- 左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 D-F
- ► はじめに
- ► 作曲家別 D-F
- ‣ De Greef, Arthur(1862-1940) アルチュール・ドゥ・グレーフ
- ‣ Decombes, Émile(1829-1912) エミール・ドゥコンブ
- ‣ Dichler, Josef(1912-1993) ヨーゼフ・ディヒラー
- ‣ Dickinson, Edward B.(1853-1946) エドワード・B・ディキンソン
- ‣ Döhler, Theodor(1814-1856) テオドール・デーラー
- ‣ Dohnányi, Ernő(Ernst von)(1877-1960) エルンスト・フォン・ドホナーニ
- ‣ Drago, Alejandro アレハンドロ・ドラゴ
- ‣ Drewett, Louise(1989- ) ルイーズ・ドゥルーエット
- ‣ Dreyschock, Alexander(1818-1869) アレクサンダー・ドライショク
- ‣ Dubugnon, Richard(1968- ) デュビュニョン
- ‣ Dupont, Auguste(1827-1890) オーギュスト・デュポン
- ‣ Dussek, Jan Ladislav(1760-1812) ヤン・ラディスラフ・ドゥシーク
- ‣ Dyachenko, Valery(1946- ) ヴァレリー・ディヤチェンコ
- ‣ Eckartz, Hubert(1903-1962) フーベルト・エカールツ
- ‣ Eckhardt-Gramatté, Sophie-Carmen(1899-1974) エックハルト=グラマッテ
- ‣ Edwards, Ross(1943- ) ロス・エドワーズ
- ‣ Elias, Brian(1948- ) ブライアン・エリアス
- ‣ Escande, Pablo(1971- ) エスカンデ
- ‣ Felderhof, Jan(1907-2006) ヤン・フェルダーホフ
- ‣ Fibich, Zdeněk(1850-1900) ズデニェク・フィビフ
- ‣ Fine, Vivian(1913-2000) ヴィヴィアン・ファイン
- ‣ Flügel, Gustav(1812-1900) グスタフ・フリューゲル
- ‣ Foerster, Josef Bohuslav(1859-1951) ヨゼフ・ボフスラフ・フェルステル
- ‣ Foote, Arthur(1853-1937) アーサー・フット
- ‣ Fox, Felix(1876-1947) フェリックス・フォックス
- ‣ Franklyn, John ジョン・フランクリン
- ‣ Friedman, Ignaz(1882-1948) イグナツ・フリードマン
- ‣ Frost, Bernice(1892-1976) バーニス・フロスト
- ‣ Fumagalli, Adolfo(1828-1856) アドルフォ・フマガッリ
- · Notturno-Studio Op.2 [LH]
- · Studio da Concerto: nell’opera Lucia di Lammermoor Op.18 No.1 [LH]
- · Studio da Concerto: coro nell’opera I Lombardi di Verdi “o Signore! del tetto natio” Op.18 No.2 [LH]
- · “Casta diva che inargenti” nell’opera Norma di Bellini Op.61 [LH]
- · Andante nel Mosé (Mi manca la voce) Op.102 [LH]
- · Grande Fantaisie sur Robert le Diable de Meyerbeer Op.106 [LH]
- ► 終わりに
左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 D-F
► はじめに
本ページでは、D-Fで始まる作曲家の左手ピアノ作品をまとめています。作曲作品・編曲作品・教本・室内楽・協奏曲などを、作曲家ごとに整理しています。
作品を探す際は、以下のアルファベット別ページもご利用ください。
► 作曲家別 D-F
‣ De Greef, Arthur(1862-1940) アルチュール・ドゥ・グレーフ
アルチュール・ドゥ・グレーフは、ベルギーのピアニスト・作曲家です。1862年10月10日に、ルーヴェンで生まれました。ブリュッセル音楽院に進み、ルイ・ブラッサンらに師事して、17歳で卒業しました。その後、2年間、ヴァイマルでリストに学んでいます。ヨーロッパ各地で演奏旅行を行い、サン=サーンスとも共演しました。グリーグとは親しく、グリーグは、彼を、自作の最良の演奏家と評したと言われています。長年、ブリュッセル音楽院でピアノを教え、1919年には、王冠勲章のコマンドゥールを受けています。1940年8月29日に亡くなりました。
· Mouvement perpétuel pour la main gauche(Nouvelles études de concert No.2) [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)
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邦題:左手のための無窮動(「新しい演奏会用練習曲集」より)
作曲年:不明
出版年:不明
演奏時間:約5分30秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Mademoiselle Berthe Laventurier
「Nouvelles études de concert」は、6曲の練習曲からなる曲集で、このうち第2番だけが、左手のための作品です。
3度と6度が中心のエチュード。3度の連続、6度の連続はもちろん、3度と6度の組み合わせも出てきます。中盤にはdolceやespressivoの指示があり、より表情的になりますが、その後再び、3度と6度が中心のエチュードに戻ってきます。
‣ Decombes, Émile(1829-1912) エミール・ドゥコンブ
エミール・ドゥコンブは、フランスのピアニスト・ピアノ教師です。1829年にニームで生まれ、1912年にパリで亡くなりました。パリ音楽院(コンセルヴァトワール)で、ピアノの予備科(classe préparatoire)を教え、教え子には、アルフレッド・コルトー(Alfred Cortot)、エドゥアール・リスレル(Édouard Risler)、レイナルド・アーン(Reynaldo Hahn)、モーリス・ラヴェル(Maurice Ravel)、エリック・サティ(Erik Satie)らの名が挙がっています。古典派の協奏曲をピアノ用に編曲した叢書「École du Piano – Choix de Concertos des Maîtres」の校訂も手がけました。
· Petite méthode élémentaire de piano [LH/RH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第23曲 1-3小節)

邦題:ピアノの小さな初歩の教本
作曲年:不明
出版:1888年、Henri Heugel(パリ)
演奏時間:No.23 約3分、No.24 約2分50秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度(片手奏者のパート)
分類:編曲作品(室内楽、3手連弾)
備考:楽譜には編曲者名の表記はないが、教本の著者のドゥコンブと思われる
構成
初歩のピアノ教本。3手連弾の曲は、シューベルトの旋律を用いた編曲の2曲のみです。
・No.23 Adieu!
