- 左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 W-Z
- ► はじめに
- ► 作曲家別 W-Z
- ‣ Wagenaar, Diderik(1946-) ディデリク・ワーヘナール
- ‣ Walker, Ernest(1870-1949) アーネスト・ウォーカー
- ‣ Webster, Michael マイケル・ウェブスター
- ‣ Weegenhuise, Johan(1910-2007) ヨハン・ヴェーヘンハウゼ
- ‣ Wehli, James M.(1832?-1887) ジェームズ・M・ウェーリ
- ‣ Weigl, Karl(1881-1949) カール・ヴァイグル
- ‣ Weiske, Johann Gottfried(1745?-1806) ヨハン・ゴットフリート・ヴァイスケ
- ‣ Wellman, Samuel(1951- ) サミュエル・ウェルマン
- ‣ Wells, Judy East ジュディ・イースト・ウェルズ
- ‣ Weybright, June(1903-1996) ジューン・ウェイブライト
- ‣ Wilcher, Phillip(1915-2010) フィリップ・ウィルチャー
- ‣ Wild, Earl(1915-2010) アール・ワイルド
- ‣ Williams, Grace(1906-1977) グレイス・ウィリアムズ
- ‣ Winding, August Henrik(1835-1899) アウグスト・ヘンリク・ヴィンディング
- ‣ Wissmer, Pierre(1915-1992) ピエール・ヴィスメール
- ‣ Wittgenstein, Paul(1887-1961) パウル・ヴィトゲンシュタイン
- ‣ Wittgraf, Michael マイケル・ウィトグラフ
- ‣ Wolf, Oskar オスカー・ヴォルフ
- ‣ Wright, Nannie Louise(1879-1958) ナニー・ルイーズ・ライト
- ‣ Wunder, Patrick M. パトリック・M・ヴンダー
- ‣ Wurm, Mary(1860-1938) メアリー・ヴルム
- ‣ Wurmser, Lucien(1877-1967) リュシアン・ヴュルムセール
- ‣ Wylie, Ruth Shaw(1916-1989) ルース・ショー・ワイリー
- ‣ Yeager, Jeanine(1938- ) ジャニーン・イェーガー
- ‣ Yedidia, Ronn(1960- ) ロン・イェディディア
- ‣ Zichy, Géza(1849-1924) ゲザ・ジチー
- ‣ Ziegler, Hans ハンス・ツィーグラー
- ‣ Zilcher, Hermann(1881-1948) ヘルマン・ツィルヒャー
- ‣ Zitterbart Jr., Fidelis(1845-1915) フィデリス・ツィッターバルト・ジュニア
- ‣ Zlatkovski, Alexander(1960- ) アレクサンダー・ズラトコフスキー
- ► 終わりに
左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 W-Z
► はじめに
本ページでは、W-Zで始まる作曲家の左手ピアノ作品をまとめています。作曲作品・編曲作品・教本・室内楽・協奏曲などを、作曲家ごとに整理しています。
作品を探す際は、以下のアルファベット別ページもご利用ください。
► 作曲家別 W-Z
‣ Wagenaar, Diderik(1946-) ディデリク・ワーヘナール
ディデリク・ワーヘナールは、オランダの作曲家です。1946年5月10日にユトレヒトで生まれ、成人してからは、ハーグを拠点に活動しています。作曲家ヨハン・ワーヘナール(Johan Wagenaar)を含む、音楽一家の出身とされます。8歳でピアノを始め、18歳でハーグの王立音楽院に入学し、ピアノをシモン・アドミラール(Simon Admiraal)に、楽理をヤン・ファン・ダイク(Jan van Dijk)らに学びました。修了後は、ケース・ファン・バーレン(Kees van Baaren)の分析のクラスにも通い、作曲への関心を深めていますが、作曲はほぼ独学とされています。1960年代半ばから、ジャズや、チャールズ・アイヴズ(Charles Ives)に惹かれています。
· Bells, Birds and Blue Notes(for piano left hand) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:鐘、鳥、ブルー・ノート(左手のための)
作曲年:2015年
演奏時間:約7分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Bells, Birds and Blue Notes : for piano left hand / Diderik Wagenaar(webshop.donemus.com)
冒頭部分
拍子の変化が多く、音型としても、ムソルグスキーの「展覧会の絵 より プロムナード」を思わせます。同じ音域にとどまる箇所と、音域を大きく使う箇所とが、使い分けられています。音域が広がる箇所では部分的に3段譜が使われているのも特徴と言えるでしょう。
「Medium swing tempo(♩.=116)」からの部分
「Medium swing tempo(♩.=116)」と書かれ、ジャズバンドのウッドベースのような動きが始まります。このセクションでは、1本の指で同時に2つの音を押さえるテクニックが連続的に出てくる箇所があり、技術的にも興味深い部分です。
‣ Walker, Ernest(1870-1949) アーネスト・ウォーカー
アーネスト・ウォーカーは、イギリスの作曲家・音楽学者です。1870年にインドのボンベイで生まれ、翌1871年に、両親とともにイギリスに移りました。1949年にオックスフォードで亡くなりました。ピアノをエルンスト・パウアー(Ernst Pauer)に、和声をアルフレート・リヒター(Alfred Richter)に学び、1898年に、オックスフォード大学で音楽博士号を取得しています。オックスフォードのベイリオル・カレッジでは、1891年から1901年まで助オルガニスト、1901年から1913年までオルガニスト、1901年から1925年まで音楽監督を務め、日曜の室内楽演奏会を企画して、自らピアノも弾きました。著書「History of Music in England」(1907年)でも知られています。作品は、合唱曲や歌曲を中心に、左手作品も数曲作曲しました。
· Study for the Left Hand Alone, Op.47 [LH]
邦題:左手のための練習曲
作曲年:1931年
出版:1931年、Augener
演奏時間:約5分10秒
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン
「written for(のために書かれた)」(出典:left-hand-brofeldt.dk)と記載があるように、パウル・ヴィトゲンシュタインのための作品とされています。
メランコリックで美しい、20世紀の調性音楽。随所に明るい和声が挟み込まれて少し光が差し、最後も明るい和声で余韻を残すかのように終わります。メロディ以外のパートが和音で動く箇所などは、独特の色気があります。
‣ Webster, Michael マイケル・ウェブスター
ウェブスターの下記作品を録音したセルヒオ・バレル(Sergio Barer)の公式プロフィールによれば、1980年代末の怪我のあと、バレルのために作品を書いた作曲家の1人とされています。
バレルについて詳しく知る
【ピアノ】セルジオ・バレル「Piano Music for One Hand」レビュー
· Canción
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:歌(カンシオン)
演奏時間:約3分50秒
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:セルヒオ・バレル(Sergio Barer)のCD「Piano Music For One Hand」(Corsaire Records、1992年)
各音に距離感があり、前景と遠景が感じられるうえ、少ない音数で引き締まった表現がされていて、絵画を見ているかのような作品。物悲しいメロディで、ところどころの大きめの跳躍が印象的です。後半では低音域にメロディが置かれ、深い響きの中で、やや明るさを帯びながら終わります。
· Danza
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:舞曲(ダンサ)
演奏時間:約3分20秒
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:セルヒオ・バレール(Sergio Barer)のCD《Piano Music For One Hand》(Corsaire Records、1992年)
運動的な曲で、細かなパッセージの中から、不思議な表情を帯びたメロディが浮かび上がる書法が中心です。多用される付点リズムは、片手が鍵盤の上で踊っている様子を想起させますが、これが作曲者の意図かどうかは、確認できていません。後半では、幅広い音域を使った花火のような表現になります。
‣ Weegenhuise, Johan(1910-2007) ヨハン・ヴェーヘンハウゼ
ヨハン・ヴェーヘンハウゼは、生涯のほとんどをアムステルダムで過ごした作曲家・オルガニストです。1932年からフォンデル教会、1951年から1967年にかけては洗礼者聖ヨハネ教会と、長年にわたり教会でオルガニスト・指揮者としての活動を続けました。作曲はヘンドリック・アンドリーセン、ダニエル・ロイネマンに師事しています。アムステルダムで没しました。
