【ピアノ】ニコラス・ロス「Godowsky: Apostle of the Left Hand」レビュー
► はじめに
レオポルド・ゴドフスキーの左手のためのオリジナル作品を、まとまった形で聴ける録音はそれほど多くありません。本記事で紹介する「Apostle of the Left Hand」は、アメリカのピアニスト、ニコラス・ロス(Nicholas Ross)による、ゴドフスキーの左手オリジナル作品を集中的に取り上げた貴重な録音です。
ゴドフスキーというと、ショパンやJ.S.バッハなどを素材とした高度な編曲作品がまず思い浮かぶことでしょう。しかし本作では、そうした編曲作品をあえて収録せず、ゴドフスキー自身が左手のために作曲したオリジナル作品だけに焦点を当てています。
演奏:Nicholas Ross(ニコラス・ロス)
リリース年:2020年
レーベル:Centaur Records
総収録時間:73分52秒
録音:2018年12月27〜29日、Riley Auditorium, Battelle Fine Arts Center, Otterbein University(アメリカ)
Nicholas Ross「Godowsky: Apostle of the Left Hand」
► 演奏者 ニコラス・ロスについて
ニコラス・ロスは、ソリスト、室内楽奏者として、アメリカ国内はもとよりヨーロッパでも演奏活動を行ってきたピアニストで、ロンドンのセント・マーティン・イン・ザ・フィールズやセント・ジョンズ・スミス・スクエア、ダブリンのフィールド・ルーム、アムステルダムのエンゲルセ・ケルクといった会場でリサイタルや協奏曲の演奏を重ねてきました。
大学教授や研究者としての顔も持ち、音楽作品における黄金比や比例構造をテーマにした学術研究を行い、各地の大学や学会でレクチャーコンサートを行ってきたことでも知られています。
► 収録内容の詳細
‣ 収録曲一覧
| No. | Title | 演奏時間 |
|---|---|---|
| Suite for the Left Hand Alone (35:33) | ||
| 1 | Allemande | 4:07 |
| 2 | Courante | 5:27 |
| 3 | Gavotte | 4:35 |
| 4 | Sarabande | 4:01 |
| 5 | Bourrée | 3:04 |
| 6 | Sicilienne | 4:55 |
| 7 | Menuet | 6:02 |
| 8 | Gigue | 3:18 |
| Concert Album (for the Left Hand Alone) (18:42) | ||
| 9 | Meditation | 3:31 |
| 10 | Impromptu | 2:12 |
| 11 | Capriccio Patetico | 4:16 |
| 12 | Intermezzo Melanconico | 3:14 |
| 13 | Elegy | 3:16 |
| 14 | Etude Macabre | 2:09 |
| Six Waltz-Poems (for the Left Hand Alone) (19:35) | ||
| 15 | I. Allegretto amabile | 1:55 |
| 16 | II. Allegretto grazioso | 3:57 |
| 17 | III. Allegretto amabile | 4:28 |
| 18 | IV. Moderato, con tenerezza e grazioso | 2:13 |
| 19 | V. Moderato | 3:39 |
| 20 | VI. Con fuoco | 3:21 |
| Total Time | 73:52 | |
‣ アルバムの特徴
本作は、「Suite for the Left Hand Alone(左手のための組曲)」全8曲、「Concert Album(左手のための演奏会用アルバム)」全6曲、そして「Six Waltz-Poems(左手のための6つのワルツポエム)」全6曲という、ゴドフスキーが左手のために書いたオリジナル作品を収めた構成になっています。
編曲作品で広く知られるゴドフスキーですが、本作にはそうした編曲作品は一切含まれていません。あくまでオリジナルの左手レパートリーだけを集めた、「作曲家としてのゴドフスキー」に焦点を当てた一枚と言えるでしょう。
なお、ゴドフスキーの左手オリジナル作品として知られる「左手のための前奏曲とフーガ(B.A.C.H.)」は本作には収録されていません。そのため、ゴドフスキーの左手オリジナル作品を完全に網羅した録音ではありませんが、主要な作品群をまとめて聴けるという点では、非常に貴重な一枚です。
‣ 演奏の印象
ニコラス・ロスの演奏は、非常に正統的で、テンポ設定や解釈に過度な癖が見られない点が特徴と言えるでしょう。左手だけで演奏する作品では、特殊な技巧や演奏上の困難さが前面に出てしまうこともありますが、ロスの演奏では、そうした「左手だけで弾く」という特殊性を過度に強調せず、あくまで一つのピアノ作品として自然に聴かせています。
最後に置かれた「左手のための6つのワルツポエム」は、サロン風の性格を持つ小品集で、他の2作品に比べると、より親しみやすく、穏やかな趣を持った曲想が中心です。ロスの持ち味である癖のない演奏は、こうした親しみやすい曲想とよく調和しており、アルバムの締めくくりとして心地よい聴後感を残してくれます。
個人的におすすめしたいポイントとしては、ジャケットのデザインも外せません。ピアノをとらえたセピア調の古い写真が用いられており、ヴィンテージ感のある味わい深い一枚となっています。収録内容とあわせて、ジャケットもこのアルバムの魅力の一つでしょう。
► 終わりに
ゴドフスキーの左手オリジナル作品をまとめて聴いてみたい方にとって、「Godowsky: Apostle of the Left Hand」は格好の録音資料となるでしょう。
「B.A.C.H.」が収録されていないため、左手オリジナル作品を完全に網羅したアルバムではありません。しかし、「左手のための組曲」、「左手のための演奏会用アルバム」、そして「左手のための6つのワルツポエム」という作品群を一枚で聴けることには大きな価値があります。
また、ニコラス・ロスの端正で癖の少ない演奏は、ゴドフスキーの左手作品そのものに耳を向けたい方にも適しています。ゴドフスキーの左手作品をこれから知りたい方も、すでに演奏・研究している方も、それぞれの立場で活用できる一枚と言えるでしょう。
Nicholas Ross「Godowsky: Apostle of the Left Hand」
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