- 左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 J-L
- ► はじめに
- ► 作曲家別 J-L
- ‣ Janáček, Leoš(1854-1928) ヤナーチェク
- ‣ Joseffy, Rafael(1852-1915) ヨゼフィ
- ‣ Kalkbrenner, Frédéric(1785-1849) カルクブレンナー
- ‣ Kapustin, Nikolai(1937-2020) カプースチン
- ‣ Knorr, Ernst-Lothar von(1896-1973) エルンスト=ロタール・フォン・クノル
- ‣ Köhler, Louis Heinrich(1820-1886) ケーラー
- ‣ Korngold, Erich Wolfgang(1897-1957) コルンゴルト
- ‣ Kulla, Hans(1910-1956) ハンス・クッラ
- ‣ Le Beau, Luise Adolpha(1850-1927) ル・ボー
- ‣ Leschetizky, Theodor(1830-1915) レシェティツキー
- ‣ Lipatti, Dinu(1917-1950) リパッティ
- ‣ Liszt, Franz(1811-1886) リスト
- ► 終わりに
左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 J-L
► はじめに
本ページでは、J-Lで始まる作曲家の左手ピアノ作品をまとめています。作曲作品・編曲作品・教本・室内楽・協奏曲などを、作曲家ごとに整理しています。
作品を探す際は、以下のアルファベット別ページもご利用ください。
► 作曲家別 J-L
‣ Janáček, Leoš(1854-1928) ヤナーチェク
レオシュ・ヤナーチェク(1854年フクヴァルディ生まれ、1928年モラフスカー・オストラヴァ没)はチェコを代表する作曲家の一人で、スメタナやドヴォルザークと並ぶ存在として評価されています。オペラの分野で特に重要な業績を残しており、「カーチャ・カバノヴァー」「利口な女狐の物語」「マクロプロス事件」「死者の家から」などの後期オペラ群は、1917年以降の創作の充実期に書かれたものです。カプリッチョもこの晩年の創作期に属する作品で、ヤナーチェクが生前に立ち会った「最後の」自作初演となりました。
· Capriccio pro klavír (levou rukou) a dechový soubor
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1曲 1-4小節)

邦題:左手ピアノと管楽アンサンブルのためのカプリッチョ
作曲年:1926年
演奏時間:約17分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(室内楽)
献呈:なし(ホルマン向けに書かれたが献呈表記なし)
構成(全4楽章)
I. Allegro
II. Adagio
III. Allegretto
IV. Andante
作品の背景
第一次世界大戦での戦傷により右手に障害を負ったチェコのピアニスト、オタカー・ホルマン(1894-1967)が委嘱のきっかけを作った作品です。ホルマンはヴィトゲンシュタインと同様に左手のためのレパートリーを求め、ヤナーチェクをはじめマルティヌー、シュールホフ、フェルスターらに作品を依頼しました。
ヤナーチェクは当初、作曲に乗り気ではありませんでした。「片足で踊るようなものだ」と述べて断った、という話が伝わっています。しかし結局1926年秋に完成させ、翌1927年5月にスコアをホルマンに送っています。なお、ヤナーチェクはホルマンへの初演権を明示的には与えておらず、献呈表記も付しませんでした。それでもホルマンが学習を進め、1928年3月2日の初演を実現させています(プラハ、スメタナ・ホール ヤロスラフ・ジードキー指揮、チェコ・フィルハーモニーのメンバー、ホルマンのピアノ)。ヤナーチェク自身も列席したこの演奏会は、同年7月の死去前に本人が立ち会った「最後の」自作初演となりました。
なお、ホルマンの負傷については「右腕を失った」と記述している資料もありますが、より詳細な資料によれば、右手の中手骨損傷であり、腕を完全に切断したわけではないとされています。
音楽的な特徴
非常に個性的な編成で、軍楽を連想させる性格を持っています。ピアノパートは、難所にはossiaが示されています。
左手ピアノを含む室内楽作品は近現代作品が大部分を占めるので、とっつきにくい印象を持っている方もいることでしょう。一方、この作品は非常に耳馴染みがよく、左手ピアノ室内楽の「聴く」入門にも適した作品です。特に「II. Adagio」は、メランコリックな美しさとユーモアを兼ね備えた、最も親しみやすい楽章となっています。
‣ Joseffy, Rafael(1852-1915) ヨゼフィ