· Suite voor de linkerhand(voor piano) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のための組曲(ピアノのための)
作曲年:1976年
出版年:1976年
演奏時間:全曲合計 約7分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:F. A. Saris
楽譜:Suite voor de linkerhand : piano / Johan Weegenhuise
構成(全4曲)
第1曲 Allemande
第2曲 Sarabande
第3曲 Gavotte
第4曲 Gigue
作品について
古典的な組曲の形式(アルマンド・サラバンド・ガヴォット・ジーグ)を踏襲しながら、左手独奏のために書かれた曲集。各曲ごとに書法上の特徴がはっきりと打ち出されているのが持ち味です。例えば「第1曲 Allemande」は、単音の連続によるパッセージワークを中心とした書法が、わずか数箇所を除いて一貫しています。
‣ Wehli, James M.(1832?-1887) ジェームズ・M・ウェーリ
ジェームズ・M・ウェーリは、19世紀なかばに、ニューヨークとボストンで活躍したピアニスト・作曲家です。ニューヨークの音楽活動の記録データベース「Music in Gotham」には、1865年から1871年にかけて、本人の名を冠した昼の演奏会(マチネ)や、他の演奏家との共演など、この曲を含む演奏の記録が残っています。
· Home Sweet Home for the Left Hand Alone [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:ホーム・スイート・ホーム(左手のための)
作曲年:1865年にニューヨークで演奏された記録があり、それ以前と考えられる
出版年:1870年
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:編曲作品(独奏)
作品の背景
原曲は、イギリスの作曲家ヘンリー・ビショップ(Henry Bishop)の歌曲「Home! Sweet Home!」で、アメリカの俳優・劇作家ジョン・ハワード・ペイン(John Howard Payne)の1823年のオペラ「Clari, or the Maid of Milan」に使われた旋律です。日本では、「埴生の宿」の題名で知られています。ウェーリの曲は、この旋律を主題にした左手のためのパラフレーズとして構成されました。
音楽的な特徴
まるでオペラを聴いているようなコンサート・ピースとして書かれている編曲作品。アルペジオを中心とした、装飾的なパッセージに彩られた、華やかな作品です。16小節の序奏がありますが、トレモロなどが使われていて、オーケストラを思わせます。
‣ Weigl, Karl(1881-1949) カール・ヴァイグル
カール・ヴァイグルは、オーストリア生まれ、のちにアメリカで活動した作曲家です。1881年2月6日にウィーンで生まれ、1896年から、アレクサンダー・ツェムリンスキー(Alexander Zemlinsky)に個人的に師事しました。ウィーン音楽アカデミーでロベルト・フックス(Robert Fuchs)に作曲を、ウィーン大学でグイド・アドラー(Guido Adler)に音楽学を学んでいます。アントン・ヴェーベルン(Anton Webern)は同窓でした。1904〜06年には、ウィーン宮廷歌劇場で、グスタフ・マーラー(Gustav Mahler)のもとで、練習指揮者を務めました。1938年にナチス・ドイツがオーストリアを併合すると、2番目の妻ヴァリー(Vally Weigl)と息子とともに、アメリカに亡命し、1943年に帰化しました。1948年からは、フィラデルフィア音楽アカデミーで教えました。1949年にニューヨークで亡くなっています。
· Klavierkonzert Es-Dur für die linke Hand [LH]
邦題:左手のためのピアノ協奏曲 変ホ長調
作曲年:1924年(1924年7月に完成。カール・ヴァイグル財団による)
出版:
2010年、Universal Edition(U.E. 33 090 新しく浄書したフルスコアとパート譜)
ほかに、2台ピアノ用の編曲譜が、American Composers Alliance(ニューヨーク)から、1924年頃に出版
演奏時間:約35分
分類:オリジナル作品(協奏曲)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン
編成:独奏ピアノ、2-2-2-2、4-2-0-0、ティンパニ、弦楽
楽譜:Universal Edition(U.E. 33 090)
構成(全3楽章)
曲は、3つの楽章からなります。
第1楽章 Allegro
第2楽章 Adagio
第3楽章 Rondo: Allegro
第1楽章にカデンツァがあり、第2楽章と第3楽章は続けて演奏されます。
作品の背景
パウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱による作品。ヴィトゲンシュタインは、この曲を、公には演奏しなかったとされます(カール・ヴァイグル財団の記載)。
音楽的な特徴
1924年の作曲ですが、同時代の左手協奏曲の中ではとても保守的で、分かりやすい作品です。ロマン派の時代の名残が強く感じられます。
‣ Weiske, Johann Gottfried(1745?-1806) ヨハン・ゴットフリート・ヴァイスケ
ヨハン・ゴットフリート・ヴァイスケは、18世紀ドイツの作曲家・カントル(教会の音楽監督)です。1745年に生まれました(1746年とする資料もある)。声楽曲と鍵盤曲の両方を書き、ヨハン・アダム・ヒラー(Johann Adam Hiller)が編集した曲集に、モテットや、小さなクラヴィーア曲が収められています。1806年に亡くなりました。
· Sonata VI à tre mani(from Sechs Sonaten für Clavierspieler der mittlern Classe) [LH/RH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1楽章 1-4小節)
-1st-movement_mm1-4.png)
邦題:中級の鍵盤奏者のための6つのソナタ 第6番 3手のためのソナタ
作曲年:不明
出版:1804年?、Hoffmeister und Kühnel(ライプツィヒ)
演奏時間:全曲合計 約4分30秒
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度(片手奏者のパート)
分類:オリジナル作品(室内楽、3手連弾)
楽譜:Sechs Sonaten für Clavierspieler der mittleren Classe incl. der Sonate D-Dur zu drei Händen / Johann Gottfried Weiske(stretta-music.dk、編:W. Franke、S. Rauh)
構成(全3楽章、急・緩・急)
第1楽章 Allegro 約2分
第2楽章 Andante 約1分10秒
第3楽章 Scherzando 約1分20秒
曲集「6 Sonaten」の第6曲で、6曲のうち3手のソナタはこの曲のみです。この項目では、片手作品関連の第6曲のみを扱っています。
楽譜に印刷された作曲者自身による序文(英語)の要点
作曲者は序文で、音楽を副次的に楽しむクラヴィーア奏者は数多くいながら、そうした奏者は、鍵盤楽器の曲をほとんど何でも買い込むものの、実際に使うのはわずかだと述べています。曲は簡単すぎて単純か、難しすぎて学問的かのどちらかが多く、彼らが求めるのは頭を使わせて楽しませるが疲れさせない曲だ、としています。作曲者は、自分も中級の奏者に数えているので、少なくともいくつかの楽章では、彼らの好みを満たせたかもしれない、と述べています。
音楽的な特徴
急・緩・急の3楽章からなる、規模のコンパクトな、明るく快活なソナタ。3段はカッコでまとめられていますが、最上段が片手のパートで、いずれの楽章でも片手のパートが主にメロディを弾きます。ただし、第2楽章は比較的、両手パートの右手と片手パートとの掛け合いなども多めに出てきます。
‣ Wellman, Samuel(1951- ) サミュエル・ウェルマン
サミュエル・ウェルマンは、1951年、アメリカ・インディアナ州アンダーソン生まれの作曲家・ピアニストです。リーノアー・ライン大学で音楽教育を学んだのち、フロリダ州立大学で音楽理論の修士号、作曲の博士号を取得しました。1970年代からフロリダ州のワーナー・サザン大学でピアノや理論、音楽史を教え、1992年からはヴァージニア州リンチバーグのリバティ大学音楽学部でピアノを中心に教鞭をとっています。1987年にはフロリダ州音楽教師協会から委嘱作曲家賞を受けました。生涯を通じてピアノ曲を中心に多くの作品を残しています。
· Eight Waltzes for Left Hand(or for right hand, if you insist)Op.75 [LH/RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のための8つのワルツ(あるいは、どうしてもとおっしゃるなら右手のための) Op.75
作曲年:1992年
演奏時間:約8分(全8曲)
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:EIGHT WALTZES FOR LEFT HAND (or for right hand, if you insist) OPUS 75(American Composers Alliance)
作品の背景、音楽的な特徴