・No.24 Sérénade
作品の背景
曲集全体の曲数が多いため、この項目では、3手連弾の2曲のみを扱っています。2曲とも、パートには「L’élève(生徒)」と「Le professeur(先生)」の名が付いており、片手のパートは生徒で、先生は両手の2段のパートを弾きます。
序文の趣旨
ピアノの教本には、分量が多すぎたり、高価だったり、不十分だったりするものが多くあります。そのため、子どもの生徒と我が子の音楽教育を始める母親のために、必要な基礎的な事柄から、段階的な練習曲、歌、小品へと進む、小さな教本を作りました。横長の判型は、子どもが読みやすくするためです。この教本を学んだ生徒は、マルモンテル(Marmontel)、スタマティ(Stamaty)、ベルティーニ(Bertini)、ツェルニー(Czerny)の練習曲に進めます。
音楽的な特徴
3手の曲は両方とも、シューベルトの旋律を使った、教材用の編曲。両方とも、最上段が片手のパートです。片手のパートが旋律を弾き、両手のパートが伴奏を受け持つ形になっており、終始、役割分担が明確になっています。
‣ Dichler, Josef(1912-1993) ヨーゼフ・ディヒラー
ヨーゼフ・ディヒラーは、1912年ウィーン生まれのオーストリアのピアニストで、1993年に亡くなっています。作曲も手がけた他、ウィーン国立音楽アカデミーで教鞭を執り、ピアノ演奏法に関する著書も残しています。
ディヒラーの書籍を知る
・【ピアノ】ヨーゼフ・ディッヒラー「ピアノ演奏法の芸術的完成」レビュー(姉妹サイトへリンク)
・【ピアノ】ヨーゼフ・ディッヒラー「ピアノの解釈と限界」レビュー(姉妹サイトへリンク)
※ディヒラーは、「ディッヒラー」という表記が用いられることもあります。
· Intermezzo und Capriccio für die linke Hand allein [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のための間奏曲とカプリッチョ
出版年:1980年頃
演奏時間:約5分(間奏曲)
難易度:ツェルニー40番修了程度(間奏曲)
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:INTERMEZZO & CAPRICCIO FUR DIE LINKE HAND ALLEIN(crescendoalle.com)
構成(全2曲)
1. Intermezzo
2. Capriccio
作品の背景(間奏曲)
クラスターや不協和音を伴う箇所もありますが、全体を通じて聴き取りやすい和声進行も随所に織り込まれています。ジャズのエッセンスが色濃く感じられる作風で、また、断片的な素材が積み重ねられていくように構成されています。
用いられる音数自体は比較的シンプルながら、部分的に3段譜や4段譜が用いられており、音響の多層的な構造を視覚的にも把握しやすくする工夫と考えられるでしょう。
‣ Dickinson, Edward B.(1853-1946) エドワード・B・ディキンソン
編曲者エドワード・B・ディキンソンについて、詳しい経歴を伝える資料は多くありませんが、1853年生まれ、1946年没のアメリカの音楽家であったことが分かっています。左手独奏用の編曲作品を手がけており、本作はその代表的な一曲です。
· Kathleen Mavourneen: Transcription for the Left Hand Alone, Op.15 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:ケスリーン・マヴォーニーン(左手のための) Op.15
原曲:Crouch, Frederick William Nicholls / 歌曲「Kathleen Mavourneen」(1837年)
編曲:Dickinson, Edward B.(左手用編曲)、Op.15
出版年:1881年
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:編曲作品(独奏)
献呈:J. J. Quinn Esq.
本作は、19世紀に広く親しまれたアイルランド系の歌曲「Kathleen Mavourneen」を素材に、左手独奏用に書かれた演奏会用トランスクリプションです。原曲の主題が変奏を重ねながら発展していく構成になっています。
低い音域に音を密集させた分散和音で書かれている箇所が多く、曲全体が持つ雰囲気に対して、やや重たく感じられる響きになっているのは否めません。
冒頭には10小節ほどの、カデンツァを思わせる自由で短い序奏が置かれています。譜面上「Cadenza.」と記された箇所以降は一気に技巧的な性格を帯び、アルペジオやスケール、6度音程の連続、オクターヴの連続、トリルなどが次々と現れて、装飾的な盛り上がりをみせながら曲を締めくくります。
‣ Döhler, Theodor(1814-1856) テオドール・デーラー
テオドール・デーラーは、1814年ナポリ生まれ、1856年フィレンツェに没した、オーストリア系ユダヤ人のピアニスト・作曲家です。1825年以降ナポリでベネディクトに学んだのち、1829年頃ウィーンに移り、ピアノをツェルニーに、作曲をゼヒターに師事しました。
1836年から本格的な演奏旅行を開始しましたが、1846年にロシアの皇女と結婚したのちは公の場での演奏から退き、1848年以降はフィレンツェに定住しました。
ツェルニー門下という経歴を持ち、師と同様に左手のための作品を残した点は、19世紀前半のウィーン周辺で左手ピアノ音楽が特殊な例外ではなく、ある程度広がりを持つ主題として意識されていたことをうかがわせます。
デーラーについてさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くテオドール・デーラー:ツェルニーの弟子が遺した2つの片手作品
· 12 Études de Concert, Op.30 No.7 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:12の演奏会用練習曲 Op.30-7(前半部分が左手独奏)
出版:1839年
演奏時間:左手独奏部分のみで約2分、両手部分を含めた全体では約2分50秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
「12の演奏会用練習曲」のうち、第7番は冒頭から23小節目までが左手だけで演奏されるように書かれた曲です。楽譜の最初には「Mano destra tacet.(右手は休止)」との指示があり、片手のみで演奏が始まることがあらかじめ示されているのが特徴的と言えるでしょう。
自由なカデンツァ風の序奏が11小節にわたって置かれたのち、オクターヴを中心とした本体部分に入り、24小節目からは両手による演奏に移ります。両手になった箇所では、左手パートのみでも音楽的に成立している書き方で、そこに右手が32分音符による華やかな走句を添えるため、あたかも3本目の手が加わったかのような響きが生まれます。
· Étude de Concert pour la Main Gauche, Op.42 No.33 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:左手のための演奏会用練習曲 変ホ長調 Op.42-33
出版:Mainz: Schott(出版年不詳)
演奏時間:約3分40秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
全曲が左手のみのために書かれた演奏会用エチュードで、大きく前半と後半の2部に分かれる構成をとっています。
前半は、3連符による揺らめくような2声の伴奏を土台に、親指が旋律を担う書き方がされています。20小節目以降の後半に入ると一転して、幅広い音域を上下する16分音符の単音アルペジオが旋律を包み込むような書法に変わります。
後半の始まりでは、低音に pp のトリルが現れ、ペダルを踏み込んだまま持続させる指示が付されていますが、そこから生まれる地鳴りのような不穏な響きが、この作品で最も印象的な瞬間と言ってもいいかもしれません。このトリルは終盤でも現れ、その後、アルペジオが遠くへ消えていくように曲を閉じます。
‣ Dohnányi, Ernő(Ernst von)(1877-1960) エルンスト・フォン・ドホナーニ
エルンスト・フォン・ドホナーニは1877年ポジョニ(現ブラチスラヴァ)生まれ、1960年ニューヨーク没のハンガリーの作曲家・ピアニスト・指揮者です。王立音楽院でトマーンにピアノを、ケスラーに作曲を師事し、1898年のロンドン公演(ベートーヴェン「ピアノ協奏曲 第4番 Op.58」)で国際的な名声を確立しました。
1905年からベルリン高等音楽学校教授、のちブダペストの王立音楽院(リスト音楽院)院長やブダペスト・フィル首席指揮者を歴任し、バルトークやコダーイら次世代の音楽家を支える存在にもなりました。1948年に渡米し、フロリダ州立大学教授として生涯を終えています。
· Fugue for Left Hand or Two Hands [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:左手、または両手のためのフーガ
作曲年:1913年(自筆譜にはグムンデンにて1913年7月31日と記載)
出版:1962年(没後出版)
