左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 P-R

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左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別 P-R

► はじめに

 

本ページでは、P-Rで始まる作曲家の左手ピアノ作品をまとめています。作曲作品・編曲作品・教本・室内楽・協奏曲などを、作曲家ごとに整理しています。

作品を探す際は、以下のアルファベット別ページもご利用ください。

左手ピアノ作品ライブラリー:作曲家別

 

► 作曲家別 P-R

‣ Palmgren, Selim(1878-1951) セリム・パルムグレン

 

セリム・パルムグレンは、フィンランド出身の作曲家・ピアニスト・指揮者です。ヘルシンキ音楽学校で学んだ後、ドイツとイタリアでアンゾルゲ、ベルガー、ブゾーニに師事しました。帰国後は合唱団やオーケストラの指揮者を経て作曲とピアノ演奏に専念し、ヨーロッパやアメリカを広く演奏旅行しています。1923年にはイーストマン音楽学校で教鞭をとり、後年はシベリウス・アカデミーの教授として和声・作曲を指導しました。

大規模な作品よりも、短いキャラクター・ピースや叙情的な小品の評価が高い作曲家で、必ずしも民族色に依拠していません。北欧ピアノ音楽を代表する存在の一人です。

 

· Intermezzo [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

パルムグレン「間奏曲」1-5小節

邦題:間奏曲

 

作曲年:1898年
演奏時間:約1分50秒
難易度:ツェルニー30番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:舘野泉 左手のピアノ・シリーズ 左手のためのピアノ珠玉集 時のはざま(Amazon.co.jp)

 

パルムグレンが作曲した左手のためのオリジナル作品はこの「Intermezzo」1曲のみとされています。

短い作品ながら様々なアーティキュレーションが盛り込まれた、表情豊かな一曲。曲の冒頭から10度音程による和音が複数回にわたって現れる点も、サウンド面での大きな特徴になっています。

 

‣ Panseron, Auguste Mathieu(1796?-1859) オーギュスト・マチュー・パンスロン

 

オーギュスト・マチュー・パンスロンは、フランスの作曲家・声楽教師です。パリの音楽院(コンセルヴァトワール)で、ソルフェージュと声楽を教え、教育用の作品で特に知られます。ソルフェージュや発声の練習曲を数多く書き、これらは、のちの時代にも出版され続けました。パリで生まれ、パリで亡くなりました。ウィーンで、アントニオ・サリエリ(Antonio Salieri)に学んでいます。

 

· Solfège du pianiste [LH/RH]

 

パンスロン「ピアニストのソルフェージュ より 第23番」1-8小節

邦題:ピアニストのソルフェージュ

 

作曲年:不明
出版:1845年、作曲者自身(パリ)
難易度:ブルグミュラー25の練習曲入門程度〜ツェルニー40番中盤程度(片手奏者のパート)
分類:オリジナル作品(教育用の曲集、読譜の練習のための教本)、3手連弾を含む
献呈:Koucheleff Besborodko 伯爵

 

曲集の概要

曲数が多いため、この項目では曲ごとには立てず、曲集全体をまとめて扱います。全2部構成で、この曲集には300を超える練習曲と編曲が含まれ、3手または4手のための作品が含まれます。片手パートがプリモ(高音側)の曲と、セコンド(低音側)の曲の両方があります。

 

序文の趣旨

・ピアノでの初見の演奏には、声のソルフェージュで学ぶ、ト音記号とヘ音記号の読みだけでは足りない
・異なる音部記号の2つのパートを同時に読まなければならず、五線の外の音を読むことにも慣れなければならない
・この曲集は、そうした困難を、段階的に克服するための、新しい試み
・目的は、楽器の奏法ではなく、読譜の習得

 

推薦の手紙の要点

序文とは別のページに、2通の推薦の手紙が載っています。

Zimmerman(1845年1月15日付)
この曲集は、欠かせないものになるだろう

Kalkbrenner(同1月20日付)
この曲集を丁寧に見たうえで、生徒が初見でうまく読めるようになる助けになるだろう

 

‣ Pauer, Ernst(1826-1905) エルンスト・パウアー

 

エルンスト・パウアーは1826年12月21日ウィーンに生まれ、1905年5月9日ダルムシュタット近郊のユーゲンハイムで没した、オーストリア出身のピアニスト・教師・編集者・作曲家です(ピアニストのマックス・パウアーの父にあたります)。牧師の家系に生まれ、母方はピアノ製作の名門シュトライヒャー家の出身でした。若くしてディルツカやF.X.W.モーツァルトにピアノを、ゼヒターに和声・対位法を、ラッハナーに作曲・管弦楽法を学んだのち、マインツで指揮者・作曲家として活動を始めます。

1851年にロンドンでピアニストとしてデビューして大きな成功を収めると、以後は同地を拠点とし、ロイヤル音楽アカデミーの教授職を経て、ロイヤル音楽カレッジでは長年にわたりピアノの主任教授を務めました。演奏活動と並行して鍵盤音楽史などの講義も行い、オーストリア宮廷ピアニストの称号も得ています。

 

· Suite pour la main gauche in E-Flat, Op.72 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第3曲 1-4小節)

パウアー「左手のための組曲 Op.72」第3曲 1-4小節

邦題:左手のための組曲 Op.72

 

出版年:1890年
演奏時間:全曲合計 約9分
 第1曲 Prélude:約1分
 第2曲 Allemande:約50秒
 第3曲 Gavotte:約2分30秒
 第4曲 Sarabande:約2分30秒
 第5曲 Bourrée:約1分10秒
 第6曲 Gigue:約1分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

パウアーが同時期に手がけた「12の性格的練習曲 Op.73」のような技巧的な難曲群とは対照的な位置づけの作品と言えるでしょう。

古典的な組曲の配列から選曲されており、非常に親しみやすい仕上がりになってます。

「第3曲 Gavotte」は、曲想がJ.S.バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006 より ガヴォット」に近いものとなっており、サウンド的な影響も感じられます。

 

‣ Payne, Cora Sadler  コーラ・サドラー・ペイン

 

コーラ・サドラー・ペインは、アメリカの作曲家です。作曲した片手のための作品として、「On the Lake」(G. Schirmer、1943年頃)と、「One-Hand Serenade」(Schaum Publications、1984年頃)が確認できます。

 

· One Hand Serenade [LH/RH]

 

※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:片手のためのセレナーデ

 

作曲年:不明
出版:1984年頃、Schaum Publications, Inc.(ウィスコンシン州メクォン)
演奏時間:約1分30秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:欧州の古書市場などで稀に出回ることがある

 

作品の背景

表紙には、淡いピンクの背景に、左腕を三角巾で吊った人物が右手のみでピアノに向かっている姿が描かれています。装飾的な風景ではなく、片手を負傷した人物がピアノを弾く場面をそのまま描いている点が、ユニークと言えるでしょう。

 

音楽的な特徴

単音だけで書かれており、左右どちらの手でも弾けるように運指が示されています。

 

‣ Perdew, Ruth  ルース・パーデュー

 

ルース・パーデューは、アメリカの作曲家です。コロラド州ボルダーの出版社、Myklas Press から、教育用のピアノ曲を出版しており、作品の一部は、Alfred Music の「Myklas Contest Winners」(Book 1・2)に、収められています。

 

· Glacier Range(for the left hand alone) [LH]

 

※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:氷河の山並み

 

作曲年:不明
出版:
 1982年頃、Myklas Press(コロラド州ボルダー)
 現在は、Alfred Music(品番 00-88242)
演奏時間:約1分30秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Glacier Range (for left hand alone) / Perdew(hebu-music.com、Alfred版の取り寄せ)

 

作品の背景

全米音楽クラブ連盟(National Federation of Music Clubs)の、ジュニア・フェスティバルの課題曲(1995〜1997年、Primary Class IV)に選ばれています。

 

音楽的な特徴

基本的に、和音の伴奏の下でメロディが歌われます。「終わりの3小節を除いて、ヘ音記号の音を、ト音記号の音より大きく弾く」という指示があります。

 

‣ Peter, Darrell(1918-? )  ダレル・ピーター

 

ダレル・ピーターは、1918年1月14日、アメリカ・オクラホマ州ポーニー生まれのピアニスト・指揮者・作曲家・教育者です(没年不明)。サウスウェスタン大学、イーストマン音楽学校で学び、ピアノをオルガ・サマロフ=ストコフスキーとサーシャ・ゴロドニツキーに、作曲をバーナード・ロジャースとエドワード・ロイスに師事しました。第二次世界大戦中は南太平洋方面でアメリカ陸軍の音楽顧問として従軍しました。ジュリアード音楽院などで教鞭をとったほか、1960年当時はニューヨークの自身のスタジオで教え、合唱団体の指揮も務めていました。

 

· Prelude in E minor(for Left Hand Alone) [LH]

 

※作曲者の没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:左手のための前奏曲 ホ短調

 

出版年:1960年頃
演奏時間:約1分50秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:For Alan(アランのために)
楽譜:欧州の古書市場などで稀に出回ることがある

 

作品の背景

この曲は、Art Publication Society社が刊行していた「Progressive Series」というシリーズの1曲として出版されました。このシリーズは、当時の短いピアノ小品を教材として紹介することを目的としたもので、出版譜には作曲者の経歴紹介、片手のための作品一般に関する解説、楽曲分析、演奏解釈の手引きが添えられています。

 

音楽的な特徴

形式は3部分からなる「ABA」で、穏やかでシンプルな取り組みやすい小品。後半は多少和音の数が増えますが、運指やペダリングの指示が記譜されているため、演奏の手がかりは十分にあります。一方で、冒頭に「legato」とあるのみでアーティキュレーションの指示がほとんど書き込まれていないため、そこは演奏者による解釈の幅が生まれる部分かもしれません。