副題に「あるいは、どうしてもとおっしゃるなら右手のための」と添えられているように、左手・右手いずれでも演奏できる書法で書かれたワルツ集。
全曲を通じて比較的シンプルな書法でまとめられており、聴かせたい声部がはっきりと浮かび上がってくるのが特徴です。音の数自体は多くないからこそ、スタッカートやスラーといったアーティキュレーションを丁寧に表現することが求められ、演奏者の解釈の余地も大きい作品集と言えます。
作曲家自身の書簡より
作曲家自身、この作品集についてこう語っています。ワルツという様式が持つシンプルさと、作曲家の意図に応じて自在に形を変えられる柔軟性に以前から惹かれていたこと、そして昨今の片手用作品には難易度が高すぎる、あるいは実際には弾きこなせないものが少なくなく、それが曲の魅力をかえって損なっていると感じていたこと。だからこそこのOp.75では、あえて演奏しやすい作品を目指し、片手だけでもワルツに求められる要素を十分に満たせるということを示したかった、と述べています(Piano Music for the Left Hand Alone, left-hand-brofeldt.dk 所収のウェルマン氏からの書簡より)。
‣ Wells, Judy East ジュディ・イースト・ウェルズ
ジュディ・イースト・ウェルズは、アメリカ・ミシシッピ州出身のピアニスト・作曲家・教育者です。サザン・ミシシッピ大学で音楽教育の学位を取得しました。公立学校での音楽指導や、ミシシッピ州・ジョージア州の教会でのオルガニスト経験を経て、ジョージア州エヴァンスを拠点にピアノ教師としての活動を展開しました。
· Vagabond Clouds(for left hand alone) [LH]
※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。
邦題:さすらう雲(左手のための)
出版:1999年、Alfred Music(Signature Series)
演奏時間:約1分
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Vagabond Clouds (for left hand alone) (alfred.com)
Allegro moderato(♩=126)、3/4拍子のワルツ・リズムに乗って奏される作品。アルペジオを中心とした書法で書かれています。曲名からは緩やかな曲想を思い浮かべがちですが、実際のテンポはそれほど遅くなく、曲想・曲名・テンポの組み合わせから、どのような音楽として表現するかは演奏者の解釈に委ねられている部分の大きい小品と言えます。
‣ Weybright, June(1903-1996) ジューン・ウェイブライト
ジューン・ウェイブライトは、アメリカの作曲家・音楽教育者です。1903年にインディアナ州ジェファーソンヴィルで生まれ、1996年に亡くなりました。セントルイスのレオ・ミラー音楽院、ワシントン大学、ジュリアード音楽院で学び、1925年から教え始めています。ピアノ教本と教育用のピアノ曲で知られ、数多くの作品を出版したほか、音楽理論の教材なども書きました。
· To an Ice Skater [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:氷上のスケーターに
作曲年:不明
出版:1956年(楽譜の表示、初出版かどうかは不明)、Belwin, Inc.(ニューヨーク州ロックヴィル・センター)
演奏時間:約1分30秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:欧州の古書市場などで稀に出回ることがある
表紙には、スケートをする雪だるま(スノーマン)の可愛らしいイラストがあります。非常にシンプルな音遣いで作られたワルツで、表紙のスノーマンのイラストのとおり、片手の演奏を楽しめる曲想を持っています。
‣ Wilcher, Phillip(1915-2010) フィリップ・ウィルチャー
フィリップ・ウィルチャーはオーストラリアの作曲家・ピアニストです。作曲家ミリアム・ハイドから高く評価されたことをきっかけに、ドクター・フランツ・ホルフォードに師事する機会を得て、以後7年間にわたる薫陶を通じて音楽のみならず美術や文学にも視野を広げました。
かつてはJ. Albert & Sons社のクラシック・教育部門でアシスタント・エディターを務め、後にABC(オーストラリア放送協会)でも仕事をしました。
その作風は幅広い様式性を持ち、様々な文化圏の和声を取り入れていると評されています。教育用の易しい作品から高度な技巧を要する作品まで手掛け、1991年に発売された《The Wiggles》のデビューアルバムへの教育的貢献によりオーストラリア・レコード産業賞を2度受賞しました。
APRAの終身会員に選出されており、Australian Music Teacher誌の理事も務め、ショパンやブラームス、ラヴェルに関する寄稿も行っています。
· Andante Teneramente and Etude for Left Hand [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のための《アンダンテ・テネラメンテとエチュード》
出版: 2011年4月初版(作曲者自身による校訂)
演奏時間:第1曲 約1分30秒、第2曲 約1分
難易度:第1曲 ツェルニー30番修了〜40番入門程度、第2曲 ツェルニー40番中盤程度
献呈:ゲルハルト・エックレに献呈
分類:オリジナル作品(独奏)
構成(全2曲)
I. Andante Teneramente
II. Etude(Allegro vivace)
各曲の特徴
「第1曲 Andante Teneramente」は、2ページの小品です。第2曲のエチュードとはテンポのうえで対照的な性格を持ちますが、6度音程の連続が不意に現れる箇所があるなど、両曲に通じる音の運びも見られます。伴奏部分が不意に消え、旋律が無伴奏状態になる箇所がいくつも現れるのが印象的で、静けさと親密さを感じさせる曲想を持っています。作曲者自身による運指・ペダル指示はありません。
「第2曲 Etude」は、Allegro vivaceの速度指示を持つ、2ページの練習曲です。同じく運指・ペダル指示はありません。6度・5度音程の連続が課題の中心となっており、「Meno suono(より音を抑えて、ひそやかに)」という指示が曲中に2度現れます。速度標語こそAllegro vivaceとされていますが、実際の曲の印象はこの標語が与える快活さとはやや異なる落ち着きを感じさせるところがあります。
‣ Wild, Earl(1915-2010) アール・ワイルド
アール・ワイルド(1915年11月26日ピッツバーグ生まれ、2010年1月23日パームスプリングス没)はアメリカのピアニスト・作曲家です。マルグリット・ロン、エゴン・ペトリらに師事しており、師の系譜をたどるとシャルヴェンカ、ダルベール、ブゾーニへと連なります。
1937年からNBC交響楽団のピアニストを務め、1939年にはアメリカで初めてテレビのピアノ・リサイタルを行った人物としても知られています。1942年のトスカニーニ指揮によるNBCラジオ放送でガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」を演奏し、その名が広く知られるようになりました。以降は特にガーシュウィンの演奏と編曲において第一人者として評価され、リスト、ショパン、ラフマニノフのディスコグラフィーでも高い評価を受けました。
1977年からジュリアード音楽院ピアノ科の教員を務め、94歳で亡くなる直前まで指導を続けました。
· Etude No.3 for the Left Hand Alone(Based on Gershwin’s “The Man I Love”) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手独奏のためのエチュード 第3番(ガーシュウィン「ザ・マン・アイ・ラヴ」に基づく)
作曲年:1954年(左手版の初稿)、1975年改訂
演奏時間:約2分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:編曲作品(独奏)
収録:Virtuoso Etudes after Gershwin(G. Schirmer)、「An Anthology of Piano Music for the Left Hand Alone」(編:ルビー・モーガン/Carl Fischer)
Virtuoso Etudes after Gershwin 全体について
ガーシュウィンの有名な曲を素材とした7曲の編曲集で、ワイルドが長年演奏会のアンコールなどで磨き上げてきた作品群です。1954年に作られた初期の6曲セットでは、「The Man I Love」のみが左手独奏用として書かれ、他は両手用でした。その後1975年に、「The Man I Love」の両手版への書き直しと他曲の改訂、さらに「Fascinatin’ Rhythm」の追加が行われ、現在広く演奏されている全7曲(すべて両手用)の構成となりました。
第3番(左手独奏)について
現在、曲集の第3番として広く知られているのは1975年の両手版ですが、本項目で取り上げるのは1954年に書かれたオリジナルの左手独奏版です。
ガーシュウィンの「私の彼氏(ザ・マン・アイ・ラヴ)」(1924年)を素材とした左手独奏のためのパラフレーズです。原曲はもともと複数のミュージカルに組み込まれる予定でしたが最終的に外され、1931年に出版されたピアノ曲集「George Gershwin’s Songbook」に収録されました。
シンプルなメロディをアルペジオや随所に半音階を織り交ぜた伴奏で装飾した作りで、ゴドフスキー「ショパンのエチュードによる練習曲 より No.16 Op.10-6」のアレンジを思い起こさせます。ガーシュウィンの旋律の魅力を保ちつつ、ロマン派的なパラフレーズの手法で彩った仕上がりです。