演奏時間:約4分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:オリヴァーソン夫人に献呈
作品の背景
原題には「進んだ技量を持つ左手一本のため、あるいは未熟な両手のため(für eine vorgeschrittene linke Hand oder für zwei zurückgeschrittene Hände)」というやや諧謔味のある副題が付されており、片手で弾きこなせるだけの技量があるなら、両手で弾く場合はむしろ易しく感じられるはずだ、というニュアンスが込められています。
音楽的な特徴
やや半音階的な進行を持つ4声フーガ。提示部で4つの声部が明確に示されたのち、次第に書法は自由さを増し、転回・ストレッタ(重なり合う主題の追いかけ)・拡大といった対位法的な技法が導入されていき、後半ではホモフォニック的な書法が楽曲を取り巻きます。
· For the Left Hand Alone(Twelve Short Studies for the Advanced Pianist No.7) [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1小節目)

邦題:左手のために(「上級ピアニストのための12の小練習曲集 第7番」より)
作曲・出版年:1950年頃(資料によっては1952年の表記もあり)
演奏時間:約2分40秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「An Anthology of Piano Music for the Left Hand Alone」(編:ルビー・モーガン/Carl Fischer)
作品の背景
本作は、ドホナーニが上級ピアニスト向けに書いた12の小品からなる練習曲集「Twelve Short Studies for the Advanced Pianist」の第7番です。本作は曲集の中で唯一「左手のみ」をテーマとして作曲されました。
音楽的な特徴
曲頭に「la melodia sempre molto espressiva e distinta(メロディは常に非常に表情豊かに、かつ明確に)」の指示があり、アルペジオ伴奏のバランスコントロールが求められます。
書法としては、スクリャービンの「左手のためのノクターン Op.9-2」と共通点を感じますが、6/8、9/8、12/8、15/8などの拍子が使い分けられており、より近現代的です。また、メロディやそれ以外の要素にも半音階が多く用いられており、この作品のサウンド的な特徴の一つと言えるでしょう。
‣ Drago, Alejandro アレハンドロ・ドラゴ
アレハンドロ・ドラゴは、アルゼンチン生まれの音楽家で、ヴァイオリン奏者、指揮者、作曲・編曲家です。モスクワ音楽院で、ロシア政府の奨学金を得てヴァイオリンを学び、演奏と教育法の修士号(Master of Fine Arts)を取りました。その後、サザンミシシッピ大学で、ヴァイオリン演奏の修士号と、2008年に管弦楽指揮の博士号(D.M.A.)を得ています。2008年より、ノースダコタ大学(グランドフォークス)の音楽学部での指導を開始しました。この曲を委嘱したピアニスト、ナリアキ・スギウラ(Nariaki Sugiura)とは、同じ大学の同僚です。
· Visions of Healing for Piano Left Hand [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:癒やしの幻影(左手のための)
作曲年・出版年:不明
演奏時間:全曲合計 約14分50秒
分類:オリジナル作品(独奏)
音源:CD《Unbound: American Piano Music for the Left Hand》(Nariaki Sugiura, piano、Centaur Records、CRC 4168、©2026)の第3〜5曲(【ピアノ】ナリアキ・スギウラ「Unbound: American Piano Music for the Left Hand」レビュー)
構成(全3曲)
I. Little Bear, All Is Well(小さなクマ、すべてはうまくいっている) 約4分50秒
II. Blue Jay, Come Sit By Me(アオカケス、私のそばに座って) 約4分50秒
III. The Eagle Loves You(ワシはあなたを愛している) 約5分10秒
作品の背景
CDの解説書に、作曲者自身の言葉が載っています。それによれば、以下のような趣旨のことが書かれています。
・最初は戦争のイメージを中心にアイデアを書いていた
・先住民の音楽を引用したり、模倣したりしたものではない
・ノースダコタ州ベルコートの、タートル・マウンテン・インディアン居留地で聴いた歌と、太鼓奏者から聞いた、その精神的・文化的な意味についての深い説明を通して、作曲者の内面に生まれた体験を、音楽で表した曲
音楽的な特徴
I. Little Bear, All Is Well
冷徹さや緊張感があり、儀式のような曲。同じリズムの繰り返しの中で、協和する和音と不協和な和音を、連続して聴かせていきます。これが曲の基本となり、分散和音のパッセージなどが、つなぎのように顔を出します。和声や音域は多少変化しますが、基本的に最後までこの方法で進みます。
II. Blue Jay, Come Sit By Me
同じ音型が繰り返されるなかでの小さな変化を楽しみたい曲。美しくもどこか不安な感じで始まり、中盤には、第1曲の和音の連続を思わせる部分があります。
III. The Eagle Loves You
第2曲が低い音域で終わり、そこから生まれるかのように低い音域で始まるのが印象的。低音域の深い響きが中心ですが、途中からは、金管楽器のファンファーレを思わせる音型が聴かれます。最後は、全曲の終曲にふさわしく、オーケストラのような盛り上がりを見せ、ペダルの効果で、不協和音と協和音をぶつけたクライマックスの和音で終わります。
‣ Drewett, Louise(1989- ) ルイーズ・ドゥルーエット
ルイーズ・ドゥルーエットは、ロンドンを拠点とするイギリスの作曲家です。ロンドンの王立音楽アカデミーで学び、2018年に修士課程を修了し、のちに博士課程に進みました。チャールズ・ルーカス作曲賞を2018年と2019年に受賞しています。のちに同アカデミーの作曲科講師となり、コミュニティ合唱団の団体「Sing Healthy」の共同ディレクターも務めています。
· Distant Bells(for the left hand) [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:遠くの鐘(左手のための)
出版年:2024年(ABRSM 公式版)
演奏時間:約60秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Distant Bells(for the left hand)(print-gakufu.com)
作品の背景
ABRSM(英国王立音楽検定)の公式版として出版されている作品で、楽譜の表紙には「ABRSM Official edition」と「for the left hand」の表示があります。
音楽的な特徴
不思議さと切なさがある全16小節の短い曲で、8小節の楽句が2回繰り返されます。
後半は前半と比べて音に多少違いがあり、最後に向けてわずかに明るく変化。ダイナミクスは後半のほうが抑えめで、遠ざかっていくような印象を与えます。
‣ Dreyschock, Alexander(1818-1869) アレクサンダー・ドライショク
アレクサンダー・ドライショクは、ボヘミア(現チェコ)出身のピアニスト・作曲家です。1818年にジャーキ(Žáky)で生まれ、1869年にヴェネツィアで亡くなりました。プラハで、ヴァーツラフ・トマーシェク(Václav Tomášek)に師事し、1838年末から演奏旅行を始め、ロシア、パリ、ロンドンなど、ヨーロッパ各地で活躍しました。オクターヴの技巧と、左手の演奏で名声を得て、ショパンの「革命のエチュード」の左手を、オクターヴで弾いたという逸話でも知られます。1862年に、サンクトペテルブルク音楽院の教授に招かれました。
ドライショクについてさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くドライショク:片手で二人分を弾いた男
· Variations pour la Main gauche seul Op.22 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:左手のための変奏曲 Op.22
作曲年:1843年頃
演奏時間:約7分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
導入部は朗唱風のパッセージから始まり、アンダンテ・コン・エスプレッシオーネの主題が提示され、アルベルティ・バスの伴奏に乗った叙情的なメロディーに続いて、3つの変奏とフィナーレが展開されます。
全曲を通して音域は幅広く取られていますが、すべて一段の楽譜で書かれているのが特徴と言えるでしょう。
· God save the Queen, variation Op.129 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」による大変奏曲 Op.129(左手のための)
作曲年:1854年以前