· J.S. Bach: Partita No.3, BWV1006 Gavotte
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-3小節)

邦題:J.S.バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006 より ガヴォット」:ヨゼフィによる左手独奏用編曲版
作曲年:1720年(ヨゼフィ編曲版:1880年出版)
演奏時間:約3分30秒
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:編曲作品(独奏)
ラファエル・ヨゼフィ(1852-1915年)は、ヴァイマルでリストに師事したハンガリー出身のピアニストです。1879年にアメリカでデビューを果たし、そのまま同地に拠点を移しました。
原曲への忠実度は比較的高く、旋律は主に単音で書かれています。ヨゼフィはいくつかの箇所で和音に音を追加したり、独自の低音声部を付け加えたりしていますが、装飾音の処理にはやや不自然な部分もあることが指摘されてきました。
Ruby Morgan 編曲版について
2021年、Ruby Morgan編の左手独奏曲アンソロジー「An Anthology of Piano Music for the Left Hand Alone」が出版されました。このアンソロジーには、ヨゼフィ版をもとにMorganがさらに手を加えた楽譜が収録されています。
主な改訂点は以下のとおりです:
・演奏上の難点となっていた装飾音を整理・削除
・ヴァイオリン原典譜のアーティキュレーションを積極的に反映
・リュート版と考えられる「BWV1006a」の要素を部分的に取り入れた
‣ Kalkbrenner, Frédéric(1785-1849) カルクブレンナー
· Fugue à quatre parties pour la main gauche seule
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-8小節)

邦題:左手のための4声のフーガ
作曲年:1831年頃(1831年出版)
演奏時間:約1分30秒
難易度:ツェルニー30番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
全12曲からなる「メソッド Op.108」の第8曲が、「左手のための4声のフーガ」で、左手のみのための最初のフーガという説が有力になっています。1831年に出版されました。正確な作曲年は定かではありませんが、1831年、またはその直前に書かれたものと考えられます。
テンポが速い4声のフーガでありながらも、シンプルな対位法で書かれているので、取り組みやすい作品として左手作品の中でも知られている一曲です。
‣ Kapustin, Nikolai(1937-2020) カプースチン
ニコライ・カプースチン(1937年ウクライナ・ゴルロフカ生まれ、2020年モスクワ没)はウクライナ出身のロシアの作曲家・ピアニストです。14歳でモスクワに移り、アウレリアン・ルバフとアレクサンドル・ゴルデンヴァイゼルにピアノを師事しました。モスクワ音楽院在学中に最初の協奏曲を作曲・初演するなど、早くから頭角を現しています。卒業後はオレグ・ルンドストレム・ビッグバンドのメンバーとして活動し、1980年代からは作曲に専念しました。ジャズの語法を古典的な形式の中に組み込んだ独自のスタイルで知られており、ピアノ音楽を中心に管弦楽・室内楽も手がけています。
· Seven Polyphonic Pieces for the Left Hand, Op.87
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:左手のための7つの対位法的小品 Op.87
作曲年:1997年
演奏時間:全曲合計 約11分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
カプースチンには「10のインヴェンション Op.73」や「24の前奏曲とフーガ Op.82」など対位法的な作品が複数ありますが、Op.87も全曲ポリフォニックな書法で統一されています。フーガ、フゲッタ、カノンという形式を組み合わせた構成で、ジャズの和声語法と対位法的書法が共存しています。
| 番号 | 形式 | テンポ |
|---|---|---|
| 1 | Fuga (a 3 voci) 3声のフーガ | Allegretto(二分音符=92) |
| 2 | Fuga (a 3 voci) 3声のフーガ | Moderato(♩=104) |
| 3 | Canone alla Quarta 4度のカノン | Moderato(♩=96) |
| 4 | Fughetta (a 3 voci) 3声のフゲッタ | Andantino(♩=116) |