‣ Williams, Grace(1906-1977) グレイス・ウィリアムズ
グレイス・ウィリアムズは、ウェールズ・バリー生まれの作曲家です。カーディフ大学でデイヴィッド・エヴァンスに学んだのち、ロンドンの王立音楽大学に進み、ゴードン・ジェイコブとラルフ・ヴォーン・ウィリアムズに作曲を師事しました。さらにウィーンに渡ってエゴン・ヴェレスにも学んでいます。1949年には、映画「Blue Scar」の音楽を手がけ、長編映画の音楽を担当した最初期のイギリス人女性の一人となりました。
· Sarabande for Eiluned [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:エイルネッドのためのサラバンド
作曲年:1958年
出版年:1991年
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:アイルネッド・デイヴィス(友人の音楽家)のために
楽譜:GRACE WILLIAMS: Saraband for Eiluned
作品の背景
この曲は1958年、ウィリアムズの友人であったピアニスト・作曲家のアイルネッド・デイヴィスのために書かれました。デイヴィスは事故により一時的に右手が使えなくなっており、その慰めとして作られた小品です。楽譜には「Piece for the Left hand(左手のための小品)」と書かれているのみで、手稿のまま眠っていました。1991年の出版にあたり、作曲家の遺族の了承のもとで「Sarabande for Eiluned(エイルネッドのためのサラバンド)」という表題が正式に採用されました。
音楽的な特徴
重い足取りを思わせる開始から始まり、中盤以降はより悲劇的な性格を帯びていきます。音数自体はそれほど多くありませんが、一つ一つの音に重みが感じられる作品です。
‣ Winding, August Henrik(1835-1899) アウグスト・ヘンリク・ヴィンディング
アウグスト・ヘンリク・ヴィンディングは、デンマーク・ロラン島のトーシュ生まれのピアニスト・作曲家・教育者です。カール・ライネッケとアントン・レーエにピアノを、ニルス・ゲーゼに理論・作曲を学び、さらにライプツィヒとプラハでアレクサンダー・ドライショクにも師事しました。ピアニストとして当時のデンマークを代表する存在でしたが、1867年に酷使がもとで腕を痛め、演奏活動から退いています。同年、王立デンマーク音楽院(コペンハーゲン)の教師となり、1881年からは教育活動を再開しました。コペンハーゲンで没しています。
· Trois Morceaux de piano, Op.27(Pour la main gauche seule) [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)
-1.Capriccio_1-5.png)
邦題:ピアノのための3つの小品 Op.27(左手のための)
出版年:1888年頃
演奏時間:全曲合計 約8分50秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構成(全3曲)
第1曲 Capriccio 演奏時間:約1分50秒
第2曲 Canzonetta 演奏時間:約3分
第3曲 Finale 演奏時間:約4分
第1曲 Capriccio
コンパクトな作りながら、覚えやすいメロディとテクニックの見せ場を兼ね備えた、まとまりの良い曲。メロディに増2度進行を含むなど特徴的な響きを持ち、やや情熱的な感情も感じさせます。音型がよく考えられており、弾きにくさは少なく、踊りの足どりを思わせるオクターヴのトレモロも登場します。
第2曲 Canzonetta
大部分で、カンタービレな表情とレッジェーロな表情が同居する書法が取られている曲。2小節目に現れる16分休符を含むリズム素材が、曲全体を通じて用いられていきます。最後を除けば音域はあまり広く取られず、中域を中心に進みます。
第3曲 Finale
幅広いテクニックと音域、そして多彩な曲想の変化を持つ曲で、この曲単独でも1つのコンサートピースのような充実感を感じることでしょう。一方、第1曲・第2曲で現れた特徴的な要素が、回想するかのように顔を出す場面もあります。中盤からは狩の音楽を思わせる曲想となり、2/2拍子と6/8拍子の交替が頻繁に現れます。
‣ Wissmer, Pierre(1915-1992) ピエール・ヴィスメール
ピエール・ヴィスメールは、スイスのジュネーヴに生まれ、のちにフランス国籍を取得した作曲家です。ジュネーヴ音楽院で学び、ロベール・カサドシュから助言を受けました。その後パリに出て、スコラ・カントルムでダニエル=ルシュールに対位法を、エコール・ノルマル音楽院でシャルル・ミュンシュに指揮を学びました。ジュネーヴ音楽院では1944〜48年と1973〜86年に作曲などを教え、1957年からはスコラ・カントルムでも教えました。また1969〜81年には、ル・マン音楽院(École nationale de musique du Mans)の院長を務めています。
· Trois études pour piano [LH][RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ピアノのための3つの練習曲
出版年:1968年頃
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
作品の背景
片手のための練習曲2曲と、両手のための練習曲1曲からなる、無調語法で書かれた曲集。第3曲は両手のための作品のため、本サイトでは個別の解説を省略します。
第1曲 Étude pour la main droite 演奏時間:約3分20秒
右手のための練習曲。一度「オチ」をつけて仕切り直すという展開が繰り返され、その連続によって曲が形作られています。後半になるにつれて動きが多くなり、鍵盤の広い音域を使いながら、不意に曲を終えます。
第2曲 Étude pour la main gauche 演奏時間:約4分
左手のための練習曲。第1曲よりも運動的な性格を持ち、終盤に差し掛かるあたりで現れる中低音域のトリルが印象的です。抽象的な書法の中に、どこかタンゴを思わせるような音のグルーピングも聴かれるのが特徴と言えるでしょう。この曲も、不意に曲を終える点は第1曲と共通しています。
‣ Wittgenstein, Paul(1887-1961) パウル・ヴィトゲンシュタイン
パウル・ヴィトゲンシュタイン(1887-1961)は第一次世界大戦での負傷により右腕を失ったウィーンのピアニストです。その後も国際的な演奏活動を続け、ラヴェル、プロコフィエフ、リヒャルト・シュトラウス、ブリテンら多くの作曲家に左手独奏のための新作を委嘱したことでも知られています。晩年はニューヨークへ移り、後進の指導にもあたりました。
ヴィトゲンシュタインをさらに詳しく知る
【ピアノ】パウル・ヴィトゲンシュタイン 完全ガイド:右腕を失ったピアニストが切り拓いた「左手音楽」の世界
· Chaconne by J.S. Bach for the left hand alone [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1–5小節)

邦題:J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004 より シャコンヌ(左手独奏編曲版)
出版年:1957年(「School for the Left Hand 左手のための教則本」第3巻に収録)
演奏時間:約15分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
「School for the Left Hand」は全3巻からなる大規模な集成で1957年に出版されました。第1巻が指の独立性を養う練習曲群、第2巻が名曲から編まれた応用練習、第3巻が演奏会用の編曲集という構成です。シャコンヌはこの第3巻に収められています。
ブラームス版を出発点としながらも、オクターブの重ねや技巧的なパッセージが大胆に書き加えられており、踏み込んだ書き換えが随所に施された版です。ヴィトゲンシュタイン自身は「音楽の内容そのものではなく、ピアノでの表現方法に手を加えた」と述べており、ブラームスもそれを意に介さないだろう、という趣旨の言葉も残しています。華やかで聴かせどころの多い、演奏会映えする編曲と言えるでしょう。
J.S.バッハ「シャコンヌ」の他の左手編曲と比較する
【ピアノ】左手のみで演奏するJ.S.バッハ「シャコンヌ」編曲版の種類と背景
· cf. Isoldes Liebestod [LH]
(参考)Isoldes Liebestod(Wagner–Liszt)左手独奏版について
ヴィトゲンシュタイン編「School for the Left Hand」に収められている「イゾルデの愛の死」左手独奏版については、編曲者がヴィトゲンシュタイン自身なのか、イグナツ・フリードマンなのか、資料によって見解が分かれています。原出版譜には左手版の編曲者名が明記されておらず、ヴィトゲンシュタインは曲集全体の編者としてのみ名前が記されています。
より詳しくは、【ピアノ】左手作品から読み解くイグナツ・フリードマン:名ピアニストと帰属の定まらない左手編曲 を参考にしてください。
‣ Wittgraf, Michael マイケル・ウィトグラフ
マイケル・ウィトグラフは、アメリカの作曲家で、とくに電子音楽を専門としています。カールトン大学で数学の学士号を取り、ミネソタ大学で作曲の修士号(1994年)、ノースウェスタン大学で作曲の音楽博士号(1997年)を得ました。ノースダコタ大学の音楽学部で、チェスター・フリッツ特別教授(Chester Fritz Distinguished Professor)を務めるほか、作品は国際的に演奏されています。この曲を捧げられたピアニスト、ナリアキ・スギウラ(Nariaki Sugiura)とは、同じ大学の同僚で、作曲者自身が「友人」と呼んでいます。