演奏時間:約8分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
タイトルのとおり英国国歌を素材にとった変奏曲です。
音楽的な構成や主題変容を味わう作品というよりは、超絶技巧そのものを楽しむパフォーマンスピースとしての性格が強いように感じます。
‣ Dubugnon, Richard(1968- ) デュビュニョン
リシャール・デュビュニョンは1968年スイス・ローザンヌ生まれのフランス系スイス人作曲家です。モンペリエ大学で歴史学を学んだのち、20歳から本格的に音楽の道に進み、コントラバスと作曲を学び始めました。1990年から95年までパリ国立高等音楽院(CNSM)に学び、コントラバス、対位法、フーガの各分野で賞を得ています。1997年にロンドンへ移り、王立音楽アカデミーで作曲の研鑽を積んだのち、同校で7年間にわたり作曲を教えました。
芸術アカデミーのピエール・カルダン賞をはじめ数々の賞を受けており、作品は各国で演奏されているほか、Naxosレーベルへの録音は英仏スイス各国のメディアで高く評価されています。コントラバス奏者としても現代音楽のアンサンブルで活動し、フランス放送(Radio France)などからの委嘱も受けています。
· Fugue pour la Main Gauche, Op.46 [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のためのフーガ Op.46
作曲年:2009年頃
演奏時間:約6分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
委嘱:ピアノ・キャンパス・コンクール(Concours Piano Campus)2009年度大会の委嘱作品
作品の背景
フランスのピアノ・キャンパス・コンクール2009年度大会のために委嘱された作品です。
楽譜中には「L’usage de la pédale est à l’appréciation de l’interprète, sauf aux endroits où elle est exigée.(ペダルの使用は、明確に指示されている箇所を除き、演奏者の判断に委ねられる)」旨の注記など、言葉による指示が比較的多く書き込まれているのが特徴です。
音楽的な特徴
無調の語法によるフーガですが、主題や応答の出現箇所が楽譜上に明示されており、学習者にとって構造をたどりやすい書き方になっているのが特徴と言えるでしょう。
古典的なフーガの伝統にならい、シンプルな主題の提示から曲を始めますが、後半にかけて音響が徐々に充実し、ホモフォニックな書法も増えながら fff に至るクライマックスを築きます。全体を通して不意に現れるスタッカートや同音連打の音型も、本作の味わいの一つになっています。
‣ Dupont, Auguste(1827-1890) オーギュスト・デュポン
オーギュスト・デュポンは、1827年、ベルギーのリエージュ近郊アンシヴァル生まれのピアニスト・作曲家です。リエージュ音楽院で学び、数年間は演奏旅行を行うピアニストとして活動したのち、1850年にブリュッセル音楽院のピアノ科教授に任命されました。《ピアノ協奏曲ヘ短調》Op.49や《協奏的小品》Op.42のほか、《十ページの物語》Op.48や《炉辺の物語》Op.12などのピアノ曲を残しています。弟は、オペラ指揮者として知られるジョゼフ・デュポン(1838-1899)です。1890年、ブリュッセルで没しました。
· Fantaisie et Fugue, Op.41 [RH]
邦題:幻想曲とフーガ(右手のための)Op.41
出版年:1875年頃
演奏時間:全曲合計 約10分30秒(幻想曲 約8分、フーガ 約2分30秒)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:右手独奏(幻想曲とフーガの2部構成)
楽譜:ショット版は、欧州の古書市場などで稀に出回ることがある
幻想曲とフーガの2部からなり、幻想曲に比重が置かれた右手独奏作品。
幻想曲
中低域を中心とした、幅広い音楽で始まります。ただし、和声によって、のちの展開への伏線が張られており、劇的に展開していきます。さまざまなテクニックを駆使した、演奏会用の大規模なファンタジー。
フーガ
幻想曲とは対照的に、軽めの曲想から始まります。同音連打が印象的な主題を持ち、跳躍も含まれ、難易度が高い作品と言えるでしょう。途中から、ホモフォニック(和声的)な書法になります。
‣ Dussek, Jan Ladislav(1760-1812) ヤン・ラディスラフ・ドゥシーク
ヤン・ラディスラフ・ドゥシークは、ボヘミア(現在のチェコ)出身の作曲家・ピアニストです。チェコ語では「Dušek」とも綴られます。1760年にボヘミアのチャースラフで生まれました。ピアノの名手として知られ、技巧の確かさと歌うような音色を同時代の人々が高く評価しています。1789年から1799年まで、ロンドンで演奏、教育、楽譜出版の事業を行いましたが、事業は行き詰まり、1799年に、ロンドンを離れました。その後は、ハンブルクやベルリンで活動し、プロイセンのルイ・フェルディナント公に仕え、晩年は、パリでタレーラン(Talleyrand)に仕えました。1812年にフランスのサン=ジェルマン=アン=レーで亡くなりました。
※ドゥシークは、「ドゥセク」「ドゥシェク」という表記が用いられることもあります。
· Duet Polonoise for Piano 3-Hands, Op.50 [RH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:3手のための連弾ポロネーズ
副題:A favorite Duet Polonoise, for three hands on one Piano Forte(1台のピアノフォルテのための、3手の人気の連弾ポロネーズ)
作曲年:不明
出版:Clementi, Banger, Hyde, Collard & Davis(ロンドン、26 Cheapside)
演奏時間:約3分30秒
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度(片手奏者のパート)
分類:オリジナル作品(室内楽、3手連弾)
献呈:
個人名の記載なし / 表紙に、「composed expressly for a Young Lady, who had unfortunately lost the use of her Left hand」(左手が不自由になった若い女性のために、特別に作曲された)と記されている
音楽的な特徴
明るく運動的なポロネーズ。Primo のパートが片手のパートで、高音側を受け持ちます。アルペジオやスケールをうまく組み込んだ、装飾的なメロディの作りです。両手のパートのさまざまな声部に16分音符が頻繁に出てくることも、特徴の一つでしょう。
片手パートの演奏形態について
タグを[RH]にしたのは、表紙に左手を使えない女性のための曲と記され、その女性が弾く片手のパートは、右手のパートと考えられるためです。パートの指定は、楽譜には確認できません。
‣ Dyachenko, Valery(1946- ) ヴァレリー・ディヤチェンコ
ヴァレリー・ディヤチェンコは、1946年生まれの作曲家です。左手のための作品の作曲者として確認できます。
· Variations for the left hand [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
原題:Вариации для левой руки(ロシア語)
邦題:左手のための変奏曲
作曲年:1979年(楽譜の表記による)
出版年:不明
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
無調の語法でありながら、聴きやすい音楽。1段の楽譜で始まり、途中から、大譜表で書かれる部分もあります。上下に波打つような運動性が多いのが特徴です。
‣ Eckartz, Hubert(1903-1962) フーベルト・エカールツ
フーベルト・エカールツ(1903年7月28日ヴッパータール生まれ、1962年没)はドイツの作曲家・指揮者・音楽教育者です。ミュンヘン音楽院でヨーゼフ・ハースに作曲を学んだのち、ベルリンの劇場で合唱指揮者を務め、その後ドルトムントで音楽学校での指導を中心に活動しました。
· Capriccio from Acht Klavierstücke [LH/RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:カプリッチョ(8つのピアノ小品 より)
作曲年:不明
演奏時間:約1分20秒
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「片手で弾くピアノ曲集」(編:ヴァルター・ゲオルギイ/音楽之友社)ほか
備考:左右どちらの手でも演奏可能
Vivo moltoの急速なスケルツォ的小品で、5/8・4/8・3/8・2/8と拍子が頻繁に切り替わる変拍子が特徴です。急速なテンポながら、極端な跳躍は多くありません。
サウンド面での際立った特徴として、メロディが増2度進行する箇所が随所に現れ、エキゾチックな色合いをもたらしています。また突然4度和声のパッセージが挟み込まれるなど、予想を外す場面転換も盛り込まれており、急速な曲想をより面白いものにしています。
‣ Eckhardt-Gramatté, Sophie-Carmen(1899-1974) エックハルト=グラマッテ
