Lovell | 1:20 |
| 11 | Pro-Tem Suite: I. Prelude | Esther Rofe | 0:54 |
| 12 | Pro-Tem Suite: II. Dance | Esther Rofe | 0:35 |
| 13 | Pro-Tem Suite: III. Chorale | Esther Rofe | 2:40 |
| 14 | Nocturne | Dianne Goolkasian Rahbee | 1:31 |
| 15 | Serenade | Louise Chouquet | 2:40 |
| 16 | Twilight Shadows | Christina Hovemann | 2:02 |
| 17 | Evocation | Minuetta Kessler | 5:55 |
| 18 | Winter Piece | Margaret S. Brandman | 4:48 |
| 19 | Silkwater | Jean Hasse | 5:47 |
| 20 | Two Indispositions: I. Indisposed Right Hand | Marjorie Kisbey Hicks | 3:03 |
| 21 | Two Indispositions: II. Indisposed Left Hand | Marjorie Kisbey Hicks | 1:50 |
| 22 | Quiet Procession | Dulcie Holland | 3:51 |
| 23 | Concert Waltz | Miriam Hyde | 1:54 |
| 24 | Intermezzo | Miriam Hyde | 4:12 |
| 25 | Left Hand Study | Miriam Hyde | 1:06 |
| 26 | Rhapsodic Study | Miriam Hyde | 3:24 |
| 27 | Adventurous Saga | Dianne Goolkasian Rahbee | 7:15 |
| 28 | Fantasy on Lily Dale | Minnie Reese | 5:45 |
| 29 | Redowa | Emilie Altner de Résimont | 5:45 |
‣ アルバムの特徴
タイトルの通り、本作は「女性作曲家による片手ピアノ音楽」という、はっきりとしたコンセプトのもとに編まれたアルバムです。収録されている曲のうち、ほとんどは左手独奏のための作品ですが、例外が2つあります。
マージョリー・キスビー・ヒックス(Marjorie Kisbey Hicks)の「Two Indispositions より 第2曲 Indisposed Left Hand」は、「不調な左手」といった意味で、タイトルが示す通り右手独奏の作品として作曲されました。また、ダルシー・ホランド(Dulcie Holland)の「Quiet Procession」は、左右どちらの手でも演奏できるというコンセプトのもとに書かれました。
もう一つの特徴は、単に珍しい作品を並べただけのアルバムではないという点です。オーストラリアの作曲家、ミリアム・ハイド(Miriam Hyde)は、Melody、Concert Waltz、Intermezzo、Left Hand Study、Rhapsodic Studyの5曲が収録されており、同じくダイアン・ゴールカシアン・ラービー(Dianne Goolkasian Rahbee)の作品もNocturneとAdventurous Sagaの2曲が入っています。それぞれの作曲家についてある程度まとまった作品を聴くことができる、資料としての厚みも感じられました。
全体としては、メランコリックな雰囲気を持つ作品が多いのも印象的です。時代も地域も異なる作曲家の作品が並びますが、通して聴くと、内省的で落ち着いた作品が多いことに気づかされます。
‣ おすすめの曲
数ある収録曲の中でも特におすすめしたいのが、マーガレット・S・ブランドマン(Margaret S. Brandman)の「Winter Piece」です。全体を通して漂う暗さと孤独感が印象的で、中盤に現れる同じ音型を繰り返すオスティナート、そして終盤の高音域で単音が連なっていく部分が、冬の情景をそのまま音にしたかのような効果を生み出しています。
‣ 演奏の印象
ワイリーの演奏は、輪郭のはっきりした音色が持ち味と言えるでしょう。この特徴が、ジョーン・ロヴェル(Joan Lovell)やルイーズ・シュケ(Louise Chouquet)、あるいはエスター・ロフェ(Esther Rofe)の「Dance」のような、機敏に動きのある作品でとりわけ活きているように聴こえました。
なお、ミリアム・ハイド(Miriam Hyde)の作品のように、楽譜上にossia(代替パッセージ)が用意されているものもありますが、この録音ではより難度の高い方を選んで弾いているため、聴き応えという点でも満足感のある演奏に仕上がっています。
► 終わりに
「Wonderful One-Handed Piano Music by Women Composers」は、普段はなかなか耳にする機会のない女性作曲家による片手作品を、まとめて聴くことができる貴重なアルバムです。作品そのものだけでなく、20世紀以降の片手ピアノ音楽をたどるうえでも、興味深い一枚と言えるでしょう。
なお、本作に収められた全曲については、別記事「左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別」でも解説をしています。あわせてご覧ください。
女性作曲家特集記事
片手ピアノ音楽の資料、Donald L. Patterson「One Handed: A Guide to Piano Music for One Hand」掲載635名のうち、女性と推定される作曲家・編曲家は93名(約14.6%)。国別分布や生年による変化、ジャンル別の偏りなど、名前をもとにした集計から女性作曲家・編曲家の位置づけを考察します。
【ピアノ】片手音楽に関わった女性たち:パターソン「One Handed」に見る女性作曲家・編曲家の存在感
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