| 5 | Canone alla Terza 3度のカノン | Allegro(二分音符=88) |
| 6 | Fuga (a 3 voci) 3声のフーガ | Sostenuto(二分音符=76) |
| 7 | Fuga (a 2 voci) 2声のフーガ | Allegro(二分音符=120) |
第7曲は最も親しみやすいうえ、カプースチン独特の「再現部前の準備」など、この作曲家の作風を自然に体験できます。まず1曲だけ弾いてみたい方は、ここから始めてみるのがいいでしょう。
‣ Knorr, Ernst-Lothar von(1896-1973) エルンスト=ロタール・フォン・クノル
エルンスト=ロタール・フォン・クノル(1896年1月2日アイトルフ生まれ、1973年10月30日ハイデルベルク没)はドイツの作曲家・音楽理論家・指揮者です。ケルン音楽院でヴァイオリン、音楽理論、指揮法を学び、ドイツ各地の音楽学校で教鞭を取りました。
· Serenade
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:セレナーデ
作曲年:不明
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「片手で弾くピアノ曲集」(編:ヴァルター・ゲオルギイ/音楽之友社)ほか
備考:左右どちらの手でも演奏可能
内省的な性格を持つ作品で、ドリアやミクソリディアなどのスケールが随所に顔を見せ、独特の古風な色合いをもたらしています。全体を通じてルバートとテンポ変化に関する指示が豊富に書き込まれており、セレナーデという題名とも相まって、心の揺れ動きを音楽で表現しようとした意図が伝わってきます。
· Etude
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:練習曲
作曲年:不明
演奏時間:約50秒
難易度:ツェルニー30番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「片手で弾くピアノ曲集」(編:ヴァルター・ゲオルギイ/音楽之友社)ほか
備考:左右どちらの手でも演奏可能。1段譜で記されている
6/8拍子による無窮動的練習曲。基本的には単音のパッセージワークで成り立っていますが、わずかに多声となる部分もあり、曲の終盤では属音上と主音上のオルゲルプンクトが交互に登場する形が現れます。
冒頭にlegatoの指示がありますが、非和声音が多く登場するため、ペダルに頼らずに指でレガートを表現することが求められます。それが練習上の目的の一つと言えるでしょう。
‣ Köhler, Louis Heinrich(1820-1886) ケーラー
· Schule der linken Hand, Op. 302(School of the Left Hand)
邦題: 左手ための教本 Op.302
作曲年:幅広い年代の作品が収録されたアンソロジー
難易度:ツェルニー30番入門程度の作品から上級作品まで
分類:オリジナル作品+編曲作品(独奏)
この曲集には、ケーラーが作曲・編曲した左手作品が複数収録されています。
| 曲名・内容(日本語) | 原題(独/英/仏) |
|---|---|
| 3つの小品 | Drei Vortragsstücke (l. H. allein) / Three Pieces (l. h. alone) |
| メロディの練習曲 | Melodie-Etüde |
| 練習曲 | Etüde |
| 2つの民謡 | Zwei Volkslieder (l. H. allein) / Two Popular Songs (l. h. alone) |
| 「オベロン」のメロディ | Melodie aus Oberon (l. H. allein) |
| 2つの小品 | Zwei Stücke (l. H. allein) / Two Pieces (l. h. alone) |
| 「魔弾の射手」のメロディ | Melodie aus dem Freischütz (l. H. allein) |
| ガボット | Gavotte (l. H. allein) |
| 「ジョセフ」のメロディ | Melodie aus Joseph (l. H. allein) |
| 「魔弾の射手」のメロディ | Melodie aus dem Freischütz (l. H. allein) |
注意:
・この一覧表からは、ケーラーが作曲した左手のためのエクササイズ(ハノンのような音遣いの作品)は除外
・本曲集に収録されている「両手」で演奏するケーラー作品も除外
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】ケーラー「左手のための教本 Op.302」完全ガイド:収録曲一覧・難易度・おすすめ作品
‣ Korngold, Erich Wolfgang(1897-1957) コルンゴルト
エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(1897年ブルノ生まれ、1957年ハリウッド没)はオーストリア出身の作曲家です。ウィーンで神童として出発し、20歳でオペラ「死の都」を発表して国際的な名声を確立しました。1930年代にアメリカに渡り、ハリウッドの映画音楽作曲家として新たな成功を収めました。本作はウィーン時代、ヴィトゲンシュタインへの委嘱作品として書かれています。
· Piano Quintet in E major, Op. 15
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ピアノ五重奏曲 ホ長調 Op.15
出版:1924年
演奏時間:約30分
分類:オリジナル作品(室内楽)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタインのために書かれた作品(両手版はグスティヌス・アンブロージに献呈)
構成(全3楽章)
I. Mässiges Zeitmaß, mit schwungvoll blühendem Ausdruck
II. Adagio
III. Finale
Op.15 は元々パウル・ヴィトゲンシュタインのために書かれた左手用のオリジナルが存在し、現在一般に知られている両手版(彫刻家グスティヌス・アンブロージに捧げられたもの)はその改訂・編曲版です。
第2楽章のAdagioは、コルンゴルト自身の歌曲集「別れの歌 Op.14(Lieder des Abschieds)」の旋律を素材とした自由な変奏曲として書かれました。
書法自体は後期ロマン派的な質感を持ちながらも、和声はより先鋭的な色彩を帯びています。
· Piano Concerto for the Left Hand in C-sharp major, Op.17
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1小節目)

邦題:左手のためのピアノ協奏曲 嬰ハ長調 Op.17
作曲年:1923年(1922年委嘱)
演奏時間:約27分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン
構成
全体は切れ目のない単一楽章で、3つの主要セクションが続きます:
・Mässiges Zeitmass(中庸なテンポ)
・Heldisch(英雄的に)
・Mit Feuer und Kraft(火と力をもって)
作品の背景
1922年にヴィトゲンシュタインから委嘱を受け、翌年完成した左手独奏と管弦楽のための協奏曲です。ジチーの協奏曲(1895年)に次いで、左手のための協奏曲としては「史上2番目」にあたるとされています。またヴィトゲンシュタインがラヴェル、プロコフィエフ、ヒンデミット、リヒャルト・シュトラウスらに委嘱する以前の「最初の」大規模な委嘱作品でもある点は注目に値するでしょう。
初演は、1924年9月22日、ウィーン夏の音楽祭にて、コルンゴルトの指揮とヴィトゲンシュタインのピアノで行われました。
作品を気に入ったヴィトゲンシュタインは、その後さらにOp.23(2つのヴァイオリン、チェロと左手ピアノのための組曲)を委嘱しています。
ヴィトゲンシュタインは1961年の死まで独占的な演奏権を保有し続けたため、作品は1930年代以降にレパートリーから姿を消しました。1980年代にゲイリー・グラフマンによって復活するまで、ほとんど演奏されることがありませんでした。
音楽的な特徴
オクターヴを主体とした曲の出だしは、後の左手作品(Op.23)の序奏との共通点を感じさせます。
また、コルンゴルトが多くの楽曲で用いた特徴的なオーケストレーション(チェレスタの和音による強打を他の楽器の音とぶつける など)も顔を見せており、左手ピアノパート以外も魅力的な仕上がりになっています。
· Suite für 2 Violinen, Violoncell und Klavier (linke Hand), Op.23
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1楽章 1-2小節)

邦題:2つのヴァイオリン、チェロと左手ピアノのための組曲 Op.23
作曲年:1930年
演奏時間:約38分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(室内楽)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン
構成(全5楽章)
| 楽章 | 標題 | 性格 |
|---|---|---|
| I | Präludium und Fuge | ・ピアノ独奏だけで幕を開け、荒々しいパッセージワークが続く ・フーガはd-mollの半音階的な素材を軸とし、楽章の終わりにプレリュードの素材が戻ってくる |
| II | Walzer | ・速すぎず遅すぎない柔軟なテンポによるワルツ ・ウィーンの空気を纏いながら、どこか詩的なたたずまいを持つ三部形式 |
| III | Groteske | ・全5楽章の中で最も尖った性格を持つ楽章 ・拍子が次々と変わる中、鋭い主題と高い緊張感が持続する |
| IV | Lied | ・静謐な楽章 ・前後の楽章の強い感情から解き放たれるような、深く落ち着いた音楽 |
| V | Rondo-Finale (Variationen) | ・素朴な歌のような主題が形を変えながら繰り返し現れる ・最終的に全曲を明るく締めくくる、組曲全体の到達点 |
第1楽章はピアノの独奏から開始し、ソロで31小節間もの導入が奏でられます。ここではリズミカルで技巧的かつ不協和の表現が繰り広げられますが、32小節目で他の楽器が一斉に出てきた瞬間、音楽が一気に分かりやすくなります。これは一種のサプライズと言ってもいいかもしれません。
第1-5楽章の全体を通じてピアニストへの技術的要求は高いものの、左手独奏と弦楽器がそれぞれの特性に即した書き方で組み合わされています。コルンゴルトはダイナミクス、アーティキュレーション、音楽的ニュアンスを丁寧に書き込みました。
コルンゴルトの作品に映画音楽から入った聴衆には少し難しく感じられるかもしれませんが、演奏者にとっても気合の入る、精緻に作り込まれた大作と言えるでしょう。
‣ Kulla, Hans(1910-1956) ハンス・クッラ
ハンス・クッラ(1910年エッセン生まれ、1956年バンベルク没)はドイツの作曲家・音楽教育者・教会音楽家です。ケルン音楽大学でテオ・クライテンとヴァルター・ゲオルギイに師事しました。1945年以降はアルテンブルクの高等学校で音楽教師を務め、教育者として地域の音楽活動に尽力しました。青少年運動の歌や童謡、聖歌合唱曲を中心に作品を残しています。
· Variations über “Verstohlen geht der Mond auf”
※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可
邦題:ドイツ民謡《月が出た》による変奏曲
作曲年:不明
演奏時間:約2分30秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「片手で弾くピアノ曲集」(編:ヴァルター・ゲオルギイ/音楽之友社)ほか
この変奏曲の主題は、ブラームスが「ピアノソナタ 第1番 Op.1」の第2楽章で変奏曲の素材として用いたものと同じドイツ民謡「Verstohlen geht der Mond auf」です。
変奏の大部分は対位法的な書法で書かれており、「Sehr langsam und düster(非常にゆっくりと、陰鬱に)」と指示された変奏のみ、オルゲルプンクト(保続音)を伴う和声的な書法になっています。この対比が作品の中で際立った変化をもたらしています。
随所に10度以上の音程が現れるため、ある程度の手の大きさが必要でしょう。手が届かない場合はアルペッジョで対応することになります。
楽譜には作曲者自身による左手独奏用と右手独奏用の運指がともに記されており、どちらの手でも演奏できる作りになっている点が特徴的です。
‣ Le Beau, Luise Adolpha(1850-1927) ル・ボー
ルイーゼ・アドルファ・ル・ボー(1850年ラシュタット生まれ、1927年バーデン=バーデン没)はドイツの女流作曲家・ピアニストです。クララ・シューマンに師事し、批評家ハンスリックからも高く評価されました。自作の演奏を各地で行い、演奏家・作曲家の両面で活動した人物です。
· Improvisata: Klavierstudie für die linke Hand allein, Op.30
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:インプロヴィザータ(即興曲):左手のための練習曲 Op.30
作曲年:1883年頃
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
特定の音型を繰り返すエチュード的な書法が骨格をなしています。分散和音を中心とした音型が続く中、跳躍の直後に音程幅の広い和音を掴む場面が多く、演奏上の難所と言えるでしょう。
構成はAndanteとAgitatoが交互に現れる形で、Andante → Agitato → Andante → Agitatoと場面が転換します。後半に向かうにつれ、冒頭からにじんでいた下降音型の素材がより前面に押し出され、音楽に濃密さが加わっていきます。
‣ Leschetizky, Theodor(1830-1915) レシェティツキー
テオドール・レシェティツキー(1830-1915)はガリツィア(現ポーランド)のランツート生まれ、ドレスデン没のピアニスト・教育者です。ツェルニーに師事し、その指導法を受け継ぎながら独自の奏法論を発展させました。アントン・ルービンシュタインとも親しく、ペテルブルク音楽院ではピアノ科の主任を務め、後にウィーンで教育者として絶大な名声を築きました。
· Andante finale from “Lucia di Lammermoor,” Op.13
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:「ランメルモールのルチア」のアンダンテ・フィナーレ Op.13
編曲年:遅くともドライショクの生前である1869年以前(19世紀半ば頃)と考えられる
演奏時間:約6分00秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
ドニゼッティのオペラ「ランメルモールのルチア」の名場面、六重唱「Chi me frena in tal momento」をもとにした編曲です。両手版を書いたリストが有機的な序奏を設けているのに対し、このレシェティツキー版には独自の長い前置きが付されていますが、その必然性については疑問が呈されることもあります。
ドニゼッティの美しい旋律と、ピアニストであるレシェティツキーならではのピアニスティックな装飾が結びついた編曲で、上級者用のコンサートピースに適した仕上がりと言えるでしょう。
「The Boston Music Company Digest Of Piano Pieces: For The Left Hand Alone(1917)」をはじめ、多くのアンソロジーに収録されている、左手編曲の中では比較的知られている一曲です。ヴァクフゼン「Für die linke Hand allein」など、輸入盤の録音音源には度々収録されています。
‣ Lipatti, Dinu(1917-1950) リパッティ
· Sonatine pour piano(Main gauche seule)
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、第1楽章 1-4小節)

邦題:左手のためのソナチネ
作曲年:1941年(1947年完成)
演奏時間:全曲合計 約7分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
教師ミハイル・ジョラと名付け親エネスクへの誕生日祝いとして構想された作品です。五線紙が不足していたため「1段で書ける=片手のための曲」を思いついたという逸話が残っています。また、ジョラが片脚の人物だったことから、一種のブラックユーモアも込められていたと伝わっています。
3楽章構成。和音・オクターブ主体の部分と対位法的な部分が混在しています。声部ごとに異なるダイナミクスが指定される箇所も見られ、左手作品の中では比較的珍しい書法と言えるでしょう。他声部が休止してメロディが単独で浮かび上がる「無伴奏表現」が全楽章を通じて印象的な作品です。
リパッティ自身によるモノラル録音が現存しており、「”Mit links” — Der Pianist Paul Wittgenstein」などに収録されています。
この作品をさらに詳しく知る
【ピアノ】左手作品から読み解くリパッティ:逸話に彩られた左手のソナチネ
‣ Liszt, Franz(1811-1886) リスト
· A magyarok Istene (Ungarns Gott) S.543 R.214
譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、1-4小節)

邦題:ハンガリーの神 S.543 R.214
作曲年:1881年(原曲)
演奏時間:約3分20秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:作曲家自身による編曲作品(独奏)
ハンガリーの国民的詩人ペテーフィ(Sándor Petőfi)の詩をもとにリスト自身が作曲した歌曲のトランスクリプションで、ジチー伯爵への献呈作品として書かれました。元となった歌曲はリストの後期、1881年の作品であり、リストの歌曲集において末尾から2作目に収められています。
ペテーフィは1848年のハンガリー革命を詩によって鼓舞した愛国詩人として名高く、この詩もハンガリーの神へ捧げる祈りと民族の誇りを主題としています。晩年のリストがこの詩を取り上げたことは、生涯にわたって抱き続けた故郷ハンガリーへの深い愛着を物語るものでしょう。
音楽的には、晩年のリストのピアノ作品に見られる素朴な書法と、独特の和声の動きが印象的な一曲です。構成は即興的かつ自由で、朗唱を思わせる旋律線とカデンツァ的なパッセージが織り交ぜられています。
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【ピアノ】左手作品から読み解くリスト:二つの作品に見る作曲家の素顔
► 終わりに
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