モスクワに生まれ、パリ音楽院で学んだのち、ピアニスト・ヴァイオリニストとして若くしてヨーロッパ各地で活躍したオーストリア系カナダの作曲家です。最初の結婚後はスペインでカザルスの薫陶を受け、フィラデルフィア管弦楽団やシカゴ交響楽団と共演するなど演奏家として高く評価されました。1930年に演奏活動から作曲へと軸足を移し、マックス・トラップに師事。1934年に美術史家フェルディナント・エックハルトと再婚し、以後「エックハルト=グラマッテ」の名で活動しました。
· Piano Sonata No.6, E.130 [LH][RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ピアノソナタ 第6番 E.130
作曲年:1928〜1952年
演奏時間:全曲合計 約14分30秒
分類:オリジナル作品(独奏)
作品の背景
第1楽章は、「ピアノソナタ 第4番 第3楽章」(1928年)を土台としながら、結尾を新たに書き直して独立させた音楽です。1951年に新たに書かれた右手独奏のための第2楽章と組み合わされ、1952年に両手用の第3楽章が加えられたことで、現在の「ピアノソナタ 第6番 E.130」として完成しました。両手のための第3楽章は、本ライブラリーの性質上ここでは扱いません。
I. Prestissimo, e molto preciso(左手のための)
作曲年:1928年
演奏時間:約3分30秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
絶え間なく細かい音符が続く無窮動音楽ですが、トリルの出現やスラーのかかり方の変化などでグルーピングが変化することで、変化が生まれています。1/4ペダルの指示など、細かな演奏指示が見られるのも特徴の一つと言えるでしょう。
II. Lustig und mit Witz(右手のための)
作曲年:1951年
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
全体を通してユーモアにあふれ、軽さや重厚さなども使い分けられ、第1楽章に比べて曲想の変化が多く見られる楽章。終盤は、音像が遠ざかっていくようにミステリアスに終止し、第3楽章との対照を用意します。
‣ Edwards, Ross(1943- ) ロス・エドワーズ
ロス・エドワーズはオーストラリアを代表する作曲家の一人。ディープ・エコロジーの理念に通じる独自の音響世界を築き、音楽を自然の力と結びつけ、儀式や舞踊との伝統的なつながりを回復しようとする姿勢で知られています。鳥の声や昆虫の音といったオーストラリアの自然環境から着想を得た作風が特徴です。
· Three Little Pieces for the Right Hand Alone [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:右手のための3つの小品
作曲年:1983年
出版年:1984年頃
委嘱:シャーリー・ハリスの依頼により作曲
演奏時間:全曲合計 約5分40秒
分類:オリジナル作品(独奏)
構成(全3曲)
第1曲 Allegro
第2曲 Andante
第3曲 Molto Vivace
作品の背景
本作は、学習・協調運動の困難や身体障害を持つ生徒へのピアノ指導研究に10年にわたり携わってきたシャーリー・ハリスが、Allans Music Australia社のために編んだアンソロジーへの寄稿を依頼されたことをきっかけに書かれました。エドワーズは右手のための作品を書くことを選び、本作が生まれました。
録音を手がけたジャネル・キャリガンの解説によれば、3曲のテンポは急・緩・急という配置で、両端の2曲は舞曲的な性格を持ち、同時期のエドワーズの他作品に見られる「マニーニャ」的な性格を思わせるとされています。中間の第2曲は緩やかなテンポで、印象的な旋律を特徴としています。
作曲家による公式情報
作曲家の公式HP(THREE LITTLE PIECES FOR THE RIGHT HAND ALONE (1983))では、この作品についての簡潔な解説と、デモ音源も公開されています。
‣ Elias, Brian(1948- ) ブライアン・エリアス
ブライアン・エリアスは、インドのボンベイ(現ムンバイ)に生まれ、13歳のときからイギリスで暮らしている作曲家です。王立音楽大学で学んだのち、エリザベス・ラティエンスに個人的に師事しました。英国作曲家賞を2度受賞しています。王立音楽アカデミーやパーセル・スクールで作曲を教え、作品はチェスター・ミュージックから出版されています。
· Five Piano Pieces for Right Hand [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:5つのピアノ小品(右手のための)
作曲年:1969年
出版年:1972年頃
演奏時間:全曲合計 約4分30秒(下記演奏音源の実測。資料には約2分30秒の記載もあり、演奏によって幅がある)
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:For Eli
無調の語法のなかに、悲歌(エレジー)を思わせる悲痛さと孤独が感じられる点描的な小品集。鍵盤のほぼ全音域が使われます。
作曲家自身のウェブサイトによれば、本作は1969年に「制約のもとで書く練習」として作られ、片手だけで書くという選択は、その結果として生まれたとのことです。第1曲が最も長く、以降は次第に短くなり、第5曲には前の4曲の要素が含まれると紹介されています。
作曲家自身のYouTubeチャンネルでの演奏(演奏:Daniel Grimwood)
‣ Escande, Pablo(1971- ) エスカンデ
パブロ・エスカンデは1971年アルゼンチン生まれの作曲家です。ブエノスアイレスの音楽院で音楽教師・ピアニストとしての課程を修めたのちオランダに渡り、ジャック・オッホのもとで古楽奏法(フォルテピアノ、チェンバロ、通奏低音)を、続いてラファエル・レイナのもとで作曲とオーケストレーションを学び、アムステルダム音楽院(旧スウェーリンク音楽院)作曲科を修了しました。以後、オランダをはじめオーストラリア、アメリカ、スペイン、日本など各国から委嘱を受け、独奏曲から室内楽、オラトリオ、オペラ、バレエ音楽まで幅広く手がけています。
ピアニストの舘野泉との出会いをきっかけに、《ディヴェルティメント》をはじめとする左手のための作品を相次いで委嘱・作曲しており、これらは高い評価を得ています。
· Divertimento for Piano Left Hand [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ディヴェルティメント ピアノ(左手)のために
作曲年:2009年頃
演奏時間:全曲合計 約18分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
委嘱:舘野泉「左手の文庫」助成作品
構成(全4楽章)
I. Prelude(プレリュード) 約3分30秒
II. Variations upon “La rosa enflorece”(ヴァリエーション「セファルディム」) 約7分
III. Adagio(アダージョ) 約5分20秒
IV. Dance(ダンス) 約2分30秒
作品の背景
エスカンデ自身の言葉によれば、この作品は全楽章が4度音程で関連づけられ、8つの調を経て曲を締めくくるように設計されており、様式的には新バロック的な性格を持ちながらギリシャ旋法を取り入れているといいます。第2楽章の主題には、ユダヤ・スペイン系(セファルディム)に古くから伝わる歌「La rosa enflorece(薔薇は花咲く)」が用いられています。
音楽的な特徴
第1楽章は緩やかな導入部から次第に緊張を高めてアレグロへと至る、対位法的な二部形式の音楽です。第2楽章は主題と4つの変奏からなり、4番目の変奏でクライマックスを迎えたのちカデンツァを経て主題が回帰します。第3楽章のアダージョは、作曲者自身が静寂の中での自己の経験や日本の庭園から得たイメージを込めたという、穏やかで平和な曲想を持っています。終曲のダンスはアダージョと対照的に、推進力に満ちたABA形式の音楽で、作品全体を活気とともに締めくくります。
· Three Haiku of Matsuo Basho, declamation “ad libitum” [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:松尾芭蕉による3つの俳句
作曲年:2020年頃
演奏時間:
第1曲 約1分10秒
第2曲 約30秒
第3曲 約2分
全曲合計 約3分40秒
難易度:ツェルニー30番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏 または 朗読+ピアノ)
松尾芭蕉の3つの俳句を題材に書かれた作品集。全曲ともに1ページのみの短い作品で、各曲の楽譜冒頭にはそれぞれの俳句が英訳とともに記されています。作曲者自身は、俳句という短い言葉によって簡潔に表現された情緒を音楽と組み合わせることで、単独の芸術形態以上に深いメッセージを伝えられると考えており、演奏に際しては、「独奏」または「朗読+ピアノ」など、複数の提示方法が想定されています。
第1曲 姨捨山 Mt. Obasute(1688年の句に基づく) Dark(♩=63)
第2曲 馬ほくほく In a Painting(1683年の句に基づく) Ritmico(♪=245)
