【ピアノ】左手演奏特有のミスタッチを防ぐ運指法:跳躍後の黒鍵対策

【ピアノ】左手演奏特有のミスタッチを防ぐ運指法:跳躍後の黒鍵対策

► はじめに

 

左手だけでピアノを演奏する場合、両手演奏とは違った運指の悩みが出てきます。特に多いのが、跳躍のあとに白鍵や和音を弾く際、近くの黒鍵にうっかり触れてしまうケースでしょう。これは手の横移動が多い左手音楽では起こりやすいトラブルであり、運指を工夫することである程度は防げます。

本記事では、ベルガーの「12の練習曲 Op.12 より 第9曲」を題材にしながら、跳躍直後のミスタッチを防ぐための具体的な運指の考え方を紹介します。

 

► 具体例

‣ ① 跳躍後の音を親指で受けとめる

 

ベルガー「12の練習曲 Op.12 より 第9曲」

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、27-30小節)

ベルガー「12の練習曲 Op.12 より 第9曲」27-30小節

28小節目に記譜した運指:

・音符の下側のイタリックはいくつかの版で見られる定番の運指
・上側は筆者が推奨する運指

 

赤で示したG音を弾く箇所では、左手演奏ならではの問題が起こりやすくなっています。直前の低音(D音)から跳躍してくるうえ、G音を2の指で弾こうとすると、直後に続く「35」の運指の関係で鍵盤の奥のほうに手を入れて弾かなければなりません。その結果、黒鍵(Fis音)を誤ってタッチしてしまう危険性が高まります。

そこでおすすめしたいのが、G音を1の指(親指)で弾く方法です。親指は他の指より手前についているため、鍵盤の奥へ手を差し込む必要がありません。したがって、黒鍵への誤タッチを減らしやすくなります。左手演奏で気になりがちな手への負担についても、この運指なら悪影響はありません。

 

左手演奏では、メロディはもちろんすべての要素を左手で担うため、手の横移動がどうしても多くなります。跳躍のあとに白鍵を弾く場面では、こうした周辺の黒鍵をうっかり触れにくい運指を選んでおくと安心です。

 

‣ ② 跳躍後の和音を「24」で受けとめる

 

譜例(PD作品、浄書ソフトで作成、9-10小節)

ベルガー「12の練習曲 Op.12 より 第9曲」9-10小節

ここでも、音符の下側はいくつかの版で見られる定番の運指、上側は筆者が推奨する運指として記譜しています。

先ほどの例と違い、この箇所では跳躍のあとに和音(赤で示した音)を弾く必要があるため、単純に1の指を使えば解決するというわけにはいきません。どのような運指を選んでも、赤で示した音のうちA音を弾く際に黒鍵(Gis音)を誤ってタッチしてしまう可能性は残ります。

ただし、筆者の手の大きさで試した限りでは、赤で示した和音を「35」ではなく「24」で弾いたほうがミスタッチはやや起こりにくく、続く10小節目への移行もスムーズに感じられました。手の大きさや癖によって最適解は変わってくるかもしれませんが、こうした比較検討自体が運指選びの一つの手がかりになるはずです。

 

► ゴドフスキーなど多くの作編曲家がとっている対策

 

先述の通り、左手演奏では手の横移動が頻繁に発生するため、跳躍後に触れやすい黒鍵をいかに避けるかが運指上の課題になります。この課題に対して、作編曲の段階から手を打っておく作曲家・編曲家も少なくありません。左手用に編曲する際、あえて黒鍵を活用しやすい調へ移調しておくという手法です。この工夫は左手編曲のテクニックとして、応用範囲の広いものと言えるでしょう。

 

実際、この考え方は歴史的にも多くの左手編曲で採用されています。代表例がゴドフスキーです。

楽譜集「THE GODOWSKY COLLECTION, Vol.3 / Carl Fischer」の巻頭解説より

※以下は原文からの筆者訳

ゴドフスキーの53の『練習曲』のうち、21曲が原曲のエチュードを移調しています。左手のためのトランスクリプションは、主音や属音が鍵盤上の黒鍵に落ちる調に移調される傾向があります。11曲、つまり左手のための「練習曲」の半数が、対応する原曲とは異なる調に置かれています。このうち9曲は、ショパンの音楽を白鍵の調から黒鍵の調へとシフトさせています。実に、半音上へのすべての移調(白鍵音から黒鍵音へ)は、左手単独のためのトランスクリプションに関わるものです。

「No.21 Op.10-11(原曲のEs-durからA-durへ移調)」を除き、左手用トランスクリプションの中で原曲を白鍵の調に移調しているものは一つもありません。

中略

そのような移調は演奏を確実に容易にしています。なぜなら、左手単独のための音楽においては、主音と(できれば)属音が黒鍵にある調が、手の位置決めを助けるからです。


 

► 運指の学び方

‣ 左手演奏における運指法

 

左手演奏の運指をどう組み立てていくか、より広い視点で知りたい方は、下記の記事も参考になるかと思います。

 

【ピアノ】レイモンド・レヴェンタール「Piano Music for One Hand」レビュー

レイモンド・レヴェンタール編集による楽譜集「Piano Music for One Hand」(G. Schirmer社、1972年刊)の冒頭には、左手演奏の運指についての解説(英語)が収録されています。実用的な運指の見つけ方や、やむを得ない場合を除いて避けたい運指の傾向などが譜例とともにまとめられており、目を通しておく価値がある内容です。

 

【ピアノ】左手作品の高音域で手首をひねらないための運指の考え方

左手のみで演奏する高音域のフレーズで、手首をひねらずに弾くための運指法を解説。ブルーメンフェルドやスクリャービンの実例、椅子の位置調整のコツも紹介します。

 

【ピアノ】左手演奏の和音運指はどう考える?シャコンヌ冒頭を例に解説

シャコンヌ冒頭の数小節を題材に、左手演奏における和音の運指の組み立て方を掘り下げた記事です。指が届くかどうかという物理的な条件だけでなく、前後の和音とのつながり、トップノート同士の関係性、ペダリングとの兼ね合いまで踏まえながら、冒頭の3つの和音について判断の過程を具体的にたどっています。

 

‣ 運指を体系的に学ぶ

 

姉妹サイトでは、運指を一から体系的に学べる学習パスも公開中です。左手作品専用の教材ではありませんが、運指の組み立て方など、左手演奏にも応用できる考え方が数多く盛り込まれているので、のぞいてみてください。

 

対象:「ツェルニー30番入門程度」の学習段階に達しているピアノ学習者

・運指の決め方、替え指、運指の書き込み術、運指情報の収集術などを体系的に学習
・合計100項目近い多角的な視点を提供
・修了後の実演を通した個別の運指学習への橋渡し

コースの詳細(姉妹サイトへリンク)

 

► 終わりに

 

左手演奏における運指の悩みは、跳躍を伴う場面に多く現れる傾向があります。今回取り上げたベルガーの例のように、運指を少し工夫するだけでミスタッチのリスクを下げられることも珍しくありません。また、ゴドフスキーの例が示すように、演奏面だけでなく作編曲の段階から黒鍵の配置を意識しておくことも、左手演奏を弾きやすくする有効な手立ての一つです。

演奏中の曲でも、跳躍のあとにどの指で受けとめるかを見直してみてください。小さな運指の変更が、思いのほか大きな違いを生むこともあります。

 

併読推奨記事

本Webメディアの全記事への入り口となる総合ガイドです。入門・基礎知識、作品ライブラリー、楽曲別ガイド、技術・知識、作曲家シリーズ、参考文献・資料・レビューまで、目的別に記事をまとめています。

左手ピアノ総合ガイド:すべての記事への入り口

 


 

► 関連コンテンツ

YouTubeチャンネル
・Piano Poetry
チャンネルはこちら

SNS/問い合わせ
X(Twitter)はこちら

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました