【ピアノ】片手ピアノ関連ドキュメンタリー映画「パウル・ヴィトゲンシュタイン、オール・イン・ワン・ハンド」レビュー
► はじめに
片手ピアノというジャンルを語るうえで、パウル・ヴィトゲンシュタインという名前を避けて通ることはできません。彼がどのような生涯を送り、ラヴェルやプロコフィエフといった名だたる作曲家たちが、なぜ彼のために左手のための作品を書いたのか。その背景を、関係者の証言から知ることができるドキュメンタリーが、今回取り上げる「Paul Wittgenstein, All in One Hand」です。
本記事では、この作品の内容や見どころ、そして視聴にあたって気になった点を整理して紹介します。
原題:Paul Wittgenstein, All in One Hand(副題:The pianist of Ravel’s “Left Hand” concerto)
邦題:パウル・ヴィトゲンシュタイン、オール・イン・ワン・ハンド
制作:BFMI(Bernhard Fleischer Moving Images)、BR(バイエルン放送)、ARTE、ORF(オーストリア放送協会)共同制作
制作年:2009年
制作国:ドイツ・オーストリア
上映時間:52分
監督:マイケル・ベイヤー(Michael Beyer)
片手ピアノ関連度:★★★★★
本作は、クラシック音楽の映像配信サービス「medici.tv」で視聴できます。
Paul Wittgenstein, All in One Hand
► 内容について
以下では、映画の具体的なシーンや楽曲の使われ方について解説しています。未視聴の方はご注意ください。
‣ 作品の構成
冒頭では、1933年のパリ公演に関連するとされるヴィトゲンシュタイン本人の演奏映像が流れます。そこから時代を遡り、幼少期のエピソードへと物語が進んでいく構成です。
親族や関係者への複数のインタビューを織り交ぜながら進行する、ドキュメンタリーとしては王道とも言える作りになっています。左手のための演奏映像だけを集めたものではなく、パウル・ヴィトゲンシュタインという一人の人間そのものを掘り下げていく内容といったほうが近いかもしれません。
家族に関する話題も多く扱われており、厳格だったという父親との関係や、パウル自身の趣味についても、証言を通じて垣間見ることができます。また、戦時中の映像資料も挿入されています。
使用される左手楽曲としては、スクリャービンの「左手のためのプレリュード Op.9-1」や、フランツ・シュミットの「ピアノ五重奏曲 ト長調(左手ピアノ、2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための)」などが背景音楽的な位置づけで登場するのが魅力的と言えるでしょう。一方、以下の作品については、ヴィトゲンシュタインとの具体的な関わりやエピソードとともに、より深く掘り下げられています。
・ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」
・コルンゴルト「左手のためのピアノ協奏曲 嬰ハ長調 Op.17」
・プロコフィエフ「ピアノ協奏曲 第4番 変ロ長調 Op.53(左手のための)」
・ヒンデミット「左手のためのピアノと管弦楽のための協奏曲 Op.29」
レオン・フライシャーやミシェル・ベロフなど、実際に左手演奏を手がけてきた著名なピアニストたちが語る場面も、随所に用意されています。
‣ 印象に残った演出
本編29分過ぎのシーンは、特に印象に残りました。ヴィトゲンシュタイン自身が弾くラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」の映像から、レオン・フライシャーの演奏へ、そしてピエール=ローラン・エマールの演奏へと、シームレスにつながれていきます。
ヴィトゲンシュタインから現代の奏者たちへと、左手演奏の歴史がつながっていくようにも感じられ、この名曲そのものが世代を超えて生き続けていることを示すような、静かながらも力のある編集だと感じました。
‣ 気になった点
視聴するうえでいくつか惜しいと感じた部分もありましたので、正直にお伝えしておきます。
本編はほぼ英語で進みますが、部分的にドイツ語やフランス語での発言も出てきます。しかし、どの言語にも字幕が付いていません。日本語字幕もありません。字幕なしの状態では、英語を聞き取れる場合でも、内容を完全に把握するのは難しいと感じました。
人物が登場する際に名前のテロップが表示されないため、発言内容や顔つきから誰なのかを判断する必要があります。幸い、左手演奏に関わりの深い人物については、フライシャーをはじめ、顔を知っていれば比較的判別しやすい人物もいます。
さらに気になったのが、エンドクレジットそのものが用意されていないことです。作品そのものの価値とは別に、資料として見ると情報量がやや不足しているという印象は否めません。
► 終わりに
字幕まわりや情報表示の点で不便さは残るものの、パウル・ヴィトゲンシュタインという人物の人生と、彼を取り巻く左手のための音楽がどのように受け継がれてきたのかを知るうえで、貴重な映像資料だと感じました。とりわけ、単なる伝記的な紹介ではなく、親族や関係者へのインタビューを通じてヴィトゲンシュタインの人物像に迫っている点は、本作ならではの価値と言えるでしょう。
片手ピアノ、とりわけヴィトゲンシュタインと20世紀の左手レパートリーに関心がある方にとっては、貴重な映像資料として一度見ておきたい作品です。
medici.tvで視聴を検討される際は、下記のリンクから作品を探してみてください。
Paul Wittgenstein, All in One Hand
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