第3曲 古池や The Old Pond(1686年の句に基づく) Static(♩=59)
このように、各曲にユニークな発想記号が付されている点も、本作の面白さの一つと言えるでしょう。
‣ Felderhof, Jan(1907-2006) ヤン・フェルダーホフ
ヤン・フェルダーホフ(1907年9月25日ブッサム生まれ、2006年3月4日ラーレン没)は、ヴァイオリンと作曲を学んだのちアムステルダム音楽院やユトレヒト音楽院で長年教鞭をとったオランダの作曲家・教育者です。教育活動に加え、合唱・管弦楽の指揮、音楽評論、ラジオ番組出演なども手がけました。幅広い編成の作品を残しています。
· Impression [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:インプレッション
作曲年:1959年
出版年:1963年頃
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:コル・デ・フロート
収録:Mano sinistra I:Six pieces by Netherlands composers for piano left hand
構成
・Andante rubato
・Più mosso
・Tempo I(Andante rubato)
音楽的な特徴
「Quasi improvisando(即興風に)」という指示が添えられ、曲全体にわたって寄せては返すような自由な呼吸感を生み出しています。随所に無調的な色彩がにじみ、どこか切なさを帯びた表情を見せます。
コル・デ・フロートについてさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くコル・デ・フロート:オランダ左手ピアノ音楽の一章
‣ Fibich, Zdeněk(1850-1900) ズデニェク・フィビフ
ズデニェク・フィビフは、スメタナ、ドヴォルザークと並び称される、チェコを代表する作曲家です。チェコ人の父とウィーン出身のドイツ人の母のもとに生まれ、幼少期からドイツ語・チェコ語の両方に親しむ環境で育ちました。ライプツィヒでイグナーツ・モシェレスにピアノを、ザロモン・ヤーダスゾーンらに作曲を学び、パリでの研鑽を経てプラハに定住しています。オペラや交響詩、ピアノ曲など幅広いジャンルの作品を残しました。
· Andante(from Nálady, dojmy a upomínky, Op.47, No.104) [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)
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邦題:アンダンテ(「気分、印象、思い出」Op.47 より 第104番)
作曲年:1895年
演奏時間:約1分40秒
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
備考:「気分、印象、思い出」Op.47の第104番であり、同シリーズOp.41・44・47の3巻を通した番号では第308番にあたる
両手用の小品が大半を占めるフィビフ晩年の大曲集「気分、印象、思い出」の中にあって、この曲は冒頭に「Sinistra sola(左手のみで)」と記された左手独奏用の作品として書かれました。
3度音程の連続がサウンド上の特徴となっており、ハープを思わせるアルペッジョも随所に用いられています。全体としては穏やかな曲想を保ちながらも、中盤では減七の和音が力強く鳴らされ、音楽が揺れ動く場面が置かれています。
‣ Fine, Vivian(1913-2000) ヴィヴィアン・ファイン
ヴィヴィアン・ファインは、シカゴ生まれのアメリカの作曲家・ピアニストです。5歳でシカゴ音楽大学の奨学生になり、ルース・クロフォードに和声を学んだのち、ニューヨークへ移って、ロジャー・セッションズに作曲を師事しました。1930年代のニューヨークでは、現代のピアノ曲の演奏家としても知られ、1937年にはアメリカ作曲家連盟(American Composers Alliance)の創設にも加わりました。ニューヨーク大学、ジュリアード音楽院などで教え、1964年から1987年までは、ヴァーモント州のベニントン・カレッジで作曲を教えました。1980年には、アメリカ芸術文学アカデミーの会員に選ばれています。2000年3月に、86歳で亡くなりました。
· The Flicker(for solo flute or piano right hand) [RH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:フリッカー(フルート独奏、またはピアノ右手のための)
作曲年:1973年
出版年:1983年頃
演奏時間:約7分30秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ライオネル・ノヴァク
作品の背景
ベニントンの自宅の窓の外に現れた、鳥のフリッカー(ハシボソキツツキの仲間の鳥)が、曲のきっかけになりました。作曲者の公式サイトによれば、鳥類学者ロジャー・トーリー・ピーターソンが、この鳥の飛び方を「大きく波打ち、数回の素早い羽ばたきと、休止から生まれる」と表現しており、その表現が楽譜の表紙に添えられています。
音楽的な特徴
跳躍が多く、運動性が高い曲で、片手での演奏では、手の横移動が非常に大きくなります。フルートのための曲なので、単音による線的な書法になっており、2度音程の2音を反復するトレモロなど、ピアノの書法としてはやや控えめな奏法も出てくるのが独自的と言えるでしょう。音は少なくありませんが、単音の連なりなので音の表情がよく見えます。したがって、アーティキュレーションの違いを明確に表現することが、この作品のよさを引き出す鍵になります。
‣ Flügel, Gustav(1812-1900) グスタフ・フリューゲル
グスタフ・フリューゲルは、ドイツの作曲家・オルガン奏者・音楽教育者です。1812年にザクセン=アンハルト地方のニーンブルク・アン・デア・ザーレで生まれ、1900年にシュテッティン(現在のポーランド、シュチェチン)で亡くなりました。1827年から1830年まで、デッサウでフリードリヒ・シュナイダー(Friedrich Schneider)に学んでいます。ケーテンなどで音楽教師を務めたのち、マクデブルク(1836〜38年)、シュテッティン(1840〜50年)、ノイヴィート(1850〜59年。教員養成学校の音楽教師、1856年に王立音楽監督)を経て、1859年から1898年まで、シュテッティンの城付きオルガニストを務めました。主にピアノ曲やオルガン曲を残しています。
· Kinderstück zu 3 Händen, Op.22 No.1 [LH/RH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:3手のための子供の小品
作曲年:不明
出版:1849年、Bote & Bock(ベルリン)
演奏時間:約3分
難易度:ツェルニー40番中盤程度(片手奏者のパート)
分類:オリジナル作品(室内楽、3手連弾)
献呈:弟子のエミール・ジルバーシュミット(Emil Silberschmidt)に
備考:Op.22の第1曲。第2曲は2手のための曲のため、この項目では扱わない
片手の奏者のパートは1段譜で、楽譜の最上段に書かれています。このパートは、フルートまたはヴァイオリンでも演奏できると楽譜に書かれています。
明るく健康的で、どことなくハイドンを思わせる作品。基本的に片手のパートがメロディを受け持ちますが、部分的に両手のパートが、片手のパートの1オクターヴ下などでメロディをなぞります。32分音符の上行スケールが印象的で、随所に出てきます。曲の最後では、片手のパートと両手のパートが速いパッセージを受け渡します。
‣ Foerster, Josef Bohuslav(1859-1951) ヨゼフ・ボフスラフ・フェルステル
ヨゼフ・ボフスラフ・フェルステルは、チェコを代表する作曲家の一人です。プラハで学んだのち、聖ヴォイチェヒ教会でアントニン・ドヴォルザークの後任としてオルガニストを務め、あわせて音楽批評家としても精力的に活動しました。ハンブルク滞在中にはグスタフ・マーラーと深い親交を結び、後にウィーンの音楽院で作曲科の教授を務めました。チェコスロヴァキア建国に伴いプラハに戻ると、プラハ音楽院教授・院長やチェコ科学芸術アカデミー総裁などの要職を歴任しました。
小編成を中心に、数多くの作品を手がけたことで知られています。
· Notturno a Fantastico, Op.142 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1曲 1-4小節)

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第2曲 1-3小節)

邦題:夜想曲と幻想曲 Op.142(左手のための2つの小品)
作曲年:1930年
出版年:1945年
演奏時間:全曲合計 約9分
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:オタカール・ホルマン
構成(全2曲)
第1曲 Notturno 約4分30秒
第2曲 Fantastico 約4分30秒
作品の背景