 

· Surf-Riding(for Right Hand Alone) [RH]

 

※作曲者の没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:波乗り(右手のための)

 

出版年:1961年頃
演奏時間:約1分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:カレンとクレイグへ(To Karen and Craig)
楽譜:Art Publication Societyの楽譜が欧州の古書市場などで稀に出回ることがある

 

作品の背景

セントルイスの Art Publication Society が出した、教育用シリーズ「Progressive Series Compositions」の一曲。楽譜には、教師向け・生徒向けの解説が付いており、表紙には「学習と解釈のための提案(Suggestions for Study and Interpretation)」の筆者としてジャック・ハートの名が書かれています。Patterson は、この「教師へ」「生徒へ」の文を作曲者の言葉として引用していますが、表紙の記載とは異なっています。

 

音楽的な特徴

波を表現したかのような、上行と下行を繰り返すアルペッジョの音型が続きます。その波は、大きくなったり小さくなったり、同じ箇所に停滞したりと、さまざまな表情を見せます。

楽譜に添えられた解説によれば、この曲は、レガートのアルペッジョを滑らかに弾くことを学ぶために作られました。形式は三部形式(ABA)で、A部はヘ長調(1〜8小節と21-30小節)、B部は変ト長調(9-20小節)、コーダは31-35小節です。

 

‣ Petyrek, Felix(1892-1951) フェリックス・ペチュレク

 

フェリックス・ペチュレク(1892年ブルノ生まれ、1951年ウィーン没)はオーストリア(チェコスロバキア)の作曲家・ピアニストです。ウィーンでフランツ・シュレーカーに作曲を、グイド・アードラーに音楽学を師事し、ザルツブルク、アパツィア(イタリア)、アテネ、ドイツ各地の音楽学校で教えたのち、1949年からウィーン音楽アカデミーで指導しました。表現主義から新古典主義まで、同時代の幅広い傾向を作品に取り込んだ作曲家です。

 

· Zwei Tanzstücke [LH/RH]

 

邦題:2つの舞曲

分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「片手で弾くピアノ曲集」(編:ヴァルター・ゲオルギイ/音楽之友社)ほか

 

構成

第1番(右手独奏のための)
第2番(左手独奏のための)

 

第1番(右手独奏のための)

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-6小節)

ペチュレク「2つの舞曲 より 第1番(右手独奏のための)」1-6小節

演奏時間:約1分
難易度:ツェルニー30番中盤程度

半音階的なマイナー・クリシェの和声で幕を開けるワルツです。2曲を通じて共通する特徴として、跳躍を多く含む運動性の高い音型と、半音階的な和声が頻繁に現れる点が挙げられます。

 

第2番(左手独奏のための)

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

ペチュレク「2つの舞曲 より 第2番(左手独奏のための)」1-5小節

演奏時間:約1分
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度

第1番と同様、跳躍と半音階的な和声が随所に現れますが、こちらはどこか諧謔的な性格を帯びており、第1番とはひと味異なる表情を持っています。H-durの中に独特のひねりが加わった一曲です。

 

‣ Pfeiffer, Georges Jean(1835-1908) ジョルジュ・ジャン・プフェフェール

 

編曲者ジョルジュ・ジャン・プフェフェールは1835年にヴェルサイユに生まれ、1908年にパリで没したフランスのピアニスト・作曲家です。ピアノ製造に縁の深い家系の出身で、大おじはパリでのピアノ製造業の創始者、父もピアノ工場の共同経営に携わっていたという環境に育ちました。ピアノは母から、作曲はマルダンとダムケに学び、1862年にデビューを果たしたのち、独奏者・室内楽奏者として長く演奏活動を続けました。

作曲家としても評価を得ており、室内楽曲の受賞歴やオペラ作品も残していますが、演奏家としての活動と並行して、著名な旋律を用いた技巧的な編曲もいくつか手がけており、本作もそうした系譜に連なる一曲です。

 

· Miserere de l’Opéra “Trovatore” par Giuseppe Verdi, Op.16(Grande Transcription Brillante pour la main gauche) [LH]

 

邦題:ヴェルディ 歌劇《トロヴァトーレ》の“ミゼレーレ”による左手のための華麗な大編曲

プフェフェール編曲「ヴェルディ 歌劇《トロヴァトーレ》の“ミゼレーレ”による左手のための華麗な大編曲」1-3小節

原曲:Verdi, Giuseppe / 歌劇《トロヴァトーレ》より「ミゼレーレの場」
編曲:Pfeiffer, Georges Jean(左手用編曲)、Op.16
出版年:1862頃
演奏時間:約10分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)
献呈:フランツ・リスト

 

冒頭には「triste solenne(悲しく、そして厳かに)」という指示が置かれています。単に悲しげに弾くというよりも、重みと威厳をたたえた深い悲哀を表すよう求める言葉で、葬送行進曲や、深く厳粛な雰囲気を持つ楽曲の表現においてしばしば見られる指示です。本作も、この深い表情を伴った導入が印象的でしょう。

その後は、跳躍、オクターヴ、和音、アルペジオ、付点リズムの連続、カデンツァなど、次々と技巧的な課題が現れる書法になっており、多くのテクニックを要求される一方で、表情の変化に富んだ聴きごたえのある編曲に仕上がっています。

 

‣ Philipp, Isidor(1863-1958) イシドール・フィリップ

 

イシドール・フィリップは、ブダペスト生まれ、パリで活躍したピアニスト・教育者・編曲家です。パリでステファン・ヘラーとカミーユ・サン=サーンスに師事し、1893年から1934年までの40年以上にわたってパリ音楽院で教え、数多くのピアニストを育てました。ピアノ技法に関する著作や2台ピアノのための編曲を数多く出版したことでも知られています。フェルディナンド・ボナミーチの左手のための作品(Op.271、Op.273)の校訂も手がけるなど、自身の作曲・編曲活動だけでなく、他の作曲家による左手作品を世に広める役割も果たしました。

 

フィリップについてさらに詳しく知る

【ピアノ】左手作品から読み解くイシドール・フィリップ:左手が「もう一本の右手」になるまで

 

· Exercices et études techniques de piano pour la main gauche seule [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、24の準備練習 より 第1番 1-4小節)

フィリップ「左手のための練習曲と技術的エチュード 第1曲」1-4小節

邦題:左手のための練習と技術的エチュード

 

出版年:1895年
難易度:ツェルニー30番入門程度〜ツェルニー50番入門以降程度
序文:ジョルジュ・マチアス
分類:オリジナル作品+編曲作品(独奏)

 

12のエチュードの部分では、C.P.E.バッハ、ショパン、ツェルニー、ケスラー、クロイツァー、メンデルスゾーン、シューマン、ウェーバーの作品から素材が取られており、両手用作品のために書かれたパッセージが左手用に移し替えられ、必要に応じて伴奏的な部分は省略されています。序文を寄せたジョルジュ・マチアスは、この曲集を音楽作品として楽しむためというより、左手の技術訓練を目的としたものと位置づけました。

 

· 4 Études d’après Bach [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1曲 1-4小節)

フィリップ「バッハによる4つのエチュード より 第1曲」1-4小節

邦題:バッハによる4つのエチュード

 

出版年:1903年
演奏時間:全曲合計 約26分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
献呈:モーリッツ・ローゼンタール
分類:編曲作品(独奏)

 

構成(全4曲)

第1曲 プレリュード BWV1006-1 約3分30秒
第2曲 ブーレ BWV1002-7 約4分
第3曲 プレスト BWV1001-4 約3分30秒
第4曲 シャコンヌ BWV1004-5 約15分

 

J.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」からの左手独奏編曲4曲。4曲とも、和音の扱い方などからして、手が大きくない演奏者には困難に感じるであろう箇所が見られます。原曲には書かれていないアーティキュレーションやダイナミクスも加えられています。

第4曲のシャコンヌについては、次の項目をご覧ください。

 

· Chaconne by J.S. Bach for the left hand alone [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-5小節)

J.S.バッハ作曲、フィリップ編曲「シャコンヌ」の楽譜。曲の冒頭の譜例が掲載されている。

邦題:J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004 より シャコンヌ(左手独奏編曲版)

 

出版年:1903年(「4 Etudes d’après Bach バッハによる4つのエチュード」の第4曲として)
演奏時間:約15分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:編曲作品(独奏)

 

1903年出版の「4 Etudes d’après Bach バッハによる4つの練習曲」は、バッハの無伴奏ソナタ・パルティータから4曲を選んで左手用に編んだもので、シャコンヌはその第4曲にあたります。

興味深いのは、フィリップが独自のシャコンヌ編曲を手がける一方で、ブラームス編のシャコンヌをデュラン社から自ら監修して出版もしている点です。独自のアーティキュレーションなどを書き込んでいる事実から、フィリップがブラームス版を評価していた可能性が見てとれるでしょう。

 

J.S.バッハ「シャコンヌ」の他の左手編曲と比較する

【ピアノ】左手のみで演奏するJ.S.バッハ「シャコンヌ」編曲版の種類と背景

 

· 2 Études d’après Mendelssohn et Paganini [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

フィリップ「メンデルスゾーンとパガニーニによる2つの練習曲 より 無窮動」1-4小節

邦題:メンデルスゾーンとパガニーニによる2つのエチュード

 

出版年:1910年頃
演奏時間:全曲合計 約6分
難易度:ツェルニー40番修了程度
献呈:ポール・シルヴァ・エラール
分類:編曲作品(独奏)

 

構成(全2曲)

第1曲 メンデルスゾーン「無窮動 Op.119」による 約3分
第2曲 パガニーニ「無窮動 Op.11」による 約3分

 

