【ピアノ】ドナルド・L・パターソン「One Handed」に見つかった誤植・表記上の注意点
► はじめに
左手(または片手)のためのピアノ作品を調べるうえで、ドナルド・L・パターソンによる「One Handed: A Guide to Piano Music for One Hand」は、現在でも重要な参考資料の一つです。作曲家名、作品名、出版社、作曲年などが幅広くまとめられており、片手のための作品を探す人にとって大きな手がかりとなってきました。
本サイトでは「左手ピアノ作品ライブラリー」を公開しており、その制作過程で、複数の文献、実際の楽譜、録音を照合しながら作品情報を確認しています。こうした作業を続けるなかで、「パターソンにはこう記載されているが、実際の楽譜や他の資料ではこうなっている」という箇所がいくつか見つかりました。
本記事では、「Patterson, Donald L. One Handed: A Guide to Piano Music for One Hand. Greenwood Press, 1999.」を、実際の楽譜や他の資料と照合する中で確認できた、作曲家名・作品名等の表記上の誤りについて整理します。
著者の仕事を批判することを目的とした記事ではありません。この資料は、片手のためのピアノ作品を調べるうえで重要な参考資料の一つなので、今後この資料を利用する方が正確に情報をたどれるよう、資料の補足として記録を残します。
► 誤植・表記上の注意点
‣ 掲載の方針
書誌資料には、出版時の組版ミス、人名や外国語の綴りの誤り、作品番号や年号の誤記などが含まれる場合があります。
本記事で取り上げるのは、「1877」が「1887」と記載されている、といったように、原資料との照合によって明らかに異なると判断できるものに限っています。
作曲年の推定や、資料によって見解が分かれる事項など、校閲・解釈にかかわる問題は対象外としました。
また、原資料等との照合によって明らかに異なることを確認できたものを掲載していますが、版や資料による表記差の可能性があるものについては、「誤植」と断定せず「表記上の注意点」としています。
‣ 一覧
| ページ | 該当項目 | 書籍の表記 | 原資料等で確認できる表記 | 区分 |
|---|---|---|---|---|
| p.55 | Andriessen, Willem ウィレム・アンドリーセン |
Wilhem | Willem | 誤植(人名の綴り) |
| p.94 | Goedicke, Alexander アレクサンドル・ゲディケ |
1887 | 1877 | 誤植(年号) |
| p.151 | Schulhoff, Erwin エルヴィン・シュールホフ Suite No.3(Piano Left Hand) |
Op.35 | (該当する作品番号なし) | 表記上の注意点(作品番号) |
| p.163 | Taubert, Carl Gottfried Wilhelm ヴィルヘルム・タウベルト |
Op.40, No.1 | Op.40, No.2 | 誤植(作品番号) |
‣ 各項目の補足
· p.55 Wilhem → Willem
書籍では「Wilhem」と記載されていますが、「Willem」であることが確認できます。ドイツ語の Wilhelm とも異なる綴りになっており、転記の段階で文字が抜け落ちた可能性があります。作曲家名を検索・目録照合する際には、この綴りの違いに注意が必要でしょう。
· p.94 1887 → 1877
書籍では「1887」となっていますが、一桁違いの数字の誤りで、実際には「1877」です。年号は作品の成立時期や作曲家の経歴を判断する材料になるため、引用の際は正しい年に置き換えてご利用ください。
· p.151 シュールホフの作品番号「Op.35」
シュールホフの左手のための組曲(1926年作曲)に「Op.35」が付されています。しかし、シュールホフの作品で Op.35 とされているのは、1920年に作曲された「ピアノのための音楽(Musik für Klavier)」という、両手で演奏する別の作品です。
著者が Schott(ショット)社の出版目録などを参照した際に、同じ Schott 社から出版されている1920年の「ピアノのための音楽 Op.35」と、1926年の左手のための組曲の情報が混ざってしまったのかもしれません。ただし、原因については推測の域を出ないため、本記事では「誤植」と断定せず「表記上の注意点」として扱いました。この作品を Op.35 として引用すると別作品と混同されるおそれがあるため、作品番号を記載する際には注意が必要です。
· p.163 Op.40, No.1 → Op.40, No.2
書籍では「Op.40, No.1」とされていますが、実際の楽譜では「Op.40, No.2」です。同じ作品番号内の別の曲を指してしまう誤りのため、楽譜を探す際や作品情報を引用する際には注意が必要です。
► 終わりに
パターソンの「One Handed」は、片手のためのピアノ作品を幅広く扱った資料として、現在でも重要な価値を持っています。今回取り上げた箇所は、その膨大な情報量のなかのごく一部にすぎません。
一方で、専門的な書誌資料であるほど、利用者はその記載をそのまま引用しがちです。「この資料は非常に有用だが、この箇所については原資料との照合が必要」という情報が残っていれば、後から同じ本を使う人の手間を減らせるのではないでしょうか。
本記事の内容は、ライブラリー作成の過程で確認できた範囲のものです。今後も照合を続け、新たに確認できた点があれば追記していく予定です。
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