右手の負傷から左手のピアニストへの道を切り拓いたオタカール・ホルマンのために書かれた作品で、楽譜には「Otakaru Hollmannovi(オタカール・ホルマンへ)」という献辞が刻まれています。作曲から15年を経た1945年、プラハの出版社から「左手のための2つの小品」という副題を添えて出版されました。性格の異なる2曲を組み合わせた構成になっています。
ゲオルギイが著書「Klaviermusik」の中で高く評価している作品です。
オタカール・ホルマンについてさらに詳しく知る
‣ Foote, Arthur(1853-1937) アーサー・フット
アーサー・フット(1853年セイラム生まれ、1937年ボストン没)はアメリカの作曲家・ピアニストで、ニューイングランドを代表する音楽家の一人です。1875年にハーバード大学で音楽の修士号を取得しており、これはアメリカで同大学から授与された最初の音楽修士号でした。アメリカで音楽教育を完結させたほぼ唯一の世代の作曲家でしたが、30歳でヨーロッパに渡りスティーヴン・ヘラーに師事した経験もあります。Op.37の3曲はヘラーへの献呈作品です。
· Petite valse pour la main gauche, Op.6, No.4 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:左手のための小さなワルツ Op.6 より 第4番
出版年:1885年
演奏時間:約2分40秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
備考:Op.6 全4曲のうち第4番のみが左手のための作品
全曲が1段譜で書かれた、メランコリックでシンプルなワルツです。メロディがワルツの伴奏音型より低い音域に来たり、高い音域へ移ったりと、声部の位置が何度も入れ替わることで変化が生まれています。子どもにも取り組みやすい親しみやすい作品と言えるでしょう。
· Drei Clavierstücke für die linke Hand allein, Op.37 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1曲 1-3小節)

邦題:左手のための3つのピアノ小品 Op.37
出版年:1897年
演奏時間:全曲合計 約8分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:スティーヴン・ヘラー
構成
I. Prelude-étude(プレリュード・エチュード) II. Polka(ポルカ) III. Romanze(ロマンス)
3曲を通じて音楽的なバランスが良く、極端に難しい箇所がないため、左手演奏に少し慣れてきた段階の方に適した作品です。演奏会でも使いやすい規模で、ダイナミクスの幅も広く取られています。
I. Prelude-étude
・バロック的な語法を基調としながら、自由なレチタティーヴォ風の場面などが組み合わさっている
・締めくくり方がやや唐突な印象がある
・右手用に簡略化された版も存在する
II. Polka
・半音階的な書法による三部形式の小品
・軽さを伴い、前後2曲と対照的
・メロディ以外の伴奏部分は特別凝っておらず、スケールかアルペジオが大半を占める
III. Romanze
・半音階的な和声を多用した一曲
・3曲の中では、規模・内容ともに最も充実している
・単曲を取り出して演奏する場合は、このロマンスがおすすめ
‣ Fox, Felix(1876-1947) フェリックス・フォックス
ピアニスト・教育者のフェリックス・フォックスは、1876年、当時ドイツ領だったブレスラウ(現ポーランド・ヴロツワフ)の生まれ。音楽教育はライプツィヒで受け、王立音楽院でカール・ライネッケの下でピアノを、ザーロモン・ヤーダスゾーンの下で理論を修めたのち、パリに渡ってイシドール・フィリップにも学んでいます。1897年からはボストンを拠点とし、翌年にはピアニストのカルロ・ブオナミーチと共同で「Fox-Buonamici School of Pianoforte Playing」を開設しました。1947年、同地ボストンで生涯を終えています。
· The Boston Music Company Digest of Piano Pieces: for the Left Hand Alone [LH]
出版年:1917年
収録曲数:8曲(全曲左手独奏)
難易度:ツェルニー30番中盤程度〜ツェルニー50番入門以降程度
分類:小品集(アンソロジー)
本作は、シュピンドラー、フンメル、ホレンダー、スクリャービン、ドニゼッティ(レシェティツキー編)らによる左手作品8曲をフォックスが編纂したアンソロジーです。運指・ペダリングが細かく書き込まれている一方、アーティキュレーションや分散和音の弾き方には編者独自の解釈も加えられています。
収録曲の詳細については、以下の記事をご覧ください。
【ピアノ】フェリックス・フォックス「The Boston Music Company Digest of Piano Pieces: for the Left Hand Alone」レビュー
‣ Franklyn, John ジョン・フランクリン
ジョン・フランクリンは、アメリカのオハイオ州シンシナティの Willis Music から、左手のための小品集を出版している作曲家です。
· Dainty Novelettes for the Left Hand Alone [LH]
※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。
邦題:左手のための可憐な小品集
作曲年:1915〜1925年のあいだ(10年にわたって書かれたとされる 出典:パターソン「One Handed」)
出版:1915年〜1925年、The Willis Music Co.(オハイオ州シンシナティ)
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:欧州の古書市場などで稀に出回ることがある
構成(全6曲)
各曲には、短い詩句が添えられています。
第1曲 Belfry Echoes(鐘楼のこだま)
第2曲 Spring Breezes Waltz(春のそよ風のワルツ)
第3曲 In Dewy Gardens(露の庭で)
第4曲 Dream of an Hour(ひとときの夢)[Reverie]
第5曲 Forest Glades(森の空き地)[Autumn Song]
第6曲 In a Snow-clad Vale(雪におおわれた谷で)[A Winter Lullaby]
表紙について
表紙の紙面は、淡い象牙色に青一色のインクで、曲名を囲む円形の飾り枠(植物の蔓を思わせる、曲線の装飾)が刷られています。大きな絵はなく、線画の枠の中に題名と曲目が整えてレイアウトされています。優美な曲線の装飾が、題名の「Dainty(可憐な)」に、ふさわしい雰囲気です。
音楽的な特徴
穏やかで短いサロン風の作品集。運指とペダルが記されているうえ、各曲おおむね2ページ程度なので、教育目的もあったのかもしれません。
‣ Friedman, Ignaz(1882-1948) イグナツ・フリードマン
イグナツ・フリードマンは1882年、クラクフ近郊生まれのポーランド出身のピアニストです。レシェティツキーにピアノを、アードラーに作曲を、ライプツィヒでリーマンに音楽理論を学び、ウィーンでデビューしました。1905年以降はヨーロッパ・南米・オーストラリアを演奏旅行し、ベルリンを拠点に国際的なキャリアを築いています。フーベルマンとしばしば共演し、1927年のベートーヴェン没後100年記念行事ではカザルスとも共演しました。1940年にオーストラリアへ移住し、1948年にシドニーで没しています。
ニューグローブ音楽大事典は、その卓越した技巧と音色のコントロールを高く評価する一方、ときにそれに頼りすぎる傾向も指摘しています。作曲家・校訂者としても90曲以上(大半がピアノ曲)を残し、ショパンやリストなどの校訂も手がけました。
· Isoldes Liebestod [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、33-36小節)

邦題:イゾルデの愛の死 左手独奏版
編曲年:不明
原曲:Wagner, Richard(リスト編曲による演奏会用パラフレーズを経由)
編曲者:資料により表記が分かれる(下記参照)
演奏時間:約10分30秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
編曲者をめぐる問題
本作は、ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」の終曲をリストが編曲した演奏会用パラフレーズをさらに左手独奏用に編んだものですが、この左手版の編曲者については、参照する資料によって記載が一致しません。
初出版譜であるUniversal Edition(パウル・ヴィトゲンシュタイン編《School for the Left Hand》所収)には、左手版の編曲者名は印刷されておらず、「WAGNER–LISZT」とのみ表記されています。ヴィトゲンシュタインはこの曲集全体の「編者(Editor)」として名を連ねているに過ぎず、個々の収録作品の編曲者が誰であるかは、原典からは判別できません。