音楽的な特徴

第1番はメンデルスゾーンの「無窮動 Op.119」に基づき、単音の連続によるパッセージワークを中心に進む書法です。第2番はパガニーニの「無窮動 Op.11」に基づき、同じく単音の連続による訓練的な要素が前面に押し出されています。

 

‣ Piitulainen  ピートゥライネン

 

ピートゥライネンの詳しい経歴などは確認できていません。

 

· Five Pieces for the Left Hand [LH]

 

※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:左手のための5つの小品

 

作曲年:不明
出版年:不明
演奏時間:全曲合計 約8分10秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

構成(全5曲)

第1曲 Melody and variation 約1分20秒
第2曲 Toccatina 約1分10秒
第3曲 Rainbow 約2分30秒
第4曲 Weberniana 約50秒
第5曲 Deconstructed melody 約2分20秒

 

各曲の特徴

第1曲 Melody and variation
16小節と18小節からなり、後半の18小節が、前半の変奏になっています。変奏曲というよりは、変奏形式の作品と言えるでしょう。半音の動きを多く含むもう一つの声部の上で、メランコリックなメロディがゆるやかに歌われます。

第2曲 Toccatina
三和音が平行移動することで、独特の響きが生まれる曲。拍子は終始2/4拍子ですが、単音の部分と三和音が混ざって現れることで、重みのかかる位置が変わり、変拍子に似たリズムが生まれます。

第3〜5曲
後半の3曲は、やや実験的な小品が並びます。現代的な特殊奏法も見られるのが特徴の一つでしょう。第5曲「Deconstructed melody」は、第1曲のメロディを再構成した作品です。

 

‣ Pirkhert, Eduard(1817-1881) エドゥアルト・ピルケルト

 

エドゥアルト・ピルケルトは、1817年、オーストリア・シュタイアーマルク州バート・アウスゼー生まれの作曲家・ピアニストです。ウィーンでA.ハルムおよびカール・ツェルニーにピアノと作曲を師事し、1838年から演奏会ピアニストとしてヨーロッパ各地で活躍しました。1855年から1860年にかけてウィーン楽友協会附属音楽院の教授を務め、その後も宮廷歌劇場附属学校での指導や、自ら設立した新音楽学校の運営に携わりました。1881年、ウィーンで没しています。

 

· Thème: Douze Etudes de salon pour le piano Op.10 No.5 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

ピルケルト「主題 ピアノのための12のサロン練習曲 Op.10 より 第5曲」1-3小節

邦題:主題 ピアノのための12のサロン練習曲 Op.10 より 第5曲

 

出版年:1844年頃
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
備考:Op.10の全12曲中、左手独奏はこの第5曲のみ

 

全体を通じて和音を用いた箇所が多く、かつ歌謡的な性格を持つ作品。冒頭には「con molto espressione(非常に表情豊かに)」と指示されており、主音の保続低音(オルゲルプンクト)から静かに曲が始まります。サロン風のコンサート・エチュードです。

 

‣ Poe, John Robert(1926-2004) ジョン・ロバート・ポー

 

ジョン・ロバート・ポーは、アメリカ・ジョージア州コロンバスで活動したピアノ教師・作曲家です。オーバーン大学で学び、マスコギー音楽院でピアノと音楽理論の指導にあたったほか、地元の教会でオルガニスト・聖歌隊指揮者も務めました。コロンバスで50年以上にわたり個人ピアノ教室を主宰しました。初級者を対象とした教育用ピアノ曲の作曲家として広く知られ、10社以上の出版社から作品を刊行しています。

 

· Look Ma, One Hand: Pieces for One Hand Alone [LH][RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:見て、片手だけ:片手独奏のための小品集

 

出版年:1990年
難易度:バイエル後半程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:「親指を強打してしまったジェシカに」
楽譜:Look Ma, One Hand

 

構成(全12曲)

左手のための6曲

・High Fly to Left Field
・Don’t Get Left!
・Eyes Left!
・To the Left of Venus
・Fishing from the Left Bank
・Left Alone

右手のための6曲

・Right Away
・Right Foot Forward
・Right On Target
・You Are So Right!
・Right About Now
・Two Rights Don’t Make a Wrong!

 

作品の背景

この曲集は全12曲からなり、左手のための6曲と右手のための6曲がそれぞれ収められています。いずれも短く、多くが1ページに収まる初級者向けの作品で、単旋律のみで書かれているのが特徴と言えるでしょう。

この曲集に収められたいくつかの作品は、全米音楽クラブ連盟(NFMC)のジュニア・フェスティバルの選定曲(1998~2000年、プリ・プライマリーからプライマリーIIのクラス)にも採用されています。

 

‣ Poetzsch, Clemens Christian(1985- ) クレメンス・クリスティアン・ペッチュ

 

クレメンス・クリスティアン・ペッチュは、ピアニスト・作曲家で、ドイツのドレスデンで育ちました。オペラ歌手だった祖父から、最初のピアノのレッスンを受け、10歳のころ、兄からもらったフランク・シナトラのスタンダード曲集をきっかけに、即興と歌の構造に関心をもつようになりました。ドレスデン音楽大学で、ピアノと作曲を学びました。クラシック、ジャズ、即興、電子音楽の分野で活動しています。

 

· Left on the Wave [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:波に取り残されて

 

作曲年:「ONE HAND PIANO 40 Pieces for Left or Right 第2巻」への書き下ろしなので、2022年春の序文より前
出版年:2022年
演奏時間:約1分50秒
難易度:ツェルニー30番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:【ピアノ】Barbara Arens「ONE HAND PIANO 40 Pieces for Left or Right」シリーズ 完全ガイド

 

題名を思わせる、波のような音型による、8分音符を主体とした動きのなかから、付点4分音符、付点4分音符、4分音符(8分音符で3+3+2)のリズムで、旋律的な線が抽出されます。この書法が、全曲を通して使われています。最後は、4オクターヴにわたって音域が上昇していき、消えるように終わります。

題名の「Left」は、「左手」と「取り残された」の両方の意味を掛けているのかもしれません(筆者の推測)。

 

‣ Pohl, Vladimir(1880-1962) ウラジーミル・ポール

 

ウラジーミル・ポールはロシア出身の作曲家・ピアニストです。1875年に父親の滞在先であったパリで生まれ、幼少期から青年期をキエフで過ごしました(※古い資料では1880年キエフ生まれとする記述も散見されます)。キエフ大学で自然科学を学ぶかたわら、キエフ音楽院ではピアノを学び、その後モスクワ音楽院でタネーエフに作曲を学びました。

1904年にはクリミア音楽協会の責任者を務めるなど、革命前のロシアで演奏家・組織者として活動しています。1922年に亡命してコンスタンティノープルへ、その後ドイツを経て1925年にパリへ落ち着きました。パリでは演奏活動のほか、パリ・ロシア音楽院の創立に関わり、後年は同院の院長も務めています。音楽評論家としても活動し、メトネルらについての評論を残しました。

1962年、パリで没しています。

 

· Valse Impromptu, Op.19 No.1 [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:即興ワルツ Op.19-1(《2つの小品》Op.19 より 第1曲)

 

出版年:1947年
演奏時間:約3分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:レオン・ムラヴィエフ氏に献呈

 

「2つの小品 Op.19」の第1曲として書かれた左手独奏用のワルツです。楽譜には「pour la main gauche(左手のために)」と明記されています。

性格の異なる複数の部分から構成された演奏会用のワルツで、跳躍の大きい箇所が多く出てくるのが特徴の一つと言えるでしょう(テンポ構成:Moderatoで6小節 →♩=120になり38小節 → Più vivoになり38小節、♩=120になり66小節)。

曲中では小節線をまたぐ連桁︎(れんこう)が度々用いられており、拍子そのものは変わらないもののワルツらしい3拍子の感覚がしばしば曖昧にされる書き方が特徴的です。この手法は終結部にも現れますが、最後は明確な3拍子の感覚を取り戻し、軽やかな足取りで曲を閉じます。

 

‣ Ponce, Manuel(1882-1948) マヌエル・ポンセ

 

マヌエル・ポンセは、メキシコの作曲家・音楽教育者・音楽学者です。1882年にサカテカス州のフレスニージョで生まれ、1948年にメキシコシティで亡くなりました。メキシコ国立音楽院で学んだ後、イタリアのボローニャ、ドイツのベルリンに留学し、帰国後は、国立音楽院で、ピアノと音楽史を教えました。メキシコの民謡や、民衆の歌を、芸術音楽に取り入れた作曲家で、歌曲「エストレリータ」(1912年)は、広く親しまれています。

 

· Malgré tout [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

ポンセ「マルグレ・トゥー」1-3小節の楽譜。

邦題:マルグレ・トゥー

 

作曲年:1900年
演奏時間:約3分30秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

ポンセがまだ10代のころに書いた左手独奏のための小品で、ハバネラリズムに乗った、魅力的で生き生きとした旋律と伴奏が特徴的です。大きな跳躍、ギター風の音遣い、装飾音など、表現の工夫が随所に盛り込まれています。

題名「Malgré tout(それにもかかわらず)」は、メキシコの彫刻家ヘスス・フルクトゥオソ・コントレラス(1866-1902)の同名の彫刻作品から着想を得ています。コントレラスは癌により右腕を失いながらも制作を続けたことで知られており、ポンセはこの彫刻に敬意を込めてこの曲を書いたとされています。

 

· Prelude and Fugue [LH]

 

前奏曲

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-3小節)

ポンセ「前奏曲とフーガ より 前奏曲」1-3小節の楽譜。

フーガ

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ポンセ「前奏曲とフーガ より フーガ」1-4小節の楽譜。

邦題:前奏曲とフーガ

 

作曲年:1931年
演奏時間:約5分30秒(前奏曲とフーガ合計で)
難易度:ツェルニー40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