· Of Islands(Theme and Nine Variations on a Caribbean Folk Tune) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:島々の(カリブ海の民謡による主題と9つの変奏)
作曲年:2021年
演奏時間:約9分20秒
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:友人のピアニスト、ナリアキ・スギウラのために(作曲者の解説)
音源:CD《Unbound: American Piano Music for the Left Hand》(Nariaki Sugiura, piano、Centaur Records、CRC 4168、©2026)の第19曲(【ピアノ】ナリアキ・スギウラ「Unbound: American Piano Music for the Left Hand」レビュー)
作品の背景
CDの解説書にある作曲者の言葉によれば、この曲は、2021年に書かれた、左手のためのピアノ曲です。カリブ海の民謡による9つの変奏からなり、使われているメロディは、ジャズ・サクソフォン奏者のソニー・ロリンズが有名にした「St. Thomas」という曲として知られているものとのこと。
CDの解説書に、作曲者自身の言葉が載っています。それによれば、以下のような趣旨のことが書かれています。
・通常の変奏曲では主題が最初に示されるが、この曲では、主題は最後に示され、その前に9つの変奏が置かれている
・狂詩曲風(ラプソディック)の序奏で始まり、すぐに、同じく狂詩曲風の変奏が続く
・第2変奏から第7変奏は次第に複雑になる一連の変奏で、そのなかで、ジャズの和声も、次第に複雑になっていく
・第8変奏と第9変奏は、ジャズのソロを模した単一の旋律線からなる
・リズムが次第に激しくなって、最後に主題そのものが現れ、遊び心のある終わりを迎える
音楽的な特徴
変奏曲では、主題があまり複雑だと、そこから派生する変奏の可能性が制限されてしまうため、主題はシンプルに分かりやすく作られることが多くあります。この作品では、その主題を最後に持ってきたことでラストへ向けて音楽が軽くなっていくため、独特の面白さを感じることでしょう。
‣ Wolf, Oskar オスカー・ヴォルフ
オスカー・ヴォルフについては、生没年を含む詳しい経歴は確認できませんでした。判明しているのは、ロマン派の作風による作品を残したこと、そして本作を含む曲集「アフォリズム集 Op.7」が、プラウエン・イム・フォークトラントの上級教師フリードリヒ・シュナッケンベルクに献呈されたことです。
· Aphorismen Op.7-5 [LH]
※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。
邦題:アフォリズム集 Op.7 第5曲
作曲年:不明
出版年:1912年
演奏時間:約2分30秒
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:フリードリヒ・シュナッケンベルク(プラウエン・イム・フォークトラントの上級教師)
作品の背景
「アフォリズム集 Op.7」は、性格の異なる6曲からなる曲集です。第5曲のみ「Linke Hand allein(左手独奏)」と指定されており、他の5曲は両手のために書かれました。
音楽的な特徴
「Andante non tanto — Allegretto ma non troppo — Andante non tanto(Tempo I)」という、大きく3つの部分からなる構成をとっています。中間のAllegretto ma non troppoの部分は、前後のAndante non tantoの部分に比べてより簡潔な書法で書かれています。メロディが2オクターヴにわたって跳躍する箇所などが特徴的ですが、全体としてはサロン風の趣の小品と言えるでしょう。
‣ Wright, Nannie Louise(1879-1958) ナニー・ルイーズ・ライト
ナニー・ルイーズ・ライトは、アメリカ・ミズーリ州フェイエット生まれのピアニスト・作曲家・教育者です。シカゴのコロンビア音楽学校を卒業し、ピアノをメアリー・ウッド・チェイス、ベルリンのヨーゼフ・レヴィーンに師事しました。1909年にフェイエットへ戻ってハワード=ペイン大学の教員となり、のちにセントラル・メソジスト大学スウィニー音楽院の初代学部長も務めています。協奏曲などの演奏会用作品から教育用の小品まで、幅広い作品を残しています。
· Prelude in F major, Op.25 No.5
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:前奏曲 ヘ長調 Op.25-5
出版年:1915年
演奏時間:約50秒
難易度:ツェルニー30番修了~40番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:E.R.クローガー
作品の背景
全12曲からなる曲集「12の前奏曲 Op.25」の第5曲として収録されています。左手独奏はこの曲のみで、他の11曲は両手用です。
音楽的な特徴
軽やかで穏やかな曲想を持つ作品。各小節ごとに音の跳躍が含まれますが、ほぼ同じパターンが繰り返される書法のため、弾きやすさもあります。曲の最後では、それまで繰り返し用いられてきたリズムが引用され、「calando(次第に弱く遅く)」の指示とともに力を失っていくように曲を閉じます。
‣ Wunder, Patrick M. パトリック・M・ヴンダー
パトリック・M・ヴンダーは、ドイツ語圏で活動する作曲家です。自作の楽譜を出版するヴンダー出版(Wunderverlag)の名義で、演奏動画なども公開しています。
· Nocturne c-moll(für die linke Hand alleine) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:夜想曲(左手のための)
作曲年・出版年:不明
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー30番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
終始、暗い雰囲気に包まれた夜想曲。中低音域のみが使われ、高音域は一度も現れません。混沌とした箇所も含まれ、複雑な感情が表現されています。
作曲家側のYouTubeチャンネルの動画説明では、「左手だけのための、中級程度の小品」と紹介されています。
作曲家自身によるYouTubeチャンネルより
· Waldlichtung(Forest Clearing) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:森の空き地(《右手のための週末休暇》より)
英題:Forest Clearing(from “Free Weekend for the Right Hand”)
作曲年・出版年:不明
演奏時間:約50秒
難易度:出版側の表記は「leicht bis mittelschwer(易〜中級)
分類:オリジナル作品(独奏)
作品の背景
作曲家側のYouTubeチャンネルの動画説明では、本作は「《右手のための週末休暇》に収められた、左手だけで弾く易しい小品」と紹介されています。ピアノを習い始めて3〜4年目以降で、1オクターヴに手が届く奏者であれば演奏できるとされています。
曲集名に「右手のための」とありながら、この曲が左手独奏である点については、「右手を休ませる」という意味の題名だと考えられますが、これは推測に過ぎません。
音楽的な特徴
3拍子のメランコリックな小品。途中で一度だけ和声が明るくなり、小さな光が差し込むように感じられます。
作曲家自身によるYouTubeチャンネルより
‣ Wurm, Mary(1860-1938) メアリー・ヴルム
メアリー・ヴルム(1860年サウサンプトン生まれ、1938年ミュンヘン没)は、ドイツ系の家系に生まれたイギリスのピアニスト、作曲家です。クララ・シューマンに師事し、1900年から自ら結成した女性だけのオーケストラを率いてツアーを行いました。なお、Marie Verneという筆名を用いていたことも知られています。
· 2 Studies, Op.42 [LH][RH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)
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邦題:2つの練習曲 Op.42
出版年:1906年
演奏時間:約2分30秒
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Mme de Serres
構成:第1曲=左手のための(Delicatamente)/第2曲=右手のための
第1曲 Delicatamente(左手のための)
As-durによるアルペジオの練習に始まり、中間部ではE-durによる16分音符の分散和音の練習へと移り、再びAs-durのアルペジオの練習に戻るという、大きく3部からなる構成をとっています。各部にはそれぞれ異なる訓練目的が見て取れ、単一の課題に留まらない構成的な練習曲になっています。
· Piano Studies for the Left Hand, Op.51(Pianoforte Studien für die linke Hand allein/Etudes de piano pour la main gauche seule) [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第3曲 1-2小節)

邦題:左手のためのピアノ練習曲集 Op.51
出版年:1911年
演奏時間:番号による(第2〜5曲は性格小品)
難易度:ツェルニー40番中盤〜修了程度
分類:オリジナル作品+編曲(独奏)
構成(全5曲)
第1曲 Vierzig tägliche Studien(40の日課練習) 献呈:姉ティリー(Mathilde Verne)
第2曲 Lied ohne Worte(無言歌) 献呈:Marie Wieck
第3曲 Idylle(牧歌) 献呈:Elisabeth Caland
第4曲 Trällerliedchen(小さな鼻歌) 献呈:姉アリス
第5曲 ショパン「ノクターン Op.9-2」左手独奏編曲 献呈:姉アデラ(Verne)
第1曲 Vierzig tägliche Studien(40の日課練習)
第1番から第40番まで、いずれも単旋律1段のみで記譜された練習曲集。各番号には、アルペジオ、トリル、指の交叉、装飾音など、それぞれ独自の訓練目的が設定されており、数小節分のパターンが提示された後は「etc.」として同型の反復が指示される構成になっています。第9番のように、左手のみで鍵盤の最低音域から最高音域までを渡り歩くという、左手演奏ならではの課題を扱った曲も含まれています。
第2曲 Lied ohne Worte(無言歌)
同じリズム型をひたすら反復しながら、和声の移り変わりによって聴かせていく作品。わずかずつ変化していく響きの推移に、静かな美しさが感じられます。
第3曲 Idylle(牧歌)
同一の技術的課題を繰り返すエチュード風の書法をとりながらも、性格小品としての楽曲性も併せ持つ作品です。
第4曲 Trällerliedchen(小さな鼻歌)
軽やかさをたたえた、タイトルのとおり愛らしい印象の小品。スタッカートとテヌート・スタッカートが使い分けられており、その微妙な差異によって表情に細やかなニュアンスが生まれています。
第5曲 ショパン「ノクターン Op.9-2」左手独奏編曲
ショパンの名曲を左手独奏用に編曲した作品。部分的にはやや不自然さの残る箇所もありますが、旋律の配置音域に工夫を凝らすことで、左手一本でも作品として成立させています。
この編曲に見られる独特の記譜法については、【ピアノ】左手作品に見る興味深い記譜法コレクション でも解説しています。
‣ Wurmser, Lucien(1877-1967) リュシアン・ヴュルムセール
リュシアン・ヴュルムセールは、パリ生まれのピアニスト・作曲家・指揮者です。6歳でピアノを始め、9歳でパリ音楽院に入学、1893年、16歳でピアノのプルミエ・プリ(第1位)を獲得しました。その後、ヴィルトゥオーゾ・ピアニストとしてフランス内外で活躍し、数年後には指揮者としても活動しています。ドビュッシーやサン=サーンスらの作品の初演にも携わったとされ、ジャック・ティボー、ジョルジェ・エネスクといった名ヴァイオリニストとも共演しました。作曲家としても複数の作品を残しました。
· Le Gradus Moderne II:Main gauche seule [LH]
邦題:グラドゥス・モデルヌ 第2集:左手独奏
作曲年 / 出版年:不明
演奏時間:約1分30秒
分類:オリジナル作品(独奏)
単音の連なりによるパッセージワークを中心とした、無窮動のエチュード風の作品。中間部分では、パッセージの中から哀愁を帯びたメロディが浮かび上がってきます。曲の最後は上行しながら、ノンストップで一気に終わります。
‣ Wylie, Ruth Shaw(1916-1989) ルース・ショー・ワイリー
ルース・ショー・ワイリー(1916年シンシナティ生まれ、1989年没)はアメリカの作曲家・教育者です。イーストマン音楽学校で1943年に作曲の博士号を取得しており、同校で作曲の博士号を取得した最初の女性とされています。指導を受けたバーナード・ロジャースとは生涯にわたって交流が続きました。その後ウェイン州立大学で作曲の教授として長く後進を育成し、即興的な室内楽アンサンブルへの取り組みでも知られています。
· Soliloquy for Piano, Left Hand, Op.23 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のためのソリロクイ(独白) Op.23
作曲年:1966年
出版年:1966年
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
委嘱:George Osius
初演:George Osius、ローレンス大学(アップルトン、ウィスコンシン州)、1966年
収録:「An Anthology of Piano Music for the Left Hand Alone」(編:ルビー・モーガン/Carl Fischer)
右手を負傷した元教え子のジョージ・オシウスへの献呈作品です。
ワイリー自身は「freely recitative; with bitter introspection(自由なレチタティーヴォ風;苦みを帯びた内省とともに)」と説明しています。それもあり、テンポの揺れのニュアンスが比較的多く指示されているのが特徴と言えるでしょう。
深い低音は度々用いられていますが、高音域の使用が少なく、全体的に中低域を中心とした響きを重視した仕上がりになっています。
Ruby Morgan(2021年のアンソロジー解説)によれば、作曲家としてのワイリーは新古典主義的な出発点から、動機の継続的な発展へと書法を進化させており、このソリロクイはその転換期に位置する作品とされています。
‣ Yeager, Jeanine(1938- ) ジャニーン・イェーガー
ジャニーン・イェーガーはアメリカの作曲家です。片手を非伝統的な方法で用いる(1本の指、2本の指、親指のみ、ナックルなど)作品を数多く手がけています。
· A Bit of Bop [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ちょっとしたバップ
出版年:1989年
演奏時間:約1分
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:To Ben Merrill
楽譜:ちょっとしたバップ ~「ジャスト・フォー・ファン」より(Musse.jp)
演奏形態について
両手で弾くことを想定した大譜表で書かれた作品ですが、左手のみでも容易に演奏できる構成として、片手音楽事典にも収録されています。曲集「Just for Fun」は、右手に制約のある学生のために書かれたアンソロジーであり、「A Bit of Bop」はパターソンの事典では左手独奏の項目に分類されています。
音楽的な特徴
下段に上段の音よりも高い音域の音が置かれる箇所が多く見られ、譜読みのうえで面白さを感じさせる構成になっています。細かく書き込まれたアーティキュレーションの扱いが、曲全体の表情を大きく左右する要素と言えるでしょう。ブルーノートが用いられ、随所にブルースらしい雰囲気が漂う作品です。
運指は下段(左手パート)にのみ記されており、これは大譜表を両手で弾く際の左手の運指と考えていいでしょう。曲頭には「Light and bouncy!(軽やかにはずんで!)」という指示があり、また「Any finger, or thumb, may be used.(どの指、または親指を使ってもかまいません)」との注記も添えられています。これは、右手に制約を持つ奏者を想定した導入期の教本にしばしば見られる指示で、特定の指番号にこだわらず、自由に動かせる弾きやすい指を使っていいという意味です。
· Beginnings [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:始まり
出版:1989年頃
演奏時間:約55秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:始まり ~「エスペシャリー・フォー・ユー」より(Musse.jp)
演奏形態について
両手で弾くことを想定した大譜表で書かれた作品ですが、右手のみでも容易に演奏できる構成として、片手音楽事典にも収録されています。曲集「Especially for You」は、上記「Just for Fun」とは反対に、左手に制約のある学生のために書かれたアンソロジーであり、「Beginnings」はパターソンの事典では右手独奏の項目に分類されています。
音楽的な特徴
メジャーセブンスコードなど、ポピュラー音楽で多用されるハーモニーを用いた作品で、素早い跳躍を伴う軽快なリズムが特徴と言えるでしょう。
運指は両手で演奏する場合を想定して書かれています。曲頭には「Brightly(生き生きと)」という指示があり、また「Any finger may be used.(どの指を使って弾いてもかまわない)」との注記も添えられています。
‣ Yedidia, Ronn(1960- ) ロン・イェディディア
ロン・イェディディアは1960年イスラエル・テルアビブ生まれのピアニスト、作曲家です。8歳でイスラエル青年演奏家コンクールに優勝した神童ピアニストとして活動を始め、アルフレッド・コルトーの高弟であったプニナ・ザルツマンに師事しました。15歳で作曲へと軸足を移し、ジュリアード音楽院でデイヴィッド・ダイアモンドとミルトン・バビットに学び、作曲の博士号を取得しています。1991年の修了後は、当時の現代音楽の主流的傾向から距離を置き、旋律・和声・形式・劇的対話といった伝統的な調性語法の再構築を志向する独自の作風を歩み始めました。
作曲家による公式情報
作曲家の公式HP(WORKS)では、以下の片手作品についての解説や楽譜情報へのリンクが公開されています。
· Grand Etude No.1(for the right hand) [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:12の大練習曲 第1巻 より 第1番(右手のための)
作曲年:1993年
演奏時間:約5分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:レオン・フライシャー
