【ピアノ】Joyce Grill「Left Alone—Right On!」「More Left Alone—Right On!」シリーズ 完全ガイド

【ピアノ】Joyce Grill「Left Alone—Right On!」「More Left Alone—Right On!」シリーズ 完全ガイド

► はじめに

 

片手でピアノを弾くことになったとき、特にピアノの経験がまだ浅い場合、「何を弾けばいいのか」と悩むこともあるのではないでしょうか。

そこで今回紹介するのが、アメリカの作曲家ジョイス・グリル(Joyce Grill)による「Left Alone—Right On!」と、その続編「More Left Alone—Right On!」の2冊です。左手だけ、あるいは右手だけで演奏できるように書かれた教育的な小品集で、片手奏の入口として取り入れやすい内容になっています。

本記事では、シリーズの特徴、各巻の収録曲、作曲者の経歴、楽譜の入手方法までをまとめました。

 

► シリーズの特徴

‣ 左手用と右手用の曲が1冊に混在

 

出版社の紹介文では、指や腕の骨折、手首の捻挫といった一時的なケガのときに使えることに加え、両手が健康な状態でも片方の手の技術を鍛える教材として役立つことが挙げられています。

そして、このシリーズで押さえておきたいのは、1冊の中に左手用と右手用の曲が混在している点です。第1集・第2集ともに同じ構成なので、「左手だけで弾ける曲を探している」という場合も「右手だけで弾ける曲を探している」という場合も、必ずしも全曲が対象になるわけではありません。購入前に、後述の楽曲一覧でどちらの手の曲が何曲あるかを確認しておくと安心でしょう。

 

‣ 譜読みのハードルが低め

 

楽譜は大譜表で書かれていますが、多くの曲では片方の段を中心に音が配置されています。両方の段を読みながら1つの手で演奏するタイプの左手作品と比べると、譜読みへの取り組みやすさという点でも、片手奏の入門教材として扱いやすいでしょう。

難易度には幅がありますが、全体としては、ブルグミュラー25の練習曲に入ったばかりの段階から、修了する程度までがおおよその目安になるでしょう。

 

‣ 運指・ペダル・アーティキュレーションの書き込み

 

運指は記載されていますが、フォントがやや小さめなので、見づらい場合は書き足すといいかもしれません。シンプルな曲想の中にも、同じ鍵盤で指を替える「替え指」が指定されている箇所があり、初級の段階からこうした運指上の工夫に触れられる点も興味深いところです。

また、運指やペダリング、アーティキュレーションが細かく書き込まれている曲もあれば、指示が最小限にとどめられている曲もあり、曲によって情報量に差があります。第2集の序文では、提示された運指が手に合わない場合は自分に合った運指を考えて書き込むようにとのアドバイスも添えられており、ペダルについても、響きのバランスを自分で試しながら探ってみることが推奨されています。

 

‣ ワルツ、バラード、ポピュラー風など多彩な曲想

 

収録曲のスタイルはさまざまで、ワルツ、バラード調の叙情的な曲、ラテンやラグなどポピュラー音楽の要素を取り入れた曲などが並びます。曲名からもそれぞれの雰囲気の違いがうかがえ、生徒さんと一緒に選ぶ楽しみもあるでしょう。

 

► シリーズの位置づけ

 

これらの曲集は、鑑賞用の本格的なコンサート・レパートリーというよりも、片手奏を学ぶための教育的な教材としての性格が強い曲集です。そのため、次のような目的に適した教材と言えます。

・左手だけ・右手だけという制約のある演奏に慣れる
・比較的取り組みやすい難易度から片手奏を始める
・本格的な片手作品のレパートリーに進む前の導入教材として使う

「片手音楽の専門的なレパートリー」というよりは、「片手奏への入口」として位置づけるのがふさわしい曲集です。

 

► 各巻の楽曲一覧

‣ Left Alone—Right On!