ヘンデルの主題による左手独奏のための前奏曲とフーガ。パウル・ウィトゲンシュタインのために書かれた可能性が考えられています。

前奏曲は旋律を声部分けで示しながらギターで演奏しているかのように線的に進み、フーガは半音階的な進行と「嘆息」の動機が印象的です。

 

‣ Popp, Wilhelm(1828-1902?) ヴィルヘルム・ポップ

 

ヴィルヘルム・ポップは、ドイツの作曲家・フルート奏者です。フランス語名のギヨーム・ポップ(Guillaume Popp)や、ペンネームのヘンリー・アルベルティ(Henry Alberti)でも知られます。ザクセン=コーブルク=ゴータ公のコーブルク宮廷劇場で、宮廷ピアニスト兼フルート奏者を務め、ピアニストとしても、各地のオーケストラと共演しました。1867年には、ハンブルク・フィルハーモニーの首席フルート奏者になっています。人気のある旋律やオペラの旋律の編曲を含めて、600曲近くを作曲・編曲しました。

 

· Bagatelle for flute and piano(one player) [RH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、フルートの初導入部 6-9小節)

ポップ「フルートとピアノのためのバガテル(1人で演奏)」6-9小節

邦題:フルートとピアノのためのバガテル(1人で演奏)

 

編成:フルートとピアノ(ピアノパートは右手のみ)
作曲年:19世紀末頃
出版:1980年頃、Oxford University Press(ニューヨーク)
演奏時間:約2分10秒
難易度(ピアノパート):ツェルニー30番入門程度
分類:オリジナル作品(室内楽、フルートと片手ピアノ)
献呈:ユージン・ウェイナー(Eugene Weiner)

 

作品の背景

フルートパートを左手、ピアノパートを右手で弾き、1人での演奏が想定されていますが、2人で演奏することも可能とされています。

 

音楽的な特徴

メランコリックなメロディをフルートが吹き、右手のピアノは伴奏に徹します。作品の規模に対して、序奏とエンディングが長めに付けられています。

 

‣ Portes, Antoine(1990- ) アントワーヌ・ポルト

 

アントワーヌ・ポルトはフランスの作曲家・音楽家で、1990年に生まれ、サン=ドニ(Saint-Denis)を拠点にしています。純音楽のほか、映画音楽も書いています。

 

· Sehnsucht [LH/RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:憧れ

 

副題「Leichtes Stück für ein Klavier und drei Hände」(1台のピアノと3本の手のための易しい小品)
作曲年:2018年(2020年に改訂)
出版:2020年、Virtuel Audio
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度(片手奏者のパート)
分類:オリジナル作品(室内楽、3手連弾)

 

最上段が片手奏者のパートになっている3手連弾の曲ですが、両手奏者のパートの上段が、ハ音記号で書かれています。音遣いにも弦楽器的な箇所があり、弦楽器のアンサンブルを思い起こさせます。終盤には3段を突き抜けたアルペッジョが出てくるため、アンサンブルでは集中力が必要でしょう。

さまざまな種類のフェルマータが使われ、細やかなニュアンスが表現されています。ただし、その説明(ノーテーション)は付されていません。現代的な表記に慣れていない奏者は、演奏にあたって予備知識が必要になります。

 

‣ Prokofiev, Sergei(1891-1953) セルゲイ・プロコフィエフ

 

セルゲイ・プロコフィエフ(1891年ウクライナ・ソンツォフカ生まれ、1953年モスクワ没)はソビエト・ロシアを代表する作曲家・ピアニストです。鮮烈なリズム感と皮肉めいた機知などに独自のスタイルを持ち、交響曲、協奏曲、バレエ、ピアノ曲など幅広いジャンルで20世紀音楽に大きな足跡を残しました。

 

· Piano Concerto No.4 in B-flat major, Op.53 [LH]

 

原曲譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

プロコフィエフ「ピアノ協奏曲 第4番 変ロ長調 Op.53(左手のための)」1-4小節

※アナトリー・ヴェデルニコフ編は、著作権保護期間中につき、譜例掲載不可

邦題:ピアノ協奏曲 第4番 変ロ長調 Op.53(左手のための)

 

作曲年:1931年
ピアノ・スコア(ピアノ伴奏版):アナトリー・ヴェデルニコフ編(1961年)
演奏時間:約24分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)
献呈:パウル・ヴィトゲンシュタイン
初演:1956年9月5日、ジークフリート・ラップ(ピアノ)

 

構成(全4楽章)

I. Vivace
II. Andante
III. Moderato
IV. Vivace

 

作品の成立と経緯

ヴィトゲンシュタインの委嘱により1931年にパリで完成した左手と管弦楽のための協奏曲です。しかしヴィトゲンシュタインはこの作品を受け入れませんでした。彼はプロコフィエフへの返書に「この曲には一音も理解できるところがなく、生涯演奏しない」と記しています。プロコフィエフ自身も自伝の中でこの経緯を記しており、作品に対して確信が持てずにいたことも明かしています。

楽譜は出版されず長らく封印状態が続き、ヴィトゲンシュタインの存命中は他のピアニストへの譲渡も行われませんでした。作曲から25年が経った1956年9月5日、第二次世界大戦による負傷がきっかけで右手を失ったドイツのピアニスト、ジークフリート・ラップによってようやく初演が行われています。

 

ピアノ・スコアについて

ラヴェルが自身の左手協奏曲のピアノ伴奏版を自ら手がけたのとは異なり、本作のピアノ・スコア(オーケストラ・パートをピアノで演奏する版)はソビエトのピアニスト、アナトリー・ヴェデルニコフ(1920–1993)が編曲しています。ヴェデルニコフはハインリヒ・ネイガウスに師事したソビエト・ロシアの名ピアニストで、ショスタコーヴィチやヒンデミットの作品の初演にも携わった人物です。このOp.53の録音を1960年代に残しており(レオ・ギンズブルク指揮)、西側での知名度は限られていたものの、ロシア国内では高い評価を受けていました。

 

音楽について

独奏部分の大部分は16分音符による単音のパッセージで書かれており、片手独奏でありながら技術的な要求は比較的抑えられています。聴きやすい美しさと不協和が混在した作品で、プロコフィエフらしい皮肉と機知に富んだ瞬間が随所に現れますが、同作曲家の他の協奏曲と比べると、旋律的な魅力やキャラクターの強さという点では異論も散見される作品です。

 

‣ Ravanello, Oreste(1871-1938) オレステ・ラヴァネッロ

 

オレステ・ラヴァネッロは、ヴェネツィア生まれのイタリアの作曲家・オルガニストです。ヴェネツィアのリチェオ・ムジカーレでオルガンと作曲を学びました。同地の音楽院(現ベネデット・マルチェッロ音楽院)で後進を指導したのち、パドヴァのイスティトゥート・ムジカーレ(現チェーザレ・ポリーニ音楽院)の院長を務めています。作品の多くは教会音楽ですが、後期ロマン派風のピアノのための作品も多数残しています。

 

· Variazioni in forma di esercizii per la sola mano sinistra sopra un tema di Domenico Scarlatti, Op.109 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ラヴァネッロ「ドメニコ・スカルラッティの主題による、左手独奏のための練習曲形式の変奏曲 Op.109」1-4小節

邦題:ドメニコ・スカルラッティの主題による、左手独奏のための練習曲形式の変奏曲 Op.109
出版年:1918年
演奏時間:約12分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

スカルラッティの「ソナタ K.19 L.383」冒頭8小節を主題とし、そこから性格の異なる16の変奏とコーダへと展開していくコンサートピース。

第5変奏をはじめ、全体を通して技巧的な難所の多い変奏曲です。第5変奏はPrestoのテンポによる3度音程の高速パッセージで、演奏者に高い運動性を要求します。中でも個性的なのは第9変奏(コラール)で、跳躍が次々と繰り出される書法は、どこかフランク「プレリュード、コラールとフーガ ロ短調 M.21」の手の交差が連続する部分を感じずにはいられません。

ゲオルギイが著書「Klaviermusik」の中で、「イタリア片手分野への唯一無二の貢献であるように思われる」と高く評価しています。

 

‣ Ravel, Maurice(1875-1937) モーリス・ラヴェル

 

モーリス・ラヴェルはフランスの作曲家で、1875年にバスク地方のシブールで生まれ、1937年に亡くなりました。パリ音楽院で、ガブリエル・フォーレ(Gabriel Fauré)に作曲を学び、ローマ大賞には、何度も挑戦しましたが、受賞できず、その結果をめぐって、国を挙げての騒動になりました。「印象主義」と結びつけて語られることが多いものの、本人は、この呼び名を拒んでいます。精緻な書法と、管弦楽法の巧みさで知られています。

 

· Concerto pour la main gauche [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、ソロの初導入部 29-33小節)

ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」29〜33小節の楽譜(2台ピアノ版)。長い序奏の末にピアノ独奏が初登場する場面。

※ラヴェル自身によるピアノ伴奏版編曲(ソロ+ピアノ伴奏形式:2台ピアノ)から浄書

 

邦題:左手のためのピアノ協奏曲

 

作曲年:1929-1930年
演奏時間:約18-20分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(協奏曲)

 

背景

第一次世界大戦で右腕を失ったピアニスト、パウル・ヴィトゲンシュタインの委嘱により誕生しました。彼はリヒャルト・シュトラウス、プロコフィエフ、ブリテンら多くの作曲家に左手作品を依頼した人物で、ラヴェルとの出会いは1929年のウィーンとされています。