作品の背景
右手の局所性ジストニアにより長期間にわたり両手によるレパートリーを演奏できなかったピアニスト、レオン・フライシャーに献呈された作品です。フライシャーはその後、医療の進歩により機能の一部を取り戻し、両手での演奏・録音活動を再開しています。本作は、長らく麻痺していた手の動きと能力が奇跡的に回復し、栄光への復帰を果たす様子を思い描いた、いわばユートピア的な幻想として書かれました。
様々な調を経ながら展開する、物語的な構成をとっています。もともとは右手のために書かれた作品ですが、左手のみでも演奏可能とされています(作曲者本人による解説より)。
音楽的な特徴
「Moderato sensibile con rubato(中庸の速さで、情感豊かに、ルバートを伴って)」という発想標語のもと開始され、”sempre legato”(常にレガートで)、”con molto espressione”(豊かな表情をもって)といった言葉による指示が多く添えられているのが特徴の一つです。
· Grand Etude No.11「Tragic」(for the left hand alone) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:12の大練習曲 第1巻 より 第11番「悲劇的」(左手のための)
作曲年:1996年
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:作曲者自身に
作品の背景
作曲者自身の証言によれば、本曲の持つ暗く重い響きが、作曲者自身に自らの悲劇的な最期を思い描かせるという特異な体験をもたらし、その結果、作品を自分自身に献呈するという異例の選択に至ったといいます。旋律とリズムの面でシューベルトから、和声とピアニズムの面でラフマニノフから、それぞれ異なる角度での影響を受けているとされています。全編にわたり緩やかなテンポで進行しながら、個人の苦闘と英雄性を体現する内容になっており、曲の終わりは沈痛な嘆きとともに、消え入る形で閉じられます。
音楽的な特徴
「Moderato profondo e buio(中庸の速さで、深く、暗く)」という発想標語のもと、con rubatoの指示で開始されます。楽譜には”tragico”(悲劇的に)、”più luminoso”(より光を帯びて)、”profondo”(深く)、”fatale”(運命的に)といった、演奏解釈に関わる細やかな言葉による指示が随所に書き込まれており、単なる強弱記号やテンポ指定に留まらない、詩的な性格付けがなされている点が特徴と言えるでしょう。「bring out top voice(最上声部を際立たせて)」という指示も見られ、和音の中に埋め込まれた旋律線を歌わせることが重視されています。
‣ Zichy, Géza(1849-1924) ゲザ・ジチー
ゲザ・ジチー(1849-1924)はハンガリーの伯爵で、若年期の狩猟事故により右腕を失ったピアニストです。その後も演奏活動を続け、左手のみによる演奏技巧を高度な水準まで磨き上げました。リストとも親交があり、左手独奏のためのレパートリーを自ら開拓した先駆的な存在の一人として知られています。
ジチーについてさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くジチー:片腕だけで演奏会を切り開いた伯爵
· Original Works
– Six Etudes [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第3曲 アデルのワルツ 1-8小節)

邦題:6つの練習曲
出版年:1885年頃
演奏時間:全曲合計 約24分(3分、1分、4分、5分、6分、4分40秒)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構成
1. Sérénade(セレナード)
2. Allegro vivace
3. Valse d’Adèle(アデルのワルツ)
4. Étude(練習曲)
5. Rhapsodie hongroise(ハンガリー狂詩曲)
6. Le Roi des Aulnes(シューベルト「魔王」編曲)
リストに捧げられ、リスト自身が序文を書いた曲集。ジチーとリストの交流が本格化した時期に生まれた作品群で、第3曲「アデルのワルツ」はリストが後に両手版に編曲したことでも知られています。第1曲「セレナード」は両手用の楽曲と見まがう書き方で、高音域と低音域をほぼ同時に扱う箇所が続きます。
– Four Etudes [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1曲 1-4小節)

邦題:4つの練習曲
作曲年:1885年頃
演奏時間:全曲合計 約9分30秒(2分30秒、1分50秒、1分30秒、3分)
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構成
1. Etude de Concert
2. Capriccio
3. Allegretto grazioso
4. Wiener Spässe(ウィーンの冗談)
ジチーが自身の演奏会で実際に取り上げていた作品群。第4曲「ウィーンの冗談」はレヴェンタール編のアンソロジー「Piano Music for One Hand」に収録されており、4曲の中では最も広く知られています。第4曲にはカデンツァ風のパッセージが含まれており、演奏会映えする書き方になっています。
– Sonata [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1楽章 1-2小節)

邦題:左手のためのピアノソナタ
出版年:1887年
演奏時間:約14分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構成
第1楽章 Allegro
第2楽章 Andante serioso
第3楽章 Allegro con brio
ライネッケのソナタと並ぶ、19世紀における左手独奏ピアノソナタの最初期の一つ。3楽章構成で、第2楽章の書き出しにはシューベルトのピアノ曲を思わせる温かみがあります。第3楽章にはカデンツァ風のパッセージも現れ、演奏会を意識した側面も持っています。
後の左手作品に見られるような「片手の運動原理を前提とした書法」とは異なり、両手用の書法を左手用に転換したような印象が残る部分があるのは否めません。左手音楽がまだ発展途上にあった時代の記念碑的な作品と言えるでしょう。
– Deux Morceaux de Piano pour la main gauche seule [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、ディヴェルティメント 1小節目)

邦題:2つの小品
出版年:不詳
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構成
1. Sérénade(セレナード)
2. Divertimento(ディヴェルティメント)
2曲のうち演奏効果が高いのはディヴェルティメントですが、全編にわたって同型の分散和音が続くため、エチュード的な性格も強い作品です。鍵盤の広い音域を活かした華やかな作品です。
– Konzert in E-flat major [LH]
邦題:ピアノ協奏曲 変ホ長調
出版年:1895年
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
献呈:イザベラ大公妃殿下
構成
第1楽章 Energico
第2楽章 Andante al Ongarese
第3楽章 Allegro con brio
左手のピアニスト自身が作曲した最初の左手協奏曲とされています。厚みのある和音、オクターブ、全音域にわたる跳躍が続く、技術的要求の高い作品です。第2楽章はハンガリー風の書き方で、ロマのヴァイオリンやツィンバロンを思わせる音色が現れます。ソロとオーケストラが対話的に進む構成をとっており、全3楽章にわたってソロの見せ場が随所に設けられています。
· Arrangements
– Chaconne by J.S. Bach for the left hand alone [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1–5小節)

邦題:J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004 より シャコンヌ(左手独奏編曲版)
出版年:1883年
演奏時間:約15分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
1883年出版。ジチーがJ.S.バッハの原曲から直接編んだのではなく、ヨアヒム・ラフによる両手版ピアノ編曲を下敷きとして左手用に書き直したものとされています。さらにそのラフ版自体、フランツ・リストが着手しながら未完に終わらせたものの影響下にある可能性も指摘されており、複数の編曲の流れが交わって成立した一作と位置づけられます。
J.S.バッハ「シャコンヌ」の他の左手編曲と比較する
【ピアノ】左手のみで演奏するJ.S.バッハ「シャコンヌ」編曲版の種類と背景
– Polonaise für die linke Hand, Op.40 No.1 by Frédéric Chopin [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1–3小節)

邦題:ショパン:ポロネーズ イ長調 Op.40 No.1(左手独奏版)
出版年:1883年頃
演奏時間:約3分50秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
ショパンの「軍隊ポロネーズ」の左手独奏版です。編曲の方針上、全体的にリズムの間延びが目立つ箇所もありますが、41-48小節付近は左手の運動特性をよく活かした自然な書き方になっており、演奏しやすくなっています。
