【ピアノ】片手のためのメヌエット作品ガイド:年代順にたどる

【ピアノ】片手のためのメヌエット作品ガイド:年代順にたどる

► はじめに

 

メヌエット(Menuet/Menuetto)は、片手のための作品の中にも性格小品として数多く取り入れられてきたジャンルです。優雅な3拍子の歩みを、限られた指の数でどう表現するか——その工夫に、作曲家ごとの個性が表れています。

本記事では、「Menuet」「Menuetto」「Minuetto」「メヌエット」を含む片手作品を、成立年の古い順に紹介します。単独の独奏曲として書かれた例は少なく、組曲や曲集の中の一曲としてメヌエットが置かれている例が多いため、そうした作品については該当箇所を中心に取り上げました。3手作品など、片手パートを含む作品についても、片手演奏との関連が明確な場合は掲載しています。

選曲や、作品の歴史をたどる際の手がかりとしてお役立てください。

なお、記事内で示す成立年は、原則として作品の作曲年を記載し、それが確認できない場合や編曲作品については、出版年など確認できる年代を示しています。範囲表記の場合は着手年を基準に並べています。

 

► 演奏形態について

 

本ガイドでは、作品名の末尾に以下の記号を付しています:

[LH]:左手のみで演奏
[RH]:右手のみで演奏
[LH/RH]:左手または右手で演奏
[LH][RH]:左手作品と右手作品が両方入っている項目など

作品を実際にどちらの手で演奏できるかではなく、作曲者・編曲者が指定した演奏形態を基準として、[LH][RH][LH/RH]を付しています。

 

► 年代順にたどる作品紹介

‣ ライネッケ「左手のためのピアノソナタ Op.179 より 第3楽章 メヌエット」(1884年作曲)[LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

ライネッケ「左手のためのピアノソナタ Op.179 より 第3楽章」1-5小節

シューマンと親しく、ライプツィヒ音楽院とゲヴァントハウス管弦楽団で長年要職を務めたカール・ライネッケ(1824-1910)が、左手独奏ソナタとして書いた全4楽章の第3楽章。スケルツォ風の性格を持つメヌエットで、トリオを含む構成をとり、跳躍の多さから技術的なハードルの高さも持ち合わせています。

演奏時間は約3分30秒、難易度はツェルニー50番入門以降程度。

 

ライネッケについてさらに詳しく知る

左手作品から読み解くカール・ライネッケ:19世紀に左手ソナタを書いた先駆者

 

‣ ラインベルガー「左手、または両手のためのピアノ練習曲集 Op.113 より 第2曲 メヌエット」(19世紀の作品、成立年不明)[LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

ラインベルガー「左手、または両手のためのピアノ練習曲集 Op.113 より 第2曲 メヌエット」1-5小節

※成立年不明の作品ですが、没年を上限として便宜的にここに置いています。

 

教育者として厚い信頼を集めたヨーゼフ・ラインベルガー(1839-1901)が、左手だけでも両手でも演奏できるよう書いた全6曲の小品集の中の一曲。作曲年・出版年とも判然としていませんが、3曲ずつ2冊(Heft)に分けて出版され、のちに1930年には全6曲をまとめた版も出ています。

この第2曲は付点リズムに特徴を持つ一方、音の配置が全体的に低域に集まっており、軽い曲想でありながらどこかどっしりとした印象を残します。

演奏時間は約5分、難易度はツェルニー40番修了程度。

楽譜:Pianofortestudien für die linke Hand allein oder auch für zwei Hände, Op.113(sasaya.gakufu.net)

 

‣ ビルケダル=バルフォド「左手のための練習曲集 より 第2曲 メヌエット」(1895年頃出版)[LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-6小節)

ビルケダル=バルフォド「左手のための練習曲集 より 第2曲 メヌエット」1-6小節

デンマークの作曲家・オルガニスト、ルードヴィヒ・ビルケダル=バルフォド(1850-1937)が残した左手教育用の曲集の中の一曲。全6曲から成るこの曲集の第2曲に置かれています。付点リズムが印象的な短調のメヌエットで、ABACAの構成で書かれています。

演奏時間は約3分40秒、難易度はツェルニー40番修了程度。

 

‣ グリーグ/タイヒマン編「抒情小曲集 より おばあさんのメヌエット Op.68-2」(1911年頃出版)[LH/RH]

 

※編曲者(Fritz Teichmann)の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載を控えております。

 

編曲者フリッツ・タイヒマンが、グリーグ(1843-1907)の「抒情小曲集」から選んだ12曲を右手または左手いずれでも演奏できる形にまとめた曲集の中の一曲。

スタッカートを中心とした軽快で温かみのある性格を持ちます。タイヒマンの編曲はこの曲でも原曲の構成をほぼそのまま生かし、最小限の調整にとどめています。

演奏時間は約2分、難易度はツェルニー40番中盤程度。

ペータース版の楽譜が欧州の古書市場に稀に出回ることがあります。また、PD作品のため、インターネット上で楽譜を閲覧することができます。

 