この空白を埋める形で、IMSLPでは本作の編曲者としてイグナツ・フリードマンの名が登録されています。一方、ドナルド・L・パターソン編「One Handed」や、2021年刊行のルビー・モーガン編「An Anthology of Piano Music for the Left Hand Alone」では、ヴィトゲンシュタイン自身による編曲として紹介されており、両説が併存する状況です。いずれの資料も、その帰属の根拠となる一次資料までは示していません。
現時点では、フリードマン説・ヴィトゲンシュタイン説のどちらかを確定させる決め手は見当たらず、「資料によって編曲者の見解が分かれている作品」として扱うのが最も慎重な立場と言えます。
さらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くイグナツ・フリードマン:名ピアニストと帰属の定まらない左手編曲
‣ Frost, Bernice(1892-1976) バーニス・フロスト
バーニス・フロストは、アメリカの作曲家・ピアニスト・ピアノ教育者です。ピアノの教本や教育用の独奏曲を手がけました。
· The White Swan [LH]
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:白鳥
作曲年:不明
出版:1941年、Boston Music Co.(ボストン)
演奏時間:約3分
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:欧州の古書市場などで稀に出回ることがある
表紙には、深い青を基調に、湖面に浮かぶ白鳥と、岸辺の木が、描かれています。簡素ながら、まとまりのある色づかいで、しんとした湖の澄んだ空気を感じさせます。文字や配置からは、1940年代の楽譜らしいレトロな雰囲気も伝わってきます。
シンプルながらも雰囲気のある、美しい小品。表紙のイラストとともに楽しみたい曲です。
‣ Fumagalli, Adolfo(1828-1856) アドルフォ・フマガッリ
アドルフォ・フマガッリは、イタリアのピアニスト・作曲家です。1828年にインツァーゴで生まれ、1856年に27歳で亡くなりました。ミラノ音楽院で学び、1848年にミラノでデビューした後、イタリア、フランス、ベルギーの各地で演奏旅行を行いました。左手の技術で知られ、左手独奏作品も数曲残しています。そのほとんどは、ヴェルディ、ベッリーニ、ロッシーニ、マイアベーアなどの歌劇の主題による編曲です。
· Notturno-Studio Op.2 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、Andante部分より)

邦題:ノットゥルノ=スタジオ Op.2
作曲年:不明
演奏時間:約8分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
学生時代に書かれた習作とみられる作品です。リコルディから出版されていますが、詳細な資料が少ない作品となっています。
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【ピアノ】左手作品から読み解くフマガッリ:28歳で逝った「ピアノのパガニーニ」
· Studio da Concerto: nell’opera Lucia di Lammermoor Op.18 No.1 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:スタジオ・ダ・コンチェルト(ドニゼッティ《ランメルモールのルチア》より) Op.18 No.1
編曲年:不明
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)
ドニゼッティのオペラ《ルチア》の終幕、テノールが歌うアリアを題材にしています。金管楽器の導入部を忠実に受け継ぎつつ、主旋律のあいだに2つのカデンツァを織り込んだ構成です。旋律そのものの美しさが作品を支えていますが、アルペジオの扱いがやや単調になる場面も見受けられます。
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【ピアノ】左手作品から読み解くフマガッリ:28歳で逝った「ピアノのパガニーニ」
· Studio da Concerto: coro nell’opera I Lombardi di Verdi “o Signore! del tetto natio” Op.18 No.2 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:スタジオ・ダ・コンチェルト(ヴェルディ《十字軍のロンバルディア人》より「おお、故郷の屋根よ」) Op.18 No.2
編曲年:不明
演奏時間:約5分
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)
ヴェルディのオペラから合唱曲を素材にとっています。終盤にオクターブのグリッサンドが現れる点が特徴的です。また、トリルと和音を左手だけで同時にこなす書法も含まれており、片手演奏の可能性を引き出そうとする工夫が随所に見られます。音楽的な魅力という点ではやや控えめな作品と言えるでしょう。
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【ピアノ】左手作品から読み解くフマガッリ:28歳で逝った「ピアノのパガニーニ」
· “Casta diva che inargenti” nell’opera Norma di Bellini Op.61 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

邦題:「清らかな女神(カスタ・ディーヴァ)」(ベッリーニ《ノルマ》より) Op.61
編曲年:不明(1851年出版)
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:編曲作品(独奏)
トマジーニ夫人に献呈。フマガッリの左手作品のなかで最も広く知られる一曲で、演奏会用トランスクリプションとして時折耳にします。
オクターブを多用した重厚な書法、随所に挿入されるカデンツァ、幅広い音域を縦横に駆け巡るアルペジオが、豊かな音響を生み出します。
ただし、抒情的な箇所の伴奏処理では原曲の管弦楽パターンをほぼそのまま踏襲しており、左手に適した音型へ置き換える創意に欠けるという批評もあります。その結果、第1セクションだけで16か所もの大きな跳躍が生じており、これは練習で解決できる種類の問題ではありません。不滅の旋律が作品を成立させているとはいえ、こうした構造上の課題も無視できないでしょう。
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【ピアノ】左手作品から読み解くフマガッリ:28歳で逝った「ピアノのパガニーニ」
· Andante nel Mosé (Mi manca la voce) Op.102 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:アンダンテ「声がない(Mi manca la voce)」(ロッシーニ《モーゼ》より) Op.102(遺作)
編曲年:不明
演奏時間:約4分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:編曲作品(独奏)
ロッシーニのオペラ《モーゼ》のアリアに基づく作品で、全曲にわたって3段譜が用いられています。左手作品において3段譜が通篇に使われることは非常に珍しく、フマガッリの表現に対する意欲がうかがえます。音響的には充実していますが、原曲の管弦楽伴奏に必要以上に縛られているために極端な跳躍が頻出し、音楽の流れにぎこちなさが生じています。
なお、「One Handed」(ドナルド・L・パターソン 編)では “Op.100 No.19” と記載されていますが、実際の楽譜で Op.102(遺作)と確認されているため、パターソンの記載は誤りと考えられます。
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【ピアノ】左手作品から読み解くフマガッリ:28歳で逝った「ピアノのパガニーニ」
· Grande Fantaisie sur Robert le Diable de Meyerbeer Op.106 [LH]
譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-8小節)

邦題:《ロベール・ル・ディアーブル》による大幻想曲(マイアベーア) Op.106
編曲年:不明
演奏時間:約15分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
6曲のなかで規模・難度ともに最大の作品で、リストへの献呈という選択が、フマガッリ自身のこの曲への自信を物語っています。
鍵盤全体を席巻する高速のオクターブ、和音、跳躍が連続し、終盤にはオクターブのグリッサンドも登場します。随所に力強い書き方が光る一方、各セクションをつなぐ転換部は唐突で工夫に乏しく、形式的な仕上がりとしては物足りないという評価も残されてきました。
左手一本の限界に挑んだ記念碑的な作品と言えますが、音楽的な完成度という観点では評価が割れるところです。
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【ピアノ】左手作品から読み解くフマガッリ:28歳で逝った「ピアノのパガニーニ」
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