– Le Roi des Aulnes (Erlkönig). Arrangement of a Schubert lied [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:シューベルト:魔王(左手独奏版)
出版年:1885年頃
演奏時間:約4分40秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
シューベルトの歌曲「魔王」の左手独奏編曲版で、ジチーとリストの交流が始まるきっかけとなった作品です。後に6つの練習曲集の第6曲としても収録されています。
– Fantasie über Motive aus R. Wagners Tannhäuser [LH]
邦題:ワーグナー:タンホイザーによる幻想曲(左手独奏版)
出版年:1883年頃
演奏時間:約15分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
ワーグナーのオペラ「タンホイザー」の主題を用いた左手独奏のための幻想曲です。演奏時間は約15分に及び、アルカンのOp.76-1と並んで左手独奏作品の中では大規模な部類に入ります。
– Liszt: Liebesträume No.3 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1–2小節)

邦題:リスト:愛の夢 第3番(左手独奏版)
出版:未出版(IMSLPに手稿譜より採譜した校訂版として公開)
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
主要な左手作品事典には掲載されていない、未出版の編曲。冒頭に原曲にはない幻想的な分散和音による4小節の序奏が付け加えられており、その後に有名な主題が現れます。
手稿譜が現存しており、ジチー自身の手によるものであることは確認されています。IMSLPでは「ジチーの手稿譜を原典とした採譜版」として公開されました。
「Geza Zichy: Complete Piano Transcriptions」のライナーノーツによると、リスト自身はこの編曲に満足していたようです。
‣ Ziegler, Hans ハンス・ツィーグラー
ハンス・ツィーグラー(1896年11月11日ゲッティンゲン生まれ、没年不詳)はドイツの作曲家・音楽教育者です。ミュンヘン大学とテュービンゲン大学で哲学と音楽学を修め、1920年以降はテュービンゲンを拠点に音楽教師として活動しました。
· Klage [LH/RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:嘆き
作曲年:不明
演奏時間:約1分(16小節)
難易度:ツェルニー30番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「片手で弾くピアノ曲集」(編:ヴァルター・ゲオルギイ/音楽之友社)ほか
ラルゲットへの序奏的な役割も果たしており、2曲セットで演奏されることを前提とした作品。わずか16小節の小品ですが、その中で複数の拍子変化が要求されます。d-mollを感じさせる音遣いながら最後まで主和音を聴かせないモーダルな書法で、調性感をあえて宙吊りにしたまま曲が閉じます。
· Larghetto [LH/RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ラルゲット
作曲年:不明
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「片手で弾くピアノ曲集」(編:ヴァルター・ゲオルギイ/音楽之友社)ほか
6/8拍子によるモーダルな作品です。機能和声の枠からはみ出した半音階的な和声が続くため、近現代の音楽に馴染みがないと最初はとっつきにくさを感じるかもしれません。ただ、d-mollの主題が繰り返し戻ってくることで曲全体にメリハリが生まれており、聴き手の拠り所となっています。
ゲオルギイ編の楽譜集では、このラルゲットのペダリングについて詳しい文章解説が添えられており、学習上の参考になります。
‣ Zilcher, Hermann(1881-1948) ヘルマン・ツィルヒャー
ヘルマン・ツィルヒャー(1881年フランクフルト生まれ、1948年ヴュルツブルク没)はドイツの作曲家・ピアニスト・指揮者です。フランクフルトで音楽を学んでピアニストとしてデビューし、1920年からヴュルツブルク音楽学校で教授と指揮者の両方を務め、同地の音楽界を長年にわたって支えました。作風は後期ロマン派の流れに属しており、100曲以上の作品を世に出しています。
· Präludium [LH/RH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-6小節)

邦題:前奏曲
作曲年:不明
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「片手で弾くピアノ曲集」(編:ヴァルター・ゲオルギイ/音楽之友社)ほか
備考:左右どちらの手でも演奏可能
ブラームスを思わせる叙情性を持つ作品。約4分の中に多彩な書法とテンポ変化による場面転換がバランスよく盛り込まれており、また演奏時の身体の動きが考慮された書き方になっています。
どちらの手でも演奏できる作品ですが、音域が中低域に重心を置いているため、左手での演奏のほうが難易度は低く感じられるでしょう。
‣ Zitterbart Jr., Fidelis(1845-1915) フィデリス・ツィッターバルト・ジュニア
フィデリス・ツィッターバルト・ジュニアは、アメリカのペンシルベニア州ピッツバーグ生まれの作曲家で、ヴァイオリニスト、ヴィオラ奏者、教育者でもありました。1873年まではニューヨークで演奏活動をし、その後、ピッツバーグに戻って、アンドリュー・ウィリアムズ・アメリカン音楽院で教え、自身の音楽院(Zitterbart Conservatory)も設立しました。作品は1000曲を超え、交響曲、協奏曲、オペラ、ソナタ、弦楽四重奏曲など、多岐にわたりますが、ほとんどが生前には出版されませんでした。
· Valse(from Suite for Piano No.9) [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-6小節)
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邦題:ワルツ(ピアノのための組曲 第9番)
作曲年:手稿は、1890年代から1900年代初めのものと推定されている
出版:未出版(手稿のみ、ピッツバーグ大学図書館所蔵)
演奏時間:約3分
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
構成
序奏(Introductione)、ワルツ1〜3、フィナーレ
作品の背景
この曲は「Suite for Piano No.9」の第4曲で、組曲は5つの曲からなり、1. Praeludio、2. Allegretto、3. Allegro-militaire、4. Valse(for the left hand alone)、5. Finale. Allegro appassionato “The Fairy council” となっています。このワルツの「フィナーレ」は、組曲全体の終曲(第5曲)とは別のものです。
音楽的な特徴
ワルツ1〜3は、それぞれ性格が多少異なりますが、変化はさほど大きくありません。最後は、animatoになって、活発に、力強く終わります。
‣ Zlatkovski, Alexander(1960- ) アレクサンダー・ズラトコフスキー
アレクサンダー・ズラトコフスキー(Alexander Zlatkovski)は、ロシア生まれで、アラスカを拠点に活動するピアニストです。1960年にモスクワで生まれ、モスクワ音楽院の実践課程で学びました。1990年代にイスラエルへ移り、1999年にアラスカへ移住して、アラスカ・ダンス・シアターでリハーサルの伴奏者にも携わります。レパートリーは幅広く、ロシア、イタリア、ユダヤ、フランスの歌の自作編曲も手がけます。
· Greensleeves for the left hand alone [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:グリーンスリーヴス(左手のための)
作曲年:不明(動画の公開日は2013年12月28日)
出版年:不明
演奏時間:約2分40秒
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)
楽譜:作者への問い合わせによる販売(編曲者による公式動画の説明文による)
作品の背景
動画の説明文によると、この編曲は、スクリャービンのOp.9-1に取り組んだあと、自分自身への挑戦として作られました。現代の片手のピアニストが、インタビューで、「二つの手で弾いているように聴かせることが目標」と語ったのを受けて、豊かな質感と通常の両手演奏のような、充実した響きを目指したといいます。一方で、より大切な目標は、技巧を見せるだけではなく、5本の指だけで弾くという自ら課した制限に妨げられずに、この音楽の美しさと和声を芸術作品として示すことだったと述べています(動画の説明文の要旨)。
音楽的な特徴
有名な曲の旋律を使ったパラフレーズ。旋律が伸びている間に細かい音符を数多く弾くという、左手編曲の定石に沿った書法で、広い音域を使っているのも特徴の一つです。
動画では、右手にワイングラスを持ったまま左手で弾くという、一種のパフォーマンスが見られます。
演奏音源(編曲者自身のYouTubeチャンネル)
► 終わりに
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