この曲の何が革新的か

最大の革新は、左手作品を「特殊なレパートリー」から「本格的な協奏曲」へ押し上げたことにあります。ラヴェルは「左手のために書いたと感じさせたくない」という姿勢で作曲に臨み、サン=サーンス、アルカン、スクリャービンらの先行作品を丁寧に研究しました。それまでの左手作品の多くが練習曲的な小品や両手作品の翻訳に留まりがちだったのに対し、この協奏曲はオーケストラと対等に渡り合う本格的なソロ作品として設計されたものです。片腕の演奏家を「オーケストラと対峙する英雄」として描いたようにも感じられます。単一楽章の持続的な構造、中間部でのジャズ語法の統合も大きな特徴と言えるでしょう。

なぜ、これほど有名か

同じ委嘱作品群の中で今日最も演奏される理由は、独奏者の存在感を正面に押し出した書法の完成度にあります。加えて、楽譜解釈をめぐるラヴェルとヴィトゲンシュタインの対立が、かえって作品の評判を高めた側面も見逃せません。独占演奏権の失効後、カサドシュが1937〜71年の間に170回以上演奏したことも、広く普及した大きな要因となっています。

左手音楽史での位置づけ

1929-1930年当時、左手専用の大規模な作品はほとんど存在していませんでした。この協奏曲は左手音楽を「独立した音楽語法」として確立した作品と見なされており、以降に書かれた左手作品の多くが、この曲の存在を出発点として持っていると考えられます。左手ピアノ史を「この曲以前・以後」に分けて考えることも、決して誇張ではないでしょう。

 

この作品をさらに詳しく知る

【ピアノ】なぜ、ラヴェルの左手協奏曲は傑作なのか?:左手音楽史から読み解く

 

· Frontispice, M.70 [LH/RH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、6小節目 片手パート初出時)

ラヴェル「口絵」6小節目 片手パート初出時

邦題:口絵

 

編成:2台ピアノ・5手のための(うち1手は片手奏者パート)
作曲年:1918年
出版年:1919年
演奏時間:約2分(全15小節の小品)
難易度:ツェルニー40番中盤程度(片手奏者パート)
分類:オリジナル作品(多手連弾)

 

作品の背景

本作は、イタリアの詩人リッチョット・カヌードから寄せられた依頼に応じて書かれた作品です。カヌードが第一次世界大戦での従軍体験を基に綴った哲学的な詩集「Le Poème du Vardar」の口絵(frontispiece)として音楽を添えるという趣旨で作曲されました。

編成は2台のピアノを5つの手で演奏するという珍しいもので、わずか15小節という極めて短い作品です。

 

音楽的な特徴

PIANOⅠには15/8、PIANOⅡには5/4、片手パートには15/8と、別々の拍子が書かれているのが特徴的です。

片手奏者が担当するパートは鳥の声を模したような音型で書かれており、音域が他のパートと離れていることに加え、リズムも噛み合わない箇所があるので、別の場所で鳴っているような立体的な音楽になっています。

 

‣ Ravina, Jean-Henri(1818-1906) ジャン=アンリ・ラヴィナ

 

ジャン=アンリ・ラヴィナは、1818年、フランス・ボルドー生まれのピアニスト・作曲家です。母から手ほどきを受けたのち、パリ音楽院でツィンマーマンに師事し、ピアノ科・和声科で一等賞を獲得しました。ヴィルトゥオーゾ・ピアニストとして19世紀パリのサロンで活躍し、生涯の友人アルカンとの親交でも知られています。ピアノ曲を中心に約120曲を作曲したほか、ベートーヴェンの交響曲を連弾用に編曲するなど、編曲家としても活動しました。

 

· Isolée! Rêverie pour la main gauche seule, Op.92 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-6小節)

ラヴィナ「孤独に! 左手のための夢想曲 Op.92」1-6小節

邦題:孤独に! 左手のための夢想曲 Op.92

 

出版年:1883年頃
演奏時間:約4分30秒
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:友人フランシス・プランテ(Francis Planté)へ

 

ティンパニのロールを思わせるオクターヴのトレモロ、広い音域の使用と音域の急激な変化、ppp から fff に至る幅広いダイナミクスなど、オーケストラを思わせる書法上の要素が随所にそろっている作品です。メロディがオクターヴで取られている箇所も多く、カデンツァ風の部分も含まれており、左手1つでありながらオーケストラ的なスケール感を志向した性格がうかがえます。

 

‣ Reese, Minnie  ミニー・リース

 

ミニー・リースは、1874年にテネシー州ナッシュビルの出版社Jesse Frenchから作品を発表したアメリカの作曲家です。生没年や経歴について、現時点で確認できる資料からは詳細が分かっていません。

 

· Fantasy on Lilly Dale, for left hand alone [LH]

 

※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:「リリー・デイル」による幻想曲(左手のための)

 

出版年:1874年
演奏時間:約5分40秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:ジュリア・サフォード

 

1852年にH.S.トンプソンが作曲した、当時アメリカで広く親しまれたバラード「リリー・デイル」を主題とした、左手独奏用の幻想曲。

装飾的なパッセージを多く含む、コンサートピース風の作りになっています。伴奏部の響きが厚くなる箇所でも旋律は単音で奏されることが多く、全体の傾向としては線の細いサウンドを持つ作品と言っていいでしょう。ロングアルペッジョが随所に現れる点が、技巧的なハードルとなっています。

 

‣ Reger, Max(1873-1916) マックス・レーガー

 

マックス・レーガー(1873年バイエルン州ブラント生まれ、1916年ライプツィヒ没)はドイツの作曲家です。ミュンヘン時代にはピアニストとしても知られ、オルガンとピアノのためのフーガを数多く残しました。J.S.バッハとブラームスの系譜を意識した作曲家として位置づけられています。

 

レーガーの著作を詳しく知る

【ピアノ】「Modulation」(マックス・レーガー 著)レビュー:アレンジ初中級者に有益な転調の虎の巻(姉妹サイトへリンク)

 

· Vier Spezialstudien für die linke Hand allein, für Pianoforte [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第4曲 1-2小節)

レーガー「左手のための4つの特別な練習曲 より 4.前奏曲とフーガ  前奏曲」1-2小節

邦題:左手のための4つの特別な練習曲

 

作曲年:1901年
出版年:1902年頃
演奏時間:全曲合計 約13分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度(第4曲はそれ以上の難易度)
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:「Piano Music for One Hand」(選曲・編集:レイモンド・レヴェンタール/G. Schirmer)

 

構成(全4曲)

1. Scherzo(スケルツォ)
2. Humoreske(ユモレスク)
3. Romanze(ロマンス)
4. Prelude and Fugue(前奏曲とフーガ)

 

レーガーのピアノ音楽に典型的な4つの性格的小品。半音階的な和声の使用など、彼の特徴がよく出ている作品です。各曲は独立して演奏することも、いくつかをまとめて取り上げることも可能です。

 

スケルツォ
・冒頭から技術的な難所が続く、全4曲の中では最も練習曲らしさを感じさせる作品

ユモレスク
・スタッカートの3度を中心とした、明るい性格の曲

ロマンス
・広い音域を駆使した豊かな音響を持つ叙情的な曲
・アンコールで単独で演奏されるのも耳にする

前奏曲とフーガ
・3声のフーガで書かれており、5度以内の音程におさまる主題になっている
・4曲中最も比重が大きく、演奏時間も約7分に及ぶ
・全4曲の中でも特に難易度が高いが、単独で演奏される機会は多い
・ゲオルギイが著書「Klaviermusik」の中で高く評価している作品

 

‣ Reimann, Aribert(1936-2024) アリベルト・ライマン

 

アリベルト・ライマンは、ベルリン生まれのドイツの作曲家・ピアニストです。ベルリン音楽大学でボリス・ブラッハーとエルンスト・ペッピングに作曲を学びました。ピアニストとしては、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウらの歌曲の伴奏者として知られ、作曲家としては、文学作品を題材にしたオペラで名を高めました。1974年からハンブルク音楽大学、83年からベルリン芸術大学で教授を務め、2011年にエルンスト・フォン・ジーメンス音楽賞を受賞しました。2024年に没しています。

 

· Shine and Dark(for baritone and piano left hand) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:光と闇(バリトンと左手ピアノのための)
原題(ドイツ語副題):Shine and Dark nach einem Gedicht von James Joyce(für Bariton und Klavier〔linke Hand〕)

 

作曲年:1989年
初演:1991年9月24日、チューリッヒ(ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ〔バリトン〕、アリベルト・ライマン〔ピアノ〕)
出版:Mainz:Schott Music(ED 7767、全32ページ)
演奏時間:約20分
難易度(ピアノパート):ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(室内楽、バリトンと左手ピアノ)
楽譜:Shine and Dark(schott-music.com)

 

構成(全7曲)

I. And I have sat
II. Yea, for this love
III. Of thy dark life
IV. Requiem aeternam
V. I intone the high anthem
VI. Wind thine arms
VII. Let us fling

各曲はそれぞれ異なる表情を持っており、中断せずに続けて演奏されます。

 

音楽的な特徴

ジェイムズ・ジョイスの詩によるバリトンと左手ピアノの作品。無調の語法で書かれ、小節線がありません。片手のピアノパートでは、アルペッジョや装飾音などが多用され、非常に装飾的です。歌とピアノが応答する箇所と、どちらかがソリスティックに進む箇所とが混ざり合っています。

 

‣ Reinecke, Carl(1824-1910) カール・ライネッケ

 

カール・ライネッケ(1824年アルトナ生まれ、1910年ライプツィヒ没)はドイツの作曲家・ピアニスト・指揮者・教育者です。シューマンと親しく、リストにもその演奏を評価されました。ライプツィヒ音楽院の教授とライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者という二つの要職を長年にわたって務め、ドイツのロマン派の伝統を守る立場として知られています。

 

ライネッケについてさらに詳しく知る

左手作品から読み解くカール・ライネッケ:19世紀に左手ソナタを書いた先駆者

 

· Zwei Charakterstücke und eine Fuge, Op.1 — Fuge [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