 

第1集:1995年頃、Miami, FL:Belwin Mills(Warner Bros. Publications) ※現在はAlfred Musicが継承

注意しておきたいのが、版による収録曲数の違いです。ドナルド・L・パターソンによる片手ピアノ作品の文献目録「One-Handed: A Guide to Piano Music for One Hand」(1999年)では、この曲集は「12曲・20ページ」と記録されています。ところが、実際に楽譜を確認した現行版は14曲収録となっており、「Happiness Is」と「I’m So Lonely」の2曲が含まれていました。この2曲がどの版から追加されたのかは確認できていませんが、少なくとも旧来の文献目録と現行版との間には収録曲数の違いがあります。

 

収録14曲(左手7曲・右手7曲)

No. 曲名 使用する手 掲載ページ
1 One-Way Waltz 左手 2
2 Happiness Is 右手 4
3 I’m So Lonely 左手 5
4 Right On! 右手 6
5 Rocking Rainbow 左手 9
6 Inside Out 右手 10
7 Ripples 右手 12
8 Twilight 左手 14
9 Left Alone 左手 16
10 Scaling Left 左手 17
11 Melancholy 右手 18
12 Solitude 右手 21
13 Little Lively Latin 右手 22
14 Wondering 左手 24

 

‣ More Left Alone—Right On!

 

第2集:1996年頃、Miami, FL:Belwin Mills(Warner Bros. Publications) ※現在はAlfred Musicが継承

1996年頃に出版された続編・追加曲集。全24ページに9曲が収められており、第1集よりもやや長めの曲が中心になっています。

 

収録9曲(左手6曲・右手3曲)

No. 曲名 使用する手 掲載ページ
1 Strolling Right Along 右手 3
2 Wishing 左手 6
3 Left Alone Rag 左手 8
4 Back in the Saddle 左手 10
5 Loco-Motion 左手 12
6 Stately Dance 左手 14
7 I Wish I Knew 右手 16
8 Sara’s Song 右手 18
9 Ah, Spain! 左手 21

 

► ジョイス・グリルについて

 

ジョイス・グリル(Joyce Grill)は、アメリカの作曲家・ピアノ教育者です。ウィスコンシン大学マディソン校で学位を取得したのち、フランス・フォンテーヌブローの芸術学校で、ナディア・ブーランジェに音楽理論と作曲を、ロベール・カサドシュとジャン・カサドシュにピアノを学びました。ウィスコンシン大学ラクロス校で長く教え、同校の名誉教員として、豊富な指導経験をもとにしたワークショップを全米各地で行ってきました。

 

参考:Alfred Music の作曲者紹介ページ:https://www.alfred.com/authors/joyce-grill/

 

► 楽譜の購入について

 

第1集「Left Alone—Right On!」

 

第2集「More Left Alone—Right On!」

More Left Alone — Right On!: for Left Hand Alone or Right Hand Alone

 

いずれも海外出版社から刊行されている楽譜のため、国内での入手には取り寄せなどが必要になる場合があります。

 

► 終わりに

 

「Left Alone—Right On!」と「More Left Alone—Right On!」は、本格的な演奏会レパートリーを目的とした曲集ではありません。一方で、片手だけで音楽を組み立てる感覚を、比較的取り組みやすい難易度から学べるように構成されています。

ケガなどによって一時的に片手での演奏を必要とする方、片方の手を集中的に鍛えたい方、そして、将来的に左手・右手それぞれの本格的な片手作品へ進みたいと考えている方にとって、最初の一歩を踏み出すための心強い教材になるでしょう。

 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

左手・片手のためのピアノ音楽を専門とし、作曲・編曲、講演などを行っています。また、当サイト「One-Hand Piano Institute」を運営し、作品・作曲家・音楽史・技術(作曲・編曲・演奏)・楽譜・文献まで、片手で演奏するピアノ音楽を多角的に紹介しています。

日本音楽コンクールをはじめ、国内外の作曲コンクールで受賞歴を持ち、これらの受賞作品はいずれも、左手ピアノを編成に含むアンサンブル作品、および、左手のためのピアノ独奏作品です。
また、大学院では左手のためのピアノ音楽における作曲・編曲をテーマに研究し、首席で修了しています。

右手の負傷をきっかけに出会った左手のためのピアノ音楽に心惹かれ、以来15年以上、この分野に取り組んできました。左手音楽の魅力と可能性を、より多くの方に知っていただけたら嬉しく思います。

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