‣ ゴドフスキー「左手のための組曲 より 第7曲 メヌエット」(1929年頃作曲)[LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ゴドフスキー「左手のための組曲 より 第7曲 メヌエット」1-4小節

「左手の使徒」ことレオポルド・ゴドフスキー(1870-1938)が、マジョルカ島パルマ滞在中に着想した全8曲の組曲の第7曲。スタッカートとレガートの対比に味わいのある、優雅なサロン風の性格を持つ小品としてまとめられています。この曲は、のちに作曲家自身の手で両手用にも編曲されました。

演奏時間は約6分、難易度はツェルニー50番入門以降程度。

 

ゴドフスキーについてさらに詳しく知る

【ピアノ】左手作品から読み解くゴドフスキー:「左手の使徒」が遺した作品群

 

‣ グレーザー「メヌエット(3手のための)」(18世紀の作品、1938年出版)[LH/RH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

グレーザー「メヌエット(3手のための)」1-5小節

18世紀ドイツの音楽監督、カール・ルートヴィヒ・トラウゴット・グレーザー(1747-1797)による3手作品で、作曲そのものの年は不明ながら、没後1938年にアルフレート・クロイツの校訂で出版されました。

最上段に置かれた片手用のパートがメロディを担当し、特に後半では、もう一人の奏者が受け持つ両手パートとの絡み合いが重要な書法として現れます。反復記号を除けば実質16小節というごく小規模な作品です。

演奏時間は約1分20秒、片手奏者パートの難易度はブルグミュラー25の練習曲中盤程度。

 

► 作品一覧表

 

作曲家 作品 成立年 演奏時間 難易度目安
ライネッケ Op.179 より 第3楽章 1884年作曲 約3分30秒 ツェルニー50番入門以降
ラインベルガー Op.113 より 第2曲 19世紀の作品、成立年不明 約5分 ツェルニー40番修了
ビルケダル=バルフォド 練習曲集 より 第2曲 1895年頃出版 約3分40秒 ツェルニー40番修了
グリーグ/タイヒマン編 抒情小曲集 より おばあさんのメヌエット 1911年頃出版 約2分 ツェルニー40番中盤
ゴドフスキー 組曲 より 第7曲 1929年頃作曲 約6分 ツェルニー50番入門以降
グレーザー メヌエット(3手のための) 18世紀の作品、1938年出版 約1分20秒 ブルグミュラー25の練習曲中盤

※難易度表記はあくまで目安です。片手演奏への慣れや手の大きさなどによって実際の難しさは変わります。

 

► どの作品に取り組むか

 

これから片手のメヌエット作品に触れてみたい方には、まずタイヒマン編など、演奏時間・難易度ともに比較的取り組みやすい作品がおすすめです。3手作品も含めて楽しみたい場合は、グレーザーの「メヌエット」も興味深い選択肢でしょう。

そこからラインベルガー、ライネッケ、ゴドフスキーへと作品を弾き進めていくと、メヌエットという古典的な形式が、片手のための音楽の中でどのように時代とともに受け継がれてきたかを、実際の響きを通して味わうことができます。

 

► 終わりに

 

片手だけでメヌエットの優雅な歩みを紡ぐという試みは、17世紀のフランス宮廷で確立したメヌエットの伝統を踏まえつつ、19世紀のソナタ楽章から20世紀のサロン風小品まで、さまざまな形で書き継がれてきました。単独の独奏曲としてよりも、組曲やソナタの一楽章として置かれることの多いジャンルですが、それぞれの文脈の中で作曲家ごとの個性が光ります。気になった作品から、ぜひ実際の音を確かめてみてください。

当サイトでは、作曲家・作品ごとに片手作品を整理した「左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別」を公開しています。メヌエット以外の作品についても知りたい場合は、あわせてご覧いただければと思います。

 

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この記事を書いた人
タカノユウヤ

左手・片手のためのピアノ音楽を専門とし、作曲・編曲、講演などを行っています。また、当サイト「One-Hand Piano Institute」を運営し、作品・作曲家・音楽史・技術(作曲・編曲・演奏)・楽譜・文献まで、片手で演奏するピアノ音楽を多角的に紹介しています。

日本音楽コンクールをはじめ、国内外の作曲コンクールで受賞歴を持ち、これらの受賞作品はいずれも、左手ピアノを編成に含むアンサンブル作品、および、左手のためのピアノ独奏作品です。
また、大学院では左手のためのピアノ音楽における作曲・編曲をテーマに研究し、首席で修了しています。

右手の負傷をきっかけに出会った左手のためのピアノ音楽に心惹かれ、以来15年以上、この分野に取り組んできました。左手音楽の魅力と可能性を、より多くの方に知っていただけたら嬉しく思います。

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