【ピアノ】左手作品から読み解くロバート・ヘルプス:右手の困難の中で書いた3つのエチュード

【ピアノ】左手作品から読み解くロバート・ヘルプス:右手の困難の中で書いた3つのエチュード

► はじめに

 

ロバート・ヘルプス(Robert Helps, 1928–2001)という名前は、日本ではまだ一般に広く知られているとは言いにくいでしょう。しかしアメリカの音楽界では「ピアニストのピアニスト、作曲家の作曲家」と称された人物であり、ミルトン・バビットはこう評しています。「若き日に『演奏不可能』と言われた作品を演奏して以来、彼は他のピアニストが弾けなかった、あるいは弾もうとしなかった作品を比類なく演奏し続けた」と。

そのヘルプスが右手に困難を抱えた時期に書いた左手作品「左手のための音楽 3つのエチュード——原題:Music for Left Hand: Three Etudes for Piano Solo」は、演奏会用の3つの小品からなる作品集です。規模は小ぶりながら、現代音楽の文脈のなかで書かれた独自の世界を持っています。

 

► 左手作品から読み解くロバート・ヘルプス

‣ ヘルプスという人物

 

1928年9月23日、ニュージャージー州パセイクに生まれたヘルプスは、5歳でピアノを始めました。ピアノをアビー・ホワイトサイドに、作曲・理論をロジャー・セッションズに学び、1947年にコロンビア大学へ入学。1949年にカリフォルニア大学バークレー校へ転籍し、1951年に学位を取得しています。

教育者としても活躍し、ニューイングランド音楽院、サンフランシスコ音楽院、プリンストン大学、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、マンハッタン音楽院などでピアノを教えました。晩年は南フロリダ大学で教鞭を執り、2001年11月24日にフロリダ州タンパで亡くなりました。

作曲家として受けた賞も多く、ナウンバーグ財団賞、グッゲンハイム・フェローシップ、フロム財団からの賞、アメリカ芸術文学アカデミーからの賞などを受賞しました。

ショパンのエチュードとゴドフスキーの「ショパンのエチュードによる練習曲」への生涯にわたる関心が、彼のピアノ演奏と作曲の両面に影響を与えたとされています。

また、右手に困難を抱えていた時期に、「左手のための音楽 3つのエチュード」を自分自身のために作曲しました

 

※エーデルの記載では生年が1929年となっていますが、パターソンをはじめ複数の資料が1928年で一致しているため、本記事では1928年を採用しています。

 

‣ 左手作品を読む:左手のための音楽 3つのエチュード

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

 

作曲年:1975年
出版年:1976年
演奏時間:全曲合計 約8分30秒

1. Andante con moto——「for Ian Underwood(イアン・アンダーウッドのために)」
2. Adagio espressivo e rubato——「for Tison Street(タイソン・ストリートのために)」
3. Allegro brillante——「for Rudolf Kolisch(ルドルフ・コリッシュのために)」

 

演奏会用作品で、多くの大きな跳躍、複雑なリズムの組み合わせなどを要求します。全体的に鍵盤の上部音域を中心に展開し、低音域はほぼ使われません。

ヘルプス自身が手紙の中でこう書いています。

※以下は原文からの筆者訳

「《左手のための音楽 3つのエチュード》は、私が右手に困難を経験していた時期に、私自身のために書かれた作品です。それは常に、私自身の『お気に入り』リストの上位に位置してきました。標準的な両手ピアノを基準にするなら、左手独奏の作曲家が直面するのは使える音符が少なすぎるという問題——それらは互いに近すぎる傾向がある——であり、4手ピアノでは音符が多すぎる傾向があり、2台ピアノ4手では重複音程が過多になり、結果として『ホンキー・トンク』のような響きになる。こうした罠を回避しようとすることは、本当に興味深く、挑戦しがいのある試みです。左手独奏のための作品を書いてきたすべての作曲家が、意識的にあるいは無意識的に、片手だけのようには聴こえないようにしようとしていると思います——音楽的にもピアニスティックにも。言うまでもなく、これは高度な難しさを生み出す傾向があります。」(著者への手紙、パターソン p.L209より)

ここで特に興味深いのは、ヘルプスが「片手で演奏すること」そのものを、ただの制約ではなく、作曲上の問題として捉えている点でしょう。片手のための音楽を書くことの難しさを、作曲家自身の言葉から知ることができます。

3曲の性格について、ヘルプスはこう特徴づけています。第1曲は「高度にテクスチャー的でインプレッショニスティック」、第2曲は「ヴォーカル的」、第3曲は「ヴィルトゥオーゾ的——この場合、トッカータ」と。

 

第1・2曲には運指がなく、第3曲はすべての音符に運指番号が付いています。

第3曲の冒頭には、「Senza or poco Pedal, except where indicated.(指示のある箇所以外は、ペダルを使わないか、少量のペダルに留める)」と書かれており、全体的に作曲家自身による指示が多く見られます。

 

► 終わりに

 

AllMusicはヘルプスを、アメリカの戦後アヴァンギャルドにおいて「スターというより、際立った存在感を持つプレイヤー」と評しました。しかしその音楽は、聴く者に確かな印象を残します。

左手ピアノのレパートリーとしてだけでなく、片手という制約を作曲上の課題として捉えた作品としても、「左手のための音楽 3つのエチュード」は興味深い存在です。セッションズの影響を受けたアメリカ現代音楽の一角に触れるという意味でも、探求する価値のある作品と言えるでしょう。

 

参考文献:

・Edel, Theodore. Piano Music for One Hand. Indiana University Press, 1994.
・Patterson, Donald L. One Handed: A Guide to Piano Music for One Hand. Greenwood Press, 1999.

 

参考資料・ウェブ資料

・AllMusic「Robert Helps」
・American Composers Alliance「Helps, Robert」

 

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【ピアノ】「Piano Music for One Hand」(テオドール・エーデル 著)レビュー
【ピアノ】「One Handed」(ドナルド・L・パターソン 編)レビュー

 


 

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