ライネッケ「2つの性格的小品とフーガ Op.1 より フーガ」1-4小節

邦題:2つの性格的小品とフーガ Op.1 より フーガ

 

作曲年:1837年頃(資料によって扱いが異なる)
演奏時間:約2分
難易度:ツェルニー30番修了〜40番入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
備考:「2つの性格的小品」は両手作品。フーガのみが左手独奏

 

連打を交えた特徴的な主題によるポリフォニックなフーガで、曲の最後はホモフォニー風に変わり、perdendosiで静かに遠ざかりながらピカルディ終止で締めくくられます。手が大きくないと弾きにくい箇所があります。

 

· Eine Klaviersonate für die linke Hand allein, Op.179 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第1楽章 1-3小節)

ライネッケ「左手のためのピアノソナタ ハ短調 Op.179 第1楽章」1-3小節

邦題:左手のためのピアノソナタ Op.179

 

作曲年:1884年
出版年:1884年
演奏時間:全曲合計 約15分
難易度:ツェルニー50番入門以降程度(第2,4楽章は比較的取り組みやすい)
分類:オリジナル作品(独奏)

 

19世紀に出版された左手独奏のためのピアノソナタとしてはジチーのものと並ぶ稀少な作品で、やや小規模ながら演奏会でも独立して成り立つソナタです。4楽章構成で、各楽章は伝統的な形式に従っています。

第1楽章:Allegro moderato:ソナタ形式
第2楽章:Andante lento:ハンガリーの民謡「Nemenj rózsám a tarlóra」を主題とした変奏形式
第3楽章:Menuetto:スケルツォ風のメヌエット、トリオを含む
第4楽章:Allegro molto:ロンド形式、無窮動風の部分とマーチ風の部分が登場する

19世紀ロマン派の和声語法を基調とし、シューマンやブラームスへの影響が見られる一方で、保守的な書法に留まっているという評もあります。

 

‣ Reinhold, Hugo(1854-1935) フーゴー・ラインホルト

 

フーゴー・ラインホルト(1854年ウィーン生まれ、1935年ウィーン没)はオーストリアの作曲家です。ウィーン音楽院でブルックナーに学び、後年はウィーン音楽アカデミーでピアノを教えました。

 

· Drei Klavier-Etüden in Form von Vortragsstücken für die linke Hand allein, Op.61 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、第2曲 1-5小節)

ラインホルト「左手のための3つの演奏会用練習曲風ピアノ曲 Op.61 より 第2曲 ノクターン」1-5小節

邦題:左手のための3つの演奏会用練習曲風ピアノ曲 Op.61

 

出版年:1907年
演奏時間:全曲合計 約11分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

構成(全3曲)

・第1曲 Tanz-Poëm(Con moto grazioso) 約2分50秒
・第2曲 Nocturne(Andante espressivo) 約5分
・第3曲 Etude(Allegro maestoso) 約2分50秒

 

第1曲 Tanz-Poëm

明るく踊るような雰囲気を持つ部分と、平行調に転じてメランコリックな性格を帯びる中間部、そして再び冒頭の踊るような部分が戻る構成をとっています。明るい部分も単純な陽気さではなく、相手の様子をうかがいながら「ご一緒にいかがですか?」と誘いかけるような、どこか気を引くような表情を持っています。

第2曲 Nocturne

和音を中心とした書法で構成された、穏やかなノクターン。曲の途中からはアルペジオやスケールのパッセージが多く現れ、息の長いメロディを彩るように装飾していきます。後半では冒頭の主題が再び現れ、消え入るように静かに締めくくられます。

第3曲 Etude

終始現れる複付点リズムのメロディが印象的な、アルペジオを主体としたエチュード。音型そのものは一貫して統一されていますが、その中で和声や強弱、旋律のオクターヴによる補強といった変化が加えられ、色彩感を移ろわせていきます。最後は fff で堂々と締めくくられ、全体を通して、曲頭に記された「Allegro maestoso」という指示の性格をよく体現しています。

 

‣ Reise, Jay(1950- ) ジェイ・ライズ

 

ジェイ・ライズはニューヨーク生まれのアメリカの作曲家です。ジョージ・クラム、ジミー・ジュフリー、ヒュー・ハートウェル、エイドリアン・ラーマンド、リチャード・ワーニックらに師事しました。1980年よりペンシルヴェニア大学の音楽学部教員に着任し、以来フィラデルフィアを拠点に活動しています。

南インド古典音楽(カルナータカ音楽)やジャズ(特にジミー・ジュフリーやジョージ・ラッセル)から深い影響を受けており、豊かな和声、生命力あふれるリズムなどを特徴とする作風で知られています。フロム財団、ロックフェラー財団、クーセヴィツキー・タングルウッド賞など数々の助成・賞を受けており、現在はペンシルヴェニア大学の名誉教授を務めています。

出典:公式HP(https://www.jayreise.com/about)より

 

· Six Pictures from ‘The Devil in the Flesh’ for Piano [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:「肉体の中の悪魔」から6枚の絵

 

作曲年:2001年
演奏時間:曲集全体で約17分
分類:オリジナル作品(独奏)
録音:マルク=アンドレ・アムランによる録音がアルバム「The Devil in the Flesh & Other Pieces」に収録

 

構成(全6曲 うち、左手のための作品は2曲)

第1曲 Romance(for left-hand alone)
第2曲 Dragonflies sing near(for left-hand alone)
第3曲 A Corner in the House of Innocence
第4曲 Unfounded Joy
第5曲 Night falls raining
第6曲 The Madwoman on the Roof

 

第1曲 Romance  ロマンス(左手のための)

演奏時間:約4分50秒

どこかエレジー(悲歌)を思わせる叙情性をたたえたロマンス。無調的な語法のうちに、カンタービレな旋律が浮かび上がってきます。曲頭には鐘の響きを思わせる多層的・立体的な音響が置かれ、この形はクライマックスを経たのちにも再び現れます。曲全体のおよそ7割の地点でクライマックスを迎え、その後は静けさへと沈んでいき、終盤では音楽が上昇しながら浄化されるように締めくくられます。

 

第2曲 Dragonflies sing near  近くで歌うトンボ(左手のための)

演奏時間:約3分

第1曲のRomanceに比べると聴きやすい印象の作品。オルゲンプンクト(保続音)のように繰り返し立ち現れる中心的な音があり、これが楽曲全体の聴きやすさを支えていると言えるでしょう。第1曲と同様、曲全体のおよそ7割の地点でクライマックスを迎え、その後は曲頭の雰囲気が回帰し、短いエンディングを経て締めくくられます。オクターブ音程を軸に構成された分散和音が、この曲のサウンド面での特徴の一つとなっています。

 

‣ Renfer, Anna(1896-1984) アンナ・レンファー

 

アンナ・レンファーは、スイスのビール(ビエンヌ)生まれの女性作曲家です。ベルン音楽院、ベルン大学、ビール音楽院で学び、ギュシュタートでも個人的に指導を受けました。師には、エドウィン・フィッシャー、ヘルマン・シェルヘン、ルドルフ・ゼルキンなどの名が挙げられています。主に小編成の作品を書きました。

 

· Klavierstudien für die linke Hand, Op.37 [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:左手のためのピアノ練習曲集 Op.37

 

出版年:1969年
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:Frau Professor Kurth(楽譜の献辞は「敬意を込めて」)

 

構成(全8曲)

題名は「練習曲集」ですが、バロック様式の組曲をなす8つの舞曲楽章からなる作品です。

Gaillarde/Rondeau/Allemande/Menuetto/Sarabande/Bourrée/Air/Gigue

 

音楽的な特徴

非常に整然とした楽譜です。たとえば第1曲では、部分的に小節線が廃されており、同音連打が帯のように並ぶ音型が刻まれています。sf も規則的に並び、設計図を見ているような印象の楽譜と言えるでしょう。

パターソンは、演奏する側には知的な面白さがすぐに感じられる一方、聴衆にとっては、聴覚的な面白さはやや劣るかもしれない、という趣旨の評価を添えています。

 

‣ Résimont, Emilie Altner de  エミーリエ・アルトナー・デ・レジモン

 

エミーリエ・アルトナー・デ・レジモンは、ベルリンの出版社Otto Wernthalから作品を発表した作曲家です。生没年や経歴について、現時点で確認できる資料からは詳細が分かっていません。

 

· Redowa(Klavierstück für die linke Hand allein), Op.6 [LH]

 

※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:レドヴァ(左手のためのピアノ曲) Op.6

 

出版年:Berlin:Otto Wernthal, 発行年不明
演奏時間:約5分40秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)

 

東欧に起源を持つ舞曲「レドヴァ」を題材にした、幻想曲風の性格を持つ作品。繰り返し現れる主題が姿を変えながら展開していきます。装飾的なパッセージを多く含むコンサートピース風の作品で、幅広い音域を活用したサウンドを持っています。曲の締めくくりをはじめ随所に現れる高速スケールが印象的で、聴きどころとも言えるでしょう。

 

‣ Rheinberger, Josef Gabriel(1839-1901) ラインベルガー

 

ヨーゼフ・(ガブリエル・)ラインベルガーは1839年3月17日、リヒテンシュタイン公国のファドゥーツに生まれ、1901年11月25日にミュンヘンで没したドイツの作曲家・オルガニスト・指揮者・教師です。5歳からオルガンの手ほどきを受け、早くも7歳でファドゥーツの教会オルガニストを務めるなど、驚異的な早熟ぶりを見せました。1851年にミュンヘンへ移り、ミュンヘン音楽院でハウザーやレオンハルトらに学んだのち、ラッハナーからも個人的に指導を受けています。1859年に音楽院の教員となり、はじめはピアノを、のちには理論を教えるようになりました。1864年からはミュンヘン合唱協会の指揮者を、1867年からは音楽院の作曲科教授を長く務め、生涯にわたり教育者として厚い信頼を集めた人物です。

教え子にはフンパーディンクやヴォルフ=フェラーリ、フルトヴェングラーなど、のちに名を成す音楽家たちが名を連ねています。作曲家としては、宗教音楽の分野にも大きな足跡を残しました。

 

· Pianofortestudien für die linke Hand allein oder auch für zwei Hände, Op.113 [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、Heft1 第1曲 1-3小節)

ラインベルガー「左手単独、または両手でも演奏できるピアノのための練習曲集 Op.113 より カプリッチョ」1-3小節

邦題:左手、または両手のためのピアノ練習曲集 Op.113

 

作曲年:不明
出版年:不明(Heft1:Capriccio, Menuetto, Fughetta / Heft2:Mazurka, Romanze, Gavotte、いずれもミュンヘンのJos. Aiblより出版。のち1930年に全6曲をまとめた版がAiblより、また年代不詳のウィーン・ユニヴァーサル版も存在)

演奏時間:
 Heft1
  第1曲(Capriccio)約6分30秒
  第2曲(Menuetto)約5分
  第3曲(Fughetta)約2分30秒(小計 約14分)
 Heft2
  第4曲(Mazurka)約4分
  第5曲(Romanze)約6分
  第6曲(Gavotte)約4分30秒(小計 約14分30秒)
 全曲合計 約28分30秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Pianofortestudien für die linke Hand allein oder auch für zwei Hände, Op.113(sasaya.gakufu.net)

 

作品の背景

本作は、3曲ずつ2冊に分けて出版された、左手のみでも、また両手でも演奏できるよう書かれたピアノ小品集です。半音階的な和声と、ラインベルガーが本領を発揮したオルガン音楽に通じる響きを持つ、聴きごたえのある小品として作られており、単曲を抜粋しても演奏できる構成になっています。

 

各曲について

第1冊のうちCapriccioは、ある程度の曲尺があり、聴きごたえのある作品です。第2冊(Mazurka, Romanze, Gavotte)は技術的には比較的取り組みやすく、中でもMazurkaは出来の良い曲とされています。

これらの6曲は、同難易度帯の作品の中では演奏効果が上がりやすく曲調も優れているので、演奏発表会などにも適していると言えるでしょう。

 

‣ Riccardi, Joseph(1928- )ジョセフ・リカルディ

 

ジョセフ・リカルディは、オーガスト・ヴェラとの共著で、片手のためのピアノ教則本を手がけています。

 

· Elementary Piano for One Hand(Joseph Riccardi / August Vella)

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:片手のためのピアノ入門

 

出版年:1981年
共著:オーガスト・ヴェラ
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:教則本(独奏)
楽譜:Elementary Piano for One Hand(Rakuten.co.jp)

 

片方の腕・手しか使えない完全な入門者が、ピアノを学び楽しめるようにすることを主目的とした教則本。基礎的な音楽用語や奏法を身につけられるよう設計されており、音の位置の図解、用語の説明、そして2人の著者による28のオリジナル作品が収められています。

運指を変えるだけで右手用の教材としても使えるよう作られており、さまざまな指導目的に応じて柔軟に活用できる設計になっています。

 

‣ Richter, Ferdinand Tobias(1651?-1711) フェルディナント・トビアス・リヒター

 

フェルディナント・トビアス・リヒターは、バロック時代のオルガニスト・作曲家です。1651年にヴュルツブルクで生まれ、1711年にウィーンで亡くなりました。1675年から1679年まで、オーストリア南部のハイリゲンクロイツ修道院のオルガニストを務め、1683年にウィーンに移って、宮廷・室内オルガニストになりました。1690年には、宮廷礼拝堂の第一オルガニストに任命され、亡くなるまでその地位にありました。トッカータ、5つの組曲などの鍵盤作品のほか、イエズス会の学校劇のための音楽、オペラ、オラトリオも書いています。

 

· Toccatina in D minor [LH]

 

※編曲者が不詳であるため、譜例の掲載は控えております。

邦題:トッカティーナ ニ短調

 

編曲者:記載なし
出版年:不明
演奏時間:約3分50秒
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:編曲作品(独奏)

 

リヒターが作曲したバロック時代の作品を元にした、左手のための編曲。レチタティーヴォ風の幻想的な幕開けで、1分30秒ほどの緩やかな場面が続きます。9小節目からはpiù mossoになり、上下段の問いかけと応答のようなやりとりが繰り返されます。ここからは跳躍が多く、演奏の難度が上がります。

編曲ものとされていますが、バロック期の原典に則してかアーティキュレーションなどは書かれていません。

 

‣ Robyn, Alfred George(1860-1935)アルフレッド・ジョージ・ロビン

 

アルフレッド・ジョージ・ロビンは、アメリカの作曲家・ピアニスト・オルガニストです。1860年にミズーリ州セントルイスで生まれ、1935年にニューヨークで亡くなりました。

 

· Annie Laurie for the left hand only [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-2小節)

ロビン「アニー・ローリー(左手のための)」1-2小節

邦題:アニー・ローリー(左手のための)

 

作曲年:1887年
出版:1887年、Balmer & Weber Music House Co.(セントルイス)
所蔵:ミルウォーキー公共図書館(Milwaukee Public Library)、アメリカ議会図書館(Library of Congress)
演奏時間:約3分
難易度:ツェルニー40番修了程度
分類:編曲作品(独奏)

 

作品の背景

表紙には、「Transcription for the left hand only, as played by the Author with great success in his concerts(左手のみのための編曲。作者が演奏会で演奏し、大成功をおさめたもの)」と印刷されています。献辞は「Respectfully inscribed to Miss Anna Wright, St. Louis, Mo.(ミス・アンナ・ライト〔セントルイス〕に、敬意をこめて捧げる)」。出版年は、表紙の「Copyright 1887 by Balmer & Weber Music House Co.」にもとづきます。

 

音楽的な特徴

スコットランドの歌「Annie Laurie」の有名な旋律を使った、演奏会用のパラフレーズ。

冒頭の8小節は、アルペジオを中心とした、華やかな序奏です。続く主題(9-24小節)は、和音の伴奏にのって歌われ、中低音域が中心です。25-46小節は、アルペジオを中心とした伴奏に変わり、音域が広がって一層華やかになります。

 

‣ Rocherolle, Eugénie(1936-2025) ウジェニー・ロシェロール

 

ウジェニー・(キャサリン・)リコー・ロシェロールはアメリカの作曲家、ピアノ教師です。ニューオーリンズで育ち、幼少期に家族が聴かせてくれた巨匠たちの録音や、当地で盛んだったニューオーリンズ・ジャズなど、幼い頃の音楽体験がその彩り豊かな作風に色濃く反映されています。コネチカット州ウィルトンを拠点にピアノ指導にあたる一方、合唱曲や吹奏楽曲を含む数多くの作品を出版してきました。

 

· Hands Separately [LH][RH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:別々の手で

 

出版年:1989年頃
演奏時間:全曲合計 約10分
難易度:ツェルニー30番中盤〜40番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:別々の手で(Musse.jp)

 

構成(全4曲)

・右手のためのワルツ
・右手のためのエチュード
・左手のためのアダージョ
・左手のためのファンタジア

 

右手のためのワルツ

「ワルツ」というタイトルが付けられていますが、中間部では4/4拍子に転じ、アルペジオの伴奏に乗ったシンプルな旋律が歌われます。後半では再びワルツのリズムに戻り、曲を締めくくります。

 

右手のためのエチュード

民謡的な雰囲気を持つ、短い性格小品。「エチュード」というタイトルが付いていますが、特定の技術課題を反復する練習曲というよりは、性格小品としての性格が強い一曲と言えるでしょう。繰り返し現れる転調が印象的です。

 

左手のためのアダージョ

ノクターン風のシンプルな性格小品。曲頭にはRubatoの指示があり、穏やかな伴奏の上で控えめな旋律が歌われます。メロディの繰り返しの中で少しづつ色が変化していく箇所(27-28小節、44-45小節)が魅力的です。

 

左手のためのファンタジア

アラビアンを思わせる曲調を持ち、秘めた情熱を感じさせる作品。往年の映画音楽を思わせる雰囲気もあり、拍子の異なる複数のセクションから構成されています。楽譜どおりに演奏しようとすると比較的大きな手の広がりが求められ、この4曲の中では最も難易度が高い一曲(ツェルニー40番中盤程度)となっています。

 

‣ Rofe, Esther(1904-2000) エスター・ロフェ

 

エスター・ロフェは、メルボルン生まれのオーストラリアの作曲家です。フリッツ・ハートやA・E・フロイドに作曲を学んだのち、ロンドンの王立音楽院でラルフ・ヴォーン・ウィリアムズらに師事しています。第二次世界大戦中はオーストラリア放送協会やコルゲート・パーモリーブ社のラジオ部門で編曲・作曲の仕事に携わりました。

 

· Little Suite for the Left Hand(Pro-Tem Suite) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:小組曲(左手のための)

 

作曲年:1937年
演奏時間:全曲合計 約4分10秒
難易度:ツェルニー30番中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
収録:Composers’ Series, The – Volume 6 Piano Solos (Rofe)

 

構成

I. Prelude(約55秒)
II. Dance(約35秒)
III. Chorale(約2分40秒)

 

各曲の特徴

第1曲
どことなく切なく幻想的な雰囲気で始まります。低音域で沈鬱に響く5度音程の和音が印象的な一曲。

第2曲
リズムが前面に押し出された、歯切れの良い作品。諧謔味のある装飾音をまといながら、静かに終わります。

第3曲
静かに歩みを進めるような雰囲気を持つ楽章。アルペッジョが多用され、楽曲全体のサウンドを方向づけています。他の2曲と比べて演奏時間の比重が大きく置かれた、組曲の中心をなす1曲です。

 

‣ Rogers, Ethel Tench(1914-2008) エセル・テンチ・ロジャース

 

ジャージー州ニューアーク生まれの作曲家・ピアニスト・オルガニスト・教育者です。複数の教師に師事し、ウィーンのオーストリア=アメリカ研究所でも学びました。1934年に結婚し、ニュージャージー州プレインフィールドでピアノとオルガンを教えたのち、1957年にカンザス州フェアウェイへ移り住みました。その後はミズーリ大学カンザスシティ校でピアノとオルガンを教えるとともに、全米オルガン教師協会の講習会でも指導にあたりました。教育用ピアノ曲や教会音楽を中心に200曲以上を残し、2008年、93歳で没しています。

 

· Evening Air(for left hand alone) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:夕べの大気(左手のための)

 

出版:1989年、Alfred Music(The Myklas Solo Series)
演奏時間:約1分20秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲入門程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Evening Air (for left hand alone)(alfred.com)
備考:楽譜冒頭に「May be played by left hand alone.」の注記があり、両手での演奏も想定されていると考えられる

 

低音域でカンタービレなメロディを奏でながら、それより高い音域で和音を添えていくスタイルで進む作品。ノクターン風の穏やかな雰囲気を持っています。

 

‣ Rollin, Catherine  キャサリン・ロリン

 

キャサリン・ロリンは、アメリカ・ミシガン州デトロイト生まれのピアニスト・作曲家・教育者です。ミシガン大学で音楽の学位を、オークランド大学で音楽修士号を取得しました。音楽学校卒業後は、演奏・作曲・指導を並行して行っています。作曲家としては教育用ピアノ曲を中心にこれまで400曲以上を出版しています。

 

· Nocturne for the Left Hand [LH]

 

※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:左手のためのノクターン

 

出版:1990年、Alfred Music(Signature Series)
演奏時間:約1分20秒
難易度:ブルグミュラー25の練習曲中盤程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:The Best of Catherine Rollin, Book1(Amazon.co.jp)
備考:楽譜には「本来は左手独奏用に書かれた作品だが、希望があれば両手で演奏してもよい」旨の注記あり

 

同じ音型をほぼ終始繰り返しながら、その内側で和声を移り変わらせていくことで音楽を展開させていく作品。切なさと大人びた雰囲気を併せ持つ曲想を作り出しています。曲の最後はメジャーセブンスの響きのまま余韻を残して閉じられ、曲全体を通じて漂う情緒を締めくくっています。

 

· Lefty’s Cool Strut(for left hand alone) [LH]

 

※作曲者の生没年が不詳であり、著作権保護期間の確定が困難なため、譜例の掲載は控えております。

邦題:レフティーズ・クール・ストラット(左手のための)

 

出版:2003年、Alfred Music(Signature Series)
演奏時間:約1分
難易度:バイエル後半程度
分類:オリジナル作品(独奏)
楽譜:Lefty’s Cool Strut(for left hand alone)(alfred.com)

 

大きな音符で印刷された、初級者向けの作品。曲頭は、ジャズのアコースティック・ベースによるソロの冒頭を思わせるような下行するベースラインから始まり、ジャズらしい雰囲気を高めています。シンプルな書法の中にも、スウィングの8分音符や、2拍目・4拍目を強調するアーティキュレーションなど、音楽的な工夫が盛り込まれているのが特徴です。

 

‣ Rorem, Ned(1923-2022) ネッド・ローレム

 

ネッド・ローレムは、アメリカ・インディアナ州リッチモンド生まれの作曲家で、カーティス音楽院の教授を務めたアメリカを代表する作曲家の一人です。歌曲作曲家としても高く評価されており、その旋律的な書法は器楽作品にも表れています。

 

· Piano Concerto for Left Hand and Orchestra(Concerto No.4) [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:左手とオーケストラのためのピアノ協奏曲(協奏曲第4番)

 

作曲年:1991年(1月22日~4月20日、ナンタケットおよびニューヨークにて作曲。同年秋にオーケストレーション)
出版年:1993年頃
演奏時間:約34分
分類:オリジナル作品(協奏曲)
献呈:ゲイリー・グラフマン
初演:1993年2月、カーティス音楽院にて、アンドレ・プレヴィン指揮、ゲイリー・グラフマン独奏により世界初演。翌日にはカーネギーホールでニューヨーク初演も行われた

 

作品の背景

この左手協奏曲は、ピアノ演奏時における右手の自由がきかなくなったピアニスト、ゲイリー・グラフマンのために書かれました。委嘱はカーティス音楽院によるもので、アーヴィング・S・ギルモア国際ピアノ・フェスティバル、全米芸術基金、ストックトン・ラッシュ・バートル財団からの助成によって実現しました。

作曲者自身の言葉によれば、「協奏曲」という語は独奏者とオーケストラの技巧的な闘争を連想させることが多いためやや大仰であり、むしろこの作品は組曲のように仕立てられた「エンターテインメント」であるとされています。

全8楽章は3つの大きなセクションに分けられ、ほとんど休みなく続けて演奏されます。

 

聴きどころ

終了5分前あたり、左手ピアノが最高音域と最低音域を横断するように不協和音を鳴らし、それをかき消すかのように強烈な打楽器が鳴らされる場面は実に印象的です。

 

‣ Rubinstein, Anton(1829-1894) アントン・ルビンシテイン

 

アントン・ルビンシテインは1829年ロシア(現モルドバ・沿ドニエストル、オファティンツィ〔旧称ヴィフヴァチネツ〕)生まれ、1894年ペテルゴフ没のロシアのピアニスト、作曲家、指揮者です。フランツ・リストと並び称される19世紀屈指のヴィルトゥオーゾ・ピアニストとして活躍する一方、サンクトペテルブルク音楽院を創設し、ロシアにおける音楽教育の礎を築いた人物でもあります。弟のニコライ・ルビンシテインはモスクワ音楽院の創設者として知られています。作曲家としても多作な活動を行い、チャイコフスキーの作曲の師でもありました。

 

· Etude No.4「Risoluto」(6 Etudes, Op.23) [LH]

 

譜例(PD楽曲、浄書ソフトで作成、1-4小節)

アントン・ルビンシテイン「6つの練習曲 Op.23 より 第4曲」1小節目

邦題:6つの練習曲 Op.23 より 第4曲

 

作曲年:1849〜1850年(曲集全体の作曲年)
出版年:1855年(曲集全体の出版年)
演奏時間:約4分30秒(楽曲全体で)
難易度:ツェルニー50番入門以降程度
分類:オリジナル作品(独奏)
献呈:マリー・プレイエル(曲集全体の献呈)
備考:厳密な左手独奏曲ではなく、左手独奏のために書かれた部分を含む構成

 

本曲は全体を通じて左手のみで演奏する作品ではなく、冒頭の1-8小節にあたる部分が左手独奏として書かれているという、独特な構成を持っています。楽譜上に左右どちらの手で弾くかという明確な指定はなく、実際にこの箇所を両手で演奏する奏者も少なくありません。しかし、Sandra Wing-Yee Lauによる1994年のD.M.A.論文に収められたレパートリー目録では、この箇所が左手で演奏される作品としてリストに加えられています。

大きく歌う旋律線と、その合間を埋めるように駆け抜ける高速なパッセージとが組み合わされた書法が特徴です。

 

‣ Rybicki, Feliks(1899-1978) フェリクス・リビツキ

 

フェリクス・リビツキ(1899年1月24日ワルシャワ生まれ、1978年8月24日同地没)はポーランドの作曲家・指揮者・教育者です。ワルシャワ音楽院で作曲と指揮を学び、ワルシャワ・フィルハーモニーの合唱指揮者も務めました。1952年と1977年に首相賞を受賞するなど、子どものための作品で特に高い評価を得ました。ポーランド国営放送での音楽活動も長く、多数のラジオ・映画向け音楽を手がけています。

 

· Etiudy (Etudes) for the Left Hand, Op.54 [LH]

 

※著作権保護期間中につき、譜例は掲載不可

邦題:左手のための練習曲 Op.54(全20曲)

 

作曲年:1964年以前(出版は1962~1965年)
演奏時間:番号による
難易度:ツェルニー30番中盤程度(易しいもの)〜ツェルニー50番入門以降程度(難しいもの)
分類:オリジナル作品(独奏)

 

作品の概要

全20曲からなる左手独奏のための練習曲集で、元々は3巻に分かれて1962〜65年に出版されました。

単純な技術訓練に留まらず、特に後半の数作は楽曲としての魅力も兼ね備えた仕上がりになっています。難易度は番号が進むにつれて概ね高くなりますが、必ずしも番号順に難しくなるわけではありません。

第15番以降は強弱・発想記号の指示がなく、演奏者の判断に委ねられています。第19番(セレナーデ)、第20番(ヴォカリーズ)の2曲には、タイトルが付されており、演奏会用楽曲としての意図もあったことが想像できるでしょう。

音楽之友社版(F.リビツキ 左手のためのピアノ・エチュード 作品54)には各番号の詳しい日本語演奏解説が付されており、学習上の参考として有益です。

 

特徴的な奏法・書法

一般の古典的な練習曲集には珍しい奏法も含まれているのが、本作の特徴の一つとなっています:

第1番:
ソステヌート・ペダルが用いられている

第19番(セレナーデ):
サイレント・キー(音を立てずに鍵盤を静かに押さえ、対応するダンパーを解放する奏法)が用いられている

このような現代的な奏法が含まれながらも、全曲を通じて音楽は聴きやすく、親しみやすい性格を保っています。

 

この作品についてさらに詳しく知る

【ピアノ】リビツキ「左手のための練習曲 Op.54」完全ガイド

 

► 